資料2 産業利用のあり方について(案)

平成21年6月10日
次世代スーパーコンピュータ戦略委員会

1.現状認識

 産業界におけるスーパーコンピュータの活用は、我が国の産業競争力を強化する鍵である。スーパーコンピュータの利用を促進していくことが重要であり、このために、次世代スーパーコンピュータ、特に産業利用枠が大きな貢献を果たすことが必要である。
 産業界におけるスーパーコンピュータの活用ニーズは、大きく分けて2つある。一つは生産プロセスに関わるもので、例えば、コンピュータを活用することで10年かかる設計期間を半年に短縮したり、実際に製品を作る前に多数の候補の中からシミュレーションによって候補を絞り込むことなどで、大きなコスト削減に繋げるものである。このような場合、スーパーコンピュータは往々にして生産の過程の中で特定のシミュレーションのためだけに利用されており、計算機というよりは生産設備との位置付けがなされている。もう一つは、今までに無かったものを作り出し、顧客に購入してもらうことで業績を上げようとするものである。このような場合、スーパーコンピュータは研究開発のための計算機として、新材料探求、デバイスシミュレーション、熱・応力/衝突シミュレーション、製品信頼性シミュレーションなど、多様で複雑な用途に用いられている。
 以上のように、産業界におけるスーパーコンピュータの活用ニーズは様々であり、また、計算資源ニーズはハード、ソフトともに増大している。また、これと同時に計算機を使いこなすことが出来る専門的な人材の必要性も高まっている。しかしながら、多くの企業においては概して計算資源、人材ともに不十分な状況にあり、特に、研究開発部門においてはこの傾向が著しい。このため、研究開発部門のニーズを中心に、多くの企業が次世代スパコンの利活用に期待している。

2.産業利用のあり方

(1)基本的な考え方

 産業利用は、産業界におけるスーパーコンピュータ利用を促進するという観点から、産業界における多様なニーズに応える必要がある。その際、利用目的や利用するアプリケーションが大学や公的研究機関と異なること、成果の取扱に産業利用特有の配慮が必要なこと、情報漏洩等セキュリティ上の配慮が必要なことなど、その他の一般的な利用とは異なる事情を勘案するとともに、そもそも産業界には幅広い利用者が混在していることに鑑み、利用に関し、利用者支援も含め多様な選択肢を用意することが必要である。
 また、いきなり次世代スパコンを利用するというのは利用者にとってハードルが高いため、まずは大学や公的研究機関におけるスパコンを、次世代スパコンのエントリーマシンとして利用できるようにするなど、主要な計算資源との連携を検討する必要がある。
 以上のような考えを念頭に置き、産業利用にあたり検討すべき事項を以下に述べる。

(2)利用形態

1.トライアルユース

 民間企業にとっては、使うのが難しく、また、使うことにより得られる成果が見通しにくい中、次世代スパコンを利用することは困難。産業利用を促進するためには新規ユーザーの掘り起こしが重要であり、このためにも、トライアルユース制度の導入を検討すべき。

2.成果非公開利用

 利用者の希望に応じ成果を非公開とする利用を認める。この際、共用施設として相応の利用料金を求めることとする。

3.成果公開延期制度

 成果公開利用であっても、知財等の関係で2年程度公開を延期できる制度を導入する。

4.優先利用

 特に民間企業においては成果を得る際にスピードが求められることが多い。このような場合、相応の利用料金により優先的に施設を利用できる制度を検討すべき。

(3)利用環境

1.アプリケーション

 現在、次世代スパコン向けに開発されているアプリケーション(GCソフト、イノベーション基盤ソフト、CRESTソフト等)は、産業界が利用するには十分なロバスト性がないことや、従来産業界で使ってきたアプリケーションとの親和性がない。このため、これらアプリケーションを用いた成功事例を積み重ね、既存ソフトとの成果の比較を行うなどの普及活動を行い、自主開発アプリ、商用アプリからの移行を促す取組が求められる。
 企業における自主開発アプリや商用アプリの次世代スパコンへの移植にあたり、充分な技術支援やライブラリの整備が必要。登録機関による支援や、大学や産業界から協力を得ることも検討すべき。特に商用アプリの移植については、ソフトウェアベンダーの協力が不可欠である。

2.セキュリティ

 作業個室の設置、入退室管理、持ち込み機器のウイルスチェック等を行うことが必要である。また、ポスト処理システムについては、知財の保護のため高いセキュリティを確保する必要がある。さらに、どのようなセキュリティ上の措置を取ったとしても、リスクアセスメント管理を行うこととし、利用企業が自らリスク要因を理解し、利用するかどうかの判断を出来るようにしておくことが必要。

3.遠隔利用環境

 遠隔利用については、VPNやsshなどの安全な通信手段を用いる。また、大容量データの転送手段として、高速ネットワークまたは媒体の郵送などの方法を検討する。

4.プリ・ポスト処理

 次世代スパコンの計算結果はデータが巨大すぎるため、これを処理できる強力なポスト処理システムを用意することを検討すべき。この場合、遠隔でのインタラクティブな使用ができることが望まれる。

(4)シームレスな利用環境の構築

 企業にとっては、当該企業において利用しているアプリケーションにより得られる成果が、そのまま次世代スパコンの利用により得られる成果に繋がることが望ましい。このためには、企業で利用しているPCクラスタレベルのコンピュータから情報基盤センター等のNISスパコンへ、さらには次世代スパコンへスムーズに移行できる、いわばシームレスな利用環境を構築することが望まれる。この実現のためには、NISスパコンにおいて、企業で使う商用アプリケーションや次世代スパコン向きのアプリケーションを整備することが必須であり、各大学情報基盤センターの協力が必要となる。この際、アカデミックライセンスで安価に用意されている商用アプリが、企業の利用によって高額になってしまう可能性があることや、NISスパコンにおいて産業利用に割り当てられる計算資源が限られていることなどの課題があり、検討を要する。また、次世代スパコンにおける産業利用枠利用と先端研究施設共用促進事業との連携の可能性も検討すべきである。

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研究振興局情報課計算科学技術推進室

(研究振興局情報課計算科学技術推進室)