4.中性子利用研究の促進に係る方策

(1)J-PARC中性子利用施設の運営の在り方

  J-PARCの中性子利用施設に共用促進法を適用し、様々なバックグランドを有する研究者・技術者への共用の促進を図るに当たり、施設の運営の在り方についても以下の点を踏まえながら、より利用しやすい運営をしていくことが求められる。

利用しやすい体制の構築

  J-PARCがJAEAとKEKの2機関で実施しているプロジェクトであり、また中性子のビームラインは両機関に加え茨城県が2本ビームラインを設置するなど、中性子利用の運営にかかわる組織が複数存在することから、利用窓口の一元化などにより、初めて施設を利用する研究者・技術者でも適切に利用できるような相談・技術指導体制や課題申請システムの整備が必要である。

産業界のニーズを踏まえた運営

  産業界の利用ニーズに対応するため、例えば、利用したい時になるべく早く利用できる常時受付制度や、成果公開型利用について一定期間その結果の公表を猶予するなどの柔軟な制度の設計が期待される。また、成果非公開の課題に係る利用料金について、運営費回収の考え方を基本としつつ、特に利用初期段階については産業界の利用しやすい料金制度、さらにトライアルユースなどにより産業利用に係る課題が実施しやすい制度について検討が必要である。
  また、申請課題の内容や課題選定の状況、また、施設においてどのような材料を使用しどのような試験を行っているか等の情報について外部に漏洩することのないよう、関連する職員等への倫理教育の充実等により守秘義務の徹底を図るとともに、利用者同士が現場で遭遇することを防止するなど施設利用の手順等についても必要な方策を講じることが重要である。

定常中性子源との連携

  J-PARCが設置されているJAEA東海研究開発センターには、JRR-3等の原子炉を利用した定常中性子源が稼働している。それらの二大中性子源が隣接していることのメリットは大きく、研究内容に応じてそれらの中性子源を使い分けていくことにより効果的に研究を進めることが可能である。
  具体的には、J-PARCのパルス中性子源は非常に高いピーク強度及び広いエネルギースペクトルを有するため、この特徴を活かした残留応力測定や分子構造のダイナミクスの解析に有利である一方、定常中性子源であるJRR-3は、熱中性子領域の時間積分強度が強いという特徴を活かしたラジオグラフィーや特定の中性子スペクトルに対する高精度の測定が簡便にできるという特徴を活かした物性解析などに向いている。
  このため、中性子利用のニーズの広がりを見極めながら、両者の一体的な推進体制についても検討を進めていくことが重要である。

(2)J-PARCにおける中性子利用研究の推進

先端研究の推進

  J-PARCの中性子利用施設の能力を最大限に活かし、我が国の中性子利用研究を更に発展させていくためには、産業利用とバランスをとりつつ、中性子科学のフロンティアを切り開く先端研究を進めていく必要がある。
  このためには、施設の設置者であるJAEA及びKEKが中心となり、施設・装置、測定技術等の高度化を図りながら、最先端の利用研究を進めていき、その成果を適切に情報発信することにより、産業利用の推進や新たな利用者の獲得につなげていくことが重要である。
  特に中性子利用研究が発展途上にある分野において、産業界も含め当該分野の研究者・技術者が中性子利用を積極的に行うようになるためには、J-PARCの運転開始後、まずは先端的な成功例が示されることが重要であり、国としても、そうした先導研究を推進するための方策についても検討を進めるべきである。

戦略的研究開発の実施

  J-PARCにおいてインパクトの高い成果を創出するためには、課題の公募・選定という従来のプロセスに加え、戦略的なアプローチにより、成果が期待される研究開発を実施していくことも重要である。
  この戦略的なアプローチには、国の研究開発方針を踏まえた社会的・経済的な観点からの重要な課題や、学術コミュニティーの意思形成に基づいた世界のトップレベルの学術的成果を創出するための課題の実施が想定される。
  こうしたことを踏まえ、JAEA及びKEKは、国やユーザーコミュニティーである中性子科学会とも連携を図りながら、戦略的な研究開発の仕組みの具体化に向けて検討していくことが求められる。

研究交流等の促進

  中性子科学の研究者が他の分野の研究者と交流・連携を図ることにより、これまで中性子を利用していない分野において、中性子を利用した新たな成果が生まれ、それがさらに中性子の利用を促進していくことが期待される。このため、中性子科学の研究者と他の分野の研究者の交流・連携を推進していくことが重要であり、関連する学会においてそうした活動を強化することが望まれる。
  また、中性子による様々な測定は、放射光(X線)やミュオンなど他の量子ビームを用いた測定と異なる特長を有していることから、複数のビームを相補的に利用することにより、単独のビーム種で行う以上の成果が得られる可能性が高い。
  こうしたことから、複数の量子ビームを利用した研究の推進を図ることが重要であり、JAEA及びKEKがそれぞれ有する中性子施設、放射光施設、ミュオン施設等との連携による新しい利用研究の開拓を引き続き進めるとともに、将来的にはSPring-8等も含め我が国の量子ビーム施設全体の連携を強化し、利用者が複数の種類のビームを利用しやすい仕組みの構築を目指すことが求められる。

(3)人材育成や情報発信の在り方

人材育成

  将来にわたって我が国の中性子利用研究の発展を支えていくためには、若手研究者の育成が不可欠である。人材の育成に当たっては、ビームラインや測定装置の運用に相当程度の時間直接携わらせ、中性子利用研究に関する総合的な知識を身につけさせることが非常に重要である。
  このため、例えば、KEKや各大学を中心とした大学共同利用・共同研究の枠組みで行うビームラインの整備・利用に、各大学が連携して協力し、大学院生や若手研究者が装置の整備や利用に参加できるスキームをつくるなど、J-PARCを活用した人材育成の方策について、J-PARC全体として検討することが必要である。
  また、支援員の確保に当たっては、支援員が単なる利用者の支援を行うのみならず、自ら研究し最先端の知識と技術を有することが、我が国の中性子利用研究全体のレベルアップに不可欠であるとともに、支援員のインセンティブにもつながることに鑑み、支援員が自らの研究も行える環境の整備や、支援員と研究員の間で流動性を確保しながら適切なキャリアパスを歩んでいけるための工夫も必要である。

情報発信

  J-PARCの利用促進、さらには中性子利用研究の発展を図っていくためには、J-PARCの中性子利用研究から生み出された成果について、関係機関が連携して戦略的な広報を行うことが重要である。こうした観点から、J-PARCが主体となってJ-PARCの視点から広報が行える体制を確立することが望まれる。
  また、こうした大型研究施設については、科学教育の場としても活用していくことが可能であり、地元の中学校や高等学校との連携も図りながら、必要な環境整備をしていくことが重要である。

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研究振興局基礎基盤研究課量子放射線研究推進室

(研究振興局基礎基盤研究課量子放射線研究推進室)