資料6 US DOE P5 reportについて

US DOE P5 report について

平成26年7月29日

東京大学理事・副学長
同大学院理学系研究科教授
相原博昭

以下は、P5(Particle Physics Project Prioritization Panel) の一メンバーとしての所見です。

1.P5レポートの意義

 今回のレポートとこれまでのレポートとの大きな違いは、米国の財政状況と冷戦終結後の高エネルギー物理学(大型加速器施設を使った素粒子原子核研究)の社会での位置づけを反映し、米国が高エネルギー物理学のすべての面で、世界を牽引するリーダーとなるよりも、今後は、国際協力を基本的姿勢として高エネルギー物理学を推進し、米国は、ある分野(具体的にはニュートリノ研究)に関する大型施設を誘致する(ホスト国となる)という方針を打ち出したことにあります。これまで、米国は高エネルギー物理学研究のすべてにおいて世界のトップに立つことを絶対的な指導原理として、中長期計画を作ってきたのですが、その姿勢を転換し、グローバルな研究コミュニティでの役割分担をはっきりさせ、その中で米国の得意とする分野の施設を米国内に建設するという研究のglobalizationを推進することに決めたことが、今回のレポートの最大の意義です。

2.P5及び米国関係研究者のILCに関する基本的認識

 P5は、グローバル化の前提に立って、ILCの科学的な意義と価値を再確認し、その上で、日本の高エネルギー物理学研究者コミュニティがILCをホストするという意思表示をしていることを高く評価しています。また、日本におけるILCの実現に向けて、米国内での加速器と測定器のR&Dを続行するとしています。さらに、日本政府の意思が確認され次第、米国におけるILCへの取り組みを再検討し、日本での建設が確定すれば、ILCへ本格的に参加したいとしています。

3.想定されるILCへの米国からの貢献規模

 米国のCERN LHCへの貢献や高エネルギー物理学に対する米国政府の支持の現状から考えて、加速器建設への貢献は1千億円程度だと思います。米国のフェルミ研究所(Fermilab)とジェファーソン研究所(J-Lab)は今後SLACに建設される超伝導線形加速器型の放射光施設(LCLS II, 建設費約1千億円)に使用される超伝導加速空洞の建設に取り掛かります。この建設が終了する2020年以降、これらの研究所の超伝導加速空洞製作工場を使って、Fermilab、 J-Labそれぞれで100台程度のクライオモジュール(1台約5億円)を製作し、日本に送り、合計で1000億円(5億×100台×2研究所)程度の貢献をILC建設に行うことは、かなり現実的可能性のある解だと思います。

4.日本が採るべきLBNFへの対応方策及び日本のニュートリノコミュニティの将来構想

 上記のように、米国はホストするニュートリノプログラム(LBNF)をILCと同様の国際協力プロジェクトとして進めることを明示しており、日本の積極的参加も呼びかけて来ると思います。日本が、ILCへの米国の参加を呼びかけている以上、米国のLBNFに日本が何らかの貢献をする必要があることは明らかだと思います。ただし、日本においてもニュートリノプログラム(ハイパーカミオカンデ計画)を進めているので、どのような規模で参加するのかについては、ILC計画の進展も見極めながら慎重に(かつ戦略的に)検討する必要があると思います。

5.LHCを踏まえたILCの科学的意義

 この点についてのP5の立場は明確で、ILCはまずヒッグスファクトリーであり、ヒッグスを手がかりに新しいパラダイムを拓くための施設なので、LHCの高度化と同時に進めるべきであるという意見です。

以上。

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