人材の確保・育成方策検証作業部会これまでの主な意見(案)

1.本部会での議論について

・建設期の必要人員1,000人の職種の構成と若手の割合、国内と国外で必要となる人数と日本人研究者の割合、不足する人員を海外から呼び寄せる根拠、多数の外国人研究者やリーダー格の研究者を招聘等する場合の給与水準等の設定、海外研究者を受け入れるためのインフラ整備費が予算に含まれているか、ILC完成後の技術者等のキャリアパス、等について本部会で知りたい。

・現時点で海外企業がどれくらいILCに参加しているのか、また、大企業だけでなく国内の中小企業の技術をどう取り込んでいくのか、について本部会で議論したい。

・企業としてはILCに期待しているが、トリスタンから始まった加速器建設が近年止まっており、いつ頃、どれくらいといった次の加速器建設の見込みがないと企業では人員の確保が困難。特に加速器の技術者は社内でも他に共通する要素が少なく、かなり特化したトレーニングも必要。実際にはOJTで行われるが、何らかのプロジェクトが続いていることが技術者の確保という点では大事。

・近年、加速器科学の教育が弱体化しており、大学院生の活用が困難な状態。ILC計画をもとに大学の役割がどうなるのか議論したい。

2.TDRにおける人材の確保・育成について

・各国のラボが拠出する人員について、クライオモジュールの試験までは各ラボで作業を行うことを想定している。

・人員の増について、EXFELはHERAから人員が移行し、LCLS-ⅡはIから移行しているが、ILCは国際協力で実施するので、海外の事例を転用することが可能と想定している。

・加速器人員の国際化について、スーパーKEKBやJ-PARCは国内計画として進んでおり、本格的な国際共同プロジェクトに取り組むにあたっては組織や人を含めた考え方の変革が必要ではないか。

・加速器人材の育成について、現在でもKEKのATFで博士号取得者を輩出しているが、大学には加速器技術を専門とした講座がほとんどなく、育成につながっていないことが課題。

・量産化技術について、EXFELでは2年で800台の加速空洞を製造しているが、日本ではこの10年間で30台しか作っておらず、量産と技術の習熟が課題。OJT等により人材を育成するためには建設期間前に設備や生産体制をどうするかを平行して考える必要がある。

・建設には1000人が必要という点について、ピーク時には1,600人の体制を作らなくてはいけないということを見据えての議論が必要。


・ILCのキーテクノロジーはナノビームと超伝導である。ナノビーム技術は、KEKB、スーパーKEKB、ATFで人材が育っており、他の加速器にも転用される可能性があるなど、今後ますます必要になる重要な技術である。また、超伝導を初めて加速器に取り入れたのは日本のトリスタンであり、我が国はその時点で、世界をリードしている。その後の広がりでは後れをとったが、我が国にもポテンシャルはある。技術によっては、これまでKEKが世界を引っ張ってきている歴史があり、そこで育った人材が今後世界に広まっていくと考えられる。

・ILCでの研究でどのような人材を育て、次をどう育てるか、次の展望に関するビジョンが重要。ILCに学術的な魅力があれば、研究者、学生、企業と人は集まってくる。その展開をどうやって考え、見せていくかが重要であり、技術だけで議論すべきではない。

・CERNは多国籍機関であり、地政学的にも日本とは異なる。CERNの事例は参考にすべきだが、容易にそのまま援用できない部分もあるではないか。

3.大型研究プロジェクトの推進に係る建設、必要人員の確保及び人材育成の状況について

・建設全体の中で加速器のフェーズは前半であり、建設が進むにつれて技術開発の要素は少なくなっていく。そのため人員は我慢してコンパクトに抑え、セクション毎に分けないほうがアクティビティーを維持できる。

・プロジェクト間に切れ目があると、その時点で次の人材が育たなくなり、特に企業では人材の維持が大変になる。

・TDRに基づいてILCの人材を議論する場合は管理や技術支援等の人数も含めており、比較する際には注意が必要である。

・加速器関係の人材は専門性が高く、育成にも時間がかかるため、どう確保してプロジェクトを立ち上げていくかは重要である。

・加速器製品の特質は、製品(ハードウェア)が研究対象になっていることであり、研究者とコミュニケーションができないと製品が実現できない。プロトタイプ等での試験を研究者と一緒に経験することで企業側の人が育つということが大きい。そのため、プロジェクトの期間が空いたり、プロジェクトの規模、時期等が明確でないと計画的な採用・育成が困難。

・ILCの建設は国際協力であり、日本と海外の加速器建設スタイルの違いも考慮しなければいけないのではないか。大雑把に言えば、日本は少人数の研究者と技術者でチームを構成し、製造の大部分をメーカーに依存するやり方であり、一方、海外では多くのスタッフでチームを構成して溶接等も自分達でやるが、既存技術が確立しているものには人員は割かず予算も使わないというケースがある。それらを踏まえ、ILCの建設がどういったスタイルで行われるかの議論が重要である。

・最近の欧米の加速器建設は、日本のスタイルに近づいている。ILCの建設スタイルを検討するにあたっては、ヨーロピアンXFELが良い見本となるのではないか。

・建設については、全てが見えるようなチームが最初から3つ世界にあって、それぞれの地域によって中心となることが必要であり、最終的には一つのところにまとまることとなる。その組織体制が重要。

・若手の時期に試行錯誤する中で人が育つが、現在の日本ではそういった人材が余りいないという問題があり、仮にILCを日本で作ると考えた場合に日本人が主導的な立場がとれなくなり、予算が海外に流れホストする意味が低減する可能性があることについて議論が必要。

4.ILCの建設に想定される企業における構成部品の製造、建設、人材確保等に係る課題について

・ILCの部品製造を想定した場合、一般の量産品と比較すると特殊なものが多いが、量産が進むにつれて、新たに図面を作成したり、品質管理を行う頻度が減るので、設計作業としては大人数を必要としないが、エンジニアは想定外の問題が発生した際等に原因究明や対応策立案を行うことが主要業務になる。

・企業においては、いつ頃からどのような作業を行うかの工程が明確にならないと、人材の確保やプロジェクト終了後の人材活用等の計画が立てにくい。新卒採用については、極端な増員はしないが、逆に景気が悪くても採用しないと技術伝承において世代の断絶ができるため、継続的に採用することが重要と考えている。

・それに対し、加速器研究者の研究の知見の伝承については、日本の場合はトリスタンで団塊の世代の研究者が育ち、KEKBを作り出したが、現在は徐々に定年となり代替わりが進んでいる。様々なプロジェクトのバランスを見ながら人材採用できる段階になってきている。

・これまで国内では連続的に加速器プロジェクトが続いてきたが、SKEKB以降の大型プロジェクトの展望が見えないため、数年前から海外の複数の加速器プロジェクトに参加して仕事量の確保と技術の維持を図っている。

・中小型の加速器は、医療用のニーズが出てきたので、国のプロジェクトで培った人材や技術がそこに活かされており、うまく回っている。

・製造の現場では、加速器部品のように高精度で難度の高いものでも、量産を経験すると、効率化、品質管理等を工夫するようになり、量産効果が出てくる。

・加速器は広範な要素技術が必要で、電磁場解析、高周波技術、構造・強度解析、断熱設計、精密機械加工、表面処理技術、高清浄度溶接、精密据付けなど、これだけ全部を要求する製品は他にあまりなく、一通り経験させると企業にとっても人材育成の良いトレーニングになる。

・企業では、加速器だけを専門にしている人材は限られているので、加速器プロジェクト工事の繁忙に応じた人員の融通は、類似技術分野の部門との間で行き来させることで対応している。

5.国際大型プロジェクトにおける建設及び人材の確保等について(CERN LHCの事例)

・CERNと同様にILCでは中核的な研究所が必要であり、それを仮にKEKが担う場合、KEKの加速器(研究施設)職員は約200人(業務委託まで含めると約280人)である。ILCでは共通技術支援、管理部門を含めた人材として平均的に1,100人が必要であるが、日本をモデルとする場合、約1/3 を業務委託とし、さらに全体の半数またはそれ以上を世界各国からの貢献により、分散して充当することが想定される。

・LHCでは、CERNの研究者・技術者だけでなく外部参加機関からも貢献してもらうスキームとしてプロジェクトアソシエイトというシステムを導入した。CERNではもともと任期付雇用が多い。意識的に無期職員の人数を絞り、有期職員を多くしており、さらに、その内の50%未満が無期のコアスタッフとして昇任していく。他機関からの出向スタッフは、終了後に所属機関に戻ってもらうことができる仕組みとなっている。

・CERNから戻った後、多くの方は、自国の研究機関または民間で活躍するとともに、ITER、ESR、ESSなどの国際機関・プロジェクト等にも参加している。それらは研究者というより、技術者、応用科学者、エンジニアといった人が多いので、産業界から引く手あまたであり、問題は特に生じていない。

・大学院生や若手研究者などの参加について、LHCの場合は、CERNでの実験に取り組みながら学位を取得する機会を得ている。

・建設において役割を終えた研究者・技術者については、ILC計画の場合は母数が多く、100人レベルの規模でキャリアパス問題が生じる懸念があり、慎重な議論が必要。LHCの場合は、契約上、役割を終えた研究者・技術者は去ることになっている。その合意の上でCERNに来てもらっており、CERNとしては、その後のことは責任を持つ必要がない。

・予期せぬ事象やトラブルへの対応という点について、製造品については状況に応じて的確に企業を監督する必要がある。分担が合意された後の分担部分の責任は当該国(または地域)にあるラボにあり、ホスト国の義務ではない。また、CERNでは工場に人を派遣して、品質管理の監督を行っていた。企業とCERNが契約し、CERNがクオリティコントロールのエキスパートを派遣して監督していた。また、CERNではWebベースのモニタリングツールがあり、オンラインでもチェックし、有効に機能した。

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