国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議 技術設計報告書(TDR)検証作業部会(平成30年1月~)(第3回) 議事録

1.日時

平成30年3月22日(木曜日)14時00分~17時00分

2.場所

文部科学省15階 15F特別会議室

3.議題

  1. 国際大型加速器計画のコスト削減に関する調査研究(委託調査結果報告)
  2. ILC計画の見直し(国際リニアコライダー加速器のステージングに関する報告)について(非公開)
  3. これまでの議論のポイント(案)(非公開)
  4. その他(非公開)

4.出席者

委員

横溝座長、熊谷座長代理、大町委員、加藤委員、上垣外委員、北村委員、小磯委員、小関委員、佐々木委員、田中委員、近久委員、内藤委員、野田委員

文部科学省

磯谷研究振興局長、板倉大臣官房審議官(研究振興局担当)、岸本基礎研究振興課長、轟素粒子・原子核研究推進室長、吉居加速器科学専門官、三原科学官

オブザーバー

高エネルギー加速器研究機構 道園教授

5.議事録

【横溝座長】  時間になりましたので、皆さん、お忙しい中、お集まりいただきまして、どうもありがとうございます。
ただいまより、国際リニアコライダーに関する有識者会議技術設計報告書(TDR)検証作業部会(第3回)を開催いたします。
本日は、御多忙のところお集まりいただき、まことにありがとうございます。
冒頭のみカメラ撮影を行いますので、御了承お願いします。撮影御希望の方は、どうぞよろしくお願いします。
本日の会議は、前回に引き続き、具体的なコストに関係する議題がありますので、議題2から非公開としますので、御了承のほどよろしくお願いします。
では、本日の出席状況について、事務局から報告をお願いします。

【吉居加速器科学専門官】  御報告いたします。本日は、全員御出席いただいておりまして、定足数の7名を満たしておりますので、会議は有効に成立しております。
前回に引き続きまして、高エネルギー加速器研究機構教授の道園先生にも御出席を頂いております。
事務局からは以上でございます。

【横溝座長】  ありがとうございました。それでは、続いて、事務局より配付資料の御確認、お願いします。

【吉居加速器科学専門官】  お手元の資料をごらんください。資料1が委託調査結果に関する高エネの発表資料、資料2がビームダンプに関する道園先生の御発表資料、資料3が第1回検証部会での質問事項、資料4が第2回検証部会での質問事項、資料5が「これまでの議論のポイント(案)」、資料6が「今後のスケジュール(予定)」。参考資料としまして、高エネに委託をお願いしました調査報告書の概要版を添付してございます。資料1の関連資料でございます。
このほか、委員の皆様には机上資料としましてドッチファイルを置いてございますので、適宜御覧いただければと思います。
本日は議題の2から非公開となりますので、一般傍聴の方には資料1及び参考資料を配付してございます。以上、不足の資料がありましたら、お知らせ願います。

【横溝座長】  どうもありがとうございました。それでは、議事に入ります。議題1は、今年度文部科学省から外部委託調査として実施された国際大型加速器計画のコスト削減に関する調査研究について、報告いただき、議論したいと思います。
それでは、本調査を実施された高エネルギー加速器研究機構の道園先生、よろしくお願いします。

【道園教授】  それでは、国際大型加速器計画のコスト削減に関する調査研究について御報告させていただきます。
調査研究のまず目標ですけれども、加速器測定器はもとより、加速器土木なども含めてコスト削減につながる要素技術の研究開発課題について調査研究を行うということです。
主に区分としては5つありまして、現在コスト削減のための研究開発が進められているか、他の加速器プロジェクトで採用されつつあるもの。ここには例えば日米共同で進められている研究開発、それから、他の加速器などで進められている研究開発課題について研究調査を行うということです。
それから、2番目は、中長期的な研究課題。これは10年程度の研究開発期間を要するもの、これについて広く調査を行う。
それから、加速器土木関係、測定器本体、そして、超伝導加速以外の加速方式として、常伝導リニアコライダーと新しい加速技術であるプラズマ加速についても調査を行っております。
調査の方法ですけれども、まずエリアシステムと呼ばれる電子源、陽電子源、ダンピングリング、主線形加速器、最終収束系、測定器(あるいは検出器と呼んでいますが)、加速器土木ごとに精査して、また新たな研究開発によってコスト削減につながるものの探索・検討を行うということです。
1で行われた探索・検討ごとに、各々の研究開発課題について、ILCに採用された場合の削減効果、それから研究開発に必要な期間と金額について見積もる。コスト削減の見積りについては、TDRの費用の見積りを参考にして効果の算出を行うということです。
今回の調査に関しては、調査研究委員会というのを設けまして、この委員の皆様に審議を頂いております。全4回開催されて、そこの中で議論をしていただいて、それを基に調査報告書をまとめております。
コストの削減の評価ですけれども、TDRに記載されたコストから、新たな研究開発によってどの程度コストが削減できるかというのを評価しています。研究開発の成否だけでなく、成功した場合のコスト削減の効果についても不確定性があるということで、最大限のコスト削減の効果を含めて幅を持って評価しています。
それから、研究開発による削減効果には、研究開発に必要な費用を差し引くことは行っておりません。
これらの研究開発で取り上げたものは、いずれも世界中で研究開発が進められているものです。ですので、世界的な研究開発の中で、国内で取り組む部分の期間と費用を提示しております。したがって、成功のためには国際的な協力が前提となっております。
また、ILCに適用できる場合、例えば量産化について別途検討が必要です。ILC建設の準備期間ではプロトタイプを使って量産化を評価することが考えられているので、今回の研究開発の費用には含まれておりません。
それから、本調査研究においては、具体的な大量生産によるコスト削減についても調査の対象とはしておりません。
まず、5つの場合分けの中の最初の項目ですね。現在コスト削減のための研究開発が進められているか、ほかの加速器で採用されつつある項目ということで、ここではいわゆる日米コストダウンR&Dで取組中の低コスト・ニオブ材料の活用による超伝導高周波空洞の低価格化、それから、高電界・低損失実現のための超伝導高周波空洞の表面処理、いわゆるN-Infusionと呼ばれているものです。N-Infusionによるトンネル長の削減。N-Infusionのための高周波系の研究開発、入力カプラ、電解研磨、それからダンピングリング、RTML、BDSでの永久磁石の利用が挙げられております。
これらについては、加速器土木を含む加速器本体の建設費用、いわゆるILCユニットでいうと7,980ミリオンILCユニット、あるいは、日本円換算でいうと8,300億円に対するコスト削減の割合をこちらに示しております。
研究開発に必要な期間と必要な費用についてもこちらに挙げております。
ここの中でトンネル長の削減というのがあるんですけれども、N-Infusionが成功した場合、空洞数は10%削減できます。しかしながら、アンジュレータ方式の陽電子生成の場合は、電子と陽電子を衝突させるタイミングをそろえるために、トンネルの長さに制約が入るため、トンネル長は短くならないということで、その場合はこちらの効果は見込めないということになります。
それから、これらについては、例えばN-Infusionが成功した場合には空洞台数が減るため、空洞自身のコスト削減の効果が減るというようなことで、最終的な成果は単純なこの足し算にはなりません。これらの研究開発が全て成功した場合は、重複効果を除くと、TDRの前提としているILC500GeVの場合は、5~11%程度になるというふうに見積もられました。
各々、簡単に御説明いたします。まず低コスト・ニオブ材料というところですけれども、2つの点に着目しています。1つは、純度と残留抵抗比を最適化するというものです。純度については、RRRというもので規定しておりますけれども、TDRでは300以上というのがスペックとなっております。それを200以上、あるいは平均すると250ぐらいで大丈夫ではないかということです。
それから、もう一つは、ニオブを精錬した後、インゴットから直接切り出すことによって空洞ディスクを製造するというものです。これは材料のプロセスを書いているんですけれども、インゴットができた後、再溶解などを繰り返して純度を高純度にしていきます。その後、鍛造、圧延、こういったプロセスを経てシートを作って化学研磨をしているんですけれども、直接切り出しですと、プロセスでいうと、鍛造の部分から化学処理の前までの、ここの部分をスキップすることができるということで、プロセスの簡略化につながるということになります。
KEKで行っている成果ですけれども、インゴットから切り出した材料を使って3セル空洞を製造いたしました。取り出したシートは非常にグレインが大きいものになっていて、加工がなかなか難しいんですけれども、アニールして加工しているということです。
2台の3セル空洞を作りましたが、結果としては、ILCのスペックを満たす42メガボルト/メートルまで到達することができました。
もう一つが、超伝導高周波空洞の表面処理、Nitrogen-Infusionというものです。これは米国のフェルミ研究所で開発されたものです。熱処理の冷却期間中に窒素を導入するというものです。この結果を示したものがこのフェルミの図ですけれども、Q値が2倍になって、電界が10%増えています。
プロセスとしては、通常のプロセスだと電解研磨を行って、熱処理を行って、更に2回目の電解研磨を行って、超純粋洗浄等を行うんですが、Nitrogen-Infusionがうまくいく場合には、電解研磨を行った後、熱処理の後にそのままNitrogen-Infusionを施すことでこのプロセスも簡略化することができるという利点があります。
これをKEKで行った結果ですけれども、最初の結果は、ブルーが最初の性能ですが、Nitrogen-Infusionを施すことで劣化が起こってしまいました。横軸が電界で縦軸がQ値ですけれども、性能が上がるためにはこの青いラインより上に来ないといけないんですが、かえって性能が下がってしまったと。プロセス中の残留ガスが問題となっている可能性がありましたので、排気系を変更して2回目をトライしたところ、Q値で35%、電界でプラス5%という、成功することができました。
ただし、最終的なゴールは、Q値で2倍でありますとか電界でプラス10%というところですので、更に処理のパラメータを最適化することが必要であると考えております。
それから、3つ目の項目として入力カプラがあります。大電力高周波を空洞の中に送り込みますが、そこを通る部分がいわゆる入力カプラと呼ばれているものです。ILCで検討されているカプラのデザインには、DESYで開発されたTTF-3型、このタイプですね、それから、アジアで使用されているSTF-2型というものがあります。ただ、いずれの場合も、材料加工費、ロウ付け費、銅メッキ比、チタン(TiN)コーティングの部分が大部分を占めている。この四角で囲った部分ですけれども、大きな部分を占めていますので、セラミック材料とか、コーティング、銅メッキ、こういったところにコスト削減の余地があるのではないかと考えております。
これはセラミック材料ですけれども、材料を使ってサンプルの試験を行って、カプラのテストを行った上で、実際に組み込むことで最終的な評価を行うという、こういったR&Dのプロセスが考えられておるということです。
それから、4つ目が電解研磨です。電解研磨というのは、加速性能を引き出すために使う表面処理プロセスで、現在は超伝導空洞の標準的なプロセスとなっております。1台の空洞当たり2回のプロセスを行い、更に性能が出ない場合はもう1回プロセスすることになっておりますけれども、今ある電解研磨の装置は横型にしておりますが、縦型にして設備構造の簡素化を図る。
それから、パルス的に極性を交互に変えることで、現在は濃硫酸とフッ素酸の混合液を使っているんですが、これを希硫酸だけに換えるということが可能になる。これを行うことで、電解液循環製造装置の製造コスト低減と、それから廃液の処理コストの低減ですね。危険なフッ酸を使わなくていいという、そういうメリットがあるというものです。
それから最後に、ダンピングリング及びRTML、BDSでの永久磁石の利用です。こちらは、例えばESRFというフランスの放射光施設などでは、偏向磁石をアーク部セル当たり2台の電磁石から4台の永久磁石に変更する設計が採用されていると。これはその写真ですけれども、いわゆる偏向電磁石などに換えて永久磁石を採用するという例が出ています。TDRでは、偏向磁石のみの場合でも電力使用の合計は10.5メガワット、電力使用量で最大7.8億円程度の削減効果があるということです。
TDRで述べられている偏向電磁石ですけれども、大体2キロガウス程度の電磁石が500個以上使われているということです。これらについて、偏向電磁石を永久磁石に置き換えると、少なくとも運転経費については削減が見込めるであろうということです。
それから、次に、中長期的な研究開発課題、10年程度を要するものとしてここで2つ挙げております。1つは超伝導薄膜、もう一つは液圧成形です。いずれも2015年のILCプログレスレポートに記載されているものです。将来有望なものでありますが、10年程度のスパンが必要だと考えております。
1つは超伝導薄膜ですね。表面に薄膜を処理することによって、まず最初の段階では冷凍機の負荷を小さくするということがゴールになります。
もう一つは液圧成形ですね。チューブ状のニオブ材を型にはめて内部から液圧をかけることで変形させるということで、空洞を作るときの電子ビーム溶接を省略することができるというものです。
それから次に、加速器土木関係の研究開発項目です。ここでは4つ挙げていますけれども、中央壁圧の変更とか、ヘリウム冷凍機の配置変更、ホールアクセスの最適化については、ILCのプログレスレポートに記載されている内容です。既に概略については評価が行われております。したがって、机上検討で最終的なR&Dの成否は判断できるであろうというものです。
それから、測定器本体ですけれども、測定器本体については、リターンヨークの鉄の量の削減と、それから新しい超伝導材料の開発、この2点が可能性がある項目として挙げられておりますが、まだ検討が始まった段階で、コスト削減の具体的な評価についてはまだ見極めがなされていない状況です。
1点紹介いたしますと、これは電磁石のリターンヨークの部分のシミュレーションですけれども、ILCでは2台の測定器が交互に動く実験を行いますが、片方の測定器が衝突点に設置されている場合も、実験中の超伝導磁石からの外部への漏れ磁場が、ビームラインから15メートル離れた位置で50ガウス以下という要件が課されています。これをシールドするための鉄のヨークがあるんですが、それを最適化するということによってコストを削減するというものです。こちらについてはシミュレーションなどで検討が進められている段階です。
それから、最後ですけれども、超伝導以外の加速方式として、CLICとプラズマ加速についても調査を行っています。CLICというのは、ILCより高いエネルギー、3TeVを最終ゴールとした常伝導のものです。まだ研究開発が必要な段階です。コスト的には誤差の範囲でILCと同じと評価されております。
プラズマ加速については、コスト削減の効果は見通せなかったんですが、将来的に有望な加速技術と考えられております。
それから、補遺として、ILC250GeVについても触れております。こちらは、2017年11月のICFAからの声明を基にして、この報告書の中に補遺として加えているものです。TDRと比較して、Option A、Aプライム、B、Bプライム、C、Cプライムというのは、最小のトンネルにライナックを配置した場合と350GeVあるいは500GeVのトンネル、シンプルなトンネル、上流がシンプルなトンネルの部分に250GeV衝突エネルギーのリニアックを作るという、こういうものです。
このときには、既に第1回のTDR検証部会で御報告しておりますけれども、この中では、R&Dとして、きょう御紹介いたしました低コスト・ニオブ材の活用による高周波技術の低価格化、それから、Nitrogen-Infusion、入力カプラ、電解研磨、この4つの部分をTDRとのコストの比較において算出しているということですね。最大なものとしては40%削減の効果が見込めるということになります。
削減効果について、Option A、いわゆる5,260ミリオンILCユニットに対する削減効果、これ、単純換算しますと5,470億円ですけれども、2012年からのコストのインフレーション、あるいは、数が減ることによる効果を考慮しない、単純な変換した場合です。これに対する削減の割合で示したものがこちらになります。ILC250GeVの場合は、主線形加速器の長さが半分となるため、直線加速器に関するコスト削減の額としては半額になります。重複効果を除くと、ILC250GeVの場合、4~8%のコスト削減効果になると考えられております。
このうち上の2つについては、日米コストダウンR&Dで取組中。下の3つについては、準備期間で実施するということを想定しております。Option AプライムにはこれらのR&Dの成果を組み込んでいるということです。
以上です。

【横溝座長】  どうもありがとうございました。じゃあ、質問、議論お願いします。どうぞ。

【横溝座長】  これ、今出ているページですけれども、これは上の2つだけ既にやっていて、下の3つは今後やろうとしているということですかね。

【道園教授】  一部は、既に入力カプラなどに関しては、セラミックの評価などは行っているところです。メインとしては、準備期間に取り組む予定であると、そういうことです。

【小関委員】  コストを算出するときに、挙げられた4つのR&Dがどこまでいっているかというのはどのように決めているのでしょうか。例えば窒素インフュージョンの場合は、フェルミラボの達成値を想定しているのか、それともR&Dが進んでもっとよくなるということを想定しているのか。

【道園教授】  フェルミでは、Q値で2倍、グラディエントでプラス10%という結果が得られています。それは単セル空洞で得られているんですが、それが9セル空洞でも得られると仮定しての話です。ですので、実際に単セル空洞で達成されたものが9セル空洞でも達成できたとしての値で、ただし、これはやはり成果にもばらつきがあるというので、ここでは最大の成果が得られた場合とそうでない場合ということで、ばらつきをもって示していると、そういうことです。

【北村委員】  よろしいですか。単純な質問ですが、このN-Infusionというのは、昔、窒素ドーピングとかという言葉が使われていたと思うのですけれども、それと同じことなのですか。

【道園教授】  いえ、窒素ドープというのは、Q値は上がるんですが、電界が上がりません。窒素ドープというのは、800度で数分間窒素を入れるというものでした。窒素ドープの場合は、取り出した後に、電解研磨で、やはり2回目の電解研磨を行います。それに対してNitrogen-Infusionというのは、800度ではなくて、温度を下げている途中で窒素を入れます。ただし、若干長時間入れるんですけれども、それで、拡散量が恐らく窒素ドープよりも少ないものだと思うんですが、次のステップとして電解研磨は省略ができます。プロセスとしては若干違いがあって、窒素ドープの変形版というような、発展版というようなイメージですね。同時に電界も高くすると、そういうようなことを目指したものです。

【北村委員】  ということは、当時、2、3年前は窒素ドーピングって結構注目されていたと思いますが、その技術とはちょっと違うということですね。

【道園教授】  実はもともとそれを開発したのはフェルミですので、同じ方がやっているんですが、プロセスとしては若干違って、内容としても少し違うものです。Q値を上げるとともに電界も上げるという、そういう多少欲張りなところを持ったもので、2016年の初めぐらいに開発された技術です。

【北村委員】  そういうことですか。分かりました。もう1点だけ。空洞の電解研磨の話は出ているのですが、たしか、ちょっと今手元に資料がないのでうろ覚えですけれども、研磨ではなくて、空洞そのものを溶接するときのやり方として、たしか三菱重工が4本同時に溶接するという技術があったと思いますが。

【道園教授】  それは電子ビーム溶接ですね。

【北村委員】  そうです、電子ビーム溶接。結構あれはコスト削減にとてもすごく響くのではないかと思っていたのですが、今回はああいう技術は対象にはされていないのですか。

【道園教授】  それは、新しい技術というよりも、量産化の方に入るので、この中では入っていないです。

【北村委員】  そういうことですか。分かりました。ありがとうございます。

【熊谷座長代理】  いいですか。窒素インフュージョンの話なんですが、これは物理的にどういうことが起こって、Q値が上がったり加速勾配が上がったりしているかというのは、もう理解されているんですか。

【道園教授】  これ、なかなか難しいところで、後付けでいろんな議論がなされております。恐らく窒素があって、いわゆるダーティーレイヤーというふうに呼んでいますけれども、窒素がある程度の濃度、これは表面の窒素は、いわゆる化学量論的な、いわゆる化合物にはなっていない。窒素がわずかに入った状態なんですけれども、それによっていわゆるダーティーレイヤーと呼ばれるものができることによって電界が上がるというような説明がされておりますけれども、再現性も含めて、まだ完全な理論と実験結果が出ているわけではないというふうに認識しています。

【熊谷座長代理】  そうすると、例えば窒素じゃなくてもいいということもあり得るんですか。

【道園教授】  そちらについては、アルゴンを入れた実験がありまして、アルゴンを入れた場合にはうまくいかないということが分かっています。基本的には、窒素ドープから派生したものですので。ただし窒素インフュージョンの場合は、120度という温度、それから25ミリトールという圧力、それから48時間という時間、この3つのパラメータがあって、まずパラメータのオプティマイゼーションを進めようというのがフェルミの考え方です。ガス種を変えるとか、そういったところについては、アルゴンとか、何も入れないとか、そういった基本的なところはやっていますけれども、ガスを振るとか、そういったところは行っていないというふうに聞いております。

【熊谷座長代理】  どういうことが物理的に起こっているかというのをきちっと理解するともっといい解があるのかなという期待があったけどということで質問させていただきました。

【道園教授】  はい。

【横溝座長】  どうぞ。

【内藤委員】  窒素インフュージョンの話なんですけれども、まだ開発されて間もないということで、恐らくずっともつ、使っていても劣化というものは少ないんだろうと予想しているんだと思うんですけれども、その辺は、どういうふうに今、どの程度確認が進んでいるんですか。

【道園教授】  非常にいい御質問だと思うんですが、それは多分窒素ドープも同じ話だと思うんですけれども、現在はいわゆる縦測定と呼ばれている空洞単体の評価が行われているだけです。この報告書を出す段階というのは、3年間のプロセスの中の1年目に相当するところですけれども、3年目にはいわゆるジャケットとか、空洞をアセンブルした状態で評価しようとしておりまして、またフェルミでも似たようなことをやろうとしております。長期的にどうなるのかというのは非常に興味があるところだと思うんですが、今フェルミで窒素ドープなどをやった経験からすると、恐らく劣化はないだろうということですけれども、引き続き、2年目、3年目にかけて更に調査を、研究を進めていく必要があると思っております。

【横溝座長】  すいません。じゃあ、13ページの永久磁石のところの説明なのですけど、これはどの範囲を、メインライナックとは、ライナック全体を含めて議論されているんですか。

【道園教授】  電子銃からダンピングリングに入って、ダンピングリングから輸送路があって、メインリナックの上流に入ってきますが、ここで言っているのは、ダンピングリングと、それから輸送路でいうRTML、リング・トゥ・メインリナックですね、それから最後のビームデリバリーシステム、ここの部分です。そこが多分大部分になると思います。

【横溝座長】  その部分のトータルに占めているコストのパーセンテージってどのぐらいになるのですか。それがほぼ同じだと言われたということですか。

【道園教授】  磁石のコスト自身はちょっとここでは出していないんですけれども。というのはなぜかというと、電磁石と永久磁石のコスト差というところまでは評価がなかなか難しいということで、つまり、永久磁石にした方が安いかというと、もっとR&Dを進めないとコストの削減自身は見極めがつかないという。

【横溝座長】  それは磁石を作るという上でコストが結構かかるのですね。

【道園教授】  そうです。永久磁石の場合は、ネオジウムを使うのかどうか分かりませんけれども、コスト自身は、初期投資はむしろ永久磁石の方が高い可能性があるということの指摘がありました。ここでは、したがって、製造コストに目を向けるのではなくて、オペレーションでも毎年例えば10億円規模のものがありますということで着目した次第です。

【横溝座長】  どうもありがとうございます。どうぞ。

【佐々木委員】  今の質問に絡むと思うんですけれども、永久磁石の偏向磁石を入れる場所は、ダンピングリングからの入射とか、出射とか、メインリナックに入れるところとかということで、ビームがこぼれやすいところですよね。

【道園教授】  はい。

【佐々木委員】  そういうところに永久磁石を使ったときの放射線損傷の影響というのは評価されているんでしょうか。

【道園教授】  そこまでは評価されておりません。基本的には、後でも出てきますけれども、放射線の評価って、偏向磁石の部分というのは、1度ビームを通した後は、基本的には変えなくても済む場所だと考えております。
したがって、最初のビームチューニングのときには、変えるのであると思うんです。で、ここは、しかも偏向永久磁石のところも可変ということを考えています。磁石のヨークの部分を、距離を変えることによって、可変の永久磁石。永久磁石ですけれども、磁場強度を可変できるというのがここでやろうとしているものです。
ですから、調整することは可能で、基本的には調整した後は偏向はしなくていいだろうという考え方です。

【佐々木委員】  私が言いたかったのは、ギャップを変えるというのはいいんですけれども、どういう構造をしているかによって、磁石そのものが磁極になっているわけじゃないですよね。つまり、磁極は鉄材で、ヨークのところに永久磁石を使っているということなので、ギャップを変える、変えないにかかわらず、放射線損傷は、そっちのヨークの方にまで漏れてくるやつがあれば、そういう条件にもかかわらず影響を受けるのではないかなと。それと、ダンピングリングに入れて、何回か、エレクトロン、あ、ポジトロンですか、周回するんですよね。そういう意味では、インジェクションとエクストラクションとをやるわけですから、キッカーか何かでそういうことやるわけですね。

【道園教授】  そうですね。

【佐々木委員】  そうすると、そこでやっぱりばらけるというか、放射線の強度というのは上がるというふうに普通は考えられるので、その辺はちゃんと磁石のスペックも含めて慎重に検討されるのがいいのではないかなと思います。

【道園教授】  こちらについては、いろんなそういう議論もありました。ただ一方で、ここでは、新しい研究開発課題によってコスト削減ができる可能性については一応網羅的に探すというのがありましたので、実際に採用できるかどうかというのは、やはり更に研究開発を進めてから決める必要があると思います。
そこの中では、例えば外国の例としてはESRFの話がありましたけれども、例えばSpring-8でも検討されていて、それについては、高エネ研のメンバーがSpring-8で話を伺ったとかいう、そういったこともあります。
実際に採用できるかどうかについてはまた次のステップになると思います。御指摘のとおりだと思います。

【佐々木委員】  分かりました。

【横溝座長】  じゃあ、これ、今出ているんですけれども、その前の6ページ目にも同じような図が出ておりますが、Aダッシュに反映しているのは、6ページのやつは全部が反映されていなくて、最後のページのやつだけを反映しているというふうに説明されたと思っていいのですか。削減効果も数字が多少違うかなという気もするのですけど。

【道園教授】  違います。

【横溝座長】  項目もこっちが多いし。

【道園教授】  こちらで、まずここの部分については、トンネル長の削減というところは除いていますけれども、それ以外は、最後のページのものと項目としては……。あと、こちらの永久磁石ですね、これはいわゆるコスト削減には直接的には入れていませんので、ここの部分は同じです。パーセンテージが違うのは、分母が違っておりまして、ここでは、TDRの建設費用である8,300億円に対する割合、それから、一番最後のページでは、Option Aの値、金額に対する割合を示しております。
ですので、パーセンテージの割合自身が2つの要素があるんですが、1つは分母の部分が違うということ、それからもう一つは、分子に当たるコスト削減の効果がリニアックの部分に関しては約半額になるということで、2つの要素が入ったものが最後のパーセンテージに表れているということになります。

【横溝座長】  ちょっと技術的ところで、8ページ目なのですけれども、インゴットからワイヤーで薄くスライスして板状のものを作る。

【道園教授】  はい、そうです。

【横溝座長】  板のところは、ワイヤーで切ってすごい薄くなっているのですか。それとも圧延とか何かする必要ないんですか。

【道園教授】  たしか厚さが3.6ミリ程度なんですけれども、そのまま切ってこの値。

【横溝座長】  で、そのまま使ってしまうと。

【道園教授】  そのままということ。ただし、表面処理はいたしますね。こちらに書いてありますけれども、切り出した後に表面を化学研磨するということを行います。

【横溝座長】  ワイヤーで切ると結構ロスが多いのかなという気がするのですけれども、そういうことはないんですか。

【道園教授】  ロスは、かえって多分、こういうプロセスを経ることと比べると少ないようですね。まず、そもそも通常四角になってきていますから。それから、2.8ミリだそうです、厚さに関していうと。

【横溝座長】  板の厚さが。

【道園教授】  板厚が。

【山本オブザーバー】  ワイヤは0.1~0.2ミリです。

【道園教授】  ワイヤは0.1~0.2ミリということです。

【横溝座長】  分かりました。

【加藤委員】  1つ。先ほどのコスト削減効果、19ページ、20ページなんですけれども、20ページで、このコスト削減のパーセンテージは、Option Aからのパーセンテージという説明でしたよね。

【道園教授】  そうです。

【加藤委員】  それで、これ、最大をトータルすると9.2%になる。それで、上の20ページの方で、Option AとOption Aダッシュの差が……。19ページです、すみません。Option AとOption Aダッシュの差は6%ですよね。

【道園教授】  はい。

【加藤委員】  ということは、20ページのこのトータルの9.2に対して何らかのファクターをかけて6%ぐらいにしたということなんですか。

【道園教授】  こちらは、ここでの分母は、分かりにくいんですが、Option Aの5,260ミリオンILCユニットに対する割合になっています。こちらのパーセントは、6パーセントの違いという6%は、TDRのときですので、7,980に対する割合になっているということで、分母が違うということです。

【加藤委員】  そうすると、20ページの成果は、最大を反映しているということですか。

【道園教授】  最大を反映して、ここでいうところの……。

【加藤委員】  9.2が6になった。

【道園教授】  そういう意味です。

【加藤委員】  最大を反映したと。

【道園教授】  そうです。

【加藤委員】  分かりました。

【道園教授】  後半の方のQ&Aで御説明しようと思ったんですが、ここでは、更に6%のコスト削減のところでは、冷凍機の部分を最適化しているというのがあります。ですので、単純に、6%の部分と、こちらにあるこの部分というのは、500GeVから250GeVに置き換えたらこれぐらいの割合だというのを出しているんですが、先ほどのこちらの部分では、更に個々の、例えば冷凍機の配置とか、そういったものも最適化しているので、若干それよりも大きな削減効果となっています。

【熊谷座長代理】  ちょっとよろしいですか。これ、何ページかな、14ページに超伝導薄膜と液圧成形のまとめがありますけれども、これ、研究開発に必要な期間がわりに長いですよね、10年とか20年とか。これを短縮をするということは、予算を増やせば可能なのでしょうか。

【道園教授】  一概には言えないところがありまして、これは一番最初のところで申し上げているんですが、一応この金額というのは、国際協調、国際的なバックグラウンドがあって、並行して進んでいるという仮定になります。現在、超伝導薄膜というのは、ILCだけではなくて、広く非常に興味を持って諸外国で研究されているところですけれども、それを並行してやっているという前提です。これを、例えば10年じゃなくて5年にするのに倍かければいいかというと、世界的な情報交換の下で進めるという前提なので、世界の部分を半ば一手に引き受けるというようなことをせざるを得ない形になる可能性があって、コスト的にはもう少し単純な話ではないと思います。

【熊谷座長代理】  超伝導薄膜に関しては、別に加速器の利用ばかりではなくて、ほかの利用も可能性としてはかなりあるんじゃないかなという想定ができますよね。

【道園教授】  はい。そう思います。

【熊谷座長代理】  そうすると、そういう分野に波及させて、技術の確立とか、利用の目的の多様化を実現して、もっとコストが削減できるような方向に動く可能性だってあるわけですよね。

【道園教授】  はい。超伝導空洞の場合、いわゆる一般的な超伝導のものと難しいのは、こういったセルの形をしているものにいかに均一に付けるかというのと、それからもう一つは、実験室レベルでの話と実用材料レベルの話、この2つがあります。いわゆる実験室レベルのピースのものに関しては、チャンピオンデータというのはいろんなものが出ているんですが、それをいかに実用材料で加速器として使えるようになるかという、そこの応用が一番のキーポイントだと思っていて、そこの部分が時間がかかるところじゃないかなと思います。
ただ、御指摘のとおり、幅広い応用が期待されているところなので、世界的にも興味が持たれている部分であるというのは確かです。

【横溝座長】  まだまだあるかも分かりませんけど、また後で後半の質疑のところでも戻ってもらってもよろしいかなと思いますので、この辺で次の議題に進ませていただきます。
それじゃ、どうもありがとうございました。次の議題に進むに当たって、ここからは非公開ということにさせていただきますので、傍聴の方は御退席をお願いします。


―― 了 ――

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研究振興局基礎研究振興課素粒子・原子核研究推進室

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