資料1-1 調査・検討課題(人材育成)に対する論点整理(案)

人材育成について

○我が国の計算科学技術を今後とも継続的に発展させていくためには,それを担う人材をいかに育成していくかが重要である。特に,超並列化などのスーパーコンピュータ技術の進展に伴い,それに対応できる人材の確保が困難になっており,そうした人材の育成が大きな課題になっている。

○我が国の競争力向上や各種課題解決のためには,先端的な研究を行うトップ人材ばかりではなく,スーパーコンピュータを幅広く適切に利用できる人材,特に,産業競争力の強化に貢献するような「産業界で求められる人材」を育成することは重要である。
 育成するべき人材には,これまで報告されてきたとおり,以下の6つのタイプが考えられる。

  • 作れる人(大規模並列アプリケーションを開発できる人材)
  • 使える人(既存の大規模並列アプリケーションを適切に利用できる人材)
  • 支える人(既存の大規模並列アプリケーションを最適化等研究支援できる人材)
  • つなげる人(社会的問題の解決や創造的開発のために計算科学以外の他分野も含めたシーズとニーズをつなぐコンサルティング人材)
  • まとめる人(教育機関や産業界において,プロジェクトを戦略的にマネジメントのできる人材)
  • 教える人(教育機関における教員等)

○「作れる人」・「使える人」・「支える人」の育成については,大学における基礎教育・ベーシックレベルの教育を受けた人材が,それぞれのタイプの育成に応じた専門的な教育(アドバンスレベル・エキスパートレベルの教育)に移行するといった教育段階が考えられる。「つなげる人」・「まとめる人」については,「作れる人」・「使える人」・「支える人」のそれぞれに応じた力を個別に持つだけでは十分ではなく,複合的な力が必要であり,そのような複合的な力をつけるための教育を実施する必要がある。
 また,それぞれの教育は,それを受ける人材が望むタイプやレベルに応じて,必要とされる内容等が過不足なく実施されることが重要である。

○更に,上記のような計算科学の人材の育成だけではなく,国家基幹技術である世界最高水準のスーパーコンピュータの開発技術の発展的継承と人材の持続的な育成・確保のためには,計算機科学の人材(ハードウェアを設計できる人材,システムソフトウェア等を開発設計できる人材)の育成も重要である(計算機科学の人材の育成に関して,どのような論点があるか。)。

これまでの取組み例

○人材育成については,『HPC人材育成のための教育のあり方検討会』及び『HPCI人材育成検討WG』から報告書が出されている。これらの提言の内容の骨子は,以下のとおりである。

●必要な教育体系

  • レベルに応じた教育内容
  • 大学における教育パターン・教育プログラム
  • 企業人を対象とした教育プログラム
  • 教育・人材育成を行っていくための体制提案

●早急に具体化すべき事項

  • 検討体制の整備
  • 情報の一元的提供
  • コンテンツの相互利用の促進

●早急に具体化の検討を始めるべき事項

  • 「京」による若手人材育成方策(「若手枠」の教育コース利用など)
  • 国産アプリケーションの教育現場での活用,普及
  • 産業界のための人材育成(企業人向けプログラムの調整,大学における企業人の短期受入れ,企業への講師派遣)
  • アウトリーチ活動

●中長期的に検討を進めるべき事項

  • HPCに関する資格認定制度(HPC技術者認定試験,業績評価,待遇,キャリアパス)
  • 人材育成に関する国際協力,特にアジア地域において
  • 計算科学に関する教育人材バンクの設置
  • 学部,修士,博士での系統立った計算科学教育の在り方の検討
  • 大学院教育での連携,単位互換
  • コンソーシアム構成機関,大学,企業の間のインターンシップ制度の具体化
  • 大学・学界・産業界等における人材評価の多様化

〇「必要な教育体系」に関しては,『HPC人材育成のための教育のあり方検討会』に例示されているように,大学においても大規模計算機におけるプログラミング技術の習得を目的とした教育プログラムが実施されており,また,基盤センター等において実施されている実習付の講習会では,産業界も含めた人材に対しても,スーパーコンピュータの利用法・プログラミング言語,共通基盤としての数値計算法,チューニング・並列化技術の教育がなされている。これらに加えて,理化学研究所計算科学研究機構(以下「計算機構」という。)では,企業からの出向者やインターンシップを各研究チームに受け入れており,さらに,その中でライブラリやアプリケーションの開発に関わることを通して,利用支援技術者の育成を行うことが検討されている。このように,個別の取組が行われているが,体系化には更なる取組が必要である。

〇「早急に具体化すべき事項」に関しては,コンソーシアムでは人材育成に関しての検討が更に進んでおり,コンテンツの相互利用の促進に関しては,HPCI戦略プログラムにおける戦略機関(以下「戦略機関」という。)が,他機関が開催する講習会を共催することで取り組んでいる。一方で,情報の一元提供に関してはその取組は見られない。

〇「早急に具体化の検討を始めるべき事項」に関しては,「若手枠」の教育コース利用などは整備されていないが,計算機構,戦略機関や産業界のコミュニティで開講されている講習会などにおいてその他の事項が実施されている。以下に例を示す。

  • 戦略機関では,成果公開のためのシンポジウムを開くだけでなく,アプリケーションを使った実習を含めた講習会を実施し,その普及活動を行っている。
  • 計算機構では,並列処理や,プログラミングの基本から最適化技術までを,実習を交えて習得してもらうスクールを開講しており,今後,モデリングや数値計算の方法に対するスクールを開講する予定である。
  • 産業界における人材の育成に対しては,コミュニティ(例:バイオグリッドセンター関西)が中心になって,アプリケーションの講習会・実習会を実施するだけではなく,大学のスーパーコンピュータや「京」などを利用できる環境を用意することで,大規模シミュレーションを適切に実施できる人材の育成を行っている。

〇「中長期的に検討を進めるべき事項」に関しては,戦略機関が若手海外派遣や国際スクールといった国際協力を実施しており,また,戦略機関・計算機構や大学が共同で講義を開講するなど,計算科学教育に向けた取組を行っている。一方,資格認定制度や人材評価に関する項目に関して,まだまだ課題が残されている。

○以上のことから,アカデミアにおいては,キャリアパスや業績評価のシステムの構築といった中長期的な課題等はこれからも検討していく必要があるものの,上記に例示したように,大学教育や計算機構,戦略機関等が開講している講習会の中で,これまで提言された内容が実施されている。

○一方,産業界で求められる人材の育成に関して,受講できる講習会は短期的なものが多く,その中では十分に対応できない教育を受ける機会,例えば,重要な設計・製造にシミュレーションで得られた知見を活かすことのできる力などを付けるための体系立った教育を受ける機会が,当該教育の実施されている機関へのインターンシップや出向に限られている。
 また,大学教育の中では,上記の設計・製造に生かす力を十分に身に着けていないなど,産業界で求められる力を育てるという面で十分ではなく,産業界に入ってすぐに活躍ができるとは言いにくい状況である。
 このように,産業界で活躍できる人材の育成のための活動は十分とは言えないため,以下では産業界で求められる人材に係わる課題及び育成の方策をまとめる。

産業界で求められるHPC人材に係わる課題と育成の方策

○育成される人材のタイプを「作れる人」等の6つに分けたが,現状では,それぞれのタイプに応じた教育の達成基準や体系的な教育プログラムが明確ではない。
 これに対して,各人材のタイプ毎に求められる能力や経験を具体的に示し,整理してまとめたスキル標準を確立することが考えられる(スキル標準の構築や運用はどこが担うべきか。)。このスキル標準の確立により,アカデミアと産業界で求められる人材のニーズギャップを防ぐことに有効であると期待され,また,自身が利用できる計算資源の最大規模が明確になり,スーパーコンピュータ利用のステップアップの際の選択基準になり得ると期待される。

○企業がシミュレーションを設計・製造に活用するときの問題点は,以下の通りである。

  • シミュレーション技術の不足よりも,課題の設定やそれに合う解析モデルを作ることがきる人材,境界条件をうまく設定できる人材が不足している。また,実行して得た結果を理解,解釈できる人材や,解析結果を製品開発に反映できる人材が不足している。
  • ソフトウェアの中身を理解している人材が不足しており,そのソフトウェアの限界を把握できていない。
  • 知識や技術を伝授するコーディネータや,問題の解析規模等に対応した複数の技術を用いた解析全体を俯瞰できる人材が不足している。

 これに対して,現在は,計算機構や大学の基盤センターなどで,実習付講習会を実施し,「支える人」の育成を中心に様々な取組を行っており,また,出向者等を受け入れることで「作れる人」やソフトウェアを適切に「使える人」の育成を実施している。
 これに加えて,今後は,上述の産業界の状況(使いこなせる人の育成)に対しては,「作れる人」・「使える人」・「支える人」に必要な力を複合的に持つ人材の育成や,マルチフィジックスなどの要求される横断的な課題に対応できる人材の育成を行う必要があるのではないか。この際,一般化された枠組みの中で対応することが難しいため,必要な内容に特化した教育を広く実施するためには,戦略機関がその役割を担うことが重要になるのではないか。
 以上のことだけではなく,産業界の人材がアカデミアに戻って更に深い教育を受けられるような機会を作ることも重要である。

○その他として,以下のことも必要である。

  • 特定の分野だけに限られることなく,分野を超えた高度なアプリケーションを開発できる人材の育成が求められており,評価の在り方やキャリアパスも含めて,HPCIコンソーシアムをはじめとする研究コミュニティとしても考えていくこと。
  • HPCのシステムを使った大規模シミュレーションの利用自体が始まったばかりであり,今後も,定期的に人材育成をフォローアップし,時代の変化に対応した人材育成を実施すること。

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