体制及びマネジメントの在り方検証作業部会 報告書骨子(案)

1.本部会で聴取したこれまでの研究者コミュニティにおける検討の概要

(参考資料:「研究者コミュニティにおいて想定されているILCの概要」等を基に作成)

2.国際研究機関の体制及びマネジメントの在り方に関する検証

(1)準備段階における対応

○ KEKで現在実施されている研究計画からリソースをプレ研究所へ移行する時期と範囲については、KEKや国内の関連研究者のみならず、海外も含めた議論が必要である。その際、現在の研究計画を中途半端にして移行しないことが重要である。
○ 国際研究機関を想定した管理部門の増強と多言語化への対応や、広報、知的財産、輸出入管理、技術支援体制等の強化が必要である。

(2)ILC研究所の体制及びマネジメント

  1)法的位置づけ
○ PIPでは条約を基盤とすることが想定されているが、ILCは複数国による協力が不可欠な設備整備が必要であり、主に予算規模の面で長期に亘る国家レベルでの関与が必要となることから、条約による国家間の合意に基づくことは妥当である。
○ 条約に基づく場合、国が義務の遵守主体であるため、合意事項の拘束力が強く参加国の途中脱退が困難である等、安定的なプロジェクトの推進が期待できる。一方、合意形成プロセスは長期化する可能性がある。
○ ILCでは巨大な装置(資産)を各国分担で製作することから、分担割合に応じた国家間の権限調整が必要となる。条約に基づく場合はその枠組みで調整可能であるが、条約に基づかない場合は制度設計が非常に困難となる。
○ 条約に基づく国際機関を日本に設置した例として国連大学がある。国際機関としての性格は異なるものの、ILCにおける条約条項を検討する際の参考になる。
○ 条約を基盤とする強力なガバナンスが重要と考えられるが、参加国側の制約等により条約が困難な場合のために、別の枠組みの可能性について研究しておくことも必要である。その場合にも、法的に非常に強固な体制にしなければ様々な問題が発生することに留意すべきである。 
  2)推進体制
○ PIPでは新たな国際機関を設置することが想定されていることから、専任職員が確保されて各種業務及び意思決定を迅速に行うことができる一方、オフィスや間接部門を含めた人材の追加的確保が必要となる。
○ ILC研究所と参加国との間の金納(Cash)及び物納(In-Kind)による関係をマネジメントする中央プロジェクトチームの役割は非常に重要であり、優秀な人材による強力な体制を構築してプロジェクトを牽引する必要がある。
○ 国際共同プロジェクトにおいて導入する体制と採用する人材は一体の問題であり、ILCのホスト国を日本が担う場合には、そのプレゼンスを高めるためにも、マネジメントを担う人材を意識的に養成していくことが重要である。
 3)費用分担の方式
○ PIPで想定されている物納(In-Kind)による設備分担では、参加国による拠出への裨益として、割り当てに応じた自国産業への発注が期待され、不確実性対応リスクが参加国に分散される一方、インターフェイスの管理等が難しく、各国の予算や製造状況の応じた工程管理が必要であり、遅延やコストアップを招く可能性がある。
○ 様々な不確実性に対応するために、予備費(Contingency)や共通資金(Common Fund)をできるだけ多く確保しておくことが必要である。CERNは拠出金で運営されていることにより、リスク対応やコストダウンを図ることが可能であった。
○ CERNのように予算の長期的見通しが得られれば、建設時における予算ピークの平準化や突発事象への対応も可能となる。ILCにおいてもそのような方策の可能性について検討する必要がある。
 4)国際分担
○ PIPではホスト国の分担が半分以下で残りを参加国で案分することが想定されていることから、ホスト国に権限が過度に集中せず、参加国とのバランスにも配慮した本格的な国際機関としての運営が必要となる。
○ ILCが欧州におけるCERNと相補的な拠点を目指すのであれば、ILC研究所はアジアを中心とする研究拠点にすることも考えられる。相応の分担とともにアジア諸国が参加できる体制を検討する必要がある。
○ 国際分担については、最終的には各国政府間の交渉で決定することになるが、各国政府の合意を得るためには、各国内において研究者による自国政府の資金確保に向けた議論の進展が不可欠である。

(3)測定器における国際共同実験の体制及びマネジメント

○ PIPでは2つの測定器(ILDとSiD)による実験が想定されているが、科学的なクロスチェック等が可能となる一方、実験ホール等のコストは上がる。2つの測定器で実験を行う必要性について整理することが必要である。
○ ILC計画の実験グループでは、これまでの加速器実験と同様の民主的な運営(ホスト国も実験参加国も対等)や意思決定と執行権限の分離、最低限の組織による限られた任期での運営等がなされるべきである。
○ 素粒子物理実験は民主的に運営されている一方、少ない負担で参加する方が費用対効果が高いという見方もできる。仮に日本がホスト国を担う場合は、日本のアイディアや学術的な魅力に対して、海外から人も資金も集まる形にすることが重要である。
○ ILC実験においては、測定器の建設や実験グループのマネジメント等の金銭的、人的労力が大きい部分とデータ解析等の魅力的な部分が混在しており、国際的に負担が平等に分担されるよう戦略性を持ったマネジメントが必要である。

3.国際研究機関の周辺環境整備の在り方に関する検証

(1)前提となる人口規模

○ 現在はネットワークが発達して世界中でデータ解析ができる時代であり、一つの研究目標を有するILC研究所では、建設終了後に人口が減少していくことが予想され、他分野に研究を広げない限り、推計のように人口が増加することは困難と考えられる。
○ CERNに係る人口は増加しているが、CERNはジュネーブという国際都市に建設されて発展したことも考慮するべきである。

(2)求められる生活環境要件及び社会基盤要件

○ 海外の優秀な研究者やその家族を惹きつけるためには、欧米に匹敵する立派な施設や環境を整備する必要がある。住居のみならず、生活環境及び社会基盤を支える様々な施設等が必要となり、立地自治体の支援も不可欠である。
○ 特に家族は、国際的に認められた初等・中等教育が受けられるかに強い関心があるが、立地地域に既存の施設がない場合は新設する必要があり、外国語教育の観点からは、ある程度の集約性が必要である。
○ 配偶者の就労機会の確保も重要であり、ITERの立地交渉においても提示が求められた。また、幼児とともに来日する配偶者も働くことができるよう保育施設の整備も必要であり、CERNにおいては研究所内に設置されている。
○ 周辺環境整備に係るコストについては、ホスト国と参加国との国際分担とともに、国の行政機関、実験主体、自治体等の国内分担についても、実験主体や立地等の議論とあわせて整理する必要がある。
○ ITERでは誘致合戦が行われた結果、ホスト国の役割が増大したという事実があるが、ILCは事情が違うので、ホスト国の義務を少なくする方が望ましい。
○ ILC研究所は素粒子の研究所として発展した場合でも、将来的に放射性廃棄物を扱うようになると原子力施設として認識されることも排除できない。ILCと自治体の共生の議論には良い部分だけでなく負担となる部分もあり、初期段階から地元にも議論に参加してもらい、信頼関係を築いていくことが重要である。

4.国際研究機関を日本に設置する場合の国内における実施体制の在り方の検討

(1)日本の大学によるILC国際共同実験への参画の在り方

○ 日本がホストする国際共同実験としてBelleⅡ実験の準備が進んでおり、国際共同実験のマネジメントに関する実績も積み上がっている。この経験をILC実験においても十分に活かすべきである。
○ 実験の大規模化に伴い、大学等の研究室レベルで目に見える貢献をするのは容易ではない。ILC研究所を日本に設置する場合、日本の大学等が埋没することなくビジビリティを高めるためのマネジメントの工夫が必要である。
○ 国内コンソーシアムを構築し、検出器製作やデータ解析の拠点を複数設置してリソースを集中投資することは、日本の大学のビジビリティを高めるとともに、大学に外国人研究者を還流して国際化を進める上でも有効である。
○ 国際的に活躍できる若手研究者の育成のため、ILC研究所と大学が協力し大学院生のための連携講座等を用意する必要がある。特に、加速器、最先端の半導体や電子回路技術、コンピューティング等の専門性の高い技術教育では連携が必要である。
○ 多言語化への対応も含めた技術的・事務的な研究支援体制を充実させるため、ILC研究所のスタッフや各大学のスタッフへ教育機会を提供することも重要である。

(2)KEKとILC研究所との関係の在り方

○ 日本がILCのホスト国となる場合、KEKにおいてはILC研究所とは異なる形の研究を進めることが適当である。欧州においても、高エネルギーフロンティア素粒子物理の研究はCERNに集約され、例えばドイツ・スイスではDESYやPSIといった国立研究所に自由電子レーザーを含む放射光施設や大強度陽子加速器施設等を建設して、CERNとは異なる形の研究が進められている。
○ ILC研究所が日本に設置された場合においても、KEKを含めた国内の適切な加速器研究所を維持していく必要があるが、既存の研究所の財政規模を維持したまま、別途ILC研究所を新設・運営するのは困難であり、既存の研究所で培ってきた人材や技術が継承されるよう配慮しつつ、国内外の議論を踏まえてプロジェクトを選定していく必要がある。
○ 世界の多くの高エネルギー物理の研究所は財政的に厳しく、フォトンサイエンスに転身している現状の中で、DESYもフォトンサイエンスに舵を切っているが、DESYの素粒子実験グループは縮小しつつも健全に残っており、CERNにおいて世界をリードする仕事をしている。一つのモデルとして参考にすべきである。
○ CERNでLHCが開始されると、DESY独自の高エネルギー研究は終了したが、DESYの高エネルギー研究者の多くはDESYに所属しつつLHCの研究に参加する形をとっている。ILCについても、KEKの高エネルギー研究者がKEKに所属しつつILC実験に参加する形も考えられる。
○ ILC研究所に最初から強いリーダーシップを求めることは困難であり、国際的にリーダーシップを発揮できる者をILC研究所の評議会(Council)等の運営に配置しつつ、それをKEKが支援することにより様々な課題に対応しながら、段階的に移行していくことが考えられる。

(3)ILCを踏まえた日本の高エネルギー物理研究の将来計画に関する議論の在り方

○ 加速器の新設時には、その時点で使用可能な加速器技術及び将来展開を考慮する必要がある。欧州では、どの加速器技術をどの研究所が担うかという議論は主にECFAで行われ、それを踏まえて、各国のサイエンスカウンシルが責任を持って分野間の調整を行っている。
○ 現在、日本の素粒子原子核分野の研究は多様性を持って進められている中で、ILCという巨大なプロジェクトを実施することになる場合には、日本の高エネルギー研究者コミュニティにおいても、選択と集中を考慮した将来計画の合意形成が必要となる。

(4)日本の産業界によるILCへの参画の在り方

○ PIPでは空洞とクライオモジュールの組立はハブ研究所で行う想定になっており、自社内で組立設備を持たないことになる企業にとっては、ILCへの参加を生かす次の展開が必要となる。例えば、ハブ研究所と各企業がジョイントベンチャーを設立して、新たな需要に対応する仕組み等の構築が期待される。
○ 組立をハブ研究所で行う場合のメリットとして、企業は自ら設備投資することなくR&Dを行い、本格的に資本投入する場合の準備が可能となることが挙げられる。また、ノウハウが公開されることによる産業界への貢献も期待される。
○ 日本と欧州は企業とのパートナーシップで製造し、米国は研究所の中(In-House)で製造するという特徴があるので、ハブ研究所には、性能に責任を持てる範囲内において、地域性に合わせた裁量を持たせるべきである。
○ 日本の強みは研究所と企業とのパートナーシップであり、契約に裁量がある中で研究者と企業が議論しつつ装置を作り上げてきた歴史がある。他方、国際共同プロジェクトにおいては詳細かつ厳密な契約が求められるため、ILCにおいては国際契約の下でも日本の強みを生かすための工夫が必要である。
○ ILCではWTO政府調達協定に基づく国際競争入札が想定されており、密接なパートナーシップを有する企業が受注できる保証はなく、WTO協定の基準を満たして受注した企業がその後に研究所と密接な関係を構築することも難しい。ILCにおいて入札とパートナーシップの関係をどう設計するかは重要な課題である。
○ コスト削減のためには、ハブ研究所から企業への技術支援やハブ研究所間の知的財産の共有等が重要である。技術者レベルでは既に失敗例を含めた情報共有ができる土壌があり、これをトップマネジメントでも十分活用していく必要がある。
○ 米国のSSCが失敗した要因の一つとして、大企業にマネジメントを依存しすぎたことが挙げられる。LHCでは、CERNという強力な研究所とそれを中心としたハブ研究所の強固な国際ネットワークにより、様々なトラブルに協力して対応することが可能となっており、ILCにおいても参考にすべきである。
○ PIPは研究者の視点で書かれたものであり、産業界からの視点が不足している。今後は、研究者だけでなく産業界も含めてILC全体のマネジメントの検討を深めていくことが必要である。

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研究振興局基礎研究振興課素粒子・原子核研究推進室

(研究振興局基礎研究振興課素粒子・原子核研究推進室)