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21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議

2001/1 答申等
21世紀の特殊教育の在り方について〜一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り方について〜 (最終報告)

第4章  特殊教育の改善・充実のための条件整備について

1  盲・聾・養護学校や特殊学級等における学級編制及び教職員配置について

1.都道府県教育委員会においては、各学校で児童生徒の実態等に応じた特色ある教育活動を積極的に展開するため、地域や盲・聾・養護学校の実態や規模、児童生徒の実態に応じて、機動的、弾力的に教職員配置を行うこと。

2.都道府県教育委員会においては、指導の充実等を図るために必要があると判断する場合には、義務標準法に基づく教職員定数を活用して、義務標準法で定められている学級編制の標準を下回る学級編制の基準を定めることが可能となるよう法改正の準備が進められている点を考慮して、盲・聾・養護学校の児童生徒の実態等を踏まえ、必要の応じ適切な学級編制を基準を定めることについてを検討すること。

3.盲・聾・養護学校は、その自主性、自律性を確立し、児童生徒の障害の状態等に応じた特色ある教育課程を編成することが求められているため、学級という概念にとらわれず、より柔軟に工夫を凝らして多様な学習指導の場を設定するなど指導形態、指導方法を工夫すること。

4.盲・聾・養護学校や特殊学級においては、総合的な学習の時間をはじめとする多様な教育活動の展開や、自立活動や職業教育の指導の必要性に対応するため、非常勤講師や高齢者再任用制度等の制度を活用したり、地域社会の多様な人材を特別非常勤講師やボランティアとして活用することにより、幅広い指導スタッフを整備すること。

5.小・中学校の特殊学級については、特殊学級の教育を教職員全体で支援するとともに、通級による指導については、対象児童生徒に対し適切な教育ができるよう教員の配置に努めること。
  また、盲・聾・養護学校の教員が通級による指導を実施したり、小・中学校を支援すること。

(1)障害のある児童生徒の教育については、自己のもつ能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し、社会参加するために必要な力を培うため、盲・聾・養護学校や特殊学級等において、障害に応じた特別な教育課程を編成したり、専門性ある教職員を配置し、比較的少人数による指導を行っている。
  盲・聾・養護学校では、従来から公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(以下「義務標準法」という。)で定められている学級編制とは別に個別指導やグループ別の指導等を行ってきたが、近年、児童生徒の障害の重度・重複化や多様化、社会の変化により児童生徒一人一人に対する指導の内容、方法等の実態が大きく異なっているため、児童生徒の特別な教育的ニーズに対応したきめ細かな指導が行えるよう指導方法や指導体制の工夫や改善がますます必要となっている。
  また、教科指導に加え、障害に基づく種々の困難を改善・克服するための自立活動の担当教員や教育相談担当の教職員、養護教諭等児童生徒が学校生活を送る上で必要な教職員の充実が求められており、このような教職員の定数の改善を図る必要がある。
  各都道府県教育委員会においては、各学校で児童生徒の実態等に応じた特色ある教育活動を積極的に展開するため、義務標準法に示されている学校の学級数に応じた係数は、都道府県全体の教職員の総定数を算定するものであり、各学校への配置数を決めているものではないことを踏まえ、地域や盲・聾・養護学校の実態や規模、児童生徒の実態に応じて、機動的、弾力的に教職員配置を行うことが必要である。

(2)また、指導の充実等を図るために必要があると判断する場合に、義務標準法に基づく教職員定数を活用して、義務標準法で定められている学級編制の標準を下回る学級編制の基準を定めることが可能となるよう法改正の準備が進められている点を考慮し、各都道府県教育委員会においては、盲・聾・養護学校の児童生徒の実態等を踏まえ、必要に応じ、適切な学級編制基準を定めることについて検討する必要がある。
  なお、盲・聾・養護学校の指導の充実や地域の特殊教育センターとしての機能の充実を図るため、盲・聾・養護学校間や盲・聾・養護学校と小・中学校間で交流教育や共同の授業研究などの取組を進めることが期待される。

(3)実際の指導に際しては、盲・聾・養護学校は、その自主性、自律性を確立し、児童生徒の障害の状態等に応じた特色ある教育課程を編成することが求められているため、学級という概念にとらわれず、より柔軟に工夫を凝らして多様な学習指導の場を設定するなど指導形態、指導方法を工夫する必要がある。このため、各学校においては、このような多様な指導形態、指導方法について教職員が適切な指導組織を構成したり、校務を分掌するなど学校全体で取り組む必要がある。

(4)盲・聾・養護学校や特殊学級においては、今後、総合的な学習の時間をはじめとする多様な教育活動の展開や、自立活動や職業教育の指導の必要性に対応するために、非常勤講師や高齢者再任用制度等の制度を活用して、自立活動、外国語教育、情報教育等に専門分野、得意分野を異にする幅広い指導スタッフを整備することが求められる。 また、地域社会の多様な人材を特別非常勤講師やボランティアとして活用することにより学校の指導体制の充実を図ることも重要である。
  また、近年、児童生徒の障害の重度・重複化や多様化に対応するため、都道府県の中には、独自で福祉、医療と連携して理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等を特別非常勤講師として雇用する、看護婦等を非常勤職員として活用したり他機関から派遣する、労働省所管の緊急地域雇用特別交付金制度において情報技術の専門家を特別非常勤講師として雇用するなどの取組が見られるが、こうした人材活用例を参考にして、今後、各都道府県において、地域や学校の実態等に応じてこのような取組が進むことを期待したい。

(5)小・中学校の特殊学級については、特殊学級の児童生徒の障害の状態が多様化しているため、それに応じて様々な教育課程の編成、実施が求められている。また、近年、通常の学級との交流が積極的に行われるようになっているが、特殊学級の児童生徒に対する指導は特殊学級担任教員だけに任される場合も多く、ともすれば孤立しがちであるとの声が聞かれる。このため、特殊学級を教職員全体で支援するとともに、通常の学級の児童生徒への理解・啓発に努めるなど、学校全体で特殊学級における教育の充実を図っていくことが必要である。
  通級による指導の導入に伴う教員配置については、平成5年度から実施してきた第6次公立義務教育諸学校教職員配置改善計画を、毎年度計画的に推進し、平成12年度で完成したところである。今後とも、通級による指導を受ける児童生徒に対し適切な教育ができるような教員の配置に努めることが必要である。
  また、例えば、聾学校の幼稚部等において早期からの教育的対応によって十分な言語習得を図り、小・中学校へ就学した難聴の児童生徒については、引き続き聾学校の教員が支援する必要があるとの指摘がある。このような事例を踏まえ、小・中学校に就学した軽度の障害のある児童生徒の更なる指導の充実を図るために、盲・聾・養護学校の教員がもっている専門的な指導力を生かして通級による指導を実施するなど、小・中学校を支援することが必要である。

(6)なお、就学指導の在り方の改善に伴い、特別な場合に小・中学校に就学する児童生徒に対し教育上の配慮が必要になることが想定される。今後、こうした障害のある児童生徒に対して適切な指導を行うために特殊教育で培ってきた指導方法等を生かすことがますます必要になる。このため、小・中学校においては、教職員全体が障害のある児童生徒に対する理解・啓発に努めるなど学校全体で指導体制の充実に努めるとともに、日頃から盲・聾・養護学校との連絡を密にとり、障害のある児童生徒への教育的対応についての情報を常に交換できるようにしておくことが重要である。

 


2 特殊教育関係教職員の専門性の向上
2−1 特殊教育教諭免許状の保有率の向上及び今後の免許状の在り方について

1.可能な限り早期にすべての盲・聾・養護学校の教員が特殊教育教諭免許状を保有することが必要であり、設置者である各都道府県教育委員会等の積極的な取組が求められる。このため、各都道府県等においては、特殊教育教諭免許状の保有率等を踏まえ、特殊教育教諭免許状の保有率向上の目標と計画を策定し、次のような取組を進めること。a.教員採用に当たって特殊教育教諭免許を有する者の採用を基本とすること。b.教員配置に当たって免許保有等の要件を明確にしたり、配置後一定期間に免許を取得するよう促すなどの工夫をすること。c.認定講習の充実や情報提供などに努め、教員が計画的に単位を修得する機会が得られ、免許が取得できるようにすること

2.国は、各都道府県における特殊教育教諭免許状保有率の状況を踏まえ、全国的に必要となる保有者数を把握するとともに、各都道府県教育委員会等の免許状保有率の向上のための目標と計画及び改善状況等を調査し、教育委員会等における取組を支援すること。国立特殊教育総合研究所において、情報通信技術を活用し、講義を配信するなど引き続き認定講習の充実に寄与すること。また、学校種ごとに定められている免許のほかに盲・聾・養護学校のすべての校種において教授することを可能とする「総合免許状」については、関係者の意見を聴取しながら検討すること。

(1)盲・聾・養護学校の教員については、児童生徒等の障害の状態に応じて、特別な教育的ニーズに応じた教育を行う必要があることから、小・中学校等に比べて特別な専門性が要求される。このため、盲・聾・養護学校の教員は、小・中学校等の教員のいわゆる基礎免許状に加えて、盲・聾・養護学校の学校種ごとの特殊教育教諭免許状の所有が必要とされている。
  しかし、この特殊教育教諭免許状を保有していなくても盲・聾・養護学校の教員となることができる特例が設けられていること等から、現状では盲・聾・養護学校の教員の特殊教育教諭免許状の保有率は、盲学校21%、聾学校31%、養護学校52%となっている。
  各都道府県ごとの特殊教育教諭免許状の保有状況をみると、例えば養護学校でおよそ9割から3割までかなりのばらつきがみられるが、保有率の高い県では、特殊教育における専門性の重要性を十分認識した上で様々な取組によって保有率の向上に努力し成果を挙げている。
  具体的な取組としては、例えば、採用について、特殊教育諸学校の試験区分を設け当該免許の保有を条件とするとともに、やむなく当該免許を有しない者を採用せざるを得ない事情がある場合でも、できるだけ早期に免許取得を求めているところがみられる。
  また、小・中・高等学校との間で人事交流を行う場合には、特殊教育に意欲があり、実践的な指導力を有する教員を配置するよう努めており、当該教員が特殊教育教諭免許状を有していない場合には、免許状を取得するよう促しているところもみられる。
  さらに、特殊教育教諭免許のための認定講習について、例えば盲・聾・養護学校を講習会場とするなど、教員が受講しやすくなるよう配慮するとともに、近隣の県との間で認定講習の開設情報を交換し教員に提供したり、受講希望者を相互に受け入れるなどの工夫をしているところもみられる。

(2)このような実情を踏まえ、可能な限り早期にすべての盲・聾・養護学校の教員が特殊教育教諭免許状を保有することが必要であり、設置者である各都道府県教育委員会等の積極的な取組が求められる。このため、各都道府県教育委員会等においては、特殊教育教諭免許状の保有状況や学校の状況等を踏まえ、具体的な改善の目標及び計画を策定し、その実現に向け、人事管理、教職員研修、教育指導など総合的な観点から次のような採用、配置、研修等を通じた取組を積極的に進めることによって、特殊教育教諭免許状の保有率を向上させる必要がある。
  第一に、盲・聾・養護学校の教員の採用に当たって、教員養成課程で特殊教育を修め、当該免許を有する者の採用を基本とする必要がある。
  第二に、教員の盲・聾・養護学校への配置に当たっては、当該免許の保有その他の要件を明確にしたり、当該免許を保有していない教員を継続的に配置する場合には、3年間など一定期間に当該教員が免許を取得するよう促すなどの工夫をする必要がある。
  第三に、現職教員の当該免許の取得については、地元の大学や近隣の都道府県等との一層の連携を進め、認定講習の充実や情報提供などに努めることにより、教員が計画的に単位を修得する機会が得られ、免許が取得できるようにする必要がある。
  なお、特殊学級や通級による指導担当の教員についても、児童生徒の障害の種類、程度に応じた教育の専門性が必要であり、特殊教育教諭免許状の保有者を充てたり、特殊学級や通級による指導担当の教員が特殊教育教諭免許を取得するよう促すことにより専門性を高める必要がある。

(3)国は、各都道府県における特殊教育教諭免許状保有率の状況を踏まえ、全国的に必要となる保有者数を把握するとともに、各都道府県教育委員会等が策定する特殊教育教諭免許状の保有率の向上のための目標と計画及びそれに基づく毎年の改善状況等を調査し、教育委員会等における取組を支援する必要がある。また、国立特殊教育総合研究所は、情報通信技術を活用し、教育委員会と連携を図って講義を配信するなど引き続き認定講習の充実に寄与する必要がある。さらに、放送大学においても、上記の特殊教育教諭免許状の保有率の向上のための目標と計画等の状況を踏まえるとともに、免許取得ニーズの動向を見極めつつ教育職員免許法の特殊教育に関する科目に対応する科目の開設が期待される。
  また、児童生徒等の障害の重度・重複化や多様化が進んでいる中で、特殊教育教諭免許状が、盲・聾・養護学校に分かれていることが現実に合わない状況が生じている。こうしたことを踏まえ、今後、複数の障害に対応した専門性と実践的指導力を有する教員を養成するため、学校種ごとに定められている免許のほかに盲・聾・養護学校のすべての校種において教授することを可能とする「総合免許状」について関係者の意見を聴取しながらその創設について検討する必要がある。
  なお、これらの取組の進展による特殊教育教諭免許状の保有率の状況を踏まえつつ、将来的には、盲・聾・養護学校の教員は必ず特殊教育教諭免許状を保有しなければならないようにすることについても、検討していく必要がある。

 

2−2 研修の充実

1.障害のある児童生徒等の教育を支えるすべての教員が職務や役割などに応じて力を発揮できるよう研修の在り方を見直し、国と都道府県等が協力して教員の資質の向上に努めること。

2.盲・聾・養護学校の教員の専門的な指導力の向上を図るため、研修目的や研修者の特性に応じて適切な研修プログラムを策定すること。また、インターネットや衛星通信など情報通信手段の活用を工夫し、研修事業の成果を効果的に普及し、活用すること 。

3.特殊学級担当教員及び通級指導担当教員については、都道府県教育委員会等において免許状を保有する教員を配置したり、特殊学級や通級指導教室を設置する小・中学校に、特殊教育の理解の深い校長や教頭を配置するなど人事上配慮するとともに、研修の全体計画に位置づけ、経験年数やニーズに応じて計画的、体系的な研修プログラムの提供に努めること。

4.今後、すべての教員が障害のある児童生徒等とその障害に関する理解と認識を深める必要があり、都道府県教育委員会等においては、初任者研修等の中で、盲・聾・養護学校において研修を実施することを検討すること。また、通級による指導を受けている児童生徒の学級担任に対する研修の機会を設けること。
  学習障害等の児童生徒等への教育的対応について、国立特殊教育総合研究所において専門的な研修を実施するとともに、都道府県において専門家の巡回相談事業を活用し事例研究などを進めること。

(1)児童生徒等の障害の状態等に応じたきめ細かな指導を行うためには、特殊教育担当教員の資質の向上が必要である。このため、これまで、文部省及び国立特殊教育総合研究所においては、種々の特殊教育に係る指導者講習会や喫緊の課題に関する研修を行い、都道府県教育委員会等は職務経験に応じた研修や専門教科等に係る基本的な研修を行うなど、それぞれが役割分担して研修体系の整備に努めてきた。
  盲・聾・養護学校の教員については、各都道府県の特殊教育センター等において、初任者研修、中堅職員研修、新任校長・教頭研修、自立活動、専門教科、訪問教育、通級による指導など、経験、職能等に応じた研修が行われている。
  特殊学級担当の教員及び通級指導担当の教員についても、都道府県教育委員会等では、特殊学級担任等を対象とした研修を行っているところが多いが、特殊学級担任が他の教員に任せて学校外で研修を受けることが難しかったり、研修の内容も、受講者の経験や力量などの幅が大きく、多様なニーズに十分応じたものになっていないなどの問題がある。
  また、小・中学校の教員については、障害のある児童生徒や基本的な指導上の配慮事項などへの理解が求められており、都道府県の特殊教育センター等において、特殊教育に関する情報を広く提供するための公開講座を実施したり、学校において、校内研修に特殊学級の研究授業を盛り込むなど理解・啓発に努めているところもある。しかし、通常の学級の教員が特殊教育に関する研修を受ける体制は、必ずしも十分ではない。
  このような状況を踏まえ、今後、障害のある児童生徒等の教育を支えるすべての教員がそれぞれの職務や役割などに応じて十分力を発揮できるよう、研修の在り方を見直し、国と都道府県等が協力して教員の資質の向上が図られるようにすることが必要である。

(2)盲・聾・養護学校の教員を対象とした研修については、児童生徒等一人一人の障害の状態に応じた専門的な指導や障害の重複化に対応した一層きめ細かな指導ができる力の向上を図るため、それぞれの地域や学校の実態を踏まえ、特殊教育に関する最新の情報や、必要に応じ福祉、医療、労働などの関連分野と連携を図った研修の機会などを提供することが求められる。また、より高度な専門性や実践力を身に付けるため平成13年度から実施される大学院修学休業制度を積極的に活用することが望まれる。
   また、盲・聾・養護学校において専門性の高い教育の充実を図るためには、特殊教育に対する十分な知識と深い理解を有する者を校長や教頭に配置するよう配慮するとともに、校長や教頭に対する研修の充実を図ることが求められる。
  さらに、他校種から盲・聾・養護学校への転任を希望する教員に対しても計画的な研修が望まれる。
  このため、都道府県の特殊教育センター等において、研修の目的や特殊教育の経験年数などの対象者の特性に応じて一層適切な研修プログラムを策定することが必要である。
  また、インターネットや衛星通信など情報通信手段を活用したり、都道府県主催の研修の受講修了者が市町村主催の研修の講師になったり、各学校の校内研修において他の教員を指導するなどの工夫により、研修事業の成果が効果的に普及し、活用されるようにすることが重要である。

(3)特殊学級担当教員及び通級指導担当教員については、特殊教育に対する基本的な理解、障害を改善・克服するための指導方法、児童生徒とのかかわりや保護者への教育相談の心構えなどの知識・技能等の専門性が不可欠である。しかし、一般的に、通級指導担当教員は、比較的経験豊富な指導力のある教員が配置されることが多いが、特殊学級担当の教員については、地域によっては、経験の少ない若手の教員が配置されたり、学校内の教員が交替で担当していることから、特殊教育に関する専門性が必ずしも十分でない場合もあるとの指摘もある。
  地域によっては、研修を行うに当たって、研修希望のある学校に指導者を派遣し特殊学級における校内研修会を行ったり、特殊学級の担任が養護学校の授業に参加して実践的な指導力を身に付けるようにするなどの工夫をしているところもある。
  都道府県教育委員会等においては、特殊教育教諭の免許状を保有する教員を特殊学級担当教員等に配置したり、盲・聾・養護学校との人事交流を推進するなど、人事上の配慮を積極的に行うとともに、教職員研修担当者と特殊教育担当者が連携を図り、特殊学級担当教員等に対する研修を全体の研修の中に位置づけ、特殊学級担当教員等の経験年数やニーズに応じて計画的、体系的な研修プログラムを提供できるよう努める必要がある。また、特殊学級や通級指導教室を設置する小・中学校には、特殊教育に理解が深い者を校長や教頭として配置することや、すべての小・中学校の新任の校長や教頭に対する研修の充実を図ることについて配慮することが求められている。
  市町村教育委員会においても、都道府県教育委員会等と役割分担しながら、特殊学級担当教員等の研修の機会の充実を図ることが期待される。また、小・中学校の校長は、特殊学級担当教員等の専門性の重要性を認識し、学校全体で協力して特殊学級担当教員等の研修の機会の充実に取り組むことが必要である。

(4)小・中学校における通級による指導を受ける児童生徒の増加や学習障害等への対応が求められていることや、盲・聾・養護学校と小・中・高等学校等、特殊学級と通常学級との交流を進め、障害のある児童生徒等と障害のない児童生徒等との交流を積極的に推進する上で、今後、校長や教頭をはじめ、通常の学級を担当するすべての教員が障害のある児童生徒等とその教育に関する理解と認識を深めることが必要となっている。
  幼稚園、小・中・高等学校等の教員については、普通免許状の授与を受ける場合の教職に関する科目として障害のある児童生徒等の心身の発達及び学習の過程が含まれることとなり、また、小・中学校の普通免許状取得希望者は、盲・聾・養護学校や福祉施設における介護等体験を必ず行うこととされたところであり、今後は、普通免許状取得者の特殊教育に関する理解が深まることが考えられる。
  また、教員養成大学等においては、障害のある児童生徒等の発達や学習の過程などに関する科目の開発を行ったり、授業の内容や方法の改善を図るための組織的な研修や研究の充実に努めている。採用後も、都道府県教育委員会等において、初任者研修等の中で、盲・聾・養護学校において研修を実施することを検討することが望まれる。
  なお、身体に障害のある者が教員になることは、児童生徒等の障害者に対する理解を深めるとともに他の教員の特殊教育に対する関心を深め、学校全体として障害のある児童生徒等への指導体制の充実が図られるという観点から極めて重要であり、各都道府県教育委員会は、教員免許状を保有する障害者を積極的に公立学校教員に採用することが望まれる。
  また、通級による指導を受けている児童生徒の学級担任が、通級指導担当教員と連絡を密にしながら児童生徒の特別な教育的ニーズに配慮した指導を行うことができるよう、通級による指導に関する理解や障害のある児童生徒への指導上の配慮事項などについて研修の機会を設けることが必要である。
  特に、学習障害等の児童生徒等への教育的対応について、関心が高まっており、こうした新たな課題に関する教員の理解と指導力の向上を図ることが必要となっている。
  学習障害等については、まだ実態が十分明らかになっておらず、指導方法等についての調査研究を行っている段階にあり、必ずしも指導方法が確立しているとはいえない状況である。また、地域によっては、専門の指導者も確保できない場合もある。
  このような状況から、ほとんどの都道府県等において学習障害等に関する研修が行われているが、研修日数が短く、研修内容は理解・啓発や実態把握が中心になっている。
  このため、今後、国立特殊教育総合研究所においては、学習障害等に関する専門的な研修を実施する必要がある。また、都道府県においては、国が各都道府県教育委員会に委嘱して行っている学習障害に関する専門家の巡回相談事業を活用し、事例研究などを進めることが期待される。

(5)なお、今後、国立特殊教育総合研究所を中心に、全国の特殊教育センター等が連携を図り、研修事業等に関する情報交換や研究協議等を通じて教員研修の一層の充実に寄与することが必要である。
  国立特殊教育総合研究所においては、その総合的、実践的な研究の成果を生かし、全国の特殊教育の指導者を対象とした講習会や喫緊の課題に関する研修を一層充実するとともに、全国の特殊教育に関する研修事業の情報をインターネット等を通じて提供したり、情報通信ネットワークを活用して研修の講義を配信するなど、各都道府県における研修の充実を支援することが求められている。
  都道府県の特殊教育センター等では、研修事業の充実を図るとともに、その成果を効果的に普及し、校内研修や自主的な研修を支援するため、インターネット等により研修情報や公開講座の要旨などの情報提供をしたり、マンツーマンで教員の相談に当たるなどの取組を行うことが望ましい。

 

3  特殊教育を推進するための条件整備について

1.児童生徒等の「生きる力」を育成するための教育内容や方法の多様化や、障害の重度・重複化や多様化に対応するため、教育委員会においては、盲・聾・養護学校や小・中学校等における施設のバリアフリー化を含む学校施設の整備充実に努めること。 2.盲・聾・養護学校等における特殊教育に係る設備については、新学習指導要領における改善内容に対応した教材の整備や最新の情報技術(IT)に対応した教材の整備を図ること。 3.特殊教育に関する就学奨励については、近年の社会の変化等を踏まえ、対象経費や負担割合等について関係団体等の意見を聞きながら必要な見直しを検討すること。

(1)近年、国際化や情報化などの社会の変化に対応し、児童生徒等が自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育成するため、教育内容や教育方法の多様化を工夫したり、家庭や地域との連携を促進することが求められており、学校施設の整備についても、こうした観点から改善が求められている。また、盲・聾・養護学校は、児童生徒等の障害の重度・重複化や多様化、教育内容や指導方法の変化等への対応についても求められている。このため、文部省においては、平成10年度、平成11年度に自立活動の充実、特別教室の充実、屋内運動場の車いす利用への対応など、盲・聾・養護学校の各施設の整備に必要な経費を補助する国庫の基準面積について全面的な改定を行ったところである。
  また、学校施設については、障害のある児童生徒等が支障なく学校生活を送ることができ、障害の種類と程度に応じたきめ細かな教育が展開できるようにすることが必要であることはもちろん、地域社会における学校活動や交流活動を行う場として利用される公共的な施設であることから、高齢者や障害者が円滑に利用できるよう施設のバリアフリー化を進めることが必要である。このため、国においては、盲・聾・養護学校や小・中学校等が、エレベータやスロープ等障害のある児童生徒等の学習環境を整備するための施設整備について、国庫補助の対象として必要に応じて整備を図ってきたところである。なお、今後は、就学指導の在り方の見直しに伴い、例えば、車いすを使用する肢体不自由児が小・中学校に就学する場合もあり、学校施設のバリアフリー化はますます重要となってくることが考えられる。
  さらに、児童生徒等の障害の重複化に伴う学級数の増加や高等部の生徒数の増加などにより、普通教室や職業実習にかかる施設・設備が不足している学校があるとの指摘もあり、盲・聾・養護学校の施設について、障害の状態及び特性や発達段階等に応じ必要となる学習・生活のための環境を整える必要がある。また、盲・聾・養護学校の寄宿舎は、入舎した障害のある児童生徒等が毎日の生活を営みながら、生活のリズムをつくるなど生活基盤を整え、自立し社会参加する力を培う重要な場であり、老朽化した施設・設備の改善を図るとともに、情報機器の整備等やバリアフリーの推進などを行い、居住環境の向上に十分配慮する必要がある。
  以上のような状況を踏まえて、教育委員会においては、盲・聾・養護学校や小・中学校等における施設のバリアフリー化を含め児童生徒等の教育的ニーズに応じた必要な学校施設の整備充実に努める必要がある。

(2)特殊教育に係る設備については、盲・聾・養護学校等に、スクールバスや集団補聴装置、点字器具等を整備する場合に国が補助を行ってきたが、今後、ノンステップ等の低床型のスクールバスの要望が増えることが予想される。
  また、例えば、コンピュータ等情報機器の活用や知的障害養護学校高等部の専門教科「流通・サービス」の新設など、新しい学習指導要領で改善を図った内容に対応した教材・設備を整備する必要がある。さらに、盲・聾・養護学校において、児童生徒等の特別な教育的ニーズに応じた指導を可能にするため、インターネット等を用いた情報ネットワーク環境や一人一人の障害に対応した最新の情報機器等の設備を計画的に整備することが必要である。その際、児童生徒等の障害に応じた情報機器等の整備の指針について検討する必要がある。 教育委員会においては、こうした教材等や最新の情報機器等の整備の必要性を踏まえ、これからの盲・聾・養護学校等の教育に必要な設備の充実に努める必要がある。

(3)盲・聾・養護学校や特殊学級に在籍する児童生徒については、「盲学校・聾学校及び養護学校への就学奨励に関する法律」等により、障害のある児童生徒の就学の機会が阻害されることのないよう、保護者の経済的負担能力の程度に応じて、交通費や修学旅行経費、学用品費、寄宿舎費等について、保護者が負担する経費の全部又は一部を国及び地方公共団体が負担している。本制度については、近年の社会の変化等を踏まえ、対象経費及び負担割合等について関係団体等の意見を聴取しながら必要な見直しを検討する必要がある。

(4)私立の盲・聾・養護学校等は、障害のある児童生徒等の教育に積極的に取り組み、特色ある教育を行っている。これまで国は、私立の盲・聾・養護学校の教育条件の維持向上や、児童生徒等の経済的負担の軽減を図るとともに、私立学校経営の健全性を高めるため、経常費を中心に補助を行っているが、今後、一人一人の特別なニーズに応じた教育の充実を図るため、私学助成の一層の充実を図ることが必要である。

 

4  国立特殊教育総合研究所の充実

1.国立特殊教育総合研究所は、独立行政法人に移行するに当たって、我が国の特殊教育のナショナルセンターとしての機能を高めるため、特に次のような機能を充実すること。

a.国の行政施策の企画立案及び実施に寄与する研究を行うとともに、国内外の研究機関や各都道府県の特殊教育センター、盲・聾・養護学校、小・中学校等との協力を推進すること。また、課題に応じて総合的、弾力的に研究に取組める体制を整備するとともに、特に大学等の研究機関との協力を進め、研究の深化・高度化を図ること。

b.体系的、専門的な研修の一層の充実を図るとともに、情報通信技術を活用して特殊教育に関する専門的な講義や新しい課題に対応した講義等を全国に配信するなど、各都道府県の取組を積極的に支援すること。

c.教育相談について、臨床的研究との関連を深め、相談活動の在り方や方法に関する実際的な研究を充実するとともに、インターネット等を活用して都道府県等の特殊教育センターとの間で全国的な教育相談情報の流通を促進するようなネットワークの整備を検討すること。

d.特殊教育のデーターベースを充実し、広く一般への研究成果の普及に努めること。また、教育情報衛星通信ネットワーク(エル・ネット)等を整備するなど、その情報発信機能の充実に努めること。

e.特殊教育分野の国際共同研究や国際協力事業を推進するため、引き続き、ユネスコと共催している「APEID特殊教育セミナー」の充実を図るとともに国際機関や諸外国の研究機関との連携、協力、交流を積極的に推進すること。

(1)国立特殊教育総合研究所は、昭和46年に設立された我が国唯一の特殊教育に関する総合研究所であり、実際的な研究、専門的な研修、教育相談、情報普及、国際交流等幅広い分野にわたって多くの成果を挙げている。     研究については、例えば特殊教育に関する指導内容や指導方法など、主として実際的な研究を総合的に実施してきている。具体的には、a.障害種別に組織された各研究部・室ごとの基礎的、日常的な一般研究、b.特別な研究テーマについての研究部・室の組織を超えたプロジェクトチームによる特別研究、c.国内外の特殊教育の現状や動向に関する調査研究など、これまでのべ約470課題にのぼる研究が実施されている。
  研修については、研究の成果を活かし、長期研修(1年間)及び短期研修(3か月)を行い、特殊教育関係教職員の指導者の養成と中堅教員の資質の向上に努めてきた。平成11年度までの両研修の修了者は6千4百人にのぼっている。これらの研修は、認定講習の指定を受けており、単位修得者はのべ1千6百人近くになる。また、新任の校長・教頭講習会を行うとともに、教育相談、通級による指導、学習障害など時代に応じた重要な課題について人材の養成を行い、各都道府県の特殊教育を担う教職員の専門性の向上に大きな貢献をしてきた。平成11年度までのこれらの講習会の総修了者数は、3千人を超える。
  教育相談については、家庭等からの依頼に応じて障害のある子どもの養育や教育に関する相談が行われており、平成11年度までの相談総件数は5千件を超えている。
  情報普及については、内外の大学や研究機関の研究論文集や盲・聾・養護学校等の教育実践研究論文集約8千4百種、図書、学術文献約5万冊などを収集し提供したり、特殊教育関係文献目録や特殊教育実践研究課題等のデータベース化や、インターネットによる情報提供、研究成果報告会及びセミナーの開催などが行われている。
  国際交流については、毎年1回ODA事業の一環として、日本ユネスコ国内委員会との共催により、APEID(アジア・太平洋地域教育開発計画)参加国から特殊教育の専門家を招聘して「APEID特殊教育セミナー」を開催したり、海外の研究機関と交流協定を締結し、共同研究の実施、特殊教育情報の交換、研究者の交流などを行っている。

(2)国立特殊教育総合研究所は、平成13年4月に独立行政法人に移行することになるが、独立行政法人に移行するに当たって、我が国の特殊教育のナショナルセンターとしての機能をより一層高めるために、特に次のような機能を充実する必要がある。
a.国の行政施策の企画立案及び実施に寄与する研究の推進と実践的な研究の充実
  国立特殊教育総合研究所では、今後、特殊教育をめぐる状況の変化に対応し、より質が高く、よりニーズに対応した研究を行う必要がある。
  このため、今後、国の行政施策の企画立案及び実施に寄与する研究を積極的に行うなど国との連携を引き続き図る必要がある。また、国内外の研究機関や各都道府県の特殊教育センター、盲・聾・養護学校、小・中学校等との協力を推進する必要がある。特に、大学等の研究機関との連携による共同研究等の効果的な研究体制をつくり、研究の一層の深化・高度化を図ることが必要である。
  さらに、各障害ごとに設けられている研究部・室の組織を超えて、課題に応じて総合的、弾力的に研究に取り組めるような体制を整備するとともに、競争的資金の活用、効果的な運営、業績の評価等について検討する必要がある。

b.体系的、専門的な研修の充実及び情報通信技術を活用した研修の提供
  障害の重度・重複化や多様化などから特殊教育の専門性の向上がますます求められる中で、長期研修や短期研修、様々な課題に応じた講習会などの研修プログラムを見直し、より体系的、専門的な研修の一層の充実を図る必要がある。
  また、都道府県教育委員会や特殊教育センター等が行う、特殊教育関係教職員に対する研修への支援機能を強化する必要がある。このため、情報通信技術を活用して特殊教育に関する専門的な講義や新しい課題に対応した講義等を全国に配信したり、国立特殊教育総合研究所の研究者が講師として協力するなどにより、各都道府県教育委員会等の取組を積極的に支援する必要がある。

c.教育相談活動の研究の充実と教育相談に関する情報提供
  教育相談については、臨床的研究との関連を深め、相談活動の在り方や方法に関する実際的な研究を充実するとともに、インターネット等を活用して都道府県等の特殊教育センターとの間で研究成果の普及及び全国的な教育相談情報の流通を促進するようなネットワークの整備を検討する必要がある。その際、平成17年度を目標として開発中の「教育情報ナショナルセンター」(教育情報ポータルサイト)との連携も考慮する必要がある。

d.情報発信機能の充実
  都道府県教育委員会や特殊教育センターあるいは盲・聾・養護学校等においては、特色ある事業を実践したり、豊かな教育実践を展開する上で、国の情報提供・発信機能の充実に期待する声が多い。国立特殊教育総合研究所は、このような要望に応えるため、特殊教育の改善・充実に関わる種々の研究成果や盲・聾・養護学校等の創意工夫した取組を積極的に情報収集したり、教育現場での様々なニーズを常に把握しながら、特殊教育のデーターベースを充実し、広く一般への研究成果の普及に努めることが必要である。
  また、教育情報衛星通信ネットワーク(エル・ネット)等を整備するなど情報発信機能の充実に努める必要がある。  

e.国際交流、国際協力の推進
  国立特殊教育総合研究所は、特殊教育分野の国際共同研究や国際協力事業を推進するため、今後も引き続き、ユネスコと共催している「APEID特殊教育セミナー」の充実を図るとともに、国際機関や諸外国の研究機関との連携、協力、交流を積極的に推進することが必要である。

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