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「知の拠点」を目指した大学の施設マネジメント -国立大学法人(仮称)における施設マネジメントの在り方について-

平成14年5月
今後の国立大学等の施設管理に関する調査研究協力者会議


−  目次  −

はじめに    
     
第1章 「施設マネジメント」の導入とその推進
  国際水準の教育研究環境の創造
  法人化に向けた施設マネジメント
  長期使用を前提とした施設管理
     
第2章   現状の問題点
  施設管理と財源の問題
  学部単位による施設管理と画一的配分に起因する問題
  効率的な施設管理の意識の欠如
  法人化に伴う適用法令の変化
     
第3章   法人化を踏まえた施設マネジメントの課題
  施設マネジメントを行うシステムの構築
  施設管理に係る財源確保
  国の責務
     
第4章   戦略的な施設マネジメントの方策
  施設マネジメントの執行体制の確立
  施設マネジメントに必要な人材の確保
  プリメンテナンスの導入
  施設の有効活用の徹底(スペースマネジメント)
  安全と環境等に配慮したキャンパスづくりの推進
     
参考1   今後の国立大学等の施設管理に関する調査研究について
参考2   今後の国立大学等の施設管理に関する調査研究協力者会議各協力者のプロフィール


はじめに

  世界に通用する国立大学として発展を図る上で,その基盤である施設は極めて重要なものである。また,教育研究と施設は有機的連携を持って,始めて大学として持つ本来の機能が発揮できるものである。
  かねてから国立大学の施設は老朽化・狭隘化が指摘されており,その早急な解消を図るため,現在,国立大学等施設緊急整備5か年計画が進められている。
  国立大学が世界に伍して活発な教育研究を展開するためには,このような緊急な施設整備はもとより,保有する膨大な既存ストックの有効活用を図り,その機能向上を図ることが何よりも重要なことである。
  現在,国立大学の法人化に関する制度が検討されており,この中では大学の裁量が拡大するといった法人化のメリットを大学改革に最大限に活用することが提言されている。
  本調査研究は,法人化後の大学における施設管理の基本的な考え方と具体的方策を検討するため,平成13年8月に立ち上げたものである。会議には,大学経営,経済学,建物の維持管理,環境マネジメントなど様々な分野の学識経験者をはじめ,国立大学の教官及び事務局長,民間の総合デベロッパーやコンサルタント会社の専門家が参画した。
  8カ月にわたって,それぞれの委員の専門知識や豊富な経験をベースに議論を進めた結果,我々は,法人化後の大学にこそ,新たな発想に基づく戦略的な施設マネジメントが必要と考えるに至った。この報告書は,これを実現するための課題と具体策をとりまとめたものである。
  文部科学省においては,国立大学関係者に対し,大学運営における施設管理の重要性についての啓発を図るとともに,各国立大学法人が行う施設管理の実施状況の把握及び評価の方法などについて,更に具体的な検討が必要である。
  国及び国立大学関係者の方々が,このメッセージを参考として,新しい時代の大学づくりを考えていただくことが,本調査研究にたずさわったメンバー共通の想いである。



第1章  「施設マネジメント」の導入とその推進

  国立大学における教育研究の発展を図る上で,その諸活動と有機的な関連を持つ大学施設はその基盤となるものであり,その充実は不可欠である。
  更に,国立大学の法人化について検討が進められているところであり,大学自らがこのような認識のもとに,総合的・長期的な視点に立った「施設マネジメント」を導入し,新たな施設整備を進めることはもとより,大学が所有する既存施設を効率的に管理し有効活用を図ることが重要である。

国際水準の教育研究環境の創造
1)知の拠点にふさわしい環境の創造
  国立大学は,現在,大学改革を積極的に進めており,知的創造活動の拠点として,競争的環境の中で個性あふれる魅力的な大学への転換を図る途上にある。大学施設がこのような変革に対し適切に対応していくためには,自らのイニシアチブに基づき,知の拠点にふさわしい世界に通用する施設水準を確保することが急務となっている。

2)教育研究活動に求められる施設機能の向上
  国立大学の施設は,これまで行われている教育研究活動に加え,今後は地域社会や産業界との連携による研究並びに複数分野にまたがるプロジェクト型の研究などの新たな諸活動を支えるため,教育研究活動の内容に柔軟に対応できる機能と安全性を確保する必要がある。
   
法人化に向けた施設マネジメント
1)施設マネジメントの概念の導入
  大学の「施設マネジメント」の目的は,キャンパス全体について総合的かつ長期的視点から,教育研究活動に対応した適切な施設を確保・活用することであり,その具体的内容は企画・計画(Planning),整備(Construction),管理( Repairs and Maintenance)の全般にわたる業務である。
  大学の施設マネジメントにおいては,教育研究活動に応じた施設の整備及び管理に関する目標を設定し,1これに至る施設計画を策定し(Plan),2建物及び屋外環境の新築・増築・大規模改修,修繕,点検保守,清掃及び運転などを行い(Do),3これらの評価を実施し(Check),4評価結果を次期計画に反映させ(Action),全学的に教育研究環境の持続的向上を図るという一連の取組み(マネジメントサイクル)が重要である。
  「施設計画」とは,アカデミックプランに基づいて施設を確保・活用するための企画立案をすることをいう。すなわち,長期的な目標※1及び中期目標※2に施設の整備及び管理に関する目標を盛り込み,これを実施するための中期計画※3を策定することをいう。
  「施設整備」とは,中期計画に基づき,個別施設やキャンパス全体の整備のための予算管理,施設の新増築や大規模改修に係る設計,工事の実施をいう。
  「施設管理」とは,施設全体を効率的に運用するための施設の維持管理(修繕,点検保守,清掃,設備機器の運転),屋内外のスペースの管理及び敷地の有効活用に関する管理をいう。
  なお,「施設」とは,建物,エネルギー幹線,情報通信システム,構内道路や植栽等の屋外施設,大型の実験機器等を含み,大学における教育研究活動の基盤となるキャンパス全体をいう。

2)トップマネジメント※4の一環としての施設マネジメント

  国立大学法人(仮称)の管理運営に当たっては,教育研究活動とその基盤となるキャンパスの整備が一体的かつ有機的連携を持って戦略的に展開することが必要となる。このような見地から,全学的な視点に立った施設マネジメントをトップマネジメントの一環として明確に位置づける必要がある。また,このことは自主性・自律性が求められる大学にとって,重要な課題である。

3)施設に係る事務体制の見直しと再構築

  国立大学の法人化に伴い,施設に関する事務体制を,これまでのような建物の新増築を主とした体制から,施設マネジメントを総合的に行うことのできる体制へ見直すとともに,新たな視点から必要となる事務を的確に実施できる体制を構築する必要がある。
   
長期使用を前提とした施設管理
  国立大学は,次世代へ継承すべき資産である施設を教育研究の基盤として長期にわたって良好な状態に管理する責任を有している。このため,「百年建築」※5として長期使用を前提とした維持管理を行っていく必要がある。


第2章  現状の問題点

  大学施設が教育研究活動の要請に十分に応えていない現状は,施設整備の遅れに起因するものであるが,同時に施設管理に関する意識の欠如とともに,修繕等の施設管理に係る予算不足によるところが少なくない。

施設管理と財源の問題
1)施設管理に関する不十分な対応
  国立大学の施設・設備については,最低限の点検等が行われているものの,高度化・多様化する教育研究の要請に対して,十分な対応がなされているとは言い難い。
  教育研究の急速な変化に対して,施設の維持管理に必要な人的支援や財源措置が追いつかず,更には傷み具合の把握や対策が遅れ,その結果,施設は深刻な老朽化を生じている。また,一方では老朽化の進行に対し適切な手を打たず,改築を待つという傾向も状況を悪化させる一因となっている。
  現在,施設の総量的不足がある一方で,一部においては,施設の利用形態に応じた適切なスペース配分が行われていないために,過度に狭隘化している状況もある。また,学部学科再編や定員削減に際して,学部学科の枠を越えたスペースの再配分が適切に行われていないことによる狭隘化も生じている。

2)施設管理に要する予算不足

  国立学校建物の修繕に係る予算は,国の庁舎等の修繕に要する統一的な基準※6に基づき,経過年数などの要素を加味して算出されており,その平均単価は年間約750円/�u程度である。なお,各国立大学においては,施設の老朽状況や模様替え等の必要性から,この予算に加えて校費等の一部を修繕に充てているが,研究費等の必要経費に充当することが優先されることから,十分な修繕が行われないことも老朽化の要因の一つになっている。
  一方,民間オフィスビルにおいては年間約2,600円/�u※7程度の修繕を実施しており,教育研究施設と商業用テナントビルという違いがあり単純に比較することはできないものの,これらの与条件を考慮してもなお格差があるといえる。
   
学部単位による施設管理と画一的配分に起因する問題
1)学部単位による施設管理の弊害
  大学においては,施設の多くは学部単位で管理運営されている。このため,全学的な施設利用などに関する合意形成に時間と労力が必要となっている。その結果,個々の学部内だけの限定された管理になりやすく,施設の稼働率の低下など経営的な面からの問題が生じている。

2)画一的配分の慣習

  施設の狭隘化の現状は,施設整備の遅れに起因するものであるが,学内におけるスペースの配分にも改善すべき点がある。
  実験の内容や実験機器の量,学生の数及び危険物の有無など教育研究活動の実態が様々であるにも関わらず,単に講座数などによりスペースを画一的に配分してきたことから,狭隘な室と余裕のある室の二極分化が発生している。
  また,全ての面積を画一的に配分することから,各分野の教育研究の特性に応じた弾力的な施設の活用を困難にし,必要に応じた適切なスペース配分とともに,プロジェクト型の研究や競争的資金による研究のためのスペースの確保が困難になっている。
   
効率的な施設管理の意識の欠如
1)コスト意識の欠如
  これまで,ともすれば施設は一種の消耗品であるとし,障害が生じたときに必要最小限の手当てをすればよいとの考え方から,メンテナンスを軽視しがちであった。
  施設の新増築や修繕の計画を立案する際,研究活動に必要な特殊な空調や内装,研究の期間や実験のレベルに見合う機能の水準設定並びにイニシャルコストとランニングコストについて,十分な検討が行われているとは言い難いものも見られる。
  各国立大学においては,教育研究活動に必要な施設機能を充足するための改修や修繕に関する問題点と必要経費が十分に把握されていない。

2)スペース管理意識の欠如

  不要な機器類が研究室や実験室に設置されたままになっていることも,狭隘化の一因である。また,共用可能なOA機器や実験機器,書籍等をそれぞれの研究室に重複して設けるなど非効率なケースもある。
  類似した用途の室を重複して設置したり,講義室の使用時間帯に偏りがあるなど,稼働率を向上させるための検討が不足しているケースもある。

3)サービス意識の欠如

  施設整備は多額の予算執行を伴うものであり,施設担当職員は法令※8上,予算執行に際して重大な過失があった場合の弁償責任が課されている。このため,施設の新増築に当たり,手続き事務の基準やマニュアルに必要以上にしばられ,施設利用者の立場に立って,その要請や意見を聞く姿勢に欠けることがあり,結果として,利用者へのサービスが不十分になりかねない。
  また,施設担当職員は,施設整備に主眼を置き,施設や屋外環境の傷みや汚れに対し,強い関心を示さない傾向もある。
   
法人化に伴う適用法令の変化
  国立大学の法人化に伴い,施設・設備の安全管理について,人事院規則から労働安全衛生法への適用の変更並びに建築基準法における適用条項の変更など,施設・設備に適用される法令の変更が生じる。今後,新たにこれに伴う手続き事務及び経費が生じることが想定される。
  また,「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理改善の促進に関する法律(PRTR法)」,「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」等の法改正により,新たに施設改善に関する責任・義務が生じている。


第3章  法人化を踏まえた施設マネジメントの課題

施設マネジメントを行うシステムの構築

  大学施設は教育研究活動と密接不可分であることから,これらの諸活動を支える施設を提供することは大学運営における重要課題の一つである。従って,国立大学法人(仮称)においては,トップマネジメントの一環として施設マネジメントを行うシステムづくりが必要である。
   
  1)施設マネジメントのシステムづくり
  教育研究活動に適切に対応していくためには,予算などの資源を重点的に配分するとともに,施設の新増設及び既存施設の有効活用を行う必要がある。
  また,国立大学の法人化に伴い拡大する経営面の権限を活用して,全学的な視点に立った意思決定システムを確立し,学部等の枠を越えた資源配分を実行することが重要である。

  このため,トップマネジメントの一環として,施設マネジメントの基本的方針を決定するシステムを構築する必要がある。

2)施設マネジメントに関する中期計画の策定

  国立大学法人(仮称)が策定する長期的な目標,中期目標及び中期計画において,施設マネジメントを重要事項として位置付ける必要がある。
  施設マネジメントに関する経費,例えば修繕費,保守点検費,清掃費等について,中期計画に所要額を明示する必要がある。
  国内外の高等教育機関における施設の整備状況,維持管理など施設管理の状況,環境問題への取組状況等について,自らの大学における実情と比較すること(ベンチマーキング)※9は有効である。このため,各国立大学法人(仮称)は,中期目標及び中期計画等の策定に際し,国内外の大学等における施設に関する緒元や大学施設に関する適切なガイドラインを参考に,戦略的な目標を設定するとともに,適切な中期計画を策定することが重要である。

3)施設に関する中期計画の評価と計画の見直し

  施設に関する中期計画の進捗状況を把握し,自己点検・評価※10を行い,その結果を次期中期計画に反映させる必要がある。

  また,施設に関する中期目標の達成を確実にするため,常に中期計画の実施状況の把握を行い,必要に応じて年度計画※11の変更や実施方法の改善等を図ることが重要である。

   
施設管理に係る財源確保

  国立大学の施設には,これまで十分に維持管理がなされてこなかったことから生じている要修繕箇所の蓄積(負の資産)が存在する。これを計画的に解消するとともに各大学の実情に応じて施設を積極的に活用するための適切な財源確保が必要である。
   
  1)施設管理予算の拡充と明示
  どのような施設であっても,施設は経年により劣化・損耗が進み,何らかの修繕を要する箇所が蓄積することになる。国立大学の施設は,劣化損耗の進行にその対応措置が追いつかないため,既に相当量の負の資産が蓄積している。これを解消するためには,緊急性などにより優先順位を整理するとともに,適切な修繕を効果的に行うための予算を確保する必要がある。
  国立大学法人(仮称)は,施設整備の所要額はもとより,施設マネジメントにおいて必要となる予算を中期計画に明示することが必要である。

2)自己財源の確保

  国の予算の充実とともに,国立大学法人(仮称)においては,施設マネジメントに関する自己財源の確保について,努力する必要がある。
  例えば,競争的研究資金の間接経費(オーバーヘッド)の活用や施設利用料(スペースチャージ)の徴収について,検討することも有効である。
  また,施設マネジメントにより,空きスペースや遊休地を生じる場合は,貸し駐車場等として活用したり,建物の貸付けを行うことにより,賃料収入が期待できる。これは,法人としての大学の貴重な収入源であり,施設マネジメントの財源として活用することも有効である。
   
国の責務

  国立大学法人(仮称)における施設マネジメントを適時適切に実施するための基礎的条件として,国は1施設マネジメントに必要な財源の確保,2指針・基準等の整備,3施設管理の実施状況の把握と評価について,責任をもって行う必要がある。
   
  1)財源の確保
  国は,運営費交付金の算定に当たって,修繕費など施設管理の経費について十分な根拠を持って算定する必要がある。

2)指針・基準等の整備

  国立大学法人(仮称)は,膨大な施設を保有しており,そのマネジメントを確実かつ効率的に行うためには,多数の関係法令や技術基準,さらに最新の知見や関係省庁の動向などの多くの情報を随時把握していなくてはならない。特に,近年は環境保全や安全対策などの分野において,規制の強化や新たな規制の導入が増加する傾向にあり,この流れはより一層拡大していくと予想される。
  全国の国立大学法人(仮称)が,このような状況に個別に対応していくことは,実際上困難である。さらに,これらへの対応の遅れが環境や安全に関する様々なリスクの増大を招くことになる。
  国は,このような問題を未然に防ぐため,国立大学法人(仮称)の実状を踏まえて,施設マネジメントに関する指針や基準を整備するとともに,各法人に適時適切に提供する必要がある。また,その運用や内容に関し必要に応じて助言できるシステムが必要である。

3)施設マネジメントの実施状況の把握と評価

  国は,国立大学法人(仮称)が策定する中期計画の一部である施設計画の認可並びに施設費の配分に際しては,国として施設管理に関する全体的な方針を定めるとともに,各大学の実施状況の把握と評価を行い,その結果を基に認可や配分を行う必要がある。
  その基礎資料とするために,全国の国立大学法人(仮称)を対象に施設マネジメントに関する実態調査と標準値(ベンチマーク)の設定などを行う必要がある。


第4章  戦略的な施設マネジメントの方策

施設マネジメントの執行体制の確立

  国立大学法人(仮称)においては,施設マネジメントに関し,トップマネジメントを支援するため,責任ある執行体制を確立する必要がある。
   
  1)施設マネジメントにおける責任体制の確立
  これまでの「建物は本部事務局が建設して学部に引き渡すもの」という概念を改め,施設マネジメントを行う部署は施設計画,整備,管理を一元的に担当する必要がある。
  速やかな意志決定を行い,統括的に施設マネジメントを推進するためには,施設を担当する副学長を定めたり,チェックシステムの構築などについて検討する必要がある。
  また,施設マネジメントを全学的見地に立って統括的に行う体制を事務組織の一部として整備する必要がある。その部署は,学長等に対し,施設計画,整備,管理に関する課題への具体的な対策を提案し,これを長期的な戦略のもとに実施する機能を持つ必要がある。

  施設マネジメントの実施を確実にするためには,学内のコンセンサスに配慮することも重要であることから,このための委員会を設置することも検討する必要がある。

2)施設の効率的運用

  法人化による大学の裁量の拡大に伴い,施設マネジメントにおいても,自己責任のもとで多様な可能性が生じると考えられる。例えば,「民」の発想を取り入れた新たな手法であるPFI※12の導入や寄付金による研究棟の整備など新たな整備手法や管理手法が考えられる。
  新たな施設整備は多大な投資を要することから,既存施設の有効活用の徹底が前提となるべきであり,新増築が必要な場合でも,例えば民間ビルの借り入れなど,他の選択肢を検討することが重要である。
  教育研究活動におけるニーズを的確に把握し,突発的な故障等に迅速に対応するための利用者相談窓口(カスタマーセンター)※13を設置し,ITを活用した双方向の施設情報の公開などを行うことも利用者の満足度の向上に有効である。

3)大学運営の中核的機能の強化とアウトソーシング

  トップマネジメントを適切に支援できるようにするため,施設計画などの企画立案機能を今まで以上に強化する必要がある。
  建物の設計や工事管理等の施設整備の業務はもとより,施設管理に必要な調査及び修繕等の実務的業務のうち定型的部分については外部委託(アウトソーシング)を進めているが,限られた人材の中で新たな施設マネジメントを行うためには,更にアウトソーシングを図るなど効率化が求められる。
  民間企業では,ノウハウの蓄積等が重要である施設マネジメントの枢要な業務については,通常企業内部で行われているケースが多い。大学においても教育研究活動や大学運営に係る部分について,トップマネジメントと一体で検討する必要があることから,中期計画における施設計画の策定など大学運営の中核的業務については,国立大学法人(仮称)自らが明確な責任体制の下で実施する必要がある。

4)情報開示と普及啓発

  施設マネジメントの実施において,学生や教職員等に対して計画策定の経緯や議論の概要などの情報を開示することは,関係者の共通理解を図るうえで有効である。
  施設の利用者に対して,コスト意識の醸成とともに,施設が大学全体の共有財産であり個人の占有物ではないことなどの利用者倫理の啓発を図る必要がある。
  取組みの具体的内容としては,学生・教職員等の施設利用者に対し正しい使用方法を啓発することや,室使用状況(スペース配分と稼働率等),環境対策等の取組み状況,施設の改善要求や実施状況等の情報を積極的に公開することが考えられる。

  更に,光熱水量等の情報を例えば各セグメント毎に公開することなどは,省エネ省資源や環境への配慮について,改善に結びつけるインセンティブとなる。

   
施設マネジメントに必要な人材の確保

  施設マネジメントに関する業務を担い得る能力を有するとともに,大学経営に貢献できる人材を確保する必要がある。
   
  1)施設マネジメントに必要な人材
  施設マネジメントを担当する者は,大学の教育研究活動の動向を理解し,経営的視点から的確な問題把握と解決策を提示できることが求められる。このためには,トップマネジメントに参画できる十分な専門的知識とともに,幅広い教養や強い倫理観が必要となる。特に,幹部職員は学長を始めとする役員等と密接なコミュニケーションを持つことが重要である。
  業務の遂行に際して,過去の定型的マニュアルによることなく,目標を理解し,これを実施する手段とプロセスを取拾選択できる能力を有するとともに,コスト意識やサービス意識を持ち,必要な行動を迅速に行うことが重要である。
  また,安全性の確保や環境問題に対し,深い理解と高い知識を持つ人材であることも重要である。

2)人材の養成

  施設マネジメントを担当する者は,個別の専門技術だけではなく,施設に関する全般的な知識とともに大学経営に関する知識が必要である。このためには経営に関する研修を行うことや施設部門だけでなく多くの部門を経験させることも必要である。

  また,他の国公私立大学及び民間企業等に出向させるなどの人事交流を行うことも有効である。

3)民間からの人材の確保

  民間的発想の経営手法を取入れた施設マネジメントを行うため,必要に応じて民間のノウハウ等を活用することが重要である。例えば,民間の経験者の採用,業務の外部委託(設計,工事管理,点検保守など)を始め,一時的な事業の増加などの場合は非常勤職員の採用も検討する必要がある。
   
プリメンテナンスの導入

  施設を長期にわたり活用することはもとより,施設の安全性・信頼性を確保するためには,教育研究活動の支障となっている施設の不具合を解消するとともに,潜在するリスクに対する予防的な施設の点検・保守・修繕等(プリメンテナンス)を効果的に実施する必要がある。その際,リスクとコストを比較衡量し,コスト縮減を前提として,これを適切に判断した上で実施することが重要である。
   
  1)施設の劣化等の状況把握と安全性,信頼性を確保するための予防的修繕
  施設が古くなることと老朽化することは異なる。適切な維持管理と予防的修繕を行うことによって,古くなっても朽ちないための手当てが必要である。
  また,施設の機能面での不具合の点検だけでなく,美観上からの点検を行い,必要な修繕を効果的に実施する必要がある。
  このためには,全ての施設について,耐震診断※14や部位別調査※15などの健全度調査※16等を活用して実態把握を行うとともに,施設・設備の故障等による教育研究への被害を最小限度にするための調査を定期的に行い,その結果に基づく予防的措置を実施するなど迅速な対応が必要である。
  例えば,施設の劣化状況の調査や利用者の安全性・信頼性に関する意見聴取などを行うため,定期的な施設の巡回点検を実施することも有効である。
  プリメンテナンスの実施に際しては,予防措置を行わないときの危険性の大きさと,これを実施した場合の最終コストの大きさを適切に判断して行う必要がある。例えば,リスクが小さく最終コストが大きい場合は実施する必要がない場合もあることに留意する必要がある。

2)施設管理にかかる需要額の把握

  施設マネジメントを担当する者は,巡回点検及び健全度調査等の調査の結果に基づき,劣化・損耗等の修繕に必要となる総額を把握する必要がある。必要額の算定に当たっては,過去の類似工事を参考にした概数による略算,あるいは執行に向けた精度の高い算出方法などを使用目的に応じて,適宜使い分けることが有効である。同時に,緊急度合いを判断し,優先順位を付けておくことが重要である。

3)効果的な改修の実施

  改修等の実施に当たっては,中期計画における施設計画に基づき優先順位を付け,実行可能な改修計画を作成する。この場合,部分的な修繕で済ませるか全体的な改修をするべきかなど具体的な実施方法について的確な判断が必要である。その際,教育研究活動に配慮し,施設の劣化・損耗を最小限に留めるとともに,大規模改修等の時期を延伸できるよう,長期的な観点からも併せて検討する必要がある。
  計画の策定に当たっては,費用対効果の検討を行い,ムダ,ムリ,ムラがないように判断をすることが重要である。また,改修計画の作成の際には,省エネルギー・省資源の観点や,光熱水料等の経常的経費の削減等の面からも検討が必要である。
  また,施設の維持管理業務を外部に委託する場合は,例えば学部単位ではなくキャンパス単位として,スケールメリットによるコスト縮減を図るなどの検討が必要である。
   
施設の有効活用の徹底(スペースマネジメント)

  国立大学法人(仮称)の教育研究の進展に柔軟かつ機動的に対応するためには,施設の有効活用が不可欠である。
  このため,学内においてスペースの使用状況を把握するとともに,教育研究の変化に対し弾力的にスペース配分を行う明確なルールを規定する必要がある。
   
  1)施設の使用状況の把握と有効活用
  施設の有効活用を促進するためには,使用実態と使用者のニーズを的確に把握する必要がある。特に,使用状況を定期的に点検し,その結果に基づく再配分を行うことが効果的である。
  講義室や会議室などの稼働率を向上させるため,学内のLAN上で,講義室等の収容人員,設備内容などの情報を公開し,利用者が予約できるシステムは効果が期待できる。
  利用しなくなった教育研究機器等を他の大学で再利用できるように,インターネットで情報提供を行う「教育研究用機器リユース(再利用)情報提供システム※17」を活用したり,再利用が困難な不用物品を適切に処分して,スペースを有効に活用する必要がある。

2)既存施設におけるスペース配分の適正化

  既存施設の不均一な狭隘化を解消するため,スペースの再配分を行うとともに,共同利用スペースを捻出することも必要である。その際,教育研究活動の状況とスペースの利用実態を把握した上で,稼働率等の向上が見込める場合には,適時適切に用途変更や改造を図る必要がある。
  学部学科の再編や施設の増設に伴い,既存施設の再配分を行ったり,共同利用スペースを設ける際は,利用者の選定,利用期間及び費用負担等について,学内規定を整備する必要がある。

3)経費負担制度の導入

  スペースの効率的活用とコスト意識の浸透を図り,施設利用の流動化が促されるように,施設使用者から一定の施設使用料(スペースチャージ)を徴収することは検討に値する。また,競争的資金の間接経費(オーバーヘッド)の一定割合を一般的な施設管理の財源として活用することも考えられる。
  このような経費負担制度を導入するためには,明確なルールを定めるとともに,利用者の理解を得るため財源の活用結果を公表することが必要である。

   
安全と環境等に配慮したキャンパスづくりの推進

  大学キャンパスは,時代とともに変化する様々な社会的要請並びに利用する学生や研究者のニーズに応えるとともに,安全な教育研究環境であることが重要である。
   
  1)施設の安全性・信頼性の確保
  大学で行う実験では,爆発などの危険性のある物質や有害物質を取り扱うことも少くない。これらの実験室を使用する学生や研究者の安全を確保する必要があることから,関係法令に準拠した安全対策を講じる必要があり,緊急シャワーやドラフトチャンバーなどの適切な安全対策が必要である。
  また,実験排水やRI廃棄物等の処理,放射線の遮蔽,遺伝子組換え生物の封じ込め等に必要な施設・設備についても,一層の安全管理が求められる。このためには,これらの施設が適切に運転できるように,施設マネジメントを担当する者を含めた管理運営システムを構築する必要がある。

2)セキュリティ管理

  先端的研究分野や産学協同研究等の機密保持が求められる研究に対しては,入館入室を制限するなど活動内容に応じた施設のセキュリティが必要である。

  化学薬品等については,保管場所,保管量及び保管方法等についてルールを定め無用に室外に持ち出せないよう,一元的な情報管理システムを構築する必要がある。

3)ユニバーサルデザインの導入

  大学キャンパスは様々な人が訪れる場所であることから,広く開かれた大学として,身体障害者や高齢者等への配慮(ユニバーサルデザイン)が不可欠である。このため,キャンパス全体で不必要な段差の解消,エレベータ,スロープ,身体障害者用トイレ,階段手すり等の整備を行う必要がある。

4)高度な研究活動への配慮

  遺伝子やナノテクノロジーなど先端的な分野では,研究内容や実験設備が高度化しており,施設に要求される機能も常に変化している。施設マネジメントにおいては,これらの要求に迅速に応えて研究者が納得出来る施設環境を確保する必要がある。
  法人化後の国立大学においては,労働安全衛生法が適用されることから,一定規模以上の事業場には総括安全衛生管理者を選任し,労働者の危険又は健康障害を防止するための措置を講じることが義務づけられる。施設の管理運営面においても安全と衛生に関して体系的に取組み,教育研究環境を適切に維持する必要がある。

5)環境への配慮

  近年,地球環境の保護の観点から,キャンパスにおけるエネルギー使用に伴い排出される二酸化炭素や廃棄物等の排出量に対して,総量規制などの新たな規制措置が講じられつつあり,このような状況に適切に対応する必要がある。
  施設管理において省エネルギー対策,減量化・再資源化への対応を含めたゴミ対策,汚染の防止,生態系保存への配慮,緑化などを積極的に進める必要がある。
  このため,施設マネジメントの一環として,環境報告書を作成し,各種情報や調査結果をホームページ上で公開することも重要である。更に,環境マネジメント(ISO14001)の認証取得※18などの検討も重要である。
  大学が使用する化学物質はPRTR法※19に従い,その流れと移動量を常に把握できる化学物質の管理システムを導入する必要がある。
  また,老朽化した施設の改修に伴うアスベスト対策,実験用トランス等に含まれるPCBの適正な回収保管についても関係法令を遵守した安全対策を講じる必要がある。

6)美しいキャンパスづくり

  樹木や緑地等の屋外環境は,大学キャンパスの重要な構成要素であり,思索の場として欠かすことのできないものである。施設担当部署はもとより教職員や学生と連携して,キャンパスの美観を維持するための清掃や草刈りなどのボランティア活動(キャンパスレンジャー※20)などを行い,これを通じて施設担当職員を含め,一人一人がキャンパスを大切にする意識と責任を認識することが重要である。

 

  本報告書は自由にコピーいただいて結構です。
是非,本報告書を基にこれからの大学キャンパスについて考えてみてください。
  本報告書に関するお問い合わせは,下記までお願いします。

文部科学省大臣官房文教施設部技術課

〒100-8959 東京都千代田区霞が関3−2−2
tel:03−5253−4111  内3076
fax:03−3593−7783
ホームページ:http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/index.htm

 

※1   大学としての自主性・自律性の下に,当該大学の教育研究の基本理念を実現するための長期的な目標。(「新しい「国立大学法人」像について」(平成14年3月26日国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議)44頁)
※2   各大学の基本理念や長期的な目標を実現するための一つのステップであり,一定期間内の達成目標。(「新しい「国立大学法人」像について」(平成14年3月26日国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議)45頁)
※3   中期目標を実現するための具体的な計画。運営費交付金及び施設費についての予算を要求する際の基礎となるとともに,中期目標の達成度を評価する際の具体的要素となるなどの性格を有する。この中期計画には,施設・設備に関する計画が含まれる。(「新しい「国立大学法人」像について」(平成14年3月26日国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議)45頁)
※4   学部等の枠を越えて学内の資源配分を戦略的に見直し、機動的に決定、実行し得るよう、経営面での学内体制を抜本的に強化するととともに、学内コンセンサスの確保に留意しつつも、全学的な視点に立ったトップダウンによる意思決定。(「新しい「国立大学法人」像について」(平成14年3月26日国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議)8頁)
※5   設計から維持管理に至るまで総合的に取組み,長期にわたる施設の有効活用を図るとの考え方と姿勢。
※6   国の庁舎等の各所修繕費に関して,構造種別や経過年数に応じて設定された統一的な予算単価。
※7   民間ビル(オフィスビル)の実施額は,社団法人東京ビルヂング協会のビル管理実態調査(平成11年度)より集計したもの。
※8   予算執行職員等の責任に関する法律。
※9   イギリスにおいては,Higher Education Funding Council for Englandが高等教育機関の調査統計を実施し,単位当たりの施設の建設コストやメンテナンスコスト,光熱水料等に関するデータ(上位・下位25%値(四分位数)と中間値)を示しており,これにより各大学は高等教育機関全体における位置付けや他大学との比較を行うことが可能となっている。
※10   平成14年3月「今後の国立大学施設の整備充実に関する調査研究協力者会議(主査:木村孟大学評価・学位授与機構長)」において,「国立大学等施設に関する点検・評価について」がとりまとめられた。
※11   中期計画に基づく各事業年度の業務運営に関する計画。(「新しい「国立大学法人」像について」(平成14年3月26日国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議)48頁)
※12   Private Finance Initiative:民間資金等の活用による公共施設等の整備。
※13   利用者からの要望,問い合わせ,苦情などの受付けを行い,利用者の満足度の向上を図るサービスとしての窓口。
※14   建物の保有する耐震性能の指標を表すもので,構造耐力上主要な部分の地震に対する安全性の評価と改修整備における耐震補強計画作成のために行うもの。
※15   国立学校建物の建築・設備の構成材(機器・部品を含む)が持つ機能性能を把握するために行うもの。
※16   既存国立学校の建物の健全度合いを定期的に調べ,もって改修,改築整備を適切に進めるための資料を得ることを目的としたもの。
※17   国立学校財務センターにおいて,平成14年4月より運用開始されている。
※18   信州大学工学部、京都工芸繊維大学、熊本大学薬学部、徳島大学歯学部附属病院において既に取得されている。
※19   特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理改善の促進に関する法律。
※20   キャンパスアメニティの向上を目指し,施設利用者の責任を明確にさせ,学生などが自らボランティア活動を促進する組織。

-- 登録:平成21年以前 --