3.J-PARCにおける中性子利用の枠組み

(1)従来の利用の仕組みにおける課題

  J-PARCにおける中性子利用について、産業界も含めた幅広い分野の研究者・技術者の期待が高まりつつある一方で、施設の設置・運営主体であるJAEA及びKEKのミッション等との関係で、外部の研究者・技術者の中性子利用を促進する上でいくつかの課題がある。

JAEA及びKEKのミッションに係る課題

  JAEAの設置しているビームラインは、JAEAのミッションである原子力の研究開発を行うためのものであり、他の研究者・技術者への共用はそのミッションや資金に支障のない範囲でしか行うことが出来ない。また、KEKは、大学等における学術研究の発展に資するため、大学の教員その他の者で、KEKが行う研究と同一の研究に従事するものの共同利用・共同研究の実施等を目的とした大学共同利用機関法人であることから、KEKが設置しているビームラインも大学以外の研究者に十分に開かれたものとはなっていない。
  このように、J-PARC計画の中核をなすJAEA及びKEKのビームラインに係る利用の枠組みは、産業界も含めた幅広い分野の研究者・技術者が、それぞれの目的のための研究開発を実施する上で利用しやすい枠組みになっているとは言い難く、新たな利用の枠組みの整備が求められる。

ビームラインの整備や支援体制に係る課題

  J-PARCを我が国として最大限活用していくためには、産業利用も含めた幅広い利用に適したビームラインの設置と、実験に関する事前相談への対応者や実験を行う際の支援員などの支援体制の充実が重要である。
  しかしながら、現状では自らの研究を実施することが主たるミッションであるJAEAにおいて、こうしたビームラインの整備や支援体制の充実を行うことは限界がある。また、KEKは、学術コミュニティーの自主性・自律性に基づいて運営される大学共同利用機関法人であることから、ビームラインの整備や支援体制の充実について、必ずしも産業界等の幅広いユーザーの視点が含まれているとは言い難い。
  このため、J-PARCの中性子ビームの共用に当たっては、産業利用も含めた幅広い分野の研究開発に活用できるビームラインの着実な整備と、中性子利用に慣れていない研究者・技術者が利用しやすく、また、様々なニーズに的確に対応できる支援体制の構築が求められる。

安定な運転の確保

  J-PARCの運転経費は、設置者であるJAEA及びKEKが分担して負担することとしているが、運営費交付金では法人の経営判断によりJ-PARCの運転経費が変動する可能性がある。このため、様々な外部研究者が利用して実施する中性子利用研究に必要な施設については、法人の経営判断によらず安定した運転が確保できるための方策も求められる。

(2)大型放射光施設(SPring-8)の状況

  一方、J-PARCと同様に大型研究施設であるSPring-8は、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(共用促進法)に基づいて、共用施設の整備とその研究者等への共用等の業務を設置者である独立行政法人理化学研究所の業務に位置づけるとともに、施設の利用促進業務を専門の知識を有する登録機関に行わせる等の措置を講じている。これにより、幅広い分野の研究者・技術者への共用が行われており、産業利用についても平成19年度には共用ビームラインを利用する課題のうち約20パーセントを産業利用に供している。
  また、SPring-8の運転経費については、法律により共用の促進を求められている施設の安定的な運営の確保の観点から、設置者である理化学研究所の運営費交付金ではなく、特定先端大型研究施設運営費等補助金として別途の予算措置が講じられているところである。

(3)J-PARCにおける中性子利用の枠組みの在り方

  上記のような状況を踏まえ、幅広い分野の研究者・技術者によるJ-PARCにおける中性子利用施設の利用を促進するためには、既存の枠組みでは限界があり、新たな制度的枠組みの整備が求められる。
  このため、中性子ビームの幅広い利用の促進のためには国の基本方針の下、共用施設(ビームライン等)の着実な整備、施設を利用する者に対する支援の充実、施設利用研究者の中立・公正な選定、施設の安定な運転の確保等をすることが必要であり、SPring-8と同様に、J-PARCの中性子利用施設についても共用促進法を適用することが有力な方策である。
  ただし、J-PARCが、中性子利用研究のみならず、ニュートリノや中間子を利用した原子核・素粒子物理学に関する研究を行う複合研究施設であること等のSPring-8との違いも踏まえ、共用促進法の適用に関し、以下の点について留意しつつ、具体的な制度の検討を行うべきである。

利用促進業務を担当する組織

  1.現行の共用促進法では、施設の利用促進業務は設置者ではなく登録機関が行うことが想定され、SPring-8では、財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)が利用促進業務を担当する組織として計画初期の段階から存在していた。一方、J-PARCについては、複合研究施設であることを考慮し、JAEAとKEKの共同組織であるJ-PARCセンターが運営を行うことを前提に必要な体制を整備してきた。このため、J-PARCの中性子利用施設に係る利用促進業務を実施する組織については、当該センターを当面活用していくことを含めて検討していく必要がある。
  また、利用促進業務を担当する組織について検討する際には、施設の運転業務と施設を利用する研究者・技術者への支援業務は非常に密接に関連しているという点にも留意をする必要がある。

ビームラインの有効活用

  2.SPring-8において、設置されているビームラインは施設設置者が自らの研究に利用するビームライン、共用ビームライン及び第3者が設置するビームラインの3種類があり、原則その目的に沿った利用がされている。
  しかしながら、J-PARCの中性子利用施設におけるビームラインの設置可能本数は最大で23本であり、SPring-8の62本に比べると3分の1程度であることに鑑み、共用ビームライン以外のビームラインについても、当該ビームラインを設置した本来のミッションに支障のない範囲で、幅広い分野の利用者に共用できるようにすることが求められる。

学術研究等への配慮

  3.J-PARCがJAEAと大学共同利用機関法人であるKEKの共同設置による複合研究施設であることから、J-PARCの中性子利用施設への共用促進法の適用を検討する際には、大学の研究者等の自主性の尊重その他の学術研究の特性への配慮や、J-PARC全体の研究計画への配慮が必要である。

お問合せ先

研究振興局基礎基盤研究課量子放射線研究推進室

(研究振興局基礎基盤研究課量子放射線研究推進室)