資料1-2 X線自由電子レーザー(XFEL)計画の事後評価結果

平成23年9月
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会

1.課題名 X線自由電子レーザー(XFEL)計画(平成18年度~平成22年度)

2.評価結果

(1)課題の達成状況

計画の概要

A) X線自由電子レーザー(XFEL)計画は、「人類がいまだ手にしたことのないX線領域のレーザー光源を開発し、その装置をナノテクノロジー・材料分野やライフサイエンス分野をはじめとする幅広い分野における研究者・技術者の利用に供する計画」(平成20年8月中間評価報告書)である。

B) 具体的には、従来の放射光源と比べ飛躍的に高い輝度(SPring-8の10億倍)、コヒーレント性、極短パルス(フェムト秒単位)で波長0.06nmのX線を発振することのできる施設について、コスト及びサイズともに欧米の同様の計画の半分以下での開発・整備を目指すものであり、開発期間は平成18から22年度まで、プロジェクト総経費は389億円(平成20年8月中間評価時。平成18年6月事前評価時は356億円。)である。なお、供用開始については平成23年度中の予定とされている。 

計画の達成状況 

C) 平成22年10月に、波長0.06nm、パルス幅100フェムト秒以下の超高輝度X線レーザーの発振を目指したX線自由電子レーザー施設「SACLA」の本体施設の整備が完了し、平成23年度中の供用開始に向け調整を進めているところであり、平成23年6月には世界最短波長(0.10nm)のX線レーザーの発振に成功した。

D) また、欧米施設に比べ最もコンパクト(先行する米国施設の約半分となる全長700m)かつ最小経費(約388億円)で実現するとともに、我が国独自の特徴となる大型放射光施設SPring-8の放射光との同時利用を可能とする施設を整備した。

E) 開発・利用研究・情報発信・運用等について、中間評価における指摘事項に概ね適切に対応できている。

F) 以上より、我が国独自の特長を多数有した世界最高性能のXFEL施設について、X線レーザーの発振時期は当初予定より若干遅れはしたが、予定開発期間内に所期の目標どおり本体整備を完了しており、当初計画は達成されたと評価できる。

 

(2)成果

開発について

G) 平成21年度に加速器棟及び光源棟が完成するなど、当初計画どおり平成22年度中に本体施設が完成した。開発方針に沿いコンパクトで安定性・信頼性のある装置が整備され、平成23年6月にはこの時点で世界最短波長となる0.10nmのX線レーザーの発振に成功(7月には0.08nmの発振に成功)したことから、所期の目標に即した開発が行われたものと評価できる。

H) また、国内外の関係機関との協力・連携体制の強化など中間評価における指摘事項については概ね適切に対応できているものと考える。 

利用研究について

I) 供用開始後速やかに研究成果を創出するため、産業界も含めた関係分野の有識者からなる「X線自由電子レーザー利用推進協議会」(協議会)において定められた方針に基づき利用推進研究が推進された。平成20年の中間評価を踏まえ、統合システム開発期として早期に実現すべき研究課題等の観点から課題を統合・絞り込み、22年から順次実機への据え付け・調整が進められたことから、一定の推進がなされたものと評価できる。

J) 特に、成果の創出が期待されている化学反応の超高速動態変化のイメージングと、結晶化困難な膜タンパク質等の生体分子の構造解析に係る研究に必要な技術・装置について、SPring-8やプロトタイプ機を活用してXFEL実機の完成前に開発できたことは評価できる。

K) また、平成23年1月に利用推進方針を改定し、調整運転期間を利用した事前実験・研究を進めることなどを決定するとともに、供用開始以降の戦略的な利用研究の推進方策等について検討するため「X線自由電子レーザー利用推進戦略会議」(戦略会議)を立ち上げるなど(6月に中間報告取りまとめ)、中間評価における指摘事項については概ね適切に対応できているものと考える。 

情報発信について

L) 様々な分野の研究者等へのワークショップをはじめ、一般市民への施設公開や各種イベントへの出展、将来の利用者である大学生・大学院生に対するシンポジウム等を40件以上開催し、XFELの利用研究開発やプロトタイプ機を活用した成果等について積極的に広報しており、幅広い利用者の掘り起こしに努めるなど評価できる。

M) また、XFELの意義や進捗状況等について、一般市民に加え企業約300社に対する説明会を開催するなど産業界も含め積極的に情報発信しており、中間評価における指摘事項については適切に対応できているものと考える。 

運用等について

N) 「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」における特定放射光施設として、XFELの運用に際し必要となる施行規則及び基本的な方針(告示)の改正が行われ、施設設置者及び登録機関の役割等が明確にされるとともに、利用促進業務を実施する登録機関が選定されたことから、着実に推進されたものと評価できる。

O) また、登録機関が課題採択や利用支援の在り方などの制度設計をする際の基本的な方向性等について、中間評価で指摘されている施設設置者による検討が遅れていたが、協議会及び戦略会議において検討が進められるなど中間評価における指摘事項については概ね適切に対応できているものと考える。

 

(3)今後の展望

開発について

P) 今後、リスク管理の更なる強化を図るとともに、平成23年度中の供用開始に向け、質の高いビームを安定的に供給できるよう引き続き充分な調整を進め、我が国から世界初となる画期的な成果が早期に創出されることを期待する。

Q) また、XFELの光源の更なる安定化と高品質化を実現しコヒーレント性を高めるシーディング技術については、プロトタイプ機による開発が進められているが、引き続き実機への実用化に向け取り組むことが望まれる。

R)  さらに、ビームラインの増設など今後の開発・整備や開発技術の汎用化等については、利用者のニーズを充分に把握しつつ検討を進めることが必要である。

S) 中長期的な我が国独自のイノベーション創出や国際競争力強化の観点からも、戦略会議で指摘されているSPring-8との相互利用実験基盤、「京」などの高性能スパコンとの連携、シーディング装置など我が国独自の特長を活かす研究環境の整備・充実を、国内外の研究動向等も踏まえつつ、引き続き推進することが望まれる。

利用研究について

T) 今後、XFELの利用を牽引する先導的な研究成果を早期に創出し、国内外の利用者を惹きつけ、継続的に欧米に先んじた革新的な成果を創出することが重要である。

U)  そのため、XFELがあらゆる利用者にとって広く使いやすいものとなるよう、利用技術の開拓・高度化・標準化とシステムとしての統合等を進めていくことが必要である。

V) 利用研究の成果創出を目指す研究開発を、プロトタイプ機の有効活用も含め、施設設置者、登録機関及び幅広い利用者が一体となって強力に推進していくことが必要である。

W) なお、研究成果の早期創出には、利用支援を行う登録施設利用促進機関(登録機関)の果たす役割が非常に重要であることから、施設設置者と協力・連携しつつ必要な体制を構築していくことが必要である。

X) 欧米との激しい競争状況の中、利用研究を強力に推進し先導的な成果創出を実現するには、競争的資金による研究資金の集中投資などを通じ、強力な推進体制により、優れた利用研究を着実に実施できるよう努力することが必要である。

情報発信について

Y) 今後、利用研究の推進や潜在的利用者の掘り起こしにあたっては、施設設置者、登録機関及び利用者が一体となって、XFELの利用を牽引する先導的な研究成果を早期に創出し、その取組状況や成果等についてホームページを更に充実させるなど、引き続き積極的に広報していくことが必要である。

運用等について

Z) 今後、国内外の研究動向等も踏まえつつ、施設設置者及び登録機関が協力して、産業界も含めた利用者のニーズを適時的確に把握し、効率的・効果的で利用者本位の運営がなされるよう努めていくことが必要である。

 

お問合せ先

研究振興局基盤研究課量子放射線研究推進室

(研究振興局基盤研究課量子放射線研究推進室)