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資料1 次世代スパコンを念頭においた人材育成のあり方について(案)

平成21年6月10日
次世代スーパーコンピュータ戦略委員会

1 現状認識

 シミュレーションが科学の手法として確固たる地位を築いた今、その計算規模は、スーパーコンピュータの発展に伴いますます大規模化している。現代の科学技術において、大規模なシミュレーションはなくてはならないものであり、これを如何に用いるかが科学技術の発展の鍵とも言える。このような状況の中、大規模なシミュレーションを支える人材(HPC(High Performance Computing)人材)は必要不可欠であり、この育成は避けては通れない重要な課題である。
 翻って、我が国におけるHPC人材育成の状況を見てみると、残念ながら十分なものとは言い難い。最も大きな問題は、系統立った人材育成・教育システムが確立していないということである。一方、ここ数年、21世紀COEや大学院GPの枠組み等で計算科学技術人材育成の野心的な試みが行われたり、大学独自に学部横断的な計算科学技術の人材育成プログラムを実施するといった取組が行われている。これらの取組を通じ、教育者間のコミュニティが形成されてきており、また、この分野における人材育成の経験や知見が蓄積されてきていることは、今後の人材育成方策を検討するにあたって十分に認識しておく必要がある。さらに、次世代スーパーコンピュータの立地地域においては、神戸大学と兵庫県立大学において計算科学技術の新研究科を設置する準備が進められており、人材育成のための体制整備の気運は高まっている。
 このような中、次世代スーパーコンピュータの整備を一つの契機として、我が国における系統的なHPC人材育成・教育システムを確立し、これを実施していく体制を構築していくことは、真剣に検討すべき重要課題である。もとより人材育成は、大学等高等教育機関が中心となって行われるべきものであるが、HPC人材の育成においては、次世代スパコンの活用が必要不可欠と考えられる。系統的な人材育成・教育システムの検討の中で、次世代スパコン、全国共同利用の施設である情報基盤センター、各大学等の適切な役割分担がなされることが必要であり、また、これら機関が有機的に連携をした体制づくりが検討されるべきである。

2 求める人材像

 今後必要とされるHPC人材について大きくまとめれば、以下のような人材だと考えられる。
(1)各専門分野(物理、化学、ライフサイエンス、ものづくり等)において、それぞれの知見とともに大規模計算を行い得る知識を持つ人材
(2)大規模計算を行うためのアプリケーションを開発出来る人材
(3)大規模計算を行うためのシステム(ライブラリ、コンパイラ等のシステムソフトウェアの開発を含む)を開発できる人材
(4)上記(1)~(3)を橋渡しできる人材
(5)アプリケーションの最適化等研究支援を行い得る人材
上記(1)、(2)は、計算機を利用する能力に長けた人材であり、ここではまとめて高度計算科学人材と呼ぶことにする。また、(3)は、計算機システムを開発する能力に長けた人材であり高度計算機科学人材、(4)は計算科学橋渡し人材、(5)は計算科学支援人材と呼ぶ。
 高度計算科学人材は、現状では各専門分野における各々の取組により育成が行われている。このため、それぞれの取組が独自に行われることにより、各分野で開発された優れた計算手法がその分野にとどまり、他分野への波及効果を生まないといったことも生じている。したがって、このような人材を育成するにあたっては、分野横断的に必要な計算科学の知識を活用していける、いわば、各分野を橋渡しできる人材の育成も望まれる。
 また、今後スーパーコンピュータの一層の並列化が進むことを考えれば、これまでの方法のままプログラムを書きコンパイルしても、計算の実行性能が出るとは限らない。研究の成果を適切に上げて行くには、計算の実効性能を上げることは非常に重要であり、このため、ハードウェアの特性や実行する計算内容を踏まえ、アプリケーションを最適化する必要がある。研究者が研究を進めて行くにあたってこの最適化は必要不可欠なものであるが、一方、最適化には特有の非常に高度な知識と技術が求められるとともに多大な労力が必要となる。したがって、上記(5)に挙げる、最適化を中心として研究者とともに研究を進めていける人材が必要不可欠であり、このニーズは今後益々高まっていくものと考えられる。

3 HPC人材育成に向けた取組

 上記に述べたように、我が国においては計算科学の系統だった人材育成・教育システムが確立しておらず、計算科学にせよ計算機科学にせよ、それぞれ独自に人材育成の取組を行っている。分野によって、段階的に計算科学の基礎から体系的な教育が行われている場合もあれば、個々の研究の必要に応じ必要な知識や手法を習得していくといった場合もあるなど、人材育成の深度にばらつきがあるとともに、これらの取組も、大学や学科単位で大きく違っている。しかしながら、シミュレーションが科学技術の手法としてなくてはならないものとなり、さらにこの計算規模が大きくなっている、いわば超並列時代を迎えている今、これまでのような人材育成体制では必要な人材を適切に育成していくことは出来ない。次世代スーパーコンピュータの整備を一つの契機として、我が国における系統的なHPC人材育成・教育システムを確立し、これを実施していく体制を構築していくことが必要である。
 次世代スーパーコンピュータ計画の大きな目的の一つは、次世代スーパーコンピュータを中核とした研究教育拠点の形成である。このため、戦略委員会としては既に、次世代スパコン施設を中核拠点、戦略機関を分野別中核拠点とし、大学(情報基盤センター等)等と連携した計算科学技術ネットワークを形成し、各拠点が連携した人材育成を促進していくという方針を出している。系統的な人材育成・教育システムの確立とこれを実施していく体制の構築に当たっては、この方針も考慮し、各拠点がそれぞれ役割分担を行い、有機的に連携していくことが必要である。

 以下、それぞれの拠点に求められる役割と想定される取組を記す。

(1)次世代スーパーコンピュータ施設

 次世代スパコン施設においては、各拠点と連携した上で、次世代スパコンを用いなければ出来ない人材育成・教育プログラムが行われるべきである。次世代スパコン施設といっても、様々な性格を有するが、ここでは、戦略分野および分野横断的な計算科学の基盤分野の研究を行う研究者が常駐する研究拠点としての性格、登録機関が担う研究支援組織としての性格、教育利用枠を提供する共用施設としての性格に分け、その役割と取組について記す。

1.研究拠点として

研究拠点としての次世代スパコンは、人材育成の観点から見れば最先端の研究開発活動を通じた正に実践の場である。より具体的に言えば、計算科学あるいは計算機科学の高度な実践の場であるとともに、計算科学者と計算機科学者の協働の場、異分野の計算科学者の協働の場、計算科学者と実験科学者の協働の場、さらには研究者と研究支援者の協働の場でもある。即ち、最先端の研究を実践する中で、必要とされるHPC人材の育成を行うことが可能であり、特に最先端の人材を育成する上で、この場を有効に活用することが望まれる。

2.研究支援組織として

研究支援組織としての役割は主に登録機関が担うことになる。登録機関は、計算科学支援人材が、次世代スパコンの利用者たる計算科学人材と協働し、アプリケーションの最適化等を行う実践の場である。また、アプリケーションの最適化にはハードウェアの特性も加味する必要があるため、計算機科学者との協働も行われる。
 このように、計算科学支援人材の育成の場として、登録機関は重要な場所であるが、先に述べたとおり、今後益々増大する計算科学支援人材ニーズを考えれば、登録機関で研究支援に従事するスタッフの育成だけ行っていては、将来の人材不足は明らかである。また、次世代スパコン、戦略機関、大学が連携をして研究や人材育成を行っていく体制を構築していくことを考えれば、情報基盤センター等主要な計算資源保有機関の技術スタッフが次世代スパコンの知識を持ち、次世代スパコン利用の支援をできる能力をもつことは重要なことである。
 このため、登録機関と大学等主要計算資源保有機関との間に人事交流のスキームをつくり、能力が高い計算科学支援人材を数多く育成していくような仕組みが求められる。大学等においても、研究支援を行う技術スタッフのキャリアパスとして登録機関、あるいは次世代スパコンの設置者たる理化学研究所を位置付けることが望まれる。また、支援員に対する評価基準を(通常の研究者とは違った基準で)適切に確立することも重要な検討事項である。
 また、計算科学支援人材には高度な能力が求められる一方、研究者とは違う立場の職務であることから、そのモチベーションを維持、あるいは高める取組が求められる。特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律においては、施設利用研究の促進のために登録機関が施設を利用することが認められており(第十二条)、一案として、このような利用を通じた登録機関独自の研究活動を行っていくことも検討すべきである。

3.教育利用枠提供施設として

教育利用枠は、基本的には利用者の幅広いニーズに基づき利用されるべきものであるが、貴重な計算資源を有効に活用するためにも、次世代スパコンならではの活用を行うことが必要である。具体的な活用方策として、以下のような取組が考えられる。

1.)若手研究枠の設定

 優れた若手研究者が独立して超並列計算を伴う研究を行う計画を有する場合、次世代スパコンの教育利用枠の利用を認めるもの。大学等における教育を受けるとともに、研究活動を通じて既に高度な計算科学技術の能力を身に付けた若手研究者に対し、その能力をさらに飛躍させる機会を与えることになる。今後の我が国の計算科学技術を牽引していくトップレベル人材の育成が期待できる。

2.)超並列計算演習の実施

 トップレベル人材の育成に加え、超並列計算を行い得る人材の裾野を拡げることが重要である。このため、超並列計算の演習を含む系統立てられたカリキュラムやプログラムの構築が望まれる。しかしながら、各大学等で行われている演習を含む教育プログラムの現状を見てみると、8コアあるいは16コア程度の並列計算を行っているというのが大勢である。また、情報基盤センター等のいわゆるNISスパコンにおいては、研究利用の方が優先され、なかなか教育利用に供されないという実情である。仮に次世代スパコンを教育演習に用いるとすれば、その能力に鑑み、1万コア程度の並列計算を行うことが想定されるが、教育プロクラムの現状を踏まえれば、俄に実施することは難しいと考えられる。
 このため、次世代スパコン、情報基盤センター、各大学の役割分担を明確にした系統立てられた人材育成・教育プログラムを、主要な大学を中心に、文部科学省や理化学研究所の協力も得ながら纏めていくことが望まれる。この中で、例えば、各大学においてはPCクラスタ等を用いた10~100コア程度の並列計算演習を含むプログラムを、情報基盤センターにおいてはより高度な内容で数百~千コア程度の並列計算演習を含むプログラムを、また次世代スパコンにおいては一万並列程度の並列計算演習を含むプログラムを実施していくなどの取組が可能になると考えられる。

3.)その他

 計算資源に余裕があれば、例えば、集中講義やアプリケーション作成コンテスト等の機会を設け大学院生等に使用させることなどの取組を行うことも、裾野の拡大や理解増進の意味から検討すべきである。

(2)戦略機関

 戦略機関は、次世代スパコン施設における研究拠点としての性格と同様、先端的な研究開発の実践の場である。このため、求められるHPC人材の育成を有効に行うことが可能であるが、次世代スパコン施設と違い、各戦略機関にはそれぞれの分野の専門家が数多く結集しているという強みがある。このため、特に、それぞれの分野に特有の技術や知見を持つ人材の育成が期待される。さらに、多くの戦略機関がその研究分野に密接に関係する産業界との繋がりを有していることから、産業界の人材育成についても検討が望まれる。スーパーコンピュータの利用を拡大して行くには産業界における利用の促進が一つの鍵であるが、産業界においてはスーパーコンピュータを用いた大規模計算はまだまだ十分に浸透していない。また、近い将来、ペタフロップス級のスパコンの利用が一般的になり、これを如何に活用するかが企業の競争力にも関わってくることが想定される。産業界との連携も視野に入れた取組が求められる。

(3)大学(情報基盤センター等)

 大学等高等教育機関においては、先にも記述したとおり、次世代スパコン、情報基盤センター、各大学の役割分担を明確にした系統立てられた人材育成・教育プログラムの検討が望まれる。その中で、各大学や情報基盤センターにおいては、それぞれが持つ計算資源の能力に応じた人材育成・教育プログラムの実施を期待したい。
 いずれにせよ、人材育成や教育は、教育機関である大学が中心となっていくことが必要であり、主要な大学が中心となり、全国の大学の教育のハブとなるセンター機能の構築なども視野に入れ、全国的な人材育成体制を構築していくことが望まれる。このような取組が、計算科学技術人材の裾野の拡大に大きく貢献するものと思われ、また、次世代スパコンを用いた超並列計算を行い得る人材の育成にもつながっていく。さらに、このような取組の中で、産業界向けのプログラムの検討も望まれる。

4 産業界における人材育成

 産業界におけるスーパーコンピュータの活用は、我が国の産業競争力の維持、強化にとって一つの鍵である。実際、企業においては生産段階、研究開発段階でのスーパーコンピュータ活用の模索がなされており、既にスーパーコンピュータを十分に活用している企業においては計算需要が増大している。このような中、企業においてHPCを担う人材の不足と、特に研究開発部門における計算資源の不足が顕著になっており、ここ数年、大学と連携した教育プログラムの実施や、先端研究施設共用イノベーション創出事業を通じた大学等のスーパーコンピュータを利用する試みがなされ始めている。
 産業界において求められる人材は、各企業のニーズにより様々であるが、大きく分けると以下のように分類できる。

  1. 適切にシミュレーション技術を用いることの出来る人材
  2. 最適なソフトウェアを開発できる人材
  3. 次世代HPCシステムに精通した開発支援者
  4. 超大型システムを効果的に運用できる人材

中でも、既存のアプリケーションを用いて適切にシミュレーション技術を用いることが出来る人材(1.)は、即戦力として最も必要とされる人材である。
 上記1~3までに述べたように、次世代スパコンの整備を契機とした人材育成・教育システムの確立とこれを実施していく体制の構築が必要であり、今後、これを具体化していく必要性があるが、これから検討されるこのような枠組みにおいて、産業界の人材も育成されていくことが必要である。今後、国、理化学研究所、登録機関、大学、産業界が密接に連携し、産業界におけるHPC人材の適切な育成方策を具体化することを期待する。

お問合せ先

研究振興局情報課計算科学技術推進室

(研究振興局情報課計算科学技術推進室)

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