資料3 「全国学力・学習状況の実施方法等について」に関する意見

 

平成20年11月10日
全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議

全国連合小学校長会長 池田 芳和

  

 「1 全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、各地域における児童生徒の学力・学習状況等を把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図ること、2 各教育委員会、学校等が全国的な状況との関連において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図り、併せて児童生徒一人一人の学習改善や学習意欲の向上につなげること」を目的とした全国学力・学習状況調査が実施されて二カ年になります。全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議が、この間の実施状況を踏まえ、「全国学力・学習状況調査の実施方法等について」、改めての実施上の課題について精力的に調査検討を進められていることに敬意を表します。今回の「全国学力・学習状況調査の実施方法等について」、全国連合小学校長会としての意見をとりまとめましたので、下記により提出いたします。

1.二カ年の全国学力・学習状況調査から見えたもの

○ 全国連合小学校長会は「全国的な学力調査の実施方法等に関する専門家検討会議」に対して、平成18年4月11日に意見を提出している。その中において、「国が教育水準の維持を目的に設定した学習指導要領の目標がどの程度実現されてきているのかを調査することは、国民への説明責任を果たす上で重要なことであり当然であると受け止めている。」とし、本調査の実施を支持してきた。説明責任を果たすことは益々重要になってきている。 また、各学校に於いても学力・学習状況調査の結果を分析し、自校の課題を抽出しつつ、保護者へ公表してきている。これも組織マネジメントとして、子どもの姿で教育結果を知らせる重要な使命であると考えてきている。

○ 現行学習指導要領の、基礎・基本を徹底し、自ら学び自ら考える力などの[生きる力]をはぐくむ観点から、「目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)」を一層重視して、教育課程研究センターで示した「評価規準」(クライテリオン)の考えに準拠して、各学校では「評価規準」を作成し、評価活動を行ってきていた。しかし、このことについての効果・検証がされなかったばかりか、中教審答申において「生きる力」の理念を肯定しつつ、実施方法の問題としてしまったところに課題がある。

○  教育課程の基準としての現行学習指導要領の目標・内容・方法を評価尺度としないで、PISA調査やこれに基づく今回の全国学力・学習状況調査の結果によって評価されてしまっており、現行学習指導要領の基準性がどのように働いているのかが分からない。

○ ただ、平均正答率を用いたことは「量的基準」(スタンダード)で示したことになり、現行学習指導要領の念とは異なるが、基礎・基本的な内容の定着は概ね良好であり、「量的基準」(スタンダード)を用いることの重要性を認識できた。今後は、「評価規準」(クライテリオン)の考えと「量的基準」(スタンダード)のバランスを保ちながら評価・評定する必要がある。

○ 国語・算数のB問題の結果に見られるように、基礎的・基本的な知識・技能の活用、思考力・判断力・表現力の定着への課題と反省が明確になったことは成果である。評価尺度を得られたことが大きな成果である。

○  学力調査と学習状況調査をクロスさせたことは意義がある。明確な因果関係が出なくても、学習と生活習慣、学習と学習習慣、学習と体験活動等の関連がみられ、世の中にアピールできる資料ができた。道徳や規範と個性がバランスよく育てられなければ、望ましい人間形成ができにくいことがデータで分かった。

○ 改正教育基本法をはじめ、教育法体系の整備がされたことにより、教育の目標・内容・方法が明確になってきている点は、学力・学習状況調査が一定の働きをしていると評価できる。

○ 国語・算数以外の学習内容の中には、格差が広がっているものがある。これらへの教育行政の関与が不十分である。

○ 児童・生徒の学習の結果が、少人数指導やティームティーチングなど教員の工夫や関与による効果、数の問題が明確に示されてきてはいない点が課題である。教員数と学習効果の関係を明確にする方法を開発していただきたい。

○ 都道府県・政令指定都市ごとに設置された検証改善委員会が精力的に分析し、各地域ごとの学校教育の在り方を献身的に示したことは意義深い。しかし、学力・学習状況調査の関係からどのような支援体制が必要かが不明確なところが多い。どの都道府県・政令指定都市においても、網羅的で何を骨子に現場が力を入れればよいのか不明確なことが多い。

○ 国の目標設定は質的なものとして示されてくると思われる。そこでは「目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)」が求められてくるが、到達度は結局、量的基準が求められることになる。今後到達目標や量的基準をどのようにして示していくのか(行動目標として従来は示してきたことはあったが)、この点十分考慮されたい。

○ 地方分権を推進するのであれば、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の当初の理念にたち帰り、一般行政と教育行政の関係や在り方が円滑に行われるようにしていく必要がある。財政権をちらつかせて事を運ぶことは望ましくない。

2.学力調査の枠組みについて

1 国が全児童生徒を対象として調査する必要性は?  

 これまで60億円をかけ悉皆で調査してきている。調査統計学上、調査の目的の実現にとって悉皆調査が必要であろうか。 教育課程実施状況調査は全国の児童生徒8%で実施してきていた。これで統計上の信頼度は確保できるのではないか。一般に95%の信頼度で10%以内の誤差で推定したいときは、サンプル数は、全体 の7.06%をとればよいとされている。教育課程実施状況調査が全国の児童生徒数の8%で実施してきている根拠でもあろう。すべての児童生徒の調査が必要な理由にはならないのではないか。各学校や各教育委員会等がCRTを使ったり、独自の調査問題を作ったりしていることから、国が全児童生徒を対象として調査する必要はないと考えるが。いつまで悉皆調査を続ける必要があるのか。

2 国語・算数数学だけの調査でよいか

○ 調査問題の形式などに、「各学校における指導改善や児童生徒自身の学習改善に役立てるため、調査問題や採点基準、さらには問題を出題するねらいなどを公開する。」と示され、公表されていることは望ましい。調査内容が二教科だけでよいかどうか今後検討が必要である。

○ 質問紙調査の形式などは、調査の基本的枠組みにも示してあったとおり、児童生徒の学習意欲や学習方法等に関する調査、及び、各学校等における教育条件の整備状況等と学力との相関関係等の分析、 児童生徒の生活の諸側面や学習習慣等と学力との相関関係等の分析を行う調査との関係上、今後十分検討されたい。

3.調査結果の公表について

○  平成17年10月の中央教育審議会答申においては、「実施に当たっては、子どもたちに学習意欲の向上に向けた動機付けを与える観点も考慮しながら、学校間の序列化や過度な競争等につながらないよう十分な配慮が必要である」との指摘がなされているように、この種の調査結果の公表は調査目的が忘れ去られ、数値の結果だけが一人歩きをするおそれがある。教育の過程を大事にといいながら結果だけが尊重されることになりがちである。  

○ 「全国的な学力調査の具体的な実施方法等について(報告)」の言う「全国的な学力調査により測定できるのは学力の特定の一部分であることを示すことや、数値により示される調査結果についての解釈を併せて示すことなどの配慮が必要である。」ことをより一層進めて欲しい。 われわれは、教育において切磋琢磨することは、児童・生徒、教師、学校等にとって、モチベーションを高めると認識している。その点で調査結果を分析し、学校単位等で授業改善策とともに結果を公表すことは、保護者の負託に応える教育を展開する上で重要であると考える。 しかしながら、過度な競争は、本来の教育目的を損ね、望ましくない方向での動きになってあらわれる。自尊感情等への悪影響を及ぼさないような配慮が必要である。

○  文部科学省は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)第5条第6号の本文「国の機関(略)が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,(略)その他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を根拠として ,不開示情報として取り扱うこととしている。しかし、各自治体の情報公開条例等との関係はどのようになっているのか。約束という枠組みでの実施で開示請求を防ぐことが可能なのか、法的な解釈での規定をさらに明確にすべきなのかを明らかにして欲しい。年を経て実施されてくるならば、公表・開示請求等の問題がさらに出ることが予想される。 今後、文部科学省の方針(平成19年8月23日づけ)が遵守され続けることができるのかも併せて検討してほしい。

○ 結果の公表に際し、平均正答値が示される傾向にあるが、必ずしも正確な姿を示すことにはならない。報告書の「その他の諸課題」にも書かれているように、通常の学級に在籍する配慮の必要な児童・生徒の状況も考慮したり、平均値に著しく影響を与えるような極端な値があり著しい分布のゆがみが見られたりする場合の調査結果の取り扱いには配慮願いたい。○ 全国的な学力調査で測定できる学力は学習指導要領で示される最低基準であると同時に特定の一部分であり、対象とする学年や実施教科も限定されていることも踏まえることは重要である。 都道府県及び市区町村等は、この全国共通の基盤の上に、自主性・自律性を持って特色ある教育活動を行うことを十分示してほしい。

4.調査結果を外部評価に生かす

○ 調査結果の分析や活用を考えることは重要である。調査結果が教師の力量の問題なのか、組織マネジメントの問題なのか、家庭の教育力の問題なのか、地域の教育力の問題なのか等を分析して、その結果に基づいて学校支援策を具体的にして実施することを期待している。学校支援に結びつかない外部評価は意味のない評価である。ましてや結果の良いところを厚く処遇することを公言することは問題が多い。支援策とともに結果の公表ができれば、数値の一人歩きは防げるのではないか。

○ 調査結果から、国、都道府県、市区町村、学校で、すべきことは何かを示すことが必要である。

終わりに

○ 「教育の目的は一人一人の国民の人格形成と国家・社会の形成者の育成の2点であり、このことはいかに時代が変わろうと普遍的なものである。」と言われている。そのために学習指導要領が定められ、基準性が設けられている。国は、この意味の周知をはじめ、「全国的な学力調査の意義・目的を教員、児童生徒、保護者等に対して明確に示すことが重要であり、そのための説明会の開催やパンフレットの配布などにより全国的な学力調査の普及啓発活動を展開すること」等を通して、より一層十分な説明責任を果たされたい。  

 

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