J-PARCの利用方策のあり方に関する懇談会(第4回) 議事録

1.日時

平成20年7月2日(水曜日) 15時~17時

2.場所

文部科学省 16階 特別会議室

3.出席者

委員

 福山主査、井上委員、大野委員、長我部委員、金子委員、亀井委員、川上委員、田中委員、西村委員、山田委員、横山委員(欠席:山内科学官)

文部科学省

 藤木審議官、大竹基礎基盤研究課長、林量子放射線研究推進室長、ほか関係官

オブザーバー

(オブザーバー)
 永宮J‐PARCセンター長

4.議事録

(1)林量子放射線研究推進室長よりJ‐PARCの利用方策のあり方に関する懇談会報告書(案)について説明があり、その後以下の議論が行われた。

【福山主査】
 全体の構成についてはおよそ骨子案で御了解いただいていると思いますので、項目順に御議論いただきたいと思います。
では、「はじめに」のところ、思想が書いてあるところです。いかがでしょうか。あるいは、全体的なところのコメントでも結構です。こういう文章というのは少し距離を置いて全体を見ると、少しウエートがどうかなど場合によっては気になるかもしれません。その両方の視点からお願いします。

【長我部委員】
 全体を通して、国際的な視点でのこの施設の意義なり、国際的にどう活用していくべきかといった観点が多分なかったように思うのですけれども、例えば「はじめに」ところで一言述べておく必要はないでしょうか。

【林室長】
 この懇談会の趣旨が利用の促進ということで、大きな議論にはならなかったと思うのですが、国際公共財というのは一つのキーワードとなっていると思いますので、追加させていただきます。

【長我部委員】
 「先端研究の推進」という項目がありますが、先端研究がここで行われることによってその成果が産業界にも還元されていくということで、先端研究に関しては、国際的に非常に良い研究者が集まる施設であるということが産業利用にとっても重要だと思いましたので、何がしか入れておく手はあるのかと感じました。

【大竹課長】
 「はじめに」の最初の段落で、国際的なセンター・オブ・エクセレンスになることが期待されている、といった表現を入れることで対応したいと思います。

【長我部委員】
 もう一言蛇足で言いますと、企業側から見たときに、今後つくられるであろうヨーロッパやアメリカの施設のほうが使いやすければ、そちらに流れてしまうこともあるので、そういう観点も踏まえて、国際的にもここがやはり一番良いという、宣言のようなものが入ってもよいのではと思いました。

【福山主査】
 今、長我部委員がおっしゃったことは、基礎科学・サイエンスと、工学・テクノロジー、それとインダストリーとでうまくサイクルが回ることが、こういう施設で重要なファクターであること。産業利用がうまくいくためには、その底流にある研究の上でも先端的でなければならないこと。それがあれば、テクノロジーにもインパクトがあるという、このトライアングルが同じようなウエートで重要だと思います。こうして改めて見てみると、産業利用が非常に重要な命題で意識されているから、それは非常に強く出ているのですけれども、サイエンス、テクノロジー、インダストリーという、そのサイクルの視点が場合によっては少し弱いのかもしれません。そういう観点からのコメントでしょうか。

【長我部委員】
 おっしゃるとおりです。

【福山主査】
 サイエンス、テクノロジー、インダストリーのサイクルに関する意識がもう少し前面に出る表現があっても良いかもしれません。「はじめに」の下から7行目でしょうか、このパラグラフで「こうした中で」と具体例が書いてあって、こういう具体例の後に「産業界も含め」となっているときに、「物質科学及び材料工学での研究に役に立つと同様に産業界・・・」など膨らみを持たせることができるかもしれません。確かにインダストリーというのはあちこちで非常に強調されて、それは当然だと思うのですけれども、その前提に物質科学や材料工学があって産業界というほうがつながりとして良いのかもしれません。

【大竹課長】
 どこに入れるかは少し考えますが、国際的に非常に高い性能を有するので先端的な研究が期待される。その先端的な研究は産業界にも波及するだろうし、また、それが国際的にもセンター・オブ・エクセレンスになるような可能性を持つものであるということをどこかに入れまして、全体的に流れるようにしたいと思います。

【田中委員】
 すでに、上から5行目に世界最高強度という言葉があり、産業利用においては物質科学や生命科学の研究の中に高い期待があると記述されています。「はじめに」の中でそこまで具体的に書くのでしょうか。別にごまをすっているわけではありませんが、大変よくできている報告書案だと思います。従来、物質科学や生命科学に寄与してきたほかのビームとの違い、金属への透過性の問題あるいは水素等云々のように、本来の中性子ビームの持つ重要性を述べており、今議論のあったところが十分表現できていると思います。後ろのところである程度具体的なことが述べられているので、「はじめに」で後ろのディテールにかかわるようなところまで書き込むのかどうかというのは、私は一つの議論の対象になるところだと思います。今、委員の方々がおっしゃった世界的なレベルの問題も、産業利用の問題も、この中に私は書き込まれているような気がしています。今の議論は後ろのディテールの話の中で足りないところをもう少し継ぎ足せばよいと思います。「はじめに」のこの文章をいじり出すと、今度は後ろとの関連がまたややこしくなるので、「はじめに」はこの程度で良いのではないかと私は強く感じております。

【福山主査】
 「はじめに」のところは非常に格調高くいろいろなことが書いてあると。確かにそういう見方もあるかもしれません。どうでしょうか、長我部委員。

【長我部委員】
 はい、確かに注意深く見れば冒頭に出てまいりますので、ここは少し見落としていたかもしれないです。

【福山主査】
 今の観点から国際性の点はどういたしますか。

【田中委員】
 もし、産業利用を目的として新しいカテゴリーをつくり出すとするならば、やはり、あるカテゴリーに関して実施例が出てこない限り、国際性がどうなのかというのは分からないと思います。具体的な話の中から多くの産業界が興味を持って、実績を出す中で国際性は議論されるべきではないかと思います。そうでなければ、いくら国際性あるいは世界で一番だといっても、何の目的のための一番かという議論が途中で終わってしまう。この中でも結構書き込まれているのは、やはり産業界が利用してアウトカムを明確に出すこと、あるいはそういうプロセスをここでしっかり組むことが国際性の高い一つのアウトカムを出す方法であると私は受けとめていますので、その中でどう国際性を表現するかというのは、今の時点でそれをあまりに強調して5年も10年もこれを維持するために云々という話はやはり実績が出ない限りなかなか難しいのではないでしょうか。ですから、どうしても国際性というのは抽象的な表現にとどまらざるを得ないのではないかと思います。

【大竹課長】
 朝令暮改みたいで恐縮ですけれども、確かに国際拠点となることは非常に望まれておりますので、最初のパラグラフの最後のところで、研究に至る幅広い分野の研究が期待されており、国際的な研究拠点となることも望まれている、などという形で、せっかく期待していただいたこともあり、私どももそれはありがたくちょうだいしておきたいと思います。

【福山主査】
 皆様、いかがでしょうか。長我部委員も今の国際性についてよろしいでしょうか。では、続いて二番目のところまで順次行きましょう。我が国における中性子利用の現状のところです。

【川上委員】
 少し話が戻ってしまいますが、「はじめに」のところで、三番目のパラグラフの中ほどに、「放射光とは異なる特長を有することから」ということが書いてありますが、おそらくその心は、放射光に関しては非常に成功していて、中性子では放射光とは違う特徴の測定・研究ができるということで、中性子も期待してほしいということだと思います。それを強める意味で、もう少し放射光そのものが非常にうまくいっているというところが分かるような形になると良いのではと思いました。

【福山主査】
 ここで急に放射光が出てくるけれども、その前に、放射光がパワフルであって、いろいろ成果を上げているという前段があってという流れですね。

【川上委員】
 はい。変なとり方をすると何か対立しているように誤解される恐れもありそうですので。

【福山主査】
 相補的と言ったほうが良いのでしょうか。

【川上委員】
 そうですね。研究としては相補的なのですけれども、SPring‐8に限らず高エネ機構の装置も含めて放射光そのものが今の研究の中では基礎から産業利用まで幅広く利用されて非常に成功しています。それが皆様に分かるような形でさらっと書いてあって、なおかつ、中性子はそれとは違うところでまた応用可能といったニュアンスがくみ取れるような形がよろしいのではないでしょうか。

【福山主査】
 一番具体的な、この放射光という言葉の前に、実質的に基礎から応用まで幅広く利用されている放射光とは相補的な特徴を持っている、例えばそんなところでしょうか。

【川上委員】
 そのような感じです。

【大竹課長】
 「既に幅広い分野で活用されている放射光とは異なる特性を有し、相補的な役割が期待されることから」とった表現にすると、十分ではないにしても、あとは後ろのほうで読んでいただけると思うのですが、いかがでしょうか。

【福山主査】
 絶えず議論は前へ戻っても構いません。今は2の我が国における中性子利用の現状というところです。先ほど田中委員がおっしゃったように、この報告書案はよくまとまっていると思います。
2の(1)の最後のパラグラフのところ、下から4行目、強相関電子系などの基礎研究から……産業利用と。ここは何か飛んでしまっている印象を持つのですが、産業界の方から見てどうでしょうか。サイエンスからすぐインダストリーにつながるという書き方、つまり工学的な側面はあまりこの中性子に関しては意識に上らないという表現ですが。

【田中委員】
 今、基礎研究という範疇もかなり広がっていて、これは人によっては福山主査のおっしゃるような解釈をする考えもありますし、基礎研究をかなり広くとらえて応用研究、あるいはその間に何かがあるという考え方もあります。

【福山主査】
 対象によって少しずつ違うかもしれません。ほかにいかがでしょうか。

【山田委員】
 先ほど福山主査が言われたトライアングルに関してですが、3ページの下から7行目ぐらいの「さらに」というところを読むと、産業に関連する分野における基礎科学の研究は、これが産業技術にとって不可欠な基盤となることから云々ということが書かれていまして、ここの部分が関連するのではと思います。ここでの書き方は、産業に関連する分野にとっては基礎科学が基盤になっているということだけ書いてあるので、逆にトライアングルで産業の発展がさらに基礎科学を刺激するといった表現をこのあたりに入れることもできるのではと思いました。

【福山主査】
 現場のニーズが基礎研究のほうにも動機を与えるということですね。

【山田委員】
 はい、そういうふうに思いました。

【福山主査】
 だから、今、トライアングルを仮に考えるとすると、インダストリーからベーシックサイエンスのほうに行く、そういう視点をもう少し強調してもよいのではないかという御意見でした。

【大竹課長】
 一つ文章を分けて、「発展が期待されている。加えて、」ということで、その産業技術における新たな問題の発見が基礎科学の重要な課題にもなる、良い意味での循環も起きる、といったことをどこかに書ければと思います。

【福山主査】
 よろしいでしょうか。3.中性子利用の枠組みのところに行きたいと思います。

【川上委員】
 この「3.」の最後のところ、「学術研究等への配慮」の記述で、大学の人にとってこれで本当に満足だろうかという思いがあります。J‐PARCは原子力機構と高エネ機構ということで何となく大学の人が使いにくい、といったお話だったのですけれども、ここでの「学術研究の特性への配慮」というだけできちんと意味をくみ取っていただけるものと考えてよろしいでしょうか。

【林室長】
 実際に法律の適用を考えたときに、J‐PARCのどの範囲に網をかけていくのかという点は今後我々が検討しなければならない課題です。J‐PARCは複合施設ですので、全体にかけるのか、中性子はどこの部分までかけるのかを考えるときに、学術研究という話は我々も検討する際にはやはりどうしても踏まえなければなりません。前回、山内科学官が全体に配慮してくれというような話もありましたので、これを両方まとめてここに書いているということです。

【川上委員】
 それは分かるのですが、産業界やその他のところは十分配慮されているけれども、大学への配慮が少し足りないように私自身は受け取っておりまして、この「その他の学術研究の特性への配慮」の一言でよいのかというところです。先ほどから出ているトライアングルを回すために、学術的な基礎研究が非常に重要だと思っています。その基礎研究の主体は大学の研究にありますし、この前からずっとお話ししているように、X線のコミュニティの方への認知も含めると、やはり大学が圧倒的だと思いますので、そういう意味でも、私はこれだと少し弱いのではと思っています。

【大竹課長】
 非常に説明しにくいのですが、この前も御議論がありましたように、大学の先生方からすると、産業利用ばかり100パーセントになって学術研究が軽視されているのではという思いを抱く方もごく一部におられることもありまして、「そういうことはなくて、きちんとバランスをとってやっていくのだ、別にどちらかに重きを置いてということではない、日本に一つの大きい施設ですから、適正に動かしていきますよ」という意思表明でございまして、ある意味では非常に精神的なチャプターになっているとお受け取りください。

【川上委員】
 非常に苦慮されていることは分かるのですが、そうであれば、今、具体的にバランスをとりたいというお話でしたので、そういう言い方のほうが、もっと大学の先生方には安心していただけるのではないかと思うのですが。

【林室長】
 法律を適用するときの検討というよりも、逆に「4.」のほうの研究を進めるときの留意事項ということです。8ページの先端研究の推進のところで、産業利用とのバランスをとりながらフロンティアを切り開く先端研究が重要であると言っておりますので、その辺のことはそちらでフォローできているのではないかと考えております。ここは法律を適用する際の留意事項ということで、簡単に付言させていただいているということです。

【福山主査】
 井上委員、いかがでしょうか。

【井上委員】
 6ページの書き方は、これぐらいでいいような気がします。あまり書くと、共用促進法で何とかしろみたいな書き方にとられてしまいますので。逆にそうなることが心配です。

【林室長】
 川上委員のようにおっしゃる方はあまり多くなくて、大体、書くとたたかれるというのが多いかと思うのですけれども、どうでしょうか。

【福山主査】
 中性子科学会会長である山田委員、いかがですか。

【山田委員】
 具体的にこの議論を進めるとかなり深い議論になりがちなのですが、この報告書は非常にコンパクトにきれいにまとまっていて、我々としてもそれほど心配しなくてもよいと思います。

【福山主査】
 この文言で十分だと。

【山田委員】
 林室長とは個別にかなり電話でいろいろやりとりをして、十分に納得しています。

【田中委員】
 そもそも、今おっしゃったような大学への配慮の問題は人材育成と大変強くリンクしています。人材を育成する上で大学共同利用や共同研究を通じての大学院教育も含めて大学重視型でない限り、人材育成はあり得ないとするならば、ここに書いてある人材育成あるいは情報発信のあり方に、大学に関することで書き切れないところを書くという方法もあるかもしれません。しかしながら、この報告書は本当に良くできているので、あまり何かいじるとほかとのバランスが悪くなるような気がします。

【福山主査】
 今は、4の(3)のところをおっしゃったのですね。

【金子委員】
 3の(3)のところで、最後に「共用促進法を適用することが有力な方策である」となっていますが、共用促進法を適用すると、中性子施設の着実な整備とか、支援の充実、公正な選定、安定な運転の確保等が、全部うまくいくというふうに、読み取れるのですけれども、よろしいのでしょうか。

【大竹課長】
 必要な予算を確保するなど、法律があったとしても、やるべきことはきちんとやらなければならないのですが、法律の枠組みはそういうことが理念的にはできることになるということで、それはそのとおりだと思っています。

【金子委員】
 共用促進法自体に関しての説明がそれほど多くないものですから、共用促進法を取り入れているからSPring‐8がうまくいっているという意味合いになるのか、共用促進法とこれらの問題点の対策がきちんとかみ合っているのかどうかというところがよく分かりませんでした。

【林室長】
 共用法の話を書き出すと長いので、参考資料に我々が用いた資料をつけようと思っております。

【大竹課長】
 SPring‐8はなぜうまくいっているか、法律だけかというと、もちろんそうではないと思っています。ただし、まず法律で国の基本方針などが確保されるのは事実ですが、それに応じてやはり魂を入れなければならないと考えています。法律は人形みたいなものですから、それにきちんと魂を入れていく部分が必要で、それは後段のほうでもう少し話が出てくると考えています。

【福山主査】
 SPring‐8に魂を入れられた大野委員、何か御意見はございますか。

【大野委員】
 正直申しまして、非常に良くまとまっていると思います。個人的には幾つかの疑問があったのですが、林室長ともかなりやりとりさせていただいて、私自身も納得はかなりしております。これ以上あまり書き込むと、またややこしくなるかなという気がいたします。

【福山主査】
 そういう文章ですね。ほかに御意見はございますか。先ほどの件はよろしいですね。

【金子委員】
 はい。

【福山主査】
 もう4の最後のところまで含めて、全体を通して御意見を下さい。少し距離を置いて全体をさっと見ると、やはりウエートの置き方で少し気になるところとか、そういう事項が出てくるかもしれません。いかがですか。

【川上委員】
 「研究交流等の促進」の後ろのほうで複数の量子ビームを利用するということを書かれていますが、そこのところがこれまで十分議論されたかどうか、私の記憶にはありません。これは私自身すごく良い考えだと思っているのですが、もう一度説明していただけないでしょうか。

【福山主査】
 この議論は少しはあったかと思いますけれども、お願いします。

【林室長】
 議論の中では福山先生から何回か指摘があったのではということで、書かせていただいております。中性子と特に放射光は違った特徴があることから、放射光でやって分からないことが中性子で分かったり、中性子で分からないことが放射光で分かったりということがあると思います。例えばタンパク質の構造もそうですし、磁性を計る際も放射光と中性子で見えるものが違うなど、いろいろあると聞いておりますので、中性子と放射光を両方使うということも進めていくことが必要だろうと考えております。ただ、そのときにいきなり皆様に使ってくださいと言っても、これは中性子の議論でも同じなのですが、やはりなかなか成功例がないと分からないですねという話もあります。原子力機構は量子ビーム応用研究部門として中性子、放射光、イオンビームを持ちながら研究を進めておりますし、高エネ機構も、下村理事がこの前プレゼンテーションされたように、J‐PARCの中性子とミュオンと、もしくはPFを一緒に使いながら研究をやっている、もしくはやろうとしています。ほかにも例えば理研などもありますが、今ここでは中性子ということですので、原子力機構と高エネ機構を中心に置いて、中性子とほかの量子ビームを使った先端的な研究をしてもらって、いろいろ成功例を出してくださいというお願いも含めて書いています。同時に、最終的にはSPring‐8も含めてどう使っていくかというようなことは、また別途の議論として我々に課せられた宿題にもなっておりますので、そこを少しやっていく必要があるということを書いております。ただ、理念的に言うのは容易ですけれども、実際、施設側ではいろいろ難しい状況もございまして、なかなか簡単にすぐできるというわけでもありません。やはり成功例を出してもらいながら、皆様が複数の量子ビームを使いたいという環境を醸成してもらいつつ進めていくのが重要だろうということで、このように書かせていただいております。

【川上委員】
 どうもありがとうございました。是非そこのところはしっかりとフォローしていただければと思います。

【西村委員】
 今の議論と関連するのですけれども、資料中に「特に中性子利用研究が発展途上にある分野」とありますが、これはライフサイエンスが該当すると思いますが、やはりこの分野から中性子を使っての大きな展開がないといけないと思いますし、そういう意味でそうした抽象的な言葉ではなくて、例えばはっきりとライフサイエンスと書けばいかがかと思いながら拝見させていただきました。全体的な感想としては、非常に良くまとまっていると思いますが、ただし、ライフサイエンスという言葉が一つも出てこないところが気になりました。

【福山主査】
 生命科学というキーワードはあるけれども、ライフサイエンスとは言っていないということですか。

【西村委員】
 はい。ただし、生命科学という言葉でも結構だとは思いますし、非常に上手な書き方だとは思います。

【大竹課長】
 発展途上の分野という記述に替えてライフサイエンスと限定的な記述にするのは極力避けたい感じではあります。前半のほうに医薬における期待とか、そういうことも書いていることもあり、それにライフサイエンスの人だけに使っていただきたいわけでもないため、このような表現にさせていただければと思います。

【西村委員】
 結構だと思います。

【亀井委員】
 非常に良くまとまった報告書になっていると思います。ただ、非常に末節な話ではございますが、日本中性子科学会が最初はフルネームなのですが、途中から科学会になっているとか、あとは平成と西暦が入り混じって記載されているところがあって、そういうのは少々気になりました。私としては、例えば共用促進法の話やJ‐PARCの話とか、参考資料を充実させていただければ、第三者が読んでもよく理解できる文章になるのではないかと思いました。

【長我部委員】
 9ページの(3)最初の人材育成のところですが、その項目の一番下から2行目のところ、支援員が自らの研究も行える環境の整備ということで書いてあるのですが、もし、このために制度上の何か障害があるのであれば、それをもう少し具体的に書いておくのも良いかと思いました。例えば、複数ファンディングを一人のポスドクにつけがたいなどの事情が現状としてあるのであれば、そうしたことを書いておくのも良いかと思った次第です。

【大竹課長】
 これはSPring‐8などの中である程度やっていることなのですが、例えばマシンタイムの一部をそういう支援員がビームラインの性能向上の研究に使用したり、そのための研究費をそれなりに公金なり運転費の中で確保したりということをやっております。メニュー的には支援員の人件費といろいろな運転経費が入っていればよいわけですけれども、その中にどの程度そういう部分を盛り込むかで、いわば本当に単なる支援員と、もう少し高度な技能職員というところの差が将来的に出てくるというところをまず意図したところです。

【長我部委員】
 こう書いてあるだけで実質的に事が済めばそれで良いと思いますので、もし何か具体的にこの報告書に書かれることによってもっと進むのであれば、そのほうが良いかと思った次第なので、これで充足しているのなら結構だと思います。

【福山主査】
 どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。8ページの中段、戦略的研究開発というところで、戦略性が大事だということをかなり強調されている。しかし、この大きなマシンを使うのにやはりサイエンスの部分は重要で、それは基本的にはボトムアップである。そのボトムアップの面があるのは当然のことなのですが、それがあまり前面には出てないと思うのです。アカデミア、学会、大学の関係者、よろしいでしょうか。例えば8ページの戦略的研究開発の実施の最初の行のところに、課題の公募・選定という従来のプロセスに加えという文言があるのですけれども、全編を通してボトムアップ的な研究の活動の位置づけというのはあまり強調されていないかもしれません。しかし、ここにこういう文言があれば、そのことは常識だからあえて強調する必要はないと理解してよろしいでしょうか。産業利用ということに関して非常に配慮されているキーワードが、いろいろなところに文言として入っている。そしてそのサイクルの一番ベーシックな基礎科学は基本的にボトムアップである。そこにもちろん戦略性も入っていなければいけない。その戦略性に関しては、今のところで言及はされているのですが。山田委員としては今のでよろしいですか。特に御意見ございますか。

【山田委員】
 意識的にそういうボトムアップ的な研究ということを入れるかどうかですね。読んでいくと、幾つかそういう場所はあると思うのですが、初めての人にも使いやすいようなものにするとかあるのですが、そのボトムアップ的な研究を非常に重要視するというようなところは確かに具体的には表現はないのですが、言われてみるとそうかもしれません。

【福山主査】
 当然だという意味なのかもしれませんが、それでよろしければ。

【山田委員】
 いや、むしろ当然かなという気がしていたのですが。

【福山主査】
 念のためどこかで一度言っておくということもあるかもしれません。

【山田委員】
 はい、一カ所どこかに入れておいてもよいかもしれないです。

【井上委員】
 しかし、ボトムアップという言葉だけ出ると、それに対立するのはトップダウンであり、トップダウンという言葉もどこかにあってという話になるような気がします。

【福山主査】
 それは戦略的利用が同じだと思います、戦略という言葉が。

【井上委員】
 学術コミュニティの意思形成に基づいたというような記述あたりは、どちらかというとボトムアップ的プロセスではないのですか。これはどう読めるのでしょうか。

【林室長】
 これは最初に書いたときにはトップダウンとボトムアップということで書いてありましたが、それだと都合が悪いということで、今こうした記述になっています。おっしゃるように、多分ボトムアップには二種類あって、従来のボトムアップというのが課題の公募・選定というプロセスで、ここで「学術コミュニティの意思形成に基づいた」は、ある意味では戦略的ボトムアップとでも言ったほうがよいのかもしれないのですが、そうしたボトムアップとトップダウンという言葉を入れ出すと、多分全体がまとまりつかなくなってしまうのではないかと思い、戦略的ということで関連させようとしています。

【福山主査】
 やはり考えて書かれているなと思いました。そういうことでよろしいでしょうか。

【永宮J‐PARCセンター長】
 一言だけ簡単によろしいですか。皆様が御指摘のように、この報告書は非常にうまく書かれているのですが、私どもの中で、この共用促進法を適用したときにどうなるかということに対してワーキンググループをつくって何回も議論をいたしました。その中で出てきた問題が、ほとんど皆様がお話になったのでありますけれども、一つだけどなたも言及されなかったこととして、登録機関と設置者の問題があります。SPring‐8のときは設置者が理研で登録機関がJASRIであるというのは、もともと法人が二つあったためにそういうことになっているわけですけれども、J‐PARCの場合は、J‐PARCセンターというのが何かJASRIのような役目を果たしながらも、立場としては法人ではありませんので、設置者側に立たざるを得ないという事情があるわけです。そうしますと、登録機関をどうするかというのは、我々のワーキンググループでは、かなり大きな議論になっていました。そこで、J‐PARCセンターから離れた登録機関にするのか、それとも、これは共用促進法が通った後の問題ですけれども、J‐PARCセンターが登録機関的な役割を果たすようにするのかといった議論が起こりました。これが6ページ1のところに触れられていまして、1の中段あたりに原子力機構と高エネ機構の共同組織であるJ‐PARCセンターが運営を行うことを前提に必要な体制をこれまで整備してきた。このため、J‐PARCの中性子利用施設に関する利用促進業務を実施する組織については、当該センターを当面活用していくことを含めて検討していく必要があるということで、ぼかしているというか、そういう可能性も含めて将来考えていくということをうまく書かれています。すなわち、報告書については全く文句はないですけれども、そのことについて我々は随分内部で大きな議論がなされたという点をお伝えしておきたいと思います。

【福山主査】
 それはJ‐PARCセンターとしてはこれから一大課題だと思うのですけれども、この委員会としては、ここの書き方は絶妙だと思います。

【永宮J‐PARCセンター長】
 私もそう思います。ですので、一言だけコメントさせていただきました。

【福山主査】
 確かにここでさらっと書いてありますが、大事なことは網羅されていると思います。

【大竹課長】
 これ以上ストレートには書けないだろうというのが我々の検討の結果です。

【山田委員】
 一つお伺いしたいのですが、この報告書案は、いわゆる箱物ができたときに、その箱物からビームを安定供給して、それをいかに有効に使うかという観点から書かれているのですが、その箱物自体に関してのことがここでは一切触れられていないのですけれども、「はじめに」というところに非常にエクスプリシットに、1ページ目の下から十数行目において建設費が1,524億円(第一期)と書かれています。ここは非常にエクスプリシットに書かれているという印象を受けたのですが、これも多分非常によく考えて書かれたので、どういう意図で書かれたのかというのを聞かせていただきたいと思います。

【大竹課長】
 これについては前に徳永局長からもお話をいたしましたが、現在、進んでおりますプロジェクトにおいて現時点建設しているものの中で、多分、日本国政府の中で最も大きいプロジェクトです。要するに、今同時に進めている国家基幹技術で進めているスパコンが1,000億ですので、とにかく投入している税金のかさからいきますと非常に大きい。やはりそれだけのことをやっているので、文部科学省の意識としては、それにふさわしい活用をしないといけないと思っています。そこで、自らを戒める意図でそういうことを明確に書いたということです。

【山田委員】
 第一期と書かれると、普通は第二期というのを非常に気にしてしまうのですが、そういうことは特に気にしなくてよろしいですか。

【大竹課長】
 研究者の方々は、第一期が終わると今すぐ明日から第二期をお願いしますと言ってこられるでしょうけれども、第二期がすぐできるかというと、これもなかなか言いがたいところがあります。ここで第二期というのを書かないと文部科学省は第二期についてはやめたのかと、いろいろ御批判も賜りますので、第一期でこれだけの建設費がかかり、まずは成果を出すことが重要だということは、我々に対する牽制球でもあるのですが、やはりこういうものを建設される方にも、まず成果を出して次のステップへ行きましょうという意図になると思っております。

【福山主査】
 これも大変よく考えられています。全体を通していかがでしょうか、先ほども途中で御議論ございましたけれども、非常に簡にして要を得てメッセージが明確に書かれていると思います。本日はいろいろな御意見がございました。反映できるところはうまく文言を工夫しようと思います。基本的には本日いろいろいただいた御意見に関してはお互い納得できたと思います。その他、細かい事項に関しては幾つかコメントあるかとは思いますが、それに関しては主査一任とさせていただいて、事務的に調整させていただきたいと思います。よろしいでしょうか。そうであれば、本報告書案は了承されたということにさせていただきたいと思います。修正というか、文言を何か加えるところが具体的に少々あると思います。

【大竹課長】
 三カ所ぐらいあると思います。

【林室長】
 三カ所ぐらいありますので、またお配りいたします。

【福山主査】
 御対応よろしくお願いいたします。

【新井オブザーバー】
 一点だけですが、気になった部分がありまして、中性子科学会の評議員としてこんなことを言うのも何なのですが、8ページの先ほどの戦略的研究開発のところで、トップダウンだとかボトムアップだとかお話がありましたけれども、それは先ほどの国からの立場だとか、またはコミュニティの立場からというふうに解釈するわけなのですけれども、そこのパラグラフの最後のところにユーザーコミュニティである中性子科学会とも連携を図りながらということで、コミュニティというのを非常に特化してしまっているわけです。ところが、J‐PARCセンターの中には現在既に利用者懇談会や産業利用推進協議会というのがありますし、またはこういった種類の研究に対して、現在でも既に中性子科学会以外のグループでもそういった戦略的なコミュニティのボトムアップの研究をやりたいというお話が幾つも出てきています。ですから、そのあたりの最後のユーザーコミュニティである中性子科学会というふうに特定する記述は将来的にどうなのかというのが非常に素朴な疑問なのです。ですから、例えばこのあたりを、国やユーザーコミュニティとの連携を図りながらというふうにすれば良いのではと思った次第です。

【山田委員】
 中性子科学会等にしたらどうでしょうか。

【新井オブザーバー】
 等でもよいですが。

【大竹課長】
 「日本中性子科学会などのユーザーコミュニティとも連携を図りながら」とするのはいかがでしょうか。

【山田委員】
 それで結構です。

【福山主査】
 中性子科学会会長である山田委員もよろしいとおっしゃっています。どうもありがとうございました。それでは、この報告書案、基本的に御承認いただいたということにさせていただきます。

(2)永宮J‐PARCセンター長よりJ‐PARCの現状について説明があり、その後以下の議論が行われた。

【川上委員】
 ビーム発生直後のテスト実験のデータについて、既にKENSのデータよりはるかにすぐれているとおっしゃいましたが、はるかにというところが何か非常に科学的ではない表現なのですけれども、例えばこれは分解能とかSN比とか、何かそういう形なのかどうか。それで、左下のところには陽子ビーム強度は0.07kW(キロワット)で12月のDay‐1強度の約1,000分の1ということで、ではその1,000倍になるとそれがさらにどのぐらいいくとか、もう実現できているかというところをお示しいただけますか。

【永宮J‐PARCセンター長】
 15ページ目のデータは初日にとられたので、それが優れているかどうかというのは、KENSのデータが示されていなかったので、一目瞭然ではありません。その比較を6月に同じ実験グループでやってもらったのが18ページのデータなのです。サンプルは違いますけれども、シリコンでKENSのデータと今のデータとでどれくらい分解能が違うかということを示しています。

【川上委員】
 この赤と緑の違いということですね。

【永宮J‐PARCセンター長】
 はい。

【川上委員】
 この緑の1.36の少しの距離のところに2本シャープなのが出てきて、これは本物といいますか、意味のあるラインですか。

【永宮J‐PARCセンター長】
 これはログプロットですので、それは何かあるかもしれません。もう少し強度を上げれば何か出てくるかもしれません。しかし、重要な点は、だらっとテールを引くのがなくなったことと、分解能が約10倍になったということです。

【川上委員】
 18ページ目で見ると、SNも大分違いますよね。

【永宮J‐PARCセンター長】
 はい。

【川上委員】
 だから、そういうのを具体的に見せてもらうと、すべて非常に分かりやすいですよね。

【福山主査】
 試料の大きさという点ではどのくらい小さいのでもきちんとデータがとれますか。

【永宮J‐PARCセンター長】
 そこに関しては、新井中性子利用セクションリーダーよりお願いします。

【新井オブザーバー】
 これはテスト実験であり、通常サイズの試料を使ってやっております。

【福山主査】
 ですから、将来的にはかなり小さいのができるはずですよね。

【永宮J‐PARCセンター長】
 高エネ機構グループがつくった長尺ビームラインは今世界で一番長いビームラインであり、分解能を上げるのに都合がよいのですけれども、重要な点は、中性子源に大きな工夫があったということです。

【永宮J‐PARCセンター長】
 これは原子力機構と高エネ機構のコラボレーションといいますか、工学と理学の融合といった感じのことが非常にうまく働いている一つの例だと思います。

【福山主査】
 さっきのAICデカプラですか。

【永宮J‐PARCセンター長】
 そういうことです。

【福山主査】
 銀とインジウムとカドミウムでデカプラというのは初めてなのですか。

【池田オブザーバー】
 これはこの目的で使ったのは我々が初めてです。実際には原子炉のコントロールロッドの一つの材料として使われたという過去の実績はあります。

【永宮J‐PARCセンター長】
 これはSNSでも使っていないので、我々のところで非常にすばらしい成果になると思います。

【福山主査】
 銀、インジウム、カドミウムという変わった組み合わせにより、このような素材ができるのですね。

【池田オブザーバー】
 本当はボロンを使いたかったのですが、ボロンも劣化してしまうということで、吸収反応でそれと同じような効果を出す、そこに着目して実現したということで、工学の勝利だと思っております。

【永宮J‐PARCセンター長】
 繰り返しますが、原子力機構の中性子源グループが一生懸命いろいろ工夫して出した成果だと思っております。

【福山主査】
 どうもありがとうございました。
 これで本日の会議は終了です。報告書案も形になりまして、どうもありがとうございました。最後に事務局を代表しまして藤木審議官からごあいさつをよろしくお願いいたします。

【藤木審議官】
 非常に短期間の間にすばらしい報告書をまとめていただきましてありがとうございました。私もいろいろな委員会、懇談会に出ておりますが、これだけポジティブな雰囲気で和気あいあいとした議論を行っていただける委員会というのはこれが初めてでございまして、それだけ議論していただいた委員各位の気持ちが一つになり、非常にすばらしい方向性を出していただいたことと思い、本日は大変感激しながら議論を聞かせていただいておりました。本日は報告書の内容がコンパクトでよくまとまっていると評価していただきまして、事務局としては大変喜んでいるところでございますが、内容は実際に現実化しないと意味がありませんので、私どもといたしましては、これまでいただいた御助言に沿うよう頑張りたいと思います。
 しかし、それには法律を整備しなければならないという課題がありますし、SPring‐8とは異なり、J‐PARCには特有の事情がある、そういったことも踏まえながら制度化を進めていかなくてはいけないし、何よりも、先ほど1,500億円という話が出ておりましたが、それに対して国民一般の方々からきちんと理解が得られるよう、引き続き努力をしていかなくてはいけないという重責を我々行政としても感じている次第でございます。
 今後も報告書の内容を現実化していく上で、是非いろいろな知恵をお借りできればと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

‐了‐

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(研究振興局基礎基盤研究課量子放射線研究推進室)