人権教育の指導方法等に関する調査研究会議(第6回) 議事要旨

1.日時

平成15年11月25日(火曜日) 15時~17時30分

2.場所

虎ノ門パストラル 新館4階 「ミント」

3.議題

  1. 市町村教育委員会、小学校における人権教育の取組
  2. その他

4.出席者

委員

 福田座長、梅野委員、岡田委員、神山委員、塩委員、志水委員、菅原委員、仁科委員、林委員、山田委員、若井委員

文部科学省

 関児童生徒課長、亀田児童生徒課課長補佐、宮川八岐視学官、高田人権擁護調査官補佐(法務省) 他

5.議事要旨

(1)市町村教育委員会、小学校における人権教育の取組

神山委員の意見発表

 神山委員から説明の後、質疑応答を行った。主な内容は以下の通り。

 事件が起きる前までにも、様々な分野で人権教育の取組を行われてきたと思うが、それまでの取組を振り返り、課題が何であるかについて検証したのか。

 人権教育、道徳教育や必要に応じた生徒指導を行ってきたところであるが、事件の発生により、それまでの取組が決して十分ではなかったことが明らかになった。市民からも事件の原因を問われたが、詳細については教育委員会では把握できない面があるが、何が足りなかったのかを考えることより、人権教育、道徳教育の取組をさらに充実させることの方が価値のあることであると考え、各学校で人権教育を具体的に推進することとなった。

 全生園に関する取組を通じて、子ども達に具体的な変化などはあったか。

 全生園は、子ども達にとって、地域の生活・遊び・学習の場として定着している。高学年になると調べ学習等を行うが、その中で、差別は許されないということを理解し、その他の人権課題に関する学習においてもその経験が生かされ、特に社会科などの学習が活性化すると聞いている。

 市教委の様々な人権教育の取組の中で、どの分野の取組が特に効果的であったのか。

 市教委としては、学校教育関係や社会教育関係、どの事業も大切であると考えて取り組んでおり、それぞれの事業に関わる人が主体性を持って取り組むとき、成果が上がっていると感じる。

 心に響く道徳教育、ということが言われるが、従来の道徳教育の在り方を改善し、授業の質的な改善を考えた具体的な事例などはあるか。

 子どもの頃に心に訴えかける道徳の授業を受けた経験がないなど、教師の道徳の授業に関する原体験が乏しいため、資料を読み込んで価値の内容を子ども達に訴えかけるといった授業を行うことさえ難しい教師もいる。各校の取組の情報を集約して、学校に還元していくことにより、基本的な授業の在り方から改善していく。

菅原委員の意見発表

 菅原委員から説明の後、質疑応答を行った。主な内容は以下の通り。

 教師の目から見て、小学校入学段階において、子ども達の考え方や人間に対する信頼感はどのように感じられるか。また、中学校段階では、子ども達の状態はどう変化していくのか。

 人間不信の表現、いわゆる否定的側面としては、自分が本来求めていることと反対の言動を取ったり、人の気持ちを試すようなところがある。こういう子どもがうまく変わると、人の立場や気持ちをしっかり読むことができるようになり、ヒューマニズムという意味で学級の中心となる存在になる。そのダイナミックな転換こそが信頼をつくり上げる教育のキーポイントであると思う。小学校から中学校への接続の問題については、人権教育においても重要な課題であるが、人権学習と生徒指導は密接に結びついていると認識している。一般に、小学校3、4年生くらいで、一度、生徒指導上の問題が表面化していくが、この段階できちんと指導しないと、中学1年の夏頃までに非行傾向が拡大されることになる。小学校・中学校間で、中学1年のクラス編成等において、児童の実態等について情報交換を行い、十分に連携を図ることが必要である。

 人権教育は、権利と責任の関係抜きには考えられないが、人間不信の傾向がある子ども達に対して、責任と義務について、押し付けにならないように、どのように教えてくのか。

 知識としては、社会科等で法律に関することを含めて学習しているが、権利というものを、知識の側面と同時に、自分を自分らしく自己表現することとして位置付けている。義務については、集団の中で、自分にはどのような責任があるのか、どのような役割を果たす必要があるのか、ということを考えさせるなど、自分にとっての身近な学習として位置付けている。

 子どもが暴走した場合、どうするのか。

 厳しく怒るが、その子の立場に立ってその子の利益のために怒るということが大事であり、それが優しさでもある。また、怒るときは、怒りきることが必要であり、子どもへの愛情がなければ本気で怒れない。そのためにも教員がチームとして、複眼的に子どもを見ることを大事にしている。

 権利と義務を集団の中でどのように身に付けるのか、ということに徹底的に取り組んでおり、人権意識が学校の中に定着している雰囲気を感じる。教師と子ども、子ども同士の関係の中で、人権が大切であることを意図的に分かるようにされており、学校の在り方自体が人権意識に富んだものになっている。厳しい家庭の状況等を抱えていない子ども達に対しては、人権教育を進める上で、どのようなアプローチがあると考えるか。

 「人権を通じての教育」、学習の過程で人権を大切にすることが軽視されがちである。「人権についての教育」に熱心な先生が「人権を通じての教育」に無関心で、生徒の内面を把握しようとしないことがあるが、その場合、人権教育をやればやる程、子どもにとっては重たくなったり、「~してはいけない」という単なる観念的理解で終わってしまうことになる。「~しましょう」「~をつくりましょう」といった建設的な位置づけとその取組も大切ではないか。

(2)その他

 自由討議を行った。主な内容は以下の通り。

 学習指導要領のように、人権教育について、例えば、生命の大切さ、権利・責任の関係の理解、自尊感情の育成、といった人権教育の重要な要素について、各発達段階に応じて身に付けるべき内容などを示したものはないのか。そのような目当てを基に、発達段階に応じた指導方法や学習教材の在り方について検討するものなのではないか。現在の取組を並べるだけでは、子ども達に必要なものが身に付いているのか、見て取ることが難しいのではないか。

 突き詰めれば、人権に関わらない教育活動はほとんどないが、これまでは人権課題に直結する教育活動が何であるのか、あまり意識しなかったところがある。人権教育を支える重要な要素を洗い出してどう指導計画を作るのか、研究していきたい。

 発達段階に留意しつつ、人権教育により、どのようなねらいでどういう能力・価値を子ども達に身につけさせていくのか、検討していく必要がある。

 ハンセン病という1つのテーマを考えるとき、知的理解と哲学的・倫理道徳的理解、行動の各要素が、1つのテーマに揃っている必要があるのではないかと思う。行動の部分では、米国の例をあげると、ロールプレイングがよく取り上げられるが、全ての先生が取り組むのは難しい。特別活動や生徒指導の局面での行動も、トレーニングの一環として位置付けられるのではないか。全生園についての取組も、学習から哲学的理解、行動のトレーニング、という流れで取り組んでいるという理解でよいか。また、人間関係スキルというものも、同様のトレーニングという理解でよいか。

 全生園での取組を一般化、普遍化したいと思って取り組んでいる。全生園を離れても、そこで学んだことが一般化できるよう、道徳、特別活動、総合的な学習の時間等において、意図的に勉強させることが大切であるとの認識の下、年間指導計画の検証をしようとしているところであると聞いている。

 人間関係スキルとは、自分の話したいことを自分らしく的確に表現することにより人間関係を作っていく、ということである。偏見があるような場合には、地域住民を巻き込んで啓発しながら取り組まないと、逆効果になってしまうこともあるのではないか。学校という枠の中だけでなく、保護者、関係機関と十分に連携しながら総合的に取り組んでいくことが必要ではないか。

 知識の部分と感性の部分の接続をどうするかは大きな課題である。学んだことを行動に移すのにワンステップがあり、そこにスキルの育成が関わってくる。人権についての教育とは、人権教育の知識の側面であるが、しっかりとした知識を身に付けるためにも、体験的、心情的理解が必要であり、その意味で、人権についての教育、人権のための教育、人権を通じての教育、といった人権教育の各類型の関係の整理を明らかにした方が良いのではないか。

 小さいときからトレーニングと共感的理解をセットで行うことが必要であり、年齢が上がるにつれて、共感的理解が重要になってくる。共感的理解とトレーニングを、友達の中で、人間関係として成立するような形で順次に取り組んでいくことが必要ではないかと思う。

 人権教育の視点で教育活動を見て、知的、心理的、行動的なそれぞれの人権教育の内容について、発達段階に応じてカリキュラム化していくことが重要であると考えるが、人権教育の視点とはどう位置付ければよいのか、検討していく必要がある。

 人権教育に取り組む中で、保護者、地域の反応がとても気になった。保護者や地域の反応をどうやって把握して、取組にフィードバックするか。学校が説明責任を果たしていくことにより、保護者、地域の理解を得られていくと考える。

 英国では、市民性教育というものが、1988年にナショナルカリキュラムが策定された際に、クロスカリキュラムの1つのトピックとして扱うことが位置付けられ、2002年から中等教育の1つの教科となった。この市民性教育の要素は、社会的責任(responsibility)、社会への関わり(community involvement)、政治リテラシー(political literacy)であり、人権教育を構造化して捉えていく際の1つの参考になる。

 英国での取組をモデルとして、EU全体でdemocratic citizenship education という形で広がりを見せているところである。

 事務局より次回日程について説明の後、閉会。

(以上)

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初等中等教育局児童生徒課