研究開発成果の取扱いに関する検討会報告書

2002/05/20
研究開発成果の取扱いに関する検討会


研究開発成果の取扱いに関する検討会
報告書



平成14年5月


研究開発成果の取扱いに関する検討会


目次

はじめに
第1章  検討範囲

第2章  研究開発成果の取扱いの現状と問題点

  1 研究開発成果の取扱いの現状
  1. 研究開発成果の帰属
  2. 研究開発成果の利用
  (1)研究開発成果の研究開発の場での広い利用
  (2)知的財産の産業利用
  (3)研究開発成果の広い利用と知的財産の保護の両立
  2 研究開発成果の取扱いにおける問題点
  1. 新しい知の創造を図るという観点から見た問題点
  2. 我が国経済の活力維持・持続的発展を図るという観点から見た問題点

第3章  研究開発成果活用の基本的考え方
  1 研究開発成果の帰属
  2 研究開発成果の利用
  1. 研究開発成果の研究開発の場での広い利用の促進
  2. 知的財産の産業利用の促進
  3. 研究開発成果の広い利用と知的財産の保護の両立

第4章  研究開発成果活用の具体的なあり方
  1 研究開発成果の帰属
  1. 研究開発成果の帰属
  (1)原始的帰属
  (2)利用を促進するための最終的な帰属
  (3)管理の実施
  (4)共有
  2. 研究者が異動した場合の帰属の変動
  2 研究開発成果の利用
  1. 研究開発成果の研究開発の場での広い利用の促進
  (1)研究開発の場での広い利用と利用の制限
  (2)利用の手続・提供価格
  (3)共有
  2. 知的財産の産業利用の促進
  (1)知的財産権等の実施(利用)の条件
  (2)知的財産権等の実施許諾等を受けている者の実施(利用)の増進
  (3)知的財産権等の実施許諾等を受けている者が不実施(利用)の場合の取扱い
  (4)知的財産権等の実施許諾等又は譲渡に伴う対価の公的研究機関・研究者への還元
  (5)共有
  3. 研究開発成果の広い利用と知的財産の保護の両立
  (1)知的基盤等の整備・提供と知的財産権による保護の両立
  (2)知的財産権による保護と広い利用との両立
  (3)知的財産の秘匿と広い利用との両立

<参考>用語の定義


はじめに

  現在、我が国は産業の国際競争力の低下、少子高齢化の進展等の課題を抱え、また、世界は地球規模の食糧、資源エネルギーの不足、地球温暖化等といった困難な課題に直面している。
  「知の世紀」と呼ばれる21世紀に踏み出した今、これらの課題を克服し、我が国が世界のトップランナーとして活躍していくためには、研究者が自由な発想により最大限能力を発揮できる競争的な研究開発環境を整備し、研究開発を推進することによって新しい知の創造を図り、それを積極的に利用していくことが重要である。
  換言すれば、新しい知の創造の結果創出された研究開発成果については、その利用によりさらなる知の創造に努力すること、及び国際的な競争環境の中での我が国経済の活力維持・持続的発展を図るため新たに創出された知の利用を促進すること、が要請されている。
  公的研究機関*1で創出される研究開発成果には、微生物、実験動物、植物新品種等の生物遺伝資源、化合物や材料のサンプル、岩石試料、各種計測データのような情報、図面(設計図、地形図等)や、発明、著作物等の知的財産など、有形あるいは無形の種々のものがある。
  しかしながら、公的研究機関における研究開発成果の帰属と利用のあり方が必ずしも明確でなかったため、上述のような要請に必ずしも十分に応えることができていないという問題があった。
  米国クリーブランド・クリニック財団で研究していた理化学研究所研究員が経済スパイ法違反容疑で起訴された事件を契機として、研究開発成果の帰属と利用に関する問題に対する関心が高まり、昨年12月には、総合科学技術会議により研究開発成果の取扱いのルールを緊急に整備すべき旨の提言がなされている*2
  これらの状況を踏まえ、文部科学省科学技術・学術政策局長及び研究振興局長の私的研究会として設置された「研究開発成果の取扱いに関する検討会」では平成14年1月以来、6回に及ぶ会合を開催して、研究開発成果の帰属と利用に関する問題の検討を行い、その取扱いに関する基本的な考え方を取りまとめた。
  なお、研究開発成果の取扱いの詳細については本来公的研究機関自身が主体的に決めるべきことであるが、各公的研究機関における、本報告書に示した考え方を踏まえた積極的な取組みがより一層望まれる。
  また、本報告書に示した考え方に基づき、公的研究機関以外の研究機関においても研究開発成果の利用の促進がなされることが期待される。



第1章  検討範囲

  本報告書における「研究開発成果」は、以下の範囲のものであり、公的研究機関の業務範囲に属するものを検討の対象としている。中でもこれまで帰属と利用のあり方が必ずしも明確でなかったものを中心に検討した。
  本報告書のその他の主な用語については、「<参考>用語の定義」を参照されたい。

<「研究開発成果」の範囲>

  研究開発成果とは以下のものをいい、有体物及び無体物からなる*3

1研究開発の際に創作又は取得されたものであって研究開発の目的を達成したこ  とを示すもの

論文等の刊行物発表の対象、学会やシンポジウムでの口頭発表の対象あるいは特許出願等の対象となりうるものは通常これに該当する。対象となりうるも  のとしては、ある疾病の治療に有用な新規化合物、新しく開発された情報処理装置、新たに発見した新種の昆虫等、種々のものが挙げられる。

2研究開発の際に創作又は取得されたものであって1を得るのに利用されるもの

例えば、化合物の新規合成中間体、情報処理装置を生産するのに用いられる素子、抗体を調製するのに用いられる抗原等が挙げられる。

31又は2を創作又は取得するに際して派生して創作又は取得されたものであって、財産的価値、学術的価値その他の価値のあるもの

例えば、研究開発の目的である微生物Aをスクリーニング・分離する際に取得された新規微生物B、天体Xを観測していた際に発見された天体Yの観測データ等が挙げられる。
「財産的価値、学術的価値その他の価値のあるもの」とは、財産的価値、学術的価値等、人間社会において何らかの価値があると判断されるもののことである。いわゆる廃棄物は通常3には含まれない。

  なお、13の対象について記録・記載した電子記録媒体、紙記録媒体等も含む。


第2章  研究開発成果の取扱いの現状と問題点

1.研究開発成果の取扱いの現状

  公的研究機関における、研究開発成果の帰属と利用に関するルールの現状は以下のとおりであり、総じて明確であるとは言い難い状況にある*4*5

1.研究開発成果の帰属

<特許権>
  特許権については、ほぼ全ての公的研究機関で帰属が定められている。主な国立試験研究機関、特殊法人、独立行政法人等では、ほとんどの機関で「原則として国・機関に帰属」あるいは「国・機関が一部又は全部を承継」とされている。また国立大学等では、旧文部省の通知*6により、応用開発を目的とする特定の研究課題の下に特別に国が措置した研究経費を受けて行った研究の結果生じた発明等については国に帰属し、それ以外は大学教官等に帰属する旨定められている。

<実用新案権及び意匠権>
  実用新案権、意匠権については、国立試験研究機関、特殊法人、独立行政法人等では特許権に準ずる取扱いがなされている。国立大学等では、実用新案権は特許権と同じ取扱いがなされているが、意匠権に関しては定めがない。

<データベース及びプログラムの著作権>
  データベース及びプログラムの著作権については、約半数の国立試験研究機関、特殊法人、独立行政法人等では、特許権に準じ「原則として国・機関に帰属」あるいは「国・機関が一部又は全部を承継」とされている。また、国立大学等では、旧文部省の通知*7により、国から特別に措置された経費を受けて作成されたデータベース及びプログラムの著作権は国に帰属し、それ以外は大学教官等に帰属する旨定められている。

<その他の研究開発成果>
  特許権、実用新案権、意匠権並びにデータベース及びプログラムの著作権以外の研究開発成果の帰属については、ほとんどの公的研究機関では定められていない。

  このように、公的研究機関における研究開発成果の帰属は必ずしも全てに関して明確にはなっていない。
  なお、研究者が異動した場合の特許権等の帰属については、総じて異動前と同様の(すなわち帰属の変動はない)取扱いとなっている。

2.研究開発成果の利用

  研究開発成果の利用を促進するには、そのための体制を整備し、創出された研究開発成果のうち権利化等が可能な知的財産の適切な保護を図る必要があるが、多くの公的研究機関においてはそれが十分になされていない。

(1)研究開発成果の研究開発の場での広い利用

  ほとんどの公的研究機関では、研究開発成果の研究開発の場での広い利用を促進するルール(研究開発成果の利用手続、利用を制限する条件等)の整備はなされていない。
  なお、知的基盤である生物遺伝資源等の提供を行っている公的研究機関には、その提供ルールを定めているところがある*5

(2)知的財産の産業利用

  特許権については、多くの公的研究機関では、実施料、実施許諾を受けた第三者が正当な理由なく実施しない場合の別の者への実施許諾、特許権が共有に係る場合の取扱い等のルールが通常定められている。
  また、実用新案権、意匠権並びにデータベース及びプログラムの著作権については、特許権に準じた取扱いがなされている場合が多い。
  しかしながら、特許権等の実施許諾等を受けている者の実施(利用)を増進するための配慮(事業活動の予見可能性の確保等)が十分なされているとはいえない状況にある。
  それ以外の知的財産の産業利用を促進するルールについては、ほとんどの公的研究機関では整備されていない。

(3)研究開発成果の広い利用と知的財産の保護の両立

  知的財産権によって保護された知的財産を知的基盤等として提供しようとする場合や、科学・学術的価値を有する知的財産を取扱う場合等、研究開発成果の研究開発の場での広い利用と知的財産の保護の両立を図る必要がある場合があるが、これについて規定等が整備されている公的研究機関はない。


2.研究開発成果の取扱いに関する問題点

  研究開発成果の研究開発の場での広い利用を促進し新しい知の創造を図るとともに、知的財産の産業利用を促進し国際的な競争環境の中で我が国経済の活力維持・持続的発展を図るという観点から、研究開発成果の取扱いの現状をみると、以下のような問題が抽出される。

1.新しい知の創造を図るという観点から見た問題点

1研究開発成果の不明確な帰属とその流通の阻害  

  研究開発成果の帰属が必ずしも全てに関して明確にはなっていないため真の所有者が明らかでないことがあり、また利用を促進するルールの整備がなされていないので、研究開発の場における研究開発成果の円滑かつ適正な流通が阻害されるおそれがある。

2研究開発成果の不適切な管理による知的資産の蓄積と研究開発の場での利用の阻害  

  研究開発成果が適切に管理されないまま廃棄されたり、滅失・国外流出したりするおそれがあり、知的基盤等の整備・提供をはじめとする知的資産の蓄積と研究開発の場での広い利用が進まないおそれがある。

3知的財産の保護との両立を図る必要がある場合の問題が未解決

  研究開発成果の研究開発の場での広い利用と知的財産の保護の両立を図る必要がある場合(知的財産権によって保護された知的財産を知的基盤等として研究開発の場へ提供する場合等)の適切な取扱いができないため、知的財産の研究開発の場での広い利用が進まない可能性がある*8

2.我が国経済の活力維持・持続的発展を図るという観点から見た問題点

1知的財産権等の実施(利用)が不十分

  知的財産を適切に保護し、知的財産権等の実施(利用)を促進する体制が不十分であることとも相応して、公的研究機関の知的財産権等の十分な実施(利用)がなされていない*9

2知的財産創出のインセンテイブ付与が不十分

  知的財産権等の実施(利用)と、それに伴う対価の公的研究機関・研究者への還元が不十分であるため、公的研究機関・研究者の知的財産創出のインセンテイブが付与されない。

3知的財産権によって保護された知的財産を事業として研究開発の場へ広く提供する場合の問題が未解決

  知的財産権によって保護された知的財産を事業として研究開発の場へ広く提供する場合(知的基盤等の整備・提供事業を行う場合)に適切な取扱いができない。


第3章  研究開発成果活用の基本的考え方

  研究開発成果の帰属と利用に関する問題を解決し、研究開発成果の利用を促進するための基本的考え方をまとめれば以下のとおりとなる。


1.研究開発成果の帰属

  知的活動の成果である研究開発成果の創出は、発明等の知的財産をはじめとして研究者の創作力・努力に大きく依存していることから、一般的に研究開発成果は原始的には研究者に帰属すると考えられる。しかしながら、研究開発成果の利用を促進するという観点から、契約、勤務規則その他の定めにより研究開発成果を最終的には公的研究機関に帰属させることが適当である。


2.研究開発成果の利用

公的研究機関は必要な体制(知的財産の権利化、知的財産関連訴訟の対応等のための体制)を整備し、創出された研究開発成果のうち権利化等が可能な知的財産の適切な保護を図る必要がある。
  それとともに以下のような研究開発成果の利用を促進するルールを整備することが適当である。

1.研究開発成果の研究開発の場での広い利用の促進

  基本的に公的研究機関・研究者が研究開発の場で自由に研究開発成果を利用できるようにする一方、公的研究機関・研究者には、研究開発成果を研究開発の場で広く利用可能とするための貢献(知的基盤等の整備をはじめとする知的資産の蓄積と研究開発の場での広い利用に対する貢献等)を求めることが適当である。
  その際、研究開発の場での広い利用を妨げることのないよう、その利用を制限できる場合を明確化するとともに、簡素な手続での利用が行えるようにする必要がある。

2.知的財産の産業利用の促進

  知的財産権等の実施許諾等を受けている者の実施(利用)の増進(事業活動の予見可能性の確保等)に配慮する。一方、知的財産権等の実施許諾等を受けている者が正当な理由なく知的財産権等の実施(利用)をしていないときは、知的財産権等の実施許諾等の取り消し、別の者への知的財産権等の実施許諾等又は譲渡を行うことが適当である。
  また、公的研究機関・研究者の知的財産創出のインセンテイブを付与するため、知的財産権等の実施許諾等又は譲渡に伴う相当の対価を公的研究機関・研究者に還元する必要がある。

3.研究開発成果の広い利用と知的財産の保護の両立

  研究開発の場での広い利用のため、第三者が知的基盤等として整備・提供しようとしている知的財産が、公的研究機関の有する知的財産権によって保護されたものである場合、公的研究機関はその実施(利用)を許諾し、収益目的のときはそれに伴う相当の対価を取得する必要がある。
  知的財産権では保護されない知的財産であって、科学・学術的価値も有するものについては、公的研究機関・研究者が研究開発の目的等を考慮してケースバイケースで判断することが適当である。

第4章  研究開発成果活用の具体的なあり方

  第3章の基本的考え方を踏まえ、本章においては、公的研究機関が研究開発成果の帰属と利用のルールを具体的に検討していく際のポイントとなる事項(枠の中)及びその解説を示すこととする。


1.研究開発成果の帰属

1.研究開発成果の帰属

(1)原始的帰属

一般的に、研究開発成果は原始的には研究者に帰属すると考えられる。

  発明、考案、意匠、著作物、回路配置、植物新品種等の知的財産は、基本的に法令によってそれを創作した研究者に帰属する*10
  研究開発成果としての有体物(その創出も発明等の知的財産と同じく知的活動によるものであり、研究者の創作力・努力に大きく依存する)についても、通常研究者に帰属すると考えられる*11

  しかしながら、創作された研究開発成果としての有体物が、その研究開発分野の通念・常識からみて、そもそも「新たな物」といえない場合、及び財産的価値、学術的価値その他の価値の著しい向上あるいは新たな付加を伴わない場合は、原材料を提供した公的研究機関の帰属となると考えられる*12
  なお、研究者とその使用者等である公的研究機関との関係によっては、研究開発成果が公的研究機関に原始的に帰属する場合もある*13

(2)利用を促進するための最終的な帰属

  原則として、原始的に研究者に帰属している研究開発成果は契約、勤務規則その他の定めにより最終的には公的研究機関に帰属させるのが適当である。

<法人格を有する公的研究機関への研究開発成果の帰属>

  研究開発成果の最終的な帰属については、その利用を促進するという観点から、研究者の使用者等である公的研究機関の研究開発成果創出の貢献(研究開発費、研究用材料、研究開発施設・設備などの提供等による貢献)も考慮して、各公的研究機関が最適な形態を決定するものと考えられるが、現状では、研究開発成果を最終的に研究者に帰属させると、以下のような問題が生ずる。
a. 発明、考案、意匠、植物新品種、回路配置のように権利化されると登録、公示がなされるため、真の所有者を知ることができるものを除き、第三者には研  究開発成果の所有者が研究者自身であるのかそれともその他の者・機関であるのかを外観で判断することができない。そのため、研究開発成果の円滑かつ適  正な流通が妨げられるおそれがある。
b. 生物遺伝資源、計測データ等の研究開発成果が適切に管理されないまま廃棄されたり、滅失・国外流出したりするおそれがあり、知的基盤等の整備・提供  をはじめとする知的資産の蓄積と研究開発の場での広い利用が進まない。
c. 知的財産の権利化、知的財産権等の実施許諾等又は譲渡、秘密の知的財産の管理(勝手に開示されるとその財産的価値が失われる)、知的財産関連訴訟の  対応等には多くの時間・費用・手続等を要し、そのための法律的知見やノウハウの不足している多くの研究者には適切に対処できない。また、研究者の研究  開発活動に付随する補助的業務の負担がさらに増大する結果、研究者による知的財産権等の有効な活用がなされない可能性がある。
d. 増加する公的な研究経費による研究開発成果を研究者に帰属させることに対する国民の理解を十分に得ることが難しい*14
  したがって、原則として研究開発成果は研究者とその使用者等である公的研究機関の間の契約、勤務規則その他の定めにより公的研究機関の帰属とする(法令の制限内で帰属させることを予め定めておく場合、すなわち予約承継の場合、を含む)のが適当である*15*16*17。ただし、公的研究機関が不要とした研究開発成果についてはこの限りでないと考えられる。

  なお、上述の問題は、研究者が他の者・機関から提供を受けた研究開発成果を取扱う場合にも生じうるため、それも同様に公的研究機関の帰属とするのが適当であると考えられる。したがって、研究者が他の者・機関から研究開発成果の提供を受けた場合、契約、勤務規則その他の定めにより、それを公的研究機関に帰属させる旨の届出等の提出を研究者に求めることが適当である。その際には研究開発成果を提供した他の者・機関の意志や提供条件を確認しておく必要がある場合もあろう。
  また、諸外国においても研究開発成果は機関の帰属とされていることが多い。

<国立大学等における法人化までの当面の帰属の取扱い>

  学術研究は、本来、研究者の自由闊達な発想を源泉として展開されるものであり、研究組織内での指示・命令に従う研究とは基本的に性格が異なっているものの、研究開発成果の利用という観点からみた場合、学術研究により創出された研究開発成果についても、原則機関すなわち国の帰属とすることが望ましい。
  しかしながら、現段階で全ての研究開発成果を国の帰属とすると以下のような問題が生ずる。
a. 新しいルールの周知が不十分となって現場の混乱を生じさせる懸念があり、また、国立大学等によっては、国有の特許等の活用を進める体制が制度変更と同時期には整備できない可能性が高い*14
b. 基本的に知的財産権が国有財産となる結果、その利用の手続が煩雑となり、知的財産の有効、円滑かつ迅速な産業利用が妨げられるおそれがある。
c. 国立大学等における事務負担が急激に増大するおそれがある。
  したがって、当面は国立大学等における研究開発成果の帰属のルールは基本的に現状のままとし、その具体的な取扱いは以下のとおりとするのが適当である。

  なお、法人化後は原則として組織(法人)に帰属させるのが適当であると考えられるので、国立大学等においては今からそのための準備を進めていく必要がある。

<発明、考案、意匠、植物新品種及び回路配置>
  発明及び考案については、これまでどおり旧文部省の通知に従い、応用開発を目的とする特定の研究課題の下に特別に国が措置した研究経費を受けて行った研究の結果生じた発明等については国に帰属させ、それ以外は大学教官等に帰属させる*18
  職務で創作した意匠及び植物新品種については、意匠法及び種苗法において特許法の職務発明と同旨の規定が存在する*19ことから、旧文部省の通知を準用*18し、発明等と同様に取扱うのが適当である。
  職務上創作をした回路配置については、半導体集積回路の回路配置に関する法律第5条により国に帰属する。「職務上」創作をしたものであるか否かは、職務発明に関する考え方と同様に処理できることから、職務上創作をした回路配置についても、旧文部省の通知*18を準用し、発明等と同様に取扱うことが可能であると考えられる。

<データベース及びプログラムの著作物>
  これまでどおり旧文部省の通知に従い、国から特別に措置された経費を受けて作成したデータベース及びプログラムの著作物の著作権は国に帰属させ、それ以外は大学教官等に帰属させる*20

<研究開発成果としての有体物>
  微生物、材料サンプル等、研究開発成果としての有体物については、外観を信用した円滑かつ適正な取引・流通を可能とし、また知的基盤等の整備・提供をはじめとする知的資産の蓄積と研究開発の場での利用を促進するためにも、国の帰属としておくのが適当である。その際、当該有体物を煩雑な手続無しに提供できるよう、関係法令にも留意しつつ、学内規定の制定等体制を整備する必要がある。

<帰属の変更時>
  現在、大学教官等の帰属を原則とする知的財産権の帰属の在り方の変更を法人化時とするのは、以下の理由による。

a. これまでは大学などの学術研究機関の場合には業務範囲がどこまでなのか不明確なところがあった*21。しかし、法人化後は、下位法令で定められる各大学毎の業務の内容や、各法人が定める業務運営の目標・計画*22が明確であれば、当然その業務範囲も明確となるといえる。
b. 組織(法人)帰属としても、国の会計関連法令の適用を受けないため、知的財産権の有効な活用が図られる。
c. 法人化後の国立大学等における産学官連携に関する業務(リエゾン機能、TLO、特許等知的財産権の管理など)については、各国立大学等の主体的な判断により、事務組織のあり方等を含め、弾力的・効果的な推進体制を整備できるようにする*22ことが検討されており、各国立大学等が責任を持って知的財産権の活用に取り組むことが可能になる。

(3)管理の実施

1   公的研究機関に帰属する知的財産権及び秘密の知的財産については、公的研究機関の知的財産担当部門が管理を実施するのが適当である。
2   知的財産権及び秘密の知的財産以外の研究開発成果については、公的研究機関の責任のもとに、研究者が管理・保存を実施するのが適当である。

1知的財産権及び秘密の知的財産

  研究者が知的財産権や秘密の知的財産を管理する場合には、管理のための手続の負担に伴う研究開発活動への影響が生じ、また、法律的知見の不足等の理由により適切な管理がなされなくなるおそれがある。したがって、公的研究機関の知的財産担当部門がこれらの管理を実施するのが適当である。

2知的財産権及び秘密の知的財産以外の研究開発成果

  公的研究機関に帰属する知的財産権及び秘密の知的財産以外の研究開発成果(微生物、材料サンプル、各種データ、試作品等)については、研究者が専門的な知見を有し、適切な管理・保存方法に熟知していることから、公的研究機関の責任のもとに、研究者がその管理・保存を実施するのが適当と考えられる。

(4)共有

  共有に係る研究開発成果の持ち分は、法令に定める場合を除き、公的研究機関と他の者・機関との契約により定めるのが適当である。

  法令に定める場合とは、特許権及び実用新案権に関し、研究交流促進法第7条の規定により同法施行令第5条に定められる場合が挙げられる。

2.研究者が異動した場合の帰属の変動

  契約、勤務規則その他の定めがある場合を除き、研究開発成果を創出した研究者が異動しても、一般的には公的研究機関の研究開発成果の帰属を変動させないことが適当である。

  研究者の異動に伴い研究開発成果の所有権や知的財産権が頻繁に移転することになると、外観を信用した研究開発成果の円滑かつ適正な取引・流通が妨げられる。また知的財産権が移転することにより、ライセンス契約の打ち切り、新権利者による権利行使がされた場合への対応等、知的財産権の実施(利用)許諾を受けた者の事業活動における予見可能性を害し安定的に実施(利用)が行えない状況が生じるおそれがある。したがって、一般的には研究開発成果を創出した研究者が異動しても帰属を変動させないことが適当である。

  しかしながら、研究開発成果の管理・保存がそれを創出した研究者にしか行えない場合(例えば研究開発成果が特殊な菌学的性質を有する微生物であるといった場合)や、知的財産を創出した研究者自身が知的財産権等の実施(利用)を行う場合等は、契約等により研究開発成果の帰属を変動させることが適当である。


2.研究開発成果の利用

<体制の整備>
  研究開発成果の利用を促進するには、まず公的研究機関の体制*23を整備し、創出された研究開発成果のうち権利化等が行える知的財産の適切な保護を図る必要がある。
  体制の整備では、とりわけ研究開発成果の利用に関する業務を行える人材の育成・確保が重要である。

<ルールの整備>
  それとともに以下の項目に掲げるような研究開発成果の利用を促進するルールの整備を行う必要があると考えられる。
  

1.研究開発成果の研究開発の場での広い利用の促進

(1)研究開発の場での広い利用と利用の制限

  公的研究機関・研究者は原則として研究開発成果の研究開発の場での利用を制限することは適当でない。ただし、研究開発成果を研究開発の場で広く利用させることが適当でないような場合はその利用を制限することができると考えられる。

  公的研究機関・研究者が研究開発の場で自由に研究開発成果を利用できるようにする一方、公的研究機関・研究者には研究開発成果を研究開発の場で広く利用可能とするための貢献(知的基盤等の整備をはじめとする知的資産の蓄積と研究開発の場での広い利用に対する貢献等)を求めることが適当である。研究開発成果の研究開発の場での広い利用は、研究開発成果の提供、公開により達成できる。

<利用の制限>
  研究開発成果を研究開発の場で広く利用させることが適当でないような場合には、以下に掲げるような場合が挙げられる。

a. 研究開発成果が国家安全保障上重要なものである場合
国家安全保障上重要なものを広く利用可能とするのは当然適当でない。
b. 研究開発成果の利用が法令の規定に違背する場合
例えば植物防疫法により分譲が禁止されている微生物を分譲する場合、などが挙げられる。
c. 研究開発成果の利用が公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害する場合
具体的には生命倫理に反したヒト胚細胞の利用がされる場合、などが挙げられる。
d. 研究開発成果が個人プライバシーを含む場合
例えば特定患者の治験データ、特定の者から取得したヒト細胞などがある。
e. 研究開発成果の提供(譲渡、貸与のみならず、複製の許可、送信等も含む。以下同じ)を受ける者に当該成果を適切に管理・利用する能力がない場合
例えば病原菌や毒性・爆発性の化合物等の取扱いが行えない場合等がある。
f. 研究開発成果が公的研究機関・研究者には実際上複製できないものであって、それを提供することにより研究者の研究開発活動に支障が生じる場合
研究開発成果が公的研究機関・研究者には実際上複製できないものである場合(岩石試料、土壌や海水のサンプル等そもそも複製ができない場合と、複雑なプラント、装置、試作品のように理論上複製可能であるが実際上複製することが困難な場合がある)は、それを第三者に提供すると、結果として公的研究機関・研究者から研究開発成果を取り上げるのと同じことにな  るので、利用を制限できるようにするのが適当である。このような場合であっても、研究開発  成果を一元的に収集・管理している機関(博物館等)への譲渡や、研究開発成果の貸与により有効な利用が行える場合があることに留意しておく必要がある。
g. 論文・口頭発表前、知的財産権による保護が可能となる前(研究開発中)である場合
研究者の常識であり言及するまでもないが、発表による研究者の名誉・名声や知的財産権の確保の観点からのものである。
h. 研究開発成果が秘密の知的財産である場合
研究開発成果がノウハウである場合などはこれに該当する。
i. 研究開発成果の提供を受けた者が、それを公的研究機関・研究者の許諾を得ずに別の者に提供する可能性がある場合
生物遺伝資源の分譲を受けた第三者が管理能力のない別の者や産業利用をしようとする別の  者にそれを再分譲する場合、実際上複製できない研究開発成果の貸与を受けた第三者がそれを勝手に別の者に貸与(いわゆる又貸し)する場合、が挙げられる。

<知的基盤等の提供>
  公的研究機関・研究者による知的基盤等の研究開発の場への提供、及び研究開発の場へ広く提供するため知的基盤等の整備・提供を事業として行っている者・機関に対する公的研究機関・研究者からの研究開発成果の提供、についても同様に取扱うのが適当である*24

<民間事業者等による提供>
  知的基盤等として提供される場合も含め、研究開発成果としての知的財産が、研究開発の場への市場を通じた適正な価格での安定供給が可能な場合は、民間能力の活用という観点から、公的研究機関自身ではなく第三者(民間事業者等)による収益事業としての提供を図っていくべきである。
  なお、知的財産が公的研究機関の知的財産権等に係るものである場合は、当該第三者は公的研究機関から知的財産権等の実施許諾等又は譲渡を受け、それに伴う相当の対価を公的研究機関に支払う必要がある。

(2)利用の手続・提供価格

1   研究開発成果の研究開発の場での広い利用は、研究者が簡素な手続に  より公的研究機関の了承を得て行うことが適当である。
2   公的研究機関・研究者による研究開発成果の研究開発の場での広い利  用のための提供価格は、実費を上限(無償を含む)とするのが適当である。

1利用手続

  研究者は研究開発成果についての専門的な知見や研究開発の場の現状に関する知識を有し、また実際に当該成果の管理・保存を行っている。したがって、研究開発成果の研究開発の場での広い利用を促進するという観点からすると、研究者の判断によりその利用を図ることとした方が適当であると考えられる。

  ただし、公的研究機関の関知しないところで、研究開発成果の窃取、秘密の知的財産の不正開示等が行われないよう、研究者は公的研究機関の了承を得てその利用を図ることが適当である。一方、公開手続や研究材料提供契約(MTA)などによる提供手続が複雑であると研究開発成果の情報発信や円滑な取引が阻害されることから、利用手続は簡素なもの(例えば研究材料提供契約であれば所定の様式に研究者及び研究開発成果の提供を受ける者が必要事項を記入し公的研究機関の承認印を得るといったようなもの)とする必要がある。

<研究材料提供契約(MTA)>
  研究材料提供契約(MTA)に規定すべき事項としては、

     利用目的に関する事項(「研究開発目的に限定」、「研究開発のみならず産業利用も可能」等)
  研究開発成果の提供の制限に関する事項、
  対価に関する事項、
  免責事項(研究開発成果の提供を受けた第三者がそれを利用して生じた結果について責任を負わない場合等)、
  秘密保持に関する事項(研究開発成果が秘密の知的財産である場合等)、
  提供を受けた研究開発成果を利用して創出された新たな研究開発成果に関する事項
等が挙げられる。

<研究内容の制限>
  研究開発成果の研究開発の場での広い利用の促進は新しい知の創造を意図したものであることから、研究材料提供契約(MTA)において第三者の研究内容自体を制限するのは好ましくない。もっとも、研究開発成果の提供に対する謝辞や入手先を論文中に明記することを求めたり、提供を受けた研究開発成果を利用して得られた新たな研究開発成果に関する発表論文の提出を受ける等、科学技術・学術の領域において慣習とされている条件を付することは問題ないと思われる。

<修飾・改変体>
  研究開発成果としての知的財産を常法により修飾・改変等して得られたもの(例:ある化合物を慣用の保護基で修飾して得られる誘導体、常法によりある遺伝子で形質転換した細胞、表現方法を変更しただけのデータ等)の産業利用については、研究材料提供契約(MTA)により制限することが可能であり、別途知的財産権等の実施許諾等又は譲渡を求めることができるとするのが適当である。単なる常法による研究開発成果の修飾・改変等は新しい知の創造を意図したものということはできないからである。

<リーチスルー等>
  公的研究機関・研究者が、研究開発成果を研究開発のために利用した第三者に対し、新たに創出した研究開発成果の持ち分や研究開発成果が知的財産である場合の産業利用による対価等(リーチスルー等)を求めることができるか否かはケースバイケースで判断すべきである。

  ただし、論文・口頭発表、特許出願公開公報等により公開され広く公衆に利用可能となった研究開発成果情報をもとに第三者が新たに研究開発成果を創出した場合は、当該第三者にリーチスルー等を求めることは適当でない。このような研究開発成果情報は法令等の制限がない限り誰もが自由に利用できるようにすべきであり、第三者の利用を妨げるのは社会的に望ましくないからである。
  また、適正な条件・対価で提供を受けた研究開発成果をもとに第三者が新たに研究開発成果を創出した場合も、当該第三者にリーチスルー等を求めることは適当ではないと考えられる。研究開発成果の研究開発の場での広く適切な利用を促進し新しい知の創造を図るという意図に反しない限り、研究開発成果の適正な条件・対価での提供によって、通常、第三者に研究開発のため自由に利用し新たな研究開発成果を創出する権能が与られたと考えるのが適当である。
  それに対して、公的研究機関・研究者が、公開されていない研究開発成果情報を提供する場合、高額の研究開発成果を廉価あるいは無償で提供する場合等であって、これらの提供が第三者の新たな研究開発成果の創出に寄与するときは、公的研究機関・研究者もその創出の貢献度合いに応じてリーチスルー等を求めることができるものと考えられる。なお、前者のように公的研究機関の研究者が知的貢献をしている場合、当該研究者は共同創作者となることもあろう。

2提供価格

  これまで、研究者の間では、収益を目的としない研究開発成果の研究開発の場への広い提供が慣習となっており、これが研究者の研究開発インセンテイブを高めるとともに研究者間の自由競争を促し、新たな知の創造に寄与してきた。
  研究開発成果には、財産的価値のないもの、財産的価値の算定の困難なもの、公開されることにより公共財的性質を持つに至るもの(例えば、ひとたび論文発表、口頭発表された計測データ等の研究開発成果情報は非排除性及び非競合性を有し、公共財としての性質を有する)があり、また財産的価値はあっても需要が小さいものもあるので、市場を通じて適正な価格で安定供給できない(市場原理が働かず、収益事業として産業利用できない)場合が多い。このような場合は公的研究機関・研究者自身が研究開発成果の研究開発の場への提供を行う必要があり、その提供は通常収益を目的とすることはできないと考えられる。
  したがって、公的研究機関・研究者による研究開発の場への研究開発成果の提供に際しては、仮に相応の対価を求める場合であっても、その価格は、これまでの慣習も考慮し、管理等に実際に要した費用、いわゆる実費を上限とするのが適当であると考えられる。

  ただし、研究開発成果が知的財産権等に係る知的財産であって、研究開発の場での利用だけでなく、産業利用も許容する場合の対価はケースバイケースであって上述の限りではない。

(3)共有

  公的研究機関・研究者が共有に係る研究開発成果を第三者に研究開発の場で利用させることについては、予め共同研究契約等により他の共有者の同意を得ておくのが適当である。

  公的研究機関との共有に係る研究開発成果の研究開発の場での広い利用が妨げられるのを防止するため、公的研究機関・研究者が共有に係る研究開発成果を第三者に研究開発の場で利用させることについて、予め共同研究契約等により他の共有者の同意を得ておくことが適当である。

  しかしながら、研究開発成果を研究開発の場で広く流通させることが適当でないような場合は、他の共有者は研究開発成果の利用に必ずしも同意する必要はないと考えられる。
  また、他の共有者により、共有に係る研究開発成果としての知的財産が市場を通じて適正な価格で安定供給できる場合は、他の共有者によって研究開発の場への提供を図るのも一案といえる。
  ただし、知的財産が知的財産権等に係るものである場合は、公的研究機関は契約等によりその持ち分に応じた相当の対価の還元を他の共有者に求めることが適当である。

2.知的財産の産業利用の促進

(1)知的財産権等の実施(利用)の条件

  知的財産権等の実施許諾等又は譲渡の条件の設定については、法令及び公的研究機関と第三者との契約によることが適当である。

  研究開発成果の研究開発の場での広い利用における場合とは異なり、知的財産権等の実施許諾等又は譲渡の条件の設定については、法令の制限内で十分に実施(利用)がなされ最終的に国民の利益が最大となるよう、公的研究機関と第三者との間の契約で定める必要があると考えられる。
  契約により定められる条件には、期限(3年間実施が可能等)、範囲(日本国内全域、関東地方のみ等)、種類(独占的、非独占的)、行為(制限なし、製造のみ、販売のみ、複製のみ、秘密の知的財産の開示の禁止、複製困難な知的財産の別の者へのさらなる貸与(又貸し)の禁止等)、実施(利用)料などの対価等が考えられる。
  契約に際し、自身で実施(利用)しない公的研究機関は、

     知的財産権等の実施許諾等を受けている者の実施(利用)の増進
  知的財産権等の実施許諾等を受けている者が不実施(利用)の場合の取扱い、
  知的財産権等の実施許諾等又は譲渡に伴う対価の公的研究機関・研究者への還元、
に特に留意する必要がある。

(2)知的財産権等の実施許諾等を受けている者の実施(利用)の増進

1   公的研究機関は、知的財産権等の実施許諾等に際しては、第三者の事業活動の予見可能性の確保に配慮する。
2   公的研究機関は、知的財産権等の実施許諾等に際しては、第三者の事業活動を不当に制限する条件を付さないこととするのが適当である。

1事業活動の予見可能性の確保

  公的研究機関が知的財産権等の価値の変動を伴う行為*25をすると、第三者の受けた知的財産権等の実施許諾等の財産的価値も大きく変動する。
  公的研究機関の知的財産の産業利用と国民への成果の普及を進めるには、できるだけ知的財産権等の実施許諾等を受けた第三者の事業活動におけるリスクを減らし、事業活動の予見可能性が確保できるようにしておく必要がある。
  そのためには、公的研究機関は第三者との契約において、知的財産等の価値の変動を伴う行為の当該第三者への事前通知と了解に関する事項、公的研究機関と知的財産権等の譲渡先との契約で譲渡先の当該第三者に対する実施許諾等を約させることとする旨の事項、等を定めておく配慮が必要であろう。  

  なお、公的研究機関から知的財産権の実施(利用)許諾を受けている第三者はそれを登録しておけば、譲渡先に対抗することができる場合がある*26
  また、公的研究機関は知的財産権を放棄するに当たっては、実施(利用)許諾を受けている第三者の承諾が必要である*27

2事業活動を不当に制約する条件

  第三者の事業活動を不当に制約する条件には、製品販売価格・再販売価格や販売数量の制限、サービス提供価格の制限、製品の販売先や原材料・部品の購入先の制限、等のように第三者の事業化意欲を著しく減退させるとともに、第三者の製品・サービスの価格を支配し市場の価格決定機構に大きな影響を与えるものがある。知的財産権等の実施(利用)を促進する観点から、このような条件を付すことは適当でない。

(3)知的財産権等の実施許諾等を受けている者が不実施(利用)の場合の取扱い

  知的財産権等の実施許諾等を受けた者が正当な理由なく一定期間実施(利用)していない場合、公的研究機関は、知的財産権等の実施許諾等の取り消し又は別の者への知的財産権等の実施許諾等若しくは譲渡を契約等で定めることが適当である。

  公的研究機関の知的財産は産業利用を通じて広く国民に普及していくべきものである。しかしながら、知的財産権等の実施許諾等を受けた第三者が正当な理由なく実施(利用)しない場合、知的財産の産業利用による製品・サービス等の国民への普及が不当に妨げられることになる。したがって、このような場合は公的研究機関が上述のように取扱うのが適当である。
  
(4)知的財産権等の実施許諾等又は譲渡に伴う対価の公的研究機関・研究者への還元

  知的財産権等の実施許諾等又は譲渡をした場合、公的研究機関はそれに伴う相当の対価を受けることを契約等で定めることが適当である。また、公的研究機関はその対価の一部を研究者(知的財産権等の対象となっている知的財産を公的研究機関で創出したのち異動した研究者も含む)にも還元する必要がある。

  公的研究機関・研究者の知的財産創出のインセンテイブを付与するためには、実施(利用)料等の対価の一部を公的研究機関のみならず研究開発活動を行う研究者自身にも還元する必要がある。その際、人材の流動性を妨げることのないよう、対価の一部は知的財産権等の対象となっている知的財産を創出したのち他の機関に異動した研究者にも還元するのが適当と考えられる*28

<対価の額、配分割合>
  対価の額や公的研究機関と研究者の間の対価の配分割合については、個々の知的財産権等の財産的価値、公的研究機関及び研究者の知的財産創出に対する貢献や知的財産権等の実施許諾等又は譲渡に向けた貢献に応じ適宜決定されるべきと考えられる。

<法人化後の国立大学等>
  法人化後の国立大学等についても、知的財産権等の実施許諾等又は譲渡に伴う対価の取得は可能であるものと解される*29

(5)共有

1   公的研究機関は、他の共有者の同意を得なければ、知的財産権等の実施許諾等又は持ち分の譲渡をすることはできない。
2   他の共有者が正当な理由なく一定期間知的財産権等を実施(利用)していない場合、公的研究機関は、第三者への知的財産権等の実施許諾等又は持ち分の譲渡の同意を他の共有者に求めることが適当である。その際、当該第三者から取得した相当の対価は他の共有者にも還元するのが適当である。
3   公的研究機関は、契約等により知的財産権等の持ち分に応じた相当の対価の還元を他の共有者に求めることが適当である。

1他の共有者の実施(利用)における事業活動の予見可能性の確保

  法令の規定と同旨である*30
  他の共有者が有する知的財産権等の持ち分の財産的価値が変動するのを防止し、事業活動の予見可能性を確保することは、知的財産権等の実施(利用)において重要と考えられる。

2他の共有者が不実施(利用)の場合の取扱い

  公的研究機関の知的財産は産業利用を通じて広く社会に普及していくことが重要である。したがって、他の共有者が正当な理由なく実施(利用)しない場合には、他の共有者との契約によって、公的研究機関は、第三者への知的財産権等の実施許諾等又は持ち分の譲渡の同意を他の共有者に求めることが適当である。
  その際、知的財産の創出には他の共有者も関与していることに鑑み、知的財産権等の持ち分に応じて、他の共有者に対しても第三者から取得した相当の対価を還元することが適当である。

  なお、契約等に基づき他の共有者に設定された専用実施(利用)権についても、正当な理由なく実施(利用)されていない場合は、取り消すことができることとするのが適当であろう。

3公的研究機関・研究者への対価の還元

  知的財産権(著作権を除く)が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその知的財産の実施(利用)をすることができる*31
  一方、共同著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない*32
  いずれの場合であっても、公的研究機関自身が実施(利用)を行う能力を有していないため、他の共有者が実施(利用)を行うことになる。
  他の共有者が実施(利用)する際に、知的財産創出に直接貢献している公的研究機関・研究者に対する報酬などの見返りがないとすると、研究者の知的財産創出のインセンテイブを減殺し、中長期的には公的研究機関全体のシーズ創出能力にも悪い影響を与えるおそれがある。
  したがって、公的研究機関は契約等により知的財産権の持ち分に応じた相当の対価の還元を求めることができるとしても差し支えないものと考えられる。
  また、共有の有体物の場合は、他の共有者はその全部について、持ち分に応じた使用をすることができる(民法第249条)。他の共有者が複製困難な知的財産の公的研究機関の持ち分も利用するのであれば、公的研究機関はその持ち分に応じた対価を取得できるものと考えられる。

3.研究開発成果の広い利用と知的財産の保護の両立

(1)知的基盤等の整備・提供と知的財産権による保護の両立

1   知的基盤等の整備・提供を事業として行っている者・機関が、知的財産権によって保護された知的財産を研究開発の場へ広く提供するため、知的財産権の実施(利用)許諾を求めている場合、公的研究機関はそれを許諾することが適当である。
2   当該事業が収益を目的としている場合、公的研究機関は知的財産権の実施(利用)許諾に伴う相当の対価を受けることを契約等で定めることが適当である。また、その対価の一部を研究者(知的財産権等の対象となっている知的財産を公的研究機関で創出したのち異動した研究者も含む)にも還元する必要がある。

1実施(利用)許諾

  研究用材料(生物遺伝資源等)などの知的基盤等は公的研究機関・研究者の研究開発活動のみならず、広く経済社会活動を安定的かつ効果的に支えるものである。
  知的基盤等の整備・提供を事業として行っている者・機関(他の公的研究機関も含む)が、研究開発成果としての知的財産を研究開発の場での広い利用のため提供(複製、業としての生産や譲渡等)する際、それが公的研究機関の有する知的財産権によって保護されたものであることがある。
  知的財産権によって保護された知的財産を知的基盤等として整備・提供していくことができないとすると、知的基盤等を充実させることによる知的資産の蓄積と研究開発の場での広い利用が促進されず、結果として新しい知の創造を加速していくことができなくなる。一方、知的財産権によって保護された知的財産を自由に知的基盤等の整備・提供事業として産業利用できることとすると公的研究機関・研究者の知的財産創出のインセンテイブが損なわれることになる。
  この矛盾を調整するため、知的財産権によって保護された知的財産を知的基盤等として整備し研究開発の場へ広く提供することを可能とし、場合により公的研究機関が提供に伴う相当の対価を取得できるようするのが適当である。

  なお、研究開発成果としての知的財産を研究開発の場で広く流通させることが適当でないような場合、公的研究機関はその提供を制限することができる。
  また、特許権に係る生物遺伝資源については寄託が義務づけられており、第三者は試験又は研究の目的でその分譲を受けることができることとなっている*33

2対価

  知的財産権によって保護された知的財産を知的基盤等として市場を通じて適正な価格で安定供給する場合(知的基盤等の整備・提供を事業として行っている者が民間事業者である場合)は、知的基盤等の整備・提供という収益事業として知的財産権の実施(利用)をする場合であるから、公的研究機関は知的財産権の実施(利用)許諾に伴う相当の対価を取得することが適当である。
  一方、その逆である場合(知的基盤等の整備・提供を事業として行っている者が他の公的研究機関等である場合)は、収益を目的としたものではないので、公的研究機関が知的財産権の実施(利用)許諾に伴う対価を取得することは実際上適当でないと考えられる。

(2)知的財産権による保護と広い利用の両立

  知的財産権による保護が可能な知的財産については、必要に応じ保護を図る一方、研究開発の場での広い利用を可能とする。

  知的財産権による保護が可能な知的財産には、科学・学術的価値も有するものがあるが、知的財産の保護と産業利用の促進という観点からは、これが権利化されないまま広く利用可能とされるのは避けるべきであると考えられる。
  したがって、このような場合は知的財産権による保護を図りながら、研究開発の場での広い利用を可能とする取組みを行うことが適当である。

(3)知的財産の秘匿と広い利用の両立

  知的財産権によって保護されない知的財産であって、科学・学術的価値も有するものの取扱いは、それが適切に保護又は利用されるよう、公的研究機関・研究者が研究開発の目的等を考慮してケースバイケースで判断し、対応することが適当である。

  科学・学術的価値を有する知的財産を秘密の知的財産として産業利用するかそれとも研究開発の場での広い利用を可能とするかは、個々の知的財産の内容により判断するほかないと考えられるが、自身で秘密の知的財産の実施(利用)をしない公的研究機関・研究者にはその財産的価値の判断が難しい。
  公的研究機関・研究者が行える判断の一応の目安としては、以下のような研究開発の目的によるものが挙げられる。

a. 知の創造を目的とする基礎研究において創出されたものは、研究開発の場での広い利用を図る。
b. 実用化を目指す研究開発において創出されたものは秘密の知的財産(ノウハウ等)とし、産業利用を図る。
  企業等からの受託研究などのうちb.に該当するものについては、必要な場合には、企業等と協議の上、秘密の知的財産にして産業利用を図ることができると考えられる。


<参考>用語の定義

1.有体物

  有体物とは、空間の一部を占めて有形的存在を有するものをいう。

  民法第85条の有体物については、今日の社会的・経済的事情を鑑み、「法律上の排他的支配の可能性」と広く定義する学説も少なくないが、本報告書では、通説に従い上述のものとする。
  研究開発成果としての有体物には以下のものが例示される。
     材料、試料(微生物、新材料、土壌、岩石、植物新品種)
  試作品、モデル品
  FD、MT、CD、DVD等の電子記録媒体(データ、理論・法則、コンピュータープログラム、音声、画像、図面等の各種研究開発成果情報を記録)
  紙記録媒体(データ、理論・法則、コンピュータープログラム、画像、図面等の各種研究開発成果情報を記載)
  当然のことながら、排他的支配を及ぼすことができない(所有権を主張できない)物、例えば新しく発見した天体Y自体、新しく見出された疾患の患者自体、は、帰属を定め利用を行うことができないので、有体物の対象外であり、研究開発成果としては取扱わない。
  なお、新しい天体Yについての観測データや、新しく見出された疾病の患者の治験データ等の情報は無体物ではあるが研究開発成果といえる。

2.無体物とその例示

  無体物とは有形的存在を有しないものをいい、知的財産その他の各種情報、電気・熱・光・音響などが例示される。

  有体物の場合と同様、排他的支配を及ぼすことができないものは、帰属を定め利用を行うことができないので対象外とし、研究開発成果としては取扱わない。

3.知的財産、知的財産権及び知的財産権等

1   知的財産とは、人間の知的活動から生ずる財産的情報をいう。
2   知的財産権とは、特許法の特許権、実用新案法の実用新案権、意匠法の意匠権、商標法の商標権、著作権法の著作権、種苗法の育成者権及び半導体集積回路の回路配置に関する法律の回路配置利用権並びにこれらに準ずる権利をいう。
3   知的財産権等とは、排他的利用が可能な知的財産権、秘密の知的財産及び複製困難な知的財産をいう。

1知的財産

  電気、熱、光、音響などといった知的活動から生じたものでない無体物は知的財産には含まれない。
  また、知的財産は財産的情報であるから、複製可能であり、物(有体物)に化体されていることも多い。
  複製可能な物とは、例えば特許発明品、植物新品種、表現に特徴のあるコンピュータープログラムを記録したFD等、第三者がその物又はその物に関連する情報(例えば特許公報、論文)をもとに、複製することができる物である。当然全く同一の物の複製が可能であることを意味するものではなく、財産的情報が複製可能であれば足る。
  岩石試料、土壌サンプル自体は情報ではなく、また情報の化体した複製可能な物でもないので、知的財産ではない。しかし、知的活動から生じた岩石試料の測定データ等は財産的価値を有するのであれば知的財産となる。
  知的財産には、排他的独占権である知的財産権が付与されるもの(発明、考案、意匠、商標、著作物、植物新品種、回路配置)や、秘密にすることにより排他的利用が行える知的財産(「秘密の知的財産」。ノウハウ等)がある。
  知的財産の化体した物の中には、公開されても第三者には実際上複製できない物(「複製困難な知的財産」。複雑なプラント、装置、試作品のように理論上複製可能であるが実際上複製することが困難な物と、生物遺伝資源のように公開情報だけでは第三者が複製できない物がある。)があり、このような物は実際のところ一般の有体物と同様、第三者に直接譲渡又は貸与して産業利用を図るほかない。

2知的財産権

  準ずる権利としては、特許を受ける権利等がある。

3知的財産権等

  知的財産権、秘密の知的財産及び複製困難な知的財産は全て利用により発生する便益が対価を支払う者だけに排他的に享受されるという排除原理が働く私的財としての性質を有するものであるので、知的財産権若しくは秘密の知的財産の実施(利用)許諾又は複製困難な知的財産の貸与(「知的財産権等の実施許諾等」。知的財産権の実施(利用)許諾には専用実施(利用)権の設定を含む。)又は知的財産権若しくは複製困難な知的財産の譲渡(「知的財産権等の譲渡」)により取引され、実施(利用)が可能である。
  なお、それ以外の知的財産、すなわち公開され公衆に広く利用可能とされた知的財産は、非排除性及び非競合性を有する公共財としての性質を有するから、通常その実施(利用)のための取引がなされることはない。

4.知的基盤等

  人間の知的活動から生ずる情報を体系化し、広く供用可能としたものをいう。

  科学技術基本計画*34では、知的基盤は、研究者の研究開発活動、さらには広く経済社会活動を安定的かつ効果的に支える、
     1   研究用材料(生物遺伝資源等)
  2   計量標準
  3   計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器
  4   13に関連するデータベース等
とされている。これは知的活動の成果として蓄積された知的資産を体系化し、広く供用可能とした基盤であり、その内容(質、量等)の充実によって、より多くの利用者に利用される価値が高くなるものである。この知的基盤も含め一般に人間の知的活動から生ずる情報を体系化し、広く供用可能としたものを「知的基盤等」と定義することにした。
  なお、この情報は物に化体されていることも多い(例:生物遺伝資源)。

5.公的研究機関

  国の機関又は組織及び運営に関し国の監督を受ける機関であって、研究開発を行う機関をいう。

  「国の機関」には、国立大学等(「国立大学、短期大学及び高等専門学校並びに大学共同利用機関」をいう。)や国立試験研究機関が含まれる。
  「組織及び運営に関し国の監督を受ける機関」には、特殊法人や独立行政法人が含まれる。
  地方公共団体が設置した公設試験研究機関は含まれない。





*1   定義については、p29「<参考>用語の定義」を参照
*2   参考資料3  「研究機関等における知的財産権等研究成果の取扱いについて(意見)」(平成13年12月25日、総合科学技術会議)
*3   論文、講演その他の言語の著作物等の著作権は検討範囲から除かれることに留意。文章等の表現を保護の対象とするものであって、研究開発成果自体を保護の対象としないものであるからである。
*4   参考資料4  「知的財産権を含む研究成果の取扱いについて」(平成13年11月14日、総合科学技術会議科学技術システム改革専門調査会)
*5   参考資料5  「研究開発成果の取扱いの現状」
*6   参考資料6  「国立大学等の教官等の発明に係る特許等の取扱いについて」(昭和53年3月25日付け文学術第117号文部省学術国際局長・大臣官房会計課長通知)
*7   参考資料7  「国立大学等の教官等が作成したデータベース等の取扱いについて」(昭和62年5月25日付け文学情第140号文部省学術国際局長・大臣官房会計課長通知)
*8   なお、「科学技術基本計画」(平成13年3月30日閣議決定。参考資料2)では、知的基盤のデータや知見の提供と利用に関し、知的財産権その他の法的問題に関する基本ルールを整備するとされている。
*9   なお、「科学技術基本計画」(平成13年3月30日閣議決定。参考資料2)では、公的研究機関において、有用な研究開発成果を実用化に結びつける仕組みを整備することとされている。
*10   参考資料1  「関係法令抜粋」特許法第29条第1項柱書、実用新案法第3条第1項柱書、意匠法第3条第1項柱書、著作権法第2条第1項第2号、第17条第1項、半導体集積回路の回路配置に関する法律第3条第1項、種苗法第3条第1項。
*11   民法第246条第1項ただし書、第239条第1項の適用ないし類推適用が可能であると考えられる。
*12   「新たな物」といえない場合とは、民法第246条第1項の「加工物」に当たらない場合である。例えば、ある化合物を慣用の保護基で修飾して得られる誘導体や常法によりある遺伝子で形質転換しただけの細胞は、もとの化合物や遺伝子と比較した場合、新たな物であるとはいえない。
  財産的価値、学術的価値その他の価値の著しい向上あるいは新たな付加を伴わない場合とは、民法第246条第1項ただし書の趣旨に基づき解釈しても、当該規定「価格ガ著シク材料ノ価格ニ超ユルトキ」の類推適用ができない場合である。
*13   著作権法第15条、半導体集積回路の回路配置に関する法律第5条。また、公的研究機関の意志による指示・命令に基づき創作又は取得された研究開発成果としての有体物の原始的帰属は必ずしも明確でないが、契約、勤務規則その他の定めにより、最終的に公的研究機関に帰属させるのであれば、通常問題は生じないであろう。
*14   参考資料8  「「知の時代」にふさわしい技術移転システムの在り方について」(平成12年12月27日。今後の産学連携の在り方に関する調査研究協力者会議)
*15   その際の研究者の対価については、発明に関するものであるが判例(東京高裁平成11年(ネ)3208号同13年5月22日判決)がある。一応の留意が必要であろう。
*16   法人化後の国立大学等の業務範囲と職務に属する知的財産の範囲については、今後さらに詳細な検討が必要。*17  なお、「科学技術基本計画」(平成13年3月30日閣議決定。参考資料2)では、研究開発成果の活用をより効果的・効率的に促進するため、個人帰属による活用促進から、機関管理を原則とする活用促進への転換を進めることとされている。
*17   なお、「科学技術基本計画」(平成13年3月30日閣議決定。参考資料2)では、研究開発成果の活用をより効果的・効率的に促進するため、個人帰属による活用促進から、機関管理を原則とする活用促進への転換を進めることとされている。
*18   参考資料6  「国立大学等の教官等の発明に係る特許等の取扱いについて」(昭和53年3月25日付け文学術第117号文部省学術国際局長・大臣官房会計課長通知)
*19   参考資料1  「関係法令抜粋」意匠法第15条第3項で準用する特許法第35条、種苗法第8条
*20   参考資料7  「国立大学等の教官等が作成したデータベース等の取扱いについて」(昭和62年5月25日付け文学情第140号文部省学術国際局長・大臣官房会計課通知)
*21   昭和52年6月17日付け学術審議会答申「大学教官等の発明に係る特許等の取扱いについて」には、「”業務範囲  ”の解釈については、使用者等が国・地方公共団体の場合にはどの範囲までを指すのか極めて不明確であり、特に大学などの学術研究機関の場合にはどこまでを業務範囲に含めて解すべきか大いに議論の分かれるところである」とある。
*22   参考資料9  「新しい「国立大学法人」像について」(平成14年3月26日、国立大学等の独立行政法人化に関する調査権等会議)
*23   具体的には、研究材料提供契約(MTA:Material Transfer Agreement)の管理、先行技術調査、知的財産の権利化、知的財産権等の実施許諾等又は譲渡、知的財産権等の実施許諾等を受けている第三者との連携や当該第三者に対する適切な支援、秘密の知的財産の管理(勝手に開示されるとその財産的価値が失われる)、知的財産関連訴訟の対応等を行う体制、が挙げられる。
*24   参考資料10  「知的基盤整備計画」(平成13年8月30日、科学技術・学術審議会)。当該計画では、提供条件の整備が求められている。
*25   具体的には、譲渡、貸与、放棄、権利範囲の減縮、専用実施(利用)権や質権の設定、別の者への実施(利用)許諾、秘密の知的財産の公開等が挙げられる。
*26   参考資料1  「関係法令抜粋」特許法第99条第1項、実用新案法第19条第3項、意匠法第28条第3項、種苗法第32条第3項、半導体集積回路の回路配置に関する法律第21条第2項
*27   参考資料1  「関係法令抜粋」特許法第97条第1項、実用新案法第26条、意匠法第36条、種苗法第31条第1項、半導体集積回路の回路配置に関する法律第20条第1項
*28   「科学技術基本計画」(平成13年3月30日閣議決定。参考資料2)でも、「機関管理への転換に当たって、発明者である研究者に対するインセンテイブの向上を図る観点から、実施料収入から個人への十分な還元が行えるよう制度を整備する。なお、研究者が異動する場合における発明者インセンテイブの継続についても十分に留意することが必要である。」とされているところである。
*29   参考資料9  「新しい「国立大学法人」像について」(平成14年3月26日、国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議)。この報告書では「収入を伴う事業については、…(中略)…、本来の教育研究等の業務及びそれに密接に関わる事業に限定して行う」、「研究成果の民間への移転事業など、教育研究に密接に関わるものの、種々の制約から現行では大学自ら実施しがたい業務についても、法人化に伴い大学の業務として実施できるようにする。」とされている。
*30   参考資料1  「関係法令抜粋」。特許法第73条第1項、実用新案法第26条、意匠法第36条、商標法第35条、種苗法第23条第1項、半導体集積回路の回路配置に関する法律第14条第1項、著作権法第65条第1項、民法第251条(複製困難な知的財産は有体物であるため)
*31   参考資料1  「関係法令抜粋」。特許法第73条第2項、実用新案法第26条、意匠法第36条、商標法第35条、種苗法第23条第2項、半導体集積回路の回路配置に関する法律第14条第2項
*32   著作権法第65条第2項。ただし、他の共有者は正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることはできない(同条第3項)
*33   特許法施行規則第27条の2及び27条の3
*34   参考資料2  「科学技術基本計画」(平成13年3月30日閣議決定)抜粋

(研究振興局研究環境・産業連携課)

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