資料7 素粒子原子核物理作業部会(第1回)資料6に関する質問への回答(駒宮委員)等

素粒子原子核物理作業部会(第1回)資料6に関する質問への回答(駒宮委員)等

(中野座長代理からの質問)
問 発表スライドの15ページで、超対称性と複合模型の区別がつくとしているが、23ページにある精密測定を通して区別する方法以外にどのような方法があるか。

(回答)
 ヒッグス粒子が比較的軽いことが超対称性にとってfavorであり、先ずはこれが大きな鍵となっています。
 複合模型では大きな質量のスカラー以外のベクトル複合粒子などが存在する可能性が高く、ILCでは標準理論の過程を精査することで、重い複合粒子のテールや、Zボゾンとの干渉が見える可能性があります。
 他にはトップクォークとZボソンとの精密測定によって、複合粒子の様々なモデルを識別でき、超対称性とも区別できます(スライドp27)。

問 発表スライド32ページに関連して、SUSY以外の暗黒物質の探索は可能か。

(回答)
 暗黒物質には、WIMP (Weakly Interacting Massive Particle) とnon-WIMPに分かれます。
 WIMPとは約100GeVから1TeV程度の質量を持つカラーや電荷を持たない安定な粒子のことです。SUSYの予言する暗黒物質(スピン1/2 のフェルミ粒子)が代表的です。このほかにWIMPの例として、複合ヒッグスモデルが予言するリトルヒッグス暗黒物質(スピン1のベクトル粒子)、余剰次元モデルの一つであるUED (Universal Extra-Dimensions)が予言するKK暗黒物質(スピン1のベクトル粒子)、拡張ヒッグスモデルの予言するInert Higgs暗黒物質などが、挙げられます。ILCでは閾値さえ達成できれば、全てのWIMPについて探索可能です。 
 一方、non-WIMPの具体例としてはアキシオン等が挙げられます。しかしながら、non-WIMP暗黒物質の多くは標準理論粒子との相互作用が非常に抑制されていて、ILCやLHCでの実験ではともに検出が困難です。

問 発表スライド33ページに関連して、もしILC以前にLHCでSUSYが発見されていた場合は、どのような戦略になっていたか。

(回答)
 SUSY粒子群の質量やSUSY breaking mechanism によって戦略が変わります。
 大きく分けると以下のようになります。
(A) SUSY粒子の性質からILC500GeVで軽いSUSY粒子が発見される可能性が高い場合:できるだけ早い時期に500GeVまでエネルギーを上げて、発見されるであろうSUSY粒子の詳細を研究して、LHCの結果とも合わせてSUSYの破れを解明します。この場合でもHiggs粒子の崩壊分岐率などの詳細研究を行い、SUSYとの無矛盾性を確かめます。LHCで発見されたものが本当にSUSYなのかの判断はLHCだけでは困難と思われるので。
(B) ILC 500GeVでは閾値に届く可能性がない場合:まずはHiggsの詳細研究から始めて、Higgsの崩壊パターンがSUSYで説明できるかを見ます。しかる後に1TeVにアップグレードすることを考えます。ここではLHCでカバーできる殆どのパラメータスペースをカバーできます。

問 総合して、重要な測定として挙げられているのは以下の4点であるという理解でよいか。
1.ヒッグスの結合定数のずれの測定精度向上
2.ヒッグスの自己結合の検証
3.トップクォークの質量の測定精度向上
4.LHCでは見えにくいSUSY粒子探索

(回答)
 ご質問のあった4点はその通りであると思いますが、もう一点追加いたします。
「5. ILCはe+e-のエネルギーフロンティアであり、様々な事象パターンを全て精査して、標準理論の予言からの離脱を系統的に探索する。クリーンな実験環境下において、理論で全く予測しなかった新粒子・新現象の探索も行う。」

 また、上記4点に関して、若干補足します。:
1.ヒッグス粒子とチャームクォーク(第3世代以外のフェルミオン)との湯川結合が測れるのは非常に意味があると思います。
2.複合ヒッグス模型などではSUSYに比べて大きくずれる可能性もあります。また、電弱エネルギースケールでの宇宙のバリオン生成(宇宙のCP非対称性)とも絡んでいます(27p)。
3.トップクォークはその質量だけでなく、WやZとの結合も重要です。
4.LHCでは見えにくいColorless SUSY粒子は暗黒物質とも関係するので、その探索は極めて重要です。

(山内委員からの追加質問)

・反跳質量分布でヒッグスを見る場合、年間何イベントが期待されるか。このページの図からは年400イベント程度に見えるが正しいのか。もしそうなら、これでできる測定は非常に限られるのではないでしょうか。これを使って5年間で何ができるのか実例を挙げてほしい。(18p)

・ヒッグスが質量の起源であることはLHCで確立されると考えますが、ILCによって質量の起源や真空の構造がわかるというのは何を指していますか。(21p)

・このページのSUSYと複合模型の例は標準模型を何%CLで排除していることになるでしょうか。またこれは積分ルミノシティ2750/fbを仮定していますが、この蓄積に要する実験期間は何年でしょうか。最初の5年間ではどこまで行けるか。(23p)

・積分ルミノシティとして4600/fbが仮定されています。23ページで仮定される積分ルミノシティと一致させるとどうなるのか。最初の5年間でどこまでカバーできるのか。(24p)

・トップクォークの質量がSUSYや複合模型のスケールを決めるとのことだが、LHCで決まる精度を5倍改善することでスケールはどの程度よく決まることになるのか。理論的不定性も含めて定量的に示していただきたい。(26p)

・我々の宇宙が安定であるかどうかがわかるという誤解を招くのではないか。(26p)

・具体的にttZの何を測定するのか。それが系統誤差を含めて1%以下の精度で測れるとする理由を教えていただきたい。(27p)

・この3種類の比較をもってLHCとILCはSUSYに対して同等以上の感度があると結論してよいのか。もっとさまざまな模型ではどうなるのか。(33p)

(小磯委員からの追加質問)

・ILCにおいては、ピッグス粒子をプローブとする精密測定によって標準理論を越える新しい物理を探究するということだが、クォークやレプトンの精密測定(フレーバー物理)と、どのように本質的な違いがあるのか。(14p)
・ILCで暗黒物質の解明ができるというのは、到達可能なエネルギー範囲に暗黒物質を形成する素粒子(中性の超対称性粒子等)が存在すれば発見できるということのみを言っているのか。
 あるいは、それ以外にも暗黒物質を探索できる方法を想定しているのか。
 暗黒物質の候補は超対称性粒子以外にも考えられているのか。 (15、29、30p)

・真空の構造とは、具体的にはどのようなことか。
 どのような測定によって、ILCではLHC以上に真空の構造を解明できるのか。(21p)

(山中委員からの追加質問)

・相乗効果というような説明があったが、図の意味することは、ILCさえ作れば、LHCは不要であるということか。(16p)
・SUSYも様々なモデルがあり、パラメータの範囲も広い。種々のモデルについて、どのパラメータの範囲ならば発見できるのか、LHCとILCで比較するような図が欲しい。(23p)

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