次世代スーパーコンピュータ戦略委員会(第5回) 議事録

1.日時

平成21年2月5日(木曜日)17時~19時12分

2.場所

文部科学省16F特別会議室

3.出席者

委員

土居主査、伊東委員、宇川委員、小林委員、寺倉委員、中村委員、平尾委員、矢川委員、米澤委員

文部科学省

磯田研究振興局長、倉持大臣官房審議官(研究振興局担当)、舟橋情報課長、井上スーパーコンピュータ整備推進室長、中井課長補佐

オブザーバー

海洋研究開発機構海洋工学センター海底地震・津波ネットワーク開発部部長 金田義行、東北大学工学研究科附属災害制御研究センター 教授 今村 文彦、東京大学地震研究所教授 堀宗朗、地球環境フロンティア研究センターセンター長 時岡達志、東京大学気候システム研究センター副センター長 木本昌秀

4.議事録

【土居主査】

 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第5回次世代スーパーコンピュータ戦略委員会を始めさせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。主査を仰せつかっております土居でございます。
 まず、事務局より、本日の配付資料につきまして確認をお願いいたしたいと思います。

【事務局】

 それでは、お手元の議事次第と照らし合わせて、資料のご確認をお願いいたします。
 資料1でございますけれども、本日ご発表いただく資料が5つございます。最初は、「自然災害・防災分野における計算科学の役割-地震津波・防災分野への適用-」ということで、後ほど金田先生からご発表いただくものです。
 その次に、「自然災害研究分野-地震・津波災害」、後ほど今村先生からご発表いただくものがございます。さらに、「地震防災戦略分野」という題のもので、後ほど堀先生からご発表いただくものです。地球環境(変動)分野の特徴ということで、これは時岡先生からご発表いただくものです。最後に、「次世代コンピュータと気象・気候・環境研究」という題で、後ほど木本先生から発表いただく資料がございます。
 資料2ということで、第2回戦略委員会のときに宿題となっておりましたナノ分野の国際比較に関するペーパーですけれども、岡崎先生からご提出いただいたものと、池庄司先生からご提出いただいたものがございます。
 また、前回までの配付資料につきましては、机上のファイルにとじてございます。
 もしも配付資料に欠落等がありましたら、事務局にお知らせください。

【土居主査】

 どうもありがとうございました。よろしいでしょうか。足りないものがあったらその場でおっしゃっていただくことにして、先に進ませていただきたいと思います。
 それでは、議題(1)戦略分野についてに入らせていただきます。
 本日は、防災・地球環境分野につきまして、防災分野からは海洋研究開発機構の金田部長、東北大学・今村教授、東京大学・堀教授にお越しいただいていますと同時に、地球環境分野からは海洋研究開発機構・時岡センター長、東京大学気候システム研究センター・木本副センター長に、それぞれ戦略分野としてふさわしい課題につきましてご発表をいただくことにいたしまして、お越しいただいております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 進め方ですが、まず防災分野として3名の先生方からご発表いただいた後、質疑応答をさせていただきます。それが終わりましてから、地球環境分野の2名の先生方からご発表いただき、質疑応答。その後、全体についての質疑応答という流れで進めさせていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、まず、お三方の先生にお話を伺うことにいたします。皆様方もご存じでいらっしゃるとは思いますが、簡単にご紹介させていただきます。
 金田部長は、地球物理をご専門とされ、石油開発技術センター、大林組技術研究所にて地殻構造、シミュレーション研究に従事され、現在は、海洋研究開発機構海洋工学センター海底地震・津波ネットワーク開発部長でいらっしゃいます。
 今村先生は、自然災害科学をご専門とされておりまして、京都大学海洋科学技術研究センターにて研究教育に従事されました後、現在は、東北大学大学院工学系研究科附属災害制御研究センター教授でいらっしゃいます。
 最後になりましたが、堀先生は応用力学をご専門とされ、東北大学、東京大学にて研究教育に従事され、現在は、東京大学地震研究所教授でいらっしゃいます。
 それでは、よろしくお願い申し上げます。まずは、金田先生、よろしくお願いいたします。

【金田部長】

 ただいまご紹介いただきました海洋研究開発機構、金田と申します。よろしくお願いいたします。きょうは、自然災害・防災分野における計算科学の役割ということで、特に地震津波・防災分野への適用ということでお話をさせていただきます。
 私を含めて、この後、東北大学の今村先生、そして東京大学の堀先生と3つ連続して説明をいたすわけでございますが、まず、この地震津波・防災分野間の連携ということで、1つは地震津波・防災ということでございますので、大きく分けて理学的研究、工学的研究、社会貢献、そして共通の基盤ということでキーワードを選んでございます。
 私のほうでまず先に、地震発生の予測シミュレーション、あるいはデータはどうかといったくくりでお話をさせていただきます。もちろん、津波発生の予測シミュレーション等も当然加えてございます。このシミュレーションで大事なのは、それだけではなくていろいろな情報が必要だということで、地殻構造、あるいは地殻活動といった情報も取り込んだ上での理学的研究ということでご紹介させていただきます。
 工学的研究は、この後お二方にお話をいただくのですが、地震動の評価、あるいは被害想定、そして耐震評価、都市設計といったところから、最終的には防災、減災への施策を考えてございます。
 社会貢献といたしましては、複合災害の対策といたしまして、新たなリスクマネジメントの提案、あるいは復旧、復興の提案というものを考えてございます。
 我々、理学的、工学的な研究の中で共通の分野といたしましては、当然、統合的なデータベース、そして情報の共有化、最終的にはいろいろな意味でのアウトリーチを考えてございます。
 まず、巨大海溝型地震シミュレーションということで、1つは科学的なチャレンジ、マルチスケールと書いてございますが、マルチスケール、マルチフィジックスのシミュレーションということで、岩石破壊、地震はそもそも岩石の破壊から起こるわけでございますが、破壊から最終的には広い意味での再来サイクル、例えば東南海を考えますと、数百キロオーダーの破壊のプロセスまで評価する。そして、それに基づくシナリオをどうつくっていくかにつきましてお話をさせていただきます。
 この後、引き続き今村先生、あるいは堀先生のほうから、社会的ニーズも含めて、21世紀は巨大災害の時代というキャッチフレーズ、キーワードでそれぞれお話をさせていただきます。私は、今回、現状のシミュレーション、そして次期スパコンを使ったシミュレーションで期待されるものについてお話をさせていただきます。具体的には、この4つの課題、地球内部理論地震波計算等の課題についてご紹介いたします。
 私ども、これまで地球シミュレータというものを使いまして、実際にいろいろな固体地球のシミュレーションを行ってまいりました。この中で、特に地震に関係いたしますのは、複雑な地震発生過程のシミュレーション、あるいは三次元の不均質構造を用いた地震波動のシミュレーション、そして大きな意味での日本列島規模のいろいろな地震発生の予測のシミュレーション等を行ってまいりました。こういう枠組みで、既に地球シミュレータを使った課題を進めてございます。
 これまでのシミュレーションでございますが、例えばスマトラの地震の波動のシミュレーション、これは世界中でいろいろと展開されております地震の波形を使って、どういう形で伝播したか、あるいは各地点の地震波との整合性をとらえているということでございます。
 こういうシミュレーションを、既に地球シミュレータを使って行っています。これは、実際にどういう波動場が展開されたかということだけではなくて、最終的には地球の内部構造のインバージョン的なことを視野に入れた研究でございます。
 もう一つ、東南海地震、1944年の想定される破壊のプロセスをきちんとシミュレーションすることによって、次、このような地震が起こった場合の地震動の予測等につきまして、詳細な解析を行っているということでございます。
 これは地震の再来周期でございますが、次に南海トラフで展開される地震につきまして、どのようなパターン、サイクルで発生するかを少しシミュレーションした結果でございます。青く塗ったところは固着をして地震が起こってないところ、赤くなったり、緑になったところは地震が発生したところでございます。このシミュレーションは、約700年規模のシミュレーションを行ってございます。
 ちなみに、南海トラフで繰り返し起こる地震の発生間隔はおよそ100年から150年です。一番最近では、1944年、46年の東南海、南海地震、一つ前は1854年の安政地震、もう一つ前は1707年の宝永地震でございます。そういうものを視野に入れて700年ぐらいのサイクル、地球シミュレータで行うとこのくらいが限界でございますが、これで4サイクルぐらいのシミュレーションをしているわけでございます。こういう結果が一つ出てございます。
 こういうことはまだまだ定性的な観点のレベルでございますが、一つここで重要なことは、どうも東南海の震源域、つまりここの部分が破壊の開始点になるということがこのシミュレーションの結果から示されました。
 もう一つ重要なのは、既に過去の2つの地震、つまり昭和と安政の地震につきましても、東南海地震が最初の破壊開始域だということがわかってまいりました。これは、このシミュレーションだけではなくて、地下の構造の情報等も入れた結果でございます。こういうことが少しわかってきたということ。
 もう一つは、一番先に申し上げましたマルチスケール、マルチフィジックスという観点から申し上げますと、我々、岩石の破壊プロセス、これは岩石実験等でいろいろ行われております。我々のグループといたしましては、一つはDEMを使って岩石破壊の応力ひずみの分布を評価していこうというシミュレーションを、地球シミュレータを使ってこれまで行ってまいりました。
 もう一つ、最近、いろいろと内陸型の被害地震が出てございます。我々、いろいろな構造情報を調査によって得られました。どういうプロセスで破壊が起こるかにつきましても、例えばDEMでモデル化をして、応力場を想定したところで破壊のプロセスがどういう形になるか。最終的には、堆積層も含めた地表で、どのような形で断層が表現できるかということまで、こういう研究で可能になると考えてございます。
 もう少し大きなスケールでいきますと、南海トラフの反射の記録ということで、地下の断面だとご理解ください。こちらが海底面でございます。向かって左側が紀伊半島だと思っていただきますと、まさにフィリピン海プレートというものが紀伊半島に向かって沈み込んでございます。こういう形でポンチ絵にいたしますと、フィリピン海プレートの境界部から分岐断層というものが形成されていることが、ここの部分でもわかります。これは、東南海地震がこれまで、1944年だけではなくて繰り返し、おそらく1000年、万年単位で起こっている破壊のプロセスを、分岐断層を介して伝えたのだろうという仮説を立ててございます。現実に、「ちきゅう」という地球深部探査船で、この分岐断層をターゲットに掘削をしているという状況です。
 では、なぜ分岐断層が形成されたのか、この分岐断層の役割はどういうことなのかということにつきましても、現在、いろいろなシミュレーションを行ってございます。これも、まさに地球シミュレータを使った結果でございます。これは2次元ですから、まだまだ表現できてございません。
 我々、いろいろな地下構造の調査によって、ある程度の3次元的なモデルができるようになりました。ですから、将来的にはこういうものを使って、分岐断層のあり方、そして形成のプロセス、最終的にはプレート境界から分岐断層に至るまでの破壊のトータルプロセスを考えていきたいと、今、研究を進めているところでございます。
 今のお話を少しまとめさせていただきますと、マルチスケールの地震発生帯モデルの構築、これは先ほどご覧いただきましたように、岩石破壊のプロセスから分岐断層等の地震発生帯が形成されるプロセス、そして、最終的にはその破壊が、東海から南海トラフの巨大地震をターゲットといたしますと、東海から九州の沖合までの非常に大きなエリアまで破壊が進展するというプロセスまでを視野に入れた研究をしていこうと考えてございます。
 平成20年度から、文部科学省の委託研究で、東海・東南海・南海地震の連動性評価研究プロジェクトというものがスタートいたしました。ここでは理学的な分野、つまり今、ご紹介させていただきましたような、いろいろな地震発生のプロセスから破壊が進展するところまで、さらには、この後、今村先生、堀先生にもご紹介いただきますが、そういうプロセスに基づく地震動の予測、あるいは津波の予測、さらにはハザードという展開、最終的には地震発生のシナリオに基づく復旧、復興の戦略までを提案していこうと考えてございます。
 現在、このような枠組みで研究プロジェクトが進められているわけでございますが、例えばシミュレーションのテーマでいきますと、我々、未来を予測するためには、地震が来てから結果を出すのでは手おくれなわけですから、少なくとも過去のいろいろな情報を得て、それを再現できるようなプロセスをまずモデルとしてつくっていきたい。そして、次の段階として予測につなげていく。そのような観点から、過去の情報をきちんと整理する。そして、いろいろな意味でのシミュレーションの手法開発、これはマルチスケール、マルチフィジックスという形になるわけですが、そういうものを開発。最終的には、先ほどお見せした、700年サイクル規模のいろいろなものを展開していくというふうに考えてございます。
 では、次世代のスパコンを使った場合、先ほどお見せしたスマトラで得られたような、ああいう広域な、グローバルなスケールの地震動評価をどうするのか。少なくとも現在は数秒単位のシミュレーションはできるわけですが、これをフォワードモデリングだけではなくてインバージョンまで、つまり地球の内部構造まで評価するためには、次世代のスパコン、5ペタフロップスぐらいの計算量が必要になってくると、我々想定しているところです。
 また、地震動、津波も含めて、地殻変動から地震が発生する、あるいは津波が発生するというプロセスをより詳細に、より高分解能、より高周波数まで展開するためには、地球シミュレータ規模ですと最大2ヘルツ、それを5ヘルツ、もしくはそれ以上のところまで、アルゴリズムも含めて展開していきたいと考えてございます。津波に関しても同様でございます。
 もう一つ、まさに理学的な研究の先端的なことでございますが、この次の地震がどのような形で起こるのか。先ほどお見せしたシミュレーションは、東海から四国沖までのやや狭い範囲、そして700年規模、4サイクルぐらい入る範囲ではございますが、まだまだ狭い。つまり、この地震発生帯のプロセスというのは、数千年、数万年オーダーで繰り返し地震が起こっているわけですから、そこまで展開する必要がある。また、スマトラの例にあるように、非常に長大な破壊域を想定したシミュレーションが当然必要になってくる。そのためには、やはり3000年規模の繰り返しを再現できるもの、そして、マグニチュード9クラスの超巨大地震まで想定したシミュレーションを達成するためには、次世代のスパコンで考えますと、10ペタフロップス程度の計算量を使う必要があるということでございます。
 さらに、シミュレーションに関しましては、単に結果を出すだけではなくてデータはどうか、つまりリアルタイムでモニタリングしたデータを予測と観測と合致させる形のシミュレーションが必要になってきます。残念ながら、まだまだこれからいろいろな地震の発生のパラメータがございます。それをどのようにそいでいって、最適なパラメータを抽出して、そのパラメータに基づいて予測精度を上げていくかという研究を、現在、地球シミュレータを使って行ってございます。
 そういうものを使って最終的に行うわけですが、現在はまだまだ、数十例行うだけでも相当時間がかかります。それを次世代のスパコンを使う場合には、数百例を1年ぐらいかけて、最終的にはデータ同化手法のモデル化を図っていきたいと考えてございます。
 このように、現状のシミュレーションと次世代スパコンを使った場合、地震研究、あるいは津波、防災といった自然災害の研究が飛躍的に進展すると考えてございます。もちろん、シミュレータだけではなくて周辺のいろいろな観測情報、あるいはリアルタイムの情報、場合によっては掘削情報も視野に入れて、総合的に取り組むことによってこういうことができてくると考えてございます。
 研究計画といたしましては、先ほどごらんいただきましたいろいろな課題につきまして、5年、10年といった形でどこまで展開できるか。1秒程度のインバージョンまでを可能にするような考え方、さらに高精度な地球内部構造の評価、あるいは地震動シミュレーションにつきましても、より実用化に向けた地震動のシミュレーション、つまり高周波数までの展開、地震サイクルのシミュレーションにつきましては、非常に大規模、なおかつ高精度なシミュレーションを可能にする、そのモデル化をしていくということが考えられるということでございます。こういう形で我々は進めていきたいと考えてございます。
 では、実際にどういう体制で進めるのか。我々は、既にコンソーシアムをつくってございます。こういうコンソーシアムにつきましては、もう既にでき上がった部分と新たに構築する部分をきちんと統合化することによって、国際連携も含めて考えていきたいと考えてございます。もちろん、成果の公表、あるいは国際会議も含む国際的な連携、最終的にはJAMSTEC(海洋研究開発機構)で申せば、地球シミュレータセンターの機能を活用したいろいろな講習会、アウトリーチ等を活用して、国内外の研究者の育成にも貢献したいと考えてございます。
 以上でございます。

【土居主査】

 ありがとうございました。
 それでは、今村先生、お願いいたします。

【今村先生】

 それでは、引き続きまして今村から、2次的な災害でございます津波について説明したいと思います。
 冒頭の2枚は我々共通でして、サイエンティフィック・チャレンジ、あと社会ニーズを整理しております。強調したいのは、21世紀に入りまして、国内外で地震が非常に活発化している。しかも、一旦起きると、その被害規模が非常に大きい。その影響を受けたエリアだけではなくて、グローバル化に伴いまして、非常に大きな影響を受けるということでございます。また、原子力発電所のような、一度影響を受けると、その被害は非常に広域である、長期化するということは忘れてはいけないことだと思います。
 津波の場合は、津波という現象をいかに正確で早く情報として提供するのか。また、その情報を受けて、我々人間が避難という行動をとることによって人的被害が大幅に軽減されます。しかし、どのような情報を与えることによって、それが迅速かつ適切になるのか。これは非常に古い課題ではありますが、いまだに我々にとっては大きな課題でございます。津波の挙動として、どういうものをどの程度の精度で提供すれば、我々が危険だと認知して避難行動をとれるのか、これは非常にチャレンジングなトピックでございます。また、先ほど述べましたとおり、沿岸部には非常に重要な施設があります。これは、我々の想像以上の影響を受けるということでございます。
 我々の地震、津波の研究というのは、我が国の中央防災会議で行われている活動に対して、大きな支援を期待されるところでございます。特に、人的被害、経済被害の半減を目指しまして、数年前、地震防災戦略プランを立てております。この10年で、人的被害1万7,000名を半分にするという目標を立てています.具体的には津波が半数以上、約8,000名以上になりますが、その対応としてはまだまだ課題があります。現在のところ、ハザードマップをつくる、また避難訓練を実施してこの目標に達成しようというものでございますが、これだけで人的被害だけを軽減するのは非常に難しいことになります。
 しかしながら、現在、我々、地震後わずか2分程度で津波情報が出せるわけです。今、気象庁から出しているわけですけれども、津波が来る前に避難という行動をすれば人的被害はゼロにもできるわけですが、現在、住民は、平均して1割程度しか警報に対して避難できないという実態があります。これを改善しなければ、いかにすばらしい数値解析、また情報を出しても、最終的な我々の目標に達しないわけでございます。
 こちらは、インド洋大津波の実際の映像でございます。現在の津波情報というのは、津波の高さで中心です。ここで1メートル、ここで3メートルの津波が来る、避難してくださいというものがございますが、この映像は我々にとっては実はショックな映像でございます。
 ここで2つの事項を見ていただきたいと思います。1つは、町中に来襲する津波、最初は海水でございますが、ごらんのとおり沿岸部での構造物、家を中心に破壊していますので、もう流体ではないです。がれきも一緒になった、非常に複雑な漂流物が一緒に来ている。そのために、破壊力が増しているということになります。
 また、どんどん、どんどん流速を大きくしますが、今、見ていただいている津波は道路からわずか1メートルぐらいの津波ですので、日本の気象庁が津波警報を出したとしても、津波警報としては、この沿岸部で1メートルぐらいの津波警報が来るという情報しか出せません。しかし、実態としては、ここだけで7万人の方が亡くなりました。なぜかというと、津波の高さよりも、実はこのような流れ、または漂流物も含まれた破壊力が、我々の予想以上に大きいからになります。そういう実態を受けて、我々は情報をさらに進化させなければならないということになります。
 現在の気象庁というのは、世界最先端の情報でございます。沿岸部に来る前に津波の高さ、到達時間を出すわけですが、実態としては、どこまで来るのか、こういう浸水エリアを出さないと住民は避難しにくい。また、津波の高さだけでは情報は足りないというところでございます。こういうものを出すためには、時空間的に非常にスケールの大きなものから、小さい、構造物の一つ一つをシミュレーションするようなものが必要ですし、先ほどのような構造物とのインタラクション、また砕破という複雑な状況を再現しなければいけません。
 現在、我々は、マルチスケールという点におきましては、日本沿岸を数キロオーダーから、沿岸部の最終的なもの数メートルまではできる技術はございます。三陸沖合で地震が起こり、津波が到達します。この時間スケールは20分程度になります。実際の時間よりも10分の1ぐらいの計算時間で、このような推定は可能になります。沖合では、津波はシンプルでございます。しかし、沿岸部でいろいろな地形、または構造物の影響を受けると、このように複雑になる。そうすると、スケールダウンをしなければいけませんし、非常に非線形の詳しい計算をしなければいけない。その点で、計算機がさらに必要になってまいります。
 我々、本日の会議の前に、1ペタスパコンが使えるとすればどういう情報が出せるか、ざっと出させていただきました。津波発生の数キロオーダーから100メートルぐらい、これは文句なく、1秒かからず津波の高さが出ます。しかしながら、小さな沿岸部のスケールになると、非線形効果を入れなければいけません。また、陸上での挙動ということで時間がかかりますので、数分オーダーになります。1メートルのこういう計算をするためには、かなり詳細な地形データが必要です。建物データも必要ですが、これは今のLiDARの技術によって数年以内に入手可能だと伺っております。
 最終的に、我々、サイエンティフィックなチャレンジとしては、津波の挙動がこのような構造物、防波堤にぶつかったり、建物にぶつかったり、これによって水位が変化し、流速が増し、波力が増す。こういうプロセスをきちんと入れないと、正しい評価はできない。特に、被害予想とか、沿岸部に来る津波の正しい挙動は再現できませんので、建物群との非線形効果を入れた物理過程がさらに必要になります。
 このようなものに関しては、現在、基本的な検討等はしておりますが、まだまだ課題はあると考えております。もし、ペタ級のコンピュータが可能であれば、単独の津波災害に関しては数十メートル、このクラスだと数メートル程度の浸水範囲で、津波がどこまで来るかは推定できます。しかし、このクラスですと、先ほどのような複合的な建物も含めたものはできませんので、能力としてはさらに要る。沿岸部では、建物自体、数メートルのスケールが多いですので、これぐらいの分解能が必要になります。
 我々は、数値計算モデル、または数値実験でいろいろな基礎モデルをつくったり、3次元の数値モデルをやるような国際連携チームを、特に日米でつくっております。津波の専門家の規模としては、国内で20名程度が参加させていただいております。
 既に我々の技術は、国際的なタイム(TIME)プロジェクトをというものを通じて、例えば警報センター、これはIOCでございますが、それに技術提供しております。今、見ていただいたように、可視化することによって一般の方にもわかりやすい情報にしております。また、さまざまな津波災害が生じますので、それに関して調査をしながらデータベースをつくっています。
 時間が限られていますので、最後にこの映像だけ見ていただきたいと思います。これは、今現在のコンピュータによって、スマトラで起こった地震によって発生した津波をリアルタイムで再現したものになります。こちら側がタイに来襲する津波、約1時間で沿岸部に到達します。こちらがスリランカ、インドになります。こちらは水深が深いですので、津波の到達時間も早くなります。時速700キロになります。2時間後には、インド、スリランカ、モルディブ、このような地域に及ぼします。ごらんのとおり、地震というのはマグニチュード9以上のものであっても、影響は周辺部に限られるわけでございますが、津波は一旦発生しますと影響が非常に大きい。簡単に言いますと、この規模ですと地球全体に伝播するようなものになるわけであります。今、4時間たったわけでございますが、さらに津波は伝播し、最終的にはアフリカ、またアフリカの南部を通り大西洋、また逆に太平洋に伝わっていきます。
 時間的には数時間かけるわけですので、こういう情報をいち早く世界各地に提供することによって、あらかじめ避難、例えば原子力のアクティビティーをとめるとか、シャットダウンとか、そういうことによって減災は可能であると思っております。
 説明できなかった部分は、後で資料を見ていただければ幸いでございます。
 以上でございます。

【土居主査】

 どうもありがとうございました。
 それでは、最後に堀先生、お願いします。

【堀先生】

 それでは、最後になりましたが、地震防災戦略分野ということで簡単にご紹介させていただきます。
 私のところの分野で一番重要なのは、何といっても構造物の地震崩壊の解析でございます。皆さんご存じのように、非常に古典的、伝統的な分野で、一見ペタスケールの計算に合わないのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単に学術的、なぜこれが難しいかということをご紹介したいと思います。
 ほんとうに工学の一番最初から行っているような問題ですけれども、算数の目で見ると、実はこういう微分方程式を解いていくことになります。密度があって、弾性係数があります。ポイントは、応力とひずみの関係が、こういう図はよくごらんになっているかと思いますけれども、非線形でいろいろ変わることになっています。
 しかし、事、算数の面でまじめに見てみると、この微分方程式の係数が不連続、かつ正負をかえて変わるということになっています。これは、もしかしたら我々の勉強不足かもしれませんけれども、実際の数学の分野でこういうふうに係数が空間的、しかも時間的、しかも履歴に依存して不連続に変化するという境界値問題にちゃんとした答えがないのか、さらに数値解析上きちんととっているかということは、まだまだ解けていない問題かもしれません。
 さらに、この解は数理的な意味で非常に不安定です。逆に言えば、破壊に伴ってばらつきがありますので、いろいろな実験をしなければならない。これを数値計算で解くというのは、掛け値なしに大きな学術的挑戦だと我々は考えております。
 もう一つ、社会的意義に関しましては、今まで金田部長、今村先生からご紹介あったと思いますけれども、非常に大きなことは言うまでもありません。後でちょっとご紹介いたしますけれども、古典的ではありますが、この崩壊解析に関して、国でも大規模実験装置を進めていますし、また原子力発電所、超高層ビル、交通ネットワークと発生が懸念されている地震に対しての対策で、非常に重要な問題であることは論を待たないと思います。
 この難しい問題を解くのにどうするかということで、算数から始めているのがこのグループの一つの特徴です。微分方程式で解くわけですから、普通のセンスでいうと滑らかな関数を使う。しかし、亀裂のように不連続な関数を使うために、ちょっとここに書いてありますけれども、パーティクル・ディスクリタイゼーションと呼ばれていますが、不連続な基底関数で微分方程式を解きます。一見してわかるように、これは微分するとほとんどゼロで、境界で発散するというとんでもない基底ですけれども、これを使うとどういうわけか非常にうまく解けることになっています。
 これは具体的な例ですけれども、こういう棒材をねじってみる。約1センチですが、これをねじってみると、この数値化式を使うと、2006年に国際雑誌で非常に難問だと言われた問題が非常に簡単に解けることになった。もちろん、精度等も保証されております。
 この方法を使って、先ほどからお見せしている構造物を解こうというわけです。具体的な例が、RC橋脚、レインフォースト・コンクリートの略で、いわゆる鉄筋コンクリートです。ご存じのように、建築土木の分野ではものを壊すということはほとんどありませんので、ある意味では安全な設計をしていますので、このレベルまで要素をつくることはございませんが、こういうものでまじめに大規模計算をしてみると、亀裂が曲げによってしっかり入る状況が計算できます。ちょっと口幅ったいですけれども、これができるのは、多分、日本だけだと思います。
 同様に、これをちょっと大きくしたものを、今、T2Kで走らせていますけれども、ぐっと入れて、この部分に亀裂が入って、バキッと壊れることになっています。ちょっとわからないので、この部分だけをとってみると、ここに先ほどの柱が立っているのですけれども、亀裂が進展して壊れるということが、今、T2Kを使って計算できるようになっています。
 さらに、超高層ビルを行ってみようと。これはモデル化をまじめにやらなければならないので、少し長いビデオクリップですけれども、例えばこういう超高層ビルを実際どういうふうにモデル化するかというと、各層、非常に大きな細かいモデル化をする必要があります。我々の規模ではまだ小さいのですけれども、重度として2,000万ぐらいで、この10倍と100倍ぐらい行っていくとかなりリアリティーが出るのですが、これでもこの程度のことはできます。モデル化は、ご存じのように非常に難しいものですけれども、少なくとも設計に関しては、CAD(computer aided design)という電子情報がありますので、こういう離散化は十分可能です。
 いずれにしても、こういうものを使って超高層ビルを建物1層1層、しかも柱1本1本、また柱のウェブ、フランジの部分まで含めてしっかりモデル化すると、かなり大規模な計算ができます。具体的には、これが崩壊の部分ですけれども、地震動によって大きく揺れて、先ほどビデオのところで申し上げた非線形の現象が起こって、しかも不安定現象である座屈も起こって壊れる。こういうことがしっかり計算できることになります。
 この離散化、要素の寸法でいうとまだ10センチなので、ほんとうはもう1オーダーぐらい落とすと、さらに詳細に、後でまたご紹介しますが、建物そのものの機能の健全性まで予測できるので、社会的ニーズをそこまで持っていくことが重要です。
 また、T2Kで、まだ8コアですけれども、全体像を計算すると超高層でこういうふうに揺れるということが計算できます。
 こういう計算のニーズはあまりないですけれども、世界でこういう技術を持っているのは日本だけだと思います。
 将来構想ですけれども、先ほどちょっと申し上げたように、数値シミュレーションと実験装置を連動するというのがこの分野の一つの特徴です。ここでE-DEFENSEとありますけれども、これは世界最大の震動台でございまして、4階建ての建物そのものを揺らすことができます。これは、先ほどのコンクリートの橋脚で、破壊する状態です。建物を4階載せることができます。例えば、これは非常に大きな関心事ですけれども、医療施設のような高度な設備があったとき、建物は大丈夫でも中はどうなるか、中の人はどうなるかが心配です。ここに書いていますけれども、重要設備を含む建築建物内の非構造部材解析が非常に重要になってきます。繰り返しですけれども、建物は大丈夫だけれども、その建物がほんとうに使えるのかどうかというのは、今も重要でしょうけれども、これからもどんどん重要になりますし、使えない建物というのは壊れたものと同じだと。そういう事態のときには、超大規模数値計算を使った被害予測が必要と考えられております。
 もう一つ、これは今の構造物の崩壊解析とは少し変わるのですけれども、金田部長、特に今村先生がおっしゃられたように、これから社会がどうなるかを考えるために、都市全域の地震被害予測に大きな数値シミュレーションが要求される時代になっています。簡単に言えば、学術的意義は経験から科学的予測へということになっています。超大規模地震・地震動計算、これは金田部長のところに非常に近いです。さらに、今、ご紹介しました超大規模構造物群の地震応答計算。これは自然科学系の計算とは違いますけれども、いわゆるエージェントシミュレーションに代表される、もしくは物理経済、経済物理と言われる分野と連動した復旧・復興計算が重要です。
 学術的意義を受けて、社会的意義としては、後でご紹介いたしますけれども、都市の情報システムの高度利用ということで、もしかしたら我が国の基盤技術を適用できるかもしれません。また、申すまでもないですけれども、地震防災、総合防災計算技術に使えるということです。
 具体的には、こんな現状があります。これは、統合地震シミュレーションと称しまして、地震の計算、構造物と地震被害の対応を計算するシステムです。これは解像度が悪くて申しわけないですけれども、具体的には都市が丸ごと計算できます。もしかしてこの中にお住まいの方もいらっしゃるかもしれませんけれども、東京23区で普通に一般に利用できる地理情報システム、いわゆるカーナビで皆さんごらんになるような情報システムを使って、建物1棟1棟にモデル化をして、しかも地盤の地震動計算をして、入力時振動を決めて計算します。これは地震動が小さかったので、あまり壊れないように揺らしているのですけれども、建物の計算はすべて非線形で、それなりに負荷がかかります。
 申すまでもないことですけれども、行く行くは建物1棟1棟に、先ほどお見せしたような大規模計算シミュレーションを適用して、ほんとうに崩壊するのか。さらに、建物が大丈夫でも、中はほんとうに使えるのか。そういうところまで計算できれば、次世代の地震防災、もしくは地震防災計算技術が完成するのではないかと考えます。
 ちなみに、この計算技術は、日本の場合はカーナビの地理情報システムは非常に発展していますので、原理的にはすべての政令都市は計算が可能な状況になっています。
 もう一つ行っておくと、近景だとこんなものが見えます。
 将来構想としては、今、言ったことです。使っているのは、写真ではなくて地理情報システムです。地震の計算をして、建物の計算をして、これは簡単な避難の例ですけれども、社会経済的な計算につなげようと。具体的にお見せすると、例えば建物がこんなふうに揺れて、これは地下街のシミュレーションですけれども、こんなふうに逃げる。こういうものが一連のシームレスな計算システムとして開発されつつあるということでございます。
 研究成果の現状をご紹介しますと、最初にご紹介した構造物地震崩壊解析に関しては、超高層ビルとか、実験再現はできています。並列対応に関しては、アドベンチャークラスター等の絵が利用できています。研究協力体制は、防災科学技術研究所の下に数値震動台開発委員会というものがつくられていまして、約20名のコアメンバーがこの計算を進めます。
 被害予測のほうは、震動台開発委員会と同様に、東京大学のGCOEの一つの課題になっていますので、着々と進められています。
 将来計画としては、鉄筋コンクリート、鉄骨造は5年程度で今の大規模計算ができるようになる。10年後には、きちんとしたデータがあれば、地盤構造物解析で建物1棟1棟できると考えています。
 都市被害のほうでは、23区に関しては、約100万のオーダーで建物がありますけれども、全部計算することが考えられるわけです。
 最後に、金田部長、今村先生、私で全部まとめられていますけれども、一つの見方として、巨大海溝型地震シミュレーションとして、サイエンティフィック・チャレンジとしては、計算力学的な観点で言えば海溝での破壊、砕破を伴う津波、材料・部材・構造の崩壊解析、これは古典的かもしれませんけれども、非常に重要なサイエンティフィック・チャレンジと考えています。
 社会ニーズについては、もうくどいので申しませんが、非常に重要な問題で、我が国の世界的貢献も要求されている分野であることは論ずるまでもないと思います。
 以上でございます。

【土居主査】

 どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまのお三方のご発表を踏まえまして、防災分野の話題に関しましてご自由にご質問、あるいはご討論いただければと思いますが、いかがでしょうか。

【宇川委員】

 よろしいですか。

【土居主査】

 どうぞ。

【宇川委員】

 金田先生にお伺いしたいのですけれども、特に地震関係ですけれども、モデリングの段階で、現在までに取り入れられている地球物理的な要素等々あると思うのですけれども、今後を考えたときに、どういった地球物理的な要素を取り入れなければいけないのか。それとも、モデリングとして、それは十分できていて、ある意味、計算規模を拡大すればいいのか、そのあたりについてお伺いしたいのです。

【金田部長】

 今、先生がおっしゃられたところで、私の発表でもちょっと触れさせていただきましたが、現在、地震発生のときに、もちろんシミュレーションの開発手法は重要ですが、データ同化というときにどのデータを使うか。ある程度連続的なデータで、確実に変化するということになりますと、特に地殻変動、海溝型地震ですと、海底の地殻変動を水圧計、あるいはリアルタイムではないのですが、セミリアルタイム的に海底の地殻変動データを、我々、モニタリングのシステムを構築してございますので、こういうことがまず1点重要かと思っています。
 もう一つ、東海から九州まで至る非常に広域なところの地震破壊のプロセスを理解するためには、当然ですが、今現在得られている以上の地下構造の情報、つまり地震の物性も含めた情報をきちんと把握する。それは、平成20年から立ち上がった南海の連動性評価プロジェクトに、そういう形で課題として組み込まれてございます。大きいのはそこだと思っています。

【宇川委員】

 モデリングの段階で、この要素はどうモデリングすればいいかという問題よりは、むしろデータをどう供給して、どう検証して、データを同化して取り入れているかが問題だと思ってよろしいですか。

【金田部長】

 そうですね。もちろん、媒質モデルというか、地殻構造のモデルというのは、私、ご紹介していませんが、地下を伝わるP波速度、あるいはS波速度といった情報だけではなくて、例えば断層周辺の物性がどうなのか、それを数値的にどう表現するのかということも含めた媒質モデルの構築が当然重要だと思いますので、その部分の構築も同時並行して行いながら、先生がおっしゃられたようなデータ同化の手法を用いて、最適な複数のパラメータを選んで、それを予測につなげていくと考えてございます。

【宇川委員】

 ありがとうございました。

【中村委員】

 やはり金田先生にお伺いしたいのですけれども、次世代スパコンへの期待というところで、定量的に、今の地球シミュレータからペタコンへどれぐらいの演算量が必要かという表があったのですけれども、私、この分野はちょっと知らないのですけれども、モデルの精度が5倍、あるいは津波ですと10倍という、テラからペタへというのに比べると数倍というイメージがあるのですが、それは質的には非常に大きなことがあるのですか。そこをちょっと教えてください。

【金田部長】

 今のご質問ですが、先生は16ページの表をごらんになったと思うのですが、例えば周波数帯域でいいますと2ヘルツから5ヘルツ、これは先ほどの堀先生のお話のように、2倍以上の高周波帯域になることがございます。モデルの精度というのは2つございまして、1つは、地震動でいいますと地下構造そのものの不均質性を把握する精度がございます。今までは50メートル規模の分解能だったものが、先ほどの地震動、どのくらいのパラメータが必要かというところにも関係するのですが、10メートル規模の不均質性の分布が評価できれば格段に上がる。同時に、周波数帯域が上がることによって、それとリンクしながら最終的に精度を向上したいと考えてございます。

【中村委員】

 精度が上がったときに理学的に新しい何がわかってくるか、そういうことを教えていただきたいのですが。

【金田部長】

 2つございます。1つは、シミュレーションとインバージョンという形で考えますと、ある程度地下構造のモデル化をして、実際に観測されるデータも含めてインバージョンすることによって、より詳細な構造が出てきます。もう一つは、これは堀先生のほうにむしろ関係することでございますが、今の主要な各建屋がこういう周波数で、もちろん直周期の地震動というのはこういう形でカバーはできるのですが、より高周波の強震動にいかに迫るかということでございます。今、2ヘルツということでございますが、5ヘルツぐらいまでカバーできると、構造物の耐震評価に飛躍的に貢献すると考えてございます。

【土居主査】

 矢川先生。お願いいたします。

【矢川委員】

   これまでこの委員会では、バイオのエリアとか、あるいは材料とか、医療とか、そういうお話をお聞きしているのですが、本日のお話は災害ということで、基本的に異なるのは、今までお聞きしてきたエリアは、ある意味で専門家だけに閉じておけばよかったのですが、たまたまこのスライドがありますけれども、サイエンティフィック・チャレンジはいいのですが、これまでと同じようなタイプですが、本日のお話では社会的ニーズのほうがちょっと見えない。文部科学省は上のほうでよくて、気象庁が社会的ニーズをやるとか、そういうすみ分けは国であると思うのですけれども、最後の堀先生のお話でも、100万の各家の老朽度だとか、データベースをどう行って集めるのか。そういうことが最終的にないと、多分、これは使えないですよね。それから、どう行って通報するか。これは基礎研究だから、それでいいといえばいいんですけれども、ここまで書かれたからお聞きしたいのですけれども、その道筋はできているのでしょうか。地球シミュレータのときも、気象庁のグループはそれほど、連携がよく見えなかったのです。サイエンスの人と、実際の現場のほうと。そこら辺の見通しが、本日、こういう場でお聞きしていいかどうかわかりませんけれども、見通しは何かあるのでしょうか。

【堀先生】

 社会的ニーズということでございますと、先ほどお見せした大規模実験をすると耐震コードがかかるのと同じように、こういうシミュレーションができるようになると、今、ハザードマップ、被害シナリオでそれなりの産業があって、いろいろなことを行っているのですけれども、それが一転すると思います。それは、日本発の技術が世界にシェアされることになりまして、そのニーズは非常に大きいものがあります。

【矢川委員】

 研究者はそれでいいですけれども、大学とか研究者のほうで研究がどんどん進んで、実際、気象庁が使ってくれるシステムができているのでしょうかということです。できるのでしょうか。

【堀先生】

 それはできると思います。

【矢川委員】

 思いますではなくて。

【堀先生】

 これは気象庁というよりも国土交通省マターで、気象庁の上ですけれども、私が断言するのは変ですけれども、そういう意味での関係はちゃんと、いわゆる土木建築の世界ではうまく進むと思います。

【土居主査】

 ありがとうございます。
 どうぞ。

【寺倉委員】

 地震の予測というのは、一昔前は非常に原理的にできるとかできないという議論がありましたね。できるというのもいろいろ意味合いが違うのだろうと思うのですけれども、どのレベルまでのことを想定されているのか。要するに、複雑な計算ができるようになったからできるようになったということだけなのか、もっと原理的なことがあるのかということが一つ。
 それから、岩石の破壊の話があったのですけれども、我々も材料の分野で行っているので、比較的簡単な材料の破壊も非常に難しい問題で、そこにアウトリーチはデータ同化か何かで調整しながら行っておられると思うのですけれども、その辺のところに関してもう少し詳しいご説明をいただけませんか。

【金田部長】

 よろしいですか。

【土居主査】

 はい。

【金田部長】

 まず最初の、どこまで予測できるかということでございます。今、先生おっしゃられたようなところで、原理的にはというところが昔は確かにありました。ただ、現在、いろいろな研究が進めば進むほど地震の複雑性とか、多様性が逆にわかってまいりまして、なかなか難しいという状況でございます。現在ある予測というか、確率予測ということでございますが、例えば東南海地震の発生予測が30年以内に60%から70%という、それも一つの予測なんです。ただ、ここで我々が考えている予測というのは、ある程度長期的な確率予測ではなく、中期、あるいは短期的な予測、例えば東南海地震を想定した場合、20年後、こういう状況が続いたとき、確率論的に言うと九十何%とかあると思います。それではあまり意味が、位置づけが難しいということがございますので、むしろデータ同化をして、5年後に、どの辺の海域で、どのくらいの規模の地震が起こるという予測に迫りたいと考えてございます。
 これは、シミュレーションだけではなくて、今、先生がおっしゃられたようにデータ同化というところも含めて初めて見えてくる。そのためには、特に海溝型地震をターゲットとしますと、リアルタイムでモニタリングする必要がある。それは、海域も含めてある。また、東南海地震と南海地震が時間差を持って連動した場合、仮に東南海地震が先に起こった場合、南海地震をどういうタイミングで待つのだろうか。安政のような形で32時間後に起こるのか、昭和のように2年間、ずっとハラハラしながら待つのか。その辺の見極めをデータ同化して行っていきたい。最終的には、仮に先行的な現象がとらえられたとしたら、それを理解するような、データ同化も含めて観測、解析をする。そして、先ほど矢川先生がおっしゃられた、どう行って気象庁も含めて情報発信をするか。その辺の議論は、現在、スタートしてございます。それが一つのお答えです。
 もう一つ、岩石破壊で、もちろん工学的にいろいろな材質、材料の破壊がございます。ただ、地震が少し厄介なのは、地震の起こる大きなファクターは水の挙動です。水の挙動というのは、水が挙動するためのフラクチャーの分布、そして実際に水の温度も含めた、つまりこういう水のイメージではなくて、地下10キロとか30キロのイメージは、臨海状態に近い水辺も含めた挙動でございます。その挙動も含めたところの岩石破壊を行って初めて、メソスケールから大きなスケールまで行くという形になります。そこら辺の基礎的なところは、我々地震研究者だけではなくて、水をやられている研究者と合わせた評価を行っている。もちろん、そこには、地下でございますので、不均質性をどう行って取り込むか。それが、先ほどちょっとお答えしました、媒質モデルをどうつくるかというところにもつながると思ってございます。

【寺倉委員】

 どうもありがとうございます。かなりマテリアルに近い話があったので、非常におもしろいと思いますけれども、こういうシミュレーションで、これまでこういうことが具体的に予測できたとかいう例はあるのですか。

【金田部長】

 私、答えてよろしいですか。

【土居主査】

 はい。

【金田部長】

 地震になると、はっきり言って予測できたことはまだございません。ただし、先ほどちょっとお見せした青とか、黄色とか、緑に変わるようなシミュレーションの中で、一つのパターンといたしまして、少なくとも過去、昭和と安政の東南海地震と南海地震の連動性のパターンは見えてきたということはございます。もちろん、我々はそれで満足するわけではなくて、それをより定量的なところにつなげるための研究を進めるということで、少なくとも現時点ではそういうパターンが、過去2例でございますが、それと合致することが見えてきた。ですから、我々は数千年にさかのぼって文献の情報、あるいは地質的な情報も含めて、十数例のデータを再現することによって初めて、次の予測に向かうものだと思っています。データ同化というのは、まさにそのための道具だと理解してございます。
 あまり適切なお答えになってないかもしれませんが。

【寺倉委員】

 いいえ、よくわかりました。

【土居主査】

 ありがとうございました。
 どうぞ。

【小林委員】

 堀先生にちょっとお伺いさせていただきたいのですが、2つあって、1つは避難のシミュレーションの様子が出てまいりました。これは、地震のときの避難シミュレーションでしょうか。社会経済的なシミュレーションが、どういうものかあるのかよくわかりませんけれども、避難のシミュレーションというのはいろいろな場合があり得ると思うのですが、それをこういう地震防災戦略分野で扱ったほうがいいのか、人間の挙動を示すシミュレーションというのは別に置いたほうがいいのか。それについてどういうお考えを持っているかが1点。
 もう一点は、先ほど宇川先生の金田先生に対するご質問だったか、次世代スパコンができたら何かいいことあるかというような面で、媒質モデルの話はあるけれども、大まかに言って、巨大計算機があって、細分化してデータを増やしたりすることもできて、そういう面での貢献が大きいと受け取ってしまったのです。もちろん、モデルの話もあるということはちゃんと言っておられましたが。
 堀先生の場合は、先ほど方程式でCが不連続的に変わると。こういうことに対して、E-DEFENSEとの関係で、実験とシミュレーション結果と比較すること等を行って、Cが不連続的に変わることに対する対策というのは、もう全部できているのか、その辺の様子をお教え下さい。

【堀先生】

 避難シミュレーションのような、マルチエージェント・シミュレーションをこの分野でやるかどうかということですけれども、もちろん専門の方に行っていただけるにこしたことはございません。ただ、避難状態のマルチエージェント・シミュレーションというのは火災とか限られておりまして、実は、本日お見せしたのも、先ほど今村先生がビデオクリップで紹介されましたけれども、ああいう人の動きの画像解析を計測して、そのデータを使っています。要するに、ちょっと特殊なシミュレーションになっています。繰り返しますけれども、専門の方がこれを行ってくれれば一番いいのですけれども、めったに起こらない地震の避難シミュレーションをやる研究者は限られているので、我々のところでやっただけです。決してそれに固執するものではありません。
 もう一点、Cの変わる問題というのは数値計算の問題で、小さい材料レベルの実験から、部材レベル、構造レベルで、Cは場所ごとに変わりますので、我々、サイズエフェクトという言い方をしていますけれども、どういうふうに変わるか、やはり実験的な研究は非常に重要です。ある程度まで行けば、シミュレーションで予測できるだろうということで行っています。先ほどの実験装置も、大きいといっても4階建ての建物で、その実験の結果をもとにして、超高層のような絶対揺らせないものを数値計算で揺らそうと。それも大きな戦略でございます。

【土居主査】

 よろしいですか。

【宇川委員】

 あと1点だけよろしいですか。

【土居主査】

 はい、どうぞ。

【宇川委員】

 ソフトウェア開発の観点ですけれども、地震ですと研究者集団の規模が100人とおっしゃっていましたね。それから、津波ですと20人規模ですか。プログラムは、どんどん、どんどん複雑にもなるし、コード化していっていると思うのです。それから、計算機に対する対応もしていかないといけない。そういう中で、コードを開発して、改善して、メインテナンスするという観点から、今、どういう状況にあるのですか。そのサイクルが十分回るような状況にあるのか、今後のことを考えたときに、そこに手当てをするといいますか、そこを考えないといけないような状況にあるのかについてお伺いしたいと思います。

【金田部長】

 地震分野のほうから先にお答えさせていただきますと、総勢100人規模ということで、今現在、いろいろな研究を進めてございます。ただ、今、先生おっしゃられたように、基本的なモデルをつくるというところは研究者がきちんとやる。それをほんとうにコード化して、チューニングも含めた形になると、まだまだそこをサポートというか、そこに携わる人間はなかなか多くはないという現状でございます。ですから、地球シミュレータを使って、我々、ある程度のチューニングも含めた、いろいろなノウハウは一応取得しているつもりでございますが、ペタスケールの計算機につきましては、それに応じた部分の強化は当然必要になってくるとは思っています。

【土居主査】

 よろしいでしょうか。

【今村先生】

 津波の部分は、いわゆるモデル開発とか、基本的なものは20人でいいと思います。現業にするときには、気象庁等との協力が可能ですので、そこを取り込んで、ただ、やはりシステムにするには、体制としてはもう少し必要かなという感じです。

【宇川委員】

 現時点では、コードはすべて研究者の自前開発でつくり、かつ使っていて、ある種パッケージを使うということはあまりない、そういう分野だと思ってよろしいですか。

【金田部長】

 現在はそうです。ただし、ある程度のコードは共有化するという形で、皆さんに使ってもらうような形にしてございます。

【土居主査】

 はい。

【中村委員】

 ちょっと違う観点ですけれども、今村先生にお伺いしたいのですが、津波予測で次世代スパコンへ期待するという点があったのですが、使われ方を考えてみますと、大きな地震がどこかで起きた、そうすると次世代スパコンのジョブを全部とめて、そちらが非常に重要だからやろうと、そういうことをほんとうに期待されているのか。もう一つは、これまでの地球シミュレータとの役割分担みたいなことはどういうふうに考えておられるのか、その2点。

【今村先生】

 ありがとうございます。本来はリアルタイムで、地震が起きたら優先的に使わせていただく、これが一番いいわけですが、やはり現実はなかなか難しいので、あらかじめデータベースということで非常に細かい計算を行っておいて、結果だけをすぐ出すということを考えています。地球シミュレータの関係では、直接は参加しておりませんが、そのクラスでかなり実用的な数値計算が可能だというのは得ています。

【中村委員】

 ですから、役割分担としてどういうふうに使っていこうと期待しているのでしょうか。

【今村先生】

 地球シミュレータをですか。

【中村委員】

 と、こちら。

【今村先生】

 地球シミュレータはおそらく流体そのものの単独の計算で、今回のようなペタになりますと、建物との連動とか、漂流物とか、そういう複合災害をターゲットにしたいと思っています。

【土居主査】

 ありがとうございました。
 避難に関しまして、どこでやるかということがありましたけれども、JSTのRISTEXの小宮山プロジェクトの中で、あれは先生方もかかわっていらっしゃいますよね。

【堀先生】

 はい。

【土居主査】

 今、地方自治体で幾つか展開されていますが、ああいうような場もあれば、幾つかの場もあろうかと思うのですが、ぜひまた、よろしくどうぞお願いいたします。
 それでは、まだまだあるかと思いますけれども、時間が押してまいりましたので、続きまして、地球環境分野につきましてはお二方の先生からご発表いただきます。時岡センター長は、地球物理学をご専門とされ、気象庁を経て、現在、海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センターのセンター長でいらっしゃいます。また、木本副センター長は、気象学、気候学をご専門とされ、気象庁を経て、現在、東京大学気候システム研究センターの副センター長でいらっしゃいます。
 それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

【時岡センター長】

 ただいまご紹介いただきました時岡でございます。それでは、地球環境分野についてご紹介させていただきます。
 まず、最初の図は、この分野のモデル研究の特徴をまとめたものでございます。我々の分野のモデル研究は天気予報に用いるモデルがもとになっております。天気予報の分野で最初に使った計算機は、委員の皆さんはご承知のとおり、ENIACでございます。ですから、1940年代後半から使い始めました。我が国の気象庁も、世界で3番目に業務に数値予報を取り入れたという実績がございます。そういうことで、古くから数値予報に基づいた天気予報、あるいはモデルを使った気象の研究がもとになって、現在、我々がやろうとしております地球環境予測のモデルが開発され、この分野の研究が行われております。
 大きな変化は、2002年に地球シミュレータが運用開始されて以降に起こりました。もともとこのシミュレータは地球温暖化を想定して開発された面がございますが、それを活用するためのプロジェクトとして、人・自然・地球共生プロジェクトが文部科学省のご支援によって動くようになりまして、このおかげで非常に大きく進歩いたしました。我が国からIPCC第4次評価報告書に向けて、このシミュレータを使って温暖化予測研究の成果をたくさん出すことができました。
 現在は、それを受けまして、さらに発展させた形で、21世紀気候変動予測革新プログラムというものが走っております。これについては、後ほどご紹介いたしたいと思います。
 また、このシミュレータを使いまして、我々の地球環境フロンティア研究センターでは、その性能を最大限生かすモデルとして、雲の塊まで解像する大気大循環モデルの開発に取り組み、実際走らせ、性能を確認することができました。その成果は、世界の関係者に驚きを与えました。
 この雲解像大気大循環モデルの素晴らしい成果も一つの契機になりまして、気候予報に関するモデルサミットというものが昨年5月に開かれましたが、このサミットの結論といたしまして、キロメータースケールのモデル開発を今後の目標とすべきということが採択されました。
 我々の分野の発展は、最終的にはすべて気象庁の業務に還元されて、国民の利益に還元されます。すなわち、防災情報、レジャー、あるいは1次産業、交通等に関する情報の精度の向上ということで、我々の分野の研究成果は国民や社会に役立ちます。
 3番目といたしまして、これはもう皆さんよくご存じのとおり、人間活動の結果として生じている地球温暖化問題にこれから対応していくため、より具体的に適応策、緩和策、あるいは将来の地球環境シナリオの選択などの議論の基礎となる情報を提供することが求められております。
 モデルサミットですが、昨年5月、世界気候研究計画(WCRP)、世界気象研究計画(WWRP)、国際地圏・生物圏研究プログラム(IGBP)の3者が共催いたしまして開かれたものであります。その結論といたしまして、気候予報はコンピュータを非常に必要とする分野の一つであるということ、そして温暖化したときの世界各地の地域スケールで生ずる気候変化を、キロメートルスケールの高解像度のモデルを用いれば予測できるだろうと結論づけております。
 そのためには何が必要かということですが、現在の計算機の大体1000倍程度、(我々の分野で使っているコンピュータは10テラといたしますと10ペタフロップス)の計算機を使えるようになることと書いてあります。そうなれば、キロメータースケールの全球モデルを使っていろいろ成果を出すことができる。それによって、将来、温暖化時の地域スケールの気候変化予測情報を出すことができると書かれております。
 我々の分野のモデルというのは、流体の方程式、質量保存、熱力の第1法則、状態方程式などを、例えば大気をこのような格子に区切って離散化するという方法を用いております。
 我々の分野のモデルは、初期の天気予報モデルから出発し、次に大気の流れを維持できるエネルギー源も組み込んだ大気大循環モデルというものが1960年代半ばから取り組まれました。同様の海洋大循環モデルができ、さらに大気と海洋は相互作用いたしますからこれら両者を結合した気候モデルがつくられました。この気候モデルは物理的なモデルでありますが、これに地球科学及び海洋・陸域生態系モデルを組み合わせて、気候と炭素循環の相互作用も表現する地球システム統合モデルというものも現在はでき上がっております。我々は地球シミュレータを使って雲解像大気大循環モデルを開発したと申しましたが、同時に地球システム統合モデルというものも地球シミュレータを使って開発いたしました。
 地球システム統合モデルにつきましては、後ほどご紹介いたしたいと思いますが、我々のところで開発したモデルでは陸域生態系の取り扱いが非常にユニークでございます。残念ながら現在のところいろいろなデータが不足してモデルの評価が十分なされておりませんが、1月23日に、GOSAT衛星が上がりました。これは二酸化炭素をはかる衛星ですが、そういうデータの解析が進むにつれてモデルの評価もできるようになると期待しております。
 このあたりの説明は省かせていただきますが、気候モデルを使った過去100年の気候変化の予測に際して、人為的なフォーシングと自然のフォーシングを入れたり入れなかったり、いろいろ組み合わせて実験をやることによって、20世紀後半の気候変化には人為的影響が明らかにあらわれているという結論を出すことに、我々の実験も貢献いたしました。
 温暖化の将来予測に関する研究もたくさん行いまして、IPCC第4次評価書に報告いたしたところでありますが、これも時間の関係で省略いたします。
 共生プロジェクトの後を受けて、2007年から21世紀気候変動予測革新プログラムというものが走っておりますが、このプログラムは、我が国の主なモデル開発にかかわる機関すべてが参加し、3つのチームを結成して研究を行っております。
 チーム1は、長期の気候変動予測を目的としたものでありまして、300年程度先までの地球環境の変動を予測しようということであります。こういう研究の成果として、ポスト京都議定書、2012年以降の世界の地球環境シナリオ選択の議論のもとになるデータを提供したいということで行っております。このために地球システム統合モデルを用います。これは気候と炭素循環の相互作用を扱う非常に重い(計算量の多い)モデルでありまして、大気は280キロ、海洋が100キロという比較的解像度の低いモデルを使おうとしております。
 一方、チーム2の近未来予測は、現在から30年程度先までに起こる予測を、自然に起こる変動と人為的な変動を含めて、できるだけ詳細に予測しようと取り組んでいます。この予測のためには、大気は50キロ、海洋は20キロという高い解像度のモデルを使おうとしております。
 チーム3は極端な気象変化予測を目的としたものでございます。これには、全球モデルとして20キロ、地域モデルとして5キロという解像度のモデルを使おうと考えています。我が国にとっては将来の台風の動向を知ることは非常に重要です。こういうふうに革新プログラムでは我が国の主要機関が協力して3つのチームを作り、研究に取り組んでおります。
 現在、我々は地球シミュレータを用いておりますが、この3月からアップグレードいたします。それを前提として、こういう解像度を想定しております。もしもペタフロップスマシンが使えるようになりますと、長期予測におきましては解像度をさらに上げたい。それと同時に、炭素循環や大気化学の高度化したモデルを使いたいということがございます。近未来予測の場合ですと、現在、大気は50キロでありますが、さらに20キロぐらいの解像度にしたい。そうすることによって、降水の分布予測がより改善されるのではないかという期待がございます。これが実現しますと、これからいよいよ本格化する地球温暖化問題に対する適応を考えていく上で、必須となる高精度の情報を提供できるということになります。
 これは全体のスケジュールですが、割愛させていただきます。
 現在、我々は地球シミュレータを重いモデルのRUN(実行)に使っております。これは平成19年度のデータでありますが、全体を100といたしまして、5割弱を大気・海洋分野で使っております。その中で、革新プログラムは一番大口ユーザーでありまして、20%程度使っているというのが実情であります。実は、来年度から革新プログラムはいよいよ本格的な実験を始めます。この3月から、地球シミュレータは現在の2倍の性能を持つマシンにアップグレートされます。我々側といたしましては、現在のマシンを使うとしたら大気・海洋分野だけで全部使い切ってしまう程度の計算量(新しい計算機でいえば半分に近い計算量)を使いたいという希望を持っており、そういう予定で我々の計画を立てているということであります。
 最後に、地球システム統合モデルについて少しご紹介したいと思います。
 これは、先ほどから申しておりますように、気候モデルと炭素循環モデルを結合させたモデルでありまして、従来の物理プロセスを扱う気候モデルに、生物地球化学過程を組み入れたモデルであります。この図に書いてあるようなプロセスを全てモデルに取り入れているものであります。皆さんとしては、炭素循環、すなわち生態系を一体どういうふうに扱っているのだろうとお考えでしょう。そこで陸域のモデルについて簡単にご紹介いたします。
 これは木の部分ですが、葉っぱ、幹、根、それから枯れた葉や枝、土壌、に分割して扱います。それぞれの部分の炭素量の変化と移動をモデル化しています。
 次に植物自身が気候変化と共にどういうふうに変化するかということでありますが、我々のモデルは、異なる種類の個々の木が競争して成長するというプロセスを、比較的直接的に扱うという非常にユニークなモデルであります。現在木の種類を19種に単純化しておりますが、将来、温暖化したときに、今ある木の種類がどのように変化するかという問題にこたえられるモデルになっています。このモデルの十分な検証はまだできておりませんが、例えばシベリア地域で大規模な森林火災があった後の森林の回復プロセスを、いろいろな生態系モデルと比較実験いたしましたが、その限りにおいては、我々のモデルは格段にすばらしいという結果になっております。
 さらに、ご存じのオゾンホールというものが現在起きております。実は、温暖化とともに上空の大気はどんどん冷えてまいります。対流圏は温まるわけですが、上空は冷える。冷えますと、オゾンホールができやすくなることがございます。温暖化の中で、どういうふうにオゾンホールの発生が変わるのかということも大きな関心でありまして、我々の開発しているモデルはこういうこともあわせて予測できるモデルです。
 こういうモデルはどのように役立つのかということであります。このモデルは将来、大気の二酸化炭素濃度を、例えば550ppmとしたいと考えた場合、人為的な排出量を幾らにコントロールしなければいけないかということを逆計算で出してくれるモデルであります。ですから、世界の地球環境をどういうレベルに安定化させるかという議論のときに必要な、科学的なデータをこのモデルが与えてくれます。京都議定書の議論の際には、こういう科学的な根拠のあるデータはまだございませんでした。現在、我々が開発しているモデルが万全かどうかという点はこれから検証していかなければならない問題でありますが、我々が既に開発しているモデルは2000年までのデータでは検証しておりまして、この程度に合っております。当然ながらこれから、これをさらにいいモデルにしていかなければいけません。
 もう一つ、我々が大事だと思っている問題に氷床があります。グリーンランド、南極に厚さ3,000メートルの氷がありますが、これがいつ、どのように溶けていくのかをできるだけ正確に予測することが水位予測にとって重要です。そういうことで、氷床モデルの高度化にも取り組んでいるところであります。現在は20キロぐらいの解像度で解いておりますが、将来は1キロ、あるいはそれ以下の解像度で解くべきではないかと考えております。
 これは、現在よりも気温が一定量上昇した状態がずっと続くといたしますと、最終的にグリーンランドの氷のボリュームが幾らになるかを計算したものであります。この計算ですと、氷床モデルによって答えがばらついていますが、4度以上になると全てのモデルでグリーンランドの氷は全部溶けてしまうということになっております。日本付近が1度温度上昇したとしても、より高緯度にあるグリーンランドでは2倍程度上昇いたします。グリーンランドの氷床は1000年スケールで起きる変動でありまして、そういう水位変動に対してもより正確な情報を出すためにペタフロップスマシンは貢献すると思います。
 我々の分野でペタフロップスマシンが使えるといたしますと、従来の大型計算機(たとえば地球シミュレータ)とペタフロップスマシンとの間は、ファイアウォール抜きで、密結合された状態でデータ転送ができないかということを考えております。こうすることによって、ペタフロップスマシンから大型計算機への転送速度を10倍に上げることができます。例えば、1テラバイトのデータ転送をSINET3で行なうとすると、ファイアウォールありの場合ですと約28時間かかる計算ですが、無しの場合それが2.8時間で済む。(転送に28時間かかるということは、途中で発生するかもしれないエラーを考えると、転送できないということ。)  そうなりますと、ペタマシンで計算したデータの一部を大型計算機に転送でき、多くのユーザーはペタマシンではなく大型計算機にアクセスすることでいろいろな計算ができるという環境が実現できるようになり、ペタマシンにアクセスするユーザ数をコントロールできる。
 我々の分野では、ペタフロップスマシンでなければならない計算だけをそこで行い、それ以外は大型計算機、あるいは、それ以下の計算機でそれぞれ計算を処理するということ、そしてペタフロップスマシンで行った計算結果も大型計算機に一部を転送し、大勢のユーザーがペタフロップスマシンにアクセスするのを避けさせて、効率よくペタフロップスマシンを使いたいと考えています。
 以上、まとめますと、我々の分野でペタフロップスが使えますと、大気、海洋、地球環境モデルそれぞれの性能が向上し、それからもたらされる情報の精度が向上します。それから、これはあまり触れませんでしたが、データ同化技術の向上にも貢献します。
 その結果として、気象・海洋防災情報の飛躍的な向上に貢献してくれるはずです。最終的には、これらは気象庁の業務を通して社会に還元されるでしょう。
 もう一つは、地球温暖化の解決に対して大きな科学的な貢献をするでしょう。これは未定ですが、2019年ごろにIPCC第6次評価報告書が取りまとめられるのではないかと考えられていますが、そういうものに対してペタフロップスマシンは大きな貢献をすると思っております。
 それから、木本先生がお話になる雲解像大気大循環モデルや、今お話しした地球システム統合モデル、あるいは、それらの出力データの研究において、世界研究者が我々のモデルを使う、あるいはアウトプットの解析を共同でやる、ということを通して国際連携が図れるのではないかと思っております。
 現在、革新プログラムでは、国内の主要なモデル開発にかかわる機関はお互いに協力して取り組んでおりますが、先ほど申しましたネットワークが整備されたような状態では、さらに枠を広げて、もっと小規模な大学なども含めた、国内全体の力を結集した体制を仕立てられるのではないかということも期待しております。
 以上でございます。

【土居主査】

 ありがとうございました。
 それでは、木本先生、よろしくお願いいたします。

【木本副センター長】

 引き続きまして、木本でございます。東京大学気候システム研究センターです。
 大学では、唯一、全球の気候モデルをこしらえる人材を育てているところだと自負しております。今、時岡センター長からご紹介のあった、コンポーネントモデルのかなりの多くは我々の学生がこしらえたものです。
 自分で言うのも何ですが、うちの分野は一枚岩でございますので、時岡センター長と私の話は重なるところもあります。なるべく重なりをはしょってお話ししたいと思います。
 気候・気象分野では、シミュレーションというのは非常に大事な研究道具の一つであります。それは、天気予報、あるいは地球温暖化予測という形で社会にも貢献していると自負しております。
 温暖化分野では、去年、ノーベル平和賞をとりましたIPCCの第4次報告書に、地球シミュレータのおかげでたくさんの論文やら引用をしていただきまして、それまでは細々と行っておったのですが、一挙に世界の皆さんのトップ集団の仲間入りができたと思っております。
 その結果は、今、いろいろな場所で、影響評価、政策立案に、シミュレーションのデータを使われつつありますが、大げさなことを言いますと、人類の意思決定の根拠を与える計算ができたと思っております。
 ですが、当該分野の課題といたしましては、予測でございますので、どんな予測でも不確実性、エラーバーというものがございます。それがいかに、どう行って軽減できるか。温暖化の場合は、政策決定は今すぐやらなくてはいけない、予測には幅がある、そのときにどう行って意思決定をするかという非常に難しい問題に直面しているわけで、不確実性を低減する必要がある。
 その不確実性低減には、幾つかの方向があります。まず、時岡センター長が紹介された、オゾンホールを計算するとか、炭素循環を計算するとか、今まで計算しなかったようなプロセスをどんどん含めていって、気象のモデルとか天気予報のモデルというのではなくて、統合地球環境モデルを構築する方向があります。大気汚染も予測します、オゾンホールも予測しますという形に一つの方向は発展していると思います。
 もう一つの方向は、不確実性といっても、温暖化したときの日本の天気と韓国の天気の違いがわからないではないか。流体力学の計算ですので、できるだけ計算メッシュを細かくしなくてはいけない。日本の天気は将来どうなるか、IPCCの報告書にもまだそれほど大きな自信を持って書かれているわけではございません。
 それから、多分に科学的な課題ですが、地球のことをよく知るのが我々の仕事ですが、これは観測データによってよく知る、測ってよく知る。ところが、広いですので、測れない部分がありますので、それを知識を使ってモデルで補う。観測はすき間だらけ、モデルは知識の不足によりエラーバーが大きい、ならば、両者を融合して、より正しい地球の姿を描き出す。別の分野でもデータ同化という言葉が出てきましたけれども、データとモデルの融合、こういうところに不確実性低減の鍵があると思います。
 早速ですが、次世代スパコンで予期できるブレークスルー。どこまで請け負うかはいろいろなところでご相談いたさないといけないと思いますが。キーワードは、雲解像気象・気候予測です。今まで延々と天気予報を行ってきて、今でも台風の予想や何かを行っています。それが、ワンステップ別次元に入ると言われていることですので、ブレークスルーの名にふさわしいと思います。海洋のほうでは渦を解像するという課題もありますが、一般にわかりやすいのは、雲解像シミュレーションの実現、だと思います。これは、だれがどこから見てもブレークスルーであろうと思いますが、それを使って天気予報や季節予報、あるいは近未来、2030年にどういう世の中が来て、そのときにはどういう温暖化対策をとらなくてはいけないかという予測もできると思います。
 ただ、私が一つだけ言っておきたいのは、ES(地球シミュレータ)でもペタコンでもそうですが、こんな大きな計算機は、だれもが見たこともないびっくりするような計算を1日だけ使って、やり逃げするというのが一番簡単な使い方であります。特に、気候、あるいは気象の場合は、例えば台風が1回予測できたといっても気象庁は動きません。なぜならば、外れたら人が死ぬからです。そのためには、十分な回数で検証して初めて実用になりますので、デモンストレーションの計算ばかり繰り返すというのは、まじめに科学や技術の進歩を考えた場合には、あまりよろしくない、と言うとちょっと語弊がありますが、そのあたりをお考えいただきたい。
 それから、別に安請け合いするわけではありませんが、このあたりのブレークスルーですが、モデルは既に走っておりますので、使わせていただけるのでしたら当初からそれなりの成果は出せると思います。
 この図は何のためにあるかというと、我々、共生とか革新プロジェクト、温暖化のプロジェクトで使ったときは地球シミュレータは別の場所にありまして、遠くからリモート、インターネットで入ってデータを解析するのですが、ネットワークがインターネットにつながっておりませんでしたので、フェリーシステムというものをNECの方に開発していただいて、ほぼ手で運ぶような状態で、我々が文部科学省からいただいたたくさんの研究費のほとんどはこのサーバと人件費に使ったわけですが、そこでいろいろな図をかいて解析するというわけですので、ある程度の計算量がある場合には、次世代コンピュータでも仕事場が確保できないと図がかけませんので、成果も出ないということになります。
 もう一つ、図に外国の方が載っているのは、私は当初、無学ですので、少し反対したこともあるのですが、外国の皆さんにも少し使っていただく、これがわりと大事なことではないかと思います。世界の皆さんは、ESとか、ペタフロップスコンピュータに対して希望を持っておりますので、使っていただく。とにかく、外国の皆さんにも少し使っていただく度量も必要であろうと思います。
 温暖化分野では、共生、革新、地球シミュレータを使っていろいろ成果を出すことができました。20世紀の温度の上がり方は人間活動のせいであると、IPCCの重要な結論として書いてありますが、それに貢献するシミュレーションをしたり、あるいはカトリーナのような強い台風が増えることの根拠を与えたり、いろいろいたしました。
 そのシミュレーションをもとにして、これは国土交通省の政策立案の一例ですが、我々、日本が将来、温暖化しますと、温度が上がるのは当たり前ですが、洪水だとか集中豪雨が増える、あるいは強くなるというメッセージを出したのですが、それを信用していただいてといいますか、我々だけではなくて、ほかのグループも同じようなことを言いましたので、治水対策を根本から変える。この図は、すべての川を100%完全に守ることは、予算の上からも、気候変化の上からも不可能であるので、川は時々切れて洪水が起こります、ただし、そのときに人命は絶対に失わないようにしますと行政方針を転換したいのですけれども、国民の皆さん、よろしいですかという報告書が出たりしております。
 気候モデルの課題です。まず、不確実性、エラーバーがあるということです。その大きな理由の一つは、雲でございます。グラフ説明は割愛しますが、台風も含めて雲は難しい。2番目は、計算機の制約でなかなか細かくできない。これがノーベル賞の第4次報告書ですが、我々のモデルは世界最高解像度気候モデルと言われたのですが、日本付近でこの程度の解像度です。次はこの程度にしようと思っておりますが、ほんとうはこの程度で計算しないと日本の気候について確かなことは言えない。
 地球温暖化の長期予測は、大気と海洋をくっつけて計算しないと100年先の計算はできませんので解像度の向上は漸進的ですが、災害だけ、あるいは台風だけとってみれば、大気だけ取り出して細かくすることもできて、気象庁はそれで台風が強くなるかもしれないという結果を出しました。しかし、IPCCを読んでいただけばおわかりになりますが、台風については20キロで画期的な成果は出たけれども、本来、台風というのはこんな粗い解像度で計算するべきものではない。したがって、数は少ないと言っているけれども、結論するにはまだ早い。台風や極端現象などの変化については、話ができるようになったステージに入ったという意味では長足の進歩であったけれども、それをすぐに信用して政策立案に使うにはまだ早いのではないかという認識でございます。
 不確実性が生じますのは、グリッドが細かくないのは計算機が小さいからだというのはおわかりだと思いますが、グリッドの中にも気象現象がいろいろあるわけです。気象現象はたくさんあるわけですが、こいつを無視しますと計算がうまくいきませんので、パラメタライズというやり方で表現しておるのですが、ここに経験が入ってしまいますので、世界中一生懸命行っても、イギリスのモデルと我々のモデルは結果が少しずつ違ってくるわけです。
 先ほど、キーワードは雲解像と言いましたが、すべてを解決するわけではないけれども、そこが原因なのだったら計算してしまえばいいではないかということで、地球シミュレータではその計算をするプロトタイプのモデルをこしらえたのですが、100年先の気候を予測するには使えませんので、今、できる範囲の成果を上げて、ペタコンに備えている状態です。これが雲解像モデルです。
 今、100年は計算できません、10年ですら計算できませんので、何を話しているかというと天気予報のように計算をする。2週間先の台風は、今、気象庁でも予報はできません。これは一例ですからクエスチョンマークがついていますが、ひょっとしたら、場合によっては2週間先に台風ができるという予測ができるのではなかろうか。今まではそんなことは無理だと思っていたけれども、そういうことができるのではなかろうかという研究が進みつつある。
 海洋のほうでは、雲はありませんので渦解像といいますが、こういうたくさんの渦があるわけですが、それを含めたシミュレーションの準備ができている。
 これは、先ほど時岡センター長が紹介したものと同じモデリングサミットです。世界中の気候モデルの研究者が150人集まりまして、時岡センター長や私も含め、日本からは五、六人が招待されて行きました。集まって何を話し合ったかといいますと、日本みたいに地球シミュレータとかペタコンとかがあると雲解像モデルが実現できて、そうすると、ごちゃごちゃ考えて用途別にモデルを調整しなくても、シームレス・プリディクションといいますが、地球温暖化でも、天気予報でもできるような気がする、そんな将来をみんなで話し合って、決議をして、お金持ちの方にいい計算機を買ってもらえないものだろうかという会議でございます。
 会議の首謀者が二、三人おりますが、彼らは何をしているかといいますと、政府やWMOからはとてもそんな金は出ませんので、ある方面の国にお願いに行こうとしているといううわさを聞いております。日本は、そんなことしなくても、5年たったら彼らが夢に見た状態になるわけですので、この機会を逃すことはない。
 時岡センター長がご説明されたことと重なりますけれども、どんなモデルを、どう行って使っているのか、ちょっとわかりにくいところもあるかもしれませんが、プログラム的には一つです。用途に応じて一部を使っている、解像度も用途に応じて落としたり、上げたりして使っていると考えていただくとよろしいかと思います。雲解像はちょっと違いますが、時岡センター長の地球温暖モデルと季節予報をするモデルは、根本的には同じプログラムだけれども、用途に応じて外したり、粗くしたりして使っている。したがいまして、一枚岩だと言いましたけれども、ほぼ同じ人がかかわっていると考えていただけばわかりやすいかと思います。
 これは、さっき言いましたシームレス・プリディクションです。天気予報と季節予報、それから近未来30年の予測と、100年の予測と、300年の予測と、今までそのたびにモデルの仕様を変えて、バージョンを変えて計算しているけれども、それで雲がわからんとか、エアロゾルがわからんとか言っているけれども、計算機さえあれば、全部一つというわけにはいかないけれども、季節予報から30年予報ぐらいまでは同じモデルでできるのではなかろうか。それが雲解像モデルであれば、科学的には格段に進歩したことになるのではないかというのがモデリングサミットの夢です。あまり夢を一生懸命語るものですから、『nature』の記事にしていただきました。
 それから、このスライドは皆さんの資料には載っていませんが、もし我々にも何がしかのリソースが来れば、まずは雲解像の温暖化実験、あるいは季節予報実験かもしれないけれども、とにかく雲解像シミュレーションを実現したい。ただ、雲解像といっても、3.5キロですと、ペタフロップスコンピュータですとおそらく10年ぐらいは走らせられると思うのですが、100年というのはちょっとしんどいかもしれません。どこら辺を落としどころにするかというのは、考えます。我々にとってはペタフロップスコンピュータも、延々と続いてきてこれからも続くコンピュータの進化の流れの一つです。かなりステップワイズな進化ですけれども、何もかも解決するというわけにはいきません。
 スケジューリングですが、我々の業界は、今、文部科学省の革新プロジェクトに全力を投入しております。次のIPCCの本番実験が今年から来年にかけて行われますので、それを論文化しないとやったことになりませんので、このあたりまでこちらに注力しておりますが、このあたりからは次期モデルの作成にも手がつけられるかなと。課題によって多少前後はいたしますが、プログラムを動かすのはこのあたりからできるかなと思っております。
 これで終わりです。

【土居主査】

 どうもありがとうございました。
 ほとんど時間がなくなってしまったのですが、せっかく先生方おそろいですので、ちょっと時間を延ばして質疑応答させていただきたいと思います。

【伊東委員】

 私、先週、ダボス会議に参加しまして、地球環境問題の会議が幾つかあって、出させていただいたのですけれども、地球がどうなるか、今、おっしゃられた純粋なプリディクションの問題はほとんど議論にはなっておりません。一番議論になっていたのは、ミティゲーション・アンド・アダプテーション、ミティゲーションというのはご存じのようにローカーボンをどうするかということですけれども、今年、一番大きな議論はやはりアダプテーション、つまりもう地球は温まるのだ、温暖化するのだと。その温暖化したときに、どういうクライシスというかリスクが出てくるのか。つまり、水問題や食糧問題、あるいは熱帯病の問題、害虫とかいろいろなものを含めて、どういうリスクが起きるのかをできるだけ予測をして、それに対するアダプテーション、対応策をとっていかないといけないだろう。多分、オバマさんが出している今度のグリーンスティミュラスというのも、アダプテーションを中心にやるということがすごい議論されているわけです。今、おっしゃられた単なる気象の予測から一歩踏み出て、リスクの予測というところまで議論が発展できないか、そういうことを質問したかったのです。

【土居主査】

 どうぞ。

【木本副センター長】

 政治家の方が出られる会議で、話題の中心がそうなるのは当然だと思います。ですが、役所の方が、実務家の方がアダプテーションの実際の立案をするときに数字が要りますが、その根拠になるのは気候のシミュレーションである、それに大きな不確実性がある。それから、影響評価ですが、文部科学省の革新プロジェクトでも、環境省の推進費というプロジェクトでも、イネの作柄がどれぐらいになるか、あるいは水産資源がどうなるか、洪水リスクポテンシャルがどうなるか、計算する研究が進んでおります。ただし、それにはペタフロップスコンピュータは要りません。通常研究と言うとあれだけれども、わざわざペタフロップスコンピュータで計算するほどの計算量では、スーパーコンピューティングではありませんので、あえてここでは言いませんでした。気候シミュレーションと影響評価を結びつけた研究は、もう既に進展しております。

【土居主査】

 G8サミットに向けて、G8科学アカデミーが4年前から声明を2つずつ出して、サミットの本会議で取り上げられているわけですが、昨年の洞爺湖のとき、G8科学アカデミー会合で取り上げたうちの一つが実は気候変動でして、そしてアダプテーションなのです。日本学術会議担当副会長で取りまとめを仰せつかっていたのですが、基本的にはIPCCのデータを飲んで、認めた上でということですから、今、先生がおっしゃったとおりのことを我々としても踏んで、動いているつもりではありますので、ぜひまた先を進めていただくようなことで、学術術会議の対外報告も、入倉先生、中島先生あたりできっちりまとめてくださってもおりますので、期待はしております。
 ほかにはいかがでしょう。平尾先生。

【平尾委員】

 アダプテーションに関しては、地球環境データは国家機関プロジェクトで、エイトリアとか、ああいうところでも農業の問題についていろいろな検討がされています。その根拠になるのが、木本先生がやられたデータが参考になっていると思います。
 私、ちょっと別の観点でお聞きしたいのですが、きょう、先生の話の中で、非常におもしろかったのですけれども、グリッドを細かくすると確かに計算時間もかかる。それはそのとおりだと思うのですが、片方で大気と海洋がございます。これは、変化の時間スキルが全く違います。大気だけ扱うのであれば、非常に短時間でやれると思うのですが、海洋の影響というのは非常に大きいだろうと思うのです。海洋の動き、それと大気の動きを、統合気候モデルというのですか、一緒にしてやらないとなかなかいいモデルにならないというときには、何か工夫をしているのでしょうか。グリッドだけではなくて、時間スケールです。

【時岡センター長】

 気候を予測するためには、大気と海がお互いに影響を及ぼし合っているということをちゃんと入れることが一番大事なことで、そういうものをきちんと取り入れる。積分する時間は大気と海洋と違う間隔をとっておりますが、同じ時間のところで、ちゃんと相互作用をさせるというやり方で計算しております。ですから、現実に起きていることと同様な大気と海の相互作用を計算しております。

【木本副センター長】

 補足です。アシンクロナスカップリングがありますよね。まことに幸いなことに、温暖化の時間スケールでは、アシンクロナスカップリングを下手に行って失敗するよりは、一緒にやったほうがよいということになっています。それで、そのことに気を使わなくていい。ですが、古気候だとか、ああいうところに行きますと、氷床、氷河のタイムスケールと大気・海洋のタイムスケールは全然違うので、アシンクロナスカップリングを使う分野もございます。

【平尾委員】

 わかりました。

【土居主査】

 ほかにはいかがでしょう。どうぞ、宇川先生。

【宇川委員】

 ワールドモデリングサミットの話ですが、世界的な状況についてお伺いしたいのですけれども、お話ですと、特にアメリカ、ヨーロッパを中心として、100人以上の研究者が集まって、計算試験の必要性を訴えたと理解したのですけれども、そのときに地球シミュレータの話が出たと。もちろん、地球シミュレータ自身は、できた当時、それから何年間か非常に高いリソースの計算機であって、それで気候のモデリング、大気・海洋モデルのモデリング等がすごく進んだのは事実だと思うのです。しかし、残念ながら、それは既に何年も前の話で、今や計算、特にハイパフォーマンスの計算試験に関して、日本は決して進んでいるわけではない、むしろアメリカのほうがはるか先を行っている。
 今の話をそのまま受け取りますと、にもかかわらずアメリカでは気象、あるいは海洋シミュレーションに関して計算リソースを投入していないと聞こえてしまうのですが、ほんとうにそうなのですか。そこのところをお伺いしたい。アメリカは、NCARにしろ何にしろ研究センターもございますし、研究者人口もあるわけです。ほんとうの状況は一体どうなっているのか、そのあたりをお伺いしたいと思うのですが。

【土居主査】

 いかがでしょう。

【時岡センター長】

 私も、詳しいデータを全部把握しているわけではございませんが、1つは、コンピュータの性能をどうはかるかということ自体、考えてみる必要があるのではないかと思います。我々の扱うようなモデルにはベクタマシンが適しています。地球シミュレータはベクタマシンですので、そのようなモデルを物差に使えば計算機の順位付けも異なってきます。ベクタ計算をやっているものにとっては地球シミュレータはまだまだ非常にすばらしい計算機ではないかという印象を持っております。

【宇川委員】

 むしろ政策的なことをお伺いしたかったのです。アメリカも、当然、地球規模の気象予測等が重要であることはわかっていると思います。例えば、これはほんとうかどうか知りませんけれども、ブッシュ政権の間はそういうことに対してリソースの投入が比較的おくれていて、それを反映したのがこういう会合になっているのか、そのあたりのことです。

【木本副センター長】

 NCAR、GFDLというのはアメリカの代表的な2研究所ですが、あそこの持っているのは、最近、地球シミュレータの2倍かそこらの計算機にアップグレードされて……。

【宇川委員】

 もちろんそれも存じているのですが、アメリカは計算リソースという観点からいいますと、NCARだけではなくて、さまざまな国の研究所、それから計算センターがあるわけです。全体を見ますと、計算リソースは日本のはるか上を行っているわけです。にもかかわらず、気候・気象分野の計算機は使えていない状況だということですか。

【木本副センター長】

 使えておりません。ただ、アメリカのいいところは、気候のグループにNCARなり、GFDLなり恒常的に、例えば日本が気象庁にいい計算機を買っているのと同じように、ですから今の時点では、地球シミュレータはいい計算機ですので、ほぼ互角か、半分ですからちょっと負けているかもしれないけれども、努力で次の報告書のときはカバーしますが、地球シミュレータは電気代がなくなるとおしまいですので、その場合は我々も撤退するという形になります。そういう意味では、恒常的なサポートとしては、向こうのほうが恵まれておると思います。
 先ほどのモデリングサミットは、あくまで現状の計算機ではとてもではないけれども雲解像は計算できないから、10年先を見込んでお願いしようではないか。なぜお願いするかというと、アメリカだけ、あるいはイギリスだけでは実現しないであろうというロジックで行われた会議です。

【宇川委員】

 当然、アメリカも10ペタスケールのマシンの開発は進めているわけで、その中のアプリケーションのターゲットの一つが、気候・気象シミュレーションであることは明らかなのではないかと思うので、私自身、今のお話がどういうことなのか、いろいろな状況があるのかと思いますが、一応、お伺いました。

【土居主査】

 活動についてちょっとお伺いしたいのですが、先ほどのサミットですが、IGPP、ご存じのとおり、もう十六、七年、文部科学省が、当時は文部省ですが、1,000万近くずっと投入しているわけです。WCRPも、日本学術会議と気象庁が会費を払っているのですが、どうも不活性化している状況になっているのですが、日本の中での活動はどういうことになっているのでしょうか。要するに、WCRPはICSUとWMOとUNESCOとジョイントして行っていて、IPCCの学術的背景になっているような、そういう国際協力事業だと言われていると理解しているのですが、日本国として、先生方の分野の活動状況としてはどういうことになっているのでしょう。

【時岡センター長】

 WCRPで申しますと、1980年に発足して29年目を迎えるプロジェクトであります。途中、1980年代後半でしたか、熱帯の大気と海洋の相互作用の研究が始まったわけですが、それはWCRPの国際プロジェクトとして非常に推進され、我が国も非常に大きな投資をして、成功いたしました。その後、日本では、WCRPのやるべき研究が地球温暖化研究というプロジェクトの中で引き続いて行われている。ですから、人・自然・地球共生プロジェクトも、中身を見ますとすべてWCRPに非常に貢献する研究です。現在の革新プロジェクトもそうです。それ以外に、現在、観測面でのプロジェクトも動いております。日本としては、WCRPに関係するモデル研究、あるいは観測研究に投資が随分なされていると思っております。

【土居主査】

 ありがとうございます。
 時間が予定よりも10分過ぎておりますが、全体にわたりまして、前半の防災分野も含めまして、せっかくですので何かご質問等あればいただければと思いますが、いかがでしょう。よろしいでしょうか。
 それでは、きょう、5人の先生方、ほんとうにどうもありがとうございました。これを取りまとめていくに当たって、改めてまたご相談させていただかなければいけない面が多々あるかと思いますので、その節にはどうぞよろしくお願い申し上げます。
 次回は、エネルギー分野についてのヒアリングを予定しておりますので、よろしくお願い申し上げます。
 それでは、議題(2)その他がありますが、何かございますでしょうか。

【井上室長】

 ございません。

【土居主査】

 事務連絡事項等はどうでしょう。

【事務局】

 事務連絡です。次回の第6回戦略委員会は、2月25日水曜日、午後3時より5時までの開催を予定しております。よろしくお願いいたします。
 本日、机上に配付しておりますファイルにとじた資料は、次回以降も戦略委員会で使用しますので、お持ち帰りいただく場合には事務局にお知らせください。
 本日お配りした資料2ですけれども、第2回戦略委員会で宿題とされておりましたナノ分野における国際比較のペーパーがございました。これに関しましてコメント等がございましたら、事務局にメールでお知らせいただきたいと思います。
 今回の第5回戦略委員会議事録(案)につきましても、後日、メールで照会させていただきますので、よろしくお願いいたします。
 本日、もう既に2階の出入り口は閉まっておりますので、1階の通用口からご退出をお願いいたします。
 連絡は以上でございます。

【土居主査】

 ありがとうございます。
 今、事務局のほうからございましたように、議事録(案)につきましては、先生方のご発言を起こしたものが参ります。よろしくどうぞお願いいたします。
 それでは、本日の戦略委員会、これで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

— 了 —

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研究振興局情報課計算科学技術推進室

(研究振興局情報課計算科学技術推進室)