平成14年6月24日
コラム目次
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平成14年6月24日 | |
幼稚園教員の資質向上に関する調査研究協力者会議 | |
座長 無藤 隆 |
1 幼稚園教員の資質向上の意義 幼稚園教員は、幼児教育における中核的な役割を担っているので、幼稚園教員に優れた人材を得、また、その資質向上を図ることは極めて重要である。 幼稚園教員自らが資質向上に対して取り組むことが重要であり、また、多くの関係者や関係団体がその取組を支援していくこと及びそのための環境の整備を国 や地方公共団体が行うことが重要である。 2 幼稚園を取り巻く環境の変化 幼稚園を取り巻く環境は、少子化、核家族化、都市化、国際化、情報化、女性の社会進出など、急速に変化してきており、これらの変化を背景として、保護者や地域社会の幼稚園に対するニーズが多様化してきている。 3 幼稚園教員に求められる専門性 幼稚園教員は、幼児を理解し、活動の場面に応じた適切な指導を行う力をもつことが重要であり、さらに、家庭との連携を十分に図りつつ教育を展開する力なども求められている。 具体的には、幼児を内面から理解し、総合的に指導する力、具体的に保育を構想する力、実践力、得意分野の育成、教員集団の一員としての協働性、特別な教育的配慮を要する幼児に対応する力、小学校や保育所との連携を推進する力、保護者及び地域社会との関係を構築する力、園長など管理職が発揮するリーダーシップ、人権に対する理解などが、教員に求められる専門性として挙げられる。 |
1 | 幼稚園教員の資質向上の意義 |
幼児期は、人間形成の基礎が培われる極めて重要な時期であり、他者の存在を意識し始め、人とのつながりや周りへの興味や関心が広がる時期である。幼児は、初めての集団生活である幼稚園において、主体的な活動としての遊びを通じ、他者との違いに気付き、ともに活動する喜びを得、自らの好奇心を高めるなど、生きる力の基礎を得ることができるようになるので、遊びを通した総合的な指導を行うことが重要である。 幼稚園教員は、幼児を内面から理解した上で、幼児の主体的な活動が確保されるように物的・空間的環境を構成するとともに、また、幼児の活動を豊かにするための役割が期待されており、幼児教育における中核的な役割を担っている。このため、幼稚園教員に優れた人材を得、また、その資質向上を図ることは極めて重要である。この調査研究においては、幼稚園教員の資質を、幼児教育に対する情熱と使命感に立脚した、知識や技術、能力の総体ととらえて、その向上のための課題と展望、今後の方向性及び方策を検討することとした。 このような幼児教育及び教員の重要性を踏まえると、幼稚園教員及び教員を目指す者は、幼稚園教員として求められる資質を、養成課程や現職研修においてはもちろん、通常の保育を含めた様々な機会を通じて、自ら向上させていくことが重要である。 さらに、幼稚園教員に求められる資質には、いわゆる「不易」と「流行」の部分があると考えられる。まず、いつの時代にも求められる、幼児を理解し、総合的な指導をするために必要な資質は「不易」として位置付けられ、常に原点に立って向上させていくべきものである。一方、現在、幼稚園を取り巻く環境が大きく変化する中、新たに幼稚園教員に求められるようになってきた資質は、「流行」として位置付けることができ、幅広い生活体験や社会体験を背景とした柔軟性やたくましさを基礎として向上させていくことが重要である。 教員として求められる資質は多岐にわたり、ライフステージに応じて、不断に向上に努めることが必要である。また、現職教員に対する研修だけでなく、人事や処遇等も含めて総合的に条件を整備していくことが、教員の総合的な資質の向上に必要である。 また、幼稚園が、自己点検・自己評価を行うことに努め、それらの結果や園の運営状況などに関する情報を園として積極的に公表していくことが求められているが、幼稚園教員の資質向上に関する項目についても、その対象とすることは、保護者や地域の多様なニーズに応え、幼稚園教育の水準を維持向上していくことに資する。 これらの観点を踏まえて、幼稚園教員自らが資質向上に対して取り組むことが重要であり、また、多くの関係者や関係団体がその取組を支援していくこと及びそのための環境の整備を国や地方公共団体が行うことが重要である。 |
2 | 幼稚園を取り巻く環境の変化 | ||||||||
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3 | 幼稚園教員に求められる専門性 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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幼稚園では、幼児の状況に応じた指導計画を一人一人に立て、ティーム保育体制の中で、きめ細かな対応をとっている。幼児たちは、発達の差にとらわれず、人間として他者を尊び、互いに協力し合うことを、集団生活の中で学んでいる。 また、障害のあるKさんが、月に1、2回、S幼稚園をボランティアとして訪問し、幼児と交流を続けている。最初は、どのように意思を伝え、受け止めればよいか分からずとまどったり、遊びの楽しさに集中するとKさんの存在を忘れてしまう幼児もいたが、少しずつ互いに理解が進み、Kさんの障害をその人の個性の一つとしてとらえて、交流できるようになった。例えば、幼児たちは、運動機能に障害のあるKさんをサッカーメンバーの一員としてなかなかとらえられなかったが、Kさんが参加できる方法を教員から幼児に提案し、Kさんが参加したいという意思表示をした結果、一緒にサッカーに興じるようになった。そのKさんの姿は、周りの人々にも元気を与えている。 さらに、幾人かの保護者とともに近隣の養護学校中等部を訪問し、焼き物を共同で焼くなど、障害のある生徒との交流を親子で共有し、障害者への理解を深められるように取り組んでいる。障害を一つの個性ととらえる幼児から、保護者の方が学ぶ機会となっている。 |
二月のある日、年長組が小学校一年生の招待を受けて、小学校に出掛けて、コマやなわとびで遊んだり、校内を案内してもらったりした。小学校では、年長児との交流の次の時限に、次回の交流に向けて今回の交流の反省と改善点について話し合った。幼稚園教員のA先生の役割は、その話し合いに参加することである。 話し合いは、それぞれの児童が年長児とどのようなかかわりをもったか報告し合うことから始まり、最後に、次回、再度幼稚園児を受け入れるにあたって改善することは何かが問題となった。児童の一人が、A先生に対して、「幼稚園の子どもたちがどんなことに困っているか教えて下さい」という質問をした。 A先生は、交流の中で、年長児が、いろいろなことを発見したり楽しんだりすることができたので、そのことを伝えた。しかし、児童の一人から「先生、幼稚園の子どもが困ったことを教えて」という質問が再度出された。ここで初めて、A先生は、一年生が幼児とは異なり、課題を解決するためにはどうするか、問題意識をもって学習に臨んでいることを知った。A先生は、この授業に小学校の教師として参加するにあたっての認識が十分ではなかったことを反省した。 こうした交流を実施する際大切なことは、幼児、児童それぞれにとって実り多いものとなるように交流の仕方を工夫するとともに、教員も、互いの教育について学ぶことである。そのことにより、幼稚園と小学校の連携が一層深まり、同時に、教員一人一人の資質の向上につながっていくと考える。 |
3年ほど前に、父親同士の交流を深めるために、父親の会は独自のHP(ホームページ)を立ち上げた。その中の掲示板コーナーでは、父親や母親、そして教員も参加して情報交換が行われている。例えば、幼稚園の芋掘りに5人程度の父親の補助を依頼する旨を掲示板に園側から書き込むと、掲示板の管理人の骨折りもあって、即座に人数が集まるなど、情報通信技術が幼稚園にとって大きなプラスをもたらしてくれると実感した。 また、地域の中の一般の方からH幼稚園についての質問が投稿されたことがあったが、在園児の父親や母親が、H幼稚園を選択した理由やH幼稚園の特色等をわかりやすく書き込んでいた。電子媒体上の活動が円滑に進んだのは、父親たちの地域貢献への姿勢や、土曜日の保育参加での情報交換があったからではないかと思われる。 今では、教員が自主的にマスターした作成技術によりH幼稚園のHPを開設し、教育内容や子育て支援情報、園歌もHPを通じて発信している。当園に入園を希望する保護者の3割がインターネットで情報を収集するようになっており、これからもインターネットの長所を活かし、欠点を上手にカバーしながら、活用していきたいとのことである。 |
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1 | 養成段階における課題と展望 | ||||||||||||||||||||||||
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2 | 採用段階における課題と展望 | ||||||||||||||||||||
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3 | 現職段階における課題と展望 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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しかし、D先生は、育成会活動に参加していると、たくさんの人との出会いがあり、充実感を感じている。特に、小学校以上の子どもと一緒に活動することは、自分にとって新鮮である。児童期の子どもたちのものの見方や感じ方に触れることを通して、児童期の発達の特性を知り、改めて幼児期から児童期への発達を見直すことができた。また、児童の保護者とかかわる中で、幼児をもつ保護者の悩みとは異なっていることを知った。 D先生は、夏の長期休業期間中に、ある商社の管理職の研修に3日間参加し、リーダーとしての役割や組織づくりについて学んだ経験もある。こうした研修の成果は、すぐに幼稚園教育に活かせるものではないがこれまでの自分にはない視点を学び、広い視野をもって、幼稚園教育を考えることができるようになったと報告している。 U幼稚園の園長先生は、幼稚園教員の研修について、まず保育の専門性を高めることが重要だが、幼稚園の世界の中だけで研修を受けていては、その経験は限られてしまうと考えている。そこで、教員自身の視野を広げるという観点から、社会体験や企業体験を積極的に進めている。もちろん、こうした研修は、意欲のある教員がそのライフステージに応じて行うことが有効である。 |
モンゴルでは就学前教育機関である幼稚園に、おおよそ3歳から7歳までの子どもが通っている。子どもは教員が準備したスケジュールにそって一日約8〜10時間を幼稚園で過ごす。内容は、机に向かい先生の質問に答えるという授業形式がほとんどであった。 年に一度、教員がそれぞれのテーマにそって教材を準備し、初めて接する子どもに30分間保育をするというコンテストが、区や市単位で開催される。そこで、A先生は、子どもが「遊びながら学ぶ」という日本の幼稚園教育の方式をモンゴルの教員たちに伝え、それに基づいた発表を試みた。コンテストでは、「子どもたちの表情が生き生きとしていてよかった。」という評価と、「日本のやり方は楽しそうだがモンゴルでは通用しない。教えるべきことはきちんと教える必要がある。」という評価を受け、日本の幼稚園のよさを伝えることがある程度できたが、幼稚園教育も国のもつ文化や社会状況を背景に成り立っていること、日本の幼稚園教育が様々に評価されうることを知った。 また、幼稚園の年長の子どもが出場する歌・踊り・体操などの大会がある。子どもたちが練習する様子は、A先生の目から見るととても厳しいものと思えたが、子ども自身が出場に誇りをもつとともに、教員たちは子どもたちの力を信じて、練習を毎日続けていた。その姿が印象に残り、子どもが本来もつ力や可能性をどのように引き出していくか、という幼稚園教育がもつ本来の役割を再考させられ、国により、その方法も異なるということに気付いた。 このような経験を経て日本に戻ったA先生は、モンゴルで感じた視点を大事にしながら、日本の子どもたちには何が必要か、何を大事にしていかなければならないかをよく見極めて、日々の保育に努めたいと考えている。 |
Sさんは、以前に教育実習で、幼児の発達を理解した上で指導計画を作成してきたつもりだったが、今回の園訪問は教育実習と異なり、比較的長かったので、幼児の変容を実感としてとらえることができ、指導計画がもつ意義を、やっと実際の幼児の姿と結び付けて考えられるようになったと実感した。また、教育実習のときと異なり、ゆとりをもって幼児とかかわることができ、その結果、幼児の豊かな活動を引き出すための教員のかかわりについて、多角的な視点からとらえることもできるようになった。これから教員として仕事をしていくことへの自信にもつながったと思う。 一方、N幼稚園の先生たちも、Sさんを迎えることで、新たな発見をしている。Sさんの記録には、担任では気付かない幼児の姿が書かれていることが多く、担任のY先生は、Sさんの記録を読むことにより、改めて幼児の姿を見直し、幼児理解を深めている。 また、Sさんを通して、教員養成大学の教員とも交流できるようになり、時々園内研修に来てもらい、助言をもらえるようになった。N幼稚園は、小規模で教員数が少なく、園内での研修では議論が堂々巡りになりがちであったが、専門家からの客観的な助言をもらうことにより議論が活発になり、研修を充実することができた。 |
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1 | 養成と採用・現職の円滑な接続によるトータルな教員の資質向上 | ||||||||||||||||
養成・採用から現職までの段階を、全体を見通して、教員が資質向上を図ることができる環境を整備していくことが重要である。具体的には、多様なニーズに対応していくことが求められている時代において、資質のうち養成段階で特に力を入れる部分と教員になった後の現職段階で重点的に修得する部分を分けつつ、養成と採用・現職を関連付けながら、養成機関、幼稚園、地方公共団体などにおけるあらゆる資源や機能を活用して、個々の教員が自ら資質向上を図れるようにすることである。
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2 | 専門性の向上 | ||||||
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3 | 幼稚園教育を支える環境の整備 | ||||
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まず、その研修で出会った教員は、園長やベテラン、公立や私立など、自分とは異なる様々な立場にある教員なので、保育に対するいろいろな考え方があることや、園を運営することの大変さ等がわかり、広い視点から幼稚園教育を考えることができた。また、公開保育を参観し、他の園の保育には、自分の園の保育にはない環境や教師のかかわりがあるので、自分の保育を振り返るよい機会になった。全国の先生と話し合う中で、改めて自分の地域の幼稚園の課題を認識することもできた。 ただ、こうした自主的な研究グループに参加するためには、当然、休暇をとらねばならないし、園長や他の先生方の理解がなければなかなか出かけられない。こうした自主的な研修にも気軽に参加できる職場の雰囲気がもっとあればよいと感じた。 さらに、二人がこうした自主的な研究グループによる研修に参加することで、何よりも刺激を受けたことは、教員としての使命感や向上心である。参加している誰もが、幼稚園教育を取り巻く的確な情報を得て、より一層幼稚園教員としての資質を高めたいという意志をもって集まってくるので、そういった仲間と研修することを通して、改めて教員として自ら学ぶこと、学び続けることの大切さを認識することができたということである。 |
毎回のテーマは、誰か一人が自分の研究を発表する。保育の学会に発表するような学術的なものもあり、新しい保育の試みなどもあり、あるいは、保育でぶつかる問題を整理して、実践者が報告する場合もある。 特に、大学の教員や院生には、自分の研究を現場の実践者に伝えて、理解と批判を得る場となっている。実践者には、保育界の最新の動向や保育実践の新たな試みを知る機会となる。例えば、幼小連携の在り方、預かり保育の進め方、イタリアの保育のレッジョ・エミリアの様子、また、幼児の発達の心理学の研究、保育実践の観察研究、等々が報告されて、勉強になっている。また、時には、外部から著名な研究者や実践者を招いて講演会も開いている。 向学心に燃えた保育者にとって、すぐに役立つ技能の講習ではなく、少し離れたところから保育を見直す機会は貴重である。また、園長のような立場になったり、保育者養成の専門学校の講師になっていく場合なども、自分の実践をどのように保育者や保護者や学生に伝えるかで参考になることも多い。 大学の研究者から見ても、保育現場から遊離することなく、研究を進める上で大事な場となっている。この研究会を通して、互いに知り合いになり、園に研究者や院生に来てもらうといったことや、あるいは研究に赴いた先の園の教員が研究会に参加するなどの交流もよく見られる。 |
入園当初はMさんと一緒に遊ぶことに消極的だった幼児も、Mさんからいろいろな遊びを教えてもらうことを通して、親しみの気持ちをもつようになり、だんだんMさんの来園を楽しみに待つようになってきた。 あるとき、Mさんが体調を崩し、しばらく幼稚園に姿を見せなかった。元気になったMさんが久しぶりに来園することになった時、幼児たちは、前日からMさんの来園を楽しみに待っており、当日、Mさんの姿を見つけると、3歳児から5歳児までの園全体の幼児たちがMさんの周りに集まってきた。Mさんは、新聞紙で作ったボールとバットをもってきてくれたので、すぐに野球ごっこが始まった。中には、Mさんが作った遊具を見よう見まねで作り始める幼児もいる。Mさんは、ゆったりとした雰囲気の中で、幼児一人一人の要求に耳を傾けながら、丁寧にかかわっている。 Mさんの手作り遊具には、身近にある素材を活かしたものが多く、幼児が喜びそうなアイディアがいっぱいに詰め込まれているので、教員自身も学ぶことが多い。また、Mさんのゆったりとした話し方や動きの中で、幼児たちが安心した表情を見せている姿から、教員自身が自分の幼児とのかかわりを振り返り、自分はせかせかと動いていたのではないかと反省することもある。このように、地域の方の幼稚園の教育活動への参加は、幼児の活動の幅を広げるだけでなく、教員の資質向上にも資するものである。 |
-- 登録:平成21年以前 --