次世代スーパーコンピュータ戦略委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成20年1月9日(金)17時~18時50分

2.場所

文部科学省16F特別会議室

3.出席者

委員

土居主査、宇川委員、小林委員、寺倉委員、中村委員、平尾委員、矢川委員、米澤委員
(ヒアリング)岡崎名古屋大学大学院工学研究科教授、常行東京大学大学院理学系研究科教授、池庄司産業技術総合研究所計算科学研究部門教授

文部科学省

倉持大臣官房審議官(研究振興局担当)、舟橋情報課長、井上スーパーコンピュータ整備推進室長、飯澤学術基盤整備室長、中井課長補佐

4.議事録

【土居主査】

  定刻前ですけれども、皆さんおそろいになったようでございますので、只今から第2回次世代スーパーコンピュータ戦略委員会を始めさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 まず、事務局より本日の配付資料につきましてご確認をお願いいたします。

【事務局】

  それでは、お手元の議事次第と照らし合わせて資料のご確認をお願いいたします。
 まず最初の配付資料ですけれども、「戦略分野について」、最初に「ナノサイエンス戦略分野—その重要性、特徴と、望まれる姿—」という題で、後ほど岡崎先生からお話しいただくものです。2番目が「ナノ物性物理学分野」ということで、後ほど常行先生からお話しいただく資料でございます。3番目が「次世代スパコンへの提言」というもので、後ほど池庄司先生から発表いただく資料でございます。
 それに加えまして、参考1「次世代スパコンを中核とした研究教育拠点形成の具現化に向けた基本的考え方」、これは前回の資料の修正版でございます。
 さらに、参考2といたしまして「戦略分野の選定方針と戦略機関のあり方について」、これも前回の修正版でございます。
 また、前回の配付資料につきましては、机上のピンク色のファイルに綴じております。もし配付資料について欠落等がございましたら、事務局までお申しつけ願います。
 以上でございます。

【土居主査】

  どうもありがとうございました。
 よろしいでしょうか。また何か足りないところがありましたら、その場でお声をかけていただければと思いますので、先に進めさせていただきたいと思います。
 それでは、早速、議題1に入らせていただきたいと思いますが、「戦略分野について」でございます。本日は、ナノ分野につきましてグランドチャレンジの研究開発を行っておられます名古屋大学大学院工学研究科、岡崎先生、それから、東京大学大学院理学系研究科の常行先生、産業応用の観点から、産業技術総合研究所の池庄司先生に、戦略分野としてふさわしい課題につきましてお話をしていただくことになっております。
 まず、岡崎先生でございますが、皆様ご存じだとは思いますが、物理化学をご専門とされておられまして、東京工業大学・分子科学研究所で教育研究に従事され、現在は名古屋大学大学院工学研究科の教授でいらっしゃいます。また、常行先生は物性・計算物質科学をご専門とされておられまして、東京大学物性研究所助教授を経て、現在は東京大学大学院理学系研究科教授でいらっしゃいます。
 お話しいただきます流れといたしましては、まず、岡崎先生にグランドチャレンジ関係の全体説明をお願いいたしまして、その後、岡崎先生、常行先生それぞれにご発表いただき、そこで一たん区切らせていただきまして、質疑応答をさせていただきまして、その後、池庄司先生にお話しいただくという形をとらせていただきたいと思いますので、どうぞご了解いただければと思います。
 それでは、岡崎先生、恐れ入ります、よろしくお願いいたします。

【岡崎先生】

  今日は、ナノサイエンス戦略分野ということで、この分野がどういう特徴を持っていて、それがどのように重要であって、また、そういったことを推進するに当たって、どういう姿が望ましいのかといったようなことについてお話しさせていただきたいと思います。
 これは、総合科学技術会議科学技術基本計画の第3期の報告書にございます、ナノに関わるもろもろのキーワードを集めてきたものですけれども、ここにございますようないろんなナノというのがあるわけですけれども、このナノサイエンスのグランドチャレンジ研究におきましては、加工技術とか大量生産技術といったようなものとは少し距離を置きまして、ナノスケールの領域で初めて発現する特有の現象、特性を追究しようという立場でプロジェクトを進めさせていただいております。これが大体黄色で囲ったあたりで、かなりの部分を占めています。
 このナノサイエンスといいますのは基盤技術でございまして、その特徴として、他分野、エネルギーであるとか、環境であるとか、もろもろの他分野の基盤技術を形成している、特に物質的な基盤を形成する分野であるということが言えると思います。
 ここにまたいろんな物質が示してありますけれども、こういったものは原子とか分子の集まり、あるいは分子そのものといったようなもので構成されているわけでして、ナノスケールで初めて発現する特性というのは、当然のことながら、電子や原子、分子から出発して物事を考えていかなければいけないということがございます。
 したがいまして、これらを記述するためには、ここにございますようなシュレーディンガー方程式、ニュートンの運動方程式といった基礎方程式から出発しなければならないということがございます。つまり、よく言われておりますマクロからのアプローチ、流体力学であるとか、熱力学であるとか、そういったアプローチではなく、このミクロからのアプローチというものが絶対的に必要になってくるということになります。
 では、こういった系はどういう系かといいますと、基本的には多体系であって複雑な系の物理化学ということでござまして、これはもう代数解というのもあり得ない。したがいまして、この複雑性を保持したまま数値解を求める。したがいまして、当然のことながら、シミュレーションというのが重要な位置を占めてくるということになります。
 2番目の特徴といたしましては、これが巨大であるということです。ナノですから非常に小さいわけですけれども、原子、分子の集まりという立場から見ると、これは非常に巨大である。基礎方程式から出発した記述としては非常に巨大な系であるということが次の特徴です。これは、主なシュレーディンガー方程式とかニュートンの運動方程式から出発しまして、分野論といたしましては、量子化学、固体電子論、分子動力学法といったようなものがこの分野にあるわけですけれども、縦軸が空間スケールで、横軸が何となく方法論をあらわしておりますが、これがナノスケールへ到達するためには、どんどん大きな系へと近づいていかなければいけない。当然、巨大な計算が必要になってくるということになります。これは必然的になるわけでして、そこで高性能スーパーコンピュータの利用というものが不可欠になってくるということになります。
 しかしながら、高性能スーパーコンピュータを利用するといっても、物質の振る舞いを示す新しい方法論を確立して、それを超並列に耐え得る新規アルゴリズムを確立し、その上で高並列化、高速化をやらなければならないことがたくさんあるということでございます。
 今は空間スケールの話をしたわけですけれども、空間スケールと同時に系が大きくなってきますと、時間スケールというのも拡大してきます。小さな系でしたらピコセカンド、ナノセカンドでいいわけですけれども、大きな系の時定数というのは非常に大きな、長いといっても、マイクロセカンド、ミリセカンドといったあたりですけれども、そういった時定数の長い動力学を目指して演算を高速化する必要がある。これも次世代スパコンがなくてはならないという一つの要素になっております。
 3番目の特徴といたしましては、ここの図に出ていますとおり、仏教曼陀羅のごとく物質系は非常に多様である。物質が多様であり、振る舞いの多様であるということに尽きます。なおかつ、その物質系が複雑多体系であり、基礎方程式から出発しますと必ず近似的な取り扱いが必要であるということでございまして、物質系に応じて、あるいは振る舞いに応じて多様な方法論が必要となってきます。これは、今のグランドチャレンジで開発している方法論を少し羅列したものですが、全く多様なものとなっているということが言えると思います。
 こういった分野に関しまして、国といたしましてもいろんな方向からアプローチしていらっしゃるわけですけれども、その中の1つが次世代スパコンですが、これ以外にもCREST、それから科研費の特定領域研究といったようなもの、それから、このほかにもまだいろいろあると思いますが、大きなものをまとめるとざっとこのくらい、いろんな方向から既にアプローチがなされて、努力がなされてきているということでございます。
 きょうは、この中で1番上の次世代スパコンの部分の立場を中心としてといいますか、そういった方向から少し眺めさせていただきたいと思います。
 次世代スパコンのプロジェクトですが、これは出口論で分類分けをしておりますが、次世代ナノ情報機能・材料、次世代ナノ生体物質、次世代エネルギーということで、基盤技術ではありますが、それぞれの出口でもって分類したような形でこのような課題を掲げて研究を進めております。もちろん、グランドチャレンジ研究、サイエンスの研究と同時に、ソフトの開発、それから実験研究家、産業研究家との連携も含めていろいろと活動をさせていただいております。
 先ほど多様性ということを申し上げたわけですけれども、漫然とばらばらにいろんなことを八方破れにやっているというわけではございませんで、こういった物質系というものをつらつら眺めまして分析いたしまして、どういったファクターが重要であるかということを考えまして、方法論としての課題設定というのをあらかじめ行っております。それがここの赤で書いているような部分でございますが、例えば情報機能・材料では、電子伝導、磁気特性、光応答相転移といったキーワードを持ちまして、あるいは分子系ですと、自己組織化、分子認識、自由エネルギー、こういったものがナノの世界で非常に重要となってくるということで課題設定をさせていただいております。
 これに基づきまして、目的ということを設定させていただきまして、それぞれのグループでこういった方法論を開発しよう。方法論というのは、方法論そのものに加えて、ソフトという意味でも言葉を用いておりますが、具体的な目的設定をいたしまして、それを実現するために活動してきております。
 こういった方法論を確立するためには多様性ということがございまして、ソフト的には非常にいろいろなものを用意しなければならないということになります。ただし、共通基盤的なソフトというのが必ず必要となってまいりまして、この部分がペタフロップスの実効性能で動くべき代位計算を行うもので、これは中核アプリケーションというように名づけております。こういったものの上にいろんな付加を機能するソフトというものを開発いたしまして、全体としてグランドチャレンジ課題に対していくという構造となっております。
 ペタフロップスへ向けて中核アプリケーションを開発しているわけですけれども、ここにあります6本、実空間の第一原理計算、動的密度行列繰り込み群法、量子モンテカルロ、分子動力学計算、RISM——これは分布関数理論です。それから、量子化学計算といった6つの基盤的なソフトを指定いたしまして、これに対してペタフロップス級の実効性能を到達すべく、平成20年度はこういう課題を挙げておりますが、現在も開発を進めさせていただいております。
 現在のところ、この6本のうち、かなりの部分が理論ピーク性能の10%を超える実効性能を実現できる見通しということになっておりまして、それを実現すべく、高並列化あるいはチューニングといった作業を進めさせていただいております。
 このようにソフトがだんだん中核アプリ、あるいは付加機能ソフトがそろってまいりまして、次世代スパコンはまだないわけですけれども、既存の計算機を使いまして、これらのソフトの有効性を実証していく時期になってきている。これらの計算科学的な手法が実用に耐え得るものであるということを示していくために、実験研究者、企業研究者との共同研究を始めようということで、現在、課題設定のための連続研究会というものを開催しつつあります。これは、今年の秋ぐらいから活動に入ったわけですけれども、既に全部で12回のいろんな課題について実験研究者と共同で研究会を開いて、こういったことをこれから共同研究していきましょうというような相談をしているところです。これにつきましては、今年度、二、三課題を選考実施いたしまして、来年度からは本格的に展開するということになっておりまして、準備状況といたしまして、既存の計算機ではありますが、すぐにでも手をつけるべき緊急な課題については、どんどん実績を示していこうという方向で準備を進めています。これが普及というようなキーワードで、あるいは当たられる部分の対応の活動の一つであります。
 ここまでがナノサイエンスのグランドチャレンジ研究の共通部分ですが、ここから分子ナノサイエンス戦略分野という名前で、少し分子というものを中心とするナノサイエンスについてお話をさせていただきたいと思います。
 ご承知のように、ナノというのは非常に広い分野でして、とても一つのくくりでおさまるようなものではなくて、私どもは、これをまずは分子の立場から考えていこうと。常行先生のほうは、これを物性という立場から考えていこうということで、きょうお話しさせていただくわけです。
 その中で、まず、分子科学というのが一つの基盤となるわけですが、私どもの理論計算の分子科学コミュニティというものですが、これはもう30年を超える活動の歴史がございまして、現時点でも実数として1,000名規模の研究者のコミュニティです。分子研のセンターが150グループ、650名というユーザーを擁していると。それから、日本化学会、理論化学研究会、分子シミュレーション研究会等々と計算にかかわる活動がかなりアクティブにやられてきております。
 こういったものがベースとなりまして、先ほども申し上げましたような国家プロジェクト等に携わらせていただいているわけですけれども、これらの活動の中では、ナノと申しましても、基本的には分子がつくるナノの世界を追究しようということでございまして、ナノスケールの分子系に特有な化学的、物理的性質の発現、新たな機能の創出ということで、こういう分野がぜひとも必要ではないかというように考えているわけです。
 特徴といたしましては、分子、分子集合体、そして、これらがつくる界面・表面が大きな対象となってくるであろうというように考えられまして、例えば分子では、化学結合という非常に大きな特徴を持った分子特有の現象がございまして、これに基づきまして多様な電子状態あるいは分子構造というのを人間が操っていくことができるようになるということでございます。
 もう一つは分子集合体ですが、これは固体とは少し違いまして、構造形成あるいは自己組織化といった現象を利用して、柔らかくて多様な構造を溶媒の中でつくっていくというようなことになろうかと思います。
 もう一つは、界面・表面でございますが、これは特殊な環境をつくって、そこでいろんな機能が出てくるわけですけれども、これも多様であるということで、単に気体と固体の表面だけではなくて、液液界面、気液界面等々がございまして、さらには固体、液体、気体の三相界面といったものもございまして、非常に多様な界面におきましてバルクにない特性の発現というものを目指すことができるという特徴を持っております。
 こういったものを量子化学、分子シミュレーション、化学統計力学、反応動力学といった学術的な基盤に基づきまして、この計算科学といたしまして一つの戦略分野というものを形成していくことが必要ではないかというように思っているわけであります。
 この分子ナノサイエンス戦略分野におきまして担うべき研究開発、考えられる研究開発といたしまして、左がどちらかというと応用的なもので、右側が基盤研究ということでございますが、グランドチャレンジ研究といたしまして、この2つはもうプロジェクトで出発しているものですけれども、次世代エネルギー、次世代ナノ生体物質・ソフトナノマテリアル、次世代ナノ機能性材料、次世代ナノ物質変換ということでございますが、次世代エネルギーはバイオマス、光触媒、太陽電池、燃料電池等々、それから次世代ナノ生体物質は、DDSナノキャリア、ウイルス、タンパク質制御、界面活性剤、高分子膜といったようなもの。ナノ機能性材料におきましては、分子エレクトロニクスと申しますか、光機能分子、スイッチング分子、強誘電体、スピン——これは分子スピンですけれども、そういったもの。それから、ナノ物質変換では、ナノ領域でのいろんな化学反応というものをコントロールしていこうということで、反応設計、反応制御といったことになっております。特に触媒というのがキーワードになろうかと思います。特に触媒というのは、ナノで初めて発現するいろんな機能がございまして、非常におもしろい機能であります。学術基盤といたしましては、先ほど申し上げました4つの方法論をどんどん展開していかなければいけないと考えております。
 あと少し具体的な例を挙げさせていただきたいと思いますけれども、次世代エネルギーにおきましては、これは酵素反応でございますが、酵素を用いまして、セルロースからエタノールを、まずは糖を作りまして、そこからエタノールになると。セルロースから糖を作るという部分を酵素を使って行うということで、バイオマスの一つの例として、これは出口がエネルギーということで、そういう分類になっております。これの丸ごとシミュレーションというのが次世代スパコンだと可能になるということです。現時点では、まだほんのちょっとしかできないわけですけれども、丸ごとシミュレーションが1日から10日ぐらいでダイナミックスとして反応を議論することができるという見積もりになっています。
 これはかなり遠い将来の話なわけですが、ここに挙げましたのは、もうすぐにでも取りかからなければならない今日的課題でございまして、太陽光エネルギーの変換という意味で、光触媒、水素貯蔵、燃料電池、太陽電池、2次電池といったものの触媒活性がどういう具合に実現されていくか、あるいは高分子電解質膜(ナノパワー)がありまして、そこでプロトンがどんどん移動していくわけですけれども、そういった機構を解明して、どういう高分子電解質膜を開発していけばいいかといったことにつながっていくことになります。
 さらに、ナノ生体物質では、これは水の中に浮いている小児麻痺ウイルスの電子顕微鏡写真ですけれども、その中の1匹がこんなふうに、これの全原子シミュレーションが1マイクロセカンドぐらい可能になります。1マイクロセカンドというと短いですが、自由エネルギー計算という意味では100点から1,000点ぐらいに相当いたしまして、かなり構造安定性であるとか、抗体との特異的な相互作用といったものを解析することができるということになります。
 今のこのウイルスもかなり将来的な話ではあるわけですが、また今日的課題といたしまして、ドラッグデリバリーのナノキャリア材料ということで、リポソーム、高分子ミセルといったものの全原子シミュレーションがぼちぼち現有機を用いて可能となってきております。これは実際に計算したスナップショットです。
 それから、それとは別に細胞膜を薬剤が透過する、あるいは吸収する自由エネルギープロフィールといったようなものも、現在だとかなり大変なわけです。大体1個か2個計算すると論文にするという状況ですが、それでは全然実用になりませんで、次世代スパコンが出ますと1日で大体1,000種類ぐらいのスクリーニングができるということになりまして、圧倒的に実用に近づいてくると思います。
 これもタンパク質と物質との相互作用、あるいはタンパク質機能と物質とのかかわりといったようなものを高精度で計算しようということでございます。これはバカでかい系を計算するというよりは、高精度で正しく予測する技術ということになってこようと思います。応用といたしましては、創薬といったことも考えられるわけです。
 3番目のテーマで、次世代ナノ機能性材料ですけれども、こういった分子系を並べることによりまして、強誘電体をつくることができる。それから、フラーレンの中に物質を入れたものを、さらにこういったものの中にとじ込めることでスピン配向を制御する、磁性体をつくることができるということで、現在は丸ごと計算というのは全く不可能なわけですけれども、次世代スパコンができますと、これ全体の量子化学計算が可能となりまして、機能分子の開発というものが実験に先立って予測することが可能になります。これは分子配向のスイッチといったようなものです。
 さらに、機能性材料といたしましては、有機エレクトロルミネッセンス、バイオセンサーの蛍光発光も進んでまいります。
 さらに、ナノ機能性材料は遠い将来の話ですけれども、あるいは新しい課題の展開ということになろうかと思いますが、分子そのものを使ってコンピューティングを行うという分子コンピュータが、今、基礎概念というのがぼちぼち進んできているわけですが、それを実際にどういう具合にやればいいんだろうかということは、アルゼブライックな計算というよりは、計算科学でないとできないわけですけれども、この中に一酸化炭素とかアセチレン、Li2といったものがありまして、それらの電子状態、振動状態、回転状態、その量子状態をビットとして利用するということですが、それらをまず空間に固定するということが1つあるわけです。
 さらに固定した上で、ゲートというのを作らないといけませんで、そのゲートというのは光を当てて作ってあるということになるわけですが、では、どういう光を当てれば良いのかというような計算を行っていくわけです。さらに、これを幾つか組み合わせて論理ゲートを作っていくというようなところまでぼちぼち行きかかっているようですが、残念ながら、まだまだ真空中での計算であったり、分子が2個とか3個ぐらいしかないわけですけれども、次世代スパコンが導入されますと、こういうフラーレンあるいはヘリウムの液滴、あるいは光学格子に補足された数十分子について、こういった量子演算シミュレーションというものを行うことができるということです。これは、夢のある遠い将来の基礎研究ということになろうかと思います。
 それから、次世代ナノ物質変換ですと、例えば、今話題になっております元素戦略で、貴金属触媒から非金属、あるいは分子触媒といった新しい触媒を開発することが非常に重要になってきているわけですけれども、こういうナノスケールの錯体を用いまして、貴金属に匹敵するような触媒活性というものを設計していくことが、これも量子化学計算と分子動力学計算等の併用でこれから可能になってくるであろうというわけです。これも反応ですけれども、こういったものを実現するためには、これはこの委員会のほうで既にご議論されているとおりですけれども、分子ナノサイエンスにおきましても分子ナノサイエンス戦略機関というものがあって、神戸ユニットというものを置いて、神戸と連携しながら、こういった分子ナノサイエンスの研究活動、戦略機関としての活動を進めていく必要があろうと思っております。
 なおかつ、その体制といたしましては、基本的な研究、ここの部分は戦略分野に特化されたものですが、あとはかなり共通基盤的な話で、神戸センターあるいは登録機関等と協力しながらやっていくことを考えさせていただいております。
 以上です。

【土居主査】

  どうもありがとうございました。
 それでは、引き続きまして、常行先生、よろしくどうぞお願いいたします。

【常行先生】

  東京大学の常行と申します。こういう機会を与えていただきまして、ありがとうございます。私、ナノ物性物理学分野ということでお話をさせていただきます。私の、ポジションとしましては、今の岡崎先生がお話しになったナノ統合拠点と呼ばれている中に属しておりますが、少し分子科学とは違うディシプリンのもとに研究を進めている物性側の研究者です。ということで、物性物理学の色合いの強いお話をさせていただきます。
 まず、釈迦に説法かもしれませんけれども、物性物理学の研究対象というのを1枚だけお見せしますが、我々が扱っているのは分子科学とこれは共通で、100種類ぐらいの原子と電子、そういうものから無限とも言うほどのたくさんの物質ができている、そういう凝集体の性質を調べています。分子科学と特に差異を強調するとしたら、何かしらの秩序が非常に大事であるということ、それから、極めてたくさんの粒子が集まったときに初めてあらわれる特徴とか性質とかが本質的であるということです。これは、フィリップ・アンダーソンというノーベル物理学賞を受賞した非常に有名なアメリカの科学者がおりますが、彼の言葉で言いますと「More is different」という有名な言葉がございまして、数が多いと何かが変わると。つまり、少数のものでは大しておもしろくないのに、たくさん集まることで本質的におもしろいことが起きる。物性物理学というのは、こういうものを頭のどこかに置きながら研究を進めております。
 そういう立場で見ますと、ナノスケールの次世代デバイス、ここでいきなりテクノロジー寄りのお話になりますけれども、次世代デバイスを少し念頭に置きながら、物性物理学の立場で私たちは何が研究できるか、そういうことを考えてみますと、非常に基本的な物理概念の幾つかが、このナノデバイスには重要であるということがわかります。
 1つは、電子波の可干渉性、量子力学的効果をまじめに考えますと、非常に敏感であったり、あるいは非散逸性というのは、要するに熱的な損失がないものですとか、あるいは、先ほど岡崎先生からもお話がありました量子情報処理とかに応用できるようなデバイスがあり得るかもしれない。
 それから、相転移と対称性の破れというのは、南部陽一郎先生が今年度のノーベル物理学賞をとられまして一躍有名になりましたけれども、対称性が破れるということは、物理の中では非常に重要な基本的な概念でございますが、それをうまく使いますと、ものすごく巨大応答をするような系をつくれるかもしれない。
 それから、この3番目、スピンとか軌道といった量子力学的な内部自由度は、この10数年ぐらいの間に劇的に進歩した物性物理学の1分野でございます。そういうものを使いますと、全くこれまでにないような新しいタイプの量子デバイスができそうである。
 こういうふうに物理学的に重要な非常に基本的な概念というのが幾つかあって、そこから実際にテクノロジーの世界に役立つようなものができるかもしれないというのが私としてのスタンスです。
 そういう立場で3つほど、次世代スーパーコンピュータを使って推進すべきテーマというのを提案させていただきます。
 まず、「ナノ」から「サブミクロン」までのデバイス物性、新量子状態、エネルギー・環境物質科学。
 まず最初に、デバイス物性というところをご紹介させていただきます。
 これは、いわゆる半導体のロードマップと呼ばれるものでして、横軸に年代が書いてあって、縦軸にデバイスのサイズが書いてあります。上に行くほどデバイスサイズが小さくなっていまして、今、2009年で実際に市販されているゲート長は45ナノメータのものが出てきていますが、そろそろ32ナノメータぐらいが視野に入ってきています。そこからどんどんデバイス長が短くなっていきまして、デバイスサイズが小さくなると性能が上がる、高速になる、集積度が上がるということで、デバイスとしては優秀なものになっていきます。それが基本的な考え方ですが、大体これがどこまでいくかというと、おそらく2020年ころでストップするだろうというのが大方の見方で、ここまでの時代というのはCMOS Extensionと呼ばれていて、現在のデバイスの発想、考え方で何とかつないでいける時期だと。
 ところが、ここから先というのはほんとうに未開拓の領域で、みんないろんな基礎的な概念は考えていますが、実際にここで使えるデバイスができるのかというのはよくわかりません。これは大変重要なテーマになっています。この境目に来るゲート長の長さというのが大体10ナノメータぐらい。この10ナノメータぐらいというのは非常に特徴的な長さでありまして、これはデバイスのサイズで、実験家が、今、どんどんデバイスのサイズが小さくなっていまして、40ナノメータぐらいのところにいます。我々、物理の世界の電子状態計算というのは、小さい完全な周期系、ユニットセルのサイズのものから始まって、どんどん大きな系でシミュレーションできるようになっていまして、多分、普通にやっていますと100から1,000原子ぐらいのところ、非常に頑張ると1万原子に何とか手が届くという原子数の計算ができるようになっています。
 次の世代の次世代スーパーコンピュータができたときにどれぐらいのことができるかというと、大体10万原子、10ナノメータのスケールで、これは先ほどのCMOS Extensionのちょうど2020年ごろに到達するであろうスケールになります。ですから、このスケールは非常に大事です。
 そのときに、なぜこれが大事かというもう一つの理由は、ここは量子論的な計算科学の果たす役割が非常に大事であるということ。つまり、半導体というのは普通にマクロのサイズで考えますと、最初の部分はさておいて、基本的に古典力学で理解できる世界ですが、実はこのぐらいのスケールになりますと、量子力学的な干渉効果をまじめに考えないとデバイスとしての機能を全く予想できないという世界になります。そういう世界をこれから研究していかなければいけない。そのためには、計算科学の果たす役割というのは非常に大事であるということになります。
 実際、この32ナノメータープロセスの研究には業界で1,700億円ぐらい投入されていると言われていますが、その先、一体幾らお金がかかるのかわかりません。その意味では、この部分を計算科学を使って研究するというのは非常に大事なことになります。
 これは、こういう大計算を非常に精力的にやられている東大の押山グループからお借りしたスライドですけれども、実際、今どれぐらいのことができて、どれぐらいのことがこの後5年ぐらいでできそうかというのを書いていただきますと、今、例えば1万原子ぐらい何とかぎりぎりできていそうなものが、単発の計算ができるのが10万原子系、あるいは100原子でピコ秒ぐらいの計算ができるのが1万原子でナノ秒ができるようになる、それぐらいのものを目指して、今、研究が進められているわけです。
 こういうことができますと、例えば表面にカーボンナノチューブを置いた実際のデバイスに近い系、その全体のシミュレーションを一遍でやってしまって、そこから物性、デバイス特性みたいなものを予測してしまう。あるいは、ここにコンビナトーリアル探索というのを書きましたけれども、こういうのを乗せるというのは、もちろん全部制御して乗せられれば良いですけれども、実際には実験的に乗せるにはいろんな乗せ方がありますが、そういうものを全部探査して、いろんな初期条件に対して計算してしまうこともできるようになると思われます。
 そこまでいきますと、例えば電子状態、構造以外にナノスケールの電気伝導とか熱伝導というものがまじめに計算できてしまう、丸ごとで計算できてしまうというのが5年後に期待されることで、今ここにはカーボンナノチューブの非常に小さい系のモデル的な計算で最近出されたいい仕事の例がありますけれども、5年後には、もう少しこれが現実的なものに対してできるのではないかというのが私の予想です。
 次のテーマ、新量子状態。量子状態、量子効果で一番人口に膾炙していますのは、多分超伝導という現象で、超伝導の転移温度というのは、こういうふうにだんだん高くなっていまして、いわゆる高温超電導体が100数十度まで行っています。この高温超電導体の進歩はこの辺でとまっているのですけれども、最近ここ数年の間に日本で実験的ないい仕事があって、秋光先生のMgB2と呼ばれるもの、それから最近出された細野先生の鉄系の超電導体というのがありまして、これはまだ超伝導転移温度が上に上がっています。こういうものを私たちは実験家に、これは今まで実験家が全部見つけてきたものですけれども、理論的にこれを予測したり、あるいは例えばこの鉄系超伝導についていいますと、これは化合物ですので、この化合物の特定の元素をほかの元素に置換して入れかえたときに何が起きるかを理論的にシミュレーションするというのが我々に望まれていることで、例えば中国では、各元素を周期表の中でいろんなものに入れかえると数千種類ぐらい化合物がつくれるらしいですけれども、それを片端から実際につくって超伝導転移温度を調べるという実験的な研究が始まっています。日本では、とてもそんな人海戦術はできませんので、それを計算で本当はやっていかなければいけない。
 あるいは、超伝導でなくても、実は、この10数年の間に新しい物理検証というのもいろいろ見つかっていまして、しかも日本で非常にいい仕事がなされています。例えば、東大の十倉グループで、これは交差相関物性と呼ばれるもので、普通、例えば系に電場をかけたら電気分極が生じる、あるいは磁場をかけたら磁性が生じる、これは当たり前ですけれども、いわゆる強相関電子系と呼ばれるものでは、電場をかけると磁性が生じるとか、磁場をかけると逆に誘電分極が生じるとか、そういう今まで直接関係がなかった物性が結びつくという現象がたくさん見つかってきています。交差相関といいます。
 あるいは、これは理論家で、これも東大ですけれども永長先生たちが提唱されたスピンホール効果という模式図ですけれども、電場をかけることでスピン流と呼ばれる、いわゆるスピントロニクスに直接役立つ可能性のあるような現象が理論的に予測されて、実験的に確認されるということが起きています。こういうのは非常に典型的な新しい概念を変えるような物理現象で、私たちはこれを実際の物質に即して研究を進めていくべきだと考えています。
 もちろん、現時点で、例えば高温超電導の転移温度を予測するとか、スピンホール効果が出る物質を予測するとか、私、そこまではっきり言い切るほど度胸はありませんが、物性の分野で固体の高精度の第一原理電子状態計算というのは今どんどん進んでいまして、新しい方法論がいろいろ提案されていて、こういう新しい物理現象に対応し始めています。例えば、電子相関効果の非常に精密な取り扱いですとか、複雑な系で非常に高精度な物理量計算ができるようになってきたり、あるいは電子励起状態を非常に精度をよくする計算する方法が発明されたり、こういう方法は、過去数年ぐらいいろんなプロジェクトで開発されてきたものですけれども、これがおそらくこの5年ぐらい、新しいスーパーコンピュータができますと、実用化レベルに達するのではないかと思います。
 これは、そうはいいまして、第一原理で経験的パラメータを使わないような世界だけでやっていますとなかなかできないものもありまして、これは光応答の例ですけれども、ナノ統合拠点でもやっております強相関電子系を用いた巨大・超高速応答光学材料、光を当てて非常にはっきりしたスイッチのオン、オフを高速に行う、そういうデバイスに対するシミュレーションというのもかなり大規模な計算になりまして、こういうのもこれから進んでいくだろうと思います。
 それから、これはもうちょっと基礎的な話になりますけれども、量子多体問題の新しい展開。最近、ボーズ・アインシュタイン・コンデンセーション、コールドアトムと呼ばれますが、非常に低温のマイクロケルビン級の原子の集合体をレーザー冷却でつくることができるようになって、そこから非常におもしろい研究がどんどん進んできています。これは、応用のほうで言いますと、量子情報処理などにも将来つながる可能性があるというふうに考えられていますが、こういう現象は物理の新概念の宝庫でありまして、そういうことを研究する際に計算物理、計算化学的な手法というのは非常に大事になっております。
 今、コールドアトムの原子数よりも計算のほうがちょっと少ないレベルで進めておりますけれども、多分この5年ぐらい、次世代スパコンができますと、ほぼ実験と直接比較できるような計算機シミュレーションができるようになると思われます。
 最後は短くご説明しますが、エネルギーと環境物質科学。これは、後ほど池庄司先生のほうからもっと詳しいご説明があると思いますので、一言だけ申しますが、電極反応のような系、最近こういう新しいシミュレーションができるようになっていまして、これは従来の物理では扱えなかったし、従来の分子科学でもなかなか扱えなかった現象をシミュレーションしていく手法が開発されつつあります。
 一言だけ申し上げたいのは、こういう開発手法は、物性研究所のグループが作ったのですけれども、非常に基本的なところに立ち返って方法論開発を行わないと出てこなかった手法であるということだけ申し上げておきます。
 まとめでございますけれども、物性物理的な立場で言いますと、我々、凝縮系固体、あるいは凝縮系の非常に基本的な物理概念というものを軸にしまして、そこからデバイス物理ですとか、新しい量子状態、新規物質の探索、あるいはエネルギー・環境物質科学のようなものに、そういう3本の柱で進めていくのがいいかなと思っております。これは全部、物性物理学的な考え方でやっておりますけれども、実は、それは物性物理という世界だけに閉じているものではなくて、例えば材料科学、あるいは分子科学、生命科学、それから地球科学とか、場合によっては多体問題を扱っていますところでは、素粒子とか原子核とか宇宙とか、そういう方たちとも話のできる内容でありまして、いろいろな分野に波及効果があるだろうと思っております。
 戦略機関に関しては、今回申し上げることではないかもしれませんけれども、おそらく分野によらず、中心になるようなプロジェクトは幾つかあって、しかし、一方でコミュニティの中ではいろんなおもしろいテーマが動いていまして、その中から一般的なプロジェクトを吸い上げて、将来の大規模な戦略的なプロジェクトに育てていくようなことも、この戦略機関というものの役割としては考えられるかなというふうに考えておりますので、一応、絵をお見せします。
 それから、計算物性物理のコミュニティというのはどういうものか。先ほど、岡崎先生から分子科学のコミュニティの話がありましたけれども、資料は、物性研究所の持っていますスーパーコンピュータの登録者数だけ挙げておきますと、今年度、プロジェクト数178で、登録者462名です。これは、もちろん全員ではありませんので、実際の母体としてはもっと大きくて、やはり1,000人以上の規模の研究者がこのコミュニティには属していると考えております。
 これは最後のスライドで、物性物理学的な観点で今までお話ししましたけれども、もちろん分子科学と共通する部分はありまして、我々、ディシプリンが多少違うので、一まとめにはなかなかくくれませんけれども、個別の事例を見てみますと、分子科学と物性科学というのは非常に連携できる部分もあります。
 例えば、これは燃料電池の例ですけれども、高分子膜を扱う。物性の立場で物理の人たちは、こういうふうに組織化したモデルで非常に概念的なことを考えて、分子科学の人たちは原子レベルで、こんな大きな現象は扱えないけれども分子レベルで研究するということをやっていまして、ただ、こういう連携をしますと新しいものが見えてくる可能性がございます。あと、触媒反応ですとか、電極反応、こういう燃料電池に関連する部分で言いますと、分子ナノサイエンスとナノ物性物理学との連携もあり得るかと思います。
 以上でございます。

【土居主査】

  どうもありがとうございました。
 それでは、岡崎先生、常行先生のご発表を踏まえまして、ご自由にご質問、ご議論をいただければと思います。如何でしょうか。

【宇川委員】

  お二方のお話を伺っていて、非常に多様であるということはよくわかる。ただ一方で、今後5年間を考えたときに、もう少しフォーカスをして、どのあたりがブレークスルーすべきことなのか、それに対して現在の時点の困難は何であって、それをどうブレークスルーしていって、この5年間、新しいものが出てくるのか。岡崎先生の一、二枚目には、ナノで初めて発現する現象といったような言葉もありましたけれども、多少、言葉はわかるのですけれども、お話だけを伺っている限りでは実態はなかなかつかみ切れなかったので、そのあたりをもう少し敷衍していただけるといいと思うのですが、あれもこれもというふうな議論の仕方をしていますとなかなかつかみ切れないので、大事な例を1つとか2つとかでもいいと思うんですけれども、その観点からもう少し、ある意味、突っ込んだお話をしていただけるといいと思うんです。

【土居主査】

  今、可能ですか。

【岡崎先生】

  はい。

【土居主査】

  では、恐れ入ります。

【岡崎先生】

  多様な分野であるということをお示しするためにいろんな絵を出し過ぎたきらいがございまして、まずはお詫び申し上げます。
 多様であるというのは、ナノの特性の一つですけれども、その中でも、やはり幾つかの、今まさに先生がおっしゃられたとおりに課題をフォーカスいたしまして、こういった部分をブレークスルーしていこうというのは、少なくとも現在のプロジェクトの中でもやらせていただいておりまして、その中の一つの例といたしましては、ここにあります酵素反応ということでございます。
 酵素反応といいますものは、ここにありますように、よく言われていることですけれども、化学物質、アミノ酸がたくさんずらずら並んでいるだけで非常に大きな化学触媒として働くようになる。これでアミノ酸が並んでいるだけで触媒活性という機能が発現する。これは、このナノのスケールで、この大きさでこの配列でないと発現しないということになります。
 では、これがなぜ発現するのか、触媒活性を持つのかということは、京大の北浦先生の電子状態計算ですけれども、これが水の中にあって、一つの構造を持って、ある物質が特にこのあたりで特異な相互作用を……。

【宇川委員】

  申しわけないのですけれども、そういった話は当然あると思いますし、ただ一方で、これは長年にわたって研究されてきたことなので、それなりに今でもある程度のところまでは行っていると思うのです。今後5年間を見たときに、特にペタコン絡みで、どの困難を突破してブレークスルーになるのかというあたりを私としてはお伺いしたかったのです。

【岡崎先生】

  現在までは1点計算です。溶媒もありません。真空中、せいぜいが誘電体、酵素反応を例にとりますと、イプシロンというパラメーターを1つ置いて、ほぼ真空に近い形で1点計算をやっているだけです。それではこういった酵素反応というものはきちんと取り扱うことができませんで……。

【宇川委員】

  そうすると、この例に関しては計算規模の問題ということですか。

【岡崎先生】

  そうですね。それと、こういった大きな系に関しましては、電子状態計算を厳密に計算することはできませんで、ある程度の近似が必要です。その近似をどんどん上げていくという高精度計算を目指すという両方の側面があるだろうと思っています。これが一つの例です。
 ですから、基本的には大きな系を計算するというのがナノの系では絶対に必要です。さらに精度も上げていかなければいけない、この2つが分子系においても大きな要素になってくるのは確実だろうと思います。
 それから、新しいというような意味からしますと、ここにあります、これはまだちょっと夢の話ですけれども、こういった分子を使ったコンピューティングの原理を考えていくといった新規課題ということも設定できるだろうと思っています。これは、ナノのスケールにおける電子状態で、初めて量子状態で実現できる現象だと思います。

【宇川委員】

  ありがとうございます。
 常行さんにお伺いしたいのですけれども、例えば高温超電導の転移温度なんていうのは、だれもが計算できればいいと思うわけですけれども、それに関する見通しを少しお話いただけますか。つまり、私が期待しているのは、ペタコンがあればできますなんていう単純な答えではなくて、そのサイエンティフィックに常行さんがどういう見通しを持っておられるかです。

【常行先生】

  高温超電導の転移温度については、はっきり申し上げますと、私は多分5年では難しいだろうと思います。例えば今の技術の延長で考えますと、通常のフォノン系の超伝導の転移温度に関して、今、非常に単純な物質でしかできなかったものが、もうちょっと複雑であって多様な物質についてできるようになるだろうということはある程度予想できます。高温超伝導に関してはあまりにも難しいので、これは本質的な技術開発がまだまだ必要な世界であろうと思います。

【宇川委員】

  計算法自体がまだよく見えていないということですか。

【常行先生】

  いろいろな提案がございます。ただ、それが現実の高温超電導体の転移温度を計算するところのレベルまで行っておりませんので、計算規模の面から見ますと、一体どれがいいのか、まだ私にもよくわかりません。

【土居主査】

  よろしいですか。
 この次世代ペタコンと一言でおっしゃるわけですが、要するにご存じのとおりのベクターとスカラーの複合機になっておりますが、その特徴を生かしてというようなところというのは、今現在としてお考えになっていらっしゃるのですか。あるいは、とにかく計算量の問題でスカラーであれば、まさにパラレルでありさえすればいいんだということで済む話なのでしょうか。

【岡崎先生】

  例といたしまして、先ほどのセルロースの酵素分解の話をさせていただきますが、溶媒効果というものをリズムという積分方程式理論で計算いたします。これは、FFTのお化けみたいなものとして、高速通信も可能なベクトル機のほうが適しているという調査結果が出ております。
 一方で、それと同時に酵素側の電子状態計算を行わなければいけないわけですけれども、それは大きなスカラー機で計算するということで、その両方を駆使しながら同時に計算を進めていくというような形になろうと思います。

【土居主査】

  それは、ほんとうに同時に進む話なのですか。独立にやりさえすれば進む話でしょうか?

【岡崎先生】

  こちらが終わったら、こちらが始まるという形ですけれども、ちょうど裏側を使えばむだなく計算できるはずだというように思っております。

【土居主査】

  私は、片方だけでもブレークスルーができれば、それはそれでよろしいと思うのですが、できれば特徴がある次のペタコンを生かしていただくような方向もお考えいただければと思うのですが、他にはいかがでしょうか。

【小林委員】

  今のお二方で、大体国内におけるコミュニティの大きさとか、そういうことまで含めてお話しいただいたのですが、私、この物理あるいはナノの世界の状況というのはよく承知はしていないのですが、世界におけるポジションというのはどういう形になっているのでしょうか。
 例えば、バイオマスエタノールの触媒の研究なんていうのは、米国がものすごく投資しているということにもなっていますし、ですから、すべてについてそういうことを言えるとは思いませんけれども、例えば、こういうところはどうだというご説明を少しお願いできますか。

【岡崎先生】

  今、バイオマスの話が出ましたので、それに関してお答えさせていただきますと、基本的に米国は穀物戦略というのがございまして、トウモロコシないしは大豆といったあたりからエタノールを製造するという戦略で進められているように思います。それに対しまして、日本はそういうのはもったいないという基本的な考えがありまして、セルロース系、木質系、草質系のほうから、セルロースをまず透過した上でエタノールを製造する。これが日本にとっては不可欠であろうというように理解しておりまして、その中で最も重要なセルロースを糖に変えるという部分を計算科学でもって何かお手伝いできないかと思っています。
 これには2つ道筋がございまして、今日お話しさせていただきましたのは、酵素を使った分解反応ですが、もう一つ、高温での化学反応、3触媒を使った反応というものがございまして、そちらのほうも超臨界水を利用した化学反応といった形で、これも分子動力学計算と量子化学計算を合わせて解析していくというような、これは多様な中の一つのテーマということではございますが、計画はさせていただいております。

【小林委員】

  それはそうだと思うのです。それは、米国では全くしていないというような話ではないと思っているのですが。

【岡崎先生】

  計算科学に関しましては、アメリカは、ご承知のように、Blue Geneなんかを使いまして、オークリッジで既にナノのプロジェクトも始まっておりますが、このような課題はまだ聞いておりません。

【土居主査】

  どうぞ。

【矢川委員】

  きょう、お二人の先生のお話をお聞きして、短期的といいますか、次世代のコンピュータを見通してお話しされていたように思うのですが、先ほど常行先生のお話の中で、20ナノぐらいで限界が来るのでしたか。

【常行先生】

  2020年ぐらいです。

【矢川委員】

  2020年ですね。そうすると、現在の方式のコンピュータというのは、あと、次世代、次々世代ぐらいしか、多分ないのですね。ということになりますね。2012年に次世代ができますから、地球シミュレータから2002年で、今度のが2012年。そうすると、このインターバルでいきますと、あと1回しかチャンスがないのですね。2018年か19年か知りませんけれども、そういうインターバルでいきますと、2018年なりのときに、もうそれで今の方式は終わりなので、そこですべてパワーは終わり、コンピュータという意味では終わりなのですね。だから、そこで何ができて、そういう見通しを、ちょっと中長期的に教えていただきたいのです。当面はこれでいいのですけれども。その先のことは、出たとこ勝負でもいいのですけれども、10年ぐらい先まで見通して、それでもうすべて終わりなのかということで、ちょっとお話を。

【常行先生】

  私は計算機科学者ではありませんので、そういうお話、多分、ちゃんとしたお答えはできないのですけれども、まず2020年が、今のCMOSの技術の限界だろうというのは現時点での予測で、CMOSの技術というのも、どんどん進んでいまして、これは時間とともに変わる可能性はもちろんございます。もっと伸びる可能性がございます。
 特に、CMOSというのは、今、ものすごい集積度になっていまして、この技術の上に、例えば新しいデバイスをつくるにしても、おそらく、この技術の上に乗せる形で新しい素材とか、そういうものを使っていくということになるのじゃないかと思っております。
 ですので、2020年を越えたとしても、計算機のアーキテクチャとか、そういうものががらっと変わるというわけではなくて、デバイスの中に使われている材料が変わるとか、あるいは、今の並列計算機というのが、昔は考えられなかったレベルの超並列になってきて、それが例えば何段階かの、もっと多段階な並列になるとか、物理屋にとっては考えられない世界での進歩がきっとあるのだろうと期待しています。ですから、そんな簡単に、今の進歩が終わるとは私は思っておりません。

【土居主査】

  ありがとうございました。どうぞ。

【米澤委員】

  あまり高邁な話じゃなくて申しわけないのですけれども、お二人とも、戦略機関のイメージというのを一応スライドでお出しになられていますけれども、確かに、こういう議論をするのはまだ早いのかもしれないのですけれども、例えば、岡崎先生のこのスライドで、左側に戦略機関というのがございます。結局、何をお聞きしようかといいますと、神戸という場所で、どこの部分が活動するというイメージを持たれているのか。特に、このスライドは、随分最初から詳細に書かれているのですけれども、この四角のどの部分が何かとかいうイメージを既にお持ちなのでしょうか。あるいは、そうでないのかというようなことをお聞きしたい。同様に、常行先生にも、もし可能であればお聞かせいただけるとありがたいです。

【岡崎先生】

  きょうは、分野の議論ということで、個別な戦略機関の話は一般論として、なるべく具体論は差し控えさせていただいているわけですけれども、これは分子科学の分野で、いろいろ議論させてきていただいている戦略拠点、あるいは戦略機関のあるべき姿ということで、もしやるとすれば、こういうのがいいのじゃないかという一つのものですけれども、ここにあります研究開発部門、これは利用研究を推進いたします。ですから、次世代スパコンでなければできない、特に上の部分ですね。利用研究をどんどんプロジェクトとして推進していく。これは、計算そのものは、当然、神戸で行われることになります。
 あと、ここには基盤部分がありますけれども、これは学術基盤として、今日のいろいろな先生方が、次々世代等をもう念頭に置きながらとおっしゃっておられましたが、新しい方法論開発なども進めていく、そういったことに対応していきます。この2つは、次世代スパコンを本格的に使うという意味では、神戸のほうに先生が実際には移って、計算プロジェクトを進めるということをイメージしています。ただし、基盤的なところは、それぞれの先生が、それぞれの大学でやるという形です。
 一方、神戸ユニットというのもございまして、これが利用研究というわけですけれども、若手グループなんかも組織しまして、神戸に常駐するという形でございます。
 それから、さらに、ここにあります計算科学と計算機科学。計算科学というのは、計算を利用した化学とか物理という意味で、計算機科学というのは、情報とか計算工学、あるいはシステムとか、コイパラとか、すべてを意味しますが、そことの融合でもって、こういうアプリケーションもどんどん進化したソフトウエアをつくっていくという部分になります。ここにつきましては、おそらく、神戸というものが中心的に活動していく。その中で、ナノサイエンスに特化した部分で、こちらのほうでも協力しながらやっていくということになろうかと思います。研究支援というのも、当然、こちらの登録機関と一緒にやっていく。
 それから、人材教育ということですけれども、これも両方が、こちらは分野に特化した専門的な話。神戸のほうは、計算機のほうが得意なわけでして、そちらのほうを担当するといったようなことで、お互いが補い合いながらやっていくということだろうと思っています。
 この中で、各大学の情報基盤センターというのも、ここに教育の一例として書かせていただいていますけれども、こういった部分には、情報基盤センターという組織も、かなり深く関わってきていただければいいなと思っています。これはあくまで分子科学の例です。

【土居主査】

  じゃ、常行先生。

【常行先生】

  物性物理のほうは、ここまで具体的な話は用意はできておりませんので、私の希望だけ申し上げますと、やはり神戸にセンターがあって、そこに参加するということは、まず計算機科学の共通の基本、教育の部分ですね。非常に基本的な教育の部分で、何らかの役割をそこで果たしていただける。そこに我々は参加することができればいいというのが一つの希望です。
 それから、もう一つは、計算機科学と必ずしも限らないでも、違うディシプリンを持った研究者が、計算機科学というとっかかりを使ってそこに集まって、異分野の研究の交換ができるようなタイプのもの、そういうものができると非常に役立つのではないかと個人的には考えております。

【土居主査】

  ありがとうございます。中村先生、どうぞ。

【中村委員】

  ちょっと元へ戻って基本的なことをお伺いしたいのですけれども、今の話などですと、ナノサイエンスとナノ物性物理というのは、別のものとして理解するようなイメージがあって、特に、岡崎先生のほうで、ナノサイエンスは微視的な基礎方程式から出発するのだと。要するに、第一原理でやるのがナノサイエンスですと。一方で、物性のほうはそんなにこだわらなくて、粗視化モデルでも、とにかく現象をきちんと理解できるようなシミュレーションができればいいのだという、そういうふうな感じも持ったのですが、そういう理解でよろしいのですか。それとも、岡崎先生も、それほどこだわらないでやるということがあるのでしょうか。ちょっとそこをきちんと理解したいなと思っているのですが。

【土居主査】

  常行先生。

【常行先生】

  ちょっと誤解があるといけませんので。岡崎先生に最初にお話しいただいたのはナノサイエンス。途中から、10分後から分子ナノサイエンスというふうに主題が変わっております。私は、ナノサイエンスという意味では共通項がたくさんありまして、その下で、ナノサイエンスという大きな括りではありますけれども、やっぱり分子ナノサイエンスとは少しディシプリンの違う、考え方の違う世界として、ナノ物性物理学という立場でお話ししました。
 物性物理学の立場も、第一原理的な電子論から出発するというのが非常に大事で、むしろ、ほとんどの人たちが電子論から出発しています。ただ、その際に、物理現象は非常にたくさんの電子が集まった系を扱うのに、すべてを第一原理でやっていては、とても追いつかない場合もございます。そういう場合には、ある程度のモデル化ですとか、粗視化も辞さないというのが物理の立場です。

【中村委員】

  わかりました。

【岡崎先生】

  科学の立場も同じです。我々は、もう既に階層という概念というのは非常に重要であると考えておりまして、例えば、きょうお話ししました積分方程式論というのは、明らかに溶媒を粗視化した一つの近似モデル、これを導入して、比較的、短い計算時間で溶媒効果を取り入れるといったようなことは考えさせていただいております。第一原理、シュレーディンガー方程式とニュートンの運動方程式以外は認めないかというようなことは、それ以外は全然ございませんで、必要に応じて、どんどん粗視化モデル、あるいは場合によっては巨視モデルといったようなことも取り入れながらやっていきたいと思っています。それは当然のことだろうと思っています。

【土居主査】

  よろしいですか。他には。

【宇川委員】

  実は私も物理と化学ということに関してお伺いしたかったのです。それで、和田昭允先生という偉い先生がいらっしゃいますけれども、最近、おもしろい本を書かれていて、読まれた方もいらっしゃると思いますけれども、ディシプリンって何であるか、なぜそんなものが存在しているか。和田先生に言わせると、自然を部分、部分からしか見ていないから、パッチワークで見ているからディシプリンってあるのだと。本来、自然というのは、よく考えてみると確かにそうなのですね。もちろん歴史的なことがありますので、ディシプリンも大事だとは思うのですけれども、一方で、ナノサイエンスというのは1つだというふうな視点を持っていらっしゃるのだとすると、物理と化学と、もう少し、相互に融合するようなアプローチなり、組織作りなりをお考えになってもいいのではないか。完全に一体化するというのは、なかなか難しいということは私もよくわかりますけれども、でも、今日のお話ですと、やはり化学は化学、物理は物理という色が、はっきりおっしゃらないわりには、実は出ている。そこは、もう少しお考えになったほうが、やはり学問の発展ということからすると、いいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

【土居主査】

  常行先生。

【常行先生】

  違う考え方を持った人たち、研究者が集まって、連携してやるというのは非常に大事なことだと私は思います。その点に対しては異存はございませんけれども、別の考え方としては、ディシプリンというのは、やはり物理とか化学とか、長年の歴史を持って、その分野が生き残ってきたというのは、やはり非常に基本的なところで考え方の違いがあるんだと思うんです。
 それを残して、その中で成長した上で意見を交換するというのが、私はむしろ建設的なことだと思っています。例えば、私自身は、実は研究所で言いますと、化学の方との共著論文が非常に多いです。実験家と組む場合も、化学者と組むことが非常に多いです。あるいは、場合によっては、地球惑星科学の方たちと一緒に仕事をすることもございます。それはそれで非常にフルートゥフルで、全く新しい、私たちがもともと考えていなかったようなことを扱えるようにはなりますけれども、それは前提として違う立場で研究を行ってきたというところがあって、その上で協力するからおもしろいことが生まれるのだろうと、私自身は個人で考えております。

【岡崎先生】

  こういうことを若造が申し上げますと、大変おしかりをいただくだけだろうとは思うのですけれども、分野融合という意味では、化学と物理というのは、おそらく100年にわたって少しずつ融合を遂げてきた分野だろうと思っています。私どもの分野では物理化学と呼びますし、物理の人たちは、化学物理と呼んで、雑誌も、化学会が出していたり、物理学会が出していたり、アメリカなんかではそういう具合になっています。かなり融合が進んできている。けれども、基本的なスタンスというのは、お互い、何か根っこみたいなものは保持していて、それは維持しながら、先ほど常行先生に最後に紹介していただきましたけれども、共通課題というものは当然ございまして、お互い、ベースをそれぞれの分野に置きながらも、共通課題としてやっていける部分は連携し、共同研究・共同プロジェクトとしてどんどん進めていく。そういう姿が一番いいのじゃないかと思っています。

【土居主査】

  ありがとうございました。まだご質問等があるかもしれませんが、時間との関係もございますので、もう一方、お越しいただいているわけですので、続きまして、産業技術総合研究所の池庄司先生にお願いできればと思います。
 池庄司先生は、ご存じだとは思いますが、簡単にご紹介いたしますと、物理化学をご専門とされておりまして、通商産業省工業技術院東北工業技術研究所、それから、東北大学金属材料研究所等で研究、教育に従事されておられまして、現在は、産業技術総合研究所の計算科学研究部門長でいらっしゃいます。それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

【池庄司先生】

  ご紹介、どうもありがとうございます。産総研計算科学研究部門の池庄司です。
 我々のところは文科省ではなく、経済産業省の独立行政法人です。最初に、我々の計算科学研究部門の紹介を二、三して、それから、産業応用、あるいは産業技術といった観点からの提言、シミュレーションの提案をしたいと思います。
 我々の計算科学研究部門は、産総研の中では一番小さい研究部門です。合計で29人、ポスドクが14人います。ただし、これは10月現在で、ポスドクは年度末に向けて、3, 4人、既に行き先が決まって、いなくなっています。我々のところでは、研究グループとして、方法論で4つに分かれています。粒子モデリング、これは古典MD的なもの。量子モデリング、これは分子軌道的な方法。第一原理シミュレーション、これはバンド計算的なところ。それから、基礎解析、これは量子力学に基づく基礎理論的な部分です。このようなグループが、それぞれナノテクノロジーとか、バイオテクノロジー、あるいはシミュレーション基礎というようなところへ向けてマトリックス的にやっています。ナノテクノロジーの中をさらに分けると、構造形成的なもの、化学反応、あるいは材料と、このようなところをマトリックス的に行っているところです。
 それから、もう一つ、我々のところの特徴としましては、ただ単に買ってきたソフトでシミュレーションしているというわけではなくて、シミュレーションのプログラム開発から行っているということです。先ほどのプレゼンでも出てきましたFMOというのは、北浦先生が我々のところにいたときから始めたもので、今は京大に移っていますが、共同してやっています。Fedorovが、主にプログラムを実際にコーディングしていて、それをGAMESSから公開しています。FMOにつきましては、いろいろな方法論を開発して、大体そろってきたところです。これについては、2万原子のシミュレーションまでできるようになっています。
 もう一つはQMASといって、比較的、基本的なシミュレーションコードです。もう一つがFEMTECKといって、リアルスペースのDFTコードで、有限要素基底を使うものです。これは非常にユニークなもので、後でこれを使ったシミュレーションなども紹介します。さらに、OpenMXといって、ローカル基底を使ったのもありますが、これについては、今は、北陸先端大に中心が移っています。それから、STATEというのは、非常に古くて、1985年ぐらいから、物性研、JRCAT等々から出発しているもので、今は阪大の森川先生のところで主に開発が進んでいるものです。
 このように、古典MDも含めてソフトを開発して、そういうのを使って、いろいろなシミュレーションを行っているというのが我々の特徴です。要するに、買ってきたソフトではできないシミュレーションをやっています。
 さて次に、産業応用にどういうものが必要であるかというのを考えてみたいと思います。いろいろな立場の産業応用があるのですが、例えば、電子材料開発では何が必要であるか。我々は、去年、オープンラボを開きましたが、そのような場で、あるいは普段の企業との交流とかで、いろいろな人に聞いてみますと、どうも非常に高精度計算が必要だということをよく耳にします。今の普通の密度汎関数理論、DFTによる計算を超えるものを必要としています。特に固体でそうです。分子系は、別にまたいろいろな方法がありますけれども、固体については、例えばGW法とかBethe-Salpeter方程式とか、方法論としては別に新しくはないですが、そのような計算手法、先ほど常行先生から紹介がありましたが、そういうものを皆が非常に期待しています。ただし、現状では、なかなかすぐには使えないというのが問題です。
 それから、燃料電池等々、エネルギー材料では、非常に予測性というのが重要になってくると思っています。例えばイオン伝導度、プロトン伝導度をどうやって予測するか。あるいは、反応をどう見るかです。一般的なデバイス開発というところでは、電場、磁場、歪みとか、そういう外場の中での計算を可能にしてデバイスの機能をシミュレーションすることが重要になってきています。システム開発ということでは、複雑な系になってきますから、まるごとシミュレーションというのが重要になってきます。このような計算科学的な非常にベースのところの要求が大きく、あるいは期待されているところです。
 それから、もう一つ、実際のもっと具体的な研究開発という場になってきますと、こういうソフトウエアをどう使うか、使いやすさが当然重要になってきて、こういう面からの要望も多くあります。さらに、材料とデバイスの設計というと、実用性が重要になってくるところですが、実際には、ナノテク、あるいはナノサイエンスという分野で、まだほんとうの設計というところまではいっていないと思っています。例えば構造計算では、建物を建てるとか、橋を作るとかというところで実際の強度計算というのが行われているわけですけれども、そういう立場からの設計という意味では、ナノテクの分野はまだそこまでは進んでいないと思っています。当然、これから、そういう設計的な使い方ができるようにしないといけないわけです。
 この場は戦略委員会ということで、どのような分野が、戦略分野となるかということで、ナノサイエンスという立場から、岡崎先生、常行先生から紹介がありましたけれども、もうちょっと別の観点から、どんな分野があるかを考えてみました。
 その一つが、社会的に要請の強い分野というのがあるかと思っています。これは、例えば環境・エネルギーとか、あるいは産業技術、そのような点から、社会的に非常に強い要請のある技術課題というのが幾つかあります。例えば、文科省と経産省が連携しているプログラムというのが幾つかあります。例えば、CRESTと経産省が同じナノエレクトロニクスという分野で連携して、プロジェクトを遂行しています。それから、科研費の中での元素戦略。これは、NEDOにあってはレアメタルのプロジェクトです。これも同じように、レアメタルを使わない新しい材料をつくる。あるいは、レアメタルの量を減らすというような立場から連携したプロジェクトです。
 NEDOと企業との間の連携では、例えば燃料電池やリチウム電池、あるいは水素材料としては耐水素材料や水素貯蔵材の開発があります。
 緊急課題として書いたのですが、鉄系の超伝導材料のプロジェクトがあります。JSTなどで、始まっています。それから、カーボンアロイ、これは燃料電池でコストのかかる白金電極のかわりに、炭素系の材料で性能を出そうというのが幾つか出てきていて、そういうプロジェクトがNEDOの中では進んでいます。
 それから、常に重要なものとしては、固体の太陽電池、あるいは湿式太陽電池があると思っています。
 きょうは、この中で、特にナノエレクトロニクス、それから電池の2つに焦点を絞りまして、現状のシミュレーションの到達点と、次世代スパコンに求められている課題と、得られるであろう成果、期待されることを紹介したいと思います。
 まず、ナノエレクトロニクスですけれども、機能の予測という点で考えてみたいと思います。ターゲットは「Beyond Moore」ということで、例えばトランジスタのこのところの薄膜ですね。その薄膜として、シリコン系の半導体結晶でどういうのが可能であるかということを、計算で予測しています。シリコンとジルコニウムを組み合わせたもので、薄膜としてGGAでのバンドギャップが0.3eVであると予想しました。今、こういうところまでできるレベルになっています。このような組成と構造を予測するには頭を使った思考実験的なものが入っています。
 現状の問題点としては、このバンドギャップがDFT計算では実験値の半分、あるいは6割しか出ていないことです。要するに、正確に予測できないという問題があります。バンドギャップというのは、半導体などの基本的な指針なのですが、これが正確に計算できないという問題です。ただし、結晶などの構造計算は非常に正確だというのはよく知られてうることです。このバンドギャップを正確に出すためにはGWと言われている方法が有効であることはよく知られているのですが、現在は、単結晶的な小さい系のみ可能で、こういうちょっと複雑な系では無理です。
 次世代スパコンで期待することは、このような2次元系や1次元系あるいはモルファスでの正確な見積りを可能とすることです。それから、不純物系でのバンドギャップ。こういうことがやはり正確に見積もられないと、正確な予測に基づくデバイス開発というところに進まないことになります。
 今、このような構造を描きましたけれども、これをどうやって作るのかというのは、実験家はいろいろ考えるのですが、その合成も含めたシミュレーションというのも重要です。例えば、これは何かといいますと、ナノチューブの中にシリコンワイヤーを入れたものです。このような構造ができていくシミュレーションが古典MDで可能です。これがどのような電気的な性質を持つかというのが第一原理の電子状態計算からわかります。ここで、問題が2つあります。
 1つが、今のところ、こういうのは古典MDで構造形成のシミュレーションが行われていることです。カーボンナノチューブに液体のシリコンを入れて、それを冷却するシミュレーションです。古典MDでは、ポテンシャル関数の不確かさというものが出てきます。ですから、実際には第一原理MDによる生成過程のシミュレーションを行う必要があります。
 それから、このぐらいの小さな系だと、あまりサイズによってどういうものができるかが変わるということはなく、大体一義的に決まるのですが、もうちょっと大きな系になってきますと、計算の度にできるものが違うということがよくあります。これはナノクラスターでよくあることなのですが、それは確率的にそうなるわけで、そういう場合には、データ並列的に、多数の計算をさせて、何ができるかということを見ないといけなくなります。すなわち統計的なばらつきを考慮した素子の開発です。それから、前に言いました第一原理的な生成過程、計算による正確なプロセスの設計というのが必要になってきます。こういうことが、次世代スパコンで可能になると期待できます。
 もう一つ、ナノエレクトロニクスでおもしろいことには、界面の特異的な性質を利用したデバイスを開発するというのがあります。LaAlO3とSrTiO3の界面で、両方が絶縁体であっても、界面だけ金属的になると言うことがあります。そういうような非常におもしろい性質が出る界面というのが、今、計算でたくさん分かっています。ただし、現状では、非常に小さい計算セルの中での理想的な界面の電気的、磁気的性質が予測できます。次世代スパコンに期待することは、これを、不純物や欠陥を含む系に拡張できることです。小さな計算セルに不純物原子を1個入れたらすごい濃度になって、現実とは異なる系になってしまいます。それを防ぐには、大きなスーパーセルの中での計算が必要で、このような計算に対して、次世代スパコンの寄与というのは、非常に期待できると思っています。
 次にエネルギー・環境技術に移りましょう。水素燃料電池、メタノール燃料電池、リチウム電池と書きましたけれども、水素燃料電池は、10年、20年と非常に長期的なプロジェクトで、主に自動車用です。家庭用も、市販されていて、100万円ぐらいするそうです。
 メタノール燃料電池は携帯用として、五、六年前は非常に脚光を浴びたのですが、今はかなり関心が落ちています。こういう燃料電池にかわって、ここ一、二年、急にリチウム電池が注目を浴びて、今は緊急の課題として話題になっています。それは、電気自動車、あるいはハイブリッド自動車等々の電源に使うリチウム電池というものの性能を上げないといけないというところから来ています。
 これは燃料電池の簡単な模式図ですけれども、2つの電極があって、そこに燃料がきて、酸素がきて、その間にイオン伝導体があって、電気出力がでます。リチウム電池の場合には、リチウム極と酸化物の極があって、これが充放電可能なようになっているわけです。
 このような系に対して、先ほど常行先生からもご紹介がありましたけれども、電極反応の第一原理シミュレーションというのが、ここ一、二年でやっと可能になってきました。CRESTのプロジェクトの中で、物性研、阪大、NEC、それから、産総研でやったことで、基本的なところは物性研で開発したこのESM有効遮蔽体を使った方法で、これを阪大や産総研で開発してきたSTATEというコードに組み込んで、第一原理計算の中で電位をかけることを可能にしたものです。すなわち、白金の電位をコントロールして、白金上で電極反応という化学反応を起こさせることを可能にしました。
 シミュレーションしたことは、ヒドロニウムイオンが電子を受けとって水素吸着するという反応で、燃料電池から見ると逆反応で、むしろ水の電気分解の最初のプロセスなのですが、このような電極反応のシミュレーションが初めて可能になりました。黄色で示したのがヒドロニウムイオンで、グロタス機構でプロトンが移動しながら、そのうち白金電極に水素として吸着するという反応ですが、この時に同時にプロトンと電極の間で電荷移動が起こります。白金からプロトンに電子が移動しています。今、非常に注目を浴びていて、世界的にも、例えばPCCPなどの表紙になったり、あるいは日本の物理学会の国際誌JPSJで、Editors' Choiceに選ばれたりしています。
 ただし、現状では、正確には電荷規制の電極反応のシミュレーションができた段階です。しかも、それは第一ステップのみで、まだ水素発生まではいっていません。第二ステップまでやらないといけないのですが、今のところ、まだできていないという問題があります。やろうと思うと、現状のシステムサイズではさらに大きな過電圧が必要で、現実から非常に外れてきます。それから、どうやって電荷移動するのだろうかということで、軌道との関係も、我々は解析しています。こういう反応では必ずd電子というのが注目されるのですが、それとの関係をはっきりさせないといけないと思っています。
 我々が次世代スパコンに期待することは、まず、高速化によって、第2ステップも含めた水素発生の全反応のシミュレーションが可能になるだろうと思っています。それから、大規模化ということによって、溶液側がより精密に計算でき、なおかつ、今は非常に小さい系でやっているので過電圧という問題になるのですが、この問題が防げると思っています。それから、大規模グラフィクスによって軌道解析がより視覚的に可能になるでしょう。また、種々の条件に対するデータ並列的な計算で反応解析、あるいは今、白金だけの計算なのですが、いろいろな電極での解析、さらに今は、111面だけなのですが、110とか、100とか、そういう種々の表面での解析等々ができると期待しています。それによって、燃料電池というのは、非常に試行錯誤的な実験に基づく開発が多いのですが、そこからの脱却というのが可能だと思っています。
 次に、電解質膜のシミュレーションを紹介します。燃料電池では電解質膜としてナフィオンが一般的なものです。その内部構造としてはナフィオンの高分子ネットワークの中にスルフォン基に囲まれた水のクラスタとそれを結ぶチャンネルがあると言われています。我々は、水のクラスタが連続的につながっているという構造で第一原理シミュレーションしました。これもCRESTの中で、やったもので、豊田中研が最初の原子座標をつくって、産総研がFEMTECKを使って第一原理分子動力学によるシミュレーションを行いました。
 このときには何ができたかといいますと、ナフィオンの中のプロトン移動にはいろいろな説があるのですが、水中でのプロトン移動の機構として知られたグロタス機構を見ることができました。ヒドロニウムイオンそのものが拡散するのではなくて、プロトンのジャンプで電荷が実質的に移動するというのがグロタス機構で、これは200年前に出ているアイデアですが、これによるプロトン伝導というのがはっきり確認できて、そのプロトン伝導度もオーダー的に実験値に合うのが計算できています。
 それから、プロトンの移動と一緒に水分子も移動するのですが、その割合を示す電気浸透係数も計算できました。実際の燃料電池の操業では適正な水管理が必要ですが、その時にこの電気浸透係数が重要な役割をします。この計算には第一原理の電子状態計算の時に均一な電場をかけることが必要です。
 しかし、問題としては、信頼性がまだ一つ足りません。というのは、20ピコとか30ピコ秒の計算しかできていないからです。このときの計算は、AISTスーパークラスタのOpteronの98cpuを使って、1ピコ秒に1週間弱かかるので、せいぜい20ピコ秒程度しか計算できません。
 ついでに、先ほどの電極反応の計算は、地球シミュレーターの80cpuで、待ちがないとして1週間で1ピコ秒ぐらいです。それに比べると、金属がない分より大規模で非常に速く計算できますが、長時間のシミュレーションがさらに必要になってきます。
 自動車会社から見ますと、ナフィオンというのは非常にコストが高いものです。これをもっと安い材料にしないといけないということで、炭化水素系の開発が緊急の課題になっています。我々も一部始めていますけれども、これについては、いろいろな分子構造のが提案をされていて、それらをデータ並列的にシミュレーションするというのが必要です。
 ナフィオンでは複雑な水チャネルを通ってプロトン伝導することを先ほど示しましたが、次世代スパコンでは、そのような複雑な構造中でのプロトン伝導というのを、第一原理的にシミュレーションすることが可能と思っています。DPD散逸粒子動力学で、まずある程度、粗視的な構造をつくって、それから、古典MDでもうちょっと正確なものをつくって、それから、第一原理MDという、こういう割とマルチスケール的な方法でできると思っています。それによって、燃料電池では水管理というのが重要で、先ほど述べました随伴水の問題から低含水率で十分にプロトン伝導する材料が待たれているですが、そのような系の探索ができると思っています。
 もう一つ次世代スパコンに期待されるシミュレーションに、燃料電池のまるごとシミュレーションというのがあります。現状は電極反応のシミュレーションができて、それから電界質膜のシミュレーションができたところなのですが、これを組み合わせたものです。要するに、電解質膜と電極がどう相互作用しているのかということが重要で、これがほんとうに次世代スパコンで可能になると期待しています。
 最後になりましたが、リチウム電池も今重要で、例えば固体のリチウムイオン伝導体の第一原理シミュレーションなどが可能になってきています。
 リチウム電池の開発者と話していると、皆さんがシミュレーションに期待していることとしては、電極のところに何か膜ができるがそれが何であるかを知りたいとか、リチウムイオンの挙動を知りたいなど非常に多くあります。
 最後に、今後必要なことは何かというのをまとめました。電子状態計算では、高精度化、それによって実用デバイスへの適用が可能になってきます。それから、統計精度の向上です。そのためには、小さい系での並列計算の性能向上が必要です。これまでは並列性の向上で大きな系の計算をしようとしてきましたが、そうでなく小さな系での並列性の向上で長時間の第一原理MDを可能にする必要があります。さらに、データ並列的な計算の推進によって実験結果との比較が正確にできると思っています。
 例としてMP2waterというのがあります。今まで紹介したような水を含む第一原理シミュレーションは、全部DFTの第一原理MDですが、これはファン・デル・ワールス力を再現できないという問題があります。水の第一原理シミュレーションで90年ごろパリネロたちが出した拡散係数は、非常に実験値にあう値なのですが、それに対して少し疑問が持たれています。
 それから、第一原理計算した水の相図がわかっていないということで、その信頼性の確認が必要です。ということで、もっと常温で大規模な、MP2精度の計算が必要です。要するに、ファン・デル・ワールス力をある程度再現できる方法での水へのシミュレーションというのをみんなが期待しているところで、FMOで可能ではないかと思っています。FMO-MDの確立が必要ですが。
 もう一つ今後必要なことは情報技術との連携です。我々、計算をやっている人は、コンピュータは動いて当たり前で、止まるとすぐ情報系のやり方が悪いのという傾向があります。逆に、実験系研究者から言わせると、計算できて当たり前というところがあって、このあたりの連携というのを、もうちょっとうまくやらないといけないと思っています。
 例えば、去年、我々のところで国際ワークショップを開いて、IBMの人が話をしたのですが、CPMDを使うと第一原理ですが、32分子で大体1ナノ秒を1日でできるということを言っているのです。そういうところまで、我々のレベルも持っていかないといけないと思っています。
 以上です。

【土居主査】

  どうもありがとうございました。
 ただいまの池庄司先生のご発表を踏まえまして、ご質問、あるいはご議論をいただければと思います。いかがでしょうか。どうぞ。

【宇川委員】

  ちょっとサイエンスの中身の質問で申しわけない——申しわけなくはないかもしれませんけれども、電極反応のシミュレーションなのですけれども、これを見ると、プラチナ原子が36個ということですか。それを何個ぐらいにすればリアリスティックなものになるということなのでしょうか。

【池庄司先生】

  我々と似たような、こういうシミュレーションをやっているグループが、世界的に、3つ、4つあります。我々は、水を増やしたのですが、彼らは、水を薄くして白金を増やしています。その場合に、面積で大体2倍です。

【宇川委員】

  私の質問は、原子数はこれでいいのか、それとも、リアリスティックにするためには、何倍かにしなければいけないとすると、何倍なのかと。

【池庄司先生】

  それは、最低限で2倍にしないといけません。2倍というのは、面積で2倍です。

【宇川委員】

  でも、その程度だと、演算量が、例えばN3乗だとしても8倍で済みますよね。

【池庄司先生】

  はい。

【宇川委員】

  その規模でやれる計算だということですか。

【池庄司先生】

  それは現在のマシンの限界を考えての第一段階であって、実際にはもっと増やさないといけないのは確かです。それから、今やっているのは電荷を制御しているのですが、ほんとうは電位を制御しないといけないのです。そうなるとさらに複雑になって、シミュレーションに時間がかかるというところがあります。

【宇川委員】

  ありがとうございます。

【寺倉委員】

  ちょっと細かいのですけれども、これはクラスタの計算じゃなくて、二次元平面で、周期的バウンダリーコンディションを作っているので、結構、これで金属的な性質は出てくるのです。まずそれが第一です。
 それから、実際はプラチナだけを使っているわけじゃなくて、現実には、何か混ぜものをして、どうすれば触媒活性が上がるか、プラチナを減らせるかというようなことが現実の問題なのです。そうなると、とてもあの数じゃ足りないし、それから、反応の時間が全然足りないですから、これでは全然、まだほんの僅かしかできていないわけです。

【池庄司先生】

  サイズよりも、私としては、むしろ時間を強調したいところがあります。これは今、反応は、シミュレーションを始めてピコ秒ぐらいでやっと反応したのですが、それでは、やはり全然足りないということです。

【寺倉委員】

  だけど、設計というか、実用のレベルで言うと、やっぱりピュアなプラチナで完全な平面というのはアンリアリステックなので、どういう状況で触媒活性が出るかというのは、ほんとうのことをシミュレーションしようとしたら、もっと複雑ですよね。こんなのじゃ全然足りないですね。

【池庄司先生】

  サイズ的な限界から、111面というのを使いましたけれども、ほんとうは200とか300とか、ステップの入ったのをやらないといけないのです。そうなると、今言ったこの2倍、要するに、縦横2倍でも足りないぐらいです。

【土居主査】

  どうぞ。

【宇川委員】

  別に大きければいいというわけじゃないので、それがポイントじゃないと思うのですけれども、でも、ようやくこういうのが計算できるようになってきて、計算性能が例えば1000倍上がれば、格段の進歩が期待できるということは明らかだということですね。

【池庄司先生】

  そうです。

【土居主査】

  ほかにはいかがでしょうか。どうぞ。

【小林委員】

  ちょっと個人的な興味になってしまうのですが、今は機能の面でどういうことが起きるのかというのを大体ご説明いただいたのですが、例えば、燃料電池のようなもの、リチウム電池のほうがいいかな。これの時系列の劣化というようなものは、どのくらいのコンピュータがあったら計算できるのか。それとも、何年後にできるのか、その辺のお考えは何かありますか。

【池庄司先生】

  ここに「膜の劣化機構の解明」と書いたのですが、なぜ膜が劣化するかというと、電極反応で過酸化水素が出て、それによって劣化するとか言われています。過酸化水素の発生そのものをシミュレーションしよう思っても、それはシミュレーションのサイズと時間のスケールからは実際には滅多に起こらないことであって、シミュレーションで直接にやることは非常に大変だと思います。
 ただし、反応を促進するシミュエーション手法というのがいろいろ開発されていますので、ある程度はできると思っています。リチウム電池のほうも同じで、例えば電極の体積がどう膨張するとか、そういう劣化の原因になるパラメータは出せますが、劣化そのものをシミュレーションで出すということは非常に大変だと思っています。

【土居主査】

  よろしいですか。他にはいかがでしょうか。

【中村委員】

  まるごとシミュレーションの話が、もう1つ前だったと思うのですけれども、基本的に、こういうものの設計をするときに、どうしてまるごとじゃないといけないのかという問題があると思うのですけれども、それの基本的なところは、どういうことなのでしょうか。

【池庄司先生】

  燃料電池の基本部分はMEA、Membrane Electrode Assemblyであって、膜と電極のコンビネーションなのですが、これをそのまま、実際のサイズのままに第一原理シミュレーションすることは当然不可能です。実際には、白金とナフィオン、その界面のシミュレーションが重要だと思っています。図に描いたように両側に白金があるという構造までは今は要らないのかなと思っています。まずは白金とナフィオンの界面をシミュレーションすることです。先ほどの電極反応の計算ですと、ヒドロニウムイオンと水があって、ピュアな水との界面しかシミュレーションしていないわけで、ナフィオンがあったときに、どういう界面になっているのか、どういうイオン分布になっているのか、どうプロトンが伝導するのか、それがわからないのです。そこがわかると期待しています。

【中村委員】

  わかりました。必ずしも全部のまるごとじゃないということですね。

【土居主査】

  他にはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 どうもありがとうございました。実は本日、岡崎先生、常行先生、それから、池庄司先生、お三方にわざわざ出てきていただきましてお話を伺ったわけですが、この後も、実は幾つかの分野に関しまして、それぞれお話を伺い、そして、最終的には、お手元の参考1、参考2というのが、前回も検討していただきましたけれども、またさらなる検討も必要だとは思いますが、こういうものに、ある意味において集約する。それから、もう一つは戦術ですので、私の戦術というものの理解からしますと、ストラテジーというのは、タクティクスとロジスティックスが、少なくともなければいけないということがあろうかと思いますので、分野的にもタクティクスで、戦術的には、我が国としてどのような戦術でいくかということと、それを支えるためのロジをどうするかということ等を考えた上で集約し、全体として、参考1にあるような基本的な方針、あるいは各拠点、あるいは各分野別中核拠点にとって必要なことというのに落としていく必要があろうかと思うのです。
 ですから、今後とも、そういうことで進めさせていただきたいと思います。次回は、少なくとも、ものづくり分野についてのお話を伺うという予定にしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 全体にわたりまして、何かご質問、ご意見等ございますと、いただければと思いますが、いかがでしょうか。

【宇川委員】

  特に今日のお話だけということではないと思うのですけれども、やはりサイエンスにしろ、テクノロジーにしろ、日本に閉じたものではないわけで、特に計算科学に関しては、アメリカは随分と国としても力を入れていますし、コミュニティーとしても、かなりの規模があると思うのです。ですから、今日に限らないのですけれども、次回以降も、やはり世界の中で、どういった状況にあって、日本はそこでどういう立ち位置にあるのかという観点を話していただく必要があるだろうと思います。

【土居主査】

  ありがとうございました。その点に関しまして、また先生方のお考えを、先ほどお話ししていただきましたけれども、追加的にお聞かせいただければと思います。あるいは、書き物でもお出しいただければと思いますが、何かまたさらなるお時間をとっていただくようなことは、こういう場ではかなり難しいと思いますので、書き物等でご用意いただければと思いますが、よろしいでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします。
 他にはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは、岡崎先生、常行先生、池庄司先生、どうも本当にありがとうございました。貴重なお話を伺わせていただいたと思っております。
 それでは、議題2になりまして、「その他」ということなっておりますが、これは特段、事務局から何かございますか。

【井上室長】

  いえ、特段ございません。

【土居主査】

  はい。それでは、連絡事項等がございましたら、お願いできればと思いますが。

【事務局】

  次回の第3回戦略委員会は、1月21日水曜日の、ちょっと遅いのですけれども、午後5時30分より7時30分までの開催を予定しておりますので、先生方、よろしくお願いいたします。
 それと、本日机上に配付しておりますピンク色の配付資料、前回、第1回の委員会の資料ですけれども、それは次回以降も、本戦略委員会において使用したいと思っておりますので、机上にそのまま残していただきたいと思います。ただし、自宅等で参照するのに持ち帰りいただいても構いませんが、その際は事務局へご連絡ください。本日のパワーポイントのほうの資料は、お持ちいただいて結構でございます。
 それと、第2回、今回の戦略委員会の議事録案につきましては、後日メールで照会させていただきますので、よろしくお願いいたします。以上でございます。

【土居主査】

  以上ですか。岡崎先生のせっかくご用意いただいた資料が、最終的に、こういう字で全部かぶっちゃっているのですね。したがいまして、せっかく下の詳細に、きれいに整理していただいているのが見えないということになっておりますので、事務局でその辺は、詳細なものが見えるものも作っていただいて、改めて先生方に配っていただけますか。お願いします。

【事務局】

  了解しました。

【土居主査】

 それでは、それでよろしいですか。よろしいでしょうか。
 それでは、本日はどうもありがとうございました。これで閉会とさせていただきます。どうもありがとうございました。
 

— 了 —

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(研究振興局情報課スーパーコンピュータ整備推進室)