平成9年10月3日
目 次はじめに 第1章 情報教育の現状
第2章 これからの学校教育の在り方と情報教育の役割
第3章 次期学習指導要領の改訂に向けた提言
今後の課題等 要項&メンバーはじめに(情報化社会の進展) 高度情報通信社会という言葉に違和感がなくなるほど,昨今の情報化の進展は著しく,我々の生活様式のみならず社会の様々なシステムを変更しつつある。その中で,我々人間が日常的に行っている様々な活動の多くが,結局は,情報の交換や処理にほかならないことを考えれば,今後の社会においては,一人ひとりが情報を効率的に収集したり,入手した情報を最大限に活用できる方法を考え,実践できることがまず第一に必要となってくる。 (情報化の進展に対応した教育の必要性) こうした情報化の進展に学校も適切に対応していかなければならない。特に,21世紀の社会を築いていく子供たちに,高度情報通信社会の中で主体的に生きぬいていく力を身につけさせることは,これからの学校教育に課せられた重要な課題である。もちろん,社会の様々かつ急速な変化に対して,学校教育でどこまで対応すべきかについては,慎重な判断が求められる。すなわち,情報技術の進歩のスピードは著しく,社会経済上の要請から,情報教育の重要性が一層強調されているが,学校教育として,常に情報化の最先端を取り扱う必要はないのであって,学校教育としてふさわしくかつ評価の定まった内容を取り上げるという視点が大切である。 (第15期中央教育審議会第一次答申「情報化と教育」) 平成8年7月に出された第15期中央教育審議会第一次答申(以下「中教審答申」という。)においても,情報化に適切に対応した教育の充実を提言している。答申では,これからの高度情報通信社会において,子供たちにどのような教育が必要か,高度に発達したコンピュータや情報通信ネットワークをどのように教育に生かすかという観点から,各学校段階を通じた系統的,体系的な情報教育の実施により,情報リテラシー(情報活用能力)の育成を図ること,情報機器や情報通信ネットワーク環境を整え,高機能化・高度化した「新しい学校」を創造すること,情報化の進展がもたらす「光と影」に適切に対応すること,などを提言している。 (協力者会議の趣旨,役割等) 本協力者会議は,平成8年10月に発足し,中教審答申等を踏まえて,情報化の進展に対応した,これからの初等中等教育における情報教育の推進方策等について,普通教育としての情報教育の内容,指導体制,情報関連施設・設備の在り方など,幅広い観点から検討し,具体的な提言をまとめることが求められている。 今回の第1次報告では,主として情報化の進展に対応して,子供たちにどのような能力を育成すべきか,そのための系統的,体系的な教育課程の在り方はどのようにあるべきかを中心としてまとめることとした。 なお,情報教育を支える環境や条件整備など,残された課題についても,今後,順次検討を進め,逐次報告としてまとめる予定である。 第1章 情報教育の現状1 現行学習指導要領における情報教育の位置づけ(「情報活用能力」) 臨時教育審議会(昭59.9〜62.8),教育課程審議会(昭60.9〜62.12)及び情報化社会に対応する初等中等教育の在り方に関する調査研究協力者会議(昭60.1〜平2.3)での検討を経て,将来の高度情報社会を生きる子供たちに育成すべき能力という観点から,これからの学校教育においては,「情報活用能力」を育成することが重要であるとの考え方が示された。 (「情報活用能力」の具体化) 「情報活用能力」という概念は,諸外国で「情報リテラシー」と呼んでいる概念に対応するものとして,臨時教育審議会第二次答申(昭61.4)で初めて用いられた。そこでは,「情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的な資質」を指すものとし,「読み,書き,算盤」と並ぶ基礎・基本として位置づけ,学校教育においてその育成を図ることが提言された。その後,教育課程の編成・実施に向けて「情報活用能力」の具体的な内容についての検討が重ねられ,今日では,文部省が平成3年7月に作成した「情報教育に関する手引」(以下「手引」とする。)に,次の4つの内容で整理されている。 i) 情報の判断,選択,整理,処理能力及び新たな情報の創造,伝達能力 ii) 情報化社会の特質,情報化の社会や人間に対する影響の理解 iii) 情報の重要性の認識,情報に対する責任感 iv) 情報科学の基礎及び情報手段(特にコンピュータ)の特徴の理解, 基本的な操作能力の習得 (現行の教育課程上の情報教育の扱い) 情報教育については,現行学習指導要領では,コンピュータ等に関することを中心として規定しており,各学校段階別では概ね次のような取り扱いとなっている。 小学校段階においては,教具としての教育機器の活用を通してコンピュータ等に触れ,慣れ親しませることを基本方針としており,特定の教科や領域は設けられていない。 中学校段階においては,技術・家庭科の新たな選択領域として「情報基礎」を設置し,年間20〜30時間程度扱えるようにするとともに,社会科,数学科,理科,保健体育科の各教科で関連する内容を示したり,コンピュータ等の効果的な活用を求めたりしている。 高等学校段階の普通教育においては,数学科,理科,家庭科等にコンピュータ等に関する内容を取り入れており,また,学習指導要領に示す教科・科目以外に情報に関する教科・科目を設置者の判断で設けることができる。職業に関する各教科には,それぞれ情報に関する科目が取り入れられており,普通科においても,地域や学校の実態等に応じて,これらの科目の履修の機会を設けることができる。 盲学校,聾学校及び養護学校の特殊教育諸学校においては,小学校,中学校,高等学校の各段階における扱いに準じているほか,盲学校及び聾学校の高等部で独自に示している職業に関する教科において,情報に関する基礎的科目を位置づけている。 (効果的学習指導のための情報手段の活用) 現行学習指導要領では,総則や各教科・科目の指導計画作成上の配慮事項の中で,教育機器などの適切な活用を求めており,この規定によって教育活動の中でコンピュータ等が活用されることを促している。この場合の情報手段の活用は,各教科・科目の目標をより効果的に達成するとともに,子供たちの「情報活用能力」の育成を明確に意識して行う必要がある。 2 情報教育の実施状況(小学校の状況) 小学校では,扱うべきコンピュータ等を中心とした情報教育の内容が学習指導要領上に明示されていないため,一部の学校で,クラブ活動や学校裁量の時間を活用して積極的に取り組んでいる例がある一方,コンピュータが1台もない学校も9.3%あり(平成9年3月末現在の文部省調査による。以下調査時点同じ。),情報教育の取り組みに大きな学校差が生じている。子供主体の学習活動が,「情報活用能力」の育成という観点からも統合的,総合的に進められている学校がある一方,算数のドリル計算や国語の漢字練習などで,単に,コンピュータに触れる機会を提供することにとどまっている学校もある。なお,現在,コンピュータを所有する学校1校当たりの平均設置台数は,8.5台であるが,平成 11年を目途として児童2人に1台を水準(1校当たり22台)とする新しい整備計画が進められている。 (中学校の状況) 中学校では,技術・家庭科「情報基礎」領域を核として情報教育が行われている。この領域は選択領域であるが,平成8年度の調査によれば94%の学校で履修されている。ただし,第3学年で履修する学校が83%であるため,「情報基礎」の学習成果が,他教科の学習に生かせていないとの指摘がある。また,平均的な履修時間数が25単位時間程度であり,ほとんどの時間が機器の操作やソフトウェアの利用の指導に充てられている。 (高等学校の状況) 高等学校では,数学や理科の各科目において積極的にコンピュータ等が活用されている例があるが,学校教育活動全体を通じて活用するという段階には至っていない。また,普通科に情報に関する科目を設置している場合には,職業に関する教科である商業科の「情報処理」を設置している例が多いが,数学や理科などのその他の科目として情報に関する科目を設けている例や,普通教育に関するその他の教科・科目として情報に関する教科・科目を設けている例もある。なお,職業学科,総合学科においては,情報に関する基礎的科目は原則履修科目となっている。 (特殊教育諸学校の状況) 特殊教育諸学校においては,障害のある子供たちの障害に基づく種々の困難を克服し,学習を支援する道具として,情報機器や情報通信ネットワークを活用することが有効であり,それらを適切に活用することができる態度,知識,技能を育成することがすなわち「生きる力」の育成につながる。これまでの単なるコンピュータ単体としての活用から,ネットワークによって社会と直接的につながったコンピュータの活用へと進展することにより,社会参加の機会を拡大するという意味で,障害のある子供たちにとっての情報機器等の持つ可能性,重要性は,極めて大きいと考えられる。こうした観点から特殊教育諸学校の状況を見ると,コンピュータの平均設置台数は,1校当たり8台という新整備計画の水準を達成しており,今後は,ネットワーク環境の充実が望まれる。 3 情報教育を進める上での課題(情報教育の内容とその体系の明確化) 「情報活用能力」を育成する場面としては,中学校や高等学校の一部の教科等のように,その教科等の具体的内容として明示され,指導されている場合と,各教科等の指導を効果的に行う上で情報手段を活用し,その機会を通して,子供たちが情報機器に触れ,慣れ親しむことが期待される場合とがある。ここでの一つの問題は,単に,情報機器に触れ,慣れ親しむことで,「情報活用能力」の育成がどこまで達成されるのかが不明確な点である。それは,教員がどこまで「情報活用能力」の育成を意識して指導しているか,また,教員が機器を活用するのか,子供たちが活用するのか,どのようなソフトウェアをどのような学習の中で活用するのか,などによっても大きく左右されるであろう。 本協力者会議では,中教審答申に提言された系統的,体系的な情報教育の実施に向け,次期学習指導要領改訂に資する情報教育の内容の体系を明確にすることが優先的な課題であると考えた。 (学習指導要領上の課題) 現行の学習指導要領では,様々な教科等に情報教育に関する内容が含まれているが,多くの場合には選択的な扱いとなっていたり,学校段階の間でも教科等の間でも,内容の重複や,場合によっては内容の程度や順序性に逆転現象も見られる。子供たちに育成すべき「情報活用能力」を限られた時間枠の中でより効果的,系統的に指導し,情報教育の体系に沿ってその目標達成を図るという観点から,学習指導要領上での扱いを検討する必要がある。 (指導者側の課題) 情報教育の充実を図るためには,学習指導要領上での扱いの明確化と同時に,担当教員の資質の向上が重要である。実態調査によると,全教員に占めるコンピュータ等の指導ができる教員の割合は,小学校,中学校,高等学校及び特殊教育諸学校のそれぞれで,16.7%,22.7%,23.8%,12.0%となっており,全体の平均は19.7%である。このことは,学校教育活動全体を通した取り組みの要請と,現実とのギャップとを示す一つの側面といえる。教員の資質向上に関しては,教員養成,研修制度上での位置づけの明確化が重要であるが,教員養成,研修制度そのものが,学校教育の教科,内容構成に基づいており,教員養成系大学・学部の教員構成もそれに準じているという実態も考慮しなければならない。学習指導要領の検討に際しては,現在の教員の資質向上策を講じると同時に,さらに教員養成段階を見通した情報教育実施のための人材の養成・確保という観点からの検討も必要である。 (学校における情報環境整備上の課題) 情報環境の整備については,現行学習指導要領が告示された平成元年当時の状況(コンピュータの設置率が,小学校,中学校,高等学校,特殊教育諸学校でそれぞれ,30.9%,58.9%,97.8%,71.0%,設置校当たりの平均設置台数が,それぞれ,3.1台,5.5台,29.8台,4.1台)から大幅に改善され,すでに,ほぼすべての中学校,高等学校,特殊教育諸学校に,それぞれ平均して25台,67台,10台のコンピュータが配置されており,小学校においては前述のとおり整備が進められている。今後は,地域・学校間の量的,質的格差を解消するための整備の継続や,機種更新の円滑化を図るとともに,情報教育の内容に対応した情報通信ネットワーク等の整備,学習活動に即した情報環境のデザインの在り方,良質の学習ソフトウェアの整備や活用法等についての検討が必要である。 なお,このような情報環境の整備については,各学校段階における情報教育の内容の扱い方を踏まえて議論する必要があり,今後の課題として,この第1次報告以降に順次検討することとしたい。 4 情報教育の内容の体系化の視点情報教育の内容とその体系の明確化を図る上で,前述のように課題や新たな状況が生まれていることを踏まえて,次のような視点で整理することが適切であると考える。 第一に,情報教育で育成すべき「情報活用能力」の範囲を,これからの高度情報通信社会に生きるすべての子供たちが備えるべき資質という観点から明確にする必要がある。そのためには,情報化の進展の方向性を展望し,生涯学習社会を見据えた上で,学校教育で扱っておかねばならない範囲とはどこまでか,日常生活を送る上でも,あるいはどのような職業に就く上でも欠かせない,例えば,あふれる情報に翻弄されることなく的確に情報を判断し,活用する上で必要な知識,技能とは何かを明らかにすることが必要である。 この際,情報教育で育成する「情報活用能力」と,これからの学校教育で育成する「生きる力」との関係を明らかにし,教員ができるだけ統一的な視点で指導に取り組めるようにすることも大切である。また,情報通信ネットワークやマルチメディア技術の発達など,情報化の進展は著しいが,社会の変化にかかわらず,すべての子供たちが身につけておくべき基礎・基本の内容と,その発展的位置づけとして,子供たちの興味・関心に応じて選択的に学習できる内容を示すことも重要である。さらに,情報教育に関しては,情報化の光と影の両面に配慮することが重要であるが,情報化の進展が世界的規模で急速に進んでいることから,情報化の影の影響を克服し,望ましい情報化社会の創造に進んで参画できる主体的な人間の育成がより重要になっていると考える。 第二に,情報教育で育成すべき「情報活用能力」と,各教科の目標・内容との関連性を明らかにすることが必要である。「手引」では,「情報活用能力」の育成には各学校段階で多くの教科等が関連していることが指摘されている。このような関連する教科で横断的,総合的に指導するためには,関係するすべての教員が指導に必要な資質を身につけた上で,教科間の連携を考慮した指導計画を立て,各教科等の目標達成を通じて情報教育の目標が達成されるようそれぞれの授業を行う必要がある。しかし,連携のための明確な指針や具体的な方策がなければ,単に学校や教員の負担が増えるだけで,体系的な情報教育の実施は事実上困難である。完全学校週5日制の実施を念頭に,次期学習指導要領においては,情報教育の核となる教科等を設定し,必要な資質を十分に備えた教員を確保した上で,情報教育を推し進める必要がある。その際,各教科等においてはその特性に応じ,情報教育の核となる教科等との連携の下に,「情報活用能力」の育成を図ることが重要である。 第三に,情報教育で育成すべき「情報活用能力」を,発達段階や各教科の学習状況との関わりで,学校段階・学年段階別に系統的,体系的に示すことが必要である。今の子供たちは,小学校入学以前からテレビゲームやコンピュータゲームなどに触れる機会が多く,また,コンピュータ等の操作に習熟する速さは,大人以上といわれる。このような状況を考える時,子供たちの情報や情報手段に対する意識や態度が,極めて個人的で偏った体験に基づいて形成されることが懸念される。これからの高度情報通信社会を担う子供たちに,その発達段階に応じて,情報や情報手段に対する的確な理解とその活用の在り方を系統的,体系的に指導し,適切な実践体験を積ませることが必要である。 第2章 これからの学校教育の在り方と情報教育の役割1 情報教育の目標(情報教育の目標) 本協力者会議では,第1章で述べた情報教育の現状を踏まえつつ,これからの社会においては,様々な情報や情報手段に翻弄されることなく,情報化の進展に主体的に対応できる能力をすべての子供たちに育成することが重要であると考えた。そこで,これまでの「情報活用能力」の内容との関わりも検討した上で,今後の初等中等教育段階における情報教育で育成すべき「情報活用能力」を以下のように焦点化し,系統的,体系的な情報教育の目標として位置づけることを提案する。 情報教育の目標 (1) 課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて,必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し,受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力 (以下,「情報活用の実践力」と略称する。) (2) 情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と,情報を適切に扱ったり,自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解 (以下,「情報の科学的な理解」と略称する。) (3) 社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し,情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え,望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度 (以下,「情報社会に参画する態度」と略称する。) なお,実際の学習活動では,情報手段を具体的に活用する体験が必要であり,必要最小限の基本操作の習得にも配慮する必要がある。(ここでいう情報手段は,コンピュータ等の情報機器や情報通信ネットワーク等を指す。) (「生きる力」の育成と「情報活用の実践力」) 「生きる力」の柱の一つは,「自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力」である。これは,言い換えると自己教育力や主体的問題解決能力と表現することができる。また,「あふれる情報の中から,自分に本当に必要な情報を選択し,主体的に自らの考えを築き上げていく力」も「生きる力」の重要な要素とされている。これらの力は,情報教育の目標である「情報活用の実践力」として具体的に育成できると期待される。 また,「自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性」は,感性,人間性,社会性などの側面であり,家庭や学校などでの人と人との交わりや,自然や社会の現実に触れる体験を通して培われる。そのためには,コミュニケーションや表現活動が重要な役割を担うと考えることができる。 (情報活用の基礎・基本となる「情報の科学的な理解」) 自己教育力や問題解決能力,表現・コミュニケーション能力については,これまでも学校教育において各教科等でその育成を目指してきた。「生きる力」を育成するためには,それらの能力の育成を一層充実させる必要がある。そのために情報教育が果たすべき役割は,「情報活用の実践力」を体験重視で育成することはもとより,情報に関わる学問(情報学)の成果を適切に教育内容や教育方法に取り入れ,情報活用の経験と情報学の基礎的理論と手法とを結びつけさせることで,「情報活用の実践力」の深化,定着を図ることであり,さらに,様々な情報手段に共通の原理や仕組みを理解させることで,その能力の一般化と一層の向上を図ることである。なお,ここでいう情報学は,従来のコンピュータや情報通信などの分野を中心とした情報科学に,人間科学や人文社会学等への学際的な広がりを持った学問である。 例えば,人間の問題解決はしばしば試行錯誤的であるが,シミュレーション手法を活用することにより,今日では,環境問題や都市計画,経済活動など,科学技術から社会的事象に至るまで,あらゆる分野の問題解決に係る研究が極めて効率的かつ効果的に行えるようになってきた。このシミュレーション手法を活用するためには,対象を目的に応じて適切にモデル化し,その結果の信頼性や有効範囲などを評価する能力が必要である。情報学は,そのための基礎的・基本的な考え方を提供する。 また,人間は,しばしば誤解や勘違い,もの忘れをする。これに対して,人間の認知的特性を研究対象とする分野は,人間の学習や思考,コミュニケーションの特性を解明し,人間の優れた特性の生かし方や弱点の克服の仕方を示唆する。これらに基づいた知識,技能を身につけることは,問題解決能力や自己教育力,効果的な表現・コミュニケーション能力を習得したり,情報手段を適切に活用する能力を習得する上でも極めて有効である。 さらに,コンピュータ等の情報機器の普及や情報通信ネットワークの急速な広まりに対応して,その基本的仕組みを理解し,適切な活用方法を知ることは,生涯学習社会における自己教育力を身につけることにつながるだけでなく,国際理解教育や環境教育などで世界的規模での交流が必要となる場合には,学習手段を格段に拡げることになる。また,障害のある子供たちにとっては,積極的に社会に参加する機会を拡大し,また,他の子供たちとの交流学習の機会を広げる。 (健全な社会建設のための「情報社会に参画する態度」) 情報化の進展による影響には,光の部分だけでなく影の部分がある。様々なメディアを通して得られる情報の中には,誤った情報や作為的に加工された情報も含まれている可能性があり,必要な情報を主体的に収集し,的確に判断するためには,それらの情報がどのような過程を経て収集,処理,加工,伝達されているのか,その仕組みの理解や,それに関わる情報手段や人間の特性の理解が重要である。そして,そのような知識の上に立って,その情報を信頼して判断し,行動したときに負うリスクや責任を知ることも,自己責任がより強調される今後の社会では極めて重要である。 例えば,電子メールは,その便利さと裏腹に,誤った情報が広がる可能性も高い。何らかの情報を受け取ったときに,その真偽を判断する方法を身につけていないと,デマに惑わされ,気づかないうちにその拡大に加担してしまうこともある。その一方で,情報通信ネットワークを活用すれば,これまでマスメディア等を通して間接的にしか得られなかった様々な情報が簡単に入手できる。情報源の違う情報を比較することができれば,情報を正しく判断したり,批判する能力を身につけることができ,情報化の影の影響を克服して,一人ひとりが健全な社会の創造に参加することも期待できよう。 もちろん,我々は,より豊かな社会の実現を目指して情報手段を活用するのであり,情報手段に依存し過ぎて,バーチャルな世界と現実の世界との区別がつかなくなったり,処理された情報を疑うことなく信じ込んだり,人間が機械に使われるかのような状況はあってはならない。直接体験と間接体験,事実と解釈,切り取られたり加工された情報と生の情報を見分ける感覚の育成が大切であり,また,人間が機械を活用するという視点を見失うことのないようにすることも極めて重要である。 (3つの能力の関連性) ここでは,「情報活用能力」を3つに分類したが,それらは独立のものとして扱うのではなく,相互に関連づけることが重要である。例えば,情報手段を適切に活用するためには,目の前の情報手段のみに目を奪われることなく,その機能や特性,効果などを正しく理解することが重要であることは既に述べた。逆に,情報学の基礎的理論や手法を習得しても,それを必要なときに活用できる実践的能力が身についていなければ意味がない。情報化社会の影の影響を知ることは大切であるが,単にそれを強調するだけでは適切な情報手段の活用は期待できない。それを克服するためには,情報手段の原理や仕組みを理解し,どのようなときにどのように活用して情報を判断・処理したらよいかを身につけることが重要である。 2 発達段階に応じたカリキュラム編成「情報活用能力」の3つの柱を相互に関連づけ,発達段階や他教科等の学習とも関連づけて効果的に育成するため,系統的,体系的な情報教育カリキュラムの編成が必要である。 本協力者会議では,子供たちの発達的特徴を踏まえた情報教育の在り方を以下のようにすることが望ましいと考えた。 (小学校の発達段階) 小学校低学年では,集団生活や仲間との遊びを通じて集団の一員として行動できるようになり,また,空想的な世界に興味を持っている。この時期には,直接体験や経験を重視し,疑似体験と実体験との違いに気づかせて本物感覚を育成することが必要である。情報機器には,遊び的な活動を通して触れ,親しませることが適当である。 小学校中学年では,学校生活にも慣れ,集団の規則や遊びのきまりの意義を理解して,集団目標の達成のために主体的に学習活動に関わったり,共同作業ができるようになる。したがって,この時期は,グループによる具体的な問題解決,表現活動を設定するのに適している。情報手段を道具として使う第一段階と捉えることができる。 小学校高学年では,自分の行為を自分の判断で決定しようとするようになり,それに伴い責任感や批判力もでてくる。また,抽象的,論理的思考がめばえ,行為の結果だけでなく,行為の動機や過程も考えられるようになる。このため,この時期には,課題解決学習等を設定するのに適しており,そのような活動における情報手段の活用を体験させるとよいであろう。また,学習の手段等を徐々に主体的に決定させ,その結果を自己評価させるような指導も取り入れることが可能になるため,与える情報や情報手段の数を複数にし,その中から選択させる活動を取り入れていくことができる。 (中学校の発達段階) 中学校段階では,個性や主張がはっきりして,論理的に考えたり,考えたことや調べたことを整理して発表することができるようになる。また,抽象的,論理的な理解や,批判的なものの見方もできるようになる。さらに,個々の生徒により,興味や関心が分化してくる時期でもある。このため,個人が主体的に問題を発見し探求する学習活動を設定し,活用する情報や情報手段の選択をより生徒主体に任せていくことが望ましい。その際に必要な情報学の基礎も,基本的なことがらは理解できるようになる。さらに,すべての生徒が共通的に習得すべき基本的内容と選択的に履修できる発展的内容を用意することが考えられる。 (高等学校の発達段階) 高等学校段階では,中学校段階よりさらに興味や関心がはっきりと分化し,能力や適性も多様化が進み,個としての人格の形成がほぼ固まる。また,将来の進路を選択・決定すべき時期なので,こうしたことへの配慮も大切である。このため,中学校までの学習で扱いきれなかった基礎的内容を扱うとともに,その基礎に立ち,課題研究的活動を行い成果としてまとめる学習や,共通に習得すべき内容のほかに,発展的,専門的,あるいは補充的な内容を扱う選択肢が用意され,自分の得意とする専門分野における情報手段の活用について深化を図ることなどができる。 3 情報教育の体系前述の発達段階に応じたカリキュラム編成を実現するため,第1節に示した情報教育の目標を,各学校・学年段階を通して次のような形で扱うことが望ましい。このような体系に基づいた系統的指導を行うことを前提とした学習指導要領の改訂が検討されることを期待する。 (「情報活用の実践力」の育成と学習活動の範囲) 「情報活用の実践力」は,体験的,実践的側面を重視した目標であることから,小学校段階から各教科等の学習内容や教科等の枠を越えた総合的な学習課題を題材として扱うことが望まれる。その際には,徐々に教員主導から子供主体へという展開が重要であり,教員が情報を与えたり,使用する情報手段を指定する段階から,複数の選択肢から選ばせる段階を経て,中学校段階以降では,子供たち自らが情報や情報手段の活用を主体的に計画・実践し,自己評価・改善できるような段階にまで高めていくことが必要である。 また,学習活動の範囲は,小学校中学年程度までは,お絵描きソフトや日本語ワープロソフトなどのアプリケーションソフトを使った活動を中心とし,小学校高学年以降は,子供たちの発達段階に応じ,データベースやネットワークを活用して調べたり,表計算ソフトを活用してデータを分析,処理しながら考えたり,その結果をコンピュータ上に発表用資料としてまとめ,討論したり,データベース化するなど,学校段階が上がるにつれて個々の活動のレベルを深化させることが考えられる。なお,学校・学年段階が上がれば,全員が同じ情報や情報手段を活用するのではなく,異なる方法で解決を行い,その結果を相互に比較することがより重要になる。 (「情報の科学的な理解」の扱いと範囲) 「情報活用の実践力」を単なる体験のレベルから,真の実践力,知恵のレベルに高めていくには,目的や条件に応じて適切に情報を活用するための基本的な考え方として「情報の科学的な理解」が不可欠になる。そのような知識の必要性に気づかせるためには,体験活動が重要な役割を果たすが,その内容をすべての子供たちに確実に理解させ,汎用の知識として応用性を高めるためには,情報学の基礎的理論や手法を適切に教育内容として扱っていくことが重要である。これを発達段階に応じて指導するには,小学校段階では,教員側がその考え方に基づいて授業や学習活動を設計し,その時々に必要な情報の扱い方や機器の操作を子供たちに体験的に習得させるようにする。中学校以降の抽象的,論理的思考力がついた段階では,そのような体験を振り返ったり,実験や実習を取り入れながら,それらの存在を明らかにして,その役割を理解させ,さらにそれを主体的に活用する実践活動と,その活動の評価・改善を経て,知恵として定着させる。 なお,高等学校段階までにすべての子供たちに履修させたい「情報の科学的な理解」の範囲としては,発達段階を考慮しながら,以下の内容を扱うことが考えられる。 ・伝えたい情報を,伝えたい相手の状況などを踏まえて,より効果的に伝えるための文字,音声,画像などのマルチメディアの表現法や,数式,図,表,アルゴリズム(手順)などの事象間の関係を表すための情報の表現法 ・文字,数値,画像などのデータを効果的,効率的,かつ,高精度で処理・加工するための情報処理の方法 ・実験・観察,調査などのデータを正しく収集し分析するための統計的見方・考え方や,そのために必要となるモデル化の方法 ・将来の結果予想や,与える条件を変えることによってどのように結果が変化するかを知るために有効となるシミュレーション手法 ・情報を的確かつ効果的に伝えたり,誤った情報の判断を未然に防ぐ上で役立つ,人間の感覚・知覚や記憶,思考などの認知的特性 ・家電製品などに広く使われている計測・制御技術やインターネットなどの身近な情報技術の仕組み ・情報の伝達や処理,記録などに活用される代表的な情報手段の機能の分類や,長所短所,類似点・相違点,活用に適した場面と適さない場面など,情報手段を活用する上で必要な情報手段の特性 上記のほか,生徒の興味や関心に応じてさらに深めた学習や発展させた学習ができるようにすることも必要である。 (「情報社会に参画する態度」の扱いと範囲) 「情報社会に参画する態度」は,体験に根ざした「情報活用の実践力」と,適切な知識としての「情報の科学的な理解」とに基づき,情報化が人間や社会にどのような光と影の影響を及ぼす可能性があるのか,また,その影の影響を克服するためにはどのような注意や配慮が必要なのかを考えさせることで培われるものである。具体的なカリキュラムにおいては,学習の初期段階では,影の影響を極力排するように,教員が情報や情報手段の活用場面を設定する必要があり,徐々に子供たちの主体性に委ねていく過程で,影の影響やそれへの対処法を明示的に指導していくことが必要になる。ただし,情報の真偽に関わることや,著作権やプライバシーの問題などについては,具体的場面が発生したときには,それを見過ごすことなく,繰り返し触れることが重要である。 学習の範囲としては,情報技術と生活や産業,コンピュータに依存した社会の問題点,情報モラル・マナー,プライバシー,著作権,コンピュータ犯罪,コンピュータセキュリティ,マスメディアの社会への影響などが考えられる。なお,「情報の科学的な理解」は,ともすると情報技術の光の部分を強調することになるため,机上の学習に終わらせないためにも,身近な社会での活用の具体例を取り上げながら,影の影響を扱うことが望ましい。これらの学習においては,自分自身が情報社会の創造に関与するという観点から,単なる情報の受け手としてでなく,自らが情報の発信者になる場合の態度の育成も重要である。 (情報手段を活用する上での留意点) 以上の学習活動においては,情報手段を適切に活用することが必要である。そのためには,機器の基本操作を習得させることが不可欠になるが,小学校段階では,「情報活用の実践力」を育成する学習活動の中で,慣れ,親しみながら習得させることを基本とすべきであろう。ただし,小さいときに身につけた不適切な癖を大人になって矯正することは困難を伴い,健康を損なう原因にもなるため,例えば,正しい操作法や,一定時間ごとに休憩をとることなどは,早期から指導の徹底を図ることも重要である。発達段階との関わりでは,具体的で直感的に理解できるものから,徐々に自由度が高く,抽象度や応用範囲の広いものを,あるいは,学習内容の広がりに対応して学習の幅を学校外に広げたり,課題の発見,情報の収集,調査結果の発表などに役立つ情報通信ネットワークの活用を取り入れることが望ましい。 4 情報教育と教科の枠組み(教科の枠組みの考え方) 「情報活用の実践力」の育成に当たっては,問題解決のための課題の設定が必要となる。そこで取り上げる課題は,すでに述べたとおり,各教科等の学習内容と関連したものを扱うことが望ましく,したがって,その実践の場も各教科等の時間に求めることになる。一方,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」は,主に情報教育に特化した教科・科目・領域において扱うことが考えられる内容である。なお,機器の基本操作については,情報教育のすべての目標と関わるため,学校全体の指導計画の中で,適切な時間を設けて指導することが考えられるが,中学校段階以上では,特定の教科の内容として取り入れることも検討する必要がある。 (クラス担任制と教科担任制) 1人の教員が全教科を担当するクラス担任制の場合,教員が特定教科に関する専門性を有することが必ずしも期待できないため,むしろ総合的な指導が行いやすいという特性を生かすことが重要である。一方,教科担任制の場合には,総合的な指導を教科の中で行うことは難しくなり,特定の教科等で「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」に関する指導を重点的に行い,そこで培った子供の能力を生かして,子供主体による「情報活用の実践力」の育成に関わる活動を各教科等で展開できるようにすることが重要である。なお,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」の扱う範囲は極めて幅が広く,教員の専門性や,指導力が教育効果を高める上で重要となる。したがって,それを既存教科に位置づけるか,情報教育に特化した独立の教科を設けるか,あるいは,一つの教科の中で扱うか,複数の教科等で分担するかなど,いくつかの選択肢が考えられる。 (情報に関する独立教科を設置することの効果等) 情報に関する独立した教科を設けることにより,教員の専門性を確保でき,選択的な内容を提供する場合も含めて,教育内容の水準を保つことや,教員・学校・地域間で情報教育の取り扱いに差が出ないような責任ある実施体制をとることができる。また,重複を回避しやすく,各教科等で取り組むべき「情報活用の実践力」の育成も,どの学校・学年段階でどのような内容が扱われているかを見通しながら実施でき,他教科での学習活動が展開しやすくなること,学校全体を通した情報化への対応の核となる人材が確保できる等のメリットがある。 これに対して,独立教科を設けることにより,学校全体で取り組むべき情報教育が後退するのではないかとの懸念がある。仮に他教科等での実践が希薄になると,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」の指導に偏って「情報活用の実践力」の獲得が難しくなったり,独立教科の中で「情報活用の実践力」の指導を行う必要が生じて,限られた時間の中では「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」の指導を十分に行うことが困難になる。 (独立教科を設けた場合,それを必修にすることの効果等) 「情報活用能力」は,これからの高度情報通信社会を生きるすべての子供たちにとって必要なものであるという臨時教育審議会第二次答申以来の共通認識に基づけば,独立教科を設けることのメリットを最大限に生かすには,必修にすることが最も望ましい。 一方,選択履修の幅の拡大が求められている中で,必修教科・科目や時間数の増加について対応が可能かどうか,特に,当面する将来を考えた場合,教員の確保が可能かどうかといった懸念がある。 (小学校段階での検討事項) クラス担任制の小学校では,各教科間の関連を図った取り組みが行われやすいという特色を生かし,子供の発達段階に合わせた,具体的,体験的活動の中で「情報活用の実践力」の育成を図ることを基本としながら,機器の操作を習得させたり,将来の「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」の獲得に役立つ豊かな経験を積ませることが必要である。そのとき,小学校と中学校との接続性を考慮し,学習内容の重複を避けるという観点からも,また,特定の教員に負担を集中させることなく,学校全体として情報教育の推進に取り組むべきであるという観点からも,学習指導要領上で,情報教育の明確な位置づけをどのようにすればよいかを検討することが最も重要である。現行のように,小学校で扱うべき内容を学校や教員の裁量に大幅に任せるだけだとすれば,個々の学校,クラスで,その学習の程度にはかなりの差が出ることが十分予想され,中学校における情報教育の円滑な実施に支障が生ずるおそれが大きい。 (中学校段階での検討事項) 中学校では,すでに技術・家庭科に選択領域の「情報基礎」が設定されおり,中学校における情報教育の核となっているが,その扱いは選択であり,第3学年で扱われる場合が多いこと,教科の特性から機器の操作の習得やソフトウェアの利用体験に多くの時間が割り振られていること,などが問題点として指摘されている。中学校は義務教育の最終段階であることから,これからの情報教育では,3つの目標をバランスよく扱っておくことが重要であるが,第3節に示した内容を十分に取り扱うためには,技術・家庭科以外の枠組みが必要であるとの指摘がある。また,中学校における選択幅の拡大を踏まえて,興味・関心を持つ子供たちにはより発展的な指導を行うことも考慮する必要がある。そのような内容の発展に伴い,また,情報教育を真に実効あるものにするためにも,情報に関する専門的な指導を行える教員の確保は今後の重要課題であり,そのような観点から教科の構成を検討することも重要である。なお,小学校における情報教育の取り組みが様々であることから,中学校に入学してくる生徒の習熟の程度に差があることを前提として,弾力的なカリキュラムの編成が行えるよう,学校の裁量を認める配慮が必要であろう。 (高等学校段階での検討事項) 高等学校では,すでに,総合学科や職業学科(商業科を除く)で,情報に関する基礎的科目が原則履修となっており,中教審答申が,それらの充実を図るとともに,普通科でも情報に関する科目を履修できるようにすることが望ましいと述べていることから,独立した情報に関する教科を設置することを積極的に検討すべきである。仮に,新しい教科を設けた場合,それを必修にするかどうかは,意見の分かれるところであるが,高等学校段階の必修教科・科目の在り方についての検討を踏まえつつ,子供たちの発達段階や他教科等の学習内容との関わりで,中学校段階までに十分に扱うことのできない内容を,何らかの形ですべての生徒が学習できる仕組みについて検討する必要がある。特に,情報化の進展を背景に,「情報社会に参画する態度」は,社会の要請の強い内容であり,それを育成する上で必要な「情報の科学的な理解」も含めて,その扱い方を検討する必要がある。その際,高等学校段階の生徒の能力・適性,興味・関心が多様になっている実態に配慮し,中学校段階までに身につけた資質・能力を補充・深化させることや,希望する生徒には,将来の進路選択とも関わり,情報に関わる科目を十分に選択履修できるような科目の設定も必要となる。また,中教審答申が求めている教科間の指導内容の重複を避けることにも配慮する必要がある。 (特殊教育における検討事項) 障害のある子供たちにとって,コンピュータ等の情報機器や情報通信ネットワークは,コミュニケーションを補助するなど,社会活動への参加を支援する重要な手段であり,それらを使いこなす能力は,まさに,社会を生きぬく力として必要不可欠である。このような観点から,特殊教育諸学校においては,就学前を含めた早期からの教育的対応の場や,幼稚部,小学部,中学部,高等部を通じて,特に,個々の子供の障害の状態や特性等に応じて,情報機器の操作等の習熟を図るための一貫した対応が必要である。具体的には,障害を補完し学習を支援する様々な補助的手段の一つとして,情報機器等の一層の活用を図るなどの観点から検討する必要がある。 第3章 次期学習指導要領の改訂に向けた提言1 各学校段階における情報教育の実施に関する基本的な考え方(情報教育のための教科構成の在り方) 情報教育のための教科構成の在り方としては,「情報活用能力」が読み,書き,算と同様の基礎・基本として捉えるべきことから,小学校段階から教科として位置づけ,すべての子供たちに「生きる力」の重要な要素として,系統的,体系的に指導することが望ましい。ただし,小学校は,クラス担任制となっており,現状でも教科の枠に必ずしもとらわれない総合的な学習指導が可能となることから,教科の枠組みよりも,「情報活用能力」の育成を明確に位置づけることが重要である。一方,中学校,高等学校では,教科担任制で教員の専門性を重視する立場からも,独立した教科としての「情報」を設けることが望ましいと考える。 例えば,中学校では,これまでの技術・家庭科「情報基礎」の内容を発展させ,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」を扱うにふさわしい新たな教科を設置し,それを担当するにふさわしい教員を確保することが考えられる。今後,研究開発学校等での実践的な研究を行うなど,その可能性について検討することが望まれる。 (次期学習指導要領を検討する上での前提条件) ただし,特に,小学校,中学校において新たな教科を設けることについては,教育課程全体の在り方の問題としての検討が必要であること,十分な理論的,実践的研究の積み上げが必要であることなどから,当面する次期学習指導要領の改訂においては,現状を前提にしながら,理想型との間の中間的段階を模索することも,着実な前進を図るという観点から重要と考える。そこで,本協力者会議では,来るべき完全学校週5日制,中教審答申により示された,教育内容の厳選,基礎・基本の徹底,「総合的な学習の時間」(仮称)の設置,中学校以降の選択幅の拡大等を念頭に置き,「情報活用の実践力」の育成については,原則として既存の教科等で行い,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」については,情報教育に特化した教科・科目,領域等で行いつつ,その一部については,既存の教科等で行うことなどを前提として,以下の提言をまとめた。 (小学校段階) 小学校では,従前のコンピュータに「触れ,慣れ,親しむ」を推し進め,「情報活用能力」の育成という観点から,例えば,具体的に学校教育活動全体を通して,情報手段を積極的に活用することについて学習指導要領に明確に位置づける必要がある。その場合,中学校との接続を踏まえて,小学校段階で扱うべき情報教育を何らかの形で示すことができないか検討する。その一つの方策として,各教科等における適切な活用の在り方について検討する。 「総合的な学習の時間」(仮称)を積極的に活用して,小学校段階における「情報活用能力」を育成するため,情報機器の基本操作を集中的に指導したり,情報手段を活用した表現・コミュニケーション活動や課題解決活動を取り入れるなど,主として「情報活用の実践力」を育成する。その場合,何らかの形で学年段階に応じた指導内容や指導時間を例示することが望ましい。 (中学校段階) 中学校では,技術・家庭科の「情報基礎」を必修扱いとした上で,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」を扱うという観点から内容を充実する。さらに,生徒の興味・関心に応じて発展的な学習できるように,技術・家庭科に発展的な選択領域を設置する。また,技術・家庭科になじみにくい内容については,従来どおり他の教科で扱うことや,より発展的な学習が可能となるように,選択教科の時間を活用できるようにする。 以上の「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」の学習成果を生かして「情報活用の実践力」の深化を図るために,既存教科等で課題解決的な学習活動等を展開するとともに,「総合的な学習の時間」(仮称)を利用して,情報手段を活用しながら,一層主体的な学習活動を展開する。 (高等学校段階) 高等学校では,普通教育に関する教科として教科「情報(仮称)」を設置し,その中に科目を複数設定する(いずれも2単位程度)。内容としては,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」に関する事項で構成する基礎的な科目を設けることとする。 このほか,生徒の多様な実態に配慮し,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」に関する事項のうち特定の内容に重点を置き,演習,実習を豊富に取り入れた科目や,コンピュータ等の情報手段を積極的に活用する科目を設けるなど,選択の幅を確保することが望ましい。 新教科は,可能な限り必修とすることが望ましいが,必修とすることが困難な場合は,その内容の一部をすべての生徒に学習させるために,既存教科に,必修内容として組み入れることも検討する必要がある。 ただし,新教科の教育課程上の位置づけや,科目構成の在り方,それらの扱いについては,今後,高等学校教育全体の在り方の中でさらに慎重に検討されるべきものである。 なお,本協力者会議で検討した情報に関する教科は,普通教育に関する教科として構想しているものであり,別途,理科教育及び産業教育審議会において検討が進められている専門教育としての情報に関する教科との関連に留意しながら,具体的な教育内容を検討する必要がある。また,この教科を担当するにふさわしい教員免許資格の在り方や教員研修の在り方について検討する必要がある。 (特殊教育諸学校) 各教科等については,小学校,中学校,高等学校に準ずるとともに,情報手段の活用の在り方を含め,学習の補助的手段の活用能力等の育成を図る観点から「養護・訓練」の内容の充実について検討する必要がある。 特に,情報通信ネットワークをコミュニケーションの補助手段等として利用することで,障害のある子供たちが他の子供たちや様々な人々と交流する機会を一層拡充していくことは,障害のある子供の世界や可能性をさらに広げ,社会的参加・自立を実現していく上で,大きな効果があると考えられる。また,情報通信ネットワークを利用した交流を通じて,多くの人々が障害のある子供たちに対する正しい理解と認識を深めることは,大きな意義があることから,交流教育における情報手段の活用の在り方等について検討する必要がある。 (各学校段階を通じて) 学校段階,各教科等の特性に応じて,情報機器などの情報手段をより積極的に活用するよう学習指導要領上に規定する。 2 既存教科等における「情報活用の実践力」の育成(既存の教科での「情報活用の実践力」の育成) 前項において述べたように,情報教育の目標のうち「情報活用の実践力」については,各教科等のそれぞれの特性に応じて積極的に取り組む必要がある。ここでは,各教科等での指導例を示した。 ・国語科 国語の表現活動及び理解活動を,言語情報の収集及び活用の観点から捉え,言語情報に関する「情報活用の実践力」の基礎・基本となる能力の育成を図る。その際,例えば,学校図書館等を活用して学習課題の追究を行うことや,コンピュータや日本語ワープロ等を活用して,効果的に発想,表現,推敲したり,共同で文書を作成したりすることなどが考えられる。 ・社会科,地理・歴史科,公民科 資料を活用して社会的事象を考察し,公正に判断する能力と態度を育成するために,情報手段を的確に活用して,必要な情報を収集,処理し,その結果を適切に表現する学習活動が考えられる。 ・算数・数学科 数量や図形の学習などで,結果を予測したり,それを実験して確かめたり,予想したことを修正したりする活動の中で,「情報活用の実践力」を育成することが考えられる。この際,電卓やコンピュータを思考を深めるための道具として適切に活用し,数学的に表現・処理したり,物事を判断したりする能力を育成することが考えられる。 ・理科 自然現象を対象としたモデル化の方法,観察,実験データの処理,表現,解釈の方法を実践的に扱う学習活動の中で,コンピュータを観察・実験の道具として活用したり,動植物等のデータベースを作成,検索したり,天体の動きをモデルで表現し,シミュレ ーションしたり,科学技術情報を情報通信ネットワークで収集する,あるいは,宇宙空 間や人体の中に入るなどバーチャル・リアリティで仮想体験する学習活動,などが考えられる。 ・音楽科,図画工作科,美術科,書道科 様々な芸術的活動の手段等について,鑑賞や表現の補助的手段としてコンピュータ,マルチメディア技術を活用する能力を育成する学習活動が考えられる。 ・家庭科 消費者として,情報の的確な判断能力を育成するための学習活動や,生活設計,家庭経済,調理の計画,被服の構成やデザイン,快適な住居空間の設計等で,コンピュータ等を活用する学習活動などが考えられる。 ・体育・保健体育科 自分の身体や体力・運動能力に関するデータを分析し,健康管理に生かすことの指導を一層充実させたり,また,スポーツ科学,競技における運動の原理やコツ,戦術の工夫という観点で,情報機器を活用することが考えられる。 ・外国語科 言語情報に関わる教科という観点から,国語と同様の扱いが考えられるほか,外国語を通して得られる情報は,異なる文化を持つ人によって発信されているという観点から正しく理解する能力の育成が重要である。そのための一つの方法として,情報通信ネットワークを活用して実践的なコミュニケーション能力を育成したり,国際理解を深めたりすることが考えられる。 ・特別活動 学級活動(ホームルーム)において,情報手段を活用した情報収集等をしたり,また,学校行事や生徒会活動において,情報手段を活用する活動や情報社会について体験する活動が考えられる。 3 今後の情報教育の展開に向けて(定期的な内容の見直しの必要性) 情報技術の革新は目覚ましいものがある。もちろん,学校教育では,普遍的な内容,学校を卒業した後も長く役立つことがらを扱うのが理想的であるが,そのような内容はともすると抽象的なものとなり,実践的,体験的学習活動とかけ離れたものになりかねない。情報教育が学校現場に十分に浸透していない現状では,できるだけ具体的な学習内容を示すことが必要である。したがって,学習指導要領上に示す情報教育の内容については,社会の変化に対応して,不断に見直し,改善していくことが必要となる。 (担当教員の養成及び研修) 情報に関する教員研修事業などで,情報教育を担当する教員の資質の向上が図られているが,研修の規模等に限度があり,指導者の養成には課題が多い。コンピュータを操作できるということと,それを指導できるということ,さらには,情報教育を担当できるということの間には,それぞれ大きなギャップがある。教員養成及び研修において,単に,コンピュータの機器の操作を学ぶことだけでは,情報教育の推進は不可能といえる。今後とも,各教科等を通して学校全体として情報教育に取り組むことを基本とするならば,それぞれ各教科の教員養成,研修において,教員が何を学び,どのような資質を身につけるべきかを明らかにしつつ,教員養成,研修制度上においても明確な位置づけが望まれる。また,特に,情報教育の核となる教科については,情報教育の体系に基づき,その免許資格をどのように与えるのか,またその人材確保をいかに行うかの早急な検討が必要である。 (将来の各教科の在り方の検討の柱の一つとしての情報教育) 今日までの社会の発展は,物質やエネルギーの側面から見た世界観に立脚した科学技術の発展によって立つところが大きいが,情報の側面から見た世界観は,さらに,人間の価値意識等についての研究へと発展し,自然現象から社会現象までを包含した体系化を期待させる。情報教育に関わる内容は,すべての教科等に横断的に含まれているが,逆に,情報教育の側面から,我々人間が身につけるべき知識や能力を体系化することにより,現状の教科等を見直す一つの明確な視点を見いだすことが可能になるとの期待もある。将来の教育内容が,既存教科の枠組みにとらわれず,子供たちに真に必要な資質能力とは何かという立場から検討された時,情報教育の観点が結果としてのその柱の一つとなる可能性を我々は強く認識しており,したがって,すべての教員や教員養成,研修機関にあっても,情報化社会の創造に向けた,学校教育における情報教育の推進に前向きに取り組むことを期待するものである。 今後の検討課題等(指導の効果を高めるための情報手段の活用) 教員が当該教科の指導の際に,教科の指導目標をより効果的に達成するために,コンピュータ等の教育機器を道具として活用することは,指導の効果をあげる上で有益なことである。情報手段の効果的な教育活用については,従来の取り組みを充実,発展させるとともに,中教審答申を踏まえて,いわゆる教育の情報化の一環として捉え,さらに充実すべきであると考える。以下に示すものは,情報教育の内容の検討の過程で提案されたものであり,今後さらに検討を加えることとしたい。 (学校教育の質的改善) マルチメディア機能を備えた情報機器や情報通信ネットワークは,極めて大きな可能性を秘めている。この能力を生かすことにより,子供たちの興味・関心に応え,子供たちが目を輝かせるような授業を可能にしたり,学校を活性化したり,また,閉鎖的といわれる学校と地域や家庭とが情報交換を行ったり,さらに国内にとどまらず海外との交流もできるようになる。教育用素材の宝庫である博物館,美術館,図書館等の社会教育施設や,他の文化,教育・研究施設等に簡単にアクセスできるようにすることにより,学習の方法が多様化したり,他の学校と交流して行う共同学習による環境教育や,国際理解教育の実践にも役立つ。また,へき地校や病気療養児等に対する指導での活用も考えられる。 情報通信ネットワーク環境の整備の在り方としては,中教審答申が指摘するように,近い将来すべての学校がインターネットに接続されることを想定して,当面は,その効果的な活用法,教育利用に適合したシステムの検討,開発,利用の際の留意点等について,実践的な研究を積み重ねることが必要である。 (学校の高機能化) 学校を高度情報通信社会にふさわしい高度な機能を備えた,「新しい学校」にしていく必要があるとの指摘は,重要な点である。情報教育の推進の観点からいえば,従来の施設・設備の考え方をさらに柔軟な視点から検討し,新しい発想によって子供たちの学習環境を整えていく必要がある。特に,学校図書館については,情報化に対応した機能の充実が期待される。 学校の高機能化には,施設・設備の物的な充実だけでは,不十分である。情報教育の推進,教育の情報化を進める指導的役割を担う教員(仮に「情報主任」とする。)や,新しい情報手段の導入を円滑にするための人的なサポート体制,ティーム・ティーチング指導の一層の充実等について検討することが必要である。 (今後の検討課題) 本協力者会議では,これまで,各学校段階を通じた系統的,体系的な情報教育について,主に教育課程の在り方に焦点を当てて検討してきた。本会議に課せられたそれ以外の検討事項として,下記の事項についても上記のカリキュラムと関連づけて検討を進め,最終報告にまとめる予定である。 ・学校における情報関連施設・設備の整備について ・教育用ソフトウェアの開発及び整備について ・情報教育の指導体制について ・コンピュータ等の情報機器及び情報通信ネットワークの教育利用の基本的在り方について ・初等中等教育における情報化の推進に関する総合的な計画について 要項&メンバー
(別紙)
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-- 登録:平成21年以前 --