初等中等教育における外国人児童生徒教育の充実のための検討会(第2回)議事要旨

1.日時

平成19年10月18日(木曜日)

2.場所

三菱ビル地下1階 M1会議室

3.議題

  1. 外国人児童生徒教育関係者へのヒアリング
  2. その他

4.配付資料

資料1
 第1回初等中等教育における外国人児童生徒教育の充実のための検討会議事要旨(案)
資料2
 伊藤先生提出資料
資料3
 立野先生提出資料
資料4
 田中先生提出資料
資料5
 今後の日程
参考資料
 就学ガイド(ポルトガル語、スペイン語、中国語、英語、韓国・朝鮮語、フィリピノ語、ヴェトナム語)

5.出席者

(協力者)

逢坂委員、池上委員、伊藤委員、井上委員、佐藤委員、高田委員、松本委員、山脇委員、渡辺委員

(文部科学省)

前川初等中等教育局審議官、小串初等中等教育局視学官、大森国際教育課長、その他

6.議事概要

(1)外国人児童生徒教育関係者へのヒアリング

1伊藤哲也 氏(豊田市立西保見小学校校長、検討会協力者)

【意見発表概要】
(豊田市の現状及び取組)
  •  豊田市には、2007年4月現在15,521名の外国人登録があり、公立の小中学校に通う児童生徒数は648名。そのうち、日本語指導が必要な児童生徒は490名。
  •  豊田市では、外国人児童生徒の指導のために、県費負担の加配教員は、市全体で22名、うち西保見小学校が4名、東保見小学校が5名、保見中が4名、あとは8校に1名ずつ配置されている。また、市独自の学習支援として、常駐の日本語指導員が12名おり、西保見小学校は3名、東保見小4名、保見中3名、ことばの教室2名、それから外国人適応指導員が3名で、隣の東保見小2名、ことばの教室1名と、すべての保見ヶ丘の3校と、ことばの教室に派遣されている。その他の学校では、巡回指導員24名が、曜日や時間を決めて、延べ62校に派遣されている。
(学校の概要)
  •  西保見小学校は、平成2年に初めて外国籍児童2名が在籍し、現在、全校児童は、198名中89名が外国人児童(ブラジルが86名、ペルーが2名、韓国が1名)で全校の45パーセントを占めている。そのほか外国につながる児童が9名いるので98名、約50パーセントが外国につながりを持っている。
  •  1年生は38名中、外国籍児童が22名で、この9月に実施した就学時健診では、受診者が25名中、外国籍児童は16名で3分の2に迫っている。校区の私立保育園の乳幼児クラスはほぼ100パーセントが外国籍の子どもである。
(保護者の意識)
  •  本校の外国人保護者アンケートの結果によると、半分以上が将来定住を志向している。また、日本の大学まで子弟を進学させたいと考えている保護者は65パーセントいる。しかし、愛知県立高等学校の外国人生徒選抜特別枠の対象は小学校4年生以降に来日した者なので、本校に通うほとんどの子どもは日本の子どもと同じように競争して、入学試験を受けていかなければならない。そこで、日本語での教科の力をつける必要があることを考え、一歩踏み込んで、言葉を大切にしながら教科の指導を進めている。
  •  定住を希望している外国の子どもたちは、日本人の子どもたちと同じように、将来の日本の社会の担い手になる。外国の子どもも日本人の子どもも、それぞれに自分の将来に夢を持って、その実現に向かって努力させることが、これから外国人教育を進める中での大前提になるととらえ、一つの方向として、現在の実践に取り組んでいる。
(学校における日本語指導等の取組)
  •  本校では、3年前に、県費加配の教諭が3名に増員され、市費派遣の日本語指導員が3名入ったため、3チームを編成し、低・中・高学年に分けて児童の指導にあたる体制を整えた。すべての学年で在籍学級と取り出しの学級の国語と算数の時間をそろえ、ほかの教科が欠けることのないように授業を行っている。
  •  東保見小学校に、日本語が全くわからないような児童や日本の学校の生活の経験が乏しい外国人児童のために、在籍する学校に通う前に、日本語の初期指導と日本の学校の適応指導をする「ことばの教室」が設置されている。「西保見小学校の外国人教育システム」として、人材や「ことばの教室」の初期指導も入れた一つのシステムとして構築していきたい。
  •  豊田市は、文部科学省の帰国・外国人児童生徒受入促進事業の地域指定を受けており、本校では、大学まで進学させたい保護者の多い現状を踏まえて、学力をつける意味を再確認し、「夢と希望をもって学ぶ西保見っ子の育成−輝きを認め合い、将来につながる今を真剣に学ぶ子−」をテーマにし、実践を進めている。具体的には、授業研究、キャリア教育的なこと、人と人のかかわり合いを大事に育てる、その3つの視点で研究を進めている。特に、子どもたちが夢に向かって、自分たちの夢を実現するためには、保護者の力も必要ということで、保護者の懇談会や保護者交流会を行った。人と人とのかかわり合いについては、子どもたちの自己存在感、自己有用感を高める活動の場づくりをしている。
  •  在籍学級では、中学年程度は、外国人同士での母語による補い合いで学び合うが、高学年については、日本人の子と、外国人の初期のわからない子とペアにして、日本語を使っての学び合いを目指している。
  •  授業計画の中では、特に押さえたい言葉を明確にして、言葉だけの説明でわからなければ写真や具体物を使い、言葉を補い、高学年では辞書を引きながら、言葉について理解を深めるような取り組みをしている。
  •  挙手のときのハンドサインを1つ増やし、4本指が上がったら、言葉がわからなくて困っている合図ということで、それを見たら、担任がその言葉についてカバーするような取り組みもしている。
(NPO団体等との連携)
  •  外国人保護者は、学習機会を多く欲しいということで、宿題を望んでいる。ところが、宿題を望んでいても、家庭で子どもの宿題というのは十分見ることはできないので、その面で、NPO団体に随分助けられている。
  •  他機関、NPO団体との連携については、連絡会を月1回設けている。宿題の連絡ノートや夏休みの宿題プリントを事前に渡して検討していただいたり、あるいは日々の連絡をし合って、学習だけではなく、生徒指導の面でも随分連携を深めている。
(国等への要望)
  •  今後期待したいことは、この国の将来の担い手を育てているという視点が大切だと考えている。
     学習指導要領上、「海外から帰国した児童等」というところで今は一括してくくられているが、帰国児童生徒の教育とは切り離して考えていかなければいけないと思うので、明確に指導の内容が示されることを、国には望みたい。
  •  5年経過研修や10年経過研修の中で、すべての教員が研修できるよう望みたい。初期指導は初期指導で、対応できるようなシステムが整えられると良い。ただ、現在そのようなシステムがあるところも、保護者の送迎が条件にされているなど、色々と難しいところがあるので、工夫が必要だと思う。
  •  教室環境の整備についても、日本語の環境の中で学ばせることからいうと、教室を整備し、きちんとした学習を成立させていかなくてはならないと思う。
  •  企業に対しては、努力すれば日本の社会の中で正社員になっていけるという、雇用の保障といったものも考えていただけるとありがたい。
  •  行政や地域、NPO団体、学校が、積極的な連携を図っていくことを期待したい。
【質疑応答】

【委員】

 学力保障の成果は出ているか。また、OBCテストは西保見小学校だけで行っているのか、それとも市内全域で行っているのか。そのテストにあわせて、日本語学力テストがあるが、テストの内容は教科の側面を含んでいるのか、純粋な日本語能力だけではなく、教科の力も計っているのか。

【発表者】

 学力保障の成果についてだが、2月に全国の標準の到達度テストを行い、外国人児童も、平均で全国標準の8割以上を目指しているが、まだそこを検証するに至ってない。しかし、学ぶ意欲は十分身についていると思っており、手ごたえを感じている。
 OBCテストは、在籍学校へ戻す際に目途にしているもので、本校では実施していない。豊田市の中でOBCテストをやっているのは、東保見小学校とことばの教室ぐらいだと思う。それに代わるものとして、日本語力テストについては、日本語教室から在籍学級へ戻す相談をかけるときの資料にするために、日本語教室が独自に作ったテストであるため、ほとんどが日本語の言葉に関する問題となっている。
 漢字のテストや、言葉の表現のテスト等、いろいろなテストを引っ張り出して、自分たちで工夫して、試行錯誤しながらの問題なので、まだ完全な形とは言えないと思うが、そういう取り組みをしているということで紹介させていただいた。

【委員】

 日本語指導員、外国人適応指導員、巡回指導員、アドバイザー、「ことばの教室」の指導員とあるが、県費負担教員、教員資格を持つ、そういう観点で分類するとどうなるか

【発表者】

 22名の加配教員は県費負担教員だ。枠については、愛知県の配当基準があり、今年からの枠では、小学校では、日本語指導が必要な外国人児童30人までで1名、91人以上で5名。本校も、80人を超えているので、4名配置されている。
 日本語指導員は、単なる母語話者であって、教員資格は持っていない。
 適応指導員は、母語話者ではなく本校には在籍していないが、教員資格を持ちながら、特に生活面を指導するという立場で雇用している。
 巡回指導員は、単なる母語話者で、言語の需要に応じて、各学校に週の時間を決めて派遣されている。
 アドバイザーは、退職教員が教育センターの中で常駐している。
 ことばの教室には、日本人で教員資格を持った方が英語対応で入っているが、正規の教員としては採用されていないので、あとの2名は母語話者。室長は教員のOB。市で、教育委員会で一括して雇用している。

【委員】

 ことばの教室での一定期間の指導とは大体どのぐらいか。進路の問題、保見中学校においても、西保見小のように、さらに体制整備が整ってきているのか、中学校との連携もされているのか。

【発表者】

 ことばの教室の期間は、大体4カ月を目途に、OBCテストでBレベルぐらい、毎日朝から、学校と同じ日課で5時間学校にいて、給食も掃除も全部しながら、適応指導をしている。力が及ばない子については、半年、それ以上、指導員の先生の判断で、そろそろということになると在籍学校に連絡が来て、在籍学校の担当教員が実際に参観して見ながら、夏休み前や前後期の分かれ目に、節目節目に受け入れるようにしている。
 保見中学校は、校長先生も熱心であるため、体制が整えられており、日本語能力試験の1級を目指して取り組み、随分成果を上げている。保見ヶ丘3校は情報交換は非常に薄い。

【委員】

 学習指導要領を切り離して、明確に指導の内容が示されることについては、現場でやっておられて、具体的にどういうところで感じられるのか。

【発表者】

 外国人児童生徒への指導と帰国児童生徒への指導は少し異なると思う。共通している部分は何か、違う部分は何かを分析して、外国人児童にはこういう指導が必要だということを、ある程度明確にしていただけると良い。

2立野健二 氏(神栖市立深芝小学校教頭)

【意見発表概要】
(神栖市の現状及び取組)
  •  神栖市は、人口90,713人のうち、外国人登録者は3,020人。平成11年から、文部科学省の事業の地域指定を受けて、外国人の研究に当たってきた。
  •  神栖市では、センター校に加配の先生3人プラス指導員が集まって、神栖市のセンターとしても機能させると共に、自校の指導も行っている。また、加配教員が年10回ぐらい研究や協議、情報交換等を行う推進委員会がある。神栖の特徴として、日本語指導センターにすべての機能を集中させている。主に母語で指導していただく指導員の方、日本人で教科指導をしていただく方は、神栖市で雇っており、指導力、資質を育てながら、各学校に派遣している。
  •  センター校には、主任になる加配教員(T1)とT2,T3の加配教員がおり、T1は、主にセンター校の子どもたちを中心に面倒を見ている。T2、T3は、午前中に各学校に派遣され、午後に自校の指導にあたる。主にはTT、あとは、通訳しながら補助に入るという形が中心の仕事になっている。それにより、派遣先学校との連携、啓発ができ、他校の加配教員との日常的な情報交換ができる。また、児童生徒は、在籍校での適応が早まる。センターに行ったときだけ、その子がいい思いをしてもしようがない。在籍校の中で居場所ができていかなければならない。その子も含め、その学校の先生も含めて啓発していくという点でこの方法は良い。
  •  加配教員(1年目)への初任者研修は、独自に市で行っている。指導計画の立て方、指導案の立て方、すべて一通り1週間かけて行う。
  •  市の特徴として、外国人児童生徒の教育だけをとりたてて研究することは最初からやっていない。外国人児童生徒の教育を充実させることが、学校教育全体の質の向上や、一人一人に対応できるという学校力の向上につながるという意識を全職員が持つ。目指す姿は、「外国人児童だけでなく、その他特別の配慮を要する児童も含め、一人一人の教育的ニーズに応じ、『わかりやすく』『ていねい』で『やさしい』開かれた学校」、「異文化にある子ども同士が相互啓発し、助け合いながら違いをプラスにして、広い視野からより多くのことが学べる心豊かな学校」という、2本立てで、職員も立場や学級を超えて支援にあたる。
  •  通常の学級の担任と、日本語指導、特別支援の担当が授業を交換して、お互いに学び合う交換授業を行っており、非常に効果を上げている。
  •  外国人児童生徒教育は、子ども自身に障害があるわけではない。親の都合で、周りの環境が障害になっているだけで、本当にかわいそうなのは子どもたちだと思う。だから、彼らに対しての支援も当然やっていかなければならない。ここに、「不就学」の問題もある。
  •  市の一番の問題は指導者。10年前から外国人児童生徒問題に対応しているが、日本語指導をした人が継続を希望しないため、加配教員のほとんどが初心者である。加配措置の決定が3月では遅い。これでは講師以外配置できなくなってしまう。もっと配置の基準を明確化、早期に決定できるようにしてほしい。こうしないと人は育たなくなる。その他、研修の機会がきわめて少ない、力量のある担当者が定期人事異動で異動しなければならないという問題がある。
  •  校長先生が外国人児童生徒教育をある程度理解すれば、担当者への配慮も変わってくるので、管理職への啓発が必要だと思う。
(国等への要望)
  •  国や自治体としての将来的な構想については、外国人の受入の方針、外国人登録と不法滞在の問題、外国人児童生徒教育でどの程度まで学力を身につけさせれば良いのか、外国人児童はこれからも通常の学校で支援していくのか、加配を配置し、あとは各学校の裁量に任せるというのでは学校間格差が大きい、等の問題が挙げられる。
  •  その他気になることとしては、小学校よりも中学校での支援に課題がある。中学校は授業内容が難しくなり、教科担任制になる。その担当者との連携も、担任だけとやっていればいいというわけではなくなる。
  •  母語の保持については、神栖市では、学校では日本語、家では母語で話すように言っている。
  •  外国人労働者を受け入れるのであれば、企業が子どもの教育にある程度気を使うような施策が必要だと感じている。
【質疑応答】

【委員】

 指導するほうの主任(T1)の方の研修はどうなっているのか、教えていただきたい。

【発表者】

 T1の研修については、文科省の集中講座等もあるがほとんど自主研修。何かがあれば飛び出していって、いろいろな人と顔見知りになって情報を得たようだ。そこまでやる気があればいいが、そうではない人がなると崩壊状態になってしまう。

【委員】

 特別支援教育の枠組みでやることのデメリットはあるか。
 加配措置をし、あとは各学校の裁量に任せるというのでは学校間格差が大きいということについて、もう少し説明していただきたい。それを避けるのであれば、教員の研修とか教員配置ということにつながっていくのか。

【発表者】

 特別支援のような枠組みでやることのメリットについてだが、システムがある程度できている特別支援教育の中のものに乗ってやる形にすると、非常にやりやすくなっていくと思う。特別支援という枠組みの中の1つに日本語指導があったっていい。それが学校としては一番やりやすい。
 加配措置をし、あとは各学校の裁量に任せるというのでは学校間格差が大きいということについてだが、加配教員の指導内容については、指導者の一存的な部分があり、外国人児童生徒に対し、何時間指導しているか聞く程度の仕切りしかしていない。何をどう報告させるかで、ある程度のレベルが確保されるかもしれないなので、神栖ではそれなりのことをやっている。

【委員】

 交換授業は、教員にとっては非常にメリットがあるが、子どもにとってどんなメリットがあったか。

【発表者】

 どちらかというと子どもが喜ぶ。子どもにとって、在籍学級の担任はそれまで皆の先生であって、自分のことはそれほど気にしてくれず、日本語の先生と比べてあまり丁寧ではないと感じていた。在籍学級の担任は、取り出し学級での指導法がわかるので、在籍学級でもポイントを教えるようになり、子どもにとっては、学級でも取り出しの教室でも居心地の良い状況が生まれた。

【委員】

 神栖市で、中学校がなかなかうまくいかないのは、加配が1人しか付いていないということや、それ以外に問題があるか。

【発表者】

 中学校では外国人生徒をそこまで丁寧に見る必要はないというスタンスがあると思う。加配の先生は、一人きりで力もない。また、中学校で高校に入れるまでの力をつけるのは本当に難しい。
 自分が教育委員会に在籍している時は、もともと犯罪の多い市であり、このままだと定職につかない外国人の子どもが増えてくる可能性があるため、今のうちに手厚く対応しておけば、定住したとしても、我々の同士として、一緒に同じ気持ちでやってくれるようになるのではないかという話をしていた。

【委員】

 定着の状況はどうか。

【発表者】

 細かい数字を知る立場にはないので、はっきりしたことは申し上げられないが、定着率はかなりよくなっていた。

【委員】

 加配教員の授業研究は年にどのぐらいの回数でやられているのか、これを見る先生方はどこの先生方か。

【発表者】

 加配の人数分行う。センターは1回だが、加配がいる学校は授業を公開して、そのときに授業を見て研究協議をし、連絡協議会的なことも一緒にやっているので、結構な回数やっている。これを見る先生方というのは、神栖市のすべての加配の先生プラス、当該校のその子にかかわっている先生は最低見ていただく。あとは、管理職と中学校の加配の先生。

【委員】

 高校進学率は、現状としてはかなり低いか。

【発表者】

 低い。

【委員】

 不就学の問題も、中学生の年齢ぐらいだと出てきているか。

【発表者】

 若干出てきている。ただ、不就学というか、不登校的になってしまった状況を学校が作っているのだとするならば、支援の仕方自体を中学校の方で考えていかなければならない。

3田中 薫 氏(大阪市立南中学校教諭)

【意見発表概要】
(学校の概要)
  •  本校は昨年度、全生徒数が170名程度で、そのうちの43名はどちらかの保護者が外国人。そのうち約半数近くの子どもが、成績は当初、下方部分を占めていた。
  •  南中学校では当初、教員の関心事は、生活と言語と学習に子どもたちが問題を持っているかどうかということだった。先生方は、友達関係で問題が多い生徒について、日本語は問題ないから、性格や家庭の問題だという判断で叱る。逆に、生活では問題がない場合、先生方には問題が見えないので、本人の努力が必要だと、激励で終わり、叱咤激励ですべてが片づけられていたが、実際に指導しなければならないのは、この生徒たちである。
  •  子どもたちには、1日本語の初歩からスタートするニューカマーの子ども、2基礎学力がないというような、やり直しの日本語が必要な子ども、3小学校から上がってきて、既に学校の中ではトラブルメーカーになっている子どもの3種類の対応の必要な日本語の生徒がいる。
  •  黙っているような子どもは理解されず、だんだん自閉的になっていく。常にわかったふりをしている子は誤解を受けて、人間関係のトラブルが増えていく。言葉がしゃべれないのでつい暴力を振るってしまい注意を受けた子は、それが二、三回重なっていくうちにだんだん、性格のゆがみが出てくる。あるいは、小さい声で言って聞き返されたため、声を荒らげて話すようになっていくと、それが煩わしくて話が聞いてもらえず、孤立していくというようなことが増えてくる。そうすると、逆に今度はみんなに中傷されたり、自分も他人を中傷するような子どもに育っていく。そういうことが多くある。
(外国人児童生徒への指導方法等)
  •  本校では、保護者に日本語指導の案内を出し、全校の生徒にも、なぜ日本語指導が必要な子どもがいるのかを説明した。そして、本人や保護者からの依頼を受けて日本語の判定をする。また、母国語での学力を確認する。そして、どれぐらいの時期があれば会話の日本語ができるのか、学習の日本語に到達できるのかを大体判断して、日本語指導委員会を経て、職員会議を経る。それを保護者に説明している。
  •  自分の指導では、中学校1年を途中でやめてきた子どもでも、2年間あれば日本語の力は、高校進学に必要な力がつけられる。小学校5、6年が抜けていたとしても、彼らは、おおむね3年間で高校進学は可能な状況になる。
  •  一般の学校では、会話を中心とした日本語指導をしている。また、JSLでは、その授業の内容について発話することができれば、授業に参加して授業の説明がわかるようになるという考え方だと思うが、中学校ではそれでは間に合わないため、まず語彙が非常に不足する。JSLでも学習語彙を大事にしているが、総体として語彙が不足している。文型、文の構造がわからなければ書けず、読めない。
  •  子どもは、話せているだけでは本当に授業がわかるところへ到達しない。自分が話せることがしっかり書ける。そして、書ける内容と同じようなことが聞けるというところまで到達しないと、授業はわからない。文の構造や文型、ただ日本語の文型ではなくて、文がどういう構造の中で文型ができているのかということや、豊富な語彙量、漢字量を持って、ようやく「読める」、「書ける」ということができれば、テスト問題ももちろん教科書も読める、書けるということになる。そうすると、教科書を使って予習することができ、授業の説明が聞ける。
(外国人児童生徒への指導に必要な視点)
  •  日本語が母語になる程度の日本語をつけてあげなければならない。特に、そのときに学校の担当者、担任も含めて全部、日本語指導者が、日本語ができているという錯覚を起こさないことが、子どもたちの日本語を伸ばすことに繋がると思う。
  •  他のセンター校やほかの場所、小学校で習った日本語は何が欠けているのかということを発見しなければならない。日本語の基礎がない、あるいは教科の学習の基礎がない子どもが存在する。しゃべっているだけであって、根元のところには何もなかったという子がいる。こういう見えない現状を探ることが、南中学校では一番大事な課題となっており、平成16年、17年に、補習授業校のための日本語力判断基準表及び診断カードというものを文科省の委嘱事業で作った。その資料では、絵を基にした14の質問項目をして、15分ほどで判断基準が出るようにしている。
  •  学力につなげるために、今後も日本語指導者としてやっていかなければならないことは、教科指導につなげる視点を明確にすること、それをどういう教科にどの時期に導入するか、あるいはカリキュラムを設定すること、同時に、集中力や自信をつける指導方法を作っていくこと。読解力と漢字力をどのようにするか、数学はだれが教えるのかということがある。
(国等への要望)
  •  日本語科の教員免許制度を検討していただきたい。日本語教員の免許を持った者が学校にいることで、公的な組織の中での研究活動が成立する。免許制度が策定されれば、どの学校にも日本語指導の先生を配置することができ、予算も確保できると考える。
  •  予算措置に大きな問題があり、本校でも日本語指導教室にコピー機1台なく、職員室まで行ってコピーをしなければならない状況である。また、日本語指導の専用のパソコンがなく、インターネットからの資料を拾い出せない。
  •  子どもたちに確保される時間が、1年とか1年半では短過ぎる過ぎると思う。2年、3年やってみないと、何が欠けているのか見えないが、だれも研究するチャンスをもらっていないから、できなくて当たり前。南中学校の指導加配に当たって、この子も日本語指導が必要と言い続けて、ようやく先生方の理解が増えたが、今度は、日本人にも日本語指導が必要じゃないと言い出すはめになっている。そうなったことを私はありがたいと思うし、日本人にも日本語が要る子があると思う。日本語指導とは何かということを根本的に見つめ直すためには、そういう指導がないとだめだと思う。
  •  ボランティアや講師には資料や研修のための費用がほとんど出ない。民間で、関西地区の日本語指導者は結集しているが、1年に一度の結集もままならない状況にある。誰が行っても、どこでも、日本語指導の場面ではパソコンがあり、コピーがある、図書があるということが確保されるような配慮が欲しい。企業等に寄附していただきたい。
  •  将来的に過疎地域の子どもでも使えるようなネット授業を立ち上げることが必要ではないか。
【質疑応答】

【委員】

 現在の田中先生の指導力を高めるために非常に良かった研修、また、後から続く方のためにも、こんな制度が必要ではないかと思われるような研修について、お聞かせいただきたい。

【発表者】

 以前受けた国の研修の中で、大学の講師の先生方が宿泊されて、夜も一緒に話し合った時間が長かった時期がある。夜中まで話したことは、ほんとうに意味があった。その先生方とは今もつき合いがあり、非常に大事だったと思う。十分に、とことん話し合える、自分としてはこういうことを今やらなければならないということが、そこから煮詰まって出てくるような研修があれば一番ありがたい。また、現在は初級向けの研修が多いが、中級研修が必要である。

【委員】

 2年、3年あれば高校進学の力をつけることができると言えるだけのノウハウに対して、例えば大学の日本語教育関係者から何らかの形で批判や意見といったものが、今まで聞こえてきていたならば、参考までに教えていただきたい。

【発表者】

 大学の先生方からは批判を受けたことはないが、同僚からは同じ中学校のセンター校を担当していても、あなたにはできても私にはできないという批判がある。どの子にも同じように、それだけの時間とエネルギーをかけて教育しても、し切れないものもある。そういう場合には、逆に母語話者や母語保持で、子どもたちの精神的な安定のほうが大事であるとか、詰め込み教育のようなものはよくないというような批判を、同僚から受けることはある。
 また、なぜ来たのかわからない子ども、無理やり連れてこられたような子どもに、もっとやわらかい日本語指導、楽しみながら会話を中心としたような日本語指導をやってあげたほうが随分楽だが、人数が増えてくると、それを分けることができないので、そういう子どもには少し厳しいと思う。

【委員】

 教員免許制度の問題について、日本語科という日本語指導の教員免許という種類、それが確立されれば、ご指摘のあった問題点が解決されていくのかどうかも含めて、事務局のほうからご説明をいただければと思う。

【委員】

 学習指導要領は改訂作業が進行中であり、教育振興基本計画も作業が進んでいると思うが、そこにここでの議論が反映される可能性はあるのか。

【事務局】

 指導要領の改訂、教育振興基本計画は、いずれも本年内、あるいは本年度内に決着を見るというような形で検討が進められている。教育振興基本計画の中において、外国人児童生徒教を柱立てする必要があるのではないかと考えている。検討会は来年夏までの検討ということになっており、ここでの検討の内容を今の議論に反映させることは難しいが、将来的にはこれらの議論への反映も考えられる。今後の具体的な教育政策、あるいは教育内容についての取り扱いを今後出していく必要はあると考える。

─了─

(初等中等教育局国際教育課)