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大学等におけるジャーナル環境の整備と我が国のジャーナルの発信力強化の在り方について(概要)

1.問題意識

  •  学術研究の成果は、一般に、論文として学術雑誌(ジャーナル)に掲載される形で発信・共有される。ジャーナルは、研究の推進においても、研究成果の社会での応用を実現する上でも不可欠の情報資源である。
  •  しかしながら、我が国はジャーナルの刊行・流通に関する学協会や出版社の体制などにおいて欧米諸国の後塵(こうじん)を拝している。学協会は細分化する傾向が強く、運営体制も脆弱(ぜいじゃく)であり、ジャーナルの刊行・流通を海外の有力出版社に依存しているケースが多い。
     一方、研究成果は論文の被引用数や掲載されたジャーナルによって評価される傾向があることから、研究者は海外を中心とした国際的なジャーナルに研究成果を投稿せざるを得ない事情がある。
  •  このような状況から、日本のジャーナル強化とともに海外ジャーナルの国内利用環境の整備は、半世紀にわたって、学術情報基盤構築の最も重要な政策的課題の一つとしてあり続けている。
  •  今般、各大学等では、ジャーナル価格の継続的な上昇、包括的購読契約への依存に伴う予算の硬直化、為替変動(円安)に伴う購読経費の急増、さらに、海外からの電子的サービスに対する消費税課税の可能性が高まり、現在のジャーナルへのアクセス環境の維持は予算的に極めて難しくなってきている。
  •  そのため、購読予算の増額以外の方法で、学術情報資源として重要なジャーナルを長期的にどのように維持及び発展させていくかを本質的に考え直す時期にきている。

2.ジャーナルの利用状況と価格上昇への対応

(1)現状

(電子ジャーナルの利活用の促進)

  •  大学等においては、既に紙媒体のジャーナルの購読数は減少し、電子ジャーナルの利用が主流となっている。

(ジャーナルの購読価格)

  •  ジャーナルの平均値上げ率は7.8%/年となっており、大学等の負担は毎年増加する一方である。更に外国為替変動の影響(円安)等も加わり、平成24年度のジャーナル購読経費は、国公私立大学全体で対前年度比10億円増の227億円に上っている。
  •  ジャーナルの価格が上昇し続ける理由としては、1)国際的な論文数の増加、2)代替品が存在せず競争が成立しない市場の特殊性、3)商業出版社に依存している体制、4)利用者(研究者)と購入者(図書館等)が異なることにより生じるモラルハザードなど、様々な要因が複雑に影響している。
  •  我が国では、国公私立大学を通じた大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)が出版社、学協会等との交渉を行い、価格上昇の抑制という面で一定の成果をあげている。しかしながら、価格上昇の要因そのものを取り除くことはできず、交渉には限界がある。

(ジャーナルの購読形態、包括的購読契約)

  •  ジャーナルの利用を実現する購読/契約形態には幾つかのパターンがあるが、相当数の大学等が包括的購読契約を締結している。包括的購読契約は出版社ごとに刊行している全てのジャーナルを利用できる利点の大きい契約であり、このことが契約見直しを慎重にさせる要因となっている。

(大学等における対応)

  •  ジャーナルのニーズや利用状況をデータに基づいて分析した上で、包括的購読契約の見直しを行っている大学等がある一方で、包括的購読契約のメリットを踏まえ継続している大学等もある。購読経費の負担方法は様々であるが、研究費を削って購読経費に回している大学等や基盤的経費以外の財源からの支出を余儀なくされているところもある。

(2)今後の課題と対応の方向性

(大学等の取組における方向性)

  •  ジャーナルの購読契約見直しに当たっては、1)データを取ること、2)必要とするジャーナルを把握すること、3)購入予算の裏付けを明確にしておくこと、4)選定するルールを明確にすること、5)情報をオープンにすることが重要である。また、各機関での取組事例や情報を可能な範囲で共有することが有用である。
  •  各大学等では、それぞれのミッションや利用者のニーズを勘案しつつ、それぞれの置かれた状況を考慮した上で、最も合理的な契約形態を選択することが求められる。そのために必要なデータの収集・情報提供等については、大学等の図書館が責任を持って行う必要がある。

(ナショナル・サイト・ライセンスについて)

  •  情報アクセスの平等性を保障するという観点から、国として出版社と包括的購読契約を行うナショナル・サイト・ライセンスによって各大学にジャーナルの提供を求める声もあるが、我が国の多様な大学、研究機関のニーズを一律に調整し、契約内容を決定することは困難であり、それが経済的な観点から合理的かどうかも議論のあるところである。
  •  また、この方法もジャーナルの価格上昇を抑える対策ではなく、契約の固定化と予算の硬直化を招くことには変わりない。そのための安定的な財源をどのように確保するかという問題も生じる。結果的に研究費本体への圧迫を招けば本末転倒である。購読規模によるメリットを追求するのであれば、既存のコンソーシアム内で問題を共有する機関間で検討すべきである。

(オープンアクセス化の動き)

  •  このような状況を踏まえ、世界的に研究成果へ無料でのアクセスを確保するオープンアクセス化の動きが顕著になっている。包括的購読契約見直しの流れとオープンアクセス化の促進が現行のジャーナル出版の体制に変化をもたらす可能性が強い。
  •  特に、ジャーナル契約見直しのセーフティネットとして、論文を機関リポジトリで公開するオープンアクセスを全国的に推進し、大学等が知識を共有できる環境を創出する意義は大きい。各図書館は、機関リポジトリの運用のみならず、登載するデータの生成、蓄積、提供に必要な環境の整備や学術情報流通に携わる人材育成等、積極的に関与することが望まれる。

3.オープンアクセスの推進

(1)現状

(意義等)

  •  オープンアクセスとは、学術論文に対して誰もがインターネットを介して無料でアクセスし、その再利用を可能にすることである。その意義は、ジャーナル価格の継続的な上昇への対応措置という側面だけでなく、研究成果の共有と再利用を促進することで、研究開発の費用対効果を上げるとともに、学際的な研究を促し、イノベーションの創出を促すという側面がある。

(世界的な動向・我が国の状況)

  •  G8科学技術大臣・アカデミー会長会合において、公的研究費を受けた研究成果としての論文のオープンアクセスを拡大させる原則が確認されるなど、オープンアクセスは世界的な潮流となっており、米国や英国等において、オープンアクセス義務化などの方針が示されている。
  •  我が国では、第4期科学技術基本計画等において、機関リポジトリの構築やオープンアクセスジャーナルの育成により、オープンアクセスを促進することが求められており、科学研究費助成事業の改善等を実施している。

(2)今後の課題と対応の方向性
(オープンアクセスに対する理解増進・義務化)

  •  我が国において、現状では、研究者等にオープンアクセスの意義が十分浸透しているとは言い難い。オープンアクセスの重要性について、研究者や学協会等の関係者の理解を促し、科学者コミュニティに定着させることが肝要である。
  •  JSTの支援事業や科研費で行われた研究の成果としての学術論文についてオープンアクセスの義務化を図るなど、公的研究費を受けた研究成果については、オープンアクセス化が当然であるという意識を広く研究者に普及させることも重要である。

(オープンアクセスの拡充方法)

  •  オープンアクセスを促進するための具体的な方策としては、各大学等における機関リポジトリ構築を更に拡充するとともに、オープンアクセスジャーナルの育成にも努める方法が妥当である。
  •  オープンアクセスジャーナルの育成に関しては、信頼に足る査読制度の構築、科研費における研究成果公開促進費の充実、我が国の公的支援による出版プラットフォームであるJ-STAGEの強化により、学協会等が協同して、質が高く、また、研究者が負担するAPCを低額に抑えることが可能なオープンアクセスジャーナルを構築することが望ましい。

(オープンアクセスのさらなる展開)

  •  学術論文の教育現場等での利活用を促進する観点から、学協会等は刊行するジャーナルに掲載される論文の著作権ポリシーの明確化を図る必要がある。また、研究者や大学等は論文の根拠となるデータのオープン化等についても、積極的に取り組むことが重要である。

4.日本発のジャーナルの強化について

(1)現状

(我が国のジャーナルの状況・新興国の成長)

  •  科学技術・学術審議会の学術情報基盤作業部会審議まとめにおいて、「日本において国際的に認知された有力なジャーナルの発行は決して多いとは言えない」ことが指摘されており、日本学術会議からは「日本の優れた研究活動を国内外に力強く発信し、かつ持続性と競争力をもった流通基盤を提案、構築する」ことが提言されている。
  •  トムソン・ロイター社が提供している国際的に影響力の高いジャーナルに掲載される論文情報を収録するデータベース(Web of Science Core Collection)に収録されている日本のジャーナル数は、この5年間で1.4倍に増加しているが、中国や韓国、ブラジルは2倍以上の伸びを示している。また、中国や韓国は、国内の論文データベースを整備し研究成果の積極的な流通に努めている。

(我が国のジャーナル支援への取組)

  •  国内ジャーナルのグローバル化への取組を支援するため、科研費において、研究成果公開促進費の「学術定期刊行物」を「国際情報発信強化」に変更した。また、JSTでは、電子ジャーナル流通プラットフォーム(J-STAGE)の高機能化を進めるとともに、国内論文等の引用情報を集計・提供する事業にも着手した。

(2)今後の課題と対応の方向性

(学協会活動の強化)

  •  我が国の研究力を維持・向上させるためには、我が国の学協会が刊行するジャーナルの評価を高め、国内外から優れた研究成果が日本に集まる体制を構築し、グローバルな研究コミュニティとして活性化を促す必要がある。
  •  そのためには、複数の学協会が協力して質の高い、魅力的なジャーナルを刊行しようとする取組やジャーナルを刊行する学協会、編集委員長などが情報交換する場を設け、ノウハウの共有等、相互の連携を強める取組を推進することが求められる。

(人社系ジャーナルの流通強化)

  •  人社系のジャーナルについても、海外からのアクセス向上を図るためには、電子化を一層促進するとともに、国際的に流通する二次データベースへの収録を進める必要がある。和文誌については英文抄録を併せて掲載することが重要である。

(ジャーナル支援の充実)

  •  科研費の改善効果が上がるようにするため、計画調書の見直し、適切な審査員の配置を進めるとともに、中間評価を厳しく行い、複数年採択数の増加など、支援の充実を図るべきである。

(日本発のプラットフォームの強化)

  •  J-STAGEについては、戦略的なマーケティングなど、国際水準での論文流通のための機能強化とともに、海外ジャーナルの受入れを含め、プラットフォームとしての国際的な存在感を増すことを検討すべきである。また、日本のハイレベルな論文を紹介するためのレビュー誌をJ-STAGEから発信すること等により、掲載論文の利活用の促進が期待できる。

(評価指標等の整備)

  •  ジャーナルや論文の評価に際して、特定の指標に過度に依存することなく、分野間の補正など複数の手法の導入や多角的評価をすることが必要である。一方、機関の評価においても、論文の引用数は評価指標のひとつになっており、世界的な引用データベースに収録されないジャーナル等の論文を適切に評価するため、JSTが開始する引用情報整備は重要である。
  •  日本のジャーナルについては、包括的な情報分析が不足しており、国際発信した結果を定量的、定性的に十分評価できていない。ジャーナルの評価や分析への対応を含め、ジャーナル出版に関し十分な知識を有する人材の育成が必要である。
  •  日本のジャーナル出版においては、新しい評価指標の整備や学術情報流通モデルの構築など、現在の学術情報流通を改革する戦略的な取組が求められる。その際、研究者コミュニティなど、関係するすべてのステークホルダーが関わり、世界に通用する指標の策定を目指すべきである。

5.おわりに

  •  現在、学術情報流通を巡って我が国が直面している課題は、長年にわたって形成されてきた世界的に共通の問題であり、短期的にこれを解決する方策は見当たらない。だからといって、ジャーナルの購読コストに膨大な予算を支出し続けるのは適切でない。
     当面の策としては、引き続き、学術論文等のオープンアクセス化の促進、大学等におけるジャーナル契約形態の適切な見直し等が重要である。
  •  この課題解決には、関わるステークホルダーの意識改革が何より必要である。研究者が有力ジャーナルへの論文掲載数を競い、それを国も評価する姿勢を改めるとともに、大学等においても、教員・研究職員評価等の際の研究評価に多面的な指標を活用する体制を整備すべきである。
  •  日本のジャーナルについては、科研費やJSTの支援を活用しつつ、国際発信力強化やオープンアクセス化等を図り、海外の出版社に過度に依存しない体質に変換する必要がある。図書館と学協会が連携して、関連人材の確保・育成を図ることも重要である。
  •  今後、国及び学術情報流通に関わる諸機関がジャーナル問題解決に責任ある取組を強化することが求められており、特に、NIIやJST、JSPS等が連携して取り組む体制の構築が不可欠である。
     また、近年、ジャーナル環境や学術情報の流通体制の変化は激しく、この課題に適切な対策を講ずるため、各ステークホルダーが協同し、継続的な討議の場を持つことが必要である。 

お問合せ先

研究振興局参事官(情報担当)付学術基盤整備室

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-- 登録:平成26年09月 --