資料1-1 全国学力・学習状況調査における実施方法、公表のあり方について(全国市町村教育委員会連合会)

                                                        全国市町村教育委員会連合会

1 全国学力・学習状況調査の結果の公表について

 全国学力・学習状況調査が実施され、その調査の結果が公表されたが、この公表に関し都道府県・市町村における公表・開示等について多くの議論が出てきている。
 ○ 目的の再確認
 文部科学省では、この全国調査の調査目的、調査内容、実施方法、実施結果についてはっきり示している。その概要は、
 1 目的は、全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から各地域における児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る。
 2 各教育委員会、学校が全国的な状況との関連において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図る。
 3 各学校が児童生徒一人一人の学力・学習状況を把握し、教育指導や学習の改善等に役立てる。
としている。

 (1) 学力調査を実施して、児童生徒の学習過程上、どこにつまずき、理解がどんなところで困難になるか等、調査結果を多面的に分析することによって、教師の「授業改善」を促すことができ、役立つ点が極めて高い。
 (2) 同時に、学力は学校だけでの活動に限られないことから、家庭や社会を含めた学習状況は学力向上の大きな要因となる。このことから学力状況の結果は「学校・家庭・社会との関係改善」に供することが出きる。これから大いに着目するところであり、特に家庭教育が低下しているという指摘についても改善する要素が発見できる。
 (3) 文部科学省は、今回の学力調査を実施する以前から、市町村・学校の公表については慎重の上にも慎重を期するということである。文部科学省の方針どおり全国の教育委員会としては公表しないということで、合意されていると認識している。
 (4) 調査の目的の一つは、義務教育が全国で均等であるか、水準が維持されているかである。 調査は、全国で「該当の全ての児童生徒を対象に実施すること」に意義があり、調査結果の公表が目的ではない。

 

2 調査の対象とする児童生徒

 1 「原則として小6・中3の全児童生徒」を対象に実施する必要がある。
 2 結果を公表しないことを前提に悉皆調査を実施しているが、公表を前提とする実施では、参加しない自治体、学校が出ることも予想され、実施の意味が薄れる。

 

3 離島・山間・へき地等の小規模校における教育環境整備の格差が大きい現状

 1 例えば、地方・離島・山間・へき地における小中学校の教員配置において量的にも正規の教員の配置がないばかりか、臨時的任用教員による教科指導、中学校においては免許外教科指導が現実に実施されているが、このことにより児童生徒の学習や学力向上に大きな影響を与えていることも問題である。
   教育を受ける側の児童生徒が「同じ土俵」で学習する素地が出来ていない現状がある。まず、この状況を是正・改善することが喫緊の課題であろう。
 2 こういった面からも、決して全国一律に教育環境が平等でなく、格差が生じている状況があることを認識し、幾多の問題を包含しながら実施した「学力調査の成績結果」を一律に公表することはいただけない。

 

4 今後の全国学力・学習状況調査の実施・公表のあり方について

 1 あくまでも教員の「授業改善」と「学校・家庭・地域」が一体となった教育改善につながるものであってほしい。
 2 大きな問題が噴出することは予想外のことであり、教育はもっと地道な活動過程を踏む営みであることを多くの国民が理解することを期待する。
 3 実施するごとにこのような問題が続出するなら「不参加」の自治体が増加することも予測される。
 4 「数値の公表」が弊害になる可能性が高いし、予算措置の権限をちらつかせて公表を迫るのは地方自治権の否定につながりかねない。
 5 結果分析から課題が浮かび上がった場合はその改善が必要であるが、ペナルテイを課すことは実施の趣旨とは逆である。正答率が低いところの予算をカットする等の発言があるが、むしろ予算措置を講じ、人的配慮をするなどの手当てが必要である。
 6 地域住民の教育への関心が高まり、情報公開請求が高まってきている傾向があり、公表論がある一方、公表されたくない側面(守秘義務)も含めて考えていかなければならない。また、住民の知る権利との関連をも考えていかなければならない。
 7 小6・中3と限られた学年が実施母体であり、教科は国語と算数・数学に限られている。出題は各教科の限られた分野である。したがって、この調査によって測定できるのは、「学力の特定の一部分」に過ぎないということである。人間にとって大切なものがこの一部分の点数により評価されるものではないと考える。
 8 数値が一人歩きをしないように
   「偏差値」は統計学の考え方に過ぎないが、かって高校入試の指導に業者テストの偏差値を利用していた時期は、偏差値を絶対視する風潮が見られ、人間性よりも数字とする見方も少なからずあった。そのため公教育から偏差値が追放されたが、現在の中学校における高校進学指導がやりにくくなり、中学生や保護者はかえって外部(塾や予備校)の数値を頼りにしている。数字は公表されると一人歩きをし、本来の趣旨から離れていく傾向がある。公表は目的にかなうものでなければならない。教育の過程を大切にしないで、数値結果だけを重視するのは芳しくない。
 9 公表するときは、その趣旨や意義、見方などを国民に徹底させると同時に、それぞれの関係する団体・関係者に安心感を与えるものでなければならない。

 

5 市町村教育委員会と学校

 1 調査の実施主体は国であるが、市町村が基本的な参加主体であり、市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果すということは大切である。また、各市町村教育委員会において、市町村の「情報公開条例」との関連をしっかりと押さえていかなければならない。
 2 測定できるのは、学力の特定の一部であることや学校における教育活動の一側面であることに留意する必要がある。
 3 序列化や過度な競争につながらないように配慮が必要であり、序列化を招く可能性のある個々の学校名は明らかにしない。
 4 市町村域内の傾向と分析・調査の原因・結果・これからの授業改善の方策・学校への指導支援等を配慮していく。
 5 学校としては、数値化はしなくても、文章表現で説明が可能である。さらに、学校として課題となる事項や学校としてのこれから取り組む事柄についての説明、一人一人の状況把握のうえでの、児童生徒一人一人に「確かな学力」の定着・向上を図っていく姿勢などを網羅した説明責任を果していくことが大切である。

 

6 学校における全国学力・学習状況調査の生かし方

 1 全児童生徒の学習改善のために生かす。
  <例>
 ・ 個人票をもとに、その生かし方を児童生徒自身に確認させる。
 ・ 課題のみられる児童生徒に学習意欲の向上や学び方の獲得をきめ細かく指導する。
    全担任教師が、調査問題について内容を熟知し、児童生徒の回答傾向を把握し、一人一人の誤り等を追究し、具体的指導を実施するところまで行うようにする。
    単なる国が状況を把握するための調査でなく、そこには、結果をもとに児童生徒の学習意欲の向上・学習改善につなげるため、悉皆調査でなければ意味をなさない。
 2 学校全体で指導方法の改善に生かす。
 ・ 結果を分析し、自校の課題を明確にするとともに、組織的に改善のための方策を打ち出して取り組む。
 ・ 児童生徒に確かな学力として身に付けさせたい「知識」と「活用」する力、とりわけ「活用」する力を身につけさせるための指導方法の工夫・改善に、本調査が大いに参考になる。各学校で校内研修として取り組んでいる授業改善のさらなる向上に結びつけることも期待できる。
 3 質問紙調査の生かし方
 ・ 学力調査と学習状況等質問紙調査をクロスさせたことに大きな意義があり、保護者と連携をはかる学力向上への重要な鍵となる。
 ・ 様々な視点から、組み合わせてみることで、学校(学級)全体・個々の児童生徒の状況が見えてくる・・。それぞれに対応した指導・取り組み・改善がはっきりしてくる。
 ・ 基本的生活習慣、道徳性や運動習慣など保護者・地域に多様な場面・方法でしらせ、理解と協力、連携を図り、学習習慣・生活習慣・心の育成などの改善に向けた取り組みを行う。
 ・ あるいは、それまでに学校として、取り組んでいる「早寝、早起き、朝ごはん」「体力つくり」活動の意義や価値を再認識することにも効果がある。
 4 学校としては、効果の解析、学校としての課題、これから数年継続して力を入れるべき点、保護者との協力を得たい事柄、を咀嚼し、点数の公表はせずとも、理解が深まる工夫をする。ここには、保護者の安心感が含有されていかなければならない。
 5 全国学力・学習状況調査の参加主体は市町村教育委員会である。その結果は児童生徒一人一人に還元されるところに、特色がある。これがあるから、今後の教育指導や児童生徒の学力向上等、家庭での努力に対する協力も得られる。
 6 地域として課題をどのようにして捉え、どのように取り組んでいくか、どのように学校をサポートしていくか等、地域と学校での支援策の検討に資する調査も思考していく必要がある。

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初等中等教育局学力調査室