大学における実践的な技術者教育のあり方(案)-骨子-

1.背景

(1) なぜ、技術者養成の充実が求められているのか

  • 高度経済成長期に経済発展の原動力となってきた技術者であるが、現代においては経済、外交、安全保障、健康・福祉、エネルギー、環境、防災、都市問題等の社会的課題との関係も深まっている。
  • 社会のグローバル化や科学技術の高度化・複雑化にともない、十分特定された技術問題を処理する技能者や科学的原理を探求する科学研究者だけでは解決できない問題が増加しており、実際に自然科学等の知識を応用して複合的な問題を解決できる技術者の養成のニーズが高まっている。

(2) なぜ、実践的な教育が必要なのか(現在の技術者教育の問題点)

  • 大学において研究が重視され必ずしも適切な実践教育が行われていない。
  • 明治時代当初、我が国においては、世界に先駆けて工部大学校を設立。学問と訓練のバランスを考慮した「基礎教育」「専門教育」「実地訓練」の3つをエンジニアリング教育の基本理念としてスタート。
  • 技術者の養成には、現場、現物、現実を踏まえ、自然科学等の知識を適切に応用する実践教育が重要である。

2.技術者について

(1)技術者の定義

  • 我が国では「技術者」が明確な定義のないまま使用され、混乱が生じており、まず技術者の定義を明確にすべき。
  • 国際的には、技術を担う人材として、十分に特定された技術問題に対処し経験的な実務能力が求められるTechnician、広範に特定された技術問題に対処するTechnologist、設計・開発・監督など複合的な技術問題に対処するEngineerの3つの区分が存在。
  • Engineerになるもののための教育プログラム(典型的に4~5年のプログラム)修了生(Washington Accord Graduate)は、公衆の健康・安全への考慮、文化的、社会的及び環境的な考慮を行い、複合的な問題の解決や特定の要求に合った体系、構成要素又は工程を設計する特質を持つ。
  • 本報告書において、「技術者」は、国際的にEngineerとして通用するものとして、「自然科学等の知識を用いて人類のために役立つもの(サービスを含む)を適切な判断のもと、創造、開発、実現する活動を担う人」と定義する。

(2)求められる技術者像

  • 「技術者」の定義は普遍的なものと言えるが、具体的に人材育成の目標である「求められる技術者像」を明確にすることが重要。
  • 社会・産業界のニーズに応え、一貫した人材育成が行われるためには、教育界と産業界とが対話を行い、「求められる技術者像」を共有していなければならない。

3.これからの技術者教育のあり方

(1)学習成果評価規準(「求められる技術者像」を学習成果の観点から具体化)

  • 技術者のキャリアパスを踏まえ、たとえば技術業プロジェクトリーダーレベル、修士課程修了レベル、学士課程修了レベルそれぞれの段階で達成され身につけるべき知識、資質・能力の程度を示した評価規準(学習成果毎に到達レベルを示した「学習成果評価規準」)が産学共同で整備されるべき。
  • 学士課程においては、少なくとも数学、自然科学、基礎工学、専門工学の知識を応用して一定の制約内で複合的な問題を解決できる能力を身につけなければならない。

(参考)米国土木学会ではrubric integrates outcomesとしてすでに整備。

(2) モデル・コア・カリキュラム(学習成果評価規準を達成するためのもの)の策定及び盛り込むべき主な事項、留意点(技術者教育の特色に留意)

  • 「学習成果評価規準」のうち大学において達成すべき目標は、より具体的に大学において履修すべき必要不可欠な教育内容を示した「技術者教育モデル・コア・カリキュラム」として策定が促進されるべき。
  • 我が国の技術士1次試験の内容と同等になるよう留意。
  • 現場、現物、現実を踏まえ、適切に公衆の健康及び安全への考慮や文化的、社会的及び環境的な考慮を行い、複合的な技術問題の解決や特定の需要に合った系統、構成要素又は工程を設計する能力(創成能力)を習得させる実践的な創成型科目を含めるよう留意。

(3)モデル・コア・カリキュラムに期待される役割

  • モデル・コア・カリキュラムにより、技術者教育の一定の水準確保になる。技術者教育認定制度における認定審査において参照される役割も期待される。
  • コア・カリキュラムに併せて技術者教育にふさわしい良好なテキストが開発されることも重要。

(4)「求められる技術者像」、「学習成果評価規準」及び「モデル・コア・カリキュラム」の策定への学協会への期待

  • 国際的に通用する技術者教育を保証し、さらに世界の技術者教育を牽引するためにも、日本において早急に「求められる技術者像」に向けた「学習成果規準」及び「モデル・コア・カリキュラム」に基づく技術者教育が行われることが望ましい。
  • 関連する学協会(日本機械学会、日本鉄鋼協会、資源・素材学会、電子情報通信学会、情報処理学会、電気協会、土木学会等)の積極的取り組みを期待。

(5) 他の学校種との連携・学校種を超えた学習成果の評価への展望

  • 学習成果評価規準が精緻化され、個々の学習成果要素の多様なレベルの達成度評価が可能となれば、学校種を超えて組み合わせた多様なレベルの教育プログラム認定も成立しうると考えられる。
  • モデル・ケースとして、国は、特定の分野で学校種を超えた連接も考慮に入れた学習成果評価規準等の策定支援に着手すべき。

4.各論

(1)大学教員に求められる教育能力及びその評価方法

  • 技術者教育を行う教員には、知識を使える形で教えるインストラクターとしての能力が求められる。

(2)研究・教育・イノベーションの三位一体を推進し社会を支える技術者教育

(3)学習成果の適切な評価方法

(4)国際性を踏まえた技術者教育認定制度の改善

  • 我が国では、平成11年に日本技術者教育認定機構(JABEE)が設立され、技術系学協会と密接に連携しながら、高等教区機関で実施されている技術者教育プログラムが社会の要求水準を満たしているかどうかの認定を実施。工学部系学部・研究科を有する大学154校中86校以上がすでにJABEEによるプログラム認定を受けている(平均3プログラム/校)。
  • JABEEは、認定審査のばらつきが指摘されており、海外の事例を参考に、審査員のあり方を改善すべき。
  • JABEEは、認定事実以外の評価結果情報も公開すべき。
  • 技術者教育認定機関は、教材、効果的な教育方法、学習成果評価方法、教員評価方法等の良好事例普及活動やプログラム修了生の就業状況、技術者のキャリアパス、技術者像の発信を積極的に行うべき。

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高等教育局専門教育課科学・技術教育係