資料4-3 独立行政法人日本学生支援機構の平成27年度業務実績に関する評価意見

資料4-3

 


独立行政法人日本学生支援機構の平成27年度業務実績に関する評価意見


独立行政法人日本学生支援機構評価委員会

委員長     松永    是     


 本委員会は、独立行政法人日本学生支援機構(以下、「機構」という。)が各事業年度の業務実績等に関する自己評価を行うに当たり、厳格かつ客観的な評価の実施に資することを目的として、外部の視点から業務実績を検証し、その成果及び課題について理事長に意見を述べることを任務としている。
 平成27年度は機構の第3期中期目標期間(平成26年度~平成30年度)の2年目であり、本委員会は、奨学金貸与事業・留学生支援事業・学生生活支援事業の3事業及び業務の効率化等業務運営のあり方について定められた中期目標のもと、これらの達成に向けて中期計画及び年度の計画が着実に実施されているかという観点から業務実績の検証を行った。
 その結果、全体としては概ね計画に沿った業務の実施及び改善が行われていると認められたが、奨学金貸与事業において重大な社会的影響を与えると認められる事案の発生、また、留学生支援事業においは業務実績が年度計画値に達していない項目があり、これらについては、再発防止の徹底や計画達成に向けた改善の取組が求められる。
 今後の評価及び業務運営に活用され、機構が行う学生支援事業のさらなる発展に寄与することを期待し、以下、各事業等の業務実績について委員会としての意見を述べる。


1.奨学金貸与事業に関する意見


(1)奨学金の的確な貸与
○奨学生の家計実態に合わせたきめ細かな収入基準の見直しを行い、給与所得に係る控除額を引き下げるとともに、母子父子世帯・多子世帯の控除額を引き上げ、経済的により困難な状況にある学生の高等教育への進学・修学の機会の確保を図っていることは評価できる。
○高等教育の機会の確保を図る一方で、貸与額が高額となることが延滞発生に与える影響等を勘案し、奨学金の借り過ぎを防止するために、文部科学省とも協議して、第二種奨学金の貸与期間の制限、併用貸与者における第二種奨学金の最高月額希望者に対する指導、奨学金申込時における過去の奨学生番号の届出等の施策を決定、実施したことは評価できる。
○東日本大震災被災学生に対して、定期採用における推薦者全員を採用するなど、十分な支援を行っており、評価できる。
○今後、収入基準の見直しや借り過ぎ防止策について、効果の検証を行うことが求められる。


(2)適格認定の実施
○奨学生の学業状況等を把握することは、奨学金の有効活用及び奨学生としての自覚を促すための施策として非常に重要であり、適切な貸与月額の指導や指導結果の公表等と併せて、大学等と連携して適格認定を実施していることは評価できる。
○「激励」区分を廃止し、学校における認定基準の簡素化を図ったことは評価できる。


(3)返還金の回収促進
○初期延滞・中長期延滞に係る督促、法的処理の実施、延滞者実態調査など多岐に渡る回収の取組により、当年度分回収率、総回収率ともに年度計画値を大きく上回ったことは高く評価できる。延滞解消に向けた取組と併せ、引続き、回収率の向上に努めて頂きたい。
○要返還債権数に占める新たな3ヶ月以上の延滞債権数の割合が、平成25年度比12.27%削減されたことは評価できる。
○依然3万件を超える新たな3ヶ月以上延滞が発生している点は憂慮すべき事態であり、新たな延滞発生を減らす為の具体的な取組の検討が求められる。
○債権の回収は返済の遅れが発生したときの初動が重要であり、振替不能1回目の者に対する通知や督促架電の実施等の延滞初期の督促や回収委託等は評価できる。
○中長期延滞債権については適時に法的処理を行っており、評価できる。なお一層の法的処理の促進を期待する。
○将来の奨学金の原資を確保するために、返還金回収を促進していることは評価できるが、他方で、債権回収業者への回収委託の実施においては、情報の過誤や過度な取立等が無いように十分留意することが必要である。
○延滞者の実態の把握に努めていることは評価できるが、平成27年度実態調査においては、回答率が対前年度比で約5%低下しており、より有効な回収方策の検討等に活用するためにも、回答率の改善を図ることが求められる。
○平成27年度において発覚した個人信用情報機関への誤登録事案については、事案発覚後ただちに危機管理対策本部を設置し、当事者及び国民への説明・お詫びを含め適切な事後措置を行ったことは評価できるが、非常に深刻な事案であり、再発防止策を確実に実施し、その有効性を継続的に分析・改善する努力が必要である。
○返還期限猶予の承認を受けた者や猶予期間終了者へ減額返還制度を周知したことや、ビデオによって減額返還と返還期限猶予の違いを説明したことは、制度の適切な運用に資するもので評価できる。
○生活困窮を理由とする返還期限猶予の承認件数が増加しており、件数の増加が今後の延滞の増加につながらないように留意することが必要である。


(4)情報提供等の充実
○ホームページのリニューアルや検索機能の向上、地方創生に係わる新たなホームページの開設などによって、奨学生や返還者にとって分かりやすい情報の提供や利便性の向上を実現したことは評価できる。また、奨学金貸与事業ホームページのアクセス数が前年度比34%増加している点については、ホームページリニューアルや誘導等による一定の効果が出ている証拠であり、評価できる。


(5)学校との連携強化
○大学等の奨学金担当者を対象とした奨学金業務に関する研修会の実施や、「返還誓約書未提出者調査」を提出していない学校へ職員を派遣して採用時説明会の実施状況を視察するなど、返還意識の涵養を図る取組を実施しており、評価できる。
○大学等への入学前から奨学金制度への理解を深めることは非常に重要であり、機構職員の業務負担を伴いながらも、大学のみならず、高等学校やPTAに対する働きかけを行い、奨学金制度に関する説明・周知に努めたことは高く評価できる。
○経済的困難を理由に進学を断念することのないよう、今後も、都道府県や高等学校等との連携強化により奨学金制度の理解促進に尽力することを期待する。


2.留学生支援事業に関する意見


(1)日本への留学前の学生に対する支援
○日本留学ポータルサイトの充実を目的として、外務省が運営する総合ガイドの機構サイトへ統合を検討するなどしており、評価できる。
○海外における日本留学フェア等の実施、留学コーディネーター配置事業に採択された大学での説明会への協力等により広く日本留学に関する情報を提供したことは評価できる。
○日本留学を考える外国人にとっては母国で情報が得られることが重要であり、海外事務所においてもSNSの活用や留学相談の実施を通じて情報発信に取り組んでいることは評価できる。より効率的に情報提供を行うために、現地の大学や高校と連携した動きをさらに充実させることが期待される。
○留学コーディネーターとの連携や海外での外国人日本語教師に対する説明会の実施、広報活動の強化によって日本留学試験の年間応募者が計画値を上回ったことは評価できる。


(2)外国人留学生に対する在学中の支援
○文部科学省外国人留学生学習奨励費給付制度や海外留学支援制度(協定受入)において、国費外国人留学生の優先配置を行う特別プログラム、留学コーディネーター配置事業採択大学に対して重点配分を行ったことは、グローバル化推進の観点から評価できる。
○文部科学省外国人留学生学習奨励費について、今後削減措置が適用される可能性のある大学等に注意を喚起するなど、「推薦依頼数又は採用数の削減に係わる取扱基準」の厳格な運用を実施したことは評価できる。
○国際交流会館の売却方針に従って、大分国際交流会館の売却・引渡しを行うとともに、福岡国際交流会館についても売却先の決定に至ったことは評価できる。
○東京国際交流館・兵庫国際交流会館の各施設を活用し、外国人留学生・研究者の日本社会・文化への一層の理解の促進、参加者間の相互理解の促進及び将来的な人的ネットワーク構築と拡大に資する多様なプログラムを実施したことは評価できる。
○留学生借り上げ宿舎等支援事業において、不正受給、不正使用の防止に取り組んでいることは評価できる。


(3)外国人留学生に対する卒業・修了後の支援
○外国人留学生の多くが日本での就職を希望している実態があり、ニーズに対応した取組を実施していることは評価できる。


(4)日本人留学生の海外留学に関する支援
○イタリア、オーストリア、ドイツ及びフランスの高等教育機関について芸術分野に特化した調査を行ったことは、海外留学への関心を高める情報提供の充実に資するものであり、評価できる。
○「海外留学フェア」や小規模のセミナー「海外留学説明会」を多く開催したことは、海外留学に関する情報提供を充実するもので、評価できる。
○海外留学支援制度(協定派遣・大学院学位取得型)に係る奨学金支給業務を円滑に実施し、支援実績を向上させたことは、評価できる。
○官民協働海外留学支援制度の実施は評価できる。なお、海外での学生のインターンシップに、海外拠点を有する企業の協力が得られると望ましい。


3.学生生活支援事業に関する意見


○「平成26年度学生生活調査」について、経済状況と学習状況の関連分析を行ったことは、学生支援の問題把握に資するものであり、評価できる。また、分析対象を大学のみならず大学院や短期大学にまで広げていることについても評価できる。適切な施策の策定には実態把握が不可欠であり、今後ともより実態に即した学生支援を提供できるよう、調査対象の見直し等、不断の改善を図ることが重要である。
○障害のある学生等に対する大学等の支援の充実を図るため、修学支援に関する実態調査において、障害種別の追加・変更、設問の追加、実地調査の実施等、調査内容を充実しており評価できる。今後も継続的に取り組むことが期待される。
○大学等の担当者等を対象として、障害学生支援に係る実践的な支援能力の向上を図るため、各種セミナー、研修会及びワークショップを開催したことは評価できる。


4.その他業務運営に関する意見


(1)透明性・公平性の確保
○運営評議会の開催回数を年2回とし、より良い事業運営の為、外部有識者からの助言を得る機会を増やす努力を行っていることは評価できる。
○評価指標や定量的指標の評定基準を定め、外部有識者によって構成される評価委員会の意見を聴取した上で、厳格かつ客観的な評価の実施に努めたことは評価できる。


(2)広報・広聴の充実
○誤解に基づく報道を防止し、国民に正確な情報を提供するためにホームページにおいて迅速に説明等を行ったことは、奨学金制度の維持という観点においても重要なことであり、評価できる。また、報道機関へのプレスリリースを継続的に行ったことは評価できる。
○ホームページのリニューアルに当たり、利用者の視点に立ってコンテンツを分かりやすく表示し、また、広聴調査結果に基づいてスマートフォンサイトを構築するなど、社会的ニーズに適合した工夫をしており、評価できる。
○今後は、社会人になった奨学生の経験等を紹介し、奨学金がどのように役立ったかを広報するなど、より積極的な広報活動が期待される。


(3)学生支援に関する調査・分析・研究の実施
○「平成26年度学生生活調査」について、経済状況と学習状況の関連分析を行ったことは、学生支援の問題把握に資するものであり、評価できる。また、分析対象を大学のみならず大学院や短期大学にまで広げていることについても評価できる。適切な施策の策定には実態把握が不可欠であり、今後ともより実態に即した学生支援を提供できるよう、調査対象の見直し等、不断の改善を図ることが重要である。[再掲]
○外国人留学生の在籍状況の把握に努め、調査結果を広く公表したことは評価できる。
○大学生の間で関心の高いインターンシップについて、海外での状況を調査したことは学生支援に資するもので評価できる。
○過去に実施した調査のデータを集中保管していることは評価できる。


(4)情報セキュリティ対策の実施
○情報セキュリティポリシーの改定を適切に行い、各種のセキュリティ対策を強化したことは評価できる。今後、マイナンバー制度の活用に当たって、さらなる対策が期待される。
○情報セキュリティの強化のためには、組織の構成員の意識向上やスキルの獲得が必要であり、膨大な個人情報を取り扱う機関として、研修や訓練等の具体的な施策を講じて、役職員の情報セキュリティに対する意識向上を図っていることは評価できる。


(5)業務の確実な実施
○リスクの洗い出し・評価、リスク対応計画の策定を行い、各部等における実施状況について理事長をトップとするリスク管理委員会において確認するなど、リスク管理のPDCAサイクルを確実に実行したことは評価できる。


(6)コンプライアンスの推進
○コンプライアンスに対する理解促進のために、継続的に主任相当職員等に対する研修を行うとともに、非常勤職員や派遣職員を含む新入職員の採用の都度研修を実施していることは評価できる。
○個人情報保護については、既存の研修に加えて、新たに全役職員を対象とする研修及び各部等の個人情報保護管理者等を対象とする研修を実施するなど、取組を強化したことは評価できる。
○個人情報漏えい事案の再発防止策の取組状況のみならず、郵便事故等においても被害を最小限とするなどの未然防止策を含めた取組状況の総括を行い、経営管理会議にて報告していることは評価できる。
○個人情報の漏えいは、数の多寡にかかわらずあってはならないものであり、引き続き、細心の注意を払って業務を行うことが求められる。また、再発防止策や未然防止策の効果について定期的に検証を行い、本質的な改善を図ることが重要である。


以上

お問合せ先

高等教育局学生・留学生課