資料1 産業利用アプリケーション検討サブワーキンググループ報告書(たたき台)

序章 はじめに

 今後とも産業界におけるスーパーコンピュータの利活用を促進し,イノベーションの創出につなげていくためには,産業界が利用するアプリケーション・ソフトウェアの在り方を踏まえ,その利用促進方策を検討する必要がある。このため,産業利用アプリケーションの利用の現状及び将来の見通し,ならびに,それに対する開発計画などについて調査検討し,「今後のHPCI計画推進のあり方に関する検討ワーキンググループ」の議論に反映するべく,当該ワーキンググループの下に「産業利用アプリケーション検討サブワーキンググループ」(以下「サブWG」という。)が設置された。
 本サブWGでは2020年頃に実用化されている,あるいは,実用化のための実証研究が実施されていることが想定される,市販ソフトウェア,国プロ開発アプリケーション,オープンソース・ソフトウェアのそれぞれに関して,現状ではどのような使われ方をしているか,エクサスケール時代におけるそれらの使われ方に関するビジョン,ならびに,これらのアプリケーション・ソフトウェアの開発者がどのような将来展望や開発計画を持っているかを調査し,アプリケーションが実用化されるまでの過程を見通した上で,国としての支援の在り方を提言としてまとめた。

第1章 スーパーコンピュータの産業利用

1.1 産業利用を推進する理由

 国として,スーパーコンピュータの産業利用を積極的に推進する理由は以下のとおりである。まず,スーパーコンピュータの高度な利用により我が国の国際的な産業競争力の強化が期待されることが挙げられる。また,産業界でのスーパーコンピュータ利用が進むことにより,スーパーコンピュータ本体事業,アプリケーション事業及び利用に関連する事業(HPCクラウドなど)が進展し,全体として,我が国のスーパーコンピューティング技術の競争力の強化に資することも期待される。更に,HPCIの利用が進むことで将来的な課題が明確になり,それをアカデミアへフィードバックをかけることによって,学術研究のさらなる進展が期待されるからである。

1.2 リーディングマシンの産業利用

 産業界では,基本的にその時代の世界トップの計算機の能力の1/10から1/100程度の能力(リソース)を用いた計算に対する実証研究が行われ(「京」でいえば,1,000ノードから1万ノードを利用した実証研究),実証研究が成功した場合には,数年後の実用化を目指した実用化研究が実施される。「京」を頂点としたHPCI資源は基本的には上記の実証研究に対して供されるべきものであるが,創薬スクリーニングなどのバルクジョブを利用した実証研究においては,実証研究の過程において得られた成果が実用化されることも期待される。
 あるシミュレーションが実用化された場合,企業の直接的な生産活動のためのシミュレーションの実行には,HPCクラウドサービスや企業が自前で整備した計算機が使われることになる。実証されたアプリケーションが大幅な変更を加えなくても実用化されるためには,実証研究に供されるHPCI計算機のアーキテクチャは実用化された際に使用される計算機のアーキテクチャと親和性の高いものであることが必須である。

第2章 スーパーコンピュータの産業利用の現状と将来展望

2.1 産業利用の現状

 現在,産業界では市販ソフトウェアが最も多く利用されているが,その理由は,これらのソフトウェアは検証が十分に行われており,また,プリ・ポスト処理等の機能やサポートが充実しているからである。スーパーコンピュータの利用形態としては,最大32コア程度の並列計算によるバルクジョブ的な利用が多く,この傾向は将来的にも続くものと思われる。
 一方,大規模並列化による,シミュレーションの高速化・高精度化やマルチフィジックス・マルチスケール現象のシミュレーションの実用化にも大きな期待が集まっている。しかし,市販ソフトウェアの使用はライセンスの形態によっては困難なことも多く,32コア程度の並列計算にとどまっており,マルチフィジックス・マルチスケール現象のシミュレーションもまだ実用的に利用されている状況にはない。そこで,このような目的のためには,アカデミアの協力のもとで,オープンソース・ソフトウェアや国プロ開発アプリケーションを利用して,1,000コアから数万コアを使用した超並列計算が実施されている。このための計算機リソースとしては,京を頂点としたHPCI計算機資源の利用が進んでいる
 上記のいずれの使い方をする場合も,企業内で実務としてシミュレーションを利用するためには,解析のためのデータ作成,解析の実行,結果の処理も含めてシミュレーションの利用に伴う時間を長くても1ケース数日内に抑える必要がある。
 オープンソース・ソフトウェアに関しては利用サービスなどのビジネスが展開され始めている一方で,国プロで開発されたソフトウェアを実用化するためにはしばらく時間が掛かるものと予想され,開発済みのソフトウェアの維持や改良,普及のための努力を継続する必要がある。
 また,産業界では実務で使用しているソフトウェアを乗り換える場合,検証計算の実施,所定の精度を確保するためのノウハウの蓄積,設計データからシミュレーションの入力データの作成,シミュレーション結果の後処理と設計への反映方法の検討などに関して相当なコストが掛かる点にも留意する必要がある。

2.2 産業利用の将来展望

 2020年頃のエクサスケール時代には,現在の「京」の1/10程度の能力を有するスーパーコンピュータが産業界でも自社で設備整備されたり,あるいは,HPCクラウドサービスなどを利用したりして,実務に供されているものと予想される。この時代には現在と同じ規模の計算を多数(数千から数万)同時に実行して,設計最適解を探索するためのバルクジョブ的な利用が進展する一方,大規模並列計算により,高精度(高解像度メッシュ)計算や高速化された計算が実行されていると予想される。また,現状できていない全系を対象とて,マルチフィジックス・マルチスケール現象を解析するような高度なシミュレーションも実用化,あるいは,実証研究フェーズにあると思われる。
 この際,現在使っているアプリケーションの利用環境は継続したいという要望も強い。これらの要望をかなえるためには,ソフトウェアをエクサスケール時代のスーパーコンピュータへ移植やベンチマークをするためのテストベッドの構築などの整備が必要となる。また,大規模並列化シミュレーションの実行のためには市販ソフトウェアベンダだけではなくアカデミアのサポートが必要である【この部分未定稿】。

第3章 産業界で利用されるアプリケーションの将来展望

3.1 技術的な課題と将来動向

 産業界で利用されるアプリケーション・ソフトウェアは,市販ソフトウェア,国プロ開発アプリケーション,オープンソース・ソフトウェア(OSS),及び,インハウス・ソフトウェアに大別されるが,そのいずれにも共通する,エクサスケール時代に想定される技術的な課題を整理しておく。まず,エクサスケール時代(2020年代)のスーパーコンピュータは超並列化とともに,ノード(CPU)のメニーコア化が進み,相対的にメモリ性能は悪化すると考えられ,このためアプリケーションの実効性能を担保することがますます困難となる。特に,現在産業界で最も多く用いられている熱・流体・構造解析等の解析分野では,ピーク性能比で1%~5%程度の計算速度を実現することが限界と予想される。また,MD計算などのように,長時間のシミュレーション(膨大な数の時間積分計算)を行う要求もあるシミュレーションでは,大規模並列によって空間スケールを大きくすることはできても,時間スケールを大きく取ることは一般に難しい。更に,現在使用されているアルゴリズムによっては基本的に超並列化に適していないものもあり,ソフトウェアによっては大規模並列化に向かえないものも出てくるものと考えられる。
 2020年頃のアプリケーションに対するニーズとしては,マルチフィジックスに対応したソフトウェアの整備や,設計パラメータの最適化に対する自動化といった事柄がある。また,シミュレーションで扱うデータ量が膨大化することから,プリ・ポスト処理機能,ユーザインタフェース,大規模データの可視化機能の整備への要望が更に強まるものと予想される。アプリケーションの研究開発状況としては,上記のニーズに対応するためのソルバーの改良が引き続き行われるとともに,コンピュータ支援設計(CAD)といったツールへの集約が進むものと考えられる。
 市販ソフトウェアと国プロ開発アプリケーションやオープンソース・ソフトウェアの将来的なすみ分けとしては,数百コアから数千コアを利用した中規模な並列計算までは市販ソフトウェアがカバーし,数万コア以上の超並列計算や連成解析などの領域を国プロ開発アプリやオープンソース・ソフトウェアがカバーするものと予想される。

3.2 市販ソフトウェアの将来展望

 現在,産業界で最も利用されているアプリケーションは市販ソフトウェアであり,多くの企業ユーザが,現在利用している市販ソフトウェアを超並列計算環境でも使用することを望んでいる。その理由は国プロ開発アプリケーション,オープンソース・ソフトウェアに乗り換えるためのコストがかかることが挙げられる。シミュレーションの全体的な動向としては並列化が進むことは自明であり,市販ソフトウェアもそのような方向に向かうと予想されるが,前述のように,全ての市販ソフトウェアが超並列化に向いているわけではなく,また,超並列化された場合のライセンス形態なども定着している状況とは言えない。このように,便利さという観点で市販ソフトウェアへの期待が大きいが,大規模並列化の問題やライセンスの問題を解決する必要がある。

●エクサスケール時代に向けたソフトウェアベンダの産業利用に対する考え方・将来展望。

3.3 国プロ開発アプリケーションの将来展望

 大規模並列計算を実行する場合や新規機能を利用する必要がある場合,それに対応していない市販ソフトウェアの利用は考えにくいため,オープンソース・ソフトウェアや国プロ開発アプリケーションが使われる。その際,アカデミアの協力のもとで行われている。業務に浸透したソフトウェアを変えることは,蓄積された知見を簡単には捨てることができないため,難しい。例えば,数倍速度が速くなった程度では,乗り換えないとの声がある。一方で,ユーザの使いやすさの観点で,マルチフィジックス化など,複数のソフトウェアの統合化への要望もあり,このような機能の充実によってはソフトウェアの乗換えの可能性もある。

●国プロ開発アプリケーションの実証・実用化に対する考え方・将来展望。

3.4 オープンソース・ソフトウェア(OSS)の将来展望

●オープンソース・ソフトウェアの将来展望。

第4章 アプリケーションの観点からのスーパーコンピュータ利用の推進

 第1章から第3章までの議論を踏まえ,産業界のスーパーコンピュータ利用を推進するために,第2章に記載したスーパーコンピュータの将来的利用を実現するために,アプリケーションの開発はどうあるべきか,更に,そのために国は何をすべきかを検討した。その際,単にソフトウェア開発に関する議論だけではなく,ソフトウェアの移植の考え方や市販ソフトウェアのライセンス形態等についても検討した。以下に検討結果をまとめる。

  1. 2020年頃のスーパーコンピューティングの実現には,その頃のスーパーコンピュータで動くことを試すテストベッド(移植やベンチマークのできる環境)の構築がされていることが重要である。
  2. 2020年頃には企業でも,数万コア規模の実証解析が行われている可能性が高いが,産学のサポートが必要であり,企業単体では実証は難しいと考えられる。特に,GPU等の利用には,対応が求められる【この部分未定稿】。

●市販ソフトウェア,国プロ開発アプリケーション,オープンソース・ソフトウェア,それぞれに関する国の具体的な支援策の検討。

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