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21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議

2001/1 答申等
21世紀の特殊教育の在り方について〜一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り方について〜 (最終報告)

第1章  今後の特殊教育の在り方についての基本的な考え方

1  我が国の特殊教育の発展
  我が国の特殊教育制度は、昭和22年に制定された学校教育法において、盲学校、聾学校、養護学校(以下「盲・聾・養護学校」という。)、特殊学級が明確に位置付けられ、昭和23年度から盲学校及び聾学校教育の義務制が開始され、昭和31年度には、義務制が完成した。一方、養護学校についても着実に整備が図られ、昭和54年からは養護学校教育の義務制が実施された。また、同年、障害のため通学して教育を受けることが困難な盲・聾・養護学校小学部、中学部の児童生徒に対して、養護学校等の教員が家庭や医療機関等を訪問して教育を行う「訪問教育」が実施された。この養護学校教育の義務制と訪問教育の実施を境に、障害を理由とする就学猶予・免除者が減少している。その後、平成5年度には、通常の学級に在籍する軽度の障害のある児童生徒が通常の学級で教科等の授業を受けながら、特別の指導を特別の場で行う「通級による指導」が実施された。さらに、平成12年度からは養護学校等の高等部でも訪問教育が本格実施されることとなった。
  こうした取組により、平成12年度には、全国に盲・聾・養護学校は992校、幼児児童生徒数は約9万人、小・中学校の特殊学級設置校は約1万8千校(全体の50%)で、学級数は約2万6千学級、児童生徒数は約7万3千人、通級による指導の対象児童生徒数は約2万8千人となっている。特殊教育対象の幼児児童生徒数は約19万1千人で全幼児児童生徒数の約1%であり、このうち、義務教育段階は約15万人で全学齢児童生徒数の約1.3%となっている。
  このように、特殊教育の制度が整備されてきており、障害のある児童生徒等が、自己の持つ能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し、社会参加するための基盤となる力を身に付けるための自立活動の指導や、小・中学校の児童生徒や地域の人々と活動を共にする交流教育の積極的な推進が図られている。

2  今後の特殊教育の在り方についての基本的な考え方
  特殊教育については、これまで児童生徒等の障害の種類、程度に応じて特別の配慮の下に手厚くきめ細かな教育を行うため、盲・聾・養護学校や特殊学級などの整備充実に努めてきたところである。
  しかし、近年、ノーマライゼーションの進展や障害の重度・重複化や多様化、教育の地方分権など特殊教育をめぐる状況の変化が生じており、 以下に詳しく述べるように、これからの特殊教育は、障害のある児童生徒等の視点に立って一人一人のニーズを把握し、必要な支援を行うという考えに基づいて対応を図る必要がある。

(1)ノーマライゼーションの進展に向け、障害のある児童生徒等の自立と社会参加を社会全体として、生涯にわたって支援する。

  政府は、ノーマライゼーションの理念の実現に向けて「『障害者対策に関する新長期計画』−全員参加の社会づくりをめざして−」を策定し、教育、福祉、医療、労働等の分野において様々な取組を進めている。平成5年には、障害者の自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動への参加の一層の促進を図るため、「心身障害者対策基本法」を「障害者基本法」に改正したところである。
  今後、障害のある者と障害のない者が同じ社会に生きる人間としてお互いを正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことが大切である。このような考え方の下に、障害のある児童生徒等が、地域社会の一員として、生涯にわたって様々な人々と交流し、主体的に社会参加しながら心豊かに生きていくことができるようにするためには、教育、福祉、医療、労働等の各分野が一体となって社会全体として、当該児童生徒等の自立を生涯にわたって支援していく体制を整備することが必要である。
  障害のある児童生徒等の教育についても、その児童生徒等が持つ能力や可能性を最大限に伸ばし、将来、社会的に自立し、社会参加することができるよう、その基盤となる「生きる力」を培うために、福祉、医療、労働等との連携を強化し、社会全体の様々な機能を活用して障害のある児童生徒等の教育の充実に努める必要がある。
  例えば、盲・聾・養護学校の児童生徒等にとっては、地域社会の中で積極的に活動し、その一員として豊かに生きることができるよう、地域の同世代の子どもや人々との交流を行うことなど地域での生活基盤を形成することが求められている。
  また、障害のある者が学校卒業後、地域の中で自立し、社会参加するためには、教育と福祉、医療、労働等との連携の下に、盲・聾・養護学校や福祉関係施設等において、障害のある者のための生涯学習の機会や就労支援、生活支援などを充実していくことが必要である。

2)教育、福祉、医療、労働等が一体となって乳幼児期から学校卒業後まで障害のある子ども及びその保護者等に対する相談及び支援を行う体制を整備する。

  障害のある子どもに対する特別な支援を適切に行うためには、一人一人の自立を目指し、乳幼児期から学校卒業後にわたって、教育、福祉、医療、労働等が一体となって、障害のある子ども及びその保護者等に対する相談と支援を行うための一貫した体制を整備することが必要である。
  このような相談支援体制を整備するとともに、教育、福祉、医療等の関係者で構成する特別の相談支援チームのような組織を作り、保護者等からの教育・発達相談にきめ細かく対応することによって、保護者等はもちろん、教育、福祉、医療等の関係者の間で、子どもの障害の状態を正確に把握し、子どものもつ能力や可能性を最大限に伸ばしていくためにはどのように接していくのがいいのか、どのような教育や医療、福祉などの支援が必要であり、また可能かといった特別な支援の内容に関する共通理解が図られることとなる。
  また、教育、福祉、医療、労働等の関係者で構成する特別の相談支援チームは、個人情報の適切な取扱いに配慮しつつ、こうした教育・発達相談の記録をファイルするなど継続的に活用し、教育・発達相談を積み重ねていくことによって、保護者や子どもと関係者の間で相互理解と相互信頼が培われ、乳幼児期から学校卒業後にわたるそれぞれの段階で、その子どもに適し、かつ、可能な教育や医療、福祉、労働等の具体的な支援の内容が選択されることとなる。
  さらに、子どもに対する特別な支援が行われた後、各分野の関係機関等がその子どもに対して選択された内容が真に適していたかどうかの評価を適切に行い、その評価の結果に基づいて、保護者や子どもと特別の相談支援チームの間で、更に教育・発達相談が行われ、次の支援の選択に生かしていくこととなる。
  以上のように、障害のある子ども一人一人の特別のニーズを把握し、必要な支援を行うため、教育、福祉、医療、労働等が一体となった相談支援体制を整備し、乳幼児期から学校卒業後にわたって、障害のある子どもやその保護者等に対して相談と支援を行うことが必要である。

(3)障害の重度・重複化や多様化を踏まえ、盲・聾・養護学校等における教育を充実するとともに、通常の学級の特別な教育的支援を必要とする児童生徒等に積極的に対応する。

  最近の特殊教育をめぐる状況としては、児童生徒等の障害の重度・重複化や多様化、早期からの教育的対応の必要性の高まり、高等部への進学率の上昇、卒業後の進路の多様化等が進んでいることが挙げられる。
  これまで、昭和54年に養護学校の義務制が実施され全国的な養護学校の整備充実が図られる中で、重度・重複障害の児童生徒の養護学校への就学が進んだことから、訪問教育の充実や医療、福祉等と連携した重度・重複障害児への指導内容、方法の充実に努めてきたところである。
  しかし、近年、盲・聾・養護学校においては、移動、食事、排泄、衣服の着脱等に際して全面的に介助が必要になるなど、障害の重い者の割合が増しているほか、言語障害や情緒障害などを含む二つ以上の障害を併せ有する者の割合が増加している。さらに、盲・聾・養護学校は乳幼児期の教育的対応や学校卒業後の相談が求められているが、就学前の乳幼児に対する相談については、福祉、医療により行われることが多く、卒業後の就労や社会参加等については、これまで福祉、医療、労働等において対応されることが多く、教育との連携に欠けることもあった。
  このため、今後、卒業後の職業的自立や社会的自立の実現のため、福祉、医療、労働等との連携を十分に図り、盲・聾・養護学校等における教育を充実することが必要である。
  また、小・中学校の通常の学級に在籍する軽度の障害のある児童生徒に対しては、平成5年に、学校教育法施行規則に通級による指導が規定され、通常の学級に在籍しながら、特別な指導を行うことが可能になった。更に、今日、小・中学校等の通常の学級に在籍する学習障害児や注意欠陥/多動性障害(ADHD)児、高機能自閉症児等特別な教育的支援を必要とする児童生徒等への対応が求められるようになった。
  しかし、これについては、特殊教育が、これまで盲・聾・養護学校や特殊学級等に就学する児童生徒への教育が中心であったため、必ずしも十分には対応できていない。 このため、小・中学校等の通常の学級に在籍する学習障害児や注意欠陥/多動性障害(ADHD)児、高機能自閉症児等特別な教育的支援を必要とする児童生徒等に対しても積極的に対応していく必要がある。

(4)児童生徒の特別な教育的ニーズを把握し、必要な教育的支援を行うため、就学指導の在り方を改善する。

  これまでの特殊教育は、盲・聾・養護学校や特殊学級などの特別な場において、障害の種類、程度に応じた適切な教育を行うという考え方に基づいていた。しかし、これからの特殊教育は、児童生徒等の障害の重度・重複化や多様化及び社会の変化等を踏まえ、一人一人の能力を最大限に伸ばし、自立や社会参加するための基盤となる「生きる力」を培うため、障害のある児童生徒等の視点に立って児童生徒等の特別な教育的ニーズを把握し、必要な教育的支援を行うという考え方に転換する必要がある。
  障害のある児童生徒の就学すべき学校の指定については、学校教育法施行令第22条の3に規定する盲学校・聾学校・養護学校に就学すべき児童生徒の障害の程度に関する基準(以下「就学基準」という。)に基づいて判断される。しかし、近年、視覚補助具、補聴器、補装具等の性能の向上などの医学・科学技術の進歩や学校施設の整備充実が図られてきたこともあり、適切な条件が整えられる場合には、通常の教育において対応することが可能な例も見られるようになってきている。
  また、平成12年4月にいわゆる地方分権一括法が施行されたことにより、児童生徒の就学に関する事務については、国の機関委任事務から地方の自治事務に変更され、就学すべき学校の指定は、法令に基づき教育委員会の判断と責任において行うこととなっている。
  今後、児童生徒の特別な教育的ニーズを把握し、必要な教育的支援を行うため、国においては、医学、科学技術等の進歩を踏まえ、教育的、心理学的、医学的な観点から盲・聾・養護学校への就学基準を見直すとともに、市町村教育委員会が、障害の種類、程度の判断だけでなく、地域や学校の状況、児童生徒への支援の内容、本人や保護者の意見等を総合的な観点から判断し、小・中学校において適切な教育を受けることができる合理的な理由がある特別な場合には、小・中学校へ就学させることができるよう就学手続きを見直していくことが必要である。また、都道府県教育委員会においては、盲・聾・養護学校への適切な就学指導を行うとともに、市町村教育委員会の就学指導体制や相談支援体制の整備充実を支援することが必要である。

(5)学校や地域における魅力と特色ある教育活動等を促進するため、特殊教育に関する制度を見直し、市町村や学校に対する支援を充実する。

  障害のある児童生徒等の視点に立って一人一人の特別なニーズを把握し、必要な支援を行うためには、各学校において地域の状況を踏まえて魅力と特色ある教育活動が行われるとともに、地域全体として障害のある児童生徒等の自立を支援していくような取組が展開されることが必要である。
  我が国の教育行政においては、国の定める制度の基本的な枠組みの下で、国、都道府県、市町村が連携協力して教育の機会均等とその水準の維持向上が図られてきたが、近年、様々な行政分野にわたって地方分権を推進するための取組が進められている。
  特殊教育においても、各学校や地域における主体的かつ積極的な活動を促進する観点に立って、特殊教育に関する行政の仕組みや制度の在り方を見直すとともに、国や都道府県による市町村や各学校に対する支援を充実することが必要である。
  具体的には、市町村教育委員会が、児童生徒の特別な教育的支援の必要性を総合的な観点から判断して適切な就学指導ができるように、就学手続き等の見直しや就学指導委員会の機能の充実、相談支援体制の整備充実を図るとともに、国及び都道府県教育委員会は、それを支援していくことが必要である。
  また、盲・聾・養護学校や小・中学校等において、学校の自主性、自律性を確立し、校長のリーダーシップの下に、児童生徒等の実態や地域の状況に応じた魅力と特色ある教育活動を展開することができるよう、関連する制度の見直しや運用の在り方を検討することが必要である。特に、盲・聾・養護学校は、その専門性や障害に応じた施設・設備を生かして地域の特殊教育のセンターとしての機能を充実することが望ましい。
  更に、特殊教育関係教職員の専門性の向上を図るため、 国や都道府県教育委員会等が協力して、すべての盲・聾・養護学校の教員が特殊教育教諭免許状を保有することを目指した取組を進めるとともに、様々な課題に応じた研修の充実を図る必要がある。 なお、市町村教育委員会が主体的に施策を実施したり、各学校が自主的に教育活 動を行うことに伴い、教育委員会や学校はその経営責任を明確にすることが求められる。
  このため、各学校は、学校運営や教育課程等の実施状況について自己点検・自己評価を行い、その結果を保護者や地域の人々に説明し、その意見を聞いて絶えず学校運営や教育課程等の見直しを行い、地域に開かれた特色ある学校づくりに努める必要がある。また、教育委員会は、各学校が自己点検・自己評価した結果を把握し、学校教育の改善・充実に生かしていくことが重要である。

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