技術者は、電話、テレビ、コンピュータ、自動車、航空機などを創出し、この百年の間に現代文明を大きく変化させた。
特に我が国の技術者は、電気工業、化学工業、自動車、航空機等の新規産業による経済活動の拡大(20世紀初頭)、テレビなどの家電の普及、石油化学などの発展による経済成長(第二次大戦後)、半導体産業がもたらした情報通信革命による経済成長(1985年頃~1990年代)に大きく貢献し、経済発展の原動力となってきた。
他方、技術の創出・利用は、生活の豊かさや便利さの享受といった「光」ばかりでなく、資源の枯渇、地球温暖化問題、自然生態系の破壊などの懸念といった「影」の面も現し、人間活動の広がりに伴い、経済、外交、安全保障、健康・福祉、エネルギー、環境、防災、都市問題等の社会的課題との関係を深めている。
社会のグローバル化や科学技術の高度化・複雑化にともない、十分特定された技術問題を処理する技能者や科学的原理を探求する科学研究者だけでは解決できない問題が増加しており、実際に自然科学等の知識を応用して複合的な問題を解決できる質の高い技術者の養成のニーズが高まっている。
経団連は、技術系人材に対して、「基礎学力の不足」、「問題設定能力の不足」、「目的意識の欠如」「狭い専門領域」等の問題点があると指摘している。
ミスマッチの原因として、産業界が自ら求める人材に必要な知識・能力を抽出し大学側に提示してこなかったことに加え、大学において研究が重視され、技術者のモデルを示したり成功者から直接講義を受けたりして、「技術は人なり」(「技術には技術をつくった人の人柄が自ずとあらわれる。従って、技術者は常に人格の陶冶を必要とする」という意味)であることが十分に教育されていないこと、講義などの編成に技術の視点が不足している場合があるなど、必ずしも適切な実践教育が行われていないことが挙げられる。
明治時代当初、我が国においては、世界に先駆けて工部大学校を設立。学問と訓練のバランスを考慮した「基礎教育」「専門教育」「実地訓練」の3つをエンジニアリング教育の基本理念としてスタートした。
技術者は、基礎知識や専門知識を実際に用いて社会・産業の現実問題に応える研究開発や設計、製品の製造やサービスの提供を行うことが期待されているのであり、技術者の養成には、現場、現物、現実を踏まえ、自然科学等の知識を適切に応用する実践教育が重要である。
我が国では「技術者」が明確な定義のないまま使用されており、自然科学や工学に立脚しない職業においても、スキルを持つものを技術者と呼んでいることが多い。そのため、技術者教育に対する認識に混乱が生じており、まず技術者の定義を明確にすべき。
我が国では技術を担う者としては、例えば製造業において、製造職場の技能者、生産技術職場の生産技術者(仲介者)、開発設計職場の生産設計技術者が挙げられるが、実際の仕事上では必ずしも明確に分離されていない。
国際的には、技術を担う人材として、十分に特定された技術問題に対処し経験的な実務能力が求められるTechnician、広範に特定された技術問題に対処するTechnologist、設計・開発・監督など複合的な技術問題に対処するEngineerの3つの区分が存在している。2009年国際エンジニアリング会議では、
とされている。
本報告書において、2009年国際エンジニアリング会議を踏まえ、「技術者」は、国際的にEngineerとして通用するものとして、「自然科学等の知識を用いて人類のために役立つもの(サービスを含む)を適切な判断のもと、創造、開発、実現する活動を担う人」と定義する。
なお、優れた技術者の育成を図るための国家資格制度として「技術士制度」があり、「技術士(Professional Engineer)」は「法定の登録を受け、技術士の名称を用いて、科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項について計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務を行う者」と定義され、現在約6万人いる。「技術士」は、国際的技術者資格であるAPECエンジニア、EMFエンジニアに登録申請可能である。技術士会によれば、国際的には、英国のCEng (Chartered Engineer)が約19万人、米国のPE (Professional Engineer)が約40万人おり、優れた技術者集団を日本にも構築拡大していくことが期待されている。
ここで定義する「技術者」は、「技術士」資格保有者に限定されるものではなく、「修習技術者」(技術士第一次試験合格者及びそれと同等と認められる高等教育を受けた者)を含む概念である。
「技術者」の定義は普遍的なものと言えるが、具体的に何ができ、何をする者なのか、人材育成の目標である「求められる技術者像」を明確にすることが重要である。
これからの20年を考えると、技術革新などのイノベーションによって持続的成長と豊かな社会を実現していくことが期待されているといえる。たとえば、高度介護ロボットなどによる生涯健康な社会、災害に強い安全・安心な社会、人工知能ロボットなどにより可処分時間拡大を可能にし多様な人生を送れる社会、環境問題の改善など世界的課題解決に貢献する社会、自動翻訳機の普及等による世界に開かれた社会などを実現していくことである。
また、我が国においては、少子高齢化が進み2050年には人口の半分が非生産人口になるとの推計(国立社会保障・人口問題研究所)もあり、社会の発展のためには、技術革新をもらたす創造的資質をもった技術者の育成が求められる。
グローバリゼーションに伴い先進国ではハード(第二次産業)からソフト(第三次産業)へのシフトが進んでいるとともに、伝統的な技術分野から例えばメカトロニクス(機械、電子回路及び計算機ソフトウェア)、機能材料(材料プラス生物)、感性価値創造などの新しい技術分野の需要が生まれている。
我が国において、IT、バイオ、ナノテク、環境、エネルギーなどの先端技術分野における技術者の質的、量的不足の解消が必要とも言われている。
このように社会・産業界が直面する環境は変化している。
技術者は、変化する多様なニーズに応えられる基礎力、与えられた問題、未知の問題に対応できる汎用的能力が求められている。したがって、論理的思考能力の基礎となる数学、自然科学の知識を確実に身につけていることが不可欠である。
また、「現場、現物、現実」を踏まえ、適切に公衆の健康及び安全への考慮や文化的、社会的及び環境的な考慮を行い、複合的な技術問題の解決や特定の需要に合った系統、構成要素又は工程を設計する能力(engineering design能力、創成能力)が必須。
その専門分野のことしか知らないのでは適切にものを作れない。製図や材料力学など各専門分野の基礎の習得は当然であるが、異文化の相手(国籍、年齢、専門等)を理解する能力、社会と科学・技術との関連を理解し考えることができる能力、問題提起ができる能力、実践を通して暗黙知を形式知に転換し新たな形式知を創造していく能力、技術者の社会的責任を自覚し自ら説明することができる能力、プロジェクトを動かしていくなどの業務遂行能力といった単なる知識ではない資質・能力も重要。
「摺り合わせ型」製品や競争力が求められるコア技術に関しては、部品をどのように高度に組み合わせていくかなどの生産技術情報は一般に企業内でブラックボックスにされる。部品メーカー製品メーカー間などの摺り合わせ力、総合化力、チームワーク力が求められる。
「組合せ型」製品や汎用部品に関しては、誰にでも分かるように徹底した文書化、規格化が行われる。競争力を発揮するには、国際的な分業管理や、規格規準戦略をグローバル規模でリードしていける能力が期待される。
社会・産業界のニーズに応え、一貫した人材育成が行われるためには、教育界と産業界とが対話を行い「求められる技術者像」を共有していなければならない。
技術者は、技術者教育を受けた後も、技術業の経験、継続教育を重ね、技術者として大成していくものである。
産業界からは、「求められる技術者像」に至る技術者のキャリアパスが示されねばならない。技術者のキャリアパスを踏まえた上で、たとえば技術業プロジェクトリーダーレベル、修士課程修了レベル、学士課程修了レベルそれぞれの段階で達成され身につけるべき知識、資質・能力の程度を示した評価規準(学習成果の要素毎に到達レベルを示した「学習成果評価規準」)が産学共同で整備されるべきである。
日本技術士会は、「基本修習課題:能力要件への展開」で、技術士を目指す修習技術者が修習期間(技術士になるまで)において達成するべき目標を「基礎技術知識および理解力(数学及び基礎工学)」「専門分野における技術知識、計画、設計、応用能力」「計画および設計」「リーダシップおよびマネジメント」「コミュニケーション、国際的な適応」「専門職技術者の社会的責任」といった能力要素毎に示している。
また、米国土木学会は、一貫学習成果評価規準(ruburic integrates outcomes)で、「数学」「自然科学」「人文科学」「社会科学」「材料科学」「力学」「実験」「問題認識と解決」「創成(エンジニアリング・デザイン)」「持続可能性」「現代問題と歴史的展望」「リスク及び不確実性」「土木工学領域の見識」「専門技術」「コミュニケーション」「公共政策」「企業及び公共管理」「国際化」「リーダーシップ」「チームワーク」「態度」「生涯学習」「職号・倫理責任」といった学習成果項目それぞれについて、知識レベル、理解レベル、応用レベル、分析レベル、統合レベル、評価レベルの6レベルの水準を設定し、免許前経験、修士、学士で到達すべきレベルを学習成果要素毎に示しており、参考にできる。
なお、我が国の土木学会では、卒業後のキャリアパスを踏まえ、実務に携わる土木技術者に対しては4階層の技術者資格制度を整備している。
学士課程においては、少なくとも数学、自然科学、基礎工学、専門工学の知識を応用して、一定の制約内で複合的な問題を解決できる能力を身につけている必要がある。
学習成果評価規準策定に当たっては、中央教育審議会が学士課程共通の学習成果に関する参考指針として示した「学士力」も参照すべき。
「学習成果評価規準」のうち大学において達成すべき目標は、より具体的に大学において履修すべき必要不可欠な教育内容を示した「技術者教育モデル・コア・カリキュラム」として策定が促進されるべきである。達成目標は、「○○することができる」といった、各学生のアウトカムズを評価可能な行動特性(コンピテンシー)の形式で記述されている必要がある。
すでに整備されている医学教育モデル・コア・カリキュラムは、国家試験出題基準との整合性も考慮し、医学・医療に対する社会のニーズの変化に対応して全ての医学生が大学卒業時までに修得すべき総合的知識・技能・態度(基本事項、臨床前医学教育コア、臨床実習コア)についての一般目標と到達目標を具体的に示しており、各大学はカリキュラム全体の約3分の2程度の時間で修得させ、残りの約3分の1程度で各大学の特色ある選択カリキュラムを策定すべきことを提言している。
具体的には、基本事項として、一般目標:医療と医学研究における倫理の重要性を学ぶ、到達目標:医学・医療の歴史的な流れとその意味を概説できる、臨床前医学教育として、一般目標:主な感染症の病因、病態生理、症候、診断と治療を学ぶ、到達目標:病原体に対する生体の反応を説明できる、臨床実習として、一般目標:受け持ち患者の情報を収集し、診断して治療計画を立てることを学ぶ、到達目標:診断・治療計画を立てられる、等を挙げている。
基本事項の学習者の到達度評価は、学習の各段階で行い、特に臨床実習開始前と卒業時に適切に評価する必要があるとされ、医学教育モデル・コア・カリキュラムの到達目標に準拠した全国的な標準評価試験(CBT:知識・問題解決能力評価及びOSCE:診療技能・態度評価)が行われている。
技術者教育モデル・コア・カリキュラムに含めるべき内容として、以下に留意すべきである。なお、技術分野間で異なる部分と共通部分とがあり、技術分野毎に二層構造の技術者教育モデル・コア・カリキュラムが整備されることが妥当。
を含めるよう配慮すること。
技術分野毎に整備されるモデル・コア・カリキュラムは、その分野の技術者になる者が大学において履修すべき必要不可欠な内容をより具体的に共通的な達成目標として示すものであり、質の高い技術者を養成しようとする各大学のカリキュラムの中に有機的に盛り込まれることで、技術者教育の一定の水準を確保することになる。技術者教育認定制度における認定審査において参照される役割も期待される。
なお、モデル・コア・カリキュラムに併せて、技術者教育にふさわしい良好なテキストが開発されることも重要である。
国際的に通用する技術者教育を保証し、さらに世界の技術者教育を牽引するためにも、日本において早急に「求められる技術者像」に向けた「学習成果評価規準」及び「モデル・コア・カリキュラム」に基づく技術者養成が行われることが望ましい。
また、技術者の裾野を充実するには、数学や自然科学の高度な知識を技術者がどのように社会に役立てているかを、技術者を目指す可能性のある学生を含め広く一般に認知させる取組みが促進されるべき。
関連する学協会(日本機械学会、日本鉄鋼協会、資源・素材学会、電子情報通信学会、情報処理学会、電気学会、土木学会等)の積極的取り組みを期待する。モデル・コア・カリキュラムの策定は一時的なものではなく、専門的な調査研究等を行い必要に応じて改定を行うことが必要である。
学習成果評価規準が精緻化され、個々の学習成果要素のレベルの達成度評価が可能となれば、学校種を超えて組み合わせた多様なレベルの教育プログラム認定も可能になると考えられる。
モデル・ケースとして、国は、特定の分野で学校種を超えた連接も考慮に入れた学習成果評価規準等の策定支援に着手すべき。
1961年に米国MITの11人の教授会メンバーからなる委員会が報告書(Report on Engineering Design, MIT Committee on Engineering Design, Journal of Engineering Education 51, April 1961)をまとめ、教職員をPh.Dや理学博士になりたての者から補充するという政策が解析手法重視への教育につながっている 、技術者の卵は技術者によって教育されなければならないと、エンジニアリング・デザイン教育に対する強烈なコメントを発したと言われる。
優れた研究論文を書いている教員が魅力的な教育を行う一方、教育に注力している大学では、教育センターのような組織をつくり、専任の教育系人材を置いているケースもある。
技術者教育を行う教員には、知識を使える形で教えるインストラクターとしての能力が求められる。
教員も社会・産業界のことをよく分かっている必要があり、教員のインターンシップや企業出身者の教員への採用も重要である。
到達度評価を取り入れた教育では、教員は、授業計画において何を、どこまで、どのように教えるかを明確にすることが求められ、FD活動の充実が必要。
教員能力開発の事例として、以下の取り組みがある。
愛媛大学の「三層FD論」(FDを、ミクロレベル:授業の改善、ミドルレベル:カリキュラムの改善、マクロレベル:組織の整備・改革、に分けて定義)や、国立教育政策研究所の「FDマップの活用事例と可能性」を引用した千葉大学全学FD研修会。
「FD/SD/TAD三位一体方能力開発」(特色GP):
大学間FDネットワーク中四国が形成され,プログラムの共同開発,講師の相互派遣等で連携している。
「四国地区大学教職員能力開発ネットワーク」(戦略GP):
四国地区の国立大学と近隣公私立大学等の連携により、域内のFD/SD事業の連携と発展を図り,
(平成20年度:全学的なFD研修)
教授法についての他大学や海外での取り組みを紹介。
ワークショップA(教授法ワークショップ)として,「応用できる知識を学生に獲得させるには」「学生の創造性を養うには」「学生の理解力・表現力を養うには」「学生の多様性を前提とする授業は」等のトピックスについて、8班に分かれて討議。
平成13年度よりFD合宿セミナーを実施。平成21年度は、大学の寮で、グループ作業を中心とした4つのプログラムによって、学生主体型授業を体験するほか、各科目の存在意義、授業設計、成績評価方法、授業改善の方法を具体的なケースを交えて考察・議論した。
FDフォーラムでは、学生と教員が同じテーブルで授業方法や成績評価などについて意見交換を行うことにより、教育プログラムの改善と充実を図っている。年に1回各分野ごとに実施する。
FD研究会において、教員が自分の授業の出席率や学生へのアンケート結果をまとめ、現状や対応策等を報告したり、学部で研究すべきテーマの話題提供を行ったりしている。
学校教育法の一部改正に伴い、大学教員は教育上、研究上又は実務上の能力を有すべきことが明示された。実務上の能力は、技術士や建築士といった資格で、研究上の能力は論文の内容や数などで評価することができるが、教育上の能力はその客観的な評価方法が普及していない。
(社)日本工学教育協会は、教育士(工学・技術)に関するルールを策定し、2005年度以来、現在までにディファクトスタンダードではあるが、600名を超える大学教員や技術者が取得している。教材の開発、FD講師などの教育活動をポイント換算する仕組みとなっている。
教育活動を取り入れた教員評価システムとしては、以下の事例がある。
授業評価、指導大学院学位取得学生数、教材作成等の教育活動を含めて評価し、年俸、昇格等の参考としている。
先端研究を通じた教育は、学生の学習モチベーションの高揚や先端学問を習熟した技術者の企業への導入、イノベーションの創出の側面から教育の必要な要素である。先端研究を通じた教育は各大学の特色ある教育の実践において大切な役割を有している。しかし、先端研究を通じた教育に偏った教育は基礎力習得が十分に行われない原因の一つと考えられているので、基礎的教育と最先端研究の要素を融合させることや、基礎的教育と先端研究を通じた教育とのバランスを考慮するなどの工夫が必要である。
学習成果が実際に社会でどのように生かされるかを学生に体感させるとともに、社会・産業界でいきいきと活躍する技術者のキャリアを示すことにより、学ぶことの意義を理解し、学修の効果を向上させることが重要。
ものづくりには知識が必要だが、知識だけではできない。知識を使える形で教えるトレーニングが重要。
ものづくりのために求められる実践力、安全性への配慮、人間関係の構築、課題探求能力、解決能力、最後までやり遂げる責任能力、工学と社会の連関を知る能力などの能力を付与するためには、実際の現場での体験型授業、グループ作業での演習、発表やディベート、問題解決型学習PBL(Problem Based Learning)など学生自らが実践する形の授業などをカリキュラムへ積極的に取り入れていくことが必要である。
米マサチューセッツ工科大学が考案したCDIO構想は、学問体系、スキルやプロジェクトが織り込まれ、「思いつく(考え出す)」「設計する」「実行する」「運営する」を背景とするエンジニアリング基礎教育を学生に提供するものであり、良好事例である。
グローバル化に対応できる技術者として、外国の技術者との共同作業、情報交換、討論、指示など現場で必要とされる外国語による一定のコミュニケーション能力を、既存の外国語能力試験などを利用して保証することも検討されるべきである。
幅広い視野と柔軟な思考力を養うには、教養教育が大切である。できれば、学部や学科を超えたグループでの活動を体験することでより広い視野や柔軟な思考力を涵養できると期待される。大学毎の特色ある教育を実践するためにも、学部、学科を超えたカリキュラムの体系化が望まれる。21世紀の科学技術の進歩に伴い、知識や技術の量は膨大となり、大学での技術者教育に対する要求はますます多様化している。新たな視点に立った学問領域や技術分野も生まれており、従来の学科にゆだねられていた専門教育では様々な分野での活用が期待される技術者を養成することはできない。複数の学科にまたがる教育内容を再編成し、質の保証と同時に教育内容の多様化にも応える必要がある。
効果的な教育方法として、以下の例がある。
例えば蒸気機関について、その発明が実用化されている背景や発明家たちの歴史の調査、理論についての説明、実際に現象をプレゼンテーションするための装置の製作とデモを行うなど、講義、実験、調査や課題解決を交えた授業が行われている。
企業で働く社会人が正規学生として受講し、学生が所属する各企業・機関の希望に応じた科目を、教員による履修アドバイスも受けながらオーダーメイドで履修できる制度。
第4学年に約5ヶ月間、企業等の現場で実務を行い、これによって得られた成果をもとに、大学院修士課程での研究テーマや職業への基礎的な認識を経験させ、将来の技術の創造展開に大きく役立てようとするもの。平成21年度は国内企業のほか、海外29機関に44名を派遣した。
各自の専門分野や修得度等を踏まえ、指導教員の他に経験豊かなアドバイザー教員(企業経験者等の特命、特任教員)から適切なアドバイスを受け、広い視野が持てるようにテーラーメイドなカリキュラムが作られる。
大学と企業の協働により企業でのインターンシップをはじめ、共同研究交流、人材交流を実施し、大学から企業へとバトン(学生)を渡すようなプログラムとなっている。
国際的に活躍できる実践的技術者を育成するため、民間企業と協力し、企業の海外事務所において就業体験等を行っている。教室の学習と企業でのインターンシップとを繰り返し行うコーオプ(Coop)教育によってキャリア教育・職業教育・国際交流を実践している。
学部および修士で学んできた基礎的素養を総合的に活かして、都市づくりなど、実問題を想定し、情報の収集と分析、それに基づくプロジェクトの実践と効果の評価をおこない、一連の成果をまとめてレポートを作成し,プレゼンテーションをおこなっている。
学習・教育目標を達成するために必要な教育内容・方法に関し、学習・教育目標とセットにした国内外の良好事例の収集・普及が行われるべきであり、技術者教育認定機関にその役割が期待される。
OECDは、高等教育における学習成果の評価(AHELO)に関する国際的な検討の可能性を探るフィージビリティ・スタディ(試行的に試験を行い、本格的な実施の可能性を明らかにすること)の実施(2008~2011)を提案しており、我が国はengineering分野への参加を決定している。今後、同試行を踏まえて、各大学が学習成果評価方法の改善、日々の教育の改善に継続的に取り組んでいくことが重要。
論文の評価では、評価の客観性確保のため、外部評価委員を設けるなど指導教員以外の者が評価に加わることが適切。
GPAを導入・実施する場合は、例えば不可となった科目も平均点に参入するなど国際的にGPAとして通用する仕組みとすべき。
良好事例として、以下の取り組みがある。
学生一人ひとりに応じたよりきめ細かい学習サポートを実現し,教育の質の向上,社会からの信頼に対応するため、入学時に示す目標以上の知識や能力を学生が身に付けて卒業できるよう,目標への一人ひとりの到達度を学期ごとに知らせて,それに応じた学習へのアドバイス等を行っている。
社会人基礎力に相当する能力として、人間力(社会に適応する力 [*1]) とエンジニアリングデザイン能力(専門知識を統合して応用する能力)に分け、入学から卒業するまでの4年間で社会人基礎力が段階的に育成・定着する教育プログラムの構築を目指している。
その人間力とエンジニアリングデザイン能力の育成度や定着度を測る方法として、28項目の学習目標評価表を用い、学生が1学期中に3度(学期の初め・中間期・学期末)の自己評価を行い、教員は学生の普段の活動状況や個別面談によってそれを評価している。
*1 1、2年次では、自律・自律力やリーダーシップ、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、コラボレーション能力を育成。そして3、4年次には、行動力やチームワーク力、説明力や表現力、自己啓発力や自己管理能力を育成。
入学時に卒業に際し期待される学生像の目標を設定し、この目標に対し学年毎の到達度を自ら記録するとともに、学科教員から見た学生の成長の様子、シニアメンターから見た学習上のアドバイスが書き込まれたポートフォリオを学部の全学生が作成している。
国際的には、国境を超えた高等教育提供の進展などを背景に、欧州資格枠組み(種々の資格について学習成果を8段階に設定)に対応した欧州高等教育資格枠組み(第1~3サイクル)が整備されるとともに、大学段階の学習成果を測定する市販の標準試験ツール(「学力向上度測定事業(MAPP)」、「大学習熟度評価(CAAP)」など)の活用、卒業生調査などの学習成果アセスメントの取り組みが進んでいる。
また、エンジニアリング教育の実質的同等性を相互承認するためのエンジニアリング教育認定団体国際協定として、ワシントン・アコードが1989年(平成元年)に成立している。
技術者教育に関しては、平成11年に日本技術者教育認定機構(JABEE)が設立され、技術系学協会と密接に連携しながら、高等教育機関で実施されている技術者教育プログラムが社会の要求水準を満たしているかどうかの認定が行われている。JABEE認定制度は、学習成果を重視し、修了生全員の完全習得学習を保証する仕組みとなっており、JABEEは2005年(平成17年)にワシントン協定に加盟。
工学系学部・研究科を有する大学154校中86校以上がすでにJABEEによるプログラム認定を受けている(平均3プログラム/校)。
JABEEによる技術者教育認定では、
といったことが審査されている。
JABEEによる認定審査のばらつきが指摘されており、海外の事例を参考に、審査員のあり方を改善するべき。
OECDのAHELOフィージビリティ・スタディやPISAで中核的な役割を果たしているオーストラリア教育研究カウンシルACERが、高等教育におけるエンジニアリング能力の評価基準に、調査研究・課題設定力、マネジメント力、協働力も含めていることにも配慮すべきである。
工学部教育プログラムの中には、JABEE認定に馴染まない、「技術者」以外の多様な活躍(販売、事務等)を主な狙いとするものも存在しうるが、技術者教育プログラムに対しては、その質の確保を図る観点から、学校種を超えた技術者教育プログラムの認定も含めJABEEの認定制度の改善、充実に向けた取組みが促進されるべきである。
JABEEによる認定評価結果について認定事実以外の評価結果情報が公開されていないが、公開されるべき。
教材、効果的な教育方法・学習成果評価方法・教員評価方法等の良好事例普及活動が、技術者教育認定機関により積極的に行われるべき。
プログラム修了生の就業状況、技術者のキャリアパス、技術者像の発信が、技術者教育認定機関から積極的に行われるべき(中央職業能力開発協会が、エンジニアリング業のキャリアルートの例、職業能力評価基準を示している)。
社会から求められる水準が審査委員等の判断に相当程度委ねられており、最低限の技術者基礎レベルの到達目標を含む技術者教育モデル・コア・カリキュラムが整備、参照されるよう期待される。
高等教育局専門教育課科学・技術教育係