初等中等教育における国際教育推進検討会報告(案) -国際社会を生きる人材を育成するために-

 
 

ダウンロード/印刷用(PDF:144KB)]

はじめに

   21世紀においては、人・物・資本・情報が今までの以上の速さと量で移動し、その形態も多様化、複雑化している。今後も、世界的規模の相互依存と社会の国際化は、一層進展していくことが予想される。
 地球環境、エネルギー・資源、人口、平和、人権などの地球規模の諸問題は、一国のみで解決できるものではなく、国際社会全体が一致して取り組むべき問題である。人類共通の課題である「持続可能な開発」の実現に向けて、ユネスコを中心に「国連持続可能な開発のための教育の10年」が推進されているが、我が国もまた、世界の中の日本という視点を持ち、国際社会の一員としての責任を自覚し、これら問題の解決に積極的に参画し貢献することが一層重要になっている。個人においても、これら国境を越えた人類共通の課題の解決に積極的に取り組もうとする公共心が求められている。
 日本人が外国に出かけ異なる文化に接する機会とともに、日本を離れて外国の社会の中で暮らしたり、日本人が国際企業や国際機関の一員として働くことも増えている。個人レベルの国際化も求められており、我が国が競争力のある国家であり続けるためには、人間力の向上を図り、国際社会に通用する優れた人材を育成していくことが必要である。
 一方、日本の国内においても、多くの人々を外国から受け入れるようになっている。日本にいながらにしても、異なる文化や生活習慣をもつ外国の人々と、日常的に接する機会が多くなり、地域においてはそれらの人々と相互に理解し協力し合いながら生活することが求められるようになってきている。また、学校においても、多様な文化、生活背景、教育経験をもつ子どもたちが学んでいる。例えば、外国人の子ども、国際結婚の家庭の子ども、生まれたときから日本あるいは海外で育った子ども、帰化した子どもなど、様々な実態をもつ子どもたちがおり、学校の多国籍化・多文化化に対応した取組が求められる。
 本検討会では、このような国際化した社会を生きる人材を育成するため、初等中等教育における国際教育の在り方について、その基本的な方向性を示すとともに、国際教育を取り巻く現状と課題を多面的に捉えた上で、今後の国際教育の充実のための方策について提言する。


第1章 国際教育の意義と今後の在り方

1.いかなる人材を育てるべきか −国際社会で求められる態度・能力

 
  国際化が一層進展している社会においては、国際関係や異文化を単に「理解」するだけでなく、自らが国際社会の一員としてどのように生きていくかという主体性を一層強く意識することが必要
  初等中等教育段階においては、すべての子どもたちが、
  1 異文化や異なる文化をもつ人々を受容し、「つながる」ことのできる態度・能力
  2 自らの国の伝統・文化に根ざした自己の確立
  3 自らの考えや意見を自ら発信し、具体的に行動することのできる態度・能力
を身に付けることができるようにすべき
  これらは、国際的に指導的立場に立つ人材に求められる態度・能力の基盤となるものであり、個の特性に応じて、リーダー的資質の伸長にも配慮した教育を

   ものごとの規模が国家の枠組みを越え地球規模で拡大し、国際的相互依存関係の中で生きる現代人には、一人一人が、国際関係や異文化を単に「理解」するだけでなく、国際社会の一員としての責任を自覚し、どのように生きていくかという点を一層強く意識する必要がある。求められているのは、個人が相互理解に基づく多文化共生という視点をもち、国家の枠組みを超えた国際社会の一員として自己を確立し、発信を行い、主体的に行動できる人材である。
 国際化した社会において、我が国の子どもたちが自立した個人として、いきいきと活躍できるよう、初等中等教育段階においては、すべての子どもたちが、1異文化や異なる文化をもつ人々を受容し、「つながる」ことのできる態度・能力、2自らの国の伝統・文化に根ざした自己の確立、3自分の考えや意見を自ら発信し、具体的に行動することのできる態度・能力、を身に付けることができるようにすべきであると考える。
 多様な人々との日常的な交流が拡大する中にあっては、異文化や異なる文化をもつ人々を理解するだけでなく、理解した上で、それらを受容しながら共生することのできる力が重要となる。この力とは、相互の歴史的伝統・多元的な価値観を尊重しつつ、多様な異文化や人々の生活・習慣・価値観について違いを違いとして認識し、創造的な関係を構築する態度や能力であり、他者とのかかわりを通して問題を解決し、葛藤や対立を乗り越えてよりよい人間関係を作り出そうとする態度や能力である。また、そのためには、共存共栄的な発想を身に付けたり、一国の利益追求のみによらない全地球的視野、知らないことや理解できないことにも柔軟に対処する能力などを育成していくことが必要である。
 異文化や異なる文化を有する人々に対して敬意を払い、理解し受容することは、自分自身の国やその歴史、伝統・文化を理解・尊重し、その上に立脚した個性をもつ一人の人間として自己を確立することによってはじめて可能となる。そのためには、自らを知り、自分らしさを受入れ、自分なりの判断基準を持ち、国際化した社会の中で生きる個人としての価値観を形成していくことが必要である。
 多様な他者の中で、自己を確立し相互理解を深め、共生していくためには、対話を通して、人との関係を作り出していくような力が求められる。そのためには、自分の考えや意見を自ら発信し、他者の主張を受け止め、議論をまとめあげ、具体的に行動することのできる態度・能力が必要となる。自分の考えをもち、論理的に表現する能力を、例えば、グループディスカッションやディベート等の手法を取り入れた活動を通じて育成することが大切である。また、外国語を含めた言語運用能力の育成とともに、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成していく必要がある。
 以上の点は、国際理解教育の目指していたところと基本的に変わりはないが、今日の国際化した社会においては、これまでの成果を核としつつ、主体的に生きる人材の育成が強く求められる。

 国際教育を通じて児童生徒が身に付けるべきこれらの態度や能力は、国際社会において指導的立場に立つ人材に求められる態度・能力の基盤ともなるものでもある。我が国が、国際社会から理解・信頼され、国際的な存在感を高め、一層発展していくためには、国際社会に通用するリーダー的人材を育成することも極めて大切である。初等中等教育段階においても、個の特性に応じて、基本的な資質・能力に加えて、リーダー的資質の伸長にも配慮しつつ国際教育に取り組むことも必要である。


2.国際教育を推進するための基本的視点

 
国際教育とは、「国際社会において、地球的視野に立って、主体的に行動するために必要と考えられる態度・能力の基礎を育成する」ための教育

   国際教育とは、国際化した社会において、地球的視野に立って、主体的に行動するために必要と考えられる態度・能力の基礎を育成するための教育である。そのねらいは、自己を確立し、他者を受容し共生しながら、発信し行動できる力を育成することにある。
 本検討会は、今後の国際教育の推進においては、以下の基本的視点に立って、進めていくべきと考える。

 
1 実践的な態度・能力を育成していくため、国際教育の実践力の向上と「学びの広がり・深まり」をもたらす授業づくりを

   国際社会に通用する主体性や発信力は、体験的な学習や問題解決的な学習などを通じて、ものごとに柔軟に対処する力や、問題解決能力やコミュニケーション能力等を身に付けることによって育成されていく。
 そのためには、社会の様々な問題を子どもたちの身近な課題として学校の教育活動に取り入れていき、学習の成果を子どもたちが自らとのかかわりの中で実感できるよう、調べ学習や体験学習、交流活動等を通じて、広がりと深まりをもった学習を展開していくことが必要となる。すなわち、一つの学習の中で、子どもたち自らが、課題を発見・探求し、その成果を表現し、他者との対話を通じて学びを振り返り、さらに次の課題につなげていくという、螺旋的な課題探求・解決型の学習プロセスを大切にすることが不可欠である。
 また、国際教育は、各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間等を含めた学校の教育活動全体の中で取り組むことが大切である。国際教育では、地球規模の課題や今日的な課題として、例えば文化、環境、開発問題等といった教科横断的な課題を多く取り上げるが、これらの課題を理解するためには、教科等における学習で培われる知識や技能等が不可欠である。国際教育は、教科等の学習でも、「総合的な学習の時間」でも、取り組むことができるが、いずれの場合も、教科等における学習と「総合的な学習の時間」の関連を常に意識するなど、授業に広がりと深まりをもたらすことが重要である。そのことにより、基礎・基本の確実な定着が図られると同時に、思考力、判断力、表現力等の育成が可能となる。

 
2 実践事例、手法、幅広い経験や優れた知識を有する人材や組織など国際教育にかかわる資源を活用するため、共有の促進や連携のための支援体制の構築を

   国際教育においては、子どもたちの身近な課題を子どもたちが実感できる形で取り上げることが大切であるが、そのためには、学校や地域の実態に応じた実践の工夫も必要となる。
 学校の内外には、国際教育について幅広い経験と知識を有する人材や組織等が多数存在している。例えば、学校においては、日本人学校等への派遣教員や青年海外協力隊に参加した教員、REXプログラム[外国教育施設日本語指導教員派遣事業]による派遣教員、独立行政法人教員研修センターによる海外派遣研修に参加した教員など、多様な経験を有する海外派遣教員がいる。学校の外部には、海外勤務経験を有する企業関係者や海外からの留学生、国際機関、地域国際交流協会、関連学会、NPO(非営利組織)、NGO(非政府組織)、ボランティア団体などがある。また、これら組織では教材や学習方法についても、多種多様な教育的資産を有している。
 これらの人材や組織等の国際教育資源を最大限に活用し、身近なところから世界とのつながりを感じ、学校における国際教育の充実・活性化を図ることが大切である。そのためには、優れた実践事例や経験、手法などの共有を図り、学校・教育委員会と学校の外部にある人材や組織との連携を促進するなど、それら教育資源を活用するための体制を整備していくことが必要である。

 
3 海外子女教育においても、「日本の教育を海外に」という視点に加え、「海外の先駆的な取組を日本の学校教育に生かす」という視点を

   海外の日本人学校や補習授業校は、海外にいる日本人の子どもに対して、日本の学校と同等の教育機会を提供する上で重要な役割を果たしている。さらに、それに留まらず、国際教育として海外子女教育は、豊富な経験を有するとともに、英語教育、国際交流、少人数教育等、日本国内の学校における教育活動の先駆的取組を行ってきている。
 また、日本人学校や補習授業校等の在外教育施設は、そこで働く教員やで学ぶ児童生徒にとって、国際教育の実践の場であることから、日本国内の学校にとっても国際教育にかかわる資源として忘れてはならない存在である。
 海外子女教育においては、「日本の教育を海外に」という視点に加え、「海外の日本人学校での先駆的な取組を日本の学校教育に生かす」という視点をもち、そこでの先駆的な取組を、日本国内の教育のために情報発信していくことは国際教育の充実に資するものである。


第2章 国際教育を取り巻く現状と課題

  (1)授業実践という観点から

 
  一部の教員任せになっており学校全体の取組になっていない傾向
  英語活動の実施すなわち国際理解という誤解、単なる体験や交流活動に終始など、国際教育の内容的希薄化、矮小化への懸念

   新学習指導要領に基づいて、平成14(2002)年度から本格実施となった総合的な学習の時間においては、「国際理解」が課題の一例として掲げられており、各学校における取組が広がっている。総合的な学習の時間が創設されたことで、国際教育を実践する時間・場所・人が確保され、優れた実践も行われている。一方で、学力向上への対応や学校行事のため、国際理解に取り組む時間を確保することが難しいという声もある。また、外国語や社会科等の教員や、関心のある教員が取り組めばよいものとして捉えられる傾向があり、学校全体の取組となっていないという指摘もある。さらに、英語活動を実施することがすなわち国際理解であるという考え方が広がっていたり、国際理解に関する活動が単なる体験や交流学習に終わってしまうなど、以前に比べ内容的に薄まっている、矮小化されているとの声もある。
 このような指摘の背景には、指導理念が確立できていないこと、必要性や緊急性が乏しいと捉えられていること、学習方法や教材開発が進んでいないため、教育効果が十分に上がっていないこと、指導目標や評価の観点が明確でないため効果的な取組にならず、児童生徒の学びの成果が見えにくいこと、等があると考えられる。

  (2)教員の指導力という観点から

 
  国際教育に関する研修の重要性が十分認識されていない
  指導案作成や教材開発の方法等、授業づくりに直接役立つ実践的な研修が不足
  国際教育に携わる中核的立場の教員が不足

   都道府県・市町村教育委員会主催の研修において、国際教育が取り上げられることは多い。しかしながら、その内容については、例えば、海外経験者や国際ボランティア経験者の体験談や、外国語教育に関する1、2時間程度の講演が主となっているなど、国際教育に関する体系的なものになっていない、あるいは実践的指導力の育成に資するものになっていないとの指摘がある。
 教員が主体的、自主的に行っている研修や各教科等の研究会においても、国際教育をテーマとして取り組んでいる例も数多くある。しかしながら、多忙等の理由により、参加する教員が減少傾向にあるといわれている。
 このような背景には、国際教育に関する研修の重要性が十分認識されていないことのほかに、国際教育に関する優れた実践者が育っていないなど、国際教育にかかわる中核的立場の教員が不足していることがあると考えられる。

  (3)海外派遣教員の活用という観点から

 
  日本人学校等への海外派遣教員の経験や能力が十分に生かされていない
  海外派遣教員の経験を評価・活用するという方針・方策が不足
  海外派遣教員の情報発信を支援するような体制が不足

   海外派遣教員は、派遣先において教員自身の見識を高め、資質能力の向上及び指導力の向上を図り、帰国後、派遣先での経験を、学校の国際化の中心として、国際教育や国際交流の推進、外国語教育や日本語指導の充実等に生かすことが期待されている。
 海外派遣教員の中には、その経験を積極的に生かす活動を実践している例も見られる。例えば、日本人学校等への派遣経験者については「全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会(全海研)」、REXプログラム経験者については「NPO法人REX-NET」などの任意の組織に加入し、個々人が得た経験や知識を自ら実践したり、その成果を他の教員に伝えることを行っている。
 一方で、海外経験を生かす場がない、海外派遣教員に対して必ずしも周囲が好意的にみていないとの指摘がある。この背景には、教育委員会や学校、他の教員の理解が不十分であることや、海外派遣教員の経験を評価し、活用するという方針が教育委員会や校長にないことなどがあると考えられる。

  (4)外部資源の活用という観点から

 
  外部の人材や組織に関する情報が不足
  学校と外部の人材や組織を結びつける機能が不在

   総合的な学習の時間を中心に、現状においても、学校の外部にある人材等を学校教育に積極的に登用することが行われている。例えば、豊富な海外経験を有する企業退職者が特別非常勤講師となり、世界各国で生活した体験に基づき、外国の生活・文化・政治・経済等を、わかりやすい形で子どもたちに語るということが行われている。
 また、国際協力機構[JICA(ジャイカ)]、国連児童基金[UNICEF(ユニセフ)]、国連世界食糧計画[WFP]、国連教育科学文化機関[UNESCO]等国際機関では、開発途上国の風土や暮らしぶりを紹介する視聴覚教材等を通じて途上国の現状や課題について理解を深めるための教材やカリキュラムを開発しているほか、国際協力を実体験するプログラムを提供するなど、幅広い活動を行っている。
 このほか、地域の外国人等との交流や、博物館・公民館等の社会教育施設と連携した取組も多く行われている。
 このような取組が実践されている一方で、国際教育資源の活用がすべての学校で進んでいるわけではないとの指摘がある。この背景には、情報の共有や連携のための体制づくりが十分でないため、求める活動形態や学習課題に最適の組織等を見つけることができない、連携しようとする組織等の実態や実績について分からないなどの理由が考えられる。
 また、限られた時間の中で、特別非常勤講師等外部の人材の登用の効果を上げるためには、授業の目標や授業内容に関する打合せ等十分な事前準備や、児童生徒に対する事前・事後の学習などしっかりとした授業計画に基づいて行われることが重要であり、経費的な面とあわせて、学校側の受入体制を整えることが必要であるとの指摘もある。

  (5) 学校の多国籍化・多文化化という観点から

 
  外国人児童生徒の増加、多様な言語と文化、在籍する地域・学校の集中と分散の傾向
  日本語指導や学習支援など適応指導充実が必要
  不就学や母語の保持など新たな課題が出現

   現在、公立義務教育諸学校には、多数の外国人児童生徒が在籍している。ポルトガル語、中国語、スペイン語を中心に多様な母語を有する子どもたちが、日本国内の多数の公立学校に通っており、学校の多国籍化・多文化化が進んでいる。
 外国人児童生徒の公立学校への受入が増加した当初、これらの児童生徒の教育上の主たる課題は初期日本語指導であり、日本の学校生活への円滑な適応であった。しかし、日本で生まれ育った外国人の子どもたちが多数、義務教育諸学校に進むようになり、教育上の課題として、日常会話には不自由しないが、教科の学習内容を十分に理解するレベルの日本語能力を有していない児童生徒への日本語指導の充実が指摘されるようになった。また、各学校において国際理解に関する取組が広まるにつれ、外国人児童生徒のもつ異文化性など個の特性を生かした指導の在り方が求められるようになってきた。最近の新たな課題としては、公立義務教育諸学校や外国人学校で教育を受けていない子どもたちの問題や母語を十分に習得していない子どもたちの問題がある。
 日本に生活する外国人の増加が見込まれる中、日本の学校に通う外国人の子どもたちは今後とも増えることが予想される。外国人児童生徒の教育は、極めて重要な課題として、その充実を図ることは不可欠である。

  (6)海外子女教育という観点から

 
  海外子女教育の成果の検証が必要
  海外在留期間の長期化や現地校志向の高まり、子どもの低年齢化などの状況の変化への対応が必要

   国際教育の柱の一つである海外子女教育については、従来より、その時々の海外子女を取り巻く教育上の課題と改善方策について提言されてきており、それらの報告等に基づき、関係機関において施策の充実等が図られてきている。一方で、海外における幼児教育の在り方、補習授業校における教育など、なお一層の充実が求められる課題がある。
 特に、海外在留期間の長期化や現地校志向の高まり、海外勤務者の若年化に伴う子どもの低年齢化など、さらには、現地や国際結婚による子どもの受入など、海外子女教育を取り巻く状況も変化している。
 海外子女教育と連動している帰国児童生徒教育については、近年、児童生徒が帰国後に居住する地域の分散化が進んでいる。また、海外滞在期間の長期化、幼少時の海外渡航などにより、日本語能力の向上や日本の学校への適応のための一層の支援の必要性などが指摘されている。

第3章 国際教育の充実のための具体的方策
   本章においては、先に示した基本的視点を踏まえつつ、国際教育の充実のための具体的方策を提言する。
1.学校教育活動における国際教育の充実
  (1)学びが広がり深まる授業づくり

 
  各教科等や総合的な学習の時間の相互関連性を意識した授業づくり
  先進的な取組事例の情報提供
  学習内容・方法等の開発・普及
  情報通信技術の活用
  言語教育の充実

  1各教科等の関連を意識した授業づくり
 国際教育は、各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間などのいずれを問わず推進されるべきものである。
 総合的な学習の時間だけでなく、各教科等においても、自国や外国の歴史・文化の理解と尊重、地球的視野と多様なものの見方、人間尊重と共に生きるという考え方、表現力・コミュニケーション能力といった国際教育の要素を意識して指導することが重要である。
 また、各教科等で培った基礎的・基本的知識、技能等を、総合的な学習の時間や学校行事において体験などに結びつけ、それをさらに学ぶ意欲につなげることが求められる。逆に、総合的な学習の時間等における異文化体験などを、各教科等での学習への関心や学習効果につなげていくことも大切である。
 例えば、日本と世界のつながりを学習するため、日本と外国の文化について、社会科の学習を通じて理解を深め、美術や音楽の学習を通じてよさを感じとり、総合的な学習の時間を使い、調査や発表、ものづくり体験を行うなど、学習のねらいや内容に関連のある複数の教科等を結びつけることは、国際教育の観点から効果的である。
 学校全体の教育目標に国際教育を明確に位置づけ、各教科等においても国際教育の視点を盛り込みつつ、教科における学習と総合的な学習の時間の関連を常に意識するなど、各教科等を相互に有機的に結びつけながら、授業に広がりと深まりをもたらすことが重要である。その際、貴重な実践経験をもつ学校の外部にある組織や人材等と協働した授業づくりを進めることが大切である。

  2実践的な態度・能力を育成する授業づくりへの支援
 学校や教員が、子どもたちや学校、地域の実情に応じ、創意工夫しながら国際教育に取り組むためには、先進的な実践事例やモデルとなるような学習内容・方法等を普及し、授業づくりを支援していくことが求められる。

  〈優れた取組の普及〉
 国際教育について大きな成果を上げている取組が多くの学校で行われているが、このような優れた実践事例を広く提供することが必要である。実践事例の収集・提供に当たっては、各教員が抱える教育課題の解決や授業改善に結びつくヒントとなるよう、質の高い授業作りに役立つ情報の蓄積や共有化を図り、教員自らが工夫・発展させることができるものとすることが大切である。

  〈学習内容・方法の開発〉
 各学校において、地域の実情にあった学習内容や方法を開発し、創意工夫を発揮した特色ある国際教育を展開することが大切となる。モデルとなるようなカリキュラムを大学やNPO等と連携して開発し、それを基に、各学校や教員が、必要な工夫を加え、授業に活用していくことが考えられる。
 あわせて、国際教育に関する教材開発を行うことが必要である。例えば、写真、映像、マルチメディアなど多様かつ有用な教材が、国際教育に関連する様々な分野や国内外の国際機関、教育関連団体において作成されている。これら多種多様な教育資産を学校における国際教育に有効活用していくことが大切である。

  〈情報通信技術の活用〉
 インターネット等の情報通信技術を、国際教育に積極的に活用していくことが大切である。特に、インターネットについては、規模や地域、周辺環境に関係なく、子どもたちが世界とつながり、共同プロジェクトに参加し交流ができるという利点がある。世界中の人々がつながり合っていくコミュニケーションの手段として大きな可能性を秘めているインターネットの活用を促進していくことが必要である。

  3言語教育の充実
 国際教育の推進にあたっては、相手の国の言語を学び合うことが大切である。また、一つの学習課題を次の学習課題に発展させていくためには、コミュニケーション能力が重要な鍵を握ることから、コミュニケーション能力の基盤をなす言語教育にも十分に配慮する必要がある。

  〈外国語教育の充実〉
 英語をはじめとした外国語運用能力については、コミュニケーションの手段として国際社会で実際に通用するよう、「聞く」、「話す」、「読む」、「書く」の能力をバランスよく育成していくことが重要である。
 また、外国語教育は、単に言語運用能力の習得だけを目的とするのではなく、異なる文化や言語をもつ人々とのコミュニケーションという主体的な活動を通じて、自分の考えを持ち、それを主張する中で合意を形成していくという態度・能力の育成にも直接的に寄与するものでもある。子どもたちの主体的な活動への参加が促されるよう、子どもたちの発達段階を踏まえた話題、題材、素材を扱うなどの工夫が必要である。
 文化の異なる人々と対話を通して豊かな関係を構築するためには、伝達手段としての言語だけではなく、国や自己の在り方と不可分の関係にある言語を理解することが不可欠である。国の姿や文化を映す鏡としての言語の重要性に対して認識を深めることも大切である。

  〈国語教育の充実〉
 コミュニケーション能力などすべての知的活動の基盤となるものが国語力である。国語を用いてものごとを正確に理解し適切に表現する能力を育成するとともに、伝え合う力を高めることは極めて重要である。国際教育に関する取組においても、読み書きなどの徹底はもちろんのこと、相手や目的、場面に応じて国語を用いて正確に理解し適切に表現する能力が育成されるようにするとともに、特に、互いの立場や考えを尊重し言葉で「伝え合う力」を高めることを意識しつつ指導していくことが大切である。

  (2)教員の実践力の向上

 
  多様な経験を有し、国際教育に情熱を持ち、実践的な指導ができる教員を育成
  学習指導や教材開発の方法の習得など参加型・実践型の研修を重視

   国際教育の充実は、何よりも教員の力量にかかっているといっても過言ではない。
 国際教育における教員の役割は、単なる指導者としての立場だけではなく、学習の成果を高める学びの企画・構想者(プランナー)、学習者をよく理解し、励ますとともに適切な情報や学び方を提供する支援・援助者(ファシリテーター)、教員相互や関係者と連帯・協力する協働者(コラボレーター)としての役割を果たすことが重要となる。
 様々な実践経験を積み、情熱を持ち、指導力の高い教員が、国際教育推進の中心となって実践していくことが必要である。

  1教員養成段階における取組の充実
 国際教育の基本的な理念・視点は、「異なるものや異なることへの理解」、「多様性の受容」、「共生」などである。こうしたことについて教員自身が認識を深めていくことは、各教科等や総合的な学習の時間の指導だけではなく、学級経営、生徒指導などあらゆる面において役立つものと考える。教員養成段階において、国際教育にかかわる基礎的・基本的知識や理解を得ておくことは大切である。
 大学の主体的な取組により、国際教育に関する講座などの開設、教育内容や授業方法の改善等を通じて、国際教育にかかわる教員を目指す者の資質・能力の向上を図る必要がある。また、このためには、国際教育について専門的知識と多様な実践経験をもつ大学教員の輩出とそのような大学教員の教員養成への積極的な関わりも必要となる。

  2現職教員研修における取組の充実
 国際教育における教員の重要な役割に鑑み資質向上のための方策を講じることが必要である。各研修を通じて、すべての教員の国際教育の目的・内容への認識を深めることが重要である。また、国際教育に関する実践的指導力が育成されるよう、国・教育委員会・学校の各段階において、研修の充実を図ることが大切である。

  〈参加型・実践型の研修・ワークショップの実施〉
 国際教育に関する教員の実践力の向上のため、研修の実施形態・方法等を見直し、講義中心ではない、参加型・実践型の研修・ワークショップを企画・実施していくことが必要である。特に、年間指導計画、指導案の作成、学習方法・教材の開発等、教員の実践に役立つ内容の研修を実施することが求められる。これらの研修を、国際教育の分野で専門的な知見や豊富な経験を有する大学、関連学会、NPO等と連携して行うことも効果的である。また、実施時期や研修期間、実施場所に配慮し教員の参加しやすいものとすることも必要である。

〈校内研修の充実〉
 各学校においては、日常の教育活動や学校運営において、国際教育の観点からも、校長、教頭等が必要な助言、支援、協力を行うことが大切である。また、教員が研究授業を通じて、学校や地域の具体的な教育課題への認識を深め、学習方法や教材開発について研鑽を積んでいくなど、校内研修を充実させる必要がある。

〈個々の教員の取組の奨励〉
 個々の教員に対しても、自己研鑽に積極的に努め、国際教育にかかわる研修等の様々な活動に参加したり、研究授業を実施するなど、自主的・主体的な取組を期待したい。校長も個々の教員の取組を奨励・支援していくことが大切である。

〈海外研修の充実〉
 教員の国際性を高めるという点では、教員自身が海外を経験することの意義は大きい。教員自らが海外での生活を体験することによって、国際教育の重要性を実感することができ、また、国際教育の実践を進めるための有用なアイディアや素材を得ることができる。教員を対象とした海外研修が、国及び地方公共団体等で様々に実施されている。海外派遣機会の拡充を図るとともに、こうした教員の海外研修制度を充実させ、一層活用することが必要である。

  (3)直接的な異文化体験の重視

 
  留学、海外研修旅行、海外修学旅行、姉妹校提携による学校間交流など、バランスのとれた国際交流の推進

   異なる文化・生活・習慣をもつ同年代の若者との交流活動は、異文化を直接体験し、国際理解を深め、国際性を養うという点で大きな意義をもつ。多くの学校で、留学、研修旅行、海外修学旅行や姉妹校提携など、様々な形態での交流活動が行われているが、今後とも、学校段階に応じ、地域の実情にあわせて工夫しながら、バランスのとれた国際交流を進めていく必要がある。特に、海外からの受入の充実など派遣と受入れの両面での一層の交流を図るとともに、英語圏諸国だけでなく、近隣のアジア諸国との交流の促進が求められる。
 また、地域で行われる国際交流活動への参加や、地域の外国人学校との交流など、身近な国際交流を進めることも重要である。

〈高校生留学の促進〉
 高校生の留学や海外研修旅行は、大学生レベルでの留学やその後の国際交流活動の拡大につながるなど国際性の涵養に大きく寄与するものである。これらの海外派遣を充実するためには、国際教育や外国語教育の推進、派遣前オリエンテーションの充実等により生徒自身の留学に関する理解の向上を図ることが必要である。また、留学の意義の周知、留学情報の提供などにより教員や保護者の理解を深めることも大切である。このほか、留学による単位認定制度や大学の入学者選抜における高校生留学の経験の積極的評価の一層の推進なども求められる。
 海外から日本への留学を拡大するためには、受け入れる学校やホームステイ先の拡充とともに、留学生の受入に関する海外への情報提供の充実などが必要となる。

〈学校間交流の促進〉
 学校間交流を促進するため、姉妹校提携や姉妹都市交流による交流先の拡充、優良な交流事例の紹介や普及、外国の学校との交流や受入れを希望する学校についての相互の情報提供などが必要である。
 また、海外修学旅行は、直接的異文化体験の機会として有効であるが、単なる施設、史跡名勝への訪問やお仕着せの交流活動にとどまることのないよう、目的の明確化や事前の準備学習、交流活動の意味づけなどを十分に行い、体験が学びの深まりにつながるような活動として充実する必要がある。

  (4)外国人児童生徒教育の充実

 
  日本語指導等の一層の充実・不就学等新たな課題への確実な対応
  外国人にかかわる政府関係省庁や地方の関係機関の連携促進
  外国人児童生徒とともに進める国際教育の推進

   外国人の子どもたちへの教育については、従来より、日本語指導等に対応する教員の配置、母語のわかる指導協力者の派遣、JSL[Japanese as a Second Language:第二言語としての日本語]カリキュラムの開発、日本語指導者に対する講習会など、必要な支援が行われてきた。

〈日本語指導等の充実〉
 今後とも、日本語指導の内容充実や指導方法を改善するため、日本語指導等に対応する教員の配置、教員に対する実践的研修の実施、JSLカリキュラムの普及などを通じ、外国人児童生徒の日本語能力の向上や学校生活への適応を着実に図っていくことが必要である。あわせて、母語を活用した教育支援が、日本語指導・適応指導の両面で効果的なことから、母語が理解できる人材を指導協力者や教育相談員等学校支援スタッフに登用するなど、受入体制の充実を図ることが求められる。
 また、問題となっている外国人の子どもたちの不就学についても、教育委員会が地域の関係機関やNPO、企業と連携して取り組むことにより、不就学の実態把握及びその要因分析、それらを踏まえた就学支援を行い、外国人の子どもたちの学ぶ機会を確保することが必要である。

〈関係機関の連携促進〉
 外国人の子どもたちを取り巻く環境は、保護者の意識、経済状況や来日前の学習歴など多様である。このため、子どもたちの教育環境の整備に当たっては、教育機関のみで取り組むことは容易ではなく、入国管理面や労働環境面など関係機関との一層の連携が不可欠である。従来より、市町村での外国人登録の際、公立学校への編入学に関する情報を提供するなど、地方公共団体内で必要な連携が図られているところであるが、外国人の子どもたちの教育環境の一層の充実のためには、関係省庁や地域の関係機関の密な連携が期待される。

〈外国人児童生徒と共に進める国際教育〉
 各学校においては、外国人児童生徒の母語や母文化を紹介し、国際理解を進めるという取組が行われている。このような取組は、外国人児童生徒にとっては達成感、存在感等の涵養に資し、その他の児童生徒にとっては異文化・異言語に身近に接することができ、教育上の効果も大きい。外国人児童生徒の異文化性を過度に強調してしまうことがないよう、児童生徒一人一人の実態を十分に踏まえ、学級運営において必要な配慮や継続的な指導を行いながら、取り組むことが必要である。児童生徒がお互いの違いを理解・尊重し、対等な立場で意見や考えを述べ、また協力しあう関係を構築するという「共に進める」視点をもち、今後とも、外国人児童生徒とその他児童生徒との相互理解を通じた国際教育を推進していくことが大切である。

 外国人の子どもたちも日本人の子どもたち同様、国際社会に生きる人材として育成していかなければならない存在である。自立して学び働くことのできる学力の育成とともに、国際社会に通用する態度・能力を有する人材として育成していくことが求められる。その際、母語・母文化を尊重し、家庭や地域の諸活動を通じてその保持・伸長されるよう配慮していくことも大切である。

2.国際教育資源の活用と連携のための支援体制の構築

  (1)海外派遣教員の活用

 
  在外教育施設等派遣教員や海外研修経験者の一層の活用・登用
  人事配置上の工夫など組織的な活用の促進
  海外派遣教員による経験・知識の発信の充実

   学校の中に自ら異文化を体験した教員がいるということは、帰国児童生徒や外国人児童生徒だけでなく、それ以外の子どもたちにとっても刺激となる。海外派遣教員を一層活用していくことが必要である。
 また、海外に派遣されたことはなくても、国際教育に関心をもち、実践を行ってきた優れた教員たちが多数いる。こうした教員と海外派遣教員が協力し合い、お互いの実践力をより向上していくことは国際教育を普及していくためにはきわめて効果的であり、両者の協力・連携を支援していくことが必要である。

〈人事配置上の工夫〉
 海外派遣教員が国際教育を担当するなど、その経験や力量を生かせるような人事配置を行うことが必要である。そのためには、まず、個々人のみならず教育委員会や校長が、海外経験を生かすという意識を共通してもつことが大切である。また、各教育委員会において、例えば、海外派遣教員の国際教育への活用を人事方針に位置づける、あるいは、教員の採用に当たって国際経験を積極的に評価するなど、工夫することが考えられる。

〈海外派遣教員の経験・知識の発信〉
 海外派遣教員にも、個々人がその経験や成果を積極的に普及していくことが求められている。海外派遣教員は、国費によって派遣されていることを十分意識し、派遣期間中に多様な経験を積み、識見を深め、帰国後は、地域や学校の国際教育の充実に役に立てるべく、その成果を自らの周囲だけでなく広く還元していくことが必要である。そのためには、そのような意志・意欲を有する個人や組織が情報発信できるような体制を整備することが必要となる。海外派遣教員のネットワーク化や例えば国際教育に関係する研究協議会等における研究・発表などを支援することが考えられる。

 なお、海外経験を国際教育の専門家として生かすためには、2、3年という派遣期間では不十分であり、その経験を踏まえ専門性が深められるようなキャリア形成の在り方を考える必要があるという指摘があった。国際教育を専門分野としたい教員が、自己の生涯にわたる研修構想を確立し計画的に研修を行い、当該分野に関わる資質向上を図ることを期待する。

  (2)地域における協働の促進

 
  外部の資源を活用した学校における国際教育の活性化・多様化の一層の促進
  外部の人材や組織と学校の連携・協力を促進するための地域国際教育ネットワークの形成

   学校における国際教育の活性化・多様化や地域の広がりを一層促進するためには、学校の外部にある幅広い経験、優れた知識や技術を有する人材や組織と協力しながら進めることが効果的である。
 学校の外部にある人材や組織等の教育資源は、学校の明確な教育目標、教員の確かな課題意識、しっかりとした指導計画の下で活用することによって、実践的な授業づくりに効果を発するという点に留意し、活用を進めることが大切である。

〈地域の国際教育ネットワークの形成〉
 国際機関、地域国際交流協会、企業、関連学会等との協力を促進するため、これら学校の外部にある組織等と学校・教育委員会とを結びつける仕組みや体制の確立が必要である。学校や地域の関係組織が日頃から交流の機会をもち、信頼関係を築きながら、効果的な連携の在り方について共に考え、地域の国際教育ネットワークを形成していくことが大切である。
 このような中で、教育委員会・学校と地域が協働し、国際教育資源の掘り起こし、国際教育情報バンクの整備などを行うことが必要である。また、国際教育にかかわるNPO等の育成・発展を支援していくことも求められる。
 地域における協働の鍵を握るのが、コーディネーターの存在である。学校や教育委員会、地域のNPO等について知識と理解をもつコーディネーターが、例えば、関係者の交流の場の設定、関係者への助言や連絡調整、プログラムの提案等を行い、連携体制を築いていくことが必要である。

〈教育委員会や学校における体制整備〉
 教育委員会においては、国際教育を担当する部署を置き、学校と外部の組織や人材との間の連絡調整や学校や教育一般に関する情報提供など必要な支援を行うことが求められる。また、学校においては、国際教育の担当者を置き、他の教員が学校の外部にある教育資源を活用する際の支援を行うなど、各教育委員会や学校が、その実情に応じて工夫していくことが必要である。

〈優れた連携事例の普及〉
 外部資源の一層の活用を広く促進するためには、学校の外部にある人材や組織等の教育資源の活用に関する先進的な取組や優れた事例について情報収集・提供を行うことが必要である。あわせて、国際教育に関係する取組や人材を有する組織について、その特色や活動事例を紹介することも必要である。


3.海外子女教育の成果の活用と変化への対応

  (1)海外での成果を日本の学校教育に生かす

 
  小学校段階からの外国語教育、地域との交流活動、小学部・中学部併設による乗り入れ授業等、多様かつ豊富な経験
  日本の国内教育に生かすという視点から海外子女教育を

   海外子女教育分野での取組は、日本の教育活動を考えていく上で示唆を与えることができると考える。例えば、日本人学校では、小学校段階における英語を含めた外国語教育、地域の住民や学校との交流活動、小学部・中学部併設による乗り入れ授業等を長い間行ってきており豊富な経験を有している。また、保護者や地域住民の学校運営の参画ということでは、日本人学校や補習授業校では、教職員、教材、運営経費の確保等様々な課題を抱えつつ、地域の実情にあわせて、また、保護者のニーズに応え、地域住民や保護者、日系企業関係者の参画を得ながら多様な運営を行っている。
 今までの「日本の教育を海外に」という視点に加え、「海外の日本人学校の先駆的な取組を日本の学校教育に生かす」という視点をもち、海外子女教育における成果を日本国内の教育にどう生かせるかという観点から見つめ直す必要がある。そのためには、海外子女教育の成果を具体的に検証し、国内の教育に還元できるものについては、積極的に情報発信を図ることが適当である。

  (2)時代の変化に対応した海外子女教育・帰国児童生徒教育

 
  日本人学校等や海外子女・帰国児童生徒の実態やニーズを把握し、海外子女・帰国児童生徒教育の充実方策を検討(例:幼稚園段階の子どもへの支援の在り方、補習授業校における教育の充実、日本語指導の充実など)
  特性に配慮した帰国児童生徒教育の充実

  1実態・ニーズを踏まえた海外子女教育の充実方策の検討
 昨今の海外子女教育をめぐる状況やニーズの変化を踏まえ、日本人学校等への支援の在り方について、具体的に検討していくことも必要である。検討に当たっては、海外に住む日本人の子どもたちの現状をできるだけ客観的に把握し、その成果と課題を踏まえた上で行うことが大切であり、日本人学校等の実態調査や帰国児童生徒の保護者を含む日本人学校等の児童生徒・保護者のニーズ調査を行いつつ、進めることが必要である。
 例えば、幼児期は、母語習得の重要な時期に当たることから、海外子女教育分野での幼稚園段階の教育は今後ますます重要となるものと思われる。現在、日本人学校等に対する国の支援は、義務教育段階に限られているが、政府としてどのような支援が可能かを含めて具体的に検討していくことが必要である。
 また、補習授業校について、現地校へ通う子どもたちが増加する中、週1日国語や算数・数学を中心とした教育を提供する場として貴重なものである。しかし、それだけでなく、永住権を取得している日本人の子どもや現地市民の子どもなど帰国を前提としない子どもを受け入れている学校もある。また、補習授業校は現地との教育・文化交流の一翼を担っている面もある。これらの点を踏まえた、補習授業校における教育の充実方策についての検討が必要である。

2特性に配慮した帰国児童生徒教育の充実
 帰国児童生徒に対する指導については、その受入を円滑に進めることと、海外での経験を通して育まれた特性をさらに伸ばすことの双方に配慮しつつ進めていかなければならない。
 帰国児童生徒が伸びやかに学校生活を送り、その特性を効果的に保持・伸長できるよう、各教育委員会等がその実情に応じて取り組むことが必要である。例えば、帰国児童生徒の個に応じた指導の在り方に関する調査研究の成果を踏まえ、帰国児童生徒の受入に特色を置く学校の設置や、帰国児童生徒の培った特性、例えば語学力や積極性等の伸長に重点を置いた指導体制の充実などの工夫が考えられる。
 海外にいる子どもたちを取り巻く状況と連動して、帰国児童生徒の最近の傾向として、海外滞在期間の長期化、現地校のみに通った子どもの増加、幼少期からの海外渡航などの理由で、日本語指導や日本の学校生活への適応に一層の配慮を要する子どもが増えている。帰国児童生徒の実態を踏まえた指導の充実が求められる。


4.国際教育の総合的な推進のために

 
国は、以下の施策により、各地域の取組を支援し、国際教育を総合的に推進
  1地域の実情や特色を生かし、先進的な取組を行う国際教育拠点の形成
  2国際教育にかかわる教育資源の共有化や連携の促進
  ・参加型・実践型ワークショップの実施
  ・地域の人材や組織の連携支援 等

   本章においては、これまで、国際教育の充実を図るため、「学校教育活動における国際教育の充実」、「国際教育資源の活用と連携のための支援体制の構築」、「海外子女教育の成果の活用と変化への対応」の三つの観点から、今後の方策の具体的方向性について述べてきた。
 初等中等教育全体における国際教育の推進を図るためには、本章各項で示した広範かつ多岐にわたる充実方策を、国として効果的に推進していくことが必要である。特に、学校における国際教育の充実と地域の国際教育資源の有効活用が重要となる。
 このため、1先進的な取組を行う国際教育の拠点を形成し、優れた実践を積むことにより国際教育の質の向上を図る、2外部資源の掘り起こし・共有・連携により国際教育を支援する裾野を広げ国際教育全体の底上げを図る、という2つの政策手段により取り組むことが有効である。
 国においては、以下のような施策を展開することにより、地域における学校や関係機関、NPO等の取組を支援し、国際教育を総合的に推進していく。

  (1)地域の国際教育拠点の形成
 国際教育について先進的な取組を行う地域を指定し、国際教育を総合的に推進する国際教育の拠点を形成する。拠点の中核となる学校では、大学等と連携しながら、地域の実情や特色に応じた国際教育にかかわるカリキュラムや教材開発に関する調査研究を進めるとともに、地域の他の学校を先導し、地域全体の国際教育の振興を図る。
 例えば、海外経験を有する教員の集中配置、海外姉妹校との交換留学、ITの活用等、地域の実情や特色を生かした国際教育に関する取組が期待される。また、このような取組の中で、個の特性に応じて、国際社会で指導的立場に立つために必要な態度・能力を初等中等教育段階から育成することも考えられる。

  (2)国際教育にかかわる教育資源の共有化と連携の強化
 学校における国際教育を支援・活性化するため、学校の外部にある人材や組織、それらがもつ学習プログラムや教材などの教育資源を掘り起こしつつ、それらの共有化・連携強化を進める。このため、学校における国際教育への支援や国際教育資源の共有・連携に取り組む学校外の組織に対して支援を行う。
 具体的には、例えば、以下の取組を行う。
  1 国際教育にかかわる指導力向上のためのワークショップの実施
 国際教育に携わる教員等の実践力向上を図るため、学習方法や教材開発等実践力の向上を目的とする参加型・実践型ワークショップを実施、あわせて研修プログラムを開発。
  2 国際教育に関する情報発信の充実
 国際教育にかかわる優れた実践事例を収集するデータベースの開発を着実に進める。また、関係者間の情報交換、専門家による助言の提供など自己発展的なデータベースとする。
  3 地域の国際教育資源の連携
 地域の国際教育資源の効果的な共有・連携を図るため、地域の国際教育関係者の情報交換、コーディネーターの配置、外部人材・組織の活動への支援や掘り起こし、それらのもつ資源の共有化・連携強化など、学校と外部の人材や組織との協働支援を行う。

 これら施策による地方における取組については、全国レベルのフォーラム等を通じて情報交換や普及を図るとともに、現在文部科学省で構築中の国際教育に関するウェブサイトを通じて広く公開する。



  初等中等教育における国際教育推進検討会報告(案)<概要>  
  初等中等教育における国際教育推進検討会報告(案)<ポイント> (PDF:30KB)

-- 登録:平成21年以前 --