資料1 調査・検討課題(利用の在り方)に対する論点整理(案)

1.スーパーコンピュータ利用の促進

スーパーコンピュータ利用促進の方向性

○計算科学技術により我が国の科学技術の一層の発展,産業競争力の強化を図っていくためには,計算科学技術インフラの整備・運用のみならず,利用者の裾野拡大を含めて,その利用促進が不可欠である。特に,スーパーコンピュータの産業利用は,イノベーション創出等を通じた我が国の産業競争力の強化や,計算科学技術の成果の社会への還元などの観点から重要であり,その利用の促進を図ることが重要である。

○このためには,利用手続の簡素化,使いやすいアプリケーションの提供,ユーザサポートなどの利用環境の整備を行うとともに,試験利用から本格利用まで,企業の利用段階にあわせた枠組みの構築や産業界が利用するアプリケーション環境の整備を行い,利用者がより効果的・効率的に成果を創出できるようにする必要がある。

 以下に,利用に係わる課題及び方策をまとめる。

スーパーコンピュータ利用の在り方

○スーパーコンピュータが広く社会で活用され,科学技術の一層の発展,産業競争力の強化に貢献していくためには,「京」だけでなく、HPCIシステムとして提供されている共用計算資源(HPCI共用計算資源)全体で,利用者がその利用目的やスキルに応じ,適切なスーパーコンピュータを利用できるようにすることが重要である。

○利用のタイミングや方法に関しては,審査・採択に要する所要の期間やシステム運用上の制約等を考慮した上で,できる限り希望するときに平易な方法で利用できるようにすることが重要である。

○利用者のスキルに関しては,希望に応じ,より大規模なスーパーコンピュータにステップアップできるようにすることや,サポートを受けられるようにすることが重要である。

○アプリの観点からの利用促進に関しては,

  • トップレベルのスーパーコンピュータを対象としたアプリケーションの開発・移植のため,テストベッド(アプリケーションの性能測定や移植ができる環境)が用意されることや,技術的支援体制が構築されること。
  • 画期的・先導的な機能を有する使いやすいアプリケーションが持続的に開発されることや,ユーザサポート体制を含む維持・管理体制が構築されること。

 などが重要である。

利用に係る課題と促進方策

○スーパーコンピュータの潜在的な利用要求はアカデミア及び産業界共に多いと考えられるが,実際に利用する場合には,採択条件や運用条件といったハードルに加えて,これまでスーパーコンピュータを用いてこなかった者にとっては,HPCI共用計算資源を利用すること自体をハードルに感じてしまう傾向にある。
 このため,共用法に基づく登録機関やHPCI運用事務局・資源提供機関等の運用側は,相談窓口等における利用申請の相談や利用方法の丁寧な説明等のユーザサポートを引き続き実施することが重要である。また,相談窓口等に寄せられたユーザニーズを踏まえて,ユーザサポートの充実を図るとともに,成果の創出の観点も考慮した上で,システムの運用に適宜反映することが重要である。

○我が国のスーパーコンピュータ資源を効率的に活用していくためには,HPCI共用計算資源全体が利用目的や計算規模に応じて適切に利用できることが重要であるが,「京」以外のHPCI共用計算資源が必ずしも有効活用されていない。
 このため,資源提供機関はそれぞれのシステムの特徴(システムに適したアルゴリズム情報等を含む。)を打ち出し, それぞれのシステムの特徴に適した使い方を勧めるという方法も考えられる。また,HPCI運用事務局は,システムの特徴やそこで得られた成果を広く公表し,「京」以外のHPCI共用計算資源の知名度を上げていくことで,ユーザを広げていくことも必要である。

○スーパーコンピュータ利用の裾野を広げるためには,ローエンドから「京」等のトップレベルまでステップアップできる環境を整備する必要があるが,その手法は確立されていない。また,トップレベルのシステムにおいて,コード開発と検証が簡単にできる環境がない。
 このため,現状ではHPCI共用計算資源におけるステップアップの手段は利用者に任されているが,将来的には運用側が,スキルや計算の規模に応じてステップアップできる環境に利用者を誘導する必要がある。例えば,HPCI戦略プログラムにおける戦略機関等が様々なステップアップの方法を検証しているので,それをロールモデルとして,HPCI運用事務局といった利用促進業務を行う機関が,当該ロールモデルに基づく取組を実施することが考えられる。
 また,トップレベルシステムにおけるコード開発と検証については,前述のとおり,運用側によるユーザサポートの充実を図るとともに,下記2.の市販ソフトウェアに係る課題と解決方策の中で示すように,新たなハードウェアの開発に当たっては,テストベッドを設けることなどが重要である。 

2.産業利用の促進

スーパーコンピュータの産業利用の意義と現状

○スーパーコンピュータの産業利用により,

  • 我が国の国際的な産業競争力の強化が期待される。
  • スーパーコンピュータ本体事業,アプリケーション事業及び利用に関連する事業(HPCクラウドなど)が進展し,全体として,我が国のスーパーコンピューティング技術の競争力の強化に資することが期待される。
  • スーパーコンピュータの産業利用が進むことで将来的な社会的・科学的課題が明確になり,それをアカデミアへフィードバックをかけることによって,大学等における研究のさらなる進展が期待される。

○産業界では,基本的にその時代の世界トップの計算機の能力の1/10から1/100程度の能力(計算資源)を用いた計算に対する実証研究が行われ(「京」の産業利用を例にとると,1,000ノードから1万ノードを利用した実証研究),実証研究が成功した場合には,数年後の実用化を目指した実用化研究が実施される。

○実用フェーズにおいては,多くの場合,プリ・ポスト処理等の機能やサポートが充実し,また,検証が十分に行われている市販ソフトウェアを利用して,数十コアレベルまでの並列計算が行われている。

〇大規模並列化による,シミュレーションの高速化・高精度化やマルチフィジックス・マルチスケール現象のシミュレーションの実用化にも大きな期待が集まっているが,まだ実用的に利用されている状況にはない。このような大規模並列化によるシミュレーションの高度化・新展開の目的のためには,実用化を目指した実証研究フェーズにおいて,アカデミアの協力の下で,国プロ開発アプリケーションやオープンソース・ソフトウェア(以下「国プロ開発アプリ等」という。)を利用して,1,000ノードから1万ノードレベルの大規模並列計算が実施されている。このための計算資源としては,「京」を頂点としたHPCI共用計算資源の利用が進んでいる。

産業利用に係る課題と解決方策

○市販ソフトウェアは直近の産業界のニーズ(実用フェーズのニーズ)を重視して開発を進めるため,国プロ開発アプリケーションは,市販アプリケーションを先導する観点も含め,その時代のトップレベルのスーパーコンピュータ,すなわち数年後の産業界において実用に供される規模のスーパーコンピュータを利用した実証研究に資するアプリケーションとするべきである。

○市販のソフトウェアは既に検証も十分に行われており,産業界においてもその利用のための豊富なノウハウが蓄積されているため,市販ソフトウェアを高並列環境で利用したいというニーズは大きく,この傾向は今後ますます強まることが予想される。しかし,現状では市販のソフトウェアの開発者やベンダも大規模並列環境にソフトウェアを移植したり,チューニングしたりする環境が十分に整っているとは言い難い。
 このため,「京」の産業利用枠の確保及び利用支援を引き続き確実に実施するとともに,新たなハードウェアの開発に当たっては,国やハードウェアベンダは,アプリケーションの大規模並列化・大規模化の実現やその新規のハードウェアへの移植作業の負担軽減のための機会として,テストベッドを設け,希望するアプリケーション開発者やそのアプリケーションを利用するユーザがそれを利用できる環境を整える必要がある。また,アプリケーションの高度化を目指して移植を希望する者に対しては,国やベンダが協力した技術的支援体制も必要である。

○産業界では国プロアプリ等に対する期待が大きい一方で,その利用が進まない理由としては,産業界においては伝統的な市販ソフトウェアの利用が大部分を占めており,蓄積されているデータも当該ソフトウェアを利用して作成されたものなので,国プロアプリ等を利用するには多大な乗換えコストが発生することや,国プロアプリ等の中には必ずしもユーザの要望や使いやすさを意識していないものもあるので,乗換えコストばかりが際立ってしまうことが考えられる。しかし,国プロアプリ等については,市販ソフトウェアにはない画期的・先導的な機能を有する点で,スーパーコンピュータの産業利用の促進及び高度化には不可欠なものなので,開発までで終わることなく,責任を持って普及させていくべきである。それにより,産業界の研究開発を大規模並列化へと誘導することとなり,ひいては将来的な市販ソフトウェアの高度化にも資することとなる。
 このため,国は,国プロ開発アプリケーションについて,画期的・先導的な機能を重視して計画的な開発を行うとともに,アプリケーションの利用支援(使いやすくするための機能や膨大な量のデータを扱うことができるプリ・ポスト処理機能等の導入を行うこと,ユーザニーズの高いアプリケーションを対象としてサポート体制の構築を含む継続的な維持・管理を行うことなど)を充実させることで,市販ソフトウェアとの住み分けを意識しながら,その普及を加速する必要がある。
 さらに,次世代の実証研究に利用されるアプリケーションを高度化するため,国は,産業界のニーズを踏まえた基礎基盤的な研究開発を推進し,その成果を普及するとともに,画期的・先導的な機能を持続的に生み出すため,アプリケーションの基礎となる理論(モデル,解法)を精緻化する研究や人材育成を支援していく必要がある。

○以上のことは,産業利用アプリケーションを対象とした調査・検討の中で抽出された解決方策であるが,大部分はスーパーコンピュータの利用促進全体にも貢献するものである。

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