学校週5日制時代の公立学校施設に関する調査研究協力者会議報告 (子ども達の未来を拓く学校施設-地域の風がいきかう学校-)

平成11年7月
文部科学省

子ども達の未来を拓く学校施設

-地域の風がいきかう学校-


   
はじめに
   
   
  平成14年度(2002年度)から,新たな教育課程が実施され,これに伴い完全学校週5日制が導入される。また,先の中央教育審議会答申等において,学校・家庭・地域社会のより一層の連携協力や地方分権推進の観点から学校の運営に当たっての地方公共団体や学校の自主性尊重など学校の在り方の見直しに関する種々の提言がなされている。  
  教育改革の推進の中で,学校は大きく変わろうとしており,学校施設についても,今後新たな視点を持ちその整備を進めていく必要がある。 
  一方,学校施設の現状を見ると,今後10年から15年の間に,昭和40年代から50年代の児童生徒急増期に大量に建設された校舎等が築後30年を経過することとなり,改築の時期を迎えることとなる。  
  このように一時的に集中することとなる学校施設の改築を円滑に進めていくためには,今から,中長期的な観点に立って計画的に整備を進めていくことが不可欠であるが,見方を変えれば,従来,ややもすると画一的であった学校施設が,時代の要請に応えた,個性と特色を持った多様な学校施設に生まれ変わる絶好のチャンスであるともいえる。  
  このような観点から,本協力者会議は,地域の教育機関として中心的な役割を果たすことが求められる公立学校,特に小・中学校の今後の学校施設の在り方について検討を行うため,平成10年11月,文部省教育助成局長の私的懇談会として設けられた。  
  新しい教育課程に対応した学校施設の在り方については,今後,文部省において学校施設整備指針の見直しの中で検討される予定であることから,本協力者会議では,主に地域コミュニティの拠点としての公立学校の施設整備及びその管理運営,今後の公立学校施設助成について検討を進めることとし,これまで計7回の会議を開催するとともに,先進的な学校施設の現地調査も行った。さらには,公立学校施設整備の主体である市町村等の声を聞くため,全国の都道府県・市町村に本調査研究の検討項目について照会したところ,412の市町村等から大変貴重なご意見・ご提言をいただいた。  
  本報告書は,このような検討の結果をできるだけわかりやすく具体的なものとして取りまとめたものであるが,その提言は,単一の固定的な公立学校施設の姿を提示したものではなく,各学校の設置者が,これからの学校施設の在り方を考える際に考慮していただきたい視点を取りまとめたものである。  
「施設が変われば,学校も変わる。」 
  教育改革が進められる中,全国の地方公共団体において,それぞれの学校の実状に応じて工夫を凝らした個性・特色を持った学校施設づくりが進められ,その中で,充実した学校生活が営まれることを心より期待するものである。  
   
   
目  次
   
   
I  これからの公立学校施設の在り方を検討する背景
    1.学校の在り方の見直しが進められている
    (1) 完全学校週5日制の実施 
    (2) 学校・家庭・地域社会の連携の発信源としての学校 
    (3) 子ども達の姿から 
    2.多くの学校がこれから改築の時期を迎える
    3.学校施設は新しい課題を前にしている
   
II  施設の面から見たこれからの学校像
    1.「子ども達が楽しく通いたくなる学校」
    2.「地域の風がいきかう学校」
    3.「ハイクオリティ・スクール」
   
III  これからの公立学校施設を考える際のヒント
    1.子ども達が楽しく学び遊べる環境づくり
                      (それぞれの子どもの居場所がある学校) 
    2.地域に融け込む学校施設
    (1) 保護者や地域住民のためのスペースを 
                      (散歩の途中に気軽に立ち寄れる学校) 
    (2) 特別教室や学校図書館も地域に開く 
                      (学校は地域住民の生涯学習のベースキャンプ) 
    (3) 休日や放課後の子ども達への開放 
                      (学校は子ども達の自由空間) 
    (4) 地域と学校の「垣根」を取り払う 
                      (学校が地域と融け合う) 
    (5) 地域のシンボルとしての学校施設 
                      (学校は地域住民の心のよりどころ) 
    3.地域における総合的な学習環境の整備
    (1) 地域全体の学習環境の中で学校施設を考える 
                      (町は大きな教室(学習スペース)) 
    (2) 学校施設の複合化の推進 
                      (「1+1=3!」) 
    (3) 特色を持たせた学校施設の重点的整備 
                      (お互いの学校施設を使い合う) 
    (4) 情報通信メディアで世界とつながる 
                      (教室の中に世界がある) 
   
    4.「100年」先まで愛される学校施設
    (1) 基本構想から基本設計へ至る計画プロセスの重視 
                    (関係者の思いを込めた施設づくり) 
    (2) 将来の状況変化に柔軟に対応できる施設 
                    (施設が自ら機能を生み出す) 
    (3) 建築後の適切なメンテナンス 
                    (アフターケアも大切) 
    (4) 余裕教室を活用したリフレッシュ 
                    (余裕教室は夢のスペース) 
    5.学校施設開放の際の管理運営の在り方
    (1) 学校施設開放は教育委員会の責任で 
                    (安心できる学校開放) 
    (2) 利用者の立場に立った管理運営 
                    (喜ばれる学校開放) 
    (3) 利用者の利用責任・モラルの向上 
                    (地域住民が育てる学校開放) 
    (4) 学校施設を活用した生涯学習のための多様な事業実施 
                    (「待っている」だけでなく「惹きつける」) 
   
IV  公立学校施設整備のこれからの課題
    1.中長期的な観点からの計画的整備の必要性
    2.優れた学校施設づくりへの積極的支援と情報共有化
    3.他省庁の施設整備事業との連携
   
「私にとっての夢の学校」(調査研究協力者からの一言)
   
   
   
   
I  これからの公立学校施設の在り方を検討する背景
   
1.学校の在り方の見直しが進められている
   
(1)  完全学校週5日制の実施 
  「ゆとり」の中で子ども達の「生きる力」をはぐくむ観点から,平成14年度(2002年度)から新しい教育課程が実施され,それに伴い完全学校週5日制が導入される。この完全学校週5日制の趣旨は,学校,家庭,地域社会が一体となってそれぞれの教育機能を発揮する中で,子ども達が自然体験や社会体験をはじめ,様々な活動を行う場や機会を増やし,豊かな心やたくましさを育てようとするものである。  
  学校での教育は5日間になるが,学校外での教育は,家庭や地域を含めて週7日間である。地域の中での学校の様々な活用を含めて地域全体における子ども達を取り巻く学習・生活環境の整備の視点が重要となる。  
  また,新しい教育課程においては,心の教育を重視するとともに,体験的な学習,問題解決的な学習,調べ方や学び方の育成を図る学習等,子ども達の主体的な学習の重視,選択履修幅の拡大,情報テクノロジーの積極的な活用等を図ることとされており,このような新しい課題に対応できるような柔軟な施設づくりが求められる。  
  さらには,学校においては,原則として土曜日及び日曜日は本来の学校教育活動が行われないこととなり,生涯学習熱の高まりを背景に,これまで以上に,学校施設を地域住民の活動の場として活用することが求められると考えられる。  
   
(2)  学校・家庭・地域社会の連携の発信源としての学校 
  これからの学校は,子ども達の教育を学校のみで完結して考えるのではなく,家庭・地域社会と一体となって,それぞれの役割を明確にし,相互に連携協力していくことの重要性が指摘されている。  
  その実現のためには,学校が様々な意味で地域社会に開かれていなくてはならない。 
  具体的には,保護者や地域住民の意向を把握・反映するとともにその協力を得て学校運営が行なわれるよう,まずは,保護者や地域住民がより訪れやすい学校となること,さらに,豊富な経験を持つた社会人,青少年団体指導者,スポーツ指導者,伝統文化継承者等に教育活動への協力を求めること,学校における様々な活動に学校支援ボランティアとして地域住民の協力を求めること,家庭教育を支援する観点からPTAの活動をより一層活性化すること,学校を拠点として教師と地域住民との触れ合い,相互理解の機会を増やすことなどが考えられ,このような活動を円滑に実施することができる施設にしていく必要がある。  
   
(3)  子ども達の姿から 
  現代社会の中では,都市化,核家族化の進行等により放課後等の子どもの居場所が少なくなっている。また,子どもが大人等世代の異なる人と関わる場面が少なく,さらには,子ども同士の交流,特に異年齢間の交流の機会も少なくなっている。  
  また,子ども達が自分の地域のことを知らず,誇りを持つという気持ちが少なくなっている。 
  子ども達の居場所であるべき学校についても,子ども達の不登校や問題行動が教育上の大きな課題となっている。一方で,地域コミュニティの崩壊の中で,地域の求心力を持ちうる存在として学校への期待が生まれている。  
  このような状況の中で,昔は,家族や地域の中にあった「心のよりどころ」を取り戻すため,学校をどう活用していくかそれぞれの地域で検討する必要がある。  
   
2.多くの学校がこれから改築の時期を迎える
  全国の公立小中学校は,平成10年5月1日現在1億5,812万平方メートルの建物を保有している。このうち,一般的に大規模改造の検討が要請される建築後20年以上経過した建物が8,698万平方メートルを占め全体の約55%,また,改築の検討が要請される建築後30年以上経過した建物が2,682万平方メートルであり,全体の約17%となっている。  
  仮に,現在の毎年の改築事業のペースを継続していくとすると,平成20年には,建築後20年以上の建物が全体の約80%,30年以上の建物が全体の約50%に上ることとなる。  
  これら児童生徒急増期に大量に整備された学校施設の改築等の現代化をいかに円滑に進めていくかが大きな課題である。 
  急増期に整備された校舎等は,急激な量的整備への対応のため,結果として画一化が進み,また,必ずしも高品質な施設ばかりではなかった。幸いにしてこれからの公立学校施設整備は,児童生徒減少期における改築事業が中心であるので,中長期的な観点から計画的に整備を進めることが可能である。また,その計画的整備を進める中で,それぞれの学校において将来の在り方の検討を行い,それを踏まえた施設づくりが可能であり,後世まで残り,かつ,誇ることのできる学校施設を全国各地に多く生み出すことのできるまたとない機会ととらえることができる。  
   
3.学校施設は新しい課題を前にしている
  国際化,情報化等の社会の変化に対応し,教育の多様化を求める中で,学校の教育内容・方法や学校の管理運営にも様々な見直しが行われており,また,今後も不断に改革が行われていくものと思われる。  
  これに対応して,学校施設も,近年は,多目的スペース等のオープンスペースやコンピュータ教室,校内LANを設けたり,中学校では,教科教室型※1の校舎づくり等の新しい試みもなされるようになっている。また,施設を高機能化・多機能化したインテリジェントスクール※2や環境に配慮したエコスクール※3の整備も進んでいる。  
  このような新しい教育課題に応えるための工夫を凝らし特色を持った学校づくりをより一層促進していくとともに,今後新しく現れてくるであろう教育課題にも対応できるような柔軟で弾力的な施設づくりが求められている。  
  また,地域における生涯学習の環境整備を推進する観点から,地域内における学校をはじめとする生涯学習関係施設を総合的・体系的に整備することが求められており,その中で,学校施設もそれ単体で考えるのではなく,他の施設との機能連携,一体的整備を積極的に進めていく必要がある。従来のように,個々の学校施設に平均的に全ての機能を持たせるのではなく,学校をはじめとする地域内の文教関連施設を相互共同利用することを前提として,それぞれの学校施設の個性化,高度化を図っていく必要もある。  
  「学校づくりはまちづくり,地域づくり」という視点を大切にしたい。 
  さらに,社会全般に大きな影響を及ぼす少子化,高齢化の進展の中での地域住民への各種サービスの充実や地域の防災拠点など地域社会の機能強化,高度化の観点から学校施設に対して期待される役割も大きい。  
  なお,今後の施設づくりにおいては,利用者の声を反映させることが求められており,今後の学校施設整備の計画段階において,教師や保護者,地域住民,さらには子ども達の参画を求めることも考えるべきである。  
   
※1  教科教室型
  生徒の多様な学習活動の展開に資するため,各クラスのための普通教室は設けず,各教科ごとに特別教室,準備室,メディアセンター等を明瞭なまとまりをもって配置し,生徒が時間ごとに各教科の教室を移動する方式。
  この場合は,生徒の生活上の拠点として個人ロッカーやテーブル等をおいたホームベースを別に設ける場合が多い。
※2  インテリジェントスクール
  高度の情報通信機能と快適な学習・生活空間を備えた本格的な環境として整備され,かつ,地域共通の学習基盤として他の文教施設とも有機的な連携を持ち,地域学習環境の向上に寄与する学校施設。
  昭和62年の臨時教育審議会第三次答申において提言され,平成3年度より文部省において「学校施設のインテリジェント化推進事業」を推進している。
※3  エコスクール
  太陽光発電や太陽熱利用等の新エネルギー活用,屋外庭園やビオトープ等の緑化推進,トイレ洗浄や校庭散水に雨水を利用する中水利用等,環境への影響を低減するよう配慮して整備された学校施設。
  平成9年度より文部省において通産省と協力し「環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備推進に関するパイロット・モデル事業」を推進している。
    

II  施設の面から見たこれからの学校像
   
  今後の公立学校施設の在り方を考える前提として,主に施設整備に関連する観点からこれからの学校像を描いてみた。 
   
1.「子ども達が楽しく通いたくなる学校」
  学校に様々な役割が期待され,それに応えた学校づくりを進めていく場合にも,学校はまず子ども達のものであるという視点を大切にする必要がある。学校の役割はいろいろあろうが,子ども達が毎日楽しく通いたくなる生き生きと過ごすことのできる学校であってほしい。  
  そのためには,学習活動をはじめ学校生活全般にわたって子ども達の主体性を尊重し,子ども達一人ひとりが自分が学校の主人公であると感じさせることが重要である。  
  「教室で教える学校」から「学ぶ環境としての学校」へ。 
  学校で決められた一つの行動や考え方のパターンではなく,子ども達が自立(自律)的に学校生活を送れる場であるとともに,様々な活動の場面で,その時々の子ども達の気持ちに応えられる変化のある空間であることが望まれる。  
  また,苦しいことや困難な課題を我慢強く克服し,達成感を持ったり,子どもと先生,子ども同士の様々な触れ合いや交流が行われる中で,子ども達が,心を動かす多くの「感動がある学校」,「誇りを感じ,自慢に思える学校」,「子ども達がエキサイトする学校」になってもらいたい。  
   
2.「地域の風がいきかう学校」
  これまで,学校は,子どもの教育のための聖域という意識が強く,外部の社会から閉ざされた空間とする考え方が強かった。その中で,いい意味でも悪い意味でも独特の学校文化も形成されてきた。  
  これからの学校は,子どもの教育を学校のみで完結して考えるのではなく,「家庭・地域と一緒に子どもを育てる学校」として,家庭や地域住民とともに学校教育を展開していくという視点を持つことが重要である。  
  そのためには,まずは,保護者や地域住民が気軽に学校に来ることができるようにすることが重要であり,学校の中で,このような人たちが落ち着き,様々に活動する拠点となるスペースが必要である。  
  それとともに,学校教育活動が行われない休日や放課後は,学校という知的総合施設を子ども達を含めて地域の人々の様々な活動に使ってもらうという視点も重要である。さらには,より進んで,平日,子ども達の教室の隣で保護者など地域の大人達が学んでいる姿を想像するのも楽しいことである。  
  学校,特に,小中学校は,全国どこの地域においても中心的な場所にあり,このような様々な学習,スポーツ,文化活動を行うことのできるスペースと設備を持った公的な施設は他にないものであり,生涯学習の拠点としての活用をもっと進めていくべきである。  
  このようなことを推進する中で,地域社会と融合した,風通しのいい学校が生まれる。  

3.「ハイクオリティ・スクール」
  かつて,戦前の学校には,地域社会の中でもっともモダンで時代を先取りした施設も少なくなかった。家庭や地域社会の中にはない新しい発見のできる魅力的な施設・設備を持つ学校が多かった。  
  社会全体が豊かになる中で,次第に,学校はそのような輝きをもたず,居心地の良くない環境になってきた。 
  義務教育の学校だから最低限の環境でよしとするのではなく,子ども達や地域住民が誇りを感じる魅力を持った「公共建築」であるべきである。 
  特に,これからの社会を考える時に,学校における情報テクノロジーの整備は不可欠であるといえる。子ども達は新鮮なメディアに目を輝かせる。授業など教育活動に活かすことはもちろん,学校の事務処理さらには,地域への情報発信にも情報テクノロジーを充分活用すべきである。  
  また,我が国の伝統的な建築技術を大切にしつつ,エネルギー効率等地球環境への配慮も含めた,最新の建築技術に支えられた高品質の施設にすることも重要である。  
  もちろん,学校は地域において防災等の観点からも最も安全な性能を備えていなければならない。 
  それとともに,これからの学校は,人間的な温かみを持った,感性に応える,人の心のよりどころとなるような存在であってほしい。 
  このため,学校の中における「木」という素材を大事にすることや,樹木や芝生などの「緑」や「土」の重要性を再認識し,やすらぎをあたえる自然と調和のとれた環境にやさしい学校づくりを進めるとともに,「香り」や「感触」を大切にし,人間の五感を刺激するような施設づくりも望まれる。  
   
   
   
III  これからの公立学校施設を考える際のヒント
   
1.子ども達が楽しく学び遊べる環境づくり

(それぞれの子どもの居場所がある学校)
  子ども達のその時々の気持ちを受け止めることができ,また,子ども達が自分自身のリズムで学校生活を組み立てることができ,そして,主体性を大事にした様々な活動が可能となるように,これまでの学級を単位とした教室だけでなく,複数の学級での学習や異学年の交流ができるような大きく開かれた多目的スペースから,個人や小グループが落ち着いて集中して活動できる小スペースまで,多様な空間を施設の内外に用意することが必要である。  
  新しい学習指導要領においては,総合的な学習の時間の新設,選択学習の幅の拡大が図られるとともに,個に応じた指導の一層の充実が求められており,今後ますます学習形態や学習集団が多様なものになっていくことが予想され,それに対応できる学校施設とすることが必要である。特に,小集団による学習が行いやすいスペースの確保に配慮することが重要である。また,ティームティーチングの一層の効果的な実施のため,先生の協力体制づくりのための空間ももっと充実する必要がある。  
  このような中で,特に,学校図書館は学習,読書,交流等の場としてもっと子ども達に魅力あるスペースとする工夫が望まれる。 
  また,子ども達が一日の多くを過ごす生活の場として,楽しく食事ができるスペース,きれいでさわやかなトイレ,男女別の更衣室の整備等の快適化を図るとともに,疲れたときには休息ができるような場,「心の教室」などの相談の場,友達同士が語り合い,談笑するカフェテリアや思いっきり遊べるスペース,小動物と触れ合い遊べる場,緑や土に触れられる場所,川,せせらぎや池など水のあるスペース等,それぞれの子どもの居場所となりうるような施設とすることが必要である。  
  さらに,家具についてもこれまでのような画一的な机やイスの見直しを図り,多様な学習活動や過ごし方を可能にする様々な机・テーブル,書架・教材棚,ついたてさらには照明等を効果的に配置することも大切である。  
   
2.地域に融け込む学校施設
   
(1)  保護者や地域住民のためのスペースを  
(散歩の途中に気軽に立ち寄れる学校)
  家庭,地域と一緒に子ども達を育てるためには,学校の教育活動に,保護者や地域住民等の外部の人達に様々な形で参加・協力してもらうことが必要である。また,この他にも,保護者や地域住民と子ども達の交流や連携活動が学校において日常的に行われることを通じて,子ども達の体験が豊かになることも期待したい。そのためには,これら外部の人々がもっと学校に気軽に来ることができるような雰囲気づくりや環境づくりが重要であり,これまでの学校ではあまり用意されてこなかった,これら保護者,PTA,地域住民,学校ボランティア等の人達のためのスペースを学校内に設置することが必要である。また,地域の人達のための展示スペース(ギャラリー)を設けることなども人々の集まりに役に立つ。  
  また,これら地域の人達と子ども達が一緒に活動したり交流したりすることが有効であり,そのためには,多目的活動室等の交流スペースを用意することも有意義である。  
  さらに,地域への開放エリアと子ども達の授業に使う非開放エリアというように明確に区分するのではなく,自然と顔を会わせることができるように動線関係などを工夫し,両エリアがうまく融合するような配慮も必要である。  
  また,当然のことであるが,だれでも学校に訪れることができるよう,バリアフリー化※4も重要である。 
   
※4  バリアフリー化
  段差にスロープを設けること,車椅子の使用者に配慮した便所を設けること,出入口を自動ドアにすること,エレベータを設置すること等により,障害のある者や高齢者等が建物を支障無く利用できるようにすること。
   
(2)  特別教室や学校図書館も地域に開く  
(学校は地域住民の生涯学習のベースキャンプ)
  学校の運動場や体育館の一般開放は大部分の学校で行われているが,特別教室や学校図書館は,従来の施設配置等の関係もあり,あまり地域住民への開放は進んでいない。  
  今後,整備する学校施設については,原則として特別教室,学校図書館も休日,放課後は地域住民に開放することを前提として整備すべきである。 
  このような地域住民の利用を前提とした学校施設は,子ども達だけでなく大人が利用することを前提とした施設設備内容にすることも必要であり,この点では,学校側としてもより高度な機能の中で子ども達の教育を行えるという利点もある。  
  ランチルームを特別教室とともに地域の人達に開き,活動後の懇親の場として使ってもらうことや,給食時に子ども達と楽しく語らいながら食事をすることも素敵である。  
  学校プールも今後は,公共用プールとの調整をとりつつ,一般開放を前提として,屋内化を図ることや,通年使用できる屋内温水プールとしていくことも検討すべきである。  
   
(3)  休日や放課後の子ども達への開放  
(学校は子ども達の自由空間)
  学校開放といえば,地域住民の大人の人達を対象に考えがちであるが,学校週5日制の下で,地域の中で子どもの居場所が少ない状況の中,子ども達が自由に集う場として,また,幼児を含めて異年齢の子ども達が自由に交流・連携できる場として学校を開放することも重要である。その場合,学校開放の運営を子ども達に委ねることも考えてみてよいのではないか。また,このような活動には,青少年団体やボランティア等が協力することも望まれる。学校は5日間になっても,学校施設は子ども達にとっては7日あるのである。  
   
(4)  地域と学校の「垣根」を取り払う  
(学校が地域と融け合う)
  学校施設の管理運営の必要上,学校施設の境界にはフェンス等を設けることが一般的であるが,近年,運動場と近隣の公園を一体的に整備したり,「塀」を設けない学校も現れている。  
  これらの文字どおり垣根を設けない学校では,当初心配したような施設の破損ということもほとんどなく,かえって地域の人達が不審者への注意や校庭の清掃をしてくれるなど,まさに自分たちの学校という姿が見られるようである。  
  また,フェンスを生け垣に変えて,そのお世話を地域の園芸クラブにお願いしたところ,そのお世話だけでなく,校庭も花いっぱいに生まれ変わったという学校もある。  
  このように,発想を転換することで「垣根」も地域と学校を隔てるものでなく,融け合わせるものになる。 
  施設面の工夫で地域との新しい関係が生まれることもある。 
   
(5)  地域のシンボルとしての学校施設  
(学校は地域住民の心のよりどころ)
  学校は卒業生をはじめ,地域の人々の思い出のこもった存在である。 
  地域の歴史や伝統,文化を生かした外観にしたり,地域の景観に融け込み,あるいは,より引き立たせるような施設が望まれる。また,施設づくりに地場産業や地域に伝わる技術を充分活用することも重要である。その土地や学校の歴史的・文化的資料等を集めた郷土資料スペースを設けることも考えられる。  
  「おらが町の学校」として地域住民が誇りとするような,他の地域にない,それぞれの地域の個性を生かした施設にしたい。 
  また,学校施設は何よりも安全な防災拠点として住民に安心感を与えるものでなければならない。万が一の災害発生時の地域住民の避難場所としての機能(備蓄倉庫やトイレの整備,水や通信手段の確保等)も適切に備えておくべきである。  
   
3.地域における総合的な学習環境の整備
   
(1)  地域全体の学習環境の中で学校施設を考える  
(町は大きな教室(学習スペース))
  住民の生涯学習活動の高まりに応じて,地域には様々な社会教育施設,文化・スポーツ施設が設置されている。また,福祉施設や公園等の公共施設も多数存在する。  
  学校施設をはじめとするこれらの施設の整備に当たっては,従来のように特定の目的や用途を持つ各種施設を単体で別個に独立した形で整備するのではなく,地域の中でお互いに連携して活動を行うことを前提にして,施設の配置計画を考えたり,それぞれの施設の機能を分担し,相互利用することや一体的に整備するなど,地域の生涯学習のための町づくりの中で総合的,体系的な観点から整備を図っていくことが重要である。  
  その中で,学校施設は常に中核的な役割が期待されると同時に,そのように考えることにより学校における教育活動の様々な広がりが可能となるものであることから,各市町村において中学校区など適切な単位で,総合的な学習環境の整備を考えていくことも有効な方法であると考える。  
   
  (2)  学校施設の複合化の推進  
(「1+1=3!」)
  以上の視点をもう一歩進めて,学校施設と他の文教施設,さらには福祉施設や公園等を複合化して整備することはもっと積極的に取り組まれるべきと考える。  
  中学校と高齢者施設や保育所との複合施設の例では,生徒と高齢者や乳幼児との間でいろいろな交流活動が生まれている。 
  イギリスやカナダの学校の中には,学校施設が民間施設も含めた大きな複合施設の中に共存し,地域の中核的な存在となっている例もある。 
  もちろん,小・中学校と盲・聾・養護学校・幼稚園や高等学校など異なる種類の学校間の連携はもっと進めていく必要がある。 
  都心部や過疎地域等それぞれの地域の特性に応じて多様な学校施設の複合化はもっと推進されてよいと考える。 
   
(3)  特色を持たせた学校施設の重点的整備  
(お互いの学校施設を使い合う)
  これまでの学校は,普通教室,特別教室,体育館,運動場,プールなどの必要施設を個々の学校に,それぞれ標準的な仕様で画一的に整備するのが常であった。しかしながら,今後は各学校独自の教育活動を充実させることや地域全体で学習環境を整備していく観点から,各学校において,学校施設としての一定の水準を確保した上で,それぞれの立地条件や地域特性を生かした特色ある機能を持った施設(例えば,ある学校は芸術活動に力をいれるため,音楽ホールや小劇場,隣の学校では科学学習を重視し,科学学習館やニューメディアセンターを設置するなど)を既存施設の有効活用の観点を踏まえつつ重点的に整備し,それらを近隣の学校間で相互共同利用し,さらには,地域住民に積極的に開放するということも考慮していく必要がある。  
   
(4)  情報通信メディアで世界とつながる  
(教室の中に世界がある)
  情報化の進展には目覚ましいものがあり,今後,学校においては,コンピュータ教室以外の各教室や管理諸室へのコンピュータの導入や校内ネットワークの構築,インターネットや衛星通信等の情報手段の導入も行われ,学校施設全体が情報通信社会に対応可能なものとなることが望まれる。  
  情報通信ネットワークの活用は,一つの学校の枠を越えて様々な学校や地域,さらにはその範囲は国内にとどまらず一挙に世界に広がることを可能とするものであり,子ども達に新鮮で豊富な教材を提供する上で,また,子ども達の学習の対象を広げ興味や関心を高める上でその効果は大きいものがある。また,保護者や地域住民に対して情報通信ネットワークを活用して情報の発信・交換を行うことは,学校が地域住民の参画を求めることに大きく役立つものであり,地域コミュニティに溶け込んでいく上での有効な手段となるであろう。  
  学校施設の情報化への対応の現状は,高度情報通信社会への対応という点では必ずしも十分とは思われないことから,各種情報機器の導入や情報通信ネットワークの構築には今後とも積極的に取り組んでいく必要がある。  
   
4.「100年」先まで愛される学校施設
   
(1)  基本構想から基本設計へ至る計画プロセスの重視  
(関係者の思いを込めた施設づくり)
  近年整備された学校施設の中には,新しい学校改革の試みに対応した学習空間をつくり出したり,地域コミュニティとの一体化等を図るなどの大変優れた施設づくりが多く見られるようになってきたが,これらは例外なく,その施設計画の段階から,学校教育や学校建築に係る学識経験者も加えた関係者による施設整備のための検討委員会等の組織を設け,充分な施設計画の検討の上で,設計,整備を行っているものである。  
  公立学校施設が置かれている現在の状況は,かつての児童生徒急増期のように翌年度の児童生徒を収容するため取り急ぎ整備せざるを得なかった状況とは異なり,それぞれの学校施設の整備計画を十分な時間的余裕を持って策定することが可能である。  
  従って,今後の学校施設の改築に際しては,基本構想から基本設計に至る段階において,学校教育や学校建築に係る学識経験者や地域住民,青少年関係団体等の参加を求め,教育委員会,建設部局,教職員等の関係者間で当該学校の将来の学校像の検討も踏まえ,その計画目標や計画内容について十分検討することが重要である。  
  さらに,この計画プロセス段階においても,単に建物だけにとどまらず,その中に置く家具等の備品や後々の維持管理についても検討することが必要である。  
  学校施設を大切に末永く使おうとする気持ちを関係者が共有するためには「思いを込める」計画・設計プロセスを持つことが大切である。 
   
(2)  将来の状況変化に柔軟に対応できる施設  
(施設が自ら機能を生み出す)
  学校施設は一度建築されると最低数十年は使用されることとなる。 
  その間,教育内容・方法は建築当初と同じであることはありえず,特に社会の変化の激しい現代ではなおさらのことである。 
  また,学校を取り巻く諸制度も変わる可能性がある。 
  このような将来の様々な状況変化にも柔軟に弾力的に対応できるようにするためには,これまでのような学校施設の各機能を特定した施設計画を行うのではなく,間仕切りの変更や設備の増設が柔軟に行える配慮や機能を特定しない「曖昧な」空間を学校の中に用意しておくというような考え方も重要である。  
   
(3)  建築後の適切なメンテナンス  
(アフターケアも大切)
  せっかく,丹精こめて整備した学校施設も,その後の手入れの仕方次第で十分生かしきれないということもあり得る。建築後適切なメンテナンスを行わず放置し,15~20年経過してどうしようもなくなってから改修を行うというパターンが多く見受けられる。  
  整備した学校施設を良好な学習環境の下で維持していくためには,日常の適切な維持管理を含めた適時適切なメンテナンスが欠かせない。このためには,清掃,小規模修繕,設備機器類の点検等の日常的な維持修繕が必要なことは言うまでもないが,建物の防水,内外壁,建具,電気・機械設備等については,経年とともに劣化するものであり,その種類や機能的な重要度,点検作業の難易度に応じて更新時期を決定するなど,計画的な補修や改修,さらには大規模改造が必要である。  
  また,常に,明るく快適な状態を保つことが重要であり,こういった学校施設の維持管理のためのマニュアルづくりも必要である。 
「学校施設は生きている。また,若返る」 
  是非とも大切に使ってもらいたい。 
   
(4)  余裕教室を活用したリフレッシュ  
(余裕教室は夢のスペース)
  新しく改築する学校では,これまで述べてきたような新しい課題に対応した学校施設づくりが可能であるが,当面,施設整備の計画のない学校では,そのような施設づくりをすることはできない。それに対して,近年,全国的な児童生徒数の減少に応じて余裕教室を有する学校が増えている。  
  これまでも,各学校では余裕教室の活用を様々に図っているが,今後においては,これまで述べてきたような視点から,「施設の新しい資源」として余裕教室を活用することによって,既存の学校施設についても,改築することなく,新しい施設に生まれ変わらせることができる。    
  その際,個々の余裕教室の活用の検討ではなく,余裕教室を含めた学校施設全体の配置,機能を再検討するという視点を持つことが重要であり,それに基づき,新しいスペースの機能,性格に応じたふさわしい場にするために必要な改修・改造を行い,学校施設をリフレッシュすることが必要である。  
  さらに,今後,総合的な学習の時間の新設や選択学習幅の拡大等に伴い,小グループによる学習やティームティーチング等の多様な教育活動を展開し,子ども達一人一人の個性を生かし,「生きる力」をはぐくむことが重要となるという観点から見た場合,これまでの「1クラス=1普通教室」を前提とした余裕教室のとらえ方や整備基準自体の検討も必要ではないだろうか。  
  また,このような施設整備に至らない場合でも,もっと気軽に余裕教室を活用することも考えられる。机やイスを置くだけでも保護者や地域住民が自由に談笑できる「保護者のたまり場」「地域住民と触れ合う場」にできる。それだけでもずいぶん学校のイメージは変わる。カーペットを敷くだけで子ども達には今までなかった「夢」のスペースになるかもしれない。  
  各学校の知恵の見せどころでもある。 
   
5.学校施設開放の際の管理運営の在り方
   
(1)  学校施設開放は教育委員会の責任で  
(安心できる学校開放)
  学校が,学校施設の開放に消極的になる傾向がある理由のひとつに,開放時の施設の管理や事業の運営について,学校の教職員に過度の負担がかかるのではないかということがある。  
  教育財産である学校施設は,教育委員会が管理するものであるが,通常は,当該学校の校長に委任されている。 
  学校施設を学校教育に支障のない範囲において地域住民に開放する事業は,学校長に委任された学校施設の管理の範囲内なのかどうかは一般的には必ずしも明確ではないが,少なくとも,学校の教職員の勤務時間外である日曜日等に学校がその事業の主催者の一員として行うものでなければ,学校にその管理責任を負わせることは適当ではないといえるのではないか。  
  そのような学校開放の場合には,教育委員会規則でその管理責任は学校長が負わず,管理運営は教育委員会が行うことを明記している地方公共団体もある。(参考資料参照)  
  今後,土,日等学校の休業日や放課後等に,学校施設の地域住民への開放を一層積極的に展開していくためには,このような開放時の管理運営の責任は教育委員会にあることを明確にすることが適当であると考える。  
  その際,教育委員会においては,当該開放事業の実施に当たって,学校の施設の管理,利用者の安全確保,さらには,開放事業に関するアドバイス等に当たる管理員や指導員を配置することが望まれる。  
  また,このような学校開放を円滑に進めるための一手法として,機械警備システムを導入し,学校施設の開放部分と他の部分と独立して処理できるように配慮しておくことも考えられる。  
   
  (2)  利用者の立場に立った管理運営  
(喜ばれる学校開放)
  学校施設を地域住民に開放しても,学校側の制約等から使い勝手が悪いなど住民から不満の声を聞くこともある。 
  せっかく大事な学校施設を開放しているのであるから,できるだけ利用者の使いやすいニーズにあった開放にしたい。このためには,開放時の事業運営や施設管理の在り方について,地域住民の声を積極的に取り入れるための体制づくりを各教育委員会が主体となって行うことが必要である。  
  また,それぞれの学校開放の管理運営に住民利用者の参画を求めることも重要であると考える。このため,学校開放の実施に当たっては,利用団体も加えた学校開放委員会等を設置することや利用団体同士の調整会議を開催すること,学校開放に当たって地域住民のボランティアを募ることや,さらには,地域の住民団体に管理運営自体を委託することも今後考慮する必要があると考える。  
   
(3)  利用者の利用責任・モラルの向上  
(地域住民が育てる学校開放)
  以上のような教育委員会側の,学校施設を地域住民のためにもっと身近に感じられ,自由に使用できるものとする努力とともに,学校施設を利用する住民側においても,利用責任のルール化を行うなど自らの責任を明確化するとともに,利用上のマナーの向上を図ることが不可欠である。  
  学校は地域住民のものという観点からは,学校開放は地域住民の組織が自らの責任の下,自主的に管理運営するという事例があってもいいと考える。 
  また,特に今後,校舎等を積極的に開放していくためには,当該施設設備を利用する際の光熱水費や設備費等の料金を徴収するなど利用者の費用負担について考慮する必要があると考える。  
   
(4)  学校施設を活用した生涯学習のための多様な事業実施  
(「待っている」だけでなく「惹きつける」)
  学校施設の開放は,これまで単に地域住民のための活動の場を提供するといった受身的な傾向にあったが,今後は,学校が生涯学習,地域コミュニティの拠点となっていく考えのもとに,教育委員会や地域住民団体などが主体となり,学校施設を活用して地域住民対象の様々な生涯学習のための事業を実施してもらいたい。  
  特に,学校週5日制の下,子ども達が休業日でも学校に来たくなるような,魅力的で楽しいプログラムを青少年団体と協力して子ども達に提供していくことも重要である。  

IV  公立学校施設整備のこれからの課題
   
1.中長期的な観点からの計画的整備の必要性
  公立学校施設の今後の状況は,これまでも述べてきたとおり,昭和40年代から50年代の児童生徒急増期に整備された校舎等が大量にあり,これらが集中的に改築の時期を迎えることとなる。  
  国庫補助を前提として進められる,公立小中学校の施設整備については,現在の厳しい国の財政状況の下では,急増期のような年々の国庫補助予算の飛躍的な増は困難であるといわざるをえない。  
  このような状況の中で,今後,大量の学校施設の改築事業を円滑に進めていくためには,各年度の事業量をできるだけ平準化する必要があり,そのためには,今から,中長期的な整備の見通しを持って,大規模改造事業や地震補強事業も活用しつつ,計画的に整備していくことが不可欠である。  
  このため,文部省が中心となり,各都道府県・市町村と協力して,これからの改築事業を中心とする公立学校施設整備について中長期的な観点の整備計画を持って進めていくことが必要である。  
  また,それぞれの市町村においても,今後の学校施設の改築・改造の計画を早急に検討していく必要があるが,特に,多くの学校施設を抱える大規模な都市については,検討のための委員会を設け,計画を作っていくことも望まれる。  
  さらに,そのような計画の下で,改築を行う各学校にあっては,各施設に老朽化の進展の差がある場合でも,一つ一つの施設ごとに改築を行うのではなく,計画性を持って学校全体の施設計画を白紙の段階から検討し,全体計画を持って改築を進めていくべきである。  
   
2.優れた学校施設づくりへの積極的支援と情報共有化
  今後の公立学校施設整備では,計画的整備を進めていく中で,各学校の将来構想の検討を踏まえるとともに,地域における他の施設との連携等も考慮し,それぞれの学校の個性を生かした,後世に残り,誇れる学校施設づくりが行われることが望まれる。  
  このような観点から,今後の公立学校施設整備助成に当たっては,全国の義務教育水準の確保を最大限に考慮しながら,各学校の個性・特色を生かした学校施設づくりに対して,計画づくりも含めて,積極的に助成していくことも必要であると考える。  
  必要な事業量の確保とともに,このような観点での助成制度の充実を望みたい。 
  それとともに,優れた学校施設づくりを行う先進校や先進自治体の事例について,その目標やプロセス,そして,アイディア,苦労したことや反省点も含めて全国の地方自治体が参考にできるよう,共有財産化することが必要である。  
  現在においても,(社)文教施設協会において,優良学校施設の表彰が行われているが,今後は,整備されたハードとしての学校施設の顕彰のみではなく,基本構想から施設設計に至る計画プロセスや,建築後のメンテナンス,さらには,優れた学校施設づくりや地域の学習環境の整備に一貫して意欲的に取り組んでいる地方公共団体自身についても表彰するなどその制度の拡充が望まれる。  
  さらに,そのような先進事例のノウハウを情報として収集,データベース化し,整備を計画している学校や地方公共団体に提供していくような情報システムを確立することも必要である。  
   
3.他省庁の施設整備事業との連携
  地域社会においては,教育委員会所管の文教施設以外にも様々な公共施設が整備されており,住民の生涯学習活動にも広く活用されている。 
  今後,学校が教育活動をより幅広く展開していくためには,これらの公共施設ともっと積極的に連携・協力していくことが必要と考える。 
  このため,学校と社会教育施設や文化・スポーツ施設,研究施設,福祉施設,公園等の公共施設との相互利用を前提とした施設配置や施設計画,さらには複合化がより積極的に推進され,連携事業も活発に行われることが望まれる。  
  現在,文部省では,余裕教室の転用については厚生省と,エコスクールのパイロット・モデル事業については通産省とそれぞれ協力し推進しているところであるが,今後は,以上のような観点から,市町村が学校施設整備やその他の公共施設整備を一体的に整備する場合に,よりスムーズに進めることができるよう,各施設整備事業の連携をより図るなど,文部省が中心となり,施設整備の関係省庁間の連携が一層図られることも望みたい。  
    

   
    

学校週5日制時代の公立学校施設に関する調査研究協力者

(敬称略,50音順) 
   
   
                氏        名                  現        職 
   
          明    石    要    一      千葉大学教育学部教授 
          天    笠        茂         千葉大学教育学部教授 
          稲    田    孝    司      東京都教育庁施設計画課長 
          稲    田    百    合      東京都小平市立小平第六小学校長 
          上    野        淳         東京都立大学大学院工学研究科教授 
          遠    藤        洋         神奈川県綾瀬市教育委員会教育長 
          加    藤    幸    次      上智大学文学部教授 
          小    池    誠    一      埼玉県浦和市立南浦和中学校長 
          澤    野    由紀子       国立教育研究所生涯学習研究部主任研究官 
          篠    塚        脩         都城工業高等専門学校名誉教授 
          杉    原        正        (財)ボーイスカウト日本連盟総コミッショナー 
          鈴    木    敏    恵     (株)横浜建築研究所教育システム部長 
          高    松        伸         京都大学工学部教授 
          谷    口    汎    邦      武蔵工業大学工学部教授 
(主査)長    倉    康    彦      共立女子大学教授 
          長    澤        悟         東洋大学工学部教授 
          長谷部     亮    平     (社)日本青年会議所副会頭 
          松    井    石    根     (社)日本PTA全国協議会長 
          山    谷    えり子       (株)サンケイリビング新聞編集長 
   
      オブザーバー 
        (社)文教施設協会 
   
   
   
   
    

    

「私にとっての夢の学校」(調査研究協力者からの一言)

   
   
明石  要一(千葉大学教育学部教授) 
  まず子どもたちが教師と教室を自由に選べる学校を用意する。そして学校も自由に選択できる。月曜から水曜日までは○○学校に行き,木,金曜日は□□学校に通うことができる。そして子どもが住む地域社会は,次のような歩いていける三つのゾーンが用意されている。遊びゾーン,生活体験ゾーン,学びゾーンである。学校はこの学びゾーンの中にある。したがって,21世紀の学校のキーワードは「体験」と「選択」となる。  
   
天笠  茂(千葉大学教育学部教授) 
  それぞれが将来への思いをはせつつ,共に夢を語り合う学校が生まれてくることを願っている。他の国と比較して,将来よりも現在に視線を向ける中・高校生が多いという調査もある。未来への視線に欠ける若者の存在は寂しい気がする。将来を豊かにイメージする力を育てる働きかけに不足するところはなかったか。ひとりひとりの時間的視野を先の未来にまで広げる環境が準備された学校こそ21世紀の学校といえるのではないだろうか。  
   
稲田  孝司(東京都教育庁施設計画課長) 
  学校施設を担当する立場から見た夢の学校は,まず第一に子供たちが,一人一人の個性と,その能力を生かし自ら生き生きと学ぶ環境があること,第二に地域の生涯学習や街づくりの拠点として,住民が学習できる環境が整っているとともに,社会教育施設,福祉施設,地域防災施設等の様々な社会的要請に活用されること,第三に子供たちが一日の大半を過ごす生活空間として,より良い人間関係の交わりのために「ゆとり」と「うるおい」をもった,快適で文化性のある施設であることと思う。このように学校が新しく生まれ変わるように実現に努めたい。  
   
稲田  百合(東京都小平市立小平第六小学校長) 
  子どもたちは教室を飛び出し,営々とはぐくまれてきた地域の文化・歴史から生きる英知を学ぶ。かけがえのない自然は,子どもたちの感性を磨く。情報通信は子どもの目を世界に広げる。  
  21世紀に生きる子どもから発信する学校の文化が地域に受けとめられ,生かされる。地域の風がいきかう学校に様々な人々の笑顔がはじけ,明るい未来が見えてくる。子どもが自立していく姿は学校の宝であり,地域の宝である。  
   
上野  淳(東京都立大学大学院工学研究科教授) 
  イギリスのコミュニティー・コンプリヘンシブスクール(統合制中等学校)を訪れた時のこと。一角にとても素敵なパブがあったことが想いかえされる。学校の先生方にカレッジでの勉強を終えた生涯学習の生徒たちが交じり,談論風発,和やかな雰囲気であったし,地域の教育にかかわる教師たちとコミュニティーの人々の自然な交流がそこにはあった。日本の学校にはパブは無理にしても,いつでも気軽に立ち寄れ,おいしいコーヒーくらいは楽しめるラウンジがあったら,学校開放での活動に通うのも楽しくなるだろうと思う。  
   
遠藤  洋(神奈川県綾瀬市教育委員会教育長) 
  よろこび,いきがい,やさしさの溢れる学校 
校地全体が草木と水に囲まれ,アスレチックスや自然観察,環境測定ができる。木立の中に世界各国の建築様式を取り入れた校舎がある。子どもの個性や人間関係を育成させる1学級分の宿泊施設を備え,衣食住に関する生活文化は宿泊体験を通じて学ぶ。学習棟は国際情報にアクセスできるオープンスペースを中心に各教科各分野の教室が放射状に並び,学習内容に合わせたAV機器の充実した専門教室とグループ学習・個人学習室を備えている。これらが地域住民,高齢者に活用されコミュニティの拠点にもなる。  
   
加藤  幸次(上智大学文学部教授) 
  学校は外と内に向かって“開かれた”ものとなるべきでしょう。地域社会の人々や文化が学校の中に直接入り込み,子どもたちも地域社会を生活と学習の場として活用していくでしょう。したがって,こうした交流を保証する施設を充実させていくべきでしょう。他方,学級と学級,学年と学年も互いに開かれた存在として有機的に機能していくべきでしょう。オープンスペースは広く,明るく,さらに充実したものとなるべきでしょう。  
   
小池  誠一(浦和市立南浦和中学校長) 
  学校全体が,うっそうとした緑に囲まれた中,「おはようございます。」という声と共に,生徒が笑顔で登校する。 
  午前中の授業を終えると,ゆったりしたランチルームで,複数のメニューから選んだ昼食を取る生徒もいれば,手作り弁当をひろげる生徒もいる。  
  放課後になると,学校中に部活動の声や音がこだまし,一方では充実したいくつもの相談室で教師に思いのたけを語り,あるいは図書館,談話室で生き生き活動する生徒の姿が多く見られる,そんな学校でありたい。  
   
澤野  由紀子(国立教育研究所生涯学習研究部主任研究官) 
  学びを通して未知の世界が拓け,友だちや学校外の人々との交流が広がるとき,誰もがわくわくするような気持ちを体験したことがあるはずです。学校は,地域の人々も一体となって,子どもたちのそのような感動と成長を大切にし,地域を教材にしたプロジェクト型学習などを通してともに教え学び合う生涯学習の出発点であってほしいと思います。そのためには,子どもにも大人にも適度な緊張感があって居心地のいい,機能的で美しい空間づくりが必要でしょう。また,子どもがゆったりと思考することのできる静かな空間も確保してあげたいものです。  
   
篠塚  脩(都城工業高等専門学校名誉教授) 
  少子化高齢化が進行する現代にあって,学校施設は本来の教育機能以外,さまざまな社会的な要請が寄せられている。しかしながら学校だけではこれらの実現は困難であり,学習環境の障害にもなりかねない。関東大震災の復興事業においては,学校施設は鉄筋コンクリート造とし,プールを設け,児童公園を併設している。学校を新設する場合,できるならば都市公園に併わせ建築し,外部環境の管理は公園が担当すれば,緑豊かな多機能な学校が誕生しよう。  
   
杉原  正((財)ボーイスカウト日本連盟総コミッショナー) 
  光と水,樹木と土に囲まれた学び舎,その中で知育,徳育,体育のバランスのとれたカリキュラムで学習が展開される学校。知育に片寄る事がなく“ゆとり”の中で五感を通しての学びも多彩に行われ,体験学習も豊富にあってほしい。  
  クラスは20人,午前は基礎学力を中心に,午後は教室の内外での体験的な学びを,そして放課後は地域の方々との交流の中での遊びや学びの場となる施設を整えた魅力のある学校であってほしい。  
   
鈴木  敏恵(千葉大学教育学部講師) 
  「未来」とは,単に時が過ぎ,訪れる明日を指さない。未来とは,意志を持ち明日に立ち向かう人だけが持つもの。学校は,その未来を子ども達にプレゼントする所だ。そこに「コミュニティ」と「情報テクノロジー」は,新鮮な風となり子ども達に未知なる“知と感”をプレゼントしてくれるだろう。もっと魅力的な楽しい学校に,と願う人々の心に火を付け,ネットワークで夢を共有させるマルチメディアこそ,教育革命の起爆剤だ。勇気を持って日本の,いいえ世界中の「知の創造空間…学校」が,夢あふれた明日を迎えますように。人間の感性に応え生きる喜び伝えるところになりますように…。  
未来は,きっとここから花開く…LOVE 
   
高松  伸(京都大学工学部教授) 
  島根県の「みすみ」という美しい名の小さな町の高台に,小さな建築を設計したことがあります。冬は,赤茶けた造成地を,これでもかと切り刻む北西の季節風。夏は山陰特有の裸の陽ざしから身を守るものとて無く,眼前には日本海がただただ灰色の沈黙。たったひとつのことを思いつめていたように思います。それはこのなにも無さをそっくりそのまま建築として建ち上げること。風と陽と海にとっぷりと染まり,無いということの豊かさをこそたっぷりと夢見る空間を建ち上げること。小さな小学校が完成して2年。校庭の片隅から鴨が巣立ちました。「夢の学校」,それは見果てぬ夢を夢見る空間のことです。  
   
谷口  汎邦(武蔵工業大学教授) 
  地域の小中学校がそれぞれ特色あるカリキュラムをもち,そのための施設が準備され,全体がシステム化され児童生徒の興味関心に応える高水準の学習環境を整備したいものです。学びたいときいつでも利用できる施設をもつ学校,例えば,理科の好きな子ども達のための魅力的な理科学習室を持つ学校,音楽の個人練習がいつでもできる学校,家族で利用できる体育室をもつ学校などです。そこでは,地域の人々がこども達の学習を支援します。自由通学区制や中高一貫制の課題を視野に含め,地域社会全体を学習ネットワークとして機能させたいものです。  
   
長倉  康彦(共立女子大学教授) 
  使っていない時,学校の施設を地域に開放する「施設開放」は30年前の夢の話でした。一人一人の子供達の学習と生活が多様に展開できる多目的でオープンな学校計画を願ったのは20年前でしたが,今では学校建築の骨格になっています。この願いは,一人一人の学習者の生涯に亘る学習対応に発展し,「開かれた学校」づくりはこの10年で学校建築に定着してきました。そして今,私は,地域の高齢者や子供達が,日常的に連携し交流し,みんなの学習に利活用し,行事や災害の時には大いに役立つ「コミュニティ中心」に変身していく学校を夢見ています。  
   
長澤  悟(東洋大学工学部教授) 
  私の夢の学校は,子ども達の夢の育つ学校,そのために教師の夢も育つ学校,そして地域の夢が育つ学校だ。子ども達一人一人の学び・心・体の違いに応え,それぞれに生きるリズムを刻むことのできる場,子ども達を前にした教師に多様な発想を可能にし,支える柔軟な空間,地域の人々が子どもの将来に夢を馳せ,自ら生きがいをつくり出せる開かれた施設となることだ。そして大切なのは,皆で夢を語り合う場を通してこれらが実現されることだ。  
   
長谷部  亮平((社)日本青年会議所副会頭) 
  学校に森があったらいい。 
  森の芽吹きは生命の息吹を感じさせ,夏は木陰を作ります。秋は実りの季節。落ち葉を拾い集めての観察会も楽しいものです。子供たちは森の中で様々な体験をすることでしょう。花壇も森を切り開いて自分たちで創ります。設計は子供たちが意見を出し合い,作業も自分たちの手でします。格好は少し悪いかもしれませんが,子供たちの心を育む。それが私の夢の学校です。  
   
松井  石根((社)日本PTA全国協議会長) 
  21世紀は地球規模や宇宙規模での学習が展開される時代です。宇宙という大きな場の中で,人間は地球を中心にあらゆる生物や自然とたすけあい,共生する時代です。学校はあらゆるコミュニケーションを利用し,世界のこと,地球のこと,宇宙のことなど学校内外から学ぶ場となります。バーチャルな学習の場が多く提供されるでしょうが,それと並行して人間や自然とのふれあいを通じた実体験の場も提供できる学校であればいいなと思います。  
   
山谷  えり子(サンケイリビング新聞編集長) 
  子どもたちの居場所がなくなり,異世代交流の場がなくなっていく社会で,学校はほっと出来たり,地域コミュニティの拠点としての空間作りも期待されている。具体的には放課後にくつろげる畳や床暖房のある一隅,カフェテラスのような空間がほしい。生徒だけでなく,高齢者や幼児も使用可能ならばなお良い。五感を刺激する香りのいい花や樹々が四季折々に人を包み,時には一人で思いをめぐらすことの出来る静謐な空間も欲しい。  
   
    
学校に携わる皆さん。是非,「私の夢の学校」を語り合ってください。