人材の確保・育成方策検証作業部会報告書骨子案

1.状況認識

(国内の状況)

・我が国では、大型の加速器プロジェクトを遂行するに際してOJTで人材を育成してきた経緯がある。
・しかしながら、近年は、研究の進展の伴い計画が大規模化してきているため、若手人材が大型加速器を建設するプロジェクトに携わる機会が減少している。
・また、施設の運用や改修、要素技術開発だけでは、大規模システムである加速器に係る全体的なマネジメントという点で研鑽を十分に積むことができず、今後、徐々に全体を俯瞰して加速器をシステムとして扱うことのできる人材が枯渇していくことも懸念される。
・さらに、大学等においては、加速器を専門とする研究室が減少してきており、他の分野の人材を若いうちからリクルートし、専門家に育て上げるというキャリアパスが一般的となった結果、少数精鋭で囲い込む方式となっており、類似の技術分野との交流があまり盛んではなく、人材が滞留している状況にある。

(海外の状況)

・海外においてもOJTで人材が育成されるが、我が国に比してより人材の流動性が高く、官民或いは分野の壁を越え、人材が循環している。
・これにより、欧米においては現状必要となる人材は育成・確保できているが、これから新たに大型計画を開始する場合、そこに人材を大規模に供給できないおそれはある。

(ILC計画との関係)

・ILC計画のような大規模な国際協力プロジェクトを実施するに当たっては、相当量の人材を国内外から結集させる必要があるが、現状ではそのための人材は十分に確保できていない状況と考えられる。
・更に言えば、今後、我が国として加速器プロジェクトを継続して遂行していくためには、持続的に人材を育成・確保していくことが求められるが、国内事情が上記のように厳しいことを踏まえれば、ILC計画の実施の可否によらず、加速器分野の人的基盤の強化が必要である。
・また、ILC計画のような国際協力を行うに当たっては、少人数の加速器の専門家が分担しつつも相互に助け合いながらプロジェクトを進めていくという日本式のやり方だけでなく、各技術分野に高い専門性を持つ技術者をプロジェクトの実施に際して適材適所で動員・配置して全体を統括する海外のやり方をも取り込み、両者が融合したような新たなやり方にシフトしていく必要がある。


2.今後に向けての課題

(国内での人材育成)

・ILC計画のような大規模なプロジェクトを実施するに当たっては、現状の国内の人員では圧倒的に質・量ともに不足しており、戦略的・計画的に人材を育成していくことが不可欠となる。
・特に、我が国が主導的な役割を果たす場合は、大規模プロジェクトのマネジメントができる人材の育成・確保が必要である。
・また、加速器分野の人材の必要量はILC計画のような大規模計画により一時的には増えても、増員分の一部は恒常的なものではないので、計画終了後を想定し、育成した人材のキャリアパス(国内の展開のみならず、海外での活躍も含む。)をあらかじめ考えておくことが求められる。
・その際、加速器というシステム全体を俯瞰して見られる加速器の専門家を着実に育成・確保するとともに、各技術分野で高い専門性を有する技術者をプロジェクトに動員することにより必要な人材量の変動に柔軟に対応できるような体制を整えることが望ましい。

(海外からの人材供給)

・海外から協力を求める人的資源を推定し、その量的・質的な供給可能性について海外パートナーと綿密に調整を図ることが前提となる。
・加えて、海外の研究者・技術者を呼び込むに当たっては、給与・勤務条件の調整のみならず、住環境、各種生活サポート、家族の扱い等を含めて総合的な環境整備が重要であり、そのための検討が必要である。


3.当面の対応方策

(国内の人材育成)

・例えば、現在でも既存施設の改修や機器の大規模なアップグレードなどは行われているので、そのような機会を捉え、現場経験を踏めるよう積極的に若手人材を投入する。
・また、仮に新たな加速器の建設計画が実現する場合には、国を挙げて若手人材の育成の場としても活用する。可能であれば、システム全体を統括するようなポストに若手を登用し、マネジメントについても経験させる。
・加えて、規模の大小を問わず、国内の加速器施設を連携させてネットワークを構築することで加速器分野の人材の交流を活性化し、どこかで加速器の建設が行われるときに、そのネットワークから人材を集中的に投入し、多くの人に建設の経験を積ませることができるようにする仕組みを導入する。
・海外における加速器施設の建設・改修に当たっても積極的に若手人材を派遣し、その場を活用して経験を積ませる。
・システムとしての加速器に必要とされる各技術分野の技術者との交流を積極的に進め、少数精鋭の加速器の専門家だけが担う体制から関係する技術分野の多様な技術者も加わって支える体制へと、人材の裾野を拡げていく。

(海外との調整)

・海外パートナーに期待する人材の供給量については、実行可能な計画となるよう先方の供給可能量や供給可能時期を踏まえて調整を図る。
・我が国の若手人材の海外プロジェクトへの参画によるOJTを可能とするため、必要な調整を図る。

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研究振興局基礎研究振興課素粒子・原子核研究推進室

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