特殊教育の改善・充実について(特殊教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議・第一次報告)

平成9年1月24日
特殊教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議

 (  要旨は「文部省ニュース」に掲載しています。  )



  障害のある幼児児童生徒(以下「児童生徒等」という。)については,その障害の種類や程度等に応じて,特別な配慮のもとに,手厚く,きめ細かな教育を行い,一人一人の可能性を最大限に伸ばし,社会参加・自立を実現していく必要がある。
  このため,盲学校,聾学校及び養護学校(以下「盲・聾・養護学校」という。),小学校及び中学校の特殊学級や通級による指導においては,個々の児童生徒の障害の状態や発達段階,特性等を考慮し,小人数による学級編制,手厚い教職員配置,障害に配慮した教育課程編成など,様々な工夫と配慮のもとに〔生きる力〕をはぐくみ,社会参加・自立に必要な力を培う指導が展開されている。
  特に,近年,児童生徒等の障害の重度・重複化,多様化が一層進んでいる状況にあり,これまで以上に一人一人に応じた教育を進めることが強く求められている。
  また,先般の中央教育審議会第一次答申(平成8年7月)では,盲・聾・養護学校の高等部の拡充整備と訪問教育の実施,職業教育や進路指導体制の改善・充実,早期教育相談体制の充実や盲・聾・養護学校の幼稚部の整備促進,交流教育の一層の充実,教員の専門性や指導力の一層の向上などが課題として取り上げられ,これらについての検討の必要性が提言されているところである。
  本協力者会議では,今後の特殊教育の改善・充実に資するため,幅広い観点から検討を行ってきたが,このたび,早急な対応が求められている,盲・聾・養護学校の高等部の拡充整備と訪問教育の実施,交流教育の充実及び早期からの教育相談の充実について,第一次報告として取りまとめた。
  今後,本協力者会議では,他の課題についても,引き続き検討を進めることとしている。



【1】  盲学校,聾学校及び養護学校における高等部の拡充整備と訪問教育の実施について

  盲・聾・養護学校の高等部教育の改善・充実に関しては,中央教育審議会第一次答申において,様々な課題が提言されている。近年は,盲・聾・養護学校の高等部へ進学する障害が重度又は重複している生徒が,養護学校を中心として増加する傾向にあることから,ここでは,特に,高等部の拡充整備と訪問教育の実施に関する課題を取り上げ,その在り方についての考えを述べる。


1  高等部教育の現状

(1)  高等部の現状
  高等部教育は,生徒の障害の種類や程度等に応じて高等学校に準ずる教育を行い,併せて障害に基づく種々の困難を克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養うことによって,生徒一人一人の生きる力をはぐくみ,積極的な社会参加・自立の達成を図る上で,重要な役割を果たしている。
  盲・聾・養護学校の高等部を設置している学校数(在籍者数)は,平成8年5月1日現在,盲学校が61校(2,865名) ,聾学校が70校(2,033名),精神薄弱養護学校が389校(24,100名),肢体不自由養護学校が141校(5,570名),病弱養護学校が40校(959名)である。

(2)  中学部等卒業者の高等部への進学状況
  盲・聾・養護学校中学部卒業者の進路状況をみると,高等部への進学者の割合が年々増加しており,平成8年3月卒業者の進学率は,盲学校においては 97.4%,聾学校においては94.7%,養護学校においては78.0%となっている。特に,養護学校においては,昭和55年3月には52.7%であったものが,平成8年3月にはその約1.5倍となっている。
  また,中学校特殊学級卒業者の高等部への進学者の割合も年々上昇しており,平成8年3月卒業者では,53.2%にまで増加している。

(3)  高等部の整備
    1.  高等部の整備状況
  高等部については,小学部・中学部(以下「小・中学部」という。)の義務制の施行時期が学校種別によって異なっていることから,盲学校や聾学校と養護学校の高等部の整備状況には違いがみられる。すなわち,盲学校や聾学校については,昭和31年度に義務制が完成し,かなり以前から高等部の整備が進められてきたが,養護学校については,昭和54年度に義務制が施行されたこともあり,近年になってから高等部の整備が本格的に進められてきたという状況にある。
  養護学校全体における高等部の設置状況は,昭和55年度には55.4%であったものが,平成8年度には71.5%にまで増加しており,近年,養護学校における高等部の整備が進んできている。しかし,その設置状況は,学校種別によって異なっており,精神薄弱養護学校では76.1%,肢体不自由養護学校では73.8%,病弱養護学校では42.1%となっている。
  また,各都道府県等における養護学校高等部の設置状況についても,すべての養護学校に高等部が設置されている地域もあれば,全体の半数にも満たない地域もみられるなど,地域によって差異がみられる。
    2.  重複障害学級の設置状況
  近年,盲・聾・養護学校の高等部への進学者の増加に伴い,高等部における重複障害の生徒が増加しており,こうした傾向は,特に養護学校において顕著になっている。
  昭和55年度と平成8年度における高等部の全学級に占める重複障害学級の割合をみると,盲学校では6.9%から13.4%へ,聾学校では6.6%から12.3%へ,養護学校では19.2%から40.4%へと増加している。しかしながら,重複障害の生徒に対する適切な教育を行うために必要な重複障害学級の設置は,地域によっては必ずしも十分ではない状況にある。


2  高等部の拡充整備
  養護学校高等部の生徒の多くは,卒業後,ただちに社会に出て様々な生活を送っている。すなわち,これらの生徒にとっては,高等部での教育が学校教育の最終段階となっており,高等部は,卒業後の社会生活に必要な力を培う大切な教育の場となっている。したがって,今後は,生徒の[生きる力]をはぐくむという観点に立って,積極的に社会参加・自立を促す高等部教育を一層推進していく必要がある。

(1)  高等部の整備促進
  このような高等部教育の重要性を踏まえ,各都道府県等においては,養護学校を中心として,今後高等部の整備を一層促進していく必要がある。特に,高等部の整備が進んでいない地域においては,高等部の整備計画を早急に策定し,あるいは見直しを行うなど計画的な整備を進めることができるようにしていくことが望まれる。
  高等部の整備に当たっては,生徒がより身近な地域で教育を受けることができるよう,できる限り適正配置に努めることが必要である。その際には,児童福祉施設や医療機関に入所している生徒が,本校まで通学しなくても高等部教育を受けることができる学習環境を整えていくことも大切なことである。このため,対象となる生徒数,児童福祉施設や医療機関の状況等を踏まえ,分校や分教室の整備の促進を図るなど,地域の実態に応じた高等部の整備の在り方についても検討する必要がある。

(2)  重複障害学級の設置促進
  現在,設置されている盲・聾・養護学校の高等部の中には,重複障害の生徒が在籍しているにもかかわらず,重複障害学級が十分には設置されていない地域も見受けられる。
  近年の医学の進歩等に伴い,高等部においては,今後,重複障害の生徒が一層増加し,障害の重度・重複化,多様化が進んでいくものと見込まれる。
  このため,盲・聾・養護学校の高等部においては,重複障害の生徒の実態に応じた適切な教育を行う必要があることからも,生徒数に見あった適切な重複障害学級の設置を促進していく必要がある。


3  高等部における訪問教育の実施

(1)  実施の必要性
  高等部の段階は,生徒が思春期から青年期へ移行する発達段階にあり,社会生活に必要な基礎的・基本的事項を身に付ける重要な時期に当たる。特に重複障害の生徒にとって,中学部卒業後も継続して高等部教育を行うことは,義務教育段階で培われてきた社会参加・自立に必要な種々の知識・技能・態度及び習慣の定着を図る上で大きな意義があると考える。
  近年,養護学校を中心として高等部への進学率が急速に高まっており,各都道府県等における高等部の整備及びその重複障害学級の設置も進んできていることから,高等部進学希望者の受け入れ体制は一層充実していくものと推測される。しかし,このような高等部の施設等の拡充整備が図られたとしても,学校へ通学して教育を受けることが困難な生徒にとっては,適切な高等部教育を受ける機会が失われたままになる。
  このようなことから,学校へ通学して教育を受けることが困難な生徒に対して高等部教育を行うため,小・中学部と同様,高等部における訪問教育を実施していく必要があると考える。

(2)  経緯と課題
  現在,高等部では訪問教育が制度的に実施されていない。その理由としては,高等部は義務教育ではないこと,養護学校を中心として高等部自体の早急な整備を進める必要があったこと,このため盲学校,聾学校及び養護学校高等部学習指導要領(以下「高等部学習指導要領」という。)に訪問教育に関する規定が示されていなかったことなどが挙げられる。
  しかしながら,近年,養護学校中学部卒業者の大半が高等部へ進学する状況にあること,また,地域によって差異はあるものの,全国的にみると,各都道府県等の努力により,養護学校の高等部が一定程度充足してきている状況にあることなどから,現時点において,高等部における訪問教育を実施できる環境は整いつつあるものと考える。
  したがって,前述したように,今後とも,各都道府県等において,高等部の整備を計画的に進めていくべきことはもとより,これと併行して,通学して教育を受けることが困難な生徒を対象に,高等部における訪問教育の実施体制を整えていくことが必要である。


4  高等部における訪問教育の試行的実施
  このように,現時点では,総体的にみれば,高等部における訪問教育を実施する環境は整いつつあり,通学して教育を受けることが困難な生徒の進学希望に一日も早くこたえ,また,本格的実施に向けた実施体制を整えていくためにも,当面,現行制度の枠内において,都道府県等が,高等部における訪問教育を試行的に実施できるようにすることが適当と考える。

(1)  試行的実施の意義
  高等部における訪問教育の試行的実施は,高等部への進学を希望しながらも,障害が重度又は重複しているために,通学して教育を受けることが困難な生徒の期待にこたえ,小・中学部から継続する適切な教育を受けることのできる機会が設けられることとなる。
  また,試行的実施を通じ,訪問教育の本格的実施に向けて,教育課程の在り方をはじめとする様々な課題の整理・検討を行うなど,今後必要な実施体制を整えていくことにも資することになると考える。

(2)  試行的実施の方法等
  以上のような訪問教育の試行的実施の意義を踏まえ,また,これまでの小・中学部における訪問教育の実施状況を参考にしつつ,高等部における訪問教育の試行的実施の方法等については,次のように考える。
    1.  基本的な性格
  訪問教育は,小・中学部の場合と同様,学校教育法第71条に基づく盲・聾・養護学校における教育の一形態として実施するものとする。
  対象とする生徒には,これらの学校の学籍を付与し,当該学校の教員が,家庭や児童福祉施設,医療機関等を訪問して教育を行うこととする。
    2.  対象者
  訪問教育の対象は,現在,中学部において訪問教育を受けていて引き続きこの教育を必要とする者,及び中学部に在籍している生徒のうち,障害の重度・重複化により通学が困難になりこの教育が必要になると見込まれる者が考えられる。
    3.  教育課程
・  盲・聾・養護学校の教員による家庭や児童福祉施設,医療機関等への訪問教育は,学校教育法施行規則第73条の12の第1項の規定により行うものとする。
・  教育課程については,高等部学習指導要領によることとし,重複障害者のうち学習が著しく困難な生徒に関する特例を適用し,養護・訓練を主とした指導等を行うものとする。なお,生徒の実態に応じ,通信による教育や適切な教材・教具の活用などにより,効果的な学習が行われるよう工夫することが必要である。
・  訪問教育の授業は,年間35週以上にわたって行うように計画するものとし,生徒の障害の状態や学習負担等を考慮し,週当たりの授業時数は,6単位時間(週3回,1回2単位時間)程度を標準として,実情に応じた授業時数を定めるものとする。
・  指導に当たっては,例えば,同学年の生徒による集団での学習への参加を意図したスクーリングについても,必要に応じて実施できるよう工夫するものとする。
    4.  教員
  訪問教育は,その対象となる生徒の在籍する学校に所属する教員が担当するものとする。
  また,訪問教育を行うに当たっては,所要の教員配置を行うことが必要である。

(3)  試行の実施時期
  高等部における訪問教育の試行的実施は,平成9年4月にも実施できるようにすることが適当である。このため,国及び試行を実施する都道府県等にあっては,所要の措置を整える必要がある。

(4)  実施上の配慮事項
    1.  教職員の協力体制
  訪問教育は,指導の場が学校外の場合が多いため,担当教員のみに任せがちになることが多いが,各学校においては,学校全体の指導体制に適切に位置づけて担当教員を支え,全教職員の協力のもとに効果的な指導が展開できるように十分工夫することが大切である。
  なお,必要に応じて,特別非常勤講師やボランティアの協力を得ることも考えられる。
    2.  関係機関との連携協力等
  訪問教育は,小・中学部の場合と同様に,家庭や児童福祉施設,医療機関等において行われるものと予測される。訪問教育を行うに当たっては,プライバシーの保護に十分留意するとともに,特に,児童福祉施設や医療機関における指導の場合には,関係機関の協力を得ながら,必要となる指導の場を確保することが望まれる。
  なお,児童福祉施設や医療機関については,多様な職種の職員が,それぞれ専門の立場から生徒にかかわっている。このため,訪問教育の試行的実施に当たっては,これらの関係者との連携を密接に図り,共通理解のもとに効果的な指導が展開できるよう,十分な工夫と配慮を行うことが極めて重要である。
  さらに,入退院を繰り返す生徒については,関係機関との連携を十分に図り,家庭から医療機関などへ生活の場が変わっても継続して教育を受けることができるように配慮することが必要である。


5  今後の課題

(1)  高等部の整備と重複障害学級の設置促進
  高等部の整備促進と重複障害学級の設置や訪問教育の実施に当たっては,国において,必要な教員の配置や財政措置,重複障害学級の施設・設備等の充実を図る必要がある。
  また,全国的な高等部の整備状況や重複障害学級の設置状況についての実情を把握するとともに,都道府県等にその情報を提供し,高等部教育の促進に資することが望まれる。

(2)  高等部学習指導要領等の整備
  現行の高等部学習指導要領には,訪問教育に関する規定は設けられていない。今後,高等部における訪問教育の本格的実施のため,高等部学習指導要領の改訂に際しては,今回の試行の成果も踏まえ,訪問教育に関する規定について検討する必要がある。
  また,現在,小・中学部において実施されている訪問教育については,盲学校,聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領に訪問教育に関する特例は示されているが,実際の運用については昭和53年7月に示された「訪問教育の概要(試案)」などにより行われている実情にある。このため,高等部における訪問教育の本格的実施に合わせて,小・中学部及び高等部における訪問教育の実施方法等について,一体的に明確にする必要がある。

(3)  指導方法等の開発
  訪問教育については,教育の場が通常の学校内の場合とは異なり,家庭,児童福祉施設,医療機関が中心であり,指導のための施設・設備が十分には整っていないこと,授業時数に制約があること,生徒の健康状態や学習負担を十分考慮した指導内容・方法を工夫しなければならないことなどの課題がある。このため,今回の試行的実施によって得られた成果をもとに,通信による教育やマルチメディアの活用も含め,効果的な教材・教具や指導方法の開発などについて検討する必要がある。

(4)  教員の配置等
  盲・聾・養護学校の在籍者については,今後,障害の重度・重複化,多様化の傾向が一層顕著になるものと予測され,一人一人の生徒の実態に応じた指導の充実が求められている。したがって,将来の高等部の教員配置の在り方についても合わせて,きめ細かな検討を行う必要がある。
  また,より効果的な指導を展開していくためにも,教員の研修の機会の充実を図ることが重要である。



【2】  交流教育の充実について

  交流教育は,障害のある児童生徒等のみならず,すべての児童生徒等や教員,地域社会の人々にとって極めて有意義な活動として,中央教育審議会第一次答申において,その一層の充実が提言されている。また,将来の完全学校週5日制の実施に向けた検討が進められている状況を踏まえ,青少年の学校外活動など社会教育の充実や,高齢化社会の進展に伴うボランティア教育の推進などが求められている。
  交流教育は,これらの基盤となる活動として,その多様な展開が望まれるところであり,ここでは,今後の一層の充実に向けた取組等についての考えを述べる。


1  交流教育の意義
  障害のある児童生徒等が可能な限り社会参加・自立していくためには,盲・聾・養護学校や特殊学級等において,障害の状態等に応じた適切な教育を行うとともに,児童生徒等の経験を広め,社会性を養い,好ましい人間関係を形成し,その能力と可能性を最大限に伸ばしていくことが重要である。
  また,障害のある児童生徒等が,地域社会の一員として豊かな生活を送るためには,幼稚園,小学校,中学校及び高等学校(以下「小・中・高等学校等」という。)の児童生徒等や地域社会の人々と共に活動し,互いに触れ合う交流教育の機会を積極的に設け,相互の理解を深めていく必要がある。
  このような交流教育は,障害のある児童生徒等にとって有意義であるばかりでなく,すべての児童生徒等の豊かな人間形成を図り,社会性を育成し,人権尊重の意識を高める上でも大きな意義がある。


2  交流教育の現状
  交流教育は,学校や地域の実情に応じて,小・中・高等学校等と盲・聾・養護学校,地域社会と盲・聾・養護学校において,様々な工夫のもとに実施されており,多くの成果を上げている。また,国においても,交流教育推進校による実践的研究や指導者講習会の実施など,交流教育の一層の充実・発展を図るための施策が行われている。

(1)  交流教育の位置づけ
    1. 盲・聾・養護学校
  盲・聾・養護学校の学習指導要領においては,幼椎部から高等部を通して,総則及び特別活動の中で,児童生徒等の経験を広め,社会性を養い,好ましい人間関係を育てるため,小・中・高等学校等の児童生徒等や地域社会の人々との交流の機会を積極的に設けるよう規定されている。
    2. 小・中・高等学校
  小・中・高等学校の学習指導要領においては,総則の中で,学校相互の連携や交流を図ることに努めるよう規定され,盲・聾・養護学校との交流については,その具体的な例の一つとして,指導書において示されている。

(2)  活動の実際
    1. 小・中・高等学校等と盲・聾・養護学校との交流
  小・中・高等学校等と盲・聾・養護学校との交流は,運動会や文化祭などの学校行事を中心として行われているほか,クラブ活動,児童・生徒会活動,一部の教科等における直接的な交流や,作品交換,パソコン通信などによる間接的な交流が行われている。
    2. 小・中学校の通常の学級と特殊学級との交流
  小・中学校の通常の学級と特殊学級との交流は,学校行事,クラブ活動のほか,給食や清掃の時間における交流,音楽や体育などの一部の教科等の学習で交流するなど,日常の学校生活を通して行われている。
    3. 盲・聾・養護学校と地域社会との交流
  盲・聾・養護学校と地域社会(町内会,青少年団体,企業など)との交流においては,学校行事やクラブ活動に地域の人々が参加したり,地域の団体等が主催する行事に児童生徒等が参加するなどの活動が行われている。
  また,中学部や高等部での職業教育の一環として行われている現場実習は,企業等の人々の理解と認識を深める上でも大切な機会となっている。
    4. 都道府県における取組
  都道府県においては,例えば,「いきいき・はあとふるスクール推進事業」「教育ルネッサンス21」「新レインボープロジェクト」の事業により,盲・聾・養護学校と小・中・高等学校等や地域社会が一体となった体験活動や交流,高校生や大学生がボランティアとして参加した活動などが積極的に展開されている。

(3)  交流教育の成果
    1. 盲・聾・養護学校
  盲・聾・養護学校の児童生徒等は,交流教育における様々な体験を通して達成感や成就感を味わうことにより,その後の行動に対する自信と積極的な姿勢がみられるようになってきている。
  また,地域の人々や自然,文化との接触を通して,地域社会の一員であることを自覚し,自らの在り方生き方を学ぶとともに望ましい人間関係を形成して,社会生活への移行が円滑に進められるようになってきている。
    2. 小・中・高等学校等
  小・中・高等学校等の児童生徒等が交流により障害のある児童生徒等に対する正しい理解と認識を深めるとともに,幼児や高齢者を含めたすべての人々に対する思いやりの心が育つなど,豊かな人間性が育成されてきている。特に,中・高等学校の生徒においては,自らの在り方生き方や進路を考える機会ともなっている。
  また,交流に参加した教員の理解と認識が深まるとともに,児童生徒等を通して,その保護者に対する理解啓発が図られてきている。
    3. 地域社会
  地域社会の人々は,交流を通して,障害のある児童生徒等とその教育に対する正しい理解と認識が深まるとともに,学校と地域社会とが一体となって児童生徒等を育てていくことの重要性が認識されるようになってきている。
  また,障害のある人が社会生活において困難な状況にあるときに,さりげない配慮や支援が行われるようになってきている。


3  交流教育の充実
  交流教育は,障害のある児童生徒等の経験を広め,社会性を育成するとともに,障害のない児童生徒等の豊かな人間性を形成する上で重要な教育活動となっている。また,地域に開かれた学校として,様々な活動を通して地域社会の多くの   人々と触れ合うことは,障害のある児童生徒等とその教育に対する理解啓発のための大切な機会となっている。
  このように交流教育は,多くの面で有意義な活動であり,今後,その一層の充実に向けた取組が求められる。

(1)  多様な交流の展開
  交流教育は,現在,運動会や文化祭などの学校行事を中心として実施されているが,今後,学校の様々な教育活動(学級・ホームルーム活動,児童・生徒会活動,クラブ活動,遠足,教科等)における交流や,高等部の交流教育の充実を図る観点から,専門高校などの施設・設備を活用した職業教育の連携などについても,幅広く検討していく必要がある。
  その際,小・中学校の通常の学級と特殊学級との交流においては,可能な限り日常の学校生活における様々な場面で交流が図られるよう,その内容・方法について具体的な検討を進めていく必要がある。
  また,盲・聾・養護学校の児童生徒等が,卒業後,家庭又は家庭の近隣地域で生活するに当たって,社会生活への円滑な移行を進める観点から,これらの地域の人々との交流は意義のあることと考える。このため,家庭を取り巻く地域における小・中・高等学校等,各種団体,企業等との交流(例えば,コミュニティーサークル,親子会,PTA,青少年団体等の行事,青少年教育施設などを活用した宿泊を伴った体験学習など)についても,積極的に検討していく必要がある。
  さらに,盲・聾・養護学校と小・中・高等学校等や地域社会などが,それぞれの場を活用した相互の交流やこれらが一体となった交流,マルチメディアを活用した交流など,多様な交流を工夫していくことが大切である。
  なお,交流教育を進めるに当たっては,学校や地域の実情を踏まえつつ,一過性のものにとどまるのではなく,広範かつ,継続的に行われるようなものとしていくことが大切である。

(2)  地域における交流の充実
  完全学校週5日制の実施に向けた検討が進められている状況からも,今後その実施に当たっては,学校・家庭・地域社会が一体となって青少年の学校外活動など社会教育を充実・発展させていくことが重要である。特に,現在の学校週5日制の隔週実施に当たっては,障害のある児童生徒等の参加に配慮したウィークエンド・サークル活動推進事業などが進められてきているが,さらに,各地域の様々な活動の機会や場を確保していく必要があり,それぞれの地域における交流をより深めるための取組が強く望まれる。
  交流教育は,地域社会の人々との相互理解や,連携を深める上で有効な活動であり,その成果は,学校外活動にも十分生かされるものと考えられる。このため,地域社会との一層の連携協力のもとに,自然なかたちで触れ合うことができるよう工夫する必要がある。
  また,近年,会社員や公務員等のボランティア休暇の導入が進んでおり,これらの人々がボランティアとして地域における交流に積極的に参加できるような工夫も大切である。

(3)  ボランティアの資質の育成
  高齢化社会の進展する中で,福祉についての正しい理解を深め,望ましい態度の育成を図ることや体験を通して社会に貢献する精神を培うことは,極めて重要である。
  交流教育は,障害のあるなしにかかわらず,児童生徒等にとって,他の人々への思いやりの心や社会に貢献する精神を培うための活動として,その役割はますます重要になるものと考えられる。今後,こうした点も踏まえた取組とその成果を生かしていくための工夫が大切である。


4  今後の課題

(1)  教育課程上の位置づけ
  交流教育の一層の充実を図っていくためには,小・中・高等学校等において,交流教育についての積極的な取組が重要である。このため,交流教育の教育課程上の位置づけなどについて,十分検討する必要がある。その際には,交流教育や障害者の理解を深めるための学習に関し,例えば,中央教育審議会第一次答申において提言のあった「総合的な学習の時間」や「特別活動」などに適切に位置づけることなども考えられる。

(2)  教員等の理解と認識の促進
  小・中・高等学校等と盲・聾・養護学校との交流や,小・中学校の通常の学級と特殊学級との交流は,その活動にかかわる教員の障害のある児童生徒等の理解と認識を深めるとともに,個に応じた指導を実践するための指導力を高める上で有効な機会である。このため,種々の交流や研修の機会に,より多くの教員が,積極的に参加できるようにする必要がある。
  その際,特殊学級を設置している小・中学校にあっては,通常の学級と特殊学級との交流を,学校経営に適切に位置づけるなど,学校全体として積極的に進めていくことが特に望まれる。
  また,これらの機会に,活動にかかわる教員がそれぞれの専門性を生かし,障害の状態等に応じた配慮や指導の在り方などについて,多くの教員が身に付けていくことのできるようにしていくことが重要である。
  さらに,このような取組を,学校から地域社会へ拡大し,保護者はもちろん,広く社会一般の人々の理解と認識を深めていく必要がある。

(3)  交流教育推進のための条件整備
  交流教育は,学校や地域の実情に応じた様々な取組が進められてきているが,一方では,交流教育を実施していく上での課題(例えば,交流に要する時間,経費,移動手段等の確保)もみられることから,交流教育推進のための種々の条件整備について検討する必要がある。



【3】  早期からの教育相談の充実について

  障害のある乳幼児については,早期から適切な教育的対応を行うことが大切であり,教育相談や幼稚部教育の果たす役割は,ますます高まってきている。ここでは,障害のある乳幼児の障害の状態の改善を図り,望ましい成長・発達を促すための早期からの教育相談の充実に向けた今後の取組等についての考えを述べる。


1  早期からの教育的対応の意義
  障害のある児童生徒等については,その障害の種類や程度等に応じて,盲・聾・養護学校や特殊学級等において適切な教育を行うことが重要であるが,障害によっては,0歳からを含む早期からの教育相談やこれらの学校の幼稚部教育を受けることにより,乳幼児の障害の状態の改善が著しく進んだという成果がみられている。
  近年,医学等の進歩は著しく,特殊教育の対象となる乳幼児の障害の早期発見が可能となってきていることから,できる限り早期から教育相談などによる教育的な手だてを講じていくことが,乳幼児の障害の状態の改善を図る上で,大きな成果を期待できるものとなっている。
  また,こうした教育相談が,乳幼児の発達段階等を考慮しつつ,就学相談まで継続して実施され,さらに,就学後においても保護者やその子供の必要に応じて行われたりすることなどにより,障害のある児童生徒等の教育や全人的な育成を図る上で,重要な役割を果たしていくものと考えられる。


2  早期からの教育相談の現状
  障害のある乳幼児については,それぞれの障害の特性に応じた早期からの教育相談が,地域の実情に応じて,特殊教育センターや盲・聾・養護学校等で実施されており,保護者の養育態度の形成や子供の障害の状態の改善に多くの成果を上げている。
  それぞれの障害の状態に応じた教育相談や幼稚部教育の現状は,以下のとおりである。

(1)  聴覚に障害のある場合
  聴覚に障害のある児童生徒等の教育においては,その障害に起因する言語習得の困難性を克服するため,ほとんどの聾学校に幼稚部が設置され,早期からの教育的な対応が実践されてきている。そこでは,保護者の協力も得ながら,個々の幼児の発達段階に応じた言語指導を行うとともに,幼児期の望ましい成長・発達を促すため,適切な教育が進められてきている。
  こうした幼稚部教育の実践は,聴覚に障害のある幼児の言語習得を図るとともに,その後の教育に必要な基礎的な能力の育成を図るなど,多くの成果を上げている。
  さらに,幼稚部での教育をより効果的に行うためには,それ以前の段階における教育的な対応が重要であり,各聾学校においては,個々の乳幼児の実態に応じて,0歳からの教育相談も行われるようになってきている。このような教育相談においては,保護者とその子供が定期的に聾学校を訪れ,家庭での養育の在り方,聴覚障害の理解,子供に対する具体的なかかわり方など,保護者に対する支援を中心にして,必要に応じた相談活動が進められている。

(2)  視覚に障害のある場合 
  視覚に障害のある児童生徒等の教育においては,その障害の特性に基づく生活経験の不足などを補うため,多くの盲学校に幼稚部が設置され,早期からの教育的な対応が実践されてきている。そこでは,幼児の興味・関心のある遊びなどの活動を通して,触覚などの感覚機能を高めたり,基本的生活習慣を身に付けたりするなどして,幼児の望ましい成長・発達を促すため,適切な教育が進められてきている。
  また,3歳未満の乳幼児とその保護者に対しても教育相談が行われ,子供の触覚や聴覚などを活用して,周囲の人や事物・事象に対する興味・関心を高めたり,保護者の適切な障害の受容,家庭での養育についての理解を図ったりするなど,多くの成果を上げている。
  こうした幼稚部教育や教育相談の成果は,盲学校で行われる点字学習や歩行指導などの基礎となる力をはぐくむことにつながっている。

(3)  精神発達に遅れのある場合
  精神発達に遅れのある乳幼児については,現在,医療・福祉関係機関で医療や養育相談が行われているが,この時期の基本的生活習慣,言語や運動面等の全般的な発達をより一層促すためには,早期からの教育相談が重要である。
  早期からの教育相談は,主に,乳幼児の興味・関心のある遊びを通して,基本的生活習慣の形成や生活経験の拡大を図ったり,生活に必要な言葉の理解や表現,運動面の発達を促したりするための支援が行われ,障害の受容,発達段階に即した養育にかかわる支援が行われている。こうした教育相談により,家庭での良好な親子関係等が形成されるとともに,学校生活での円滑な集団参加が図られたという成果を上げている。

(4)  肢体に不自由のある場合
  肢体に不自由のある乳幼児については,現在,医療・福祉関係機関で運動機能の向上を図るための治療や訓練等が行われているが,この時期の生活リズムや人間関係の形成を図り,心身の調和的な発達の基盤をより一層培うためには,早期からの教育相談が重要である。
  早期からの教育相談は,特殊教育センターや養護学校等において行われているが,そこでの日常生活動作の向上,基本的生活習慣の形成,言語・コミュニケーション能力の向上等につながる幅広い側面からの支援や家庭での養育内容や方法にかかわる支援は,子供の望ましい成長・発達を促すなどの成果を上げている。

(5)  病弱,身体虚弱の場合
  病弱な乳幼児については,生後間もない時期から病院で治療や医療相談が行われているが,入退院の繰り返しや療養のための生活規制によって生じる経験の狭さなどに配慮して,心身の調和的な発達の基盤をより一層培うために,専門的な立場からの教育相談が重要である。
  早期からの教育相談においては,病気の状態の理解や回復に向けた生活習慣形成のための子供への支援が行われ,保護者には子供の障害を受容し,子供との心理的に安定したかかわりについて支援するとともに,学校教育への対応についての不安の解消を図るなどの成果を上げている。

(6)  自閉的傾向等のある場合
  自閉的な傾向のある幼児については,当初,医療機関等で相談が行われているが,適切な言葉の獲得と使用を促進し,不適応行動の改善を図るためには,早期からの教育相談が重要である。
  早期からの教育相談においては,子供の生活における言葉でのやりとりや場に応じた適切な行動の理解を促したり,安定した生活リズムの形成を図ったりするための支援,良好な家族関係の形成や近隣の人々の障害の理解啓発にかかわる支援が行われ,多くの成果を上げている。
  なお,チック等の情緒障害,構音障害や吃音等の言語障害のある幼児については,障害が発見された後,医療・福祉関係機関で継続して相談が行われるとともに,特殊教育センターや小学校の特殊学級等で障害の状態の改善にかかわる教育相談が行われている。早期からの教育相談は,就学後の学校生活におけるよりよい人間関係の形成につながる成果を上げている。


3  早期からの教育相談の意義
  障害の状態等に応じて,実際に行われている早期からの教育相談の内容についてまとめると,以下のとおりである。

(1)  障害の受容への支援
  医学等の進歩により,障害が生後早い時期に発見されるようになった今日,障害のある乳幼児の家庭においては,保護者はその子供の養育や教育にかかわる様々な悩みを抱えている。とりわけ,発見後の間もない時期における保護者の不安や悩みは,極めて大きいものである。こうしたときに,保護者がその子供の障害をどのように受容するかということは,子供の将来の望ましい成長・発達を促すために重要であり,その子供の養育に積極的に臨むことが大切である。
  このような子供の障害の受容にかかわる保護者への支援は,この時期に,医療・福祉関係機関と連携して行われる教育相談に求められる重要な内容の一つである。

(2)  良好な親子関係の形成
  乳幼児期においては,保護者の精神的な安定を促すとともに,併せて家庭における良好な親子関係等を形成することが大切である。こうした安定した人間関係の中で,子供は望ましい成長・発達を遂げるものである。
  特に,教育相談は,それぞれの家庭の状況に応じて,保護者が障害のある子供とのかかわり方などを学ぶことにより,良好な親子関係等を形成するための大切な支援となる。

(3)  乳幼児期の発達促進
  障害のあるなしにかかわらず,乳幼児期においては,その時期特有の発達課題がある。例えば,言語発達の促進,身辺自立の確立などに関して,細かな課題が挙げられる。障害のある部分にのみとらわれることなく,全人的な育成を図る観点から,教育相談の場においては,それぞれの乳幼児の発達を促すようなかかわり方についての支援を適切に行うことが望まれる。
  将来に向けて,保護者がその子供の発達の見通しをもちながら,日常的なかかわりの重要性に気づくようにすることが,この時期に行われる教育相談の重要な内容の一つである。

(4)  障害の状態の改善
  保護者に対しては,その子供の発達の見通しについて理解を図るとともに,一方では,その障害の状態を的確に理解し,その改善・克服に努める養育の姿勢が求められる。その際,配慮すべきことは障害により異なる面もあることから,障害の特性に応じて,どのようなかかわり方をすればよいかについて,教育相談の場では,保護者の的確な理解を促すようにすることが大切である。
  また,障害の状態の改善・克服は,日常的な取組を継続的に行う必要があるとともに,生涯を通して行うことであることの理解を図るように努めることも重要である。

(5)  特殊教育に対する理解
  保護者は,その子供の障害の受容ともかかわって,将来の子供の就学についての不安が大きいものである。したがって,教育相談においては,こうした保護者の心理状態を勘案しながら,その子供にとって必要な教育の在り方や見通しについての理解を促すことにより,保護者の心理的な負担の軽減につながるようにすることが大切である。
  障害のある子供の教育を経験している者やその意義について理解をしている者が,早期からの教育相談を担当し,保護者の抱えている不安などに適切にこたえることは,その子供の障害の状態の改善・克服に結びつくとともに,特殊教育の実際についての理解を促すことにつながるものと考える。


4  早期からの教育相談の充実
  早期からの教育相談をより一層充実するための方策についてまとめると,以下のとおりである。

(1)  教育相談にかかわるネットワークの形成
  障害のある乳幼児の望ましい成長・発達を促すためには,乳幼児の養育上,その保護者が必要としている支援を適切に行うことが大切である。具体的には,教育相談として,保護者が求めている養育上の課題に対する支援,福祉や医療に関する情報提供が,身近な地域で,しかも必要に応じて,頻繁にあるいは継続的に受けられるようにすることが望まれる。
  このため,都道府県等に設置された特殊教育センター等を中心としながら,地域の盲・聾・養護学校との連携を図り,教育相談体制の確立のためのネットワークを形成することが大切である。
  その際,盲・聾・養護学校は,それぞれの障害種別の教育にかかわる専門性を生かし,障害のある乳幼児やその保護者に対する地域の教育相談センター的な役割を担う必要がある。
  このような地域の教育相談センターとしての役割を果たすためには,地域の幼稚園や保育所,また,病院や保健所,通園施設等との連絡を密にして,そこでの相談活動との一貫性に留意したり,さらにはパンフレットによる地域への教育相談の実際の活動にかかわる理解啓発を図ったりするなどの取組が重要である。
  なお,こうしたネットワークが,より効果的に機能を発揮するためには,医療・福祉関係機関の相談担当者も含めて,広い意味での連携・協力体制を整えることが大切であり,地域の実情に応じ,早期からの教育相談のための早期教育相談連絡協議会(仮称)を設置するなどの工夫も考えられる。

(2)  盲・聾・養護学校における早期からの教育相談
  盲・聾・養護学校においては,それぞれの学校や地域の実情に応じて,随時,教育相談を実施してきたところである。
  盲・聾・養護学校が,今後,これまで以上に地域での教育相談センター的な役割を果たすためには,教育相談担当者を確保し,施設・設備を充実するなどして,障害のある乳幼児やその保護者のニーズに応じた早期からの教育相談ができるように創意工夫する必要がある。例えば,継続して教育相談が受けられるようにしたり,必要に応じて,ときには,幼稚園・保育所等の福祉関係機関や家庭に出向いて相談に当たることができるようにしたり,遠隔地や離島等に居住する保護者への対応として,マルチメディアの活用を図ったりするなどが考えられる。

(3)  特殊教育センター等における早期からの教育相談
  特殊教育センター等においては,従前から,障害のある乳幼児や様々な課題のある児童生徒等の教育相談を実施してきている。今日のように,障害の早期発見後,様々な側面からの早期対応が求められている中で,特殊教育センター等が,乳幼児に対する早期からの教育相談をより充実させるとともに,一方では,地域での教育相談センター的な役割を果たす盲・聾・養護学校に対して,必要な支援を行うことが重要になってくる。
  このため,特殊教育センター等においては,盲・聾・養護学校の教育相談担当者に対して,必要な情報提供を行ったり,研修の機会を設けたりするなど,適切なネットワークの整備を図るとともに,教育相談担当者の資質向上に努めることが大切である。
  また,特殊教育センター等は,早期からの教育相談が円滑に進められるように,教育,医療,福祉の各分野の情報収集に努め,そこで得られた情報を盲・聾・養護学校に提供するなど,相互の連携のための中核となる機関としての機能を発揮する必要がある。
  なお,区市町村の一部には,独自に教育相談を行っている地域も見受けられる。今後は,保護者のニーズに応じて,こうした教育相談がより広く多方面にわたって行われる必要があることから,区市町村における教育相談体制の一層の充実を図ることが望まれる。


5  今後の課題

(1)  盲・聾・養護学校における教育相談機能の拡充
  中央教育審議会第一次答申では,学校・家庭・地域社会の連携の重要性が指摘されており,そのための方策の一つとして,開かれた学校づくりが提言されている。学校は,地域社会の拠点として様々な活動に取り組む必要があるが,盲・聾・養護学校の場合,それぞれの専門性を生かして,地域の教育相談センターとして,それぞれの機能を十分発揮する必要があると考える。
  こうした教育相談は,盲・聾・養護学校の新たな教育サービス機能として位置づけることが適当であり,今後,盲・聾・養護学校がこのような教育サービスに積極的に取り組んでいくための人的・物的な条件整備についても検討していく必要がある。

(2)  盲・聾・養護学校における幼稚部教育の充実
  盲・聾・養護学校の幼稚部においては,幼稚部教育要領に基づいて個々の幼児の実態に応じて,手厚い指導が行われ,それぞれのもっている可能性を最大限に伸ばし,望ましい成長・発達を促すための教育が進められている。
  平成8年5月1日現在の幼稚部の設置率については,盲学校が66.2%,聾学校が93.5%であり,養護学校は3.1%となっている。
  盲学校や聾学校においては,それぞれの幼児に対する専門的な教育の必要性から,幼稚部教育がこれまで積極的に推進されてきた。これに対し,養護学校の幼稚部については,対象となる幼児が,当初,医療・福祉関係機関において療育を受けている場合が多いことなどから,その設置が必ずしも十分になされているとはいえない現状にある。
  前述のように,障害のある幼児の望ましい成長・発達を促すためには,早期からの教育的対応が有効であり,盲・聾・養護学校における幼稚部教育の一層の充実を図っていく必要がある。
  このためには,盲・聾・養護学校の幼稚部において,個々の幼児の実態に応じた指導内容・方法の一層の工夫改善に努めていくことはもちろんのこと,これらの学校が,地域の早期からの教育相談センターとして,新たな教育サービスの拠点となるためにも,幼稚部の設置を促進するための方策等について,今後十分に検討していく必要がある。

(3)  医療・福祉関係機関における相談と一体化した教育相談の充実
  障害のある乳幼児に対する育児相談や養育相談は,専ら医療・福祉関係機関を中心に行われてきた。そこでは,主として,医学的な内容に関することが取り上げられたが,最近では,乳幼児の発達相談も行われるようになってきている。
  また,乳幼児の成長・発達に関して,多くの知識や経験のある教育関係者が,保護者やその子供に対して,早期からの適切な教育相談を行うことは,これまでも述べたように,個々の乳幼児の可能性を最大限に伸ばす意味で重要な役割を担っている。
  したがって,乳幼児期においては,教育分野からと医療・福祉分野からの相談活動が,それぞれの特徴や機能を生かし,一体化して行われる必要があり,その在り方について,今後,具体的な検討を進める必要がある。

(4)  教育相談担当者の資質の向上等
  教育相談担当者については,保護者の心理やその子供の実態を的確に把握し,将来の見通しなどを踏まえた上で,教育分野からの相談活動を適切に行い,保護者のニーズに的確にこたえられるような資質が必要とされる。このためには,専門的な知識や技術を身に付けるための研修を受けることができるように努めることが大切である。
  さらに,教育相談担当者については,盲・聾・養護学校の教職員を充てたり,障害のある乳幼児を育てた経験のある保護者や相談についての専門家の協力を得たりするなどの工夫が考えられるが,地域における教育相談がより頻繁に行われるようにするためには,小・中学校に設置されている特殊学級や通級による指導の場が,こうした機能を発揮することも望まれる。
  なお,実際の教育相談に当たっては,教育相談担当者が中心となって,他の教員等とチームを組んで相談活動を行ったり,教育相談担当者を派遣して相談活動を行うなどの工夫が必要である。


(  要旨は「文部省ニュース」に掲載しています。  )

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