資料2 大学教育情報の開示について(水上委員提出資料)

大学教育情報の開示についてメモ

2011年7月21日
弁護士 水上貴央

 

 委員の皆様、大変お世話になっております。毎回の会議で、非常に示唆に富んだご意見賜り、大変勉強になっております。

 さて、当職、本日の会議につき、大阪での裁判期日のため出席できません。つきましては、会議での意見表明に代えて、乱筆ながらメモを作成いたしましたので、よろしくご笑覧の程お願いいたします。

1.  教育情報の開示についての基本コンセプト

(ア)    ターゲットは誰か?

 これまでの議論の中で、納税者や企業、高校3年生やその父母、海外からの留学生や海外の大学院等など、様々な情報開示の対象が議論されてきました。
 これらのターゲットはいずれも重要だと考えますが、一方で、複数のターゲットに対する情報開示をいっぺんに議論すると、議論の錯綜を招くため、ターゲットごとに開示すべき情報等を順序立てて検討する必要があると考えます。
 当職は、情報開示のメインターゲットは「高校3年生及びその関係者(父母や進路指導担当の高校教員を含む)」であると考えています。
 高校3年生がもっとも切実に大学の“教育情報”を求めており、また原状において大きな情報格差が存在するからです。
 企業サイドの情報開示の要求については、これまでの議論の中で、あまり強いと印象は受けませんでしたので、当初考えていたよりも、その優先順位は低くして良いのではないかとの感想をもちました。

(イ)    開示したい情報を開示するのではなく、開示して欲しいと求められている情報を開示すべきである

 特に、高校3年生をメインターゲットとする場合に、まず、決して忘れてはいけないのは、大学の教育情報の開示は、情報の利用者のために行われるということです。「大学がその情報を開示したいか開示したくないか」、「その情報を開示するのに手間がかかるかどうか」が主たる問題ではなく、「その情報が情報利用者である高校3年生に求められている情報かどうか」こそが重要です。
 もちろん、大学に無理を強いるのは不合理なので、たとえその情報が求められていても、その収集・開示に多大なコストがかかる場合や大学の経営に無視できない悪影響がある場合には、その開示を断念するということは考えられます。
 しかし、検討の順序は、まず第一に「何の情報が求められているか」を明確にすることであり、その上で「当該情報の開示が不可能な特段の事情があるか」を検討するというものであるべきです。

(ウ)    国により義務付けられた情報だけ比較可能な状態で開示すればよいか

 一つの考え方として、データベースとして比較可能な開示をするのは、国により義務付けられた項目に限定し、その他の項目は、各大学が、学生の募集に有益だと考える限りで、個別判断においてその開示を実施するという方針があります。
 しかし、高校3年生にとって、教育情報は、比較可能な形で公開されなければ単なる個別の宣伝文句の域を出ないのであって、教育情報開示という目的に照らして“比較可能である”ということが必須の条件であると考えます。
 大学サイドが比較可能な形で高校生の求める情報を提供してくれない場合には、やむを得ず、国が、高校生の大学選択に必要な情報について広く開示を義務付けることによって受益者である高校生を保護する必要があると考えますが(韓国方式?)、これは、国による大学への統制を強める方向となるので、望ましいとは考えていません。
 したがって、各大学団体が、主体的に、比較可能な教育情報の開示を積極的に行うべきと考えます。

(エ)    開示すべき情報とは?

 これまでの議論の中で、当職は、一例として、高校生が開示を求めているのではないかと想像する情報として「その大学の具体的な教育内容はどのようなもので、何人の学生が、どのような資格を取得しているのか」であるとか「その大学でどの程度の成績をとると、どのような会社に就職できるのか」や「その大学を卒業することはどのくらい難しいのか、どれくらいの人が中退してしまうのか」といった情報を挙げました。
 実際に、どのような情報の開示が求められているかというのは、想像で議論するだけでは不十分なので、今後の検討として、高校生自身や、そのニーズを把握している可能性が高い高校関係者、予備校関係者、受験雑誌の関係者等にヒアリングを行い、“高校生が強く欲している教育情報の一覧”を作成する必要があります。
 これらの情報の中で、特に開示が困難なものの洗い出しを行い“開示の要求が高く実現可能な範囲”を明確にすべきと考えます。

2.  その他の視点

(ア)    大学の開示コストの問題は重要な視点である

 現在のように、各予備校や受験雑誌等がバラバラに各大学に情報開示を求めるやり方では、各大学の情報開示コストが膨大になるというのは、極めて大きな問題です。
 上記のように、高校生が必要としている情報と開示可能な情報の名寄せを実施し、その情報について比較可能な形で大学団体が公開した場合には、各予備校や受験雑誌、新聞等のメディアについても、基本的に当該データベースの情報をもとに分析し情報発信すべきであり、大学としては、それを超えた個別の情報開示に応じなくてもよいという運用ルールを確認することが考えられます。こうしたルールがメディアとの間でも確立されれば、大学側の情報開示コストは大きく減少することが期待されます。
 ただし、今回検討されている情報開示において開示される情報が、高校生の欲する情報について相当程度網羅している事が、このルールを決めるための前提になると考えます。

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