資料5 戦略的な基礎研究の在り方に関する検討会 報告書骨子(案)

戦略的な基礎研究の在り方に関する検討会 報告書骨子(案)

1.はじめに

○今日、世界の成熟国の社会は、知識の生成、伝達、活用などに大きく依存し、知識集約型の社会・経済活動がもたらす付加価値が各国の持続・成長の大きな要素となっている。
○このため、イノベーションへの期待が高まっており、特に科学技術イノベーションは非連続な発展を引き起こし、我が国の社会・経済に持続可能な競争力などをもたらすものとして期待されている。
○この観点からも、知の創出を担う基礎研究を推進し、高度な知的基盤社会を構築することが重要であり、市場原理に委ねるのみでは十分に取り組まれない基礎研究の推進は政府の責務。
○そのような中で、世界の中での日本の研究力のプレゼンス低下が観察され、その原因の一つとして、基礎研究の軽視があるのではないかという懸念がある。
○高度な知的基盤社会の構築には、知の創出の多くの部分を担う学術研究が重要であるとともに、生み出された多くの科学的知見を、イノベーションに向けて発展させる戦略的な基礎研究も重要。また、戦略的な基礎研究は、用途を考慮することの中から、新たな知の創出にも貢献。
○戦略的な基礎研究システムの進化に向け、国は以下のような課題に取り組むとともに、国民に対して、戦略的な基礎研究の意義などを明確に発信することが必要。
・科学技術の振興やイノベーションに関する政策全体の中での意義を明確化すること。
・他制度との間の関係について分かりやすい形で整理すること。
・戦略を策定する仕組みについては、目的に照らし効果的であるとともに、透明性の高いものとすること。
○大局的・長期的な視野で研究開発システム全体を俯瞰し、基礎研究を起点として、イノベーションを創出する方策等を検討するため、本検討会を開催。

2.戦略的な基礎研究に関する整理

(1)本検討会で取り扱う「戦略的な基礎研究」について
○研究の分類方法概観
・OECD Frascati Manualによる基礎研究/応用研究/開発の分類
・Stokesによる研究分類(ボーア/エジソン/パスツール)
○パスツール型研究(用途を考慮した基礎研究)のための2つのアプローチ
・出口を見据えた研究(定義などを記載する)
・出口から見た研究(定義などを記載する)
※ここで、「出口」という用語の整理も行う。
○本検討会において論じる「戦略的な基礎研究」とは、パスツール型研究のうち「出口を見据えた研究」を指すものとする。

(2)「出口を見据えた研究」を推進する必要性
○「出口を見据えた研究」は基本的には科学的な根本原理を追求し、公共的・普遍的な性格を持つ新たな知(科学的知見)を創出する活動であり、これを踏まえて、政府が積極的に役割を果たしていく必要がある。

(3)「出口を見据えた研究」を取り巻く現状と必要な政府の戦略
○科学技術振興機構が推進している「出口を見据えた研究」のためのファンディング制度である戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)では、その研究成果から、iPS, IGZOなど画期的な新技術が創出されており、イノベーションに貢献している。
○「出口を見据えた研究」の推進主体は根本原理を追求する研究者。この研究者の持つ発想と、社会・経済的価値の創出をつなげるために、政府の戦略が必要。

3.「出口を見据えた研究」の在り方

○「出口を見据えた研究」に関する知見が蓄積している戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)に以下の取組を展開し、「出口を見据えた研究」に係る戦略を実現することが必要。

(1)PDCAサイクルの確立
○戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)における戦略目標の策定プロセスを透明性のより高いものとし、かつ戦略目標の策定等に係る評価に基づき、常に改善が行われるものとするためには、PDCAサイクルを確立することが必要。

(1)-1確立すべきPDCAサイクルについて
○確立すべきPDCAサイクルの全体像は別紙の通り。
○PDCAサイクルの「P」として、「戦略目標策定指針」を定めることが必要である。(→次節3.(2)にて定める。)
○PDCAサイクルの「C」で行うべき評価は次のような軸で行われるべきである。
・戦略目標策定指針は、科学技術イノベーションの達成による社会・経済的価値の創出(出口)を図ることができる研究者の発想を見出すために最適なものとなっているか。【戦略目標策定指針に関する評価】
・戦略目標は、戦略目標策定指針に則り策定されたか。【戦略目標策定過程に関する評価】
・成果の創出状況からみて、戦略目標・研究領域は適切であったか。【実施フェーズに関する評価】
※科学技術振興機構が行う研究領域評価(戦略目標への貢献の観点からの研究進捗と研究成果及び波及効果に関する評価)を踏まえる

(1)-2PDCAサイクルを確立するために必要な体制の整備
○「出口を見据えた研究」の趣旨等を踏まえ、「戦略目標策定指針」の策定・改定に関する検討の場を整備する必要がある。
○毎年度策定される戦略目標の評価を行いつつ、PDCAサイクルを確立し、これを循環させるためには、この検討の場は常設とすることが必要である。

(2)戦略目標策定指針

(2)-1戦略目標策定指針の全体構成
○戦略目標策定指針は、「出口を見据えた研究」という趣旨に適うように、目標策定に必要な手順が、適切な順序で流れていくように構成される必要がある。
○このため、目標策定は、研究者の発想の体系的な探索から始まり、注目した研究領域が社会・経済にどのような貢献をもたらすかの推量に至るような手順で行う必要がある。

(2)-2策定のための個別手順(STEP1,2,3)
○Step 1:基礎研究に係る研究動向の俯瞰
・国内動向の俯瞰:DB技術を駆使した科研費成果情報の分析等
・世界動向の俯瞰:サイエンスマップによる文献書誌学的情報の分析等
○Step 2:知の糾合による注目すべき研究動向の特定
・Step1の分析結果を客観的根拠として用いつつ、基礎研究に係る最新の研究動向に関して知見を有する組織・研究者に対し、意見聴取を行う。
・意見聴取の結果を踏まえて、研究動向の注目度、発展可能性等の観点から注目すべき研究動向を特定する。
○Step 3:科学的価値と社会・経済的価値双方を追求する戦略目標の決定
・注目すべき研究動向に関係する研究者と国内外の産業界やベンチャーキャピタルなどの新たな市場の開拓等に関する知見を有するユーザーが一同に会するワークショップを開催し、注目した研究動向に関する研究の進展により、社会・経済に与えうる影響等を推量する。
・注目した研究動向に関する研究が進展した場合に創出されうる科学的知見の革新性や社会・経済に及ぼされうる影響の大きさや広さ、また想定した社会の姿が実現しうる蓋然性の高さ等を踏まえ、戦略目標を決定する。

(2)-3戦略目標策定に当たっての留意事項
○戦略目標は適切な粒度で設定することが必要。(過度に先鋭化/抽象化させない)

(3)「出口を見据えた研究」の実施に当たって考慮すべき事項
○個々の内発的な動機に基づく学術研究から展開して、出口を見据えた研究が行われる上で最適な「研究者群」の形成を促すような運営に努めるべき。
○また、基礎研究である以上、偶発的な発見(serendipity)が重要な役割を果たす。これを活かす制度であることが必要。
○さらに、研究者がモチベーションを持って研究に取り組める制度(評価の仕組みを含め)であることが必要。
○現実には「出口を見据えた研究」は孤立して行われるものでは無く、他の研究類型と関わったり、交差したりする。他の研究類型との関わり・交差も念頭に全体最適を図るような柔軟な運営が必要。(学術研究との関わり、企業等における開発・事業化活動との関わりなどを考慮)
○特に、イノベーションを結実させる観点からは、「出口を見据えた研究」と「出口から見た研究」の関わり・交差は重要であり、「出口を見据えた研究」の推進主体である研究者と「出口から見た研究」の推進主体であるプログラム・マネージャー等が交流することが必要。
○そのため、科学技術振興機構全体としてプログラム・マネジメント能力を持つ人材の育成策を整え、その人材を「出口を見据えた研究」においても活用することを考慮すべき。

4.今後求められる取組み

(1)戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)の当面の推進方策
○平成26年
・文部科学省は、本検討会の検討成果(本報告書)において提言された戦略目標策定指針に基づき、平成27年度戦略目標の策定を進める。
・文部科学省が戦略目標を策定した際には、本検討会に策定結果を報告し、適切に戦略目標が策定されたか、戦略目標策定指針に改善すべき事項はないか等について検討する。
○平成27年
・科学技術・学術審議会に戦略的な基礎研究の運営・評価等のための検討の場を設け、戦略目標策定指針の改定、平成28年度戦略目標の策定経過の評価等を進める。

(2)その他(何かあれば)

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

基礎研究推進室長 岩渕(内線4250)、基礎研究推進室長補佐 浅井(内線4344)、基礎研究・機構係長 春田(内線4386)
電話番号:03-5253-4111(代表)、03-6734-4120(直通)
ファクシミリ番号:03-6734-4074
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