障害のある学生の修学支援に関する検討会(平成28年度)(第4回) 議事録

1.日時

平成28年7月22日(金曜日)15時~18時

2.場所

一橋大学一橋講堂 中会議場1、2

東京都千代田区一ツ橋2-1-2 学術総合センター2階

3.議題

  1. 第二次まとめの取りまとめに向けた基本的な考え方
  2. 関係者へのヒアリング等
  3. その他

4.議事録

【竹田座長】 本日は、これまでの御議論を踏まえ、平成28年度検討会第二次まとめの取りまとめに向けた基本的な考え方をあらかじめ委員から頂戴いたしました意見を踏まえ、作成しておりますので、こちらの考え方を御確認いただきます。
その後、「障害者差別解消法を踏まえた「合理的配慮」や「不当な差別的取扱いに関する考え方の確認」について御議論を頂きたいと考えております。
議論にあたり、今回ヒアリングに御協力いただきますのは、一橋大学保健センターの丸田伯子教授と岡山理科大学総合情報学部社会情報学科の川島聡准教授です。また、高橋委員からも説明を頂く予定でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
なお、本検討会におきましては、御発言される場合には必ず挙手をした上で、お名前を述べてから発言いただきますことをお願いいたします。
まずは事務局より配付資料の確認及び最初の議事、(1)第二次まとめの取りまとめに向けた基本的な考え方に関し、資料1の説明をお願いいたします。

【小代課長補佐】 資料1、平成28年度「検討会」第二次まとめの取りまとめに向けた基本的な考え方について説明します。
こちらにつきまして、これまでの検討を踏まえ、第二次まとめをこれから取りまとめて頂くにあたっての、基本的な考え方、方向性をまとめております。委員の皆様方の認識を共有するということで作成しているものでございます。
したがいまして、1番目の取りまとめの方針、ここが重要かと考えております。障害者差別解消法の施行に伴いまして、全ての大学、短大、高専において具体的な対応が求められております。当然、全ての教職員の関与、それから理解が必要ということです。そのため、教職員の理解を深め、適切な支援を促すということで、その取組むべき内容について、理念ももちろん大切ですが、できるだけ具体的な記述内容にした方がいいと書いております。
そして、教職員が様々な取組を行うにあたりまして、考え方を常に参照できるようなものとするという方針を1つ掲げております。
それから2つ目です。大学等の教職員がこれを参照するということは当然ですが、障害を持った学生さんも多く参照すると考えられます。それから関係の方、保護者ですとか、あるいは介助の方があると思います。それから、実際には大学には障害のない学生さんがたくさんいらっしゃいます。それから初等・中等教育関係機関の方、それからハローワークなどの就職支援機関、それから企業の方、それから民間の障害学生支援団体など、こういった様々な団体が参照するということを考えまして、関係者の共通理解、連携の推進を図るという方針で作成したいということであります。
それから3つ目です。「ニッポン一億総活躍プラン」ですとか、あるいは教育再生実行会議が提言を出しております。そういった趣旨を踏まえまして、実現に貢献をするということを考えております。
具体のところは括弧の中に書いてあるものでございます。
それから、4つ目です。これまでの検討で、特に取組むべきということで、何度もこれは議論されてきたと思いますが、関係者間のネットワークの構築ですとか、あるいは人材・支援インフラなどのリソースの共有化、こういったものを実現するため拠点の整備、これにつきまして具体的なあり方ですとか、整備の進め方、こういったものについて検討・記述をすると書かれております。
それから、5つ目です。いろんな支援を行うにあたりまして、よりどころとなる学生の支援内容に関する資料の作成、活用、こういったものにつきまして、別途初等・中等教育段階の議論が進められておりますけれども、こういったものとの整合性について注意しながら検討を行い記述するということで、社会との各段階間の移行の際における、支援内容の適切な引き継ぎが課題であることに留意したいと考えております。
この取りまとめの方針を踏まえまして、次のページの2の内容になります。
記載事項でございますが、説明を申し上げました1の取りまとめの方針にしたがって、この第二次まとめを作っていくということになるわけですが、そのとき論点整理の事項に沿ってそれぞれまとめていくということに当然なるかと思います。
これまで1回目から3回目の会議で議論を行った、その議論の内容を、論点整理の重点検討事項に沿って分類をしてまとめてみたというものでございます。これはあくまでこれまで1回目から3回目の会議の議論で出てきた意見のうち、恐らくその方向性について委員の皆様方の間でそれほど大きな異論や立場の違いといったものがないであろうと思われるものを記述しております。
ただ、これは1回から3回目の議論を通して出てきた御意見ですので、ここで確定という話では当然ございません。その意見に、事前に委員の皆様方から頂いた意見を踏まえ作成しておりますが、その中で実は反映させて頂いてないものもございます。それは、お話ししましたように、これが1回目から3回目までの議論を踏まえたものでございますので、第二次まとめに記載するのにふさわしいだろうと思われる御意見であっても、まだ議論がなされていないものは今後議論をしてからということになるかと思いますので、それについてはここにまだ反映しておりません。今後ヒアリング、それから本日の御議論、こういったものも踏まえて、そこは検討して頂くということになります。
それで、そういう意味で、この内容について御確認を頂ければということになりますが、1番目の取りまとめの方針を考える上で、これまでの検討内容を整理してみたものになっています。
ただその結果、現時点で委員の皆様方の共通認識の中で、ちょっとこれはかけ離れているのではないかといったものがあれば、そこは修正して頂くということで考えております。
先ほどの繰り返しになりますが、本日のヒアリングの議論の内容や、事前に皆様方から頂戴した御意見、新たな観点、更なる議論が必要な事項というのは、次回からの取りまとめに向けた議論の中で取扱って頂ければと思っております。
ということで、こちら全部の説明は時間の関係で割愛しますが、論点整理の中の重点検討事項ということで分類をしておりますので、御確認を頂ければと思います。
簡単ですが、以上でございます。

【竹田座長】 どうもありがとうございました。
ただいまの御説明に対しまして、何か委員の皆様から御意見ありましたらよろしくお願いします。よろしいでしょうか。では神藤委員、お願いいたします。

【神藤委員】 関西大学の神藤です。
こちらの基本的な考え方、すごくよくまとめていただいていると思うのですけれども、また、御説明にもございましたが、現場にいる者としましては、具体的に記述していただくことは、すごく現場でやるために役に立つものになると思いますので、例えば支援室という表現1つとりましても、コーディネーターは必ず必要であるとか、コーディネーターとともに支援室を担当する事務職員が必ず必要であるとか、そういうふうな、ついつい忘れてしまいがちなのですけれども、そういった本当に具体的な表現も入れていただけると実際に支援室を作るとなったときに上層部に話がしやすいと思いますので、よろしくお願いいたします。
以上です。

【竹田座長】 ありがとうございました。表記上の問題等、できるだけ具体的にということが先ほどの取りまとめ方針、第1のところに書いておりますので、また参考にしていただきたいと思います。
そのほかいかがでしょうか。よろしいでしょうか。先ほど事務局の方からありましたように、これで決定ということではございませんので。
それでは次の議事、関係者へのヒアリングのところに入らせていただきたいと思います。
論点整理の「障害者差別解消法を踏まえた「合理的配慮」や「不当な差別的取扱い」に関する考え方の確認」に関連しまして、丸田一橋大学教授、川島岡山理科大学准教授、高橋委員から御説明を頂きたいと思います。
説明方としましては、まず丸田教授に20分程度で御説明を頂いた後、その後、御発表に対する意見交換の時間をとりたいと思います。
次に川島准教授についても同じように進めさせていただきたいと思います。
最後に、高橋委員に30分程度御説明を頂いた後に、3人の先生方の御説明全体に対する御質問を決めて、本日の議題である「障害者差別解消法を踏まえた「合理的配慮」や「不当な差別的取扱い」に関する考え方の確認」について、全体で御議論を頂くことにしたいと考えております。
それでは最初に丸田教授の方からどうぞよろしくお願いいたします。

【丸田教授】 今、御紹介いただきました一橋大学保健センターの丸田と申します。よろしくお願いいたします。
私は保健センターの校医ですが、平成17年度からは産業医を兼ねております。大学の現場でメンタルヘルスに関わる立場からまとめました。
数年前に障害学習支援室を立ち上げる前段階で、数年間障害学生の支援に関わった経験がございます。昨年あたから、支援室が立ち上がったということで本来の保健センター業務に比重をおいています。それでは説明に移ります。
今日は大体4つの項目をまとめてきました(スライド1~4)。
障害支援の対象となる精神障害について、もう10年、20年前から学校医はメンタルヘルスが大事ということで、学生の対応にあたってきましたが、支援が制度化されていなかったこともあり、支援の必要な学生を見いだし、適切な支援を提供することが難しかったという反省があります。
精神障害のある学生がどのくらいいるのかについては、明確な統計が見つからないのですが、概算したものを御紹介したいと思います。
また、ベースとなるこれまでのメンタルヘルス対応の例で、まとめたものを付けました。
最後に、どのような精神障害の区分が支援体制と関連しているかをお示しします。
まず、これまで支援とメンタルヘルスに関わった中での、具体的な対応についてまとめました。精神障害の支援の特徴として、症状や経過の個別性が高く、どこから医療が必要なのか、どこまでカウンセリングで対応するのか、どの辺りから支援の検討や実施が必要か、更に障害者雇用を考える基準はいかなるものか、線引きが難しいということがあります。
最近になって法律が整備されました。学生と教員と支援者、この3者が合意形成をすることが支援のプロセスにおいて大事です。そして合理的配慮は組織の決定であること、更に組織の対応に一貫性があることが重要と感じています。
病名の開示についてです。支援申請の手続にあたり、精神障害の場合は通常、診断書を提出していただきます。診断書の内容は、カウンセラーなど障害学生支援室スタッフは確認することが多いのですが、個別の履修科目の教員に対して開示をするかどうかは、学生の意思を確認した上で決めて、必ずしも全開示とはしていません。
また、精神障害の支援では、学期途中に支援を開始することがしばしばあります。もちろん入学時、学期前、夏休み中などに準備して、学期始めに支援申請となることもあります。学期途中に支援を立ち上げる場合、配慮内容の決定を迅速に行う仕組みが必要です。そうでないと診断書の提出を待って、委員会開催を調整する間に数週間あるいは数か月近くが経過して、結局その学期は支援がうまく機能しないことになります。例えば期末試験の直前に支援が申請されると、次の学期からの支援が合理的とされることもあります。
先ほどの診断書ですが、精神科の医療機関は、特に首都圏の傾向かもしれませんが、受診まで待つことが珍しくありません。数週間とか、あるいは発達障害ですと数か月待ちもあります。必要な支援が診断書がないため受けられない状況では、その学期が充実しないと言いますか、学生にとってかなり不安なものになってしまいます。
学期改革で4学期制となる大学では、支援の立ち上げ方に工夫が必要だと思います。
これまでに、学内専門家の判断による暫定的に、診断書を待つ期間に学内で配慮願を発行するなどして、つなぎの対応を検討しています。これは学校の状況にもよると思います。
主治医との連携も、精神障害の特性により重要です。学期中に病状が変動することがあり、学期の入り口で支援計画を作成しても、その学期中に支援内容の見直しが必要になることがあります。また、病状によっては支援を手厚くするより、まずは休学が妥当と判断されることもあります。休学や復学の判断にあたり、主治医と連携をするということが非常に大事です。
休学については大学は半年単位というルールが多いようです。体調不良が理由なら、1か月単位の休学があればよいと思いますが、学務的な面で可能であるかはわかりません。例えば、4月から半年間休学するというパターンはよくありますが、7月とか9月に体調を崩した場合、10月1日の時点で復学が難しければ、翌年3月まで休学となり、休学期間が長めになります。
在籍年限については、精神障害の場合、一定期間のリハビリ的な対応で履修科目を減らすことや、休学や留年となることがあります。不調期間が長引くと、在籍可能な年限に達して退学となる場合があります。再入学とか転学とか、通信制の大学、例えば放送大学ですとか、柔軟な方法で勉強を継続できることが望ましいと考えます。
支援内容の決定前に機能障害の程度をアセスメントが行われます。精神障害の場合は一般的な検査所見より主治医の診断書と、スタッフによる聞き取りが中心です。アセスメント結果があっても支援内容の決定は難しく、詐病と言うと大げさですが、正当でない評価をしてしまう可能性もあります。機能障害の程度に対する支援は、過少や過大を避けなければなりません。英語の授業に不安が強い学生が、基礎学力が十分にある場合でも、レベルの高いクラスだと不安が強く出ると心配して本来よりも下のレベルにしてほしいと希望することがあり、判断は悩ましいです。
支援室の利用についてです。学生によっては、診断を受けてから支援の必要性について理解して、申請を決断するまでに時間を要することがあります。例えば、自覚症状や困り感が乏しく、又は援助希求行動が不得意な学生です。そのような学生に対して、障害を含めた自己理解、支援の手続やルールについて理解してもらうことが期待されます。必要なら、配慮を要請するための、申請書の書き方も支援します。また、支援を受けるにしても、専門的な学びの意欲は大事なので、うつ病で意欲が低下している時期は、うつ状態の回復を待って支援と復学を準備します。
この4月以降、合理的配慮の不提供の場合について、学内規則で職員の懲戒処分を明文化した大学があります。差別禁止として、評価をダブルスタンダードにしないことも規則に盛り込んだ例があります。もちろん、これらは学校によって異なります。
これまで修学支援が支援の中心でした。実は、単位はとっているのに就活で壁にあたる学生も一定数おります。一般雇用も障害者雇用もありますが、精神障害があるといずれも定着は難しく、どのような職を選ぶかということについてサポートが大事だと思います。
就活に向けたサポートとして、必要なのは体調管理とか服装と身だしなみ、そして働く力です。生活リズム、朝起きて、食事をとる習慣、社会生活のルールとマナーの遵守、コミュニケーション力、あとはストレス・コーピングです。
一般雇用と障害者雇用のどちらが良いかという相談を受けますが、結局は本人次第です。周りがどう思っても、本人の納得が大事です。大学として、障害者雇用の説明会を開催するとか、家族との連携を図ることも有用です。
大学が卒業後に支援を提供する期間のことですが、キャリア支援室が卒業後3年間は利用できますが、障害学生の支援部署で、卒業後しばらくサポートを受けられると安心です。
以上が日々の支援に関するものです。
次に、一体どのくらい、精神障害のある学生がいるのかについてです。資料として患者調査を使いました。大学生の年代にちょうど相当する統計はないので、15歳ないし24歳という年齢階級を用いました。精神疾患の有病率は1.26%となります。
一方、大学生の数は285万5,529人です。これで計算すると、約3万6,000人が大学生の患者数です。診断書を提出している大学生の数と比較して、かなり多いと言えます。
大学の実態調査が行われています。これは国立大学に限られており、学生数は少ないですが、精神障害を理由とする学部生の休学割合は平成25年度で0.26%となります。
20代以降の社会人の場合は、表に示したとおりです。括弧の中が長期病休率です。社会人の方が高くなっています。比較するのに注意すべき点は、学部生は6か月以上の休学者ですが、社会人は1か月以上の休職者を計上していることです。
支援までの経過については、精神障害のある学生は、学生相談でカウンセリングを受けたりメンタル相談で治療や受診を勧められたりした上で、診断書をもらって支援を申し込むことが多く、時間をかけて支援を検討することが多いと思います。
新入生健康診断や在校生健康診断などの折に、10年以上前からメンタルヘルス系のスクリーニングは行われています。その目的は支援というより医療の必要がないか、であったと思います。
カウンセラーや学校医の対応ですが、カウンセリングに来る学生は時間をかけて信頼関係を確認した上で医療や支援につなげやすいことが多いです。 健診時のスクリーニングでメンタルの問題がありそうな学生は、健診フォローアップとして呼び出し、カウンセリングや医療につなぎます。対応するマンパワーの問題などで、制約や限界があります。
健康配慮としてやるべきことは外せません。呼び出しても来談がない場合、下宿先訪問とか保護者に下宿先を確認してもらうとか、アルバイト先に連絡するというようなこともして、今起こっている問題が精神疾患・障害によるものかについて判断します。
スライドの表にある、外部医療機関とのやりとりですとか、フォローが乏しい学生の対応ですとか、業務上だけでは、留年した場合には学校がちょっとノーマークになってしまったり、留年しても、いつ復学したかわかりにくい場合もあります。支援につながりにくい学生がいるのも事実です。
留学生も最近増えています。留学生の場合に注意すべきことがあります。まず家族が近くにいないため、学校側も安全配慮ですとか、家族に安全につなぐまでの配慮を求められます。大使館に頼むことになる場合もありますが、そこまでの手続が簡単ではありません。
診断にもよりますが、精神症状が深刻なときは、母国語でないとコミュニケーションがとりにくい事態もあります。かつて、タイ語の通訳に医療の場へ来ていただきました。 精神科の医療とか、あるいは日本の医療ということにかなり不安を持つ方も、外国人学生にいます。
近年、アメリカからADHDや精神障害の治療中で服薬が必要な学生がたいたび留学してきます、これらの治療薬には日本で認可されてないものがあります。事前の調査で定期的に薬を必要とする学生が留学予定で、3か月後来日といった連絡が来ます。なるべく早くにスイッチングとして日本で入手可能な薬剤に変更してもあらって渡航していただきます。来日後、医療を受けていただくこと、必要なら家族に迎えに来てもらうこと、等を承諾していただきます。寮生活で生活支援が必要になる場合もあります。
それから、こちらICD-10というWHO(世界保健機関)による診断分類です。大学生に見られる病名は、大体このようなものです。睡眠障害や高次脳機能障害は近年、注目されています。
なお、うつ病では自殺のリスクがある点、注意が必要です。統計上は学生・生徒等の自殺者が874人で、そのうち大学生が半分を超えています。大学生の自殺予防を考える上でも、精神疾患の把握や支援が大事だと思います。
自殺の動機を見ると、大学生でも健康問題が結構あります。
最後になりますが、参考です。学生だけではないのですが、うつ病を含む気分障害の患者調査です。気分障害は一旦減りましたが、26年度は111万6,000人で再び100万人を超えました。
以上です。

【竹田座長】 丸田先生、どうもありがとうございました。
ただいまの丸田先生の御質問に対しまして、何か御質問、御意見等ありましたら。高橋委員。

【高橋委員】 信州大学の高橋です。
医学の観点から精神障害と精神疾患というのは異なって使われるのかということをお聞きしたいなと思いました。川島先生に法律の観点から御意見いただけるとよいのかなとも思いました。障害者の権利条約における定義のところを見ますと、障害者には長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害という項目があります。この長期的なという部分の扱いが障害者の定義に、権利条約では含まれています。身体疾患で治療法の確立していない慢性疾患であれば障害、それがある人は障害者ということに異存はないと思うのですけれども、では1週間で治るインフルエンザにかかって試験を受けられない学生については障害者という受けとめはないのかなと思います。
それと比較しつつ、精神疾患というのはどんなものか。また、こういった考え方というのが法律的にどうなのかといった辺り、御意見いただきたいと思います。

【丸田教授】 そうですね、あまり明確に区別されていない場合もありますが、「疾患」というのは診断的なもので、病名や診断書に関して考えられることが多く、他方「障害」は、一定程度、社会生活上の困難を来す病状により、もともとの機能が期待できない状態が続いて、何らかの支援や配慮を要するレベルのものです。ニュアンス的なこともありますが、そのように慢性的な状況を障害と言うように思います。

【竹田座長】 川島先生の方からよろしくお願いします。

【川島准教授】 川島です。一言お答えいたします。
障害者権利条約は、確かに「長期的な」という文言が入っております。しかし2点ございまして、1つは、障害者権利条約は障害の概念を前文のエ、そして障害者の概念を第1条で記載しているのですけれども、これらは定義ではなくて、障害・障害者の概念を規定しているにすぎないということと、2点目が「障害者には・・・含む」という言葉が使われておりまして、「長期的な」ものでなくても障害者の概念に含まれる場合があり得るという形で、幅広く考えています。
そして法律的観点から申し上げますと、障害・障害者の概念や定義は法律の目的と趣旨に応じて変わり得るというものでして、その意味で統一的な障害者の定義というのは恐らくないと思われます。それは、例えば社会保障法関係、社会福祉法関係ですと、やはり給付という目的に照らして障害者の定義はある程度限定的にならざるを得ない部分もあるかもしれませんけれども、差別禁止や差別解消の文脈ではある程度障害者の定義を広げて、例えばみなし障害という形で、実際に障害ではないとしても、差別を受けた者は救済されるべきだという考え方に立ち得るということで、かなり障害者の定義は法律の趣旨・目的において変わり得るということがあり得ると思います。

【竹田座長】 ありがとうございました。では広瀬委員、お願いします。

【広瀬委員】 放送大学、広瀬です。大変貴重な御発表ありがとうございました。
丸田先生にお伺いしたいのですけれども、うつ病や気分障害、いろいろあると思いますが、その中に実は発達障害と絡んで起きているケースが若い方にはとても多いような気がします。その辺りはどのように考えたらよろしいでしょうか。

【丸田教授】 発達障害とそのほかの精神障害との合併は多いと考えられています。国立精神・神経医療研究センターの神尾先生たちが成人の発達障害のうち、自閉スペクトラム症(ASD)について研究なさってそのように報告なさっています。発達障害(ASD)のある成人が精神科医を受診する場合、精神障害の併存があるため受診につながると考えられています。
つまり、大人になって、突然「私は発達障害ではないか」と受診に来る方は稀(まれ)で、不安障害やうつ病の症状を主訴に受診して、その後に発達障害に気づかれることが多いのです。発達障害(ASD)のある成人の7割に何らかの精神障害が併存しているとする報告もあります。

【竹田座長】 よろしいでしょうか。そのほか。では殿岡委員、お願いします。

【殿岡委員】 全国障害学生支援センター殿岡です。
丸田先生には医学の立場から、精神障害があっても大学に行けるという認識をどう学生に対して伝えていくかという辺りをお話しいただきたいのと、併せて川島先生に、今の発表は概(おおむ)ね医学モデルとしての精神障害をお話しいただいたのですが、社会モデルとしての精神障害学生支援という観点を法律の立場から少し深めていくようなお話があれば是非コメントいただきたいと思っております。
そして最後に生徒の自殺の理由のところで、進路のところがかなり多くなっているというところがありました。ここに関しては大学生ですから、学習支援とかなり密接に絡んでいる部分だろうと推察されるわけですが、その辺りで丸田先生からコメントを頂ければと思います。
最後に補足ですけれど、さっき障害の定義のところで基本法の改正についての国会審議があったのですが、そこには継続的ということの中に周期的とか断続的ということが含まれていたとの答弁があったかと思うのですが、報告いただいていて、基本的にはこの国会答弁が日本国内では生きている、当てはまってくるのかなということで最後補足させていただきます。
以上です。

【竹田座長】 まずは丸田先生の方から大学への進学に関してお願いします。

【丸田教授】 大学に入る前の、障害をお持ちの方に向けたメッセージということではなく、入学後の学生に向けて、ということでよろしいでしょうか。

【殿岡委員】 どちらと言えば入学後で継続から復学ということも視野に入れるということでお話しいただければと思います。

【丸田教授】 支援制度が一般的でない時代、今から5年ないし10年前に私が対応した学生は、躁(そう)うつ病の病相を繰り返して、留年を最大限せざるを得なくて、結局退学しました。1人で下宿をしていたのですが、家族と同居していたらまた違ったと思います。
ほかにも数科目を残しており、あと半年在籍できれば、というところで退学となった学生がいます。そういうことがないようにするためには、早めに診断や支援につないで、見通しを持って「これで大丈夫」というペースを維持することが大事です。例えば、1年生のときに精神障害や発達障害と診断されれば、翌年以降も支援を継続しやすいです。他方、学生自身に自覚が乏しい場合、入学後8年目にようやく支援が始まるケースもあります。残り1学期で10科目履修しないと退学になるという状況での相談もあります。一旦退学して再入学をすることを含めて支援するケースもあります。そうなると学生本人の頑張る意欲がまず必要ですが、学費のことや家庭の状況にも左右されます。
大学生の自殺の動機として、御指摘のように進路問題があります。最終学年、つまり4年生や5年生以上など、留年時や休学中の自殺が有意に高いと報告されています。サークルやゼミの友人と疎遠になり、指導教員に連絡をとっていない、家族もあまり話していない、という状況が続くと、メンタル不調があっても気づきにくいことがあるかと思います。
留年を繰り返しますと、能力や意欲が十分にある学生でも、就活の書類審査や面接で通りにくいかもしれません。そういう学生の支援が大事だと思います。それから学習支援のニーズですが、留年を繰り返していると、履修の情報からも疎遠になります。そこから履修計画や支援方針を立てて、学生生活を充実させることが大事だと思っています。

【竹田座長】 ありがとうございます。石川先生はこの後ヒアリングがありますので、その後まとめて先ほどの社会モデル的について、よろしいですか。後でまとめの議論のとき伺います。では、今、挙手いただいた白澤委員、丸田先生への御質問を中心にお願いします。

【白澤委員】 筑波技術大学の白澤です。
2点お伺いしたいです。ちょうど、あと数科目で卒業できたのにというお話とかぶるところなのですが、精神の学生さんは、卒業要件や単位取得要件そのものに関わる部分に主要な困難を抱えていることがすごく多いのではないかと思うのです。
例えば本学の場合は、出席回数について、欠席が5回を超えたら期末試験を受ける権利を失うというルールがございまして、この5回をクリアするのが本当に大変で、大変苦労しております。それから最近では文部科学省の方針もあって、アクティブラーニングを実施したり、コミュニケーション能力を育てることが重視されたりしています。同時にこの点が大学の3つのポリシーの中に入っていたりもして、ここがクリアできないで苦労する学生も多くいます。
例えば対人恐怖や統合失調症などの要因で、人前で発表したり、グループ活動に参加することが難しいわけです。そして、そうした授業がとれないがために大学を続けられない学生が多くいるのではないかと思います。この点について、本質的変更にあたるから仕方がないと捉えるべきなのか、それとも、ここは柔軟な対応だが必要だろうと捉えるのか、支援されてこられた先生のお立場では、どのようにお感じになるかをお聞きしたいというのが1点です。
もう1つは、精神の学生さんは、重い病気になると病名を付けることに伴うスティグマが問題になると思われます。けれども診断がつかないと支援の根拠がないことになるし、医学的な根拠が得られないと支援ができなくて、その兼ね合いに悩むことが多いのではないかと思っています。この辺りについても先生からのコメントを頂ければと思います。

【丸田教授】 ありがとうございます。出席点や卒業要件、こうしたことはよく問題となります。出席ができないことも含め、当事者学生と教員と支援者の3者で話合っておくことが大切です。後日、出席ができないようなら、その理由(障害由来の体調の波など)について支援者が把握をして、更に教員が了承の上、代替課題を出していただく、その課題提出をもってテストを受ける資格とするといったことを決める方法もあります。更に、次の学期は履修相談を早めに行い、朝起きられないのであれば1限・2限をなるべく避けることも支援者から提案しますが、これは結構有効だと思います。
アクティブラーニングというお話に関連して、コミュニケーションに特化した英語クラスを履修しないと3年生になれないということが一部の大学であります。苦手なクラスで工夫しても難しい場合、文学を読む等の古典的な英語クラス、あるいはほかの外国語への代替、例えば英語がどうしても難しいならスペイン語の履修にするなどの支援も考えられます。何が本質的かという議論が必要ですが、代替について大学のスタンスも変わってきています。
ある大学で、英語の履修が困難な学生に、TOEICで一定のスコアをとることで代替措置とする対応をしていると聞いたことがあります。
スティグマのことですね。これは社会の事情があったり、あるいは学生と同様に家族がやっぱり精神疾患は受け入れ難いみたいなこともあり得ます。特に家族の価値観が与える影響は大きいです。学生本人に対しては、支援を検討する時点で、カウンセラーや精神科医とが本人とよく話合います。インセンティブが大切です。支援や診断が嫌だとしても、将来に向けてプランを進めるために受け入れるということで、本人の納得がとても大事だと思います。

【竹田座長】 ありがとうございました。では柏倉先生、最後、簡単にお願いします。

【柏倉委員】 日本福祉大学の柏倉と申します。ありがとうございました。
2点、永遠のテーマというか、いつも議論になると思われます。パソナルサポートという個人情報の問題です。相談を受けて、様々に対応をされているということはやってらっしゃると思います。学部の方の教員、学習支援の面でも様々な連携が必要になるかと思うのですけれども、本学部で度々カウンセラーと衝突してしまったり、教員が不用意な発言をしてしまってうまくいかない、といった点で抱え込んでしまうとことは、ほかの大学でもよくあるかと思いますけれども、この辺り何かよい連携の仕方がありましたら。
2点目は、やはり大学に通えなくなってしまう学生さんが多い。ほっておくと自然退学してしまう。ひどい言い方をすると、やれやれと言っている職員もいたりしますが、本学では最近では自殺になってしまったケースもありまして、来られなくなってしまったから、そのままでよいのかということが今非常に議論になっていまして、この辺りの考え方について何かありましたらお願いします。
以上です。

【丸田教授】 学生の個人情報を教員にどのように伝えるかは、教員もいろいろな方がいらっしゃるので、概(おおむ)ね「このような傾向がある」というような記述型の説明をします。主に、病名を伝える説明より、行動や知的な理解の傾向とか心理検査からわかる傾向などを伝える場合もあります。
しかし、診断を含めて詳細に理解していただくことが必要であれば、病名も含めて話をします。その際は学生本人を交えて情報共有する方がよいと考えています。
学生が引きこもった場合ですが、以前、ある大学の保健センターで、ソーシャルワーカー、カウンセラー等のチームで、朝のモーニングコールや、来られない学生の家を訪問するサービスをやって、スタッフが疲弊したそうです。そこまで通常業務で行うのは難しいと思います。安全に配慮する観点から、スタッフが学生の寮や下宿を訪問する方法もあると思います。ただし、それは安否確認が必要な、緊急性のある場合です。
緩やかな安否確認として、実家に連絡をとって、保護者に夜間の連絡や下宿へ出向いてもらうなどをお願いすることもあります。大学のカウンセラーや、ソーシャルワーカーでもアウトリーチの経験がある方もいます。ともかく自殺は避けたいということがあります。

【竹田座長】 どうもありがとうございました。また、高橋委員は御質問の時間がございますので、丸田先生の御発表に対する関連質問等、そこで何か聞きたいことがありましたらお願いいたします。
それでは続きまして川島准教授の方からよろしくお願いいたします。

【川島准教授】 川島です。資料3に基づいて障害者差別解消法の合理的配慮について若干コメントを差し上げたいと存じます。
まず、障害者差別解消法は刑事法的アプローチや民事法的アプローチをとっておりません。刑事法的アプローチですと、犯罪の成立要件というものを厳格に満たさないといけないので、そのようなものは妥当ではないということです。民事法的アプローチですと、差別をすると損害賠償を請求するみたいな規定が入るわけですけれども、そのようなものでもない。そうしますと、障害者差別解消法というのは日本の場合は行政法的アプローチになりまして、行政法規として行為規範を設定しまして、行政措置を通じてそれを実現するという形になるわけです。そのような行政法規としての差別解消法において合理的配慮がどのように定められているかという点について、今日は中心にお話をさせていただきたいと存じます。
まず、資料3の1で書いてありますが、障害者差別解消法は行政機関等の合理的配慮の法的義務を7条2項で定め、事業者の合理的配慮の努力義務を8条2項で定めております。私からは法学的アプローチということですので、法の解釈というものを中心に今日お話をさせていただきたいと思います。
まず、差別解消法7条2項の文言をそのまま移させていただきまして、ブロックごとに(1)から(6)までナンバリングを付けました。そして差別解消法8条2項についても(1)から(6)まで番号を付けました。
7条2項と8条2項は(1)と(6)が若干違うのですけれども、その間の(2)(3)(4)(5)というブロックは全部同じ文言になっております。それで、(1)から(6)までそれぞれコメントをしていきたいと思います。
まず(1)につきましては、7条2項において「行政機関等は、その事務又は事業を行うにあたり」となっておりまして、8条2項は、「事業者は、その事業を行うにあたり」となっております。ここで注目したいのは、「事業を行うにあたり」ということですので、事業の範囲外については合理的配慮をしなくてよいということが導かれ得るとも言える。そうなりますと、ここで合理的配慮の提供義務を負う主体は本来の業務に付随したものだけをすれば良いのではないかといったことも言えるかもしれません。これについては特に何も指針や基本方針には書いておりませんが、本来業務の付随性という要件自体は基本方針の中に書いております。それが条文上どこに位置づけられるかという問題は、また別の課題として残されていると言えます。
続きまして、(2)の文言については、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において」という箇所、これは基本方針を見ますと「個々の場面」ということが書いてありまして、「個々の場面」における社会的障壁の除去についての障害者のニーズ、いわゆる個々のニーズですが、これが実際に、現に存在しているということを意味していると理解できます。
そのような個々のニーズが現実に存在しない状況のもとで、将来障害のある方々が来ることを想定した、社会的障壁をあらかじめ除去する措置が事前的改善措置と呼ばれているものです。
そして、この(2)では「意思の表明があった場合」という文言があります。この文言が含意しているのは、合理的配慮の決定プロセスが開始するのは、基本的に「意思の表明」の後だということで、基本的には事後的性格を持つということを意味しています。
そして、ここの事後的性格というのは、基本的に障害がある人がニーズを持っているということを、相手方が通常は理解、認知し得ないということを前提としているわけですから、もし仮に認識・認知している場合には、当然何らかの対話に向けたアクションを起こすことが推奨される、望まれるということで、基本方針にもそのようなことが書いてあります。
続きまして、3番目の文言については、その実施に伴う負担が過重でないということになっております。この(3)の文言は、配慮に伴う負担が過重ではない、非過重だ、ということを意味します。ある配慮に伴う負担が過重か否かというのは、基本方針によりますと、5つの要素などを考慮に入れて、総合的・客観的に判断しなさいということが書いてあります。この5つは、事務・事業への影響の程度、実現可能性の程度、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況という要素とされております。
続きまして4番目、「障害者の権利利益を侵害することとならないように」ということで、ここでは「権利又は利益」を指して「権利利益」と言っているわけです。ここの権利利益というものがよくわからないということですが、少なくとも差別をすることというのが権利利益侵害にあたる、となっております。
そしてここでのポイントは、合理的配慮の不提供というものが差別(権利利益の侵害)にあたるわけですので、合理的配慮そのものを構成している要素には、この権利利益の侵害は含まれない、と解することもできるということです。あなたは合理的配慮をしていないのではないかと主張するときに、あなたが権利利益侵害をしていることを別途証明しなくても良いということになるわけです。
続きまして5番目の要素が、「当該障害者の性別、年齢、障害の状態に応じて」となっておりまして、障害者権利条約自体が特に年齢と性別について特別な条文、個別条文を設けている趣旨が差別解消法に反映されているということです。先ほどのお話の中で外国人の留学生のお話もありましたけれども、配慮をより本格的に行うために通訳者をつけるという点についても、これを拡大解釈して、今は少々難しいかもしれませんけれども、性別・年齢以外にも、障害に還元できないような部分を個々のニーズの中に入れて考えていくということも必要ではないかということもあります。
続けて、最後に(6)については、「社会的障壁の除去に実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない」と「・・・配慮しなければならない」という違いがありまして、努力義務と法的義務の違いがわかります。ただ、それ以外の部分は同じでして、ここに言う「社会的障壁の除去の実施について(の)必要かつ合理的な配慮」、この少々長い部分がいわゆる「合理的配慮」のことだと言われております。
そして、この合理的配慮という言葉の中には、先ほど申し上げましたような個々のニーズ、そして社会的障壁の除去は当然入ってきますし、非過重負担という要素も入ってきます。更に本来業務付随という(1)で申し上げたものも入っています。
つまり、本来業務に付随しないようなものは、もはや合理的配慮とは言えないといったことや、個々のニーズに応じたものでない配慮は合理的配慮とは言えない、といった形で。確かに「必要かつ合理的な配慮」の文言それぞれの意味合いはまだ確定していませんけれども、そのような要素を合理的配慮の概念の中に盛り込むことができると思われます。
そして最後に、障害者の意向尊重という論点がございます。意向尊重の要素についてはなかなか議論がありますが、雇用促進法の合理的配慮指針によりますと、「事業主が、障害者との話合いの下、その意向を十分に尊重した上で、より提供しやすい措置を講ずることは差し支えないこと」と記されております。このような合理的配慮指針の考え方は、差別解消法のもとでも私は妥当すると思っております。基本的には、障害者の意向を十分に尊重する。その上で複数の選択肢があるときは、より提供しやすい措置を相手方が提供しても良い、というふうに理解できる。意向は十分尊重するけれども、必ずしも意向を全面的に採用する必要はないというふうに私は理解しております。
そして、続きまして2に内容と手続ということを書いていますけれども、上で述べたようなことと重なるのですけれども、基本方針、そして対応指針等を見ますと、合理的配慮の内容は7つの要素から構成されているということが取り出せると思われました。それが先ほど申し上げました個々のニーズ、社会的障壁の除去、非過重負担、本来業務付随、機会平等、本質変更不可、意向尊重という7つなのですけれども、これらの7つの要素はオーバーラップし得る部分がございまして、例えば個々のニーズの中に意向尊重を入れても良いのではないかとか、機会平等の中には社会的障壁の除去も入るのではないかとか、いろいろあると思うのですけれども、あえてオーバーラップし得るものを残してあるのは、それぞれが重要な論点になりますので、あえて可視化したいと思って、このような7つという形をとらせていただいております。
続きまして、合理的配慮の決定プロセス、合理的配慮の手続につきましては、基本方針や指針を見ますと、個別的・事後的・対話的性格があるということがわかります。個別的性格は、個々の障害者と個々の相手方との間というところで、個別的性格ということです。続きまして、障害者側の意思表明がなされた後、これは事後的性格です。そして両者の対話を経てというところが対話的性格です。
事前的改善措置の場合は、ここの個別的・事後的が集団的・事前的になります。事前的改善措置の場合は、障害者一般を想定して、あらかじめということで、集団的・事前的です。そして個々の対話は必要ないということで、対話的性格はないということが事前的改善措置です。
続きまして3番目の紛争の解決と防止というところになりますけれども、障害のある学生等が不満を持つ場面というのは少なくとも3つあるのではないかと。1つ目は、合理的配慮の決定プロセスの進め方、対話の進め方、過程、プロセスにおいて不満がある。2つ目は、合理的配慮の不提供が決定してしまったことについて不満がある。3つ目は、合理的配慮の提供が決定しても、合理的配慮の実際の提供について不満がある。これは、提供することが決定されたとしても、その提供の仕方とか内容に不満がある場合です。そうなりますと、いわゆる紛争というものが起こり得るわけです。更に、例えば科目の趣旨に照らしてその合理的配慮をしたくないという不満を教員自身が持つ場合もあり得ると思われます。
そのような紛争を防止するためには、全学的に事前的改善措置を計画的に進めるというのももちろん重要であると思います。それと同時に、定期的調査によって実態を把握したり、マニュアルを作成したとしてもそれを定期的に見直ししたり、関係教職員の情報共有・研修、そして障害学生とともに他の学生の意識向上という形で啓発を進めると。合理的配慮の決定から実施までの体制整備の充実ということが求められると思われます。以上は一般論です。
そして紛争が生じた場合は、学内手続がうまく機能するかをチェックしていく必要があると思います。
そして最後に、不当な差別的取扱いと合理的配慮との関係について述べたいと思います。
不当な差別的取扱いというのは、ポイントとしましては、2つの「理由」が関わってきます。1つは障害を理由とするという部分です。障害を理由としてその人を排除するというのは不当な差別的取扱いなのですけれども、もう1つ、障害を理由とするだけではなくて、正当な理由があるかないかというのもポイントになるわけですが、そういう意味では障害を理由とする部分と正当な理由があるという、この理由が2つ関わるのが不当な差別的取扱いです。障害を理由として、かつ正当な理由がないのであれば、不当な差別的取扱いということになるわけです。そして、「不当な」という文言が正当な理由がないという部分に対応しているというのが内閣府の理解になります。
そして、ここの不当な差別的取扱いは、議論はありますが、直接差別を意味すると言われております。間接差別は含まれません。直接差別という概念は、これも幅広いのですけれども、非常にシンプルに言いますと、障害者であることを理由にする差別、これは直接差別です。それと同時に、障害者のみに関連する、つまり非障害者には関連しないような事柄を理由とする差別も直接差別になります。そのため、車椅子、盲導犬等は非障害者が使用する、帯同することはないので、障害者のみに関連するので、直接差別に含まれるという解釈ができます。
ここで間接差別というのは、障害者のみに関連する事柄ではないのですけれども、障害者と一定の関連性を有する事柄を理由に障害者を差別することが間接差別ということになるわけです。
例えば犬一般を理由に入店を断るというようなときは、これは直接差別ではありません。ペットを連れている愛犬家の人も犬を連れているわけです。盲導犬を連れている方は犬を連れているわけですけれども、犬を連れているのは障害がある方のみではございませんということで、障害がない方も連れているという意味で、直接差別にはあたらない。
この場合は間接差別ということなのですけれども、仮に、犬を理由とする入店拒否が、障害者集団に非障害集団と比べて不均衡な不利な効果をもたらしているのであれば、この意味で犬というものが障害者と一定の関連性を有する事柄であるので、障害者に対する間接差別にあたり得ます。ある地域で、盲導犬を連れている方々が非常に多い場合は、犬を理由とする入店拒否というのが、非常に不均衡な大きな不利を、その方々に及ぼす効果を持ち得るという意味で、間接差別になり得る。しかし、法はそのような間接差別を禁じていない、と私は理解しております。
しかし、実は間接差別と合理的配慮とは密接に関連しておりまして、このような犬一般による入店拒否という場面であっても、合理的配慮を求めることは可能でして、盲導犬だけ例外的に入店を許すというのはれっきとした合理的配慮になるわけですから、間接差別が禁止されてない場面では合理的配慮が効いてくるという、そのような関係性になるようなことはあります。
そして、不当な差別的取扱い、すなわち直接差別と合理的配慮との関係なのですけれども、興味深い例が国土交通省の指針にございます。低床式車両やリフトつきバスでない場合、運転者1人で車椅子利用者の安全な乗車を行うことは無理だと判断し、他の利用者に車内マイクを使って協力をお願いしたが、車内で利用者の協力が得られず乗車ができない場合、その運転者は説明をした上で、その障害のある方の乗車を拒否して発車するというような事例なのですけれども、これは運転者が車椅子利用者の乗車を拒否した事例です。これは不当な差別的取扱いではないとされています。その理由は、正当な理由があるからだということになります。
実は、ここで言う正当な理由というのは、過重負担があるため合理的配慮が提供できなかったことです。だから運転者は、その方の乗車を拒否して発車したのです。つまり、これは合理的配慮の不提供の事例として捉えることもできるのではないかとおもわれます。そうなりますと、合理的配慮を提供しないことによって障害がある方を排除してしまうというのは、合理的配慮の事例であると同時に、不当な差別的取扱いの事例でもあると理解できます。このような場合、国交省の指針は、少なくとも不当な差別的取扱いの文脈の中で過重負担の要素を考慮に入れていることになるわけです。合理的配慮と不当な差別的取扱いとが混交する場面が出てくるということが、国交省の指針を見ると理解できるかと思われます。
以上で終わります。

【竹田座長】 どうもありがとうございました、川島先生。
川島先生のただいまの御発表に対しまして、御意見、御質問等ありましたら、よろしくお願いします。石川委員、お願いします。

【石川委員】 2点あります。
まず1点は、御指摘いただいたように合理的配慮を構成する要件に非過重負担があります。基本方針の中で権利条約との整合性をとるためにそのことを明示的に示しました。ただその際に、ある弁護士の方からコメントを頂きまして、自分はそのようにするのに反対だということだったのですけれども。ただ、その理由については書いてくださいませんでした。推測の域を出ないのですが、合理的配慮の不提供を訴訟の場で立証する際に、過重な負担でないことも原告側が論証しなければならなくなるというようなことで反対されたのかと推測しました。そうなのでしょうかというのが1点です。
もう1点は、直接差別と間接差別を分けて御説明いただいたのですが、これは権利条約、それから基本法、差別解消法及びその基本方針等には、直接差別とか間接差別という表現はどこにもないはずなのですが、直接差別、間接差別という区分をすることの利点、あるいは必要性、あるいは副作用といったものについて、もしお考えがあったら教えていただきたいと思います。
というのも、間接差別については先ほど川島先生がおっしゃったように、合理的配慮の不提供とみなすことも可能かと思うのですが、日本の場合、民間の事業者については合理的配慮の提供は努力義務で止まっているわけでして、例えば、盲導犬を連れた視覚障害者である自分については、犬を連れている人の入店を断る、というルールの例外とするように求める合理的配慮要求が事業者により拒まれたとするというのでは、法律の趣旨に照らして問題が大きいと感じています。盲導犬は補助犬法があるので、そちらでの対応も可能ですが、意思疎通のための通訳や支援者の入室を拒むことを合理的配慮の不提供とするしかないのでは弱いと思います。
これは合理的配慮の不提供である以前に不当な差別的取扱いにあたると考えます。直接差別、間接差別という概念を用いずに、不当な差別的取扱いなのか合理的配慮の不提供なのか、どちらであるのか整理する必要があると考えます。

【竹田座長】 よろしくお願いします。

【川島准教授】 ありがとうございます。先ほど殿岡委員から御質問ありましたが、石川委員の質問と一緒に。

【竹田座長】 はい、一緒に。

【川島准教授】 では、一緒にお答えさせていただきます。それでは順番ということで、殿岡委員から先に御質問がありましたので、お答えさせていただきたいと思います。
障害のモデルに関しましては、法学的観点と言いますか、障害学の観点から障害の定義を捉えるというのは、1言で言いますと、障害の法的定義を広げるということに尽きるかと思います。障害か非障害か、その境界は常に問題になっているわけですけれども、社会モデル的に言えば、障害の法的定義が狭いことによって、障害のある方が不利を経験していることが問題なわけですから、制度的な、法制度的なバリアというのが障害の法的定義が狭いということであれば、そのバリアを取り除き、その法的定義を広げなさい、というようなことが直観的に言えると思いますけれども、どれだけ広げるのかというのは、その時々の社会通念と政策的判断によって決まってきます。
続きまして、石川委員の御質問につきましては、一般に、ただし書以降が証明責任が相手方になります。例えば合理的配慮について、ただし、過重負担がある場合は除く、となった場合、過重負担については相手方が証明するという議論は一般論としてあるのですけれども、そもそも障害者差別解消法は行政法規として存在するわけですが、立法過程においてそういうような証明責任の分配問題を意識して作ったかというと、そういうような議論はせずに作っているというところですので、そのような証明の分配につきましてどのようにするかというのは、立法段階では決着していないというふうに理解しております。
そうなりますと、差別解消法の下で、合理的配慮の中に(あるいはただし書の中に)過重負担・非過重負担の要素を入れるか入れないかということが、そのまま証明責任の分配問題につながるとは私は理解しておりません。それは裁判の場で決まってくるかもしれませんけれども、どのようになるか、今の段階では明確なことは言えないと思います。ということは、障害者権利条約に沿って合理的配慮の中に非過重負担という要素を入れているというのは、条約に沿ったものとして私は評価できると思っております。
他方で、障害者雇用促進法の方のQ&Aを見ますと、合理的配慮という言葉の中には非過重負担の要素が含まれておりません。ということで、差別解消法と雇用促進法とでは、合理的配慮そのものの概念の中に非過重負担があるかないかの違いがある、ということが言えます。ただし、どちらの法律のもとでも相手方が提供しなければならない合理的配慮であるには過重負担が伴わないという意味では、提供義務がある合理的配慮の中には非過重負担の要素が含まれるという点では同じであると思われます。私はそのような提供義務のある合理的配慮という限定をかけた上で、どちらの法律にも非過重負担の要素が入るという形で整理させていただいております。
続きまして、2番目の直接差別、間接差別につきましては、非常に難しいところだと思うのですけれども、私の誤解がなければ、直接差別という言葉が、後でちょっと確認したいのですけれども、Q&Aの方には明示されています。後ほど確認させていただきたいと思いますけれども、厚生労働省のQ&Aでは明確に直接差別という言葉が書かれておりまして、内閣府のQ&Aも直接差別という言葉を使っていたと思うのですけれども、そのような形で直接差別とは何かという問題が常に議論になるというふうに私は理解しておりまして、そうなりますと、直接差別の範囲というものを確定しないといけないわけですけれども、実は両法についてのQ&Aは直接差別が何かは書いていないのですね。
そうなりますと、基本方針やQ&Aを全体的に読んで、直接差別の範囲を特定していくということがまず必要かと思いまして、順番で言いますと、障害を理由とする、障害者であることを理由とするものは直接差別に入ります。次に、盲導犬を理由とする差別は障害者に対する直接差別に入らないという議論は成り立ち得るのですけれども、つまり、それは障害を理由としていなくて、盲導犬を理由としているから、直接差別ではないという議論が成り立つのですけれども、基本方針やQ&Aは、盲導犬を理由とする差別を不当な差別的取扱いに含めていますので、盲導犬を理由とする差別のように障害者のみに関連する事柄を理由とする差別は不当な差別的取扱いの中に入る、という解釈が成り立つと思われました。
最後に、一般論、一般的に言えば、例えば犬を理由とするような排除、入店拒否というのが直接差別に入るかどうかというと、これは障害者・非障害者の両方に影響を及ぼすようなものですので、基本的には、直接差別に入らないのではないかというふうに理解しております。

【殿岡委員】 関連でお願いします。

【竹田座長】 石川先生、よろしいでしょうか。

【石川委員】 政策委員会では、権利条約と解消法の整合性をできるだけとるべく、基本方針の作成に関与してきました。直接差別とか間接差別という概念は持ち込まずに、解消法の対象となる差別は権利条約がいうところのあらゆる差別であるとしたつもりです。そのように読めるようになっていると考えています。そのような意図で政策委員会としては基本方針への意見を出しましたし、委員会のそのような考えは基本方針に盛り込まれていると考えています。犬を同伴しての入店お断りというたぐいの事業者が設定するルールに対しては合理的配慮としてルールの適応除外を求めるしかないとすれば、合理的配慮の提供を民間事業者には努力義務としている点において解消法は深刻な不具合があることになると考えます。そのような不具合があるとして見直しの理由の1つとするのか、そもそも補助犬とか補助者の同伴とか補助機器の使用を適応除外としない一般的禁止ルールは不当な差別的取扱いにあたるとみなすのか、どちらが法の解釈として正しいでしょうか。

【竹田座長】 では、一旦川島先生からお答えいただいて、補足の方を殿岡委員から御説明いただくということで、川島先生。

【川島准教授】 ありがとうございます。私は、石川先生がおっしゃったような話については、私自身もそれで良いというふうに理解しているわけではございません。障害者差別解消法も促進法もミニマムな、今現時点で最低限規制対象として盛り込めるものだけを盛り込んだものだと思っておりまして、今後、間接差別というものを差別解消法の中で法改正によって入れていくというアプローチができるのではないかと思われます。若しくは直接差別の範囲をより広げていくというアプローチも一方でできるのではないかと思われます。
法というのは常に発展していくものですので、法改正をしていくという議論が成熟した段階で、法改正をしていくということは十分にあり得ると思っておりまして、そのときに間接差別の概念というのが曖昧で、まだよくわからないということで入っていないとしたら、間接差別の概念をこれから議論をして、事例の集積によって立法事実を集めて、そして間接差別というのは十分規制すべきものだという共通理解を得た上で、仮に間接差別というものがわからないとしたら、範囲を限定した間接差別でもよいので、それを改正時に入れていくということは重要で、私はそういうアプローチが妥当なのではないかと考えております。

【竹田座長】 では、殿岡委員、関連質問でしょうか。

【殿岡委員】 殿岡です。
私は今の川島委員とは違う意見を持っています。日本において直接差別、間接差別が最も議論されるのは政策委員会前身の障害者制度改革推進会議の差別禁止部会です。ここで直接、間接、関連という3類型の中で議論されていた。その後、立法にあた政策委員会においてこれを議論したときに、直接、間接ということで議論すると漏れを受ける差別が存在すると。だからそれをあえて言わずに、全体として差別的取扱いということで、まとめ上げていくということで議論がされ、したがって法文も基本方針にも直接、間接という言葉が抜かれていったという政策委員会の傍聴というよりもまた議事録が手元にないのですが、そういう認識を持っています。
したがって、それの最終的に解消法の国会審議で確認答弁があったけれども、ちょっと手元に資料がないのですが、確か収斂(しゅうれん)して含まれるという解釈の中で、だから基本方針で直接、間接、関連のことがなくなったというふうに理解しています。そこは大きな違いなので、やはり確認が必要、ただ私はずっと傍聴している中で、そういう議論で集約した結果が閣議決定した基本方針で、Q&Aは閣議決定した文書より上ということはないように思われるので閣議決定文書に拘束されるというのが考え方だと思うのですが、いかがでしょうか。

【川島准教授】 ありがとうございます。私も今のお話の流れについては、そのようなことだと理解しております。私自身が差別禁止部会の委員でして、そのような直接差別・間接差別・関連差別を統合した不均衡待遇という概念について、私自身もそういうような概念が良いのではないかと発言したと思っています。
つまり、直接差別・間接差別といった類型が重要なのではなくて、あらゆる差別を禁止するというのが重要であるということもわかりますし、障害者権利条約の中にもあらゆる形態の差別を禁止するという文言が入っておるので、その中に合理的配慮を含むという形で、あえてそこを可視化させたわけですけれども、直接差別・間接差別という言葉は障害者権利条約にも明示されていないわけなのです。
ちょっと話はそれますけれども、障害者権利条約の場合は、その草案には直接差別・間接差別という文言が入っていて、間接差別という文言が消えたことによって、逆に間接差別への問題意識が消えうせてしまいかねないのではないか、という危惧が生じておりました。
そして今回、差別解消法の中で直接差別・間接差別という文言が使われておりませんし、基本方針の中にも使われておりませんけれども、内閣府の考えをまとめたQ&Aの中では、直接差別という言葉は恐らく入っていたと思います。
あと厚生労働省の考えをまとめた厚生労働省のQ&Aの中には、直接差別という言葉が入っていますけれども、私の理解では曖昧な形で差別概念をしておくというのは、どちらの立場からしてもあまりよろしくないのではないかというふうにおもいます。つまり、現時点では直接差別に限定しているけれども、社会の発展に応じて間接差別を入れていくという形で、明確にして、そういった法制化で明確にしていった方が、予測可能性が高まりますし、差別の効果的な禁止に役に立つのではないかと思っています。必ずしも今のものがよいというわけではなくて、現時点で合理的配慮については努力義務ですし、不当な差別的取扱いは直接差別に限定されているけれども、それらは法改正によって克服していく問題ではないかと思っております。

【殿岡委員】 法制定過程を踏まえて、不当な差別的取扱いには間接差別を含むということではまずいのですか。

【川島准教授】 はい。まずいというか、私の理解ですと、少なくとも厚生労働省や内閣府の理解、ですけれども、行政法制度の理解の中で直接差別という限定がなされているので、そのような理解に沿って行政法規範が設定されているものだと理解しております。
ただし、ジュネーブでの障害者権利条約の審査というものが2020年ぐらいにあるとして、そのときに国連の障害者権利委員会が直接差別に限定しているのですかという質問に対して、日本政府がそうですといった場合は、当然、国連の審査機関から批判されることになると思います。あと雇用機会均等法も何度となく女子差別撤廃委員会からの勧告の中で、間接差別を入れなさいという形で言われてきて、改正されたという経緯がございます。ですので、私は、そもそも間接差別が差別解消法と雇用促進法で禁止されていないのがよいと言いたいわけではなく、日本の行政法規として、行政機関の解釈として、そういうようなものになっているという現状をまず共有した上で、それを改善するとしたらどうするのがよいのかな、というふうな理解をとっております。

【殿岡委員】 現状は厚生労働省という1省にしか定義はないし、文科省にもないし、大学にもないということですが、1省でしか言われていないということではまずいのですか。

【竹田座長】 では、議論は石川委員の御発言を最後にして、この後、高橋委員の御発表を頂いて、その後、また御意見が出ていると思いますので、そういう段取りにさせていただきたいと思います。石川委員、どうぞ。

【石川委員】 最後に1点、事業者が設定したルールと法の関係について確認させてください。
盲導犬もまた犬であるという意味で、盲導犬は犬であるという言明は正しく、盲導犬は単なる犬ではない、ペットのような犬ではない、という意味において盲導犬は犬ではないという言明もまた正しいと言えます。2つの言葉、2つの概念の関係は、置かれた文脈により異なります。
補助犬と補助犬の利用者も含めて、あらゆる犬を連れた人の入店を断る、という意味で犬を連れた人の入店を拒むルールが事業者により設定されているとすれば、また手話通訳や介助者も含めて関係者以外の人の入室はできない、というようなルールが設定されているとすれば、差別解消法の下ではそうしたルールは障害者への不当な差別的取扱いをまねくと解釈できると考えます。そうでないとすると、こうしたルールであっても解消法や権利条約は一度受け入れた上で、ルールの適応除外を合理的配慮の提供として求めているのだという話になってしまいます。
話が長くなるので、このくらいにしておきます。以上です。

【竹田座長】 ありがとうございます。
それでは、続きまして高橋委員の方から御説明をお願いします。どうぞよろしくお願いします。

【高橋委員】 信州大学の高橋です。お手元の資料を御覧いただきながらお話を聞いていただけたらと思います。
私の話の内容というのは、判断が難しい障害である精神障害に発達障害も含むという感じです。そしてその判断にあたっては、法律についての基本的なルールについての知識というのが不可欠だと思っています。そういったルールを踏まえた上で、判断の難しい事例について、どういった観点から実際に高等教育という文脈の中で判断していけばよいのか、そういったお話を私はしていきたいと思っております。
最初のスライドはどんなスライドかと言いますと、大学に向けた学生支援サービスの分類の図となっております。どのような図かと申しますと、丸が3つ書いてありまして、それぞれの丸が重なり合っています。1つ目の丸の中に障害学生支援、2つ目の丸の方に学生相談や健康相談といった、より専門性のある支援、そして3つ目の丸の中には学習支援、就職支援、奨学金といったあらゆる学生が利用するような支援が含まれております。
これらは高等教育で提供される学生支援サービスを私なりに分類したものですけれども、広い意味で言えば教育的なサービスの一環と捉えることもできるかもしれません。
そういった意味で、これらの3つの丸を全て含むような形で薄く色をつけて、教育的支援や指導といった大きな枠組みの中にこれらの学生支援サービスを位置づけております。
大学における学生へのサービスは全て教育的サービスとは言えますけれども、一般的には教育的なサービスと、学生支援的なサービスというのは、担当する者が分かれていたりします。
学生支援サービスの中でも障害学生支援というカテゴリーはサービスの対象の特性に応じた分類です。これと同じようなサービスの例としては留学生支援があります。これは留学生という特定のカテゴリーに属する学生に対するサービスのことになります。
そのような観点で分類を考えるときに、合理的配慮が大学で提供される場合には障害学生支援という文脈の中で提供される学生支援サービスの1つとなるかと思います。なぜなら、合理的配慮というのは定義から言って障害のある人に対するものであるからです。
一方で、障害のある学生であっても障害学生支援以外のサービスも当然利用できます。例えば、経済的に十分でない学生は奨学金というサービスも利用するという場面があります。ただし、奨学金のサービスの提供にあたって、その学生が障害ゆえにほかの学生と同じようなアルバイトができない、だからほかの学生とは違う条件で奨学金を提供するとなったらその奨学金の提供も、場合によっては合理的配慮と関連づけて論じられる可能性はあります。逆に言うとそういう関連づけがなければ奨学金を提供するということ自体は合理的配慮の1つとは言えないということになります。
次のページを御覧ください。この図は中心に合理的配慮という枠がありまして、その周囲に4つの箱があります。1番上に学生そして意思の表明という箱があり、そこから合理的配慮に向けて矢印が出ており、またほかの3つの箱は合理的配慮を決定するにあたっての考慮すべき要素として教育、法律・規定、そして心理・医療といった内容になっています。これは大学において個々の合理的配慮を決定するにあたっては、基本的なルールについての知識は当然ですけれども、それに加えて教育に関する内容、また特に機能障害の評価という観点から心理・医療的な観点、こういったものを総合的に判断しなければ妥当な合理的配慮かどうかは決定できない。そして、更にその合理的配慮の判断をするという状況が、学生がそれを求めているということが前提になっているということで書いた図になっています。
では、それらの要素についてより詳しく見ていきたいと思います。次のページをお願いいたします。合理的配慮の判断に関わる要素として学生の部分を見ていきますと意思の表明があるということ、これはもう既に川島先生からのお話にもありました。またそれと同時に、その学生に機能障害が存在するかということが含まれてきます。ただ、この機能障害があるということの決定は状況によっては難しいケースがあるということで、あえてここに出しているということです。それは精神障害ですとか、発達障害で特に難しさが出てくるのですけれども、そういった判断にあたっては医学・心理学的な判断というのは当然入ってまいりますし、またそこでその判断についての結果、つまり根拠資料もここに関与してくるということになります。
次のページを御覧ください。これは教育と法律・規定という項目が並んでおります。教育という観点においては、例えば配慮を必要とする授業であったり、卒業にあたっての学位授与の判断であったり、その具体的な教育の目的、内容、機能、それが何かということがはっきり定義づけられていなければそもそも判断のしようがないということです。それを決めるのは教育機関であり授業担当者であり、そういった観点から合理的配慮の判断においてはその授業担当者であったりこの大学における様々な方針、そういったものが関与しているということです。
法律・規定に関しては、これはもう既に川島先生の方から御説明がありましたので私の方ではあまり今回は触れないと思っております。過重な負担についてのお話があったのですけれども、これは後でまた議論のところで御意見を伺えればなと思います。先ほどの「正当な理由なしに差別」というときのその正当な理由にあたるところ、内閣府の基本方針のところを見ますと障害者及び第三者の権利利益を侵害していないかというようなことが要素として書かれています。これについてあまり具体例が示されていないために、どういったものが正当な理由になるのかが私もわからないところがあります。そういった部分、意見交換のところで何か補足いただければなというふうに思っているところです。
では、最後に具体的にその判断が難しい例を挙げながら課題についてより詳しく見ていきたいと思います。
更に次のページにいきますと、その観点ということで5点私の方で準備いたしました。まず意思表明のところなのですけれども、これは重要な要素ということで川島先生のお話の中にありました7つの要素の中に意思表明に関することがありました。明らかに困っている学生に対して「大丈夫か」と声をかける場面、これは障害の有無に関わらないと思います。それは教育者としての、また教育機関としては当然のことなのかなと思います。教員として義務として声をかけるとか、声をかけるのは努力義務だとかそういったことではないと思っております。そういった観点から、心配な学生に声をかける、様子をうかがう、そういったことが教育支援なのだろうなと思います。
また、意思表明の困難さというものが、これは丸田先生のお話の中にもあったと思うのですけれども、機能障害ゆえに意思表明が困難であるというような場合には、当然その部分に対する支援が必要になってきます。合理的配慮が事後的というお話もありましたが、意思表明をする前段階、本人に障害があるという認識をする前段階、この段階ではこれは合理的配慮という概念ではなくなってきます。大学が提供する学生支援サービスの中にはカウンセリングや医療、医師による健康相談等、学生が自分を理解し、また意思表明をする力を付けていく、そういった部分を支援するというものは備わっている、そういった部分に利用されていくべきところなのかなというふうに思っております。
次のページに移ります。今度は機能障害の判断についてです。これは私の専門に近いところですけれども、少し時間をかけて説明したいと思っています。これは対象となる機能障害の判断について、実は日本ではあまり議論が進んでいないと感じています。こういった判断をするのは海外ですと心理士、サイコロジストが重要な役割を担っているのですけれども、日本国内では残念ながら心理士の中で機能障害を客観的に評価していく、標準的な検査によって客観的な根拠を示す、そういったことが十分行われないケースというのもあります。もっと現実的なことを言うと、そういったことに対してあまり積極的でない場合もあります。そういった土壌があるためにデータに基づいて客観的に機能障害の状態を判断していくといったようなことがあまり行われていないという現実があります。
しかし、合理的配慮に相当するかどうかという判断をするためには、現在の一般的なやり方というものが社会的障壁になり得るのか、そのやり方と機能障害の間に関連があるのか、これをきちんと示さなければそのやり方を変えることが求められるべきなのか、その判断もできないということになります。
また、それが機能障害であるというためにはその状態というものが少数であるというのも恐らく条件に入ってくるのだろうと思います。これはどういう意味かと言いますと、例えば外国帰りの大学の先生が自分の授業を全部英語でやりますと言い出したとする。そこは必ずしも英語で教育するということを前面に出していないようなそんなカリキュラムの中である先生が突然全部の授業を英語でやると言ったとする。そうすると、英語力が十分でない学生がたくさんいて授業が理解できないという状況があったとします。英語が理解できないというのはある機能が低い状態ではありますけれども、日本においてはそういう学生はむしろマジョリティだったりします。だとすると、英語が理解できないためにその授業が理解できないからやり方を変えてくれとなっていく。しかし、英語ができないということは機能障害という言い方には多分できないだろうなと思います。
あともう1点は、その状態が長期的に続くかという要件も入れたのですけれども、これはただ法律的にはどうなのかなと思って先ほど質問させていただきました。必ずしも長期的に続くかどうかということが条件ではないというお話もあったのですが、ただそれが非常に短期で終わってしまう場合に、それは合理的配慮の対象なのかという点については議論が必要なのかなと思います。
もう少し具体的な状況で説明したいと思います。例えば試験時間の延長という要望が学生から出されたとします。これは意思表明があったということですね。4つの要素のうちの1つがこれで成立します。ですから、合理的配慮の判断を求められるということになります。
そもそも試験時間の延長が認められるかどうかということに関連してどのような機能障害が考慮の対象になるのか、それは当然試験の形態によっても異なってきます。口述試験であれば読み書きということは全く関係ありませんが、筆記試験であれば読み書きということが関係してきます。このようにどの部分がうまくできないのかということと、試験の形態がどのような形態か、この両方を考慮しなければ合理的配慮が必要かどうかという判断はできないということですね。
またそれと同時に、その試験において何を評価しようとしているのかということが明確であること、これがなければ合理的配慮が妥当かどうかがわかりません。なぜかというと、その変更することによって試験で測ろうとしていることの本質が変えられてしまうことではその評価はできないということになります。ただ、異なるやり方でその能力を評価する、これは当然合理的配慮の対象になるわけです。
ですので、試験の評価のやり方に関連のある機能障害があるのかということについて根拠を示す必要が出てくるわけです。
そういった点について海外の事例というものを見てみますと、例えばアメリカのETS、エデュケーショナルテスティングサービスという日本で言えば大学入試センターに相当するところで、大学入試センター試験のようなSATですとかTOEICやTOEFL、そういった事業を実施している団体になります。診断に必要な検査の例ということで、ここに挙げてありますような臨床的面接、評定尺度、行動観察、また各種検査といったような多くの検査が求められています。
そして、これだけ検査のセットがありますと、実際その試験での形態、試験を受験するために必要なスキル、そこと関連する機能に対し、実際に少数派と言えるくらいに機能が低下しているのかどうかということの根拠が自然に提示されるということになります。こういったことは海外では心理士が一般的にやっています。診断するのは基本は医師ですが、アメリカの場合には心理士がこういった診断のようなこともできたりします。
実は検査の結果というのが全てではないという議論もあって、心理士の学会の間ではこんな議論もあります。それは症状妥当性、成績妥当性です。自分の能力以上の成績を出すということはできませんが、自分の成績を低く見せるということは意図的に操作が可能です。また症状チェックリストがあった場合にそんなに深刻ではない症状を「とてもつらいです」と表現することも可能です。そのような観点から検査結果が本当に機能障害の根拠として十分かという議論が行われているということです。そういったことに関連しましては、検査結果の妥当性を評価するための検査というのも同時に実施されるなど、客観性を担保するための対応というものがなされています。
そんな形で海外の例を紹介いたしましたけれども、では日本国内において何が根拠資料になり得るのかということに関連いたしましては、検討会の一次まとめでは青字で示した部分になりますけれども、障害者手帳、診断書、心理検査の結果、学内外の専門家の所見、高等学校等の大学入学前の支援状況等に関する資料などが具体例として挙げられております。
ただ、根拠資料があったとしても十分な配慮がなされるとは限らないという例もあるようです。これは試験時間の延長といったようなことに関して言えば、どの程度の延長が妥当なのかという判断も入ってきます。ここで1つ紹介させていただいている事例といたしましては、こちらの委員でいらっしゃる近藤先生の事例ですね。昨年近藤先生にも御参加いただいて、日本教育心理学会においてテスト受験における合理的配慮とエビデンスというシンポジウムを企画いたしました。その中で紹介いただいた例なのですが、四肢完全麻痺(まひ)の受験生、数学の試験において対照群に比べて3.2倍筆記時間がかかった。なので、試験時間の2倍延長を求めたけれども、それは認められなかった、そういうような事例が報告されております。
それが果たして妥当な判断なのか。もちろん無制限に延長することは過重な負担というところももしかしたら入ってくるかもしれませんし、また際限なく延長することは試験を受ける側(がわ)にとっても疲労という問題が入ってきます。また2日3日と試験期間が延長してしまうと試験に関する情報が公開されてしまうという状況とかもありますので、ホテルに監禁するみたいな情報遮断できるのかみたいなそういう実施上の問題もあります。このように合理的配慮による変更はどのぐらいが妥当なのかという判断というのは非常に難しいのですけれども、客観的なデータを示して個々に議論をしていくということなのかなと思います。
次の要素ですね、教育の目的・内容・機能の明確化。実際日本の大学におきましても入試で求められているものはアドミッションポリシー、学位授与に必要なものはディプロマポリシー、また各授業における単位認定ではシラバスといったような形で一応示されてはいるのですけれども、非常に曖昧なことが多いです。これらを明確化していくということも高等教育に求められているのですね。合理的配慮をきちんと提供していくためには必要な要素なのかなと思います。
また、こういったことに関連する海外の事例ということで、これは大学でということではなく、専門職に就くために必要な要件、資格を与えるために必要な要件としてオーストラリアではinherent requirementという形で、またイギリス等ではCompetence standardという形で具体的にこのような要件が、ある専門職に就くためには必要ですということを明記しています。そういったことも本質を曲げないでどのような配慮ができるか、それを考えていく上では重要かなと思います。
これらの例については竹田先生を中心とした筑波大のグループが研究を進めているということで、私もそれについて情報を頂いたということです。
あと少しですけれども、学外実習における合理的配慮について、これは私の方ではあまり具体的なものを示しておりません。最終的には実習授業の目的・内容・機能の本質的変更をせずに、かつ過重な負担とならない形で、第三者の権利利益を損なわないような学外実習が可能なのか、そういった観点から学生の障害の程度等を考慮しながら判断しているのかなとは思いますけれども、これについてはかなり時間をかけて議論が必要な点かなと思っています。
以上、合理的配慮の決定にあたって検討すべき観点というのを紹介してきたのですけれども、実際これらを総合的に判断するためにはかなりコストもかかりますし、専門的な知識も必要です。そういった点から、まずは各大学においてそういった根拠資料が得られやすいような環境を整える必要があると思いますが、それは個々の大学が全てそういった専門知識を持った人材を配置するというのは現実的ではないのかなと思っています。
より現実的な対応としては、そういった専門知識を持ったスタッフを拠点校に配置し、そしてそのスタッフは近隣の大学でそういったニーズがあったときに、難しい判断が必要な案件が出てきたときにそちらの大学に赴いて専門的な助言を行う、そういった体制が必要なのかなと思います。
また、もちろん高校における配慮等の指導は参考になるものですから高大連携も根拠資料を得られやすい環境を進めるためには必要なことだろうと思っています。
最後の資料になりますけれども、これは4つの柱が書いてあります。障害がある学生を支える体制というのは合理的配慮が全てではないということを示しています。合理的配慮に加えまして、教育的な配慮や指導、専門的な相談、これは医療や学生相談の心理といった知識を生かした専門的相談。最後に、最近加えたものなのですけれども、1番下に環境整備と書きました。これは事前的措置ということで環境整備を進めていくというようなことをやっていくことで総合的に学生を支えていく、そんなことが求められていくのかなと思います。
以上で私の報告を終わります。

【竹田座長】 高橋先生、どうもありがとうございました。
それでは、これから閉会までの時間を全て議論の時間としたいと思います。ただいま御説明いただきました、高橋先生への御質問がございましたらどうぞ。また、関連して丸田先生、川島先生への御質問についても前後してもよいですので、よろしくお願いします。
では、村田委員から。

【村田委員】 京都大学の村田です。
支援の妥当性に関しての課題を少し確認できればと思います。現状では例えば発達障害等のある学生に対して試験時間の延長をするかどうかというとき、判断の妥当性というのは非常に難しいところがあります。現実的な状況として学生たちの持つニーズというのは、学生自身も明確に持っていない場合が少なくありません。例えば、漠然と試験に対して何らかの配慮が欲しいと思っているというところから相談が始まることも多く、このような意志表明をきっかけとして、その後、支援担当者がいろいろとヒアリングをしたり、教員と相談をして妥当な配慮というものを考えていくということが、現時点ではほとんどです。個々の特性や環境を踏まえて、この状況だったらパソコンで回答するということを考えてみようとか、あるいは時間を延長しようとなる場合もありますし、場合によっては出題調整ということも考えられます。このように、試験への配慮と言っても、様々な状況から配慮内容が決まっていきますので、それぞれの状況に対して、どのように妥当性を判断していくかというところが課題になると思っています。
もう1点です。海外からの留学生でも、同様に発達障害を背景とした措置を求めてくる場合もありますけれども、その根拠資料が非常に充実しています。日本の場合だと、その根拠をどういうふうに作るかというところから議論が始まるところが多い印象ですが、留学生の場合は、何か根拠となる資料はありますかというふうに働きかけると、もう次の日には何ページにもわたる資料が送られてきたりします。資料というのは、医療機関等で医師や心理の専門家などが作成した、配慮を求めるエビデンスとなる文書です。留学生に聞いてみると、大学だけで独自にやっているというものではなく、むしろ地域の支援機関や医療機関というところで作成されているようです。日本においても、高橋先生がおっしゃったように、大学だけでどうするかという話ではなく、エビデンスについては様々なリソースと一緒に考えていく必要があるように思いました。以上です。

【竹田座長】 それでは、矢澤委員。

【矢澤委員】 仙台高専の矢澤です。
高専の立場からちょっと疑問に思ったり確認したいことがあります。2つあるのですけれども、1つは高橋先生のお話で、合理的配慮の判断に係る要素として、学生の意志の表明というのがあったのですが。これはやはり学生本人ではないと合理的配慮は提供できないのか。もちろん合理的配慮以外の配慮は幾らでも提供できるわけなのですけれども。
というのは、高専の場合は特に大学生よりも低い年齢の学生がいることもあって、保護者からの意志表明と言いますか、保護者からの支援要請というのがどうしても先行すると言いますかメインになるケースが多いのですね。そこで最終的に学生自身が意志を表明していけるというふうになれば学生の意志表明になるのですけれども、今まで実際に対応してきた例で言いますと、保護者からの支援の要請でもって何らかの支援をするというふうに決定をしてきている事例もあるので、これはやはり学生本人からというのが絶対ないといけないのかなということが1つです。
あともう1つは、先ほどの丸田先生のお話とも関係するのですが、主治医との連携ですね。主治医との連携というのが合理的配慮の決定において非常に大事だと私も思うのですけれども、いわゆる診断書を出してもらうという連携だけだと割と簡単なのですが、なかなか主治医と情報共有して連携をしていくということに難しさを感じるケースがあります。というのは、個人情報の問題とか守秘義務の問題とか、そういうことで主治医の方から学校に情報を提供していただけないというようなことが現実としてあります。その辺りについて何か仕組みというか体制をうまく作っていく必要があるのではないかとふだん感じているものですから、その辺りについてのコメントを頂けたらと思います。
以上です。

【竹田座長】 それでは、高橋委員と丸田先生の方から。

【高橋委員】 では、まず先に信州大学の高橋です。
今お二人から頂いた件で通じるところもあるかなと思ったのですが。まず、添付資料に関して、確かに診断書だけでは配慮を決定するための材料としては十分ではないというところがあります。今日こんな資料を持ってきたのですけれども、これはETSが2012年に出された発行した精神疾患に関しての根拠資料作成についてのガイドラインになります。ここには詳しくこういった情報を入れてくれ、そしてその情報をもとにこれについて判断しますという判断の考え方まで明記されています。その中では診断があるというだけでは十分ではないとか、機能障害の状態はもちろん、投薬の状況がどうなのか、またその副作用はどうなのか、そういったことまで含めて考慮して決定されるものであるというようこともあると書いてあります。
こういったガイドラインに沿って医療機関や心理士、個人開業の心理士等もそういった根拠資料を作るのですけれども、村田先生からお話ありましたように、分厚い資料、総合的なものを作って、それを大学に持っていくということになります。
残念ながら日本ではそういう体制になっていないので、やはりそういったことも必要なのではないかなと思います。それだけが全てのやり方ではないとは思うのですけれども、判断が難しい事例だったときにどういう根拠で判断したのか、なぜ駄目なのか、なぜオーケーなのか、それは突き詰めていくとそういった機能障害についての評価、そして教育の内容、やり方についての評価、大学としての考え方、そういったところの総合判断ですので、最終的にはそういう方向にいかなければいけないのかなと思います。
またもう1点、今度は別の話で、村田先生から学生自身のニーズが漠然としているですとか、あとは矢澤先生から本人が意思表明できないというようなケース、そういったお話もあったのですけれども、そこは教育的な対応になるかなと思っている部分です。つまり、教育機関に所属している、大学であれば4年間、高専であれば5年間、そういった期間で自分のニーズを明確にできる、またそれを伝えられるようになる、そういったことを身につけていければ、それは教育機関に在籍して良かったなということにもなりますし、そういったことも支援の1つの目的としていければなというふうに思っております。
ただ、高専において保護者の要望というのはどうなのかということについては、少し特別な検討が必要かなと思います。と言いますのも、例えば障害がある小学生であれば、これは本人の意志というよりは保護者と先生との相談というのが基本になるかなと思います。ただ、大学生において、本人の意志と無関係に親が大学と相談してというのはありません。
そう考えたときに、高校までの段階でどの程度自分で話せるようになっているかという点については、確か前の回でも話題になったかなとは思いますけれども、中学、高校という発達段階においてそういった力をつけていくということが重要かなと思いますし、またその中間的な位置にいる高専というのはまさに移行期間、最初入学したばっかりの段階は保護者中心かもしれないけれども、いかにそれを本人の要望に移行させていくか、そういったことも高専における課題になるのではないかなと思います。

【竹田座長】 ありがとうございました。
丸田先生、それではお願いします。

【丸田教授】 主治医との連携については、働く人のメンタルヘルスの対応が参考になると思います。本人の同意を得ることは基本ですが、職場の支援や配慮について相談するために、人事担当者や産業医が主治医のところに訪ねて主治医の意見を聞くことがあります。学校の支援スタッフが、主治医と相談する機会を持つことは意味があるように思います。
そのような連携に関連して問題とされるのが、主治医の面談にかかるコストについてです。主治医との面談で発生するコストを誰が負担するかです。本人が支払う場合もありますが、会社の安全配慮のために必要だということで、近年は会社がコストを払う場合があります。
また、医療への紹介業務を簡易化するために診療情報提供という共通のフォーマットがあります。A4用紙1枚程度です。それを各施設が医療機関へ紹介する場合に患者さんに持参していただきます。教育上の支援についても医師の専門的意見を記載するフォーマットが教育機関と医療機関でやりとりされれば対応していただきやすいのではないかと思います。
イギリスの大学で自閉症の支援に関する調査を行った際、大学生が給付金を支援に使うことができて、例えば遠距離を車で移動しなくてはいけないとか、日々の支援者が必要とか、また自閉症協会から個別のメンターを派遣してもらうと時給5,000円以上かかるのですが、そういうものに充当できると聞きました。
そのために必要なアセスメントは、アセッサーが行います。全国にアセッサーが勤める機関があって、そこで行われます。例えばA地域からB地域に高校から大学で移るとしたら、まずA州のアセッサーを訪ね、そこでのアセスメントの結果をB地域のアセッサーかあるいは大学所属のアセッサーに渡して、大学でのアセスメントへ導入されるそうです。財政的な問題もあるようですが、アセッサーという職業が日本にもあればよいのにと思いました。御参考までに。

【竹田座長】 ありがとうございました。
そうしたら、西村委員。

【西村委員】 西村です。高橋先生と丸田先生に御質問があります。
高橋先生の機能障害について根拠を示すのが必要だというふうな話なのですけれども。聞くと何となく医療モデルと言いますかそういう要素が強いように聞こえてきたのですけれども、後でそうでもないなというふうに感じたのですが。個体としての能力ですよね、その人のいろいろな特性なり障害なりを機能障害ということを知るということと同時に、その機能障害がその場でどのようにあらわれるのかというところって非常に大事で、それが大学で合理的配慮を考えていく上で、すごく大事になってくると思うのですね。同じような結果であっても、その人の経験的なものとか性格的とかも関係あるのかもしれませんが、どういうふうにこの授業であらわれるとか、どういう場面だったらこういうふうになるとか、その辺のことが非常に判断には重要になってくると思うのですね。ですので、いわゆる社会モデルの中でのアセスメントという意味では、現場のアセスメントというのですかね、機能障害はあるけれども、それプラス、それがどのようにその方がその場であらわすのかというところも見ていく力というのは非常に大事だなと思うのですが、その辺りについての御意見をお聞きしたいということが、高橋先生にです。
それから、もう一つ、丸田先生なのですが、先ほど時間がかかって休学、それから退学というふうになるという、そのスライドのところがあったと思うのですけれども、例えば長期履修制度のような形で、少し時間をかけて履修するということが保障されれば、病気を治しながら学問をするとか、それから、発達障害の場合も精神障害も合わさってある方の場合、例えば午後からしか出られないとか、そういう方の場合、非常によいのかなというふうに思うのですね。
かつて、私が学生相談に関わったときに、ある方が療学延長と言って、治療の「療」で、治療しながら学ぶということを保障する、そういうことがあってもよいのではないかというふうにおっしゃった心理士さんがいらっしゃったのですけれども、今、長期履修制度というのは、職業を持った方が、社会人の方が少し延びるという、大学院だったら2年が4年になるのですね。そのような範囲で障害がある方にその制度が適用できるのではないかなというふうに思うのですが、その点について何かご意見あったらお願いします。

【竹田座長】 高橋先生の方から先に。

【高橋委員】 信州大学の高橋です。
西村先生がおっしゃったとおり、同じ機能障害の状態があったとしても、場所によってと言いますか、場面によってそのあらわれ方は大きく異なってくると思います。それぞれの状況に応じて、どの程度困難が出やすいのかとか、困るのかを見ていくのは重要だなと思います。それが実際にはこちらのETSの根拠資料のつくり方のガイドラインにもしっかり入っておりまして、要するに、これは試験を受験するという状況ではありますけれども、そういった試験場面だけではなく、それ以外の異なった複数の場面において、それがどのような形で症状が出てくるか、困った状況が出てくるか、そういったことについても報告せよといったような内容が含まれています。ですので、すごく参考になるなと思うのですけれども、国内でもやはり異なった環境でどのような行動、パフォーマンスになるかということについて、観察してまとめていくというのが重要なことかなと思います。

【竹田座長】 それでは、引き続き丸田先生、どうぞ。

【丸田教授】 長期履修制度が学部でもあれば、ありがたいです。うちの大学でも、大学院では社会人対象に履修年限を2年から4年にする制度があります。休学も学費負担も、大学院は月単位で可能ですが、いずれも学部は半年単位です。休学のルールが柔軟なら、精神障害のある学生は修学支援を受けやすくなると思います。
それから、アセスメントのことでつけ加えさせていただくと、アメリカ、イギリスの、アセスメントを外注してその結果を大学で支援に使うやり方は利点があると思います。大学で勉強する際、現場ならではの理解や支援も必要ですが、社会へ出るにあたり、一般就労を希望する学生が多いのです。その後、再就職になるケースがありますが、支援機関にお世話になると、「自分のトリセツを作ること」が1つの課題です。そのトリセツ作成には、過去のアセスメント情報が役立つはずです。卒業前後を問わず、その情報を本人が消化して、社会へ出ていくことがとても大事だと思います。

【竹田座長】 では、関連して、村田委員。

【村田委員】 京都大学の村田です。
長期履修については、先ほど西村先生がおっしゃったとおりだと思います。本学でも、ちょうど2年前ぐらいになるかと思うのですが、長期履修制度の申し送りの中で障害を理由とした申請ができるような文言を加えていただきました。ただ、幾つかの他大学のお話を聞いていると、そういうことは少ないようです。まだ具体的なケースは発生していないと思いますが、そういった制度の運用も重要だと思いますし、事前的改善措置の1つとも言えるのかなと思いました。是非こういうことについても、この検討会のまとめの中で提示していくのが良いと思います。よろしくお願いいたします。

【竹田座長】 ありがとうございました。では、近藤委員からお願いします。

【近藤委員】 近藤です。
関連して今の長期履修制度なのですけれども、東京大学ではこの4月から大学院生だけではなくて、障害を有する学部学生に対しても長期履修制度を認めるという制度を開始しております。今のところ他学は私もわからないのですが、東大においては4月から始めておりますので、まずこれに関して触れておきます。
それから、私も質問が幾つかございます。高橋先生とあと川島先生にお伺いしたいところなのですけれども。今、機能障害という言葉が高橋先生のお話の中で出てきていました。このことで、例えばアメリカの障害学生支援の中では、障害についての情報共有について、障害の診断名については他者と情報共有しないけれども、その人にある機能制限、つまりファンクショナルリミテーションについては情報共有する場合があるそうです。機能制限とは、医学的な診断名とは異なります。背景となっている医学的なインベアメントが何かは関係なく、その障害学生には、何らかの障害によって、書くことの機能制限があります、読むことの機能制限がありますと。大学は、その機能制限に対して、この人には合理的配慮としてこういった取扱いを認めているのですよというのを、場合によっては一定の範囲にまで共有するそうです。例えばクラスのほかの学生たちが、なぜあの学生だけにこのような配慮を認めているのかという抗議を受けたら、障害学生支援室のスタッフは「あの人にはこんな診断名があります」とは言わないのですけれども、「障害を理由として、あの人にはこういう、何々このような機能制限というものが存在しているので、法にしたがってこうした合理的配慮を認めているのですよ」と共有するそうです。
川島先生にお聞きしたいのは、いわゆる権利条約であったり、これまでの差別解消法成立の経緯とその後では、似たような議論は一切存在してきていないのかということです。つまり、情報共有の範囲については全く触れられてきていないのかどうかということをお聞きしたい。それと関連して、高橋先生の方にも質問です。先ほど、「機能障害」という言葉を使われていたのですけれども、これは「機能制限」という考え方とはまた違うものなのかどうかということをまずお聞きしたいと思います。

【竹田座長】 それでは、川島先生の方からお願いします。

【川島准教授】 ありがとうございます。
ちょっと私も記憶が曖昧になっておりまして、間違っているかもしれないのですけれども、プライバシーの問題に関わる部分の議論はあったかと思いますけれども、どこまで議論があったかと言われると、忘れてしまっていて、お答えできません。
そして、もう1つ、活動制限、機能障害(インペアメント)なのですけれども、直接お聞きになってない質問かもしれませんが、インペアメントをベースに考えていく、そして、インペアメント由来の活動制限がある人に対しては合理的配慮をするというようなのがアメリカの考えだと思っていまして、例えば容貌に障害がある人、顔にあざとか傷がある人は、インペアメントはありますが、インペアメント由来の活動制限はない。よって、合理的配慮は認められないというのがADA改正法の考えです。西倉実季准教授(和歌山大学)と私は、それを批判したことがあって、活動制限というのは必ずしもインペアメント由来のものだけではなくて、活動制限というのは広い意味ですので、他人がじろじろ見るということで活動が制約されてしまうような人は、当然、合理的配慮が必要ではないかということで、そのアメリカのアプローチに対して批判的な検討をしたことがあるのですけれども、日本でそれがどうなのかというのは、恐らく議論はされてこなかったと思います。

【竹田座長】 高橋先生。

【高橋委員】 信州大学の高橋です。
私は基本的に機能障害という言葉で言ってきているのは、要するに、社会モデルという観点から、障害の診断のあるなしというところではなく、機能障害と社会的障壁の存在によって制限が生じる場合に配慮対象となるという観点です。ただ一方、ETSも含めて、アメリカの例ですと、結局は何だかんだ言って、診断と言いますか、個々の機能を詳しく評価はしているけれども、結果としては、この人は何とか障害があるというのが前提条件のようになっていて、何とか障害があるから、障害学生支援室に登録をして、そして、様々なサービスを受けるという、そういうふうになっていたかなと思います。
すみません、あまり質問の答えになっていなく、かつ問題提起までしてしまうのですけれども、実は、本当に純粋な機能障害が配慮対象になるのかというのは、私は議論されるべきかなと思っていて、例えば、よく言われることなのですけれども、自閉スペクトラム症の診断があって読み書きが苦手だという人が、読み書きが遅いということを示せれば、配慮対象にはなると思うのですよ。でも、その読み書きが遅いというのは、自閉スペクトラム障害の中核的な機能障害ではありません。では、一方で、ほかの障害の診断は全くないけれども、その人と同じぐらいに読み書きが遅い人は配慮対象となるかというと、恐らく現状だと、特別な診断がないので、読むのは遅いかもしれないけれども、配慮対象にはならないというのが現実かと思いますが、でも、だとすると、これはちょっとおかしいのではないかなと。
ASDの診断のある人は、たまたま何か1個診断を持っているから、ほかのものもオプションで配慮対象になるのに、そのメインの診断がないと、オプションだけでは配慮してもらえないというのは、何だろうなというような感じがするので、何らかの診断的な検査によって、機能が低下している、欠落している、そういったことを示せれば、それだけで私は配慮対象になってよいのではないかなと思っているところです。

【竹田座長】 よろしいでしょうか。
そうしたら、白澤委員、お願いいたします。

【白澤委員】 2点あります。1点は質問で、もう1点はコメントに近いことなのですが、高橋先生にお話しいただいたアドミッションポリシーについて。アドミッションポリシーを示していったり、オーストラリアや諸外国の取組のように、コンピテンススタンダードとして、大学でどのような力を求めているのかを示していくことが、各々の学部で本質的に必要な能力を明らかにするものになり、強いては合理的配慮のしやすさにつながっていくというお話で、それには私も賛成しています。ただ、同時に、そういったアドミッションポリシーを定め「このような学生を合格させます」ということを明確に示していくことが過剰に前面に出過ぎることによって、障害学生の排除にもつながり得るのかなとも思っています。この点、不当な差別的的取扱いと本質的変更のせめぎ合いになる部分であって、この辺りの考え方は、これからの検討会の議論の中でも大きなトピックスになってくると思うので、是非ディスカッションのテーマとして取り上げなければいけないと感じています。こうした思いもあって、現時点で高橋先生の御意見としてはどのように考えていらっしゃるかというのと、できれば川島先生にも、法律的にはどのように考え方を整理していくのが良いのかといった御意見を頂けると助かります。
それから、もう1点は、高橋先生のお話の中で最後の方にお示しくださった拠点大学の機能の件について、拠点となる大学がアセスメントなどの役割も担っていくとよいのではないかという部分については非常に賛成します。私どもの大学は、聴覚障害、視覚障害については全国拠点としての役割を担っていると思っていますけれども、それ以外の障害については、大学規模も小さく非常にリソースが乏しい大学の1つです。こうした大学にとっては、地域に先生が御指摘いただいたような拠点があって、近隣大学と協力をしていければ非常に心強いことかなと感じました。
特に、今、本学では精神の学生がすごく難しい状況になっているのですけれども、学生が大学に行けなくなったときに利用できる社会的資源が非常に少ないなと思うのです。例えば、デイケアや就労移行支援施設等があったとしても、やっぱりそれは社会人を対象にしたものが多くて、年代も違う40代、50代の方々が通われています。この中に青年期の学生が通うというのはすごく難しいですし、リワークや復職支援のサービスはあったとしても、復学支援というのはなかなか社会の中でリソースが得られないのですよね。そういうもののサポートとか、あるいはSSTのようなサポートも含めて、地域で連携しながら各大学と協力できるとよいなというふうには感じます。

【竹田座長】 それでは。関連してでしょうか。

【広瀬委員】 関連ですけれども。

【竹田座長】 関連して。では、関連で、広瀬委員。

【広瀬委員】 放送大学の広瀬です。
今の白澤委員からの御指摘、本当に復学をするのに困難を抱えている若い学生さんもたくさんいます。丸田先生が先ほどおっしゃったように、まず、履修の年限を長く要すること、そして、卒業間近に単位がとれていないということがわかって、退学する人たちが多い。それを解消する方法の1つとしては、放送大学があります。放送大学には単位互換制度があります。多分、一橋大学とも協定を結んでいるのではないかと思います。例えば、引きこもって、対人恐怖なので授業に出られない、英語の授業に出席できない。そういった一般教養のものであれば、放送大学の単位互換の制度を利用して、なるべく早めに単位を取得する。
それから、最後の最後に、退学になってしまったら、放送大学のような、あるいは、ほかの大学でも良いのですが、単位をとって、学位授与機構で大卒資格をとることができます。もちろん、一橋大学だったら、一橋大学の卒業がとても大切だということもあると思いますけれども。なるべく早めに単位互換システムをとって、バックアップしていくことも重要です。
学位授与機構で大卒資格をとれば、しばらくたってまた健康を回復されたときに、学士の資格を持って修士課程や次のステップの大学に行くこともできるわけです。私の周りでも、実は単位が足りなくて卒業できなかったという方はたくさんいます。学位授与機構が、あまり利用されていない状況を残念に思います。
それから、あとちょっと2つコメントがあるのですが、アメリカで実は専門家に診断書を作ってもらうときに非常にお金がかかると聞きました。

【高橋委員】 20万円です。

【広瀬委員】 高額ですね。その診断書をどのようにするかというのも1つ大切だと思います。
それから、もう1つ、例えば中学生、15歳あるいは17歳の生徒がカウンセラーと話した内容を親に伝えても良いか、日本の場合はどうなっているのでしょうか。私、最近、オーストリアのケースで、13歳、14歳では親にカウンセリングの内容を伝えてはいけないというようなことも聞いたことがあるのですが、その辺り、日本では法律的にはどうなっているのでしょうか。守秘義務という観点で、どなたか教えていただけたらと思います。
生徒がカウンセラーに「死にたい」と言ったら、カウンセラーは親に内容を教えてくれるのでしょうか。その辺りはどうなのか教えていただけたらと思います。

【竹田座長】 最初に白澤委員の方からありましたアドミッションポリシーとかディプロマポリシーと、それから先ほども白澤委員の方からありましたコンピテンシースタンダードという、一定の能力をいろいろ、例えば大学とかカリキュラムの中に、コースの中に到達目標というのがありますけれども、そういうものを決めている。欧米やオーストラリアとかイギリスではそういうのを目にしているのですが、それをあんまり前面に出すことが、差別の議論、さっきありますけれども、差別的なものに抵触する可能性が非常に高い考え方でもあるわけですが、ということだと思うのですが。

【白澤委員】 それが排除につながりかねない例があり得ます。

【竹田座長】 ああ、排除にですね。そうですね。あり得るというか、そういうことだと思いますね。特に、先ほどから、例えば発達障害の方で、コミュニケーションの能力がないということが、そのコースの到達目標に達しないという判断される、あるいは事前に判断されることで、入学の時点から排除されるリスクがあるとか、もちろん途中で排除される、実習面で。その辺の議論はすごく今、社会的にはプラクティカルな部分ですごく議論になるところなのですが、その辺を、本日も1番議論で、合理的配慮の妥当性とか、それから差別の考え方と非常に密接に結びつくと思うのですが、川島先生、高橋先生たちにコメントを頂けきます。その後に、丸田先生からもそのことに関して、それから、今、守秘義務のことが出てきましたので、それについて実践的なお立場からの御回答を頂けると思います。
そうしたら、川島先生の方からちょっとお願いします。

【川島准教授】 ありがとうございます。
白澤委員からの御指摘につきましては、私もイギリスではガイドラインの方でそういう基準があるというのは見たのですけれども、どこまでの内容かということは、本当に抽象的なものですが、基本的には、本質的変更を伴わないようにという趣旨のものです。難しいのでしょうけれども、その本質は何かという議論に尽きるのではないかなと思われます。
そして、本当に、申し訳ないのですけれども、ちょっと1分だけお時間を。

【竹田座長】 どうぞ。

【川島准教授】 先ほど、石川委員と殿岡委員の質問でちょっとお答えしたい点がございまして。
3点ありまして、1つは、障害者権利条約に照らして、常に国内法制度は見直されるということであると思います。そして、国内法制度を考えるときは、やはり所管の省庁が何を考えているかというのをまず特定しないといけないと。解消法は内閣府、促進法は厚労省です。基本方針にも指針にも何も書いてないグレーな部分というのがあるわけでして、基本方針には間接差別について書いていないわけですよね。そうなると、Q&Aを見るしかないと、それらの省庁の考え方を書いた。Q&Aを見ると、どうも直接差別しか書いてないと。では、それが妥当なのかどうかは、やはりその後の運用を見直していくとかで変えていかなくちゃいけない。それで、何も法改正は必要なくて、という考え方もあり得ると。運用とか実践を変えれば、済む場合もあるという可能性があります。
そして、今、直接差別が禁止されているという議論になった場合に、直接差別の範囲を広げていく可能性が2つあって、1つは、もう既に盲導犬差別という、間接差別に入り得るようなものが直接差別に入っています。他方で、例えば犬の入店を禁止すると言っても、そこに障害者を排除するという明確な意図があった場合には、直接差別に入ると考えることもできます。なので、犬を理由とする差別にも、明確な差別意図があれば、直接差別に入る可能性はあります。
そして、3つ目が、最後なのですけれども、関係者入室禁止という例が石川委員から御指摘がありましたけれども、それは差別意図がなく合理的な理由があって、間接差別にもあたらないかもしれない。間接差別は法の禁止対象に入っていないという場合に、関係者入室禁止に対して、では障害者の支援者はどうなのかといった場合、合理的配慮によって例外的に支援者は入室できるという考え方をとるのがオーソドックスだと思います。そして、よく言われるのが、間接差別に関しては、合理的配慮を保障すれば、ほとんどの間接差別に関しては、何とか機会平等が実現できるのではないかということは言われています。となれば、事例の蓄積とか裁判例の蓄積を待って、なぜ合理的配慮以外に間接差別を認めなくちゃいけないのか、合理的配慮に加えて間接差別を認める必要性というものを、今後明らかにしていくのが日本の課題だとおもわれます。
ちなみに、イギリスでは、間接差別というのは、もともと95年のDDAに入ってなかったのです。しかし、2010年の平等法になって、障害分野でも間接差別は法律の規制対象に入りました。そのような形で、事例の蓄積等、そういう研究等も必要になるかと思います。
すみません、長くなりまして。

【竹田座長】 ありがとうございました。
高橋委員、引き続きお願いします。

【高橋委員】 各種ポリシーのことなのですけれども、差別の解消を推進するためには、アドミッションポリシーやディプロマポリシーをより明確・具体化し、かつ、それを公開していくことが必要だと思います。なぜかというと、抽象的で美しい言葉が並んでいるポリシーだと、結局、何が求められているのかわからないので、表でそう言いつつ、裏でこういう差別をしているということがあり得ると思います。しかし、それを具体化し、明確化してくれれば、公開してくれれば、もしそこに差別的要素が含まれていた場合に、その公開された情報に対して不適切さを指摘することが可能になると思います。
これは、実は昨年のシンポジウム、これも近藤先生から頂いた意見かなと思うのですけれども、表向きにある部分に関しては、その本質を変えずにこういう配慮の仕方もあるのではないかと提案できるけれども、暗黙のポリシーに関しては闘いようがない。それが非常に私も印象的で、だからこそ、より明確化・具体化された各種ポリシーがそれを作っていくということというのが教育機関に求められていくのではないかなと思います。

【竹田座長】 それでは、最後に丸田先生の方からいかがでしょうか。

【丸田教授】 先ほど放送大学のお話がありましたが、5、6年前に放送大学で単位を取得してもらえないか、と思いましたが、うちの大学は単位の互換はしていない、とわかりました。今後、単位互換などが可能になることを期待します。学生が7、8年生になって保健センターに来談するケースでは、教養科目より専門科目が問題となることが多いです。卒論が実行機能の障害により書けない場合、TAをつける支援が難しいなら、卒論で躓(つまず)くかもしれません。それと、学位授与機構の存在も大事だと思います。
スクールカウンセリングについて詳しくはありませんが、大学生の相談に関わる守秘義務については、アメリカでタラソフ事件というのがあり、参考になります。タラソフという女子学生がボーイフレンドに殺されたのですが、彼は大学の病院の精神科でカウンセリングを受けていました。カウンセラーはその学生がタラソフを殺す予言を聞き、医師に上申しました。プライバシーをすることになった結果、殺人事件が起こってしまい、両親が大学を訴え、大学は負けたのです。それ以後、アメリカでは、大学のカウンセリングサービスでクライエントの自傷や他害などが疑われる場合は、守秘義務より安全配慮を重視していると思います。
日本ではこのような場合の対応について、大学の現場で明確な指針があるかどうかわかりません。企業では、安全配慮義務のため守秘義務を破ることがあります。学校については、学校保健安全法でメンタルヘルスへの配慮が含まれましたが、自傷や他害を疑うレベルの学校の対応について具体的には言及されていないと思います。
先ほど柏倉先生からお話があった、引きこもっている学生の安否確認のため、自傷などを心配して介入する根拠として、自殺対策基本法があります。地域や学校や職場は、自殺の防止のために必要ならアウトリーチをする等です。また、精神保健福祉法では、自傷や他害のリスクがある人について警察や保健所に相談するルートもあります。学校の中で守秘義務を重視すると、安全対策上のリスクがあると思います。

【竹田座長】 ありがとうございました。
まだ御議論が尽きない部分もございますけれども、もう既に時間が過ぎてしまっておりますので、何か、それでは、殿岡委員、一言だけ。時間が来てしまっていますので。

【殿岡委員】 それでは、あと1つだけ。やっぱり今日は医学的根拠のことが随分議論にできていて、機能障害ということも議論に出てきていますが、それらには限界がやはりあって、逆に言って医学的には十分ではない配慮例えば大学入試センターなんかだったら、もともと点字受験では点字の読み速度が2倍以上速度的にはかかっているにもかかわらず、時間延長が1.5倍に抑えられているとか、それで、医学的なものでいうと、試験を実施するという上での配慮に対しては何のエビデンスも示されていない、だから、配慮を求めている人はエビデンスは必要で、でも、その配慮が提供されたときには、これは視覚障害に対する配慮実施のエビデンスが存在しないという、ここは常に押さえておかないと、やはり本質が見えてこない。
それから、もう1つは、どうしても今日、障害の部分に対する合理的配慮という観点からの指摘が多くありましたが、やはり基本は障害及び社会的障壁に対する合理的配慮なのですよね。社会的障壁は一切の観念とか言葉とか、いろんなものが入ってくるわけですが、そこには当然、障害のない人だけを前提に作られた学内制度というものが本質的に入ってくるというところで、この点では障害のない人だけで成り立つ前提においてつくられた試験制度であり評価制度です。ここに乗せようとするから、やはり問題が起きる。このときのやはり社会的障壁としての学内制度、ここに着目しないと、結果的に全てが個人の方に流れてしまって、本質的議論までいって、学内制度を変えなくてよいことの根拠立てになってしまう。今日、議論の中でこの2点に関しては、どうしても押さえておかなければいけないと思って、お願いでありました。ありがとうございました。

【竹田座長】 どうもありがとうございました。とても大事な、機能障害の議論なのですけれども、社会的障壁の議論についての考え方、合理的配慮の妥当性とそれから差別の考え方というのは、恐らくこの合理的というところで1番中核的な議論だと思いますので、もしよろしければ、次回の検討会で何らかの形で今日のこの各議論を盛り込んだ形で、御議論の時間をもう少し持ちたいと思いますけれども、よろしいでしょうか。
ありがとうございます。それでは、そのようにしたいというふうに思います。
最後に、当面の検討会のスケジュールについて、事務局の方から御説明をお願いいたします。

【小代課長補佐】 文科省でございます、資料5を御覧ください。
当面の検討会のスケジュールについてということで、本日が第4回、7月22日金曜日でございます。次回は第5回ということで、8月17日の午後若しくは18日の午後ということで、皆様にお知らせしております。これは早急に決めて御連絡を差し上げたいと思います。場所についても御連絡いたします。
内容につきましては、今、座長からもございましたように、本日の御議論を踏まえまして、その御議論の継続と、それから、それを踏まえた形で第二次まとめ原案につきまして御議論を頂くという予定で内容の調整を進めさせて頂き、座長と御相談させて頂きたいと思います。

【竹田座長】 ありがとうございました。
本日の議事は以上でございますが、そのほか会合全体を通しまして、御意見等はございますか。
それでは、以上で障害のある学生の修学支援に関する検討会の第4回を終了いたします。
どうもありがとうございました。


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文部科学省高等教育局学生・留学生課