資料3 川島 岡山理科大学総合情報学部社会情報学科准教授 提出資料

合理的配慮についての若干のコメント

川島聡 岡山理科大学


1.条文
差別解消法は、次のように、行政機関等の合理的配慮の法的義務を定め(7条2項)、事業者の合理的配慮の努力義務を定める(8条2項)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
差別解消法7条2項: (1)行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、(2)障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、(3)その実施に伴う負担が過重でないときは、(4)障害者の権利利益を侵害することとならないよう、(5)当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、(6)社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
差別解消法8条2項: (1)事業者は、その事業を行うに当たり、(2)障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、(3)その実施に伴う負担が過重でないときは、(4)障害者の権利利益を侵害することとならないよう、(5)当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、(6)社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(1)の「その(事務又は)事業を行うに当たり」という文言には、たとえば合理的配慮の本来業務付随性を読み込むことができるかもしれない。
(2)の文言は、個々の場面における社会的障壁除去についての障害者のニーズ(いわゆる個々のニーズ)が実際に存在していることを含意する(基本方針)。そのような個々のニーズが現実に存在しない状況の下で、あらかじめ障害者一般のニーズを念頭に置いて社会的障壁を除去する措置は、事前的改善措置である。また、「意思の表明があった場合」という文言(条件)は、合理的配慮の決定プロセスが基本的には「意思の表明」の後に開始されることを意味をする。
(3)の文言は、配慮に伴う負担の非過重性を意味する。ある配慮に伴う負担が過重か否かは、個別の事案ごとに、1)事務・事業への影響の程度、2)実現可能性の程度、3)費用・負担の程度、4)事務・事業規模、5)財政・財務状況などの要素が考慮に入れられて、総合的・客観的に判断される(基本方針)。
(4)の権利利益の侵害は、合理的配慮そのものを構成している要素に含まれない、と思われる。よって、権利利益の侵害については証明しなくても、合理的配慮の不提供を証明することができる。
(5)の文言は、個々のニーズが障害の状態のみならず、性別や年齢も考慮に入れたものとなることを意味する。また、プライバシーなども、個々のニーズに含まれうるであろう。
(6)にいう「社会的障壁の除去の実施について(の)必要かつ合理的な配慮」の略語が「合理的配慮」である(内閣府のQ&A)。ここでいう「合理的配慮」には、個々のニーズ(性別や年齢に関連するニーズ、プライバシーのニーズを含む)、社会的障壁の除去、非過重負担の要素が含まれるほか、本来業務付随、機会平等、本質変更不可の要素も含まれる(基本方針)。さらに、合理的配慮には、障害者の意向尊重という要素も含まれうる。この点につき、雇用促進法の合理的配慮指針が「事業主が、障害者との話合いの下、その意向を十分に尊重した上で、より提供しやすい措置を講ずることは差し支えないこと」と記していることは、差別解消法の文脈でも妥当すると思われる。

2.内容と手続

上で述べたように、基本方針等を見ると、合理的配慮の内容が、個々のニーズ、社会的障壁の除去、非過重負担、本来業務付随、機会平等、本質変更不可、意向尊重という7つの要素から構成されていることがわかる(オーバーラップしうるものもある)。
また、基本方針等を見ると、合理的配慮の手続(決定プロセス)が個別的・事後的・対話的性格を有することもわかる。すなわち、個々の障害者と個々の相手方との間で、障害者側の意思表明がなされた後に、両者の対話を経て、合理的配慮の提供又は不提供が決定されるというのが、合理的配慮の手続である。

3.紛争の解決と防止

障害のある学生等が、(1)合理的配慮の決定プロセス(特に対話)の進め方、(2)合理的配慮の不提供の決定、(3)合理的配慮の実際の提供(の内容と仕方)について不満をもち、紛争がおこる場合がありうる(教員も不満をもつことがありうる)。紛争の防止のためには、全学的に事前的改善措置を計画的に進めること(それにより合理的配慮が不要になったり、合理的配慮が実際に提供されやすくなったりする)が肝要であるが、それ以外に、調査による実態把握、マニュアルの作成と見直し、関係教職員の情報共有・研修、学生の意識向上のほか、合理的配慮の決定から実施までの体制整備の充実も重要となる。紛争が生じた場合は、その解決のための学内手続がうまく機能するかがポイントとなる。

4.不当な差別的取扱い

国交省の指針には、「低床式車両やリフト付きバスでない場合、運転者ひとりで車いす使用者の安全な乗車を行うことは無理と判断し、他の利用者に車内マイクを使って協力をお願いしたが、車内で利用者の協力が得られず乗車できない場合、説明をした上で発車する」という事例が記されている。国交省はこの事例(運転者が車いす利用者の乗車を拒否した事例)を不当な差別的取扱いの事例と考えているが、合理的配慮の不提供の事例として捉えることもできる。前者として構成すれば法的義務、後者として構成すれば努力義務となる。
ここでいう不当な差別的取扱は、直接差別を意味する。直接差別とは、障害者であることを理由に、あるいは障害者のみに関連する事柄を理由に,障害者を非障害者と比べて不利に扱うことを意味する(たとえば「障害者だから入店できません」「盲導犬を連れているから入店できません」)。
間接差別とは、障害者のみに関連する事柄ではないが、障害者と一定の関連性を有する事柄を理由に、障害者を不利に扱うことを意味する(たとえば「犬を連れている人は入店できません」)。犬を理由とする入店拒否が、もしも障害者集団に非障害者集団と比べて不均衡な不利な効果をもたらしているのであれば、この意味で、犬は障害者と一定の関連性を有する事柄となる。


お問合せ先

文部科学省高等教育局学生・留学生課