資料4 薬学教育モデル・コアカリキュラムの基本理念と利用上の留意点について(たたき台)

1.モデル・コアカリキュラムの基本理念と位置付け

【基本理念】

 大学における各分野の社会的要請に応えた人材養成のためのカリキュラム構築は、本来、各大学が独自の理念や特色に基づいて設定すべきものである。しかし、6年制薬学部の場合は、大学卒業時に薬剤師の資格に相応しい必要最小限の基本的な資質や能力を備えていることが求められる。一方、薬学に関わる生命科学・医学や科学技術の進歩は著しく、医療における薬剤師の情報量と職責に求められる薬学の知識や技術は増え、専門分化されると同時に高度化している。限られた大学教育課程の中で、これらの膨大な知識や技術等を全て完全に習得することは不可能であり、6年制薬学部の学士課程教育では、将来どのような分野に進んだ場合にも共通に必要となる、薬剤師としての基本的な資質と能力を養成するべきである。その上で、生涯に亘って常に研鑽し、社会に貢献することが求められる。このような状況において、薬学教育モデル・コアカリキュラムは、著しく膨大となった薬学教育の内容を精選し、卒業時までに学生が身に付けておくべき必須の実践的能力(知識・技能・態度)の到達目標を分かりやすく提示したものである。

【位置付け】

 薬学教育モデル・コアカリキュラムは、6年制薬学部におけるカリキュラム作成の参考となる位置付けの教育内容ガイドラインとして提示したものであるが、項目立てや記載内容は、各大学における授業科目名を意味するものではなく、また、履修の順序を示すものではないことに留意すべきであり、具体的な授業科目等の設定、教育手法や履修順序等は各大学の裁量に委ねられている。
 また、モデル・コアカリキュラムに示された教育内容だけで薬学教育が完成するものではなく、6年間の薬学教育課程の全てを画一化したコアカリキュラムの履修にあてることは正しくない。およそ従来の○○程度の時間数(単位数)で、モデル・コアカリキュラムに示された内容を履修させることが妥当と考えられる。
 各大学においては、それぞれの理念等に基づいて、特色あるカリキュラムを設定することが必須であり、学生の学習ニーズや将来の進路に合わせて自由に選択できる多様なカリキュラムを提供することが重要である。このモデル・コアカリキュラムに示された内容を確実に習得した上で、残りの○○程度の時間で、個性ある各大学独自の学習プログラムを準備することが必要である。(○ページ【選択的な大学独自のカリキュラムの設定】を参照)

2.表示の方法と利用上の留意点等

【基本的資質】

 モデル・コアカリキュラムの基本理念や医療全体を取り巻く情勢変化等を踏まえ、「薬剤師として求められる基本的な資質」を、薬剤師としての職責・患者中心の視点・コミュニケーション能力・チーム医療・地域医療・薬学研究への志向・自己研鑽の8つの視点より明確にした。

【A~○の項目立て】

 項目A~○は、各大学におけるカリキュラム作成の参考として利用しやすくし、学習者に学習内容の全体像を把握しやすいよう構成した。
【A 薬剤師の基本事項】

  • (全学年を通して、)薬剤師として身につけるべき基本事項を学ぶ

【B 薬学・薬剤師と社会】

  • (全学年を通して、)医療、社会における薬学の役割、薬剤師の使命と社会的側面を学ぶ

【C 薬学教育】

  • 薬学生が、いずれの分野に進むにせよ、医薬品・生体・疾病の科学基盤、健康と環境、薬と疾病、薬物治療、医薬品情報、製剤化の科学、医薬品の開発と生産、薬学と社会の関わりなど、卒業後生涯にわたって自己研鑽するに必要な知識と技術を学ぶ

【D 薬学臨床(実務)実習事前学習】

  • 病院・薬局臨床(実務)実習に先立って、大学内で薬剤師職責に必要な知識、技能、態度を学ぶ

【E 薬学臨床(実務)実習】

  • 病院・薬局において、患者中心の医療のためにチーム医療、地域医療などに参画する薬剤師業務に関する基本的知識、技能、態度を学ぶ

【F 薬学研究実習】

  • 研究課題を通して、科学的根拠に基づいて問題点を解決する能力を修得し、それを生涯にわたって高め続ける知識、技能、態度を学ぶ

【薬学準備教育モデルコアカリキュラム】(←薬学準備教育ガイドライン)

薬剤師、薬学卒業生として、人文科学、社会科学および自然科学などを広く学び、知識を獲得し、さまざまな考え方、感じ方に触れ、物事を多角的に見る能力を養う。そして、見識ある人間としての基礎を築くために、自分自身について洞察を深め、生涯にわたって自己研鑽につとめる習慣を身につけておくべき基本的事項を〈1 人と文化〉、〈2 薬学・薬剤師英語入門〉、〈3 薬学の基礎としての物理〉、〈4 薬学の基礎としての化学〉、〈5 薬学の基礎としての生物〉、〈6 薬学の基礎としての数学・統計学〉、〈7 IT〉、〈8 プレゼンテーション〉として整理し、提示した。薬学教育の準備という視点から提示されたものであるが、これらは薬剤師、研究者となる上で不可欠となる素養を培っていくものである。

【一般目標と到達目標】

 薬学教育モデル・コアカリキュラムは○○のユニット(講義単位)から構成されており、ユニットには、一般目標(学生が学習することによって得る成果)と到達目標(学生が一般目標に到達するために、身に付けておくべき個々の実践的能力(competences))が記載してある。すなわち、到達目標を包括的に習得することで達成される目標を一般目標として示した。到達目標の総数は○○項目であり、それぞれは知識、技能、態度の三領域に分類される。これらは、学生が卒業時まで(一部は実務実習開始前まで)に身に付けておくべきものであり、これらは客観的に評価できるよう、可能な限り明確な表現とした。

【*印の取り扱い】

 *印が表示されている到達目標は、卒業時までに習得すべきレベルの内容を示すが、実務実習開始後から卒業時までに習得させるべきとの意味ではなく、必要に応じて実務実習開始前から学習すべき内容も含まれていることを強調したい。
 (尚、実務実習開始前までに習得すべき知識・技能・態度等の基準設定については、実務実習開始前の共用試験の出題範囲に関連していることから、別途、薬学共用試験センターを含めて検討を行うことが適当と思われる。)
 その際、薬剤師国家試験出題基準との関係にも留意し、各大学における教育実態や影響等を慎重に見極め、混乱を来たさないよう十分に考慮した上で、将来のあり方を含めて検討し、計画的に実行することが望まれる。

【量的提示】

 

3.その他

【薬学教育における実習】

 薬学臨床(実務)実習を学ぶためには、臨床薬学の前提となる薬学基礎教育、薬学専門教育、生命科学や基礎医学の知識だけでなく、これらに関する実習を通じて経験する学習が重要である。したがって、薬学臨床(実務)実習前の薬学教育における実習を充実するとともに、適正な評価も行わなければならない。なお、その実施時期については、講義・演習・テュートリアル等の授業内容と緊密に連携させるように設定すべきである。
 また、入学後の早期の段階から実施されている地域の保健・医療・福祉・介護等の機関における「早期体験学習」、主として3~4学年時に実施されている「薬学基礎教育実習」、「薬学専門教育実習」、「薬学臨床(実務)事前学習」、5~6学年時に実施されている、「薬学臨床(実務)実習」、「薬学研究実習」について、入学後から段階的・有機的に関連付けて実施することにより、効果的に体験・認識を蓄積していくことが必要である。
<以下要検討>
 また、学生自身または実験動物を用いた実習に際しては、医の倫理や生命倫理的な配慮のもとに、予測される危険を回避し、常に安全を確認しながら手技や操作を行う習慣が身につくように指導することが必要である。

【選択的な大学独自のカリキュラムの設定】

 原則として、各大学は、それぞれの理念等に基づいて、特色あるカリキュラムを設定することが必須であり、さらに、学生段階からの研究志向の涵養や、学生の興味や将来の専門分野への志向に応じて、学生自身が自由に選択できるものを準備することが重要である。
 研究室配属等を通じた科学的・論理的思考の習得や、基礎研究や臨床研究を実施するために必要な基礎的訓練(研究方法論、研究倫理、研究とりまとめ方法、発表・研究報告/症例報告の公表)等、探求心旺盛な学生の将来の展望にも配慮し、高度で応用的な特定分野等の素養を養う必要もある。また、実施に当たっては、各大学の状況に合わせて、研究室等での実験研究への参加や成果のとりまとめ、病院や薬局における実務実習と経験した研究のとりまとめ、海外派遣研修等の多様な授業形態とし、これらの成果の発表とその評価等の修了要件も明確にすることが必要である。

平成○年度改訂版・薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂概要

 今回の改訂は、「薬学系人材養成の在り方に関する検討会」(永井良三座長)において提言された・・・や、薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂に関する専門研究委員会の・・・を踏まえて行われた。
 具体的には、(1)薬剤師の基本的な知識、技能、態度の確実な習得、(2)チーム医療および地域の医療を担う意欲・使命感の向上、(3)基礎薬学教育と臨床薬学教育の有機的連携による研究マインドの涵養、(4)薬剤師として生涯にわたり学び続ける意欲の醸成、の4つの観点から検討し、さらに近年の薬学教育に対して社会から求められる事項および全体の利便性向上に留意しつつ、改訂を行った。以下、具体の内容を概説する(略)

改訂概要は原案が確定してから作成

 

 薬剤師として求められる基本的な資質

薬剤師としての職責)

  • 豊かな人間性と生命の尊厳についての深い認識を有し、人の命と健康を守る薬剤師としての職責を自覚する。

(患者中心の視点)

  • 患者およびその家族の秘密を守り、薬剤師の義務や医療倫理を遵守するとともに、患者の安全を最優先し、常に患者中心の立場に立つ。

(コミュニケーション能力)

  • 医療内容、特に薬物療法を分かりやすく説明する等、患者やその家族との対話を通じて、良好な人間関係を築くためのコミュニケーション能力を有する。

(チーム医療)

  • 医療チームの構成員として、相互の尊重のもとに適切な行動をとるとともに、後輩等に対する指導を行う。

総合的な薬物療法の評価と実践能力

  • 統合された知識、技能、態度に基づき、患者への薬物療法を総合的に評価し、実践する能力を有する。

(地域医療)

  • 医療を巡る社会経済的動向を把握し、地域医療の向上に貢献するとともに、地域の保健・医療・福祉・介護および行政等と連携協力する。

(薬学研究への志向)

  • 薬学・医療の進歩と改善に資するために研究を遂行する意欲と基礎的素養を有する。

(自己研鑽)

  • 男女を問わずキャリアを継続させて、生涯にわたり自己研鑽を続ける意欲と態度を有する。

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