(別紙4)利用研究課題の具体例

1.  結晶化困難巨大タンパク質の立体構造解析

 結晶化がきわめて困難な巨大タンパク質などの分子やその集合体の立体構造を、X線イメージング手法により解析する。また、十分に大きな結晶が得られないものについても、サブミクロン結晶からの回折を適用することによってその立体構造を解析する。このような巨大タンパク質などの例として、細胞内外の物質・情報伝達(光合成など)を担う膜タンパク質の集合体や、疾病の原因となるウィルスなどがあげられる。これら解析手法を用いることで、結晶化、あるいは、長期にわたる結晶成長のための試行錯誤を省略が可能となり、現在よりはるかに短い期間で立体構造の可視化に到達することが可能となる。このようにして得られる立体構造情報を基盤として、生命現象の原子・分子レベルでの理解や、病因分子に対する創薬開発を加速する。
 利用推進課題の「XFEL生体単粒子解析実験技術の整備と高度化」におけるクライオ試料固定照射装置、「生体分子の立体構造決定に向けたシミュレーションに関する研究開発」における位相回復アルゴリズムのプログラム開発、さらに「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」におけるX線集光システムや高感度検出器が、その基幹技術を構成するものである。
 既存の装置では、データの検出効率に限界があり解析が困難であったが、さらに「超高強度XFELビーム形成装置」、「コヒーレントイメージング装置」、「XFEL用2次元検出器」等の整備により、イメージング実験の空間分解能を向上させることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:1,3,4)

2.  生体粒子および細胞イメージング研究

 X線レーザーの散乱強度データを計算機処理することで、結晶化が絶望的または原理的に不可能な100ナノメートル~ミクロンサイズの細胞内小器官などの生体非晶物体の立体構造をナノメートル分解能で可視化することを目指す。細胞内における分子レベルでの構造・機能の直接的な計測を可能とする実験技術である。
 利用推進課題の「XFEL生体単粒子解析実験技術の整備と高度化」におけるクライオ試料固定照射装置やX線回折顕微鏡イメージング実験、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」、「生体分子の立体構造決定に向けたシミュレーションに関する研究開発」などが本研究の実現の基盤となる。
 既存の装置では、ビーム密度が不十分でナノレベルでの細胞イメージングが困難であったが、さらに「コヒーレントイメージング装置」、「XFEL用2次元検出器」の整備により、分解能を向上させることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:3,4)

3.  気体吸着素子の研究

 ナノ細孔を持つ金属錯体が気体分子を効率良く吸着することから、金属錯体-気体分子間の結合状態や吸着過程を解明することで、気体吸着に関わる新しい機能を持つ材料を開発する。
 利用推進課題の「物質のフェムト秒物理・化学現象解析のためのX線散乱計測技術」における超短パルス・コヒーレント光を用いたイメージング技術、「XFEL光と先端レーザーシステム光による原子・分子・クラスターのポンプ・プローブ計測」におけるFELに対するシードおよび先端フェムト秒レーザーとのポンプ・プローブ計測のための同期技術、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」などが本研究の実現の基盤となる。
 既存の装置では、ポンプ・プローブ実験の精度・感度に限界があり気体吸着過程の詳細な補足が困難であったが、さらに「超高強度XFELビーム形成装置」、「同期レーザーとXFELとの時空間整合装置」、「超高速分光装置」等の整備により、サブ10フェムト秒程度のパルス幅と同期をとった実験を可能とすることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:1,2,5)

4.  スピントロニクス研究

 数原子層磁性膜の磁化反転の観察、経時変化、光によるピコ、サブピコ秒スピン歳差運動制御(スピンコヒーレンス制御)方法の開発等(産業応用例:大容量磁気メモリー等)を行う。
 利用推進課題の「物質のフェムト秒物理・化学現象解析のためのX線散乱計測技術」における超短パルス・コヒーレント光を用いたイメージング技術、「XFEL光と先端レーザーシステム光による原子・分子・クラスターのポンプ・プローブ計測」、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」などが本研究の実現の基盤となる。
 今後、スピンエレクトロニクスデバイスを対象に、外部から電場、磁場、レーザー、マイクロ波、微弱なデバイス電流などを光源の照射と同期させて負荷し、その際の現象の遷移過程での構造相変態や光誘起現象や動的磁化挙動などピコ秒オーダーの物理現象をフェムト秒時間分解能で観察することを想定しており、今後、「超高速分光装置」、「XFELパルス操作装置」、「XFEL偏光操作装置」等の整備により、偏光操作や分光の速度を上げることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:5,7,8)

5.  プラズマ結晶生成のその場観察

 短いパルス幅のパルスX線を固体に照射して物性を調べるとき、1パルスに含まれるX線光子の数が固体原子の数と比べて無視できないほどの数になれば、1パルスの照射時間内に内殻励起状態にある多数の原子集団が生成される。このような内殻集団励起状態はプラズマ結晶と考えることもでき、内殻励起原子の密度(イオン密度)を制御することによりプラズマ結晶の相転移が生起することもありうる。固体の安定な1つの構造がプラズマ結晶を介して新しい構造に転換し、新しい物性が発現することも期待できる。
 一方、同じパルスに含まれる内殻励起に使われなかったX線は散乱され、この内殻集団励起状態を反映した構造的および分光的情報をもたらす。つまり、散乱X線はプラズマ結晶生成過程をその場観察することになる。パルスX線照射過程でプラズマ結晶の相転移が生起することも考えられる。このような1パルスの幅の中で生起する現象を散乱X線の計測によって記録するためには、重畳してくる諸現象を分離観察できる計測システムを構築する必要がある。
 利用推進課題の「物質のフェムト秒物理・化学現象解析のためのX線散乱計測技術」、「XFEL光と先端レーザーシステム光による原子・分子・クラスターのポンプ・プローブ計測」、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」などが本実験の実現の基盤となる。
 既存の装置では、分光の精度に限界があり上記観察が困難であったが、「超高強度XFELビーム形成装置」、「大強度レーザー」、「超高速分光装置」、「XFELパルス操作装置」等の整備により、プラズマ結晶の生成過程のその場観察を可能とすることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:1,5,6,7)

6.  超強光子場の研究

強光子場による物質改変技術の研究を行い、新しい化合物の合成、未踏機能性材料の創製を行う。
  利用推進課題の「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」などが、本研究の実現の基盤となる。
  既存の装置では強度が十分ではなかったが、「超強高度XFELビーム生成装」、「大強度レーザー」等の整備により、さらに強度を高めることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:1,6)

7.  セルマップの構築

 遺伝子発現に重要な役割を担う各種RNAについて、各種ガン細胞や細胞の生成から成熟分裂過程における発現パターンを解明し、細胞成長に関する理解を深めるとともに、医療診断や治療に資する基礎データを構築する。標識物質(生体内に大量に含まれる元素以外で比較的大きなもの、金属ナノ粒子など)を有機化してRNAに結合させるプローブ標識物質技術を開発する。
 利用推進課題の「XFEL生体単粒子解析実験技術の整備と高度化」、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」、「生体分子の立体構造決定に向けたシミュレーションに関する研究開発」などの知見は、本研究の基盤となる。
 既存の装置では、ビーム密度が不十分で細胞生成・成熟過程の解析が困難であったが、今後、コヒーレントイメージング装置の整備により分解能を向上させることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:3)

8.  急速熱処理過程の構造変化評価技術の開発

 半導体製造プロセスでは、熱処理において、高温での高い活性エネルギーと熱によるデバイス構造の劣化を防ぐ目的で、RTA(Rapid Thermal Annealing)やLTA(Laser Thermal Annealing)という急加熱技術が多く使われている。(半導体中のAs、B活性化、ポリシリコンの結晶化、ガス雰囲気中の表面酸化、窒化、還元反応など)。XFELにより100フェムト秒以下の時間分解能で、このような急熱過程中の構造変化を分析し、半導体産業分野の開発に寄与する。
 利用推進課題の「物質のフェムト秒物理・化学現象解析のためのX線散乱計測技術」、「XFEL光と先端レーザーシステム光による原子・分子・クラスターのポンプ・プローブ計測」、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」などの知見は、本研究の基盤となる。
 既存の装置では、ポンプ・プローブ実験の精度・感度に限界があり上記過程の詳細な補足が困難であったが、「同期レーザーとXFELとの時空間整合装置」等の整備により、ポンプ・プローブの時間差をフェムト秒オーダーで正確に制御できるようにすることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:2)

9.  光触媒反応研究

 酸化チタンに代表される光触媒の界面、電子放出等の機構解明(産業応用例:ナノ環境材料の高効率化)、高効率光エネルギー利用のための反応ダイナミクス解明(応用例:色素太陽電池)(含広波長域光エネルギー利用のための新型有機光触媒)による新材料開拓を行う。このためには、反応過程の時分割計測が重要である。
 利用推進課題の「物質のフェムト秒物理・化学現象解析のためのX線散乱計測技術」、「XFEL光と先端レーザーシステム光による原子・分子・クラスターのポンプ・プローブ計測」、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」などの知見は、本研究の基盤となる。
 既存の装置では、ポンプ・プローブ実験の精度に限界があり上記過程の詳細な補足が困難であったが、「同期レーザーとXFELとの時空間整合装置」、「超高速分光装置」、「XFELパルス操作装置」等の整備により、ポンプ・プローブの時間差をフェムト秒オーダーで正確に制御できるようにすることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:2)

10. ナノデバイスの研究

 原子レベルでの形状評価、構造内部の非常に精密な化学組成解析や不純物分析、極微小多機能デバイス、サブナノエレクトロニクスを実現する。
 利用推進課題の「物質のフェムト秒物理・化学現象解析のためのX線散乱計測技術」、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」などの知見は、本研究の基盤となる。
 既存の装置では、パルス操作に限界があり上記観察が困難であったが、「XFELパルス操作装置」等の整備により、原子レベルでの形状評価等を可能とすることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:7)

11. タンパク質の動態解析

 タンパク質やその集合体の立体構造に依存した動的構造とその機能発現の関連性の物理化学的解明に向け、動的構造変化事象を多数計測する。得られる立体構造投影図から、タンパク質運動の位相空間分布を再現しながら、これまでに未解明なナノスケールでの生命現象基盤原理を追求する。
 利用推進課題の「XFEL生体単粒子解析実験技術の整備と高度化」、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」、「生体分子の立体構造決定に向けたシミュレーションに関する研究開発」などの知見は、本研究の基盤となる。
 既存の装置では、データの検出効率に限界があり解析が困難であったが、「同期レーザーとXFELとの時空間整合装置」、「XFEL用2次元検出器」等の整備により、イメージング実験の空間分解能を向上させることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:2,4)

12. 化学反応のリアルタイム計測

 ポンプ・プローブ実験により化学反応の素過程を解明する。
 利用推進課題の「物質のフェムト秒物理・化学現象解析のためのX線散乱計測技術」、「XFEL光と先端レーザーシステム光による原子・分子・クラスターのポンプ・プローブ計測」、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」などの知見は、本研究の基盤となる。
 既存の装置では、ポンプ・プローブ実験の精度・感度に限界があったが、「同期レーザーとXFELとの時空間整合装置」、「超高速分光装置」、「XFEL偏光操作装置」等の整備により、化学反応の素過程の解明を可能とすることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:2,5,8)

13. 生体ナノマシンの研究

 タンパク質等の集合体として構築された生体ナノマシンの立体構造解析やその運動測定を通じて、生体ナノマシンの立体構造構築原理やその動作機構を解明する。これらの成果は、生体ナノマシン模倣に基づく新たなデバイス創生や環境に優しい技術開発の基盤確立の資するものである。
 利用推進課題の「XFEL生体単粒子解析実験技術の整備と高度化」、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」、「生体分子の立体構造決定に向けたシミュレーションに関する研究開発」などの知見は、本研究の基盤となる。
 既存の装置では分解能に困難があったが、「コヒーレントイメージング装置」、「XFEL用2次元検出器」等の整備により、分解能を向上させることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:3,4)

14. 元素変換機構の解明

 従来技術では核反応を起こすために莫大なエネルギーが必要であるが、リアルタイムでの元素変換過程の観測を通じた変換元素の周辺状態決定による、エネルギーをほとんど使わない元素変換を解明する。
 利用推進課題の「物質のフェムト秒物理・化学現象解析のためのX線散乱計測技術」、「XFEL光と先端レーザーシステム光による原子・分子・クラスターのポンプ・プローブ計測」、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」などの知見は、本研究の基盤となる。
 既存の装置では、ビーム強度が十分ではなかったが、「超強高度XFELビーム生成装置」、「超高速分光装置」、「大強度レーザー」等の整備により、レーザーをロスなく集光しサブ100ナノメートル以下のサイズに絞り込むことが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:1,5,6)

15. 薬剤の分子作用の解明

 薬剤分子が生きた細胞内のどこで、どのように反応するかを解明することで分子創薬研究分野の創出、分子治療技術の開発を行う。
 利用推進課題の「XFEL生体単粒子解析実験技術の整備と高度化」、「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」、「生体分子の立体構造決定に向けたシミュレーションに関する研究開発」などの知見は、本研究の基盤となる。
 既存の装置では、分解能に限界がありイメージングが困難であったが、「コヒーレントイメージング装置」等の整備により分解能を向上させることが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:3)

16. X線天文学

 これまで地上では作ることが不可能であった多価イオンを形成、宇宙でどの原子のどのイオン状態が放射しているX線であるかを同定する。
 利用推進課題の「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」などの知見は、本研究の基盤となる。
 既存の光源ではビーム強度が十分ではなかったが、「超強高度XFELビーム生成装置」、「大強度レーザー」の整備等により、レーザーをロスなく集光しサブ100ナノメートル以下のサイズに絞り込むことが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:1,6)

17. 真空崩壊

 真空に非常に高いエネルギー密度の光を入射することで、真空から電子と陽電子が発生する現象を観測する。
 利用推進課題の「X線レーザーの光学系・制御系に関する基礎技術研究開発」などの知見は、本研究の基盤となる。
 既存の光源ではビーム強度が十分ではなかったが、「超強高度XFELビーム生成装置」の整備等により、レーザーをロスなく集光しサブ100ナノメートル以下のサイズに絞り込むことが望まれる。

(新規実験装置提案の具体例:1)

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研究振興局基礎基盤研究課量子放射線研究推進室