特定研究大学(仮称)制度検討のための有識者会議(第1回) 議事録

1.日時

平成27年10月7日(水曜日)16時~18時

2.場所

文部科学省東館3階 3F1特別会議室

3.議題

  1. 特定研究大学(仮称)のコンセプトについて
  2. その他

4.出席者

委員

岸座長、上山委員、金子委員、郷委員、酒井委員、菅委員、清家委員、高橋委員、中西委員、橋本委員、濵口委員、松本委員

文部科学省

常盤高等教育局長、義本大臣官房審議官(高等教育担当)、吉田国立大学法人支援課企画官、春山国立大学戦略室長

5.議事録

【岸座長】  御紹介いただいた岸です。座ったままで続けさせていただきます。  今,事務局からもお話がありましたが,本当にノーベル賞,おめでたいと感じているところです。一方で,世界の大学ランキングでは非常に苦戦しているというようなことであります。この大学ランキングの評価そのものも問題点があるとしても,今,日本は大学も何か動かなければいけない時代だというように認識している次第でございます。そういうわけで,その一つとして,この特定研究大学を指定する,また,作っていくということがどういう意味があり,どうまとめ上げていいか,そういうことに関して是非,有識者の皆様の御意見を頂きたいと考えているところでございます。  それでは,本日の議題に移りたいと思います。本日の議題は,特定研究大学,これは仮称でございますが,そのコンセプトについてということになります。まず,事務局から,特定研究大学に関する基本的な考え方について説明いただき,続いて上山委員から海外大学の事例紹介として,スタンフォード大学の事例を御紹介いただきます。その上で,今後,特定研究大学についてどのようなコンセプトの下,制度設計を考えていけばよいか議論していただきたいと思います。それでは,よろしくお願いします。

(事務局より資料3について説明)

【岸座長】  ありがとうございました。  それでは,続けて上山先生からお願いするということでよろしいでしょうか。
【上山委員】  どうもありがとうございます。  何かしゃべってほしいと言われたのですが,御指名いただいてまでしゃべるとは聞いていなかったということと,つい最近でしたので,資料を全く用意することができなくて,少し私の頭の中にあることをずっとお話をします。特にここの中のたたき台のところの四つの視点,観点ということに関連しながら,私の知っていることを少しだけお話をします。
【岸座長】  先生,15分,時間が準備されておりますので,どうぞごゆっくり。
【上山委員】  そんなには。質問があれば幾らでもお答えしますけれども,私が全部をカバーできるかどうか分かりません。  まず一つは,目標設定ということであります。スタンフォードという大学は,実は,慶應大学よりも年次の新しい,比較的若い大学でありますけれども,したがって,その分だけ目標設定というものが非常にラディカルな,あるいは競争的な目標設定を持っていた大学だと思います。1950年ぐらいまでは非常にローカルな大学でしたし,研究能力も非常に小さかった。そのことは,この大学が獲得してきた外部資金の流れを見ると明らかですが,60年代ぐらいから急速に外部の資金を獲得していって,そして,西の中の大きな研究大学に育っていったという歴史を持っております。その分だけ,彼らが最初に掲げていたことは,カリフォルニアという新しい地域における,全く異なるタイプの総合大学を目指すということであったと思います。この大学が当時掲げていたことは,ハーバード・イン・ザ・ウエストというキーワードでした。この西海岸におけるハーバード大学を目指すという目標と,もう一つは,とりわけ外部資金が大きく取りやすかったサイエンステクノロジーの分野に特化する。そのモデルはMITであると。そういう意味で,ハーバードとMITを足して2で割るような,そういうタイプの大学を目指そうということを掲げていたということが一つあります。  したがって,当時は,国防総省,すなわち防衛関係のお金が非常に大きくカリフォルニアに流れてきましたから,そのことは外部資金のターゲットとして大きくスタンフォード大学の中にはあったと思います。そのモデルというのは,まさにMITが戦後ずっとやってきたもので,そのことをそのまま引き継ぐと。同時に,MITのような単科大学ではない,ハーバード型の総合大学も新しく作っていくという,これが大きな目標だったと思います。  その過程の中で常に議論されてきたのは,我々はワールドリーダーを作るということでございました。このことは今でも変わっておりません。このワールドリーダーという言葉は非常に曖昧で,いろいろなものを含んでいる。その分だけこの目標は、総合大学を目指すスタンフォードにとっては、その後に様々なインプリケーションを持つようになったと思います。というのは,1970年代以降からバイオテクノロジー,それから半導体,ICT,さらにコンピューターサイエンスですね,これらの新しい分野においてスタンフォード大学は非常に大きく伸びていくわけですが,それに伴って大きな資金を外部から手に入れることができました。ところが,こういう理科系的な分野が伸びていけばいくほど,その分野の教育の中でどうしてワールドリーダーを作っていけるのかということが,当然ながら大学の中にそういう疑問が出てくるわけですね。そうすると,スタンフォードという大学が目指すべきワールドリーダーは何かということについての議論が,実は1970年代後半から80年代にかけて非常に盛んに交わされるようになりました。そのときに出てきたことは,実は興味深いのですが,ゼネラルエデュケーションを非常に強めていこうという主張でございました。僕は80年代の終わり頃におりましたから,ちょうどこの境目を経験しましたけれども,このコンピューターとかバイオテクノロジーとか,先端科学技術を中心に大学経営を掲げていたにもかかわらず,実はやるべきことというのは大学の一般的な教養が重要なんだという議論が盛んになされるようになったんですね。それは,今ちょうど日本においてもいろいろな財界の方からも,リベラルアーツをもっと充実させろという議論がありますが、それにちょっと似たようなところがあります。同時に少し違う面もあると言えます。というのは,確かにリベラルアーツが重要だということを当時の学長たちも言うようになるわけですけれども,アメリカには、例えばリベラルアーツ型の大学は実はあるんですね。リベラルアーツだけに特化している大学です。これは必ずしもそんなに研究に力点を置くわけじゃなくて,本当に一般的な教養を高めていくという。こういう大学のリベラルアーツとスタンフォードが目指すべきものは同じなのか,じゃあ,この大学におけるリベラルアーツは何かということも当然ながら議論をされるようになってきたわけです。  僕が見ている限りで言うと,例えば,グレートワークスというような科目が盛んにできるようになりました。これは,例えば古典を読もうというコースですが。日本では古典を読む場合には、非常に丹念に一字一句を勉強していくというわけですけれども,そうではなくて,非常にざっとですが,多くの古典を続けて読ませる,特に理科系の学生に読ませる、そして同時に,そこから今の現代社会におけるサイエンステクノロジーは何かという議論をさせると。こういうようなコースがたくさん出てきたのは覚えております。  それから,この80年代から90年代にかけて,多くの当時のプレジデントたちがやったことは,先端の科学者,つまりノーベル賞を取るような学者がいっぱいいるわけですね。彼らに、1年生のこういうリベラルアーツ型のセミナーをさせるという試みをやったことがございました。特に自分の先端の科学技術の研究を紹介しながら,それが社会の中でどう意味があるかということを学生たちに問い掛けるような授業です。18歳で大学に入ってきた学生が,その先端の科学技術とか先端の学術研究に触れながら,社会の問題でリーダーになっていくのにはどういうものが必要かというようなことを議論したことがございました。このことが今でも実は,今のスタンフォードのいろいろなトップエグゼクティブの人に言うと,非常にスタンフォードにとっては大きなメリットになったということを言う人が多くおります。というのは,我々は単に専門的な学者を作るわけではなくて,文字通りワールドリーダーを作るのだということを掲げるときには,古典のことも知っていなければいけないし,あるいはミュージックのこともちゃんと語らなければいけないと。そういう人たちを育てるためには,我々の目標はここにあるということを,ほとんどの理科系の先生方が言うことが非常に面白い経験でございました。  こういうことを実行する経営戦略として,スタンフォードがやった面白い試みは,1960年代にエクセレンスというキーワードをほぼ最初に使い始めます。今でいうと我が国でもしばしば出てくるのですけれども,卓越したという言葉ですね。このエクセレンスというものを確立していくというのが大きなキーワードになりました。特に「スティープル・オブ・エクセレンス」という表現を使い始める。つまりエクセレンスの塔を大学の中に幾つも建てるという戦略を前面に出しました。スタンフォードがこの言葉を使い始めたのが最初じゃないでしょうか、アメリカの中で。当然ながらそのときに選ばれた多くはサイエンステクノロジーの分野でございましたけれども,そこにある程度,大学の資金を投入しながら,集中的にスタンフォードの名声を高めていくという戦略をやったことは間違いないと思います。こういうことがある種のスタンフォードの成功につながっていくような目標設定であったということは言えると思います。このことが最初の研究教育活動の質を目指す目標設定の中の一つとお考えになっていただければいいかと思います。  さらに次はガバナンスの強化ということですが,これはアメリカの私立大学の多くがそうなんですが,先ほど事務局がハーバードの例を紹介してくださったように,政府からの関与というのは非常に少ない。一方でやっぱり理事会,トラスティーボードとかトラスティーオーバーシーズという,こういうところが大学のガバナンスに非常に大きな力を持っていて,ハーバードと同じように数十名の卒業生がかなりの部分が入っている理事会というのが構成されていて,そして,彼らの大きな仕事は,何年間かの間、その大学を託すための学長を選ぶというのが一番大きな役割ですね。ですから,1年なり1年半,あるいは2年ぐらい掛けて次の学長を選ぶ。僕はいろいろなところで申し上げているのですが,大学という組織は非常に難しい組織でございますので,企業のように,ある短期間の利益を追い求めるものではない組織ではない、それゆえ,ある程度の長期間のガバナンスをプレジデントに保証しなければいけないという,そういう宿命を持っているんですね。したがって少なくとも10年ぐらいはこのスタンフォードという大学を任せるに足りるプロフェッショナルな学長を選ぶというのが,最初のトラスティーボードの役割であり、その後は,その学長がどれぐらいいいパフォーマンスをしているかということを年何回かに分けて調査をしていくということが大きな責務であります。  したがって,僕もちょっと関心を持っていろいろ聞いたのですが,いわゆる学長解任の規定というのが余りないんですね。日本の国立大学の場合ですと,必ず学長の解任は,細かい規定で決められているのですが,そういうことは基本的になくて,このトラスティーボードの訪問調査によって,この2年間なら2年間の間にこの学長がどのぐらいのパフォーマンスを上げたかということに非常に大きな評価の基軸が置かれている。知っている限り,やはり年に何回かやるこの調査によって相当厳しい評価が学長,あるいは学長を頂点とするようなガバナンス機構に対してなされますので,大体8年とかで辞めていく学長というのは,やっぱり何か問題が発生している。少なくともスタンフォードのケースで見ても、過去の学長の任期とそのパフォーマンスは連動しています。大学に何らかの損害を与えたと判断された場合に,そのことがきっかけとなってステップダウンをしていく。したがって,解任ではなくて,自ら学長の座をステップダウンするという,そういう選択を迫られるというのが大きなプレジデントに対する評価ということになります。  学内のガバナンスということで言うと,やっぱり大きくプレジデントとプロボストという二つの基軸があるというのが,私立大学の多くのところがそうです。プロボストという組織は,僕はいろいろなところでもお話をしているわけですが,学長からの委任を受けて学内の教育研究に関する全ての権限をほとんど与えられている。実際に大学の予算の3分の1をほぼコントロールしている。奨学金から,あるいは教授の昇進,採用,ここに至るまでプロボストが常に関わっておりますので,いわば学内における本当の意味での学長的な役割を果たしている。一方で学長の果たすべき仕事は対外的な活動,とりわけファンドレイジングが非常に大きな役割ですね。ですから,同窓生との関係,自治体との関係,政府との関係,企業との関係を常に持ちながら,どのような形で大学の中に学外の資金を導入するかということがプレジデントに課されている非常に大きな使命で,その下で大学のガバナンスを動かしていくということであります。  そして、プロボストオフィスというものが実はスタンフォードで1960年代に生まれるわけです。これがなぜ60年代という非常に早い段階で生まれたのかというと,それはこの大学が,先ほど申し上げましたように,大学の競争の中において急速にその地位を高めていったという背景があったと思います。というのは,プロボストオフィスを持っていると,全ての大学の中のリソースを完全に把握し,どのような人員がいて,そしてどのようなプロジェクトが走っていて,それぞれのプロジェクトにどれぐらいの予算が付いているかということまで全部把握することになりますから,いわば大学の研究と教育の資産を全部一手に握って,そして戦略を立てることができる。そうすると,できるだけ早く急速に伸びていきたいという大学には,こういうプロボストオフィスがどんどんできるという傾向があって,スタンフォードもそうですし,コーネルもそうですし,それからカルテックのような急速に伸びてきた大学はこのオフィスを必要としたと思います。一方でハーバードのようなところは伝統的に地位がありますから,余りこういうものが発展せずに,1992年までプロボストができなかったという歴史がございます。  そして,プロボストオフィスは,先ほど言いましたように,3分の1の予算を握っておりますけれども,スタンフォードで大体年間,1ドル100円としますと,4,500億円ぐらいの予算があって,これの3分の1。この予算をどこが決めるかというと,プレジデントの下とトラスティーボードの下に,バジェットプランニングオフィスというのが形成されて,そこに外部の評価委員と学内のそれぞれの部局の長みたいな人が集まってきて,毎年毎年の予算が形成されていく。そして,それを各部局なり,あるいはプロボストオフィスに投げて,そして運営をしていくというのが現実に行われているガバナンスの形態だと思います。これが今,お話ししたようなガバナンスということで,その意味で日本の国立大学もそういったガバナンスを強化していく必要があると,強く思っております。  もう一つ,3番目ですけれども,評価の問題であります。先ほど言いましたように,プロボストオフィスは学内における全てのプロジェクトの動きを完全に把握しておりまして,これは単に人間だけではなくて,1990年代のはじめに、この大学はコンソリデイテッドバジェットというシステムを導入しました。コンソリデイテットバジェットというのは非常に興味深いバジェッティング,予算の立て方です。スタンフォードの中にも、オフィス・オブ・プレジデントが持っている予算,プロボストが持っている予算,そして各部局が持っている予算というのが当然あって,各部局も実はそれぞれに特許を持っていたり,あるいはエンジニアデパートメントでしたら,エンダウメントそのものも実は持っているんですね。ですから,そこでお金も動かしているわけです。そうすると,各部局,特にお金持ちの部局の中における予算が,一体どのように動いているかということが、だんだん本部には分からなくなってくるわけですね。しかし,統一体としてのスタンフォードならスタンフォード大学を予算的に,戦略的に動かしていこうとすると,本部が把握している予算以外のところも全て把握したいという,そういう要求は当然高まってくるわけです。  1990年代に入ってこの大学がやったことは,全ての部局が持っている予算を透明化するということでした。つまり,エンジニアデパートメントが持っている予算,そこにおける研究費,全て透明化して,本部が一括的に把握することができるようになるという,そういうシステムを導入いたしました。たしか1992年だったと思います。これをコンソリデイテットバジェットと言います。統合的バジェット方式。これは何のためにやったかといいますと,文字通り,ガバナンスとか評価の問題に関わっておりまして,例えばエンジニアデパートメントが新しいプロジェクトをやろうとするときに,これは大学本部もある程度予算を出してくれということを当然ながら言ってきたり,あるいは教員の昇進みたいなことについても交渉し始めるわけですけれども,そのときに大学本部は,自分たちの持っている予算とエンジニアデパートメントで持っている予算というものを完全に突き合わせて,おまえたちのところにはこれこれの予算があるから,その予算でやるべきだという指令を出すこともできるようになるわけですね。そういう意味では,予算上のリダンダンシーといいますか,オーバーラップみたいなものを防いで,より効率的な大学経営戦略を立てることができるようになったというのが,このコンソリデイテットバジェットの大きな役割だったと思います。  それをなぜやらなければいけなかったかというと,スタンフォード大学の財務も,あるいは研究組織も,どんどんエクスパンドしていきますので,本部がそのすべてを把握していくことがだんだん難しくなってきた。それに対して,予算の面からちゃんとたがをはめていく必要性にかられたということがあったと思います。その意味で,予算的にも,あるいは教員の配置に関しても,大学の本部が完全にそれを把握している。そして,例えば,ある学者を准教授から教授に昇進させる場合には、一々大学本部の許可を得なければなりませんし,そして,教員の採用に関しても,大学の本部がオーケーを出さないといけない。そのときの大きな根拠として,大学の中におけるガバナンスを強化していき,大学の中のヒューマンリソースと資金のリソースを本部が完全に把握をしているということは,非常に強いガバナンス力を大学本部に与えたんだと理解をしております。  もう一つはもちろんティーチングですけれども,これは改めて私が言うまでなく,スタンフォード大学における学部,大学院教育におけるティーチングのエバリュエーションは非常に厳密なものになっています。日本でもティーチングエバリュエーションは導入されているんですけれども,どちらかというと形骸化していく。なぜなら,ティーチングエバリュエーションがそのまま給与に反映されていないという現状がありますよね。スタンフォード,あるいはスタンフォードだけではないですけれども,ティーチングエバリュエーションがそのまま大学の教員の昇進と給与のレベルに反映されているということは皆さん御存じだと思いますが,そのことがだんだん強化されていったということも,研究と教育の二つの面からのこの大学の評価に関わっているとお考えになっていただければいいかと思います。  もう一つの4番目は財務の問題ですね。あるいは大学の自律性を高めるための財政的環境整備ということで言いますと,これもやっぱりこの大学は非常に先駆的であったと思います。とりわけ80年代,僕は80年代が大きなターニングポイントだと思ってはおりますけれども,大学の財務環境をより拡大していかなければいけないというプレッシャーが各研究大学に強くのしかかってきて,とりわけ最初は私立大学におけるそれが見えてきたわけですけれども,実行したことは幾つかあると思います。まず一つは,寄附金の拡大ですね。1974年にアメリカの税務の法体系が変わりまして,大学とか美術館のような非営利組織に対する税の公助が非常に緩やかになりました。例えば,ある人が大きな投資の資金を持っていて,その株式なら株式のような譲渡性の資産ですね,これを大学に寄附をする。そうすると,その金額そのものも所得から控除されるだけじゃなくて,その人が譲渡性の資産によって獲得しているキャピタルゲインの金額も,その人の全体として持っているキャピタルゲインから控除されるという,非常に有利な税控除体制が生まれてくるわけですね。そうすると,大体,例えば自分が出した寄附金の4割程度は,ある意味では政府がカバーしているという現状になって,そのことが70年代以降,80年代特にアメリカの高等教育に対して大きな寄附金の急増をもたらしたと思います。  これはアメリカの中においても,ある意味で金持ち優遇税制だという批判が非常に強いのですけれども,しかしながら,大学は,あるいは美術館のようなところは,これがなければ公的な役割をなかなか自分たちが果たせないという,そういうロビー活動を非常に強めていきますので,この税制がなかなか元に戻るということはなかった。今でもそれが続いている。したがって,そういう意味での大型の寄附金が研究大学に集まり始めてきているということであります。スタンフォード大学で言うと,一番大きなのはヒューレット・パッカードからの資金だと思いますね。このヒューレット・パッカードというのは,1960年代にスタンフォード大学のエンジニアデパートメントにいた大学院生たちが作った企業でございますけれども,御存じのような大企業になって,毎年本当に多額の金額をスタンフォードに寄附をしてきました。あるいは,さきに出たビル・ゲイツも大きな寄附もしますし,あるいはネットスケープというのを作ったジム・クラークという人,日本円にして300億円ぐらい一気に提供する。その資金によって Bio-X バイオエックスという,バイオエンジニア,ライフサイエンス系の大きな研究所ができる。今,スタンフォードの中の中心的なセンターに育っておりますけれども。そういう意味で,一つの大きなセンターを作り出すぐらいの巨額の寄附金がこの頃から急速に増えてくる。これはこの大学の財務基盤を安定化させて,そして大学の自律性を高めるのに大きな役割をしたということは間違いないと思います。  もう一つのエレメントは,大学の基金の拡大ということですね。これもいろいろなところでもうお話をしているわけですが,その寄附,それから大学が持っている株式の市場価値の拡大ですね。これが80年代から90年代のアメリカの資本市場の拡大とともに急速に伸びていきます。御存じのように,今,ハーバードは大体4兆円近く。100ドルを1円としますとですね。スタンフォードは1兆8000億から9000億円ぐらいでしょうか。その拡大が実は大きな意味を持って,財務的にも自律性を大学に与えていると。例えば,年々の予算のうちの約20%は,このエンダウメントからのリターンを大学の中に毎年戻しているわけですね。これがないと,自律的な大学の研究教育活動を維持することができないということは明らかになってきている。特に,スタンフォードはそうですし,ハーバードもイエールもそうですが,大学の外に大学の資産運営会社としてマネジメントカンパニーを作って,そこには非常に高い給与で大学の基金を運用する,そういう投資家たちを集めてきてパフォーマンスを維持しているということでしょうか。このこともやはり大学の自律性を高める環境に非常に大きな意味を持ってきたということです。  更にもう一つ言わなければいけないのはベンチャーキャピタルとの関係でございます。ベンチャーキャピタルはカリフォルニアに非常に集中するわけですけれども,80年代から,特に90年代に入ってからですが,スタンフォード大学はあの地域のベンチャーキャピタルと非常に密接な関係を持つようになります。特に,先ほど述べてきたエンダウメント,大学の基金をベンチャーキャピタルに資金を投下していく。ここからのマーケットバリューが非常に大きいということであります。その意味では,公的な組織としての大学が、ベンチャーキャピタルのような経済活動に関わるのはどこまで許されるのか、そのガイドラインはどうすべきかという議論が高まってきたという歴史がございます。  ほかにもあるのですが,最後に申し上げたいのは,このような財務的な自律性を確立するためにこの大学,スタンフォードだけではないですけれども,アメリカの公的大学がやらなければいけなかった。同時に実はそれは大きな問題を大学という組織に突き付けたと思います。なぜかというと,CSR,コーポレートソーシャルレスポンスビリティーではないですけれども,アカデミックソーシャルレスポンスビリティーの問題をもう一度大学に考えさせる契機になった。というのは,なぜ大学が自分の資金を資本市場で回して,資金を得ることが許されるのか。あるいは,もし大学が株式を持つことが許されるのであれば,そのような企業の株式を持つことが許されるのかという議論が当然出てくるわけです。アメリカは,ちょうど80年代から,例えばたばことか,あるいはもっとひどい場合は麻薬とか,あるいは社会的に見て余り有益でないような活動をしている企業の株式は持つべきではない。あるいは,当時で言うと,南アフリカの企業の株式は持つべきではないという議論が盛んにされました。つまり,それはアパルトヘイトをやっているような,国際的に見ても余り望ましくないような活動をしている国の株式,そこと関係を持っている多国籍企業の株式に大学の基金を投資すべきではないという議論が盛んになされました。つまり,大学の財務を安定化させていき,そして自律化させていくという方向は,一方で,大学の公的な責務ということを考えなければいけないということを明らかにその大学に突き付けたと思います。  その意味では,環境整備をしていくということは80年代,90年代の新しい一歩でしたけれども,同時にそういうことをやっていくのであれば,研究大学はどういうスタンスを社会の中でとるべきかに関して、学内できちんとしたコンセンサスを作らなければいけない,そういう努力をしなければいけないというような新しい責務といいますか,リクワイアメントも大学は考える必要があるようになったということだと思います。  したがって,この委員会で議論をしている特定研究大学と言っていいかどうか分かりませんけれども,ここに挙げている四つの強化の方向というものはそれぞれがいろいろな問題を考えなければいけないということを私たちに突き付けることになるだろうと思いまして,ざっとですがスタンフォード大学の経験と,恐らくそれはスタンフォードだけではなくていろいろな大学にも言えることですけれども,お話をさせていただきました。すみません,資料もなくて申し訳ございませんでした。
【岸座長】  ありがとうございました。  先生への質問を含めて,どうぞ御意見をお願いしたいと思いますが,清家先生が非常に今,時間に追われておりますので,できれば是非一言お願いしたいと思います。
【清家委員】  どうもありがとうございます。上山先生,ありがとうございました。  スタンフォード大学が西のハーバードを目指していたという話で,私はちょっと思い出したのですけれども,慶應大学でジョセフ・ナイ教授にお話をしていただいたときに,スタンフォードの卒業生だったルース駐日大使が来てくださって,彼はナイ教授に「東のスタンフォードからようこそ」というふうに言ったのを思いだしました。  ちょっと3点,コメントさせていただきたいと思います。一つは,事務局が最初に触れられたことなのですけれども,やはり私立大学を代表する立場から言いますと,きょう,高橋委員が私立大学で,また,委員を見ますと國枝先生,佐藤先生もいらっしゃるのですが,きょうは高橋委員と私だけなので,この名称について,特定研究大学という名称は分かりやすさではよいのだろうと思うのですけれども,やはり,もちろん国立大学に頑張っていただけるのは大変よろしいのですが,私立大学も微力ながら研究をやっておりますので,特定研究大学,これは国立大学のプログラムですから,特定研究大学イコール国立大学というふうに捉えられると,私立大学としては少し困るので,特定研究国立大学としていだだくとか,要するにこれは国立大学だけの話なんですよということが分かるようにしていただけると,私立大学としては有り難いと思います。  二つ目は,それとも関係するのですが,また今の上山先生のお話とも関係するのですが,これは特定研究大学を目指すのか,特定スーパー大学を目指すのか,それをちょっとはっきりさせていただいた方がよろしいかなと思います。今,スタンフォードのお話がありまして,これも上山先生の方がお詳しいと思いますけれども,たしか,今から80年ぐらい前にハーバードの当時の総長だったジェイムス・コナントが,ハーバードの300周年の挨拶で,ハーバードが将来も良い大学であるためには次の四つのことがどれも過度に強調されてはいけないし,また,無視されてはいけないと言ってます。その一つは,学問研究の発展ということ,二つ目はリベラルアーツ教育の充実ということ,三つ目は高度専門職教育の発展,そして四つ目が健全な学生生活の充実ということでした。多分,本当にいい大学というのは,その四つぐらいのことをずっと目指さなければいけないのだろうと思うのですが,さはさりながら,これは上山先生が一番その情報を御存じだと思いますが,多分,ハーバードは今でもアンダーグラデュエイトのチュイションは4万ドルぐらい取ってますし,ドミトリーのフィーなどを入れれば,多分6万ドルぐらい取っているます。慶應は今,授業料は,円安にもなったので,多分,7,500ドルぐらいとかそのぐらいだと思います。やはり4万ドルぐらい取らないと,コナント総長の言った四つを全て充実することは難しい。そうすると,ここでおっしゃっている特定研究大学というのを,もし研究をものすごく頑張る大学だということにするということであれば,例えば学問研究の発展のためにはあとの三つは少し犠牲にしてもいいのかという,そういう,犠牲にしないと限られた資源の中では多分,研究を特に更に伸ばすということは難しいと思うんですね。  ですから,そういう趣旨なのか,ちょっとそれを拝見しますと,そうではなくて,何か満遍なく,今申し上げた,健全な学生生活までは掲げていないと思いますけれども,皆,充実していくのだというふうに見えるのですけれども,そうするとやはり資源の制約あるいは予算の制約の中でそれが本当にできるのかどうか。あるいは国立大学の中でやるとすれば,そういう大学に資源を集中的に投下して,ほかのところはもうやめるのかとか,そういうことにもなるかと思いますので,その辺を特定研究大学といったときに研究のところに資源を集中投下するという意味かどうか。もともと経済学が専門なので,全てのことはトレードオフと理解していますから,一定の資源制約の下で研究を特に突き出させようとすれば,ほかの何を犠牲にするのでしょうかということになるかなと思いました。  それから,最後に,6ページ目のところで,今,上山先生もお触れになったのですけれども,自己資金等の運用の拡大ということが出てきて,これももちろん大切だと思うのですが,実は私立大学の経験から言いますと,例えば慶應大学は,お恥ずかしい話ですが,私が塾長になったときはリーマン・ショックの後で,慶應義塾の持っている金融資産の時価と簿価の差額がマイナス530億円ぐらいになっておりまして,会計のルール上は,そのうちの170億ぐらいだったと思いますが,いわゆる減損処理という形で処理しなければいけないというふうになりました。そういったところから得られる教訓というのは,これは私立大学のケースではありますけれども,やはり学校法人の資産運用の在り方というのは,もちろん資産運用というのはリスクを取らなければ運用益は取れないので,全部を定期預金と国債だけというわけにはいきませんけれども,やはり健全なポートフォリオといいますか,学校法人として節度のある資産の構成での運用益を目指すべきでしょう。別の言い方をすれば,必要な運用益を余りリスクを大きく取らずに確保するためには,資産規模自体を寄附などによって大きくしていかなければいけないということなのです。この辺も注意して,ちょっとこの書き方だけですとよく分からないのですけれども,自己資金等の運用の拡大というと,どんどんリスクを取って運用しましょうというふうに取られるといけないので,その学校法人としての節度のある健全な運用というようなことを意味しているんだというふうに理解されるとよろしいかなと思いました。
【岸座長】  貴重な御意見をありがとうございました。  それでは,これから御意見,それから御質問を含めて進めていきたいと思います。  先生,本当にどうもありがとうございました。  いかがでしょうか,松本先生。
【松本委員】  一,二分で出ないといけませんので,ちょっと言わせていただいてよろしいでしょうか。  今,清家先生がおっしゃったことを,実は私も申し上げようと思っておりました。特定研究大学というタイトルをこの委員会でどう議論していくかというのは大変重要だろうと思うんですね。今おっしゃった,事務局の方から説明があったのは,どう見ても研究だけを目指した改革案じゃありませんよね。教育から全て関係しているので重要だということで,世界的な大学をコンピートできるような総合大学を作っていこうという響きに聞こえるんですね。それがいいかどうか,これは議論になる対象だろうと思うんですね。特定研究大学というと本当に研究だけをやる大学というふうに聞こえてしまいます。多分,意図されるところは違うと思うので,ネーミングということは非常にセンシティブな話だろうと思います。特定国立大学というと,国立大学から差別という話が出るでしょうし,国立国際級大学というと,ちょっと言葉遣いとしてはおかしいかなという気もいたしますし,苦心をされたのだと思いますが,そこは大変気になります。  それから,あと,これから財務状況も,こういう大学に特別の恩典を与えるかどうかということも,ほかの国立大学の運営も含めて,少し幅広く議論しておく必要があるんですね。そのためには,スタンフォードでマネジメントカンパニーを作っていると言いましたが,こういうことは今の国立大学では非常にやりにくい状況になっています。研究成果を出して,その研究が社会に貢献して,社会でプロダクトができて,その利益が大学に共同研究という形で入ってくるという形をとるべきだと思っているんですね。理化学研究所も実は同じなんですが,非常に制限があって,それはやりにくい状況であります。そういう資金が還元されて,研究が持続的,あるいは発展的に伸びていくということを工夫するような議論がこの中でなければ,余り今までと変わらないということになろうかと思っております。こういう点が大変気になりました。  もう1点は,国立大学の中に,研究所群があります。それから,附置研ですね。そういう機能と特定大学,大学全体の研究を強化するという考え方とは少し矛盾をしますので,その整理をどうするかということもこの委員会で検討していただけたら有り難いと思っております。  ほかにもまだございますが,また次回にさせていただきたいと思います。以上です。
【岸座長】  ありがとうございました。  これは大学との差別化の問題,資金の流れの問題,大学全体が附置研的なのかということを含めた課題かと思います。  ほか,まずは各委員の先生,疑問点等をお出しいただいて,それについて御回答を委員の先生から,又は文科省の方から受けていくというのがいいんじゃないかなと思いますが,各委員の先生,どうでしょうか。何なりと思い付いたところから本日はお願いしたいと思います。  どうぞ。
【橋本委員】  局長から最初にお話がありましたように,この特定研究大学に関しましては,日本再興戦略の中に書き込まれていることであります。私は産業競争力会議の中でその議論に参画してまいりましたので,バックグラウンドを簡単に御説明してから,私の意見というか,今後のことについてお話し申し上げたいと思います。 産業競争力会議においてこの議論が出てきたのは,もうひとえに大学の国際競争力強化のためであります。産業競争力会議においては,大学の国際競争力強化をする目的は我が国の産業競争力の強化のためです。国際競争力に関しては,先ほど来,出ておりますように,ノーベル賞が出て,日本の基礎力,学術力の強さが出ていて大変いいことなのですが,言うまでもなく,これは20年前から40年前の話でありまして,言い換えると20世紀はそういう基礎力を高めるための制度がしっかり回っていたのだと思います。一方で,タイムズのランキング,あるいはそれ以外のいろいろなマクロな指標において,最近は大学の国際競争力が低下しているというようなことを示唆するデータがたくさん出ているわけです。ということは,このまま,今のまま置いておいては,これまで培ったせっかくの高い競争力が失われてしまうだろう。それはひいては,産業競争力という観点からも極めて遺憾であるということで,是非とも大学の国際競争力を強化してほしいということから出てきたことであります。  一方,この問題を,大学人としていかに捉えるかを考えると,経済のために大学を強化しろという発想はけしからんと見るのではなくて,それだけ国家から大学の国際競争力が注目されていると見て,この機会を大学のために使うべきではないかと思うのです。つまり,今,大学はいろいろな課題があるので,この機会をうまく捉えて,是非とも良い方向に変えていこうということです。 特定研究大学は併せて卓越大学院と卓越研究員と,この3点セットで動いているわけで,事務局の方で是非ともその三つの関係をきちんと説明していただく必要があると思います。ここでは三つの制度を全部議論するわけではなく,そのうちの一つ,特定研究大学だけですけれども,この三つセットで国際競争力強化と位置付けているので,その関係性はしっかりと説明していただく必要があると思います。  あわせて,前から文科省が進めておられた大学の強化策の中で,今回,86国立大学の3類型といいますか,強化する方向性を三つに分けて出したわけです。その中の3番目に国際的に競争していく大学という類型がありますので,そちらとの関係も御説明いただければと思います。  ここから先は個人的な意見ですが,大学の国際競争力を強化するために何をすべきか。例えば,教員の過度な平等主義を変えていくとか,あるいはガバナンス,学長選挙等々に関することなどいろいろあると思います。しかし、現実問題としてボトムアップ的にこういうことを変えていこうとすると、これは非常に難しいのです。そこで,この機会を捉えて,大学をこう変えていくという方向性を示して,それに乗っていけるところは乗っていく。乗っていくか乗っていかないかは大学のチョイスだと思います。しかし,そういう方向性を示すということが特定研究大学をやる一つの大きなポイントだと思っています。 そこで,特定研究大学に関しては,文科省で指定するのであれば是非,いろいろな意味でそれを指定する要件として高いハードルを上げてほしいと考えています。例えば,これは具体的にどういうのになるか分かりませんけれども,国際的な視点で見たときに,学長をファカルティボートで選ぶと言った途端に笑われるというような,こういう現実があるわけです。そうすると,それを国際的なスタンダードにしていることとか,そういう高いハードルを設けて,あわせて,その高いハードルを超えたところには運用上の自由度を与える。すなわち規制緩和ですね。もちろんそれには,先ほど清家先生言われたように,責任が伴うわけですけれども,責任を持ったところには自由にできるというか,そういう意味での自由度を上げる。これはもうトレードオフの関係だと思いまして,ハードルを上げれば上げるほど自由度も上げるというような,できるだけそういう制度にするのが良いのかなと思います。そのためには,各大学の現場からどういう自由度があると良いのかという情報をしっかり集めていただいて,それがどこまで認められるのかと,こういう議論をしていただけると大変有り難いかなと思います。  以上です。
【岸座長】  橋本先生の方から国際競争力,それから学長選,過度の平等主義の今の大学,それから高いハードルというような御意見を頂きました。これについては一回りしたところで文科省の方からも少し御説明というか,回答を頂きたいと思いますが,ほかの先生,どうでしょうか。先生,少し,ゆったり来ていただいたので,最後の方にまとめの質問ということで,じゃあ,中西先生。
【中西委員】  私は大学のことについてはほとんど知らないので,ざっと話を聞いていて,ビジネスの世界から改めてそれを再構築してお話を聞いていると,国際競争力という,このコンペティションというやつが一体何なのかという捉え方が非常に曖昧なわけですね。ビジネスの世界は,もう極めて単純明快で,売上と利益と成長力と,まあ,KPIがしっかりしているわけです,最初から。したがって,勝ったか負けたかがはっきりするわけですけど,こういうランキングなんていうことを捉えると,なぜ日本の大学のランキングが落ちてくるかというと,結局,グローバル化が決定的ですよね。だと思います。ちょっと違っているかもしれませんけど。  したがって,研究の質を問うような話であるかどうかといったら,やっぱり疑問だと思うので,だから高い,低い,両方あると思うんですよ。コンペティションということが本当に起こっているのかと。例えば,今,日本の国内で言うと,旧帝国大学系の大学というのは,座っていてもやっぱりコンペティションに勝っているわけじゃないですか。自然と。そういう中で更にほかの海外との大学の比較というのをどうやってやるんだろうとか,あるいはそれに対しての競争力ってどう定義するのかというのは非常によく分からないので,じゃあ,それを改めてここで文科大臣が,この大学は特定だよって指定することはかえってお墨を付けて,コンペティションを弱めることにもなりかねないですよねって感じます。だから,その辺のところのコンセプトが合わないので,議論の中に入らないなというのが正直な感想です。
【岸座長】  ありがとうございます。  非常に重要な御指摘だと思います。大学のランキングとは何か,競争力とは何かという定義なしに走っているのかというようなことになるかと思います。ありがとうございました。  それでは,いかがでしょうか。高橋先生は何か。もう,ぐるぐる回っちゃいましょう。よろしくお願いします。お気付きの点,何なりと。
【高橋委員】  私は位置付け上,大学の第三のミッションを実現するところでずっと仕事をしてきておりまして,そういう意味では最初の資料3や4のところでの大学の機能強化について申し上げます。ここ10年,20年問われている社会貢献の部分をうまく動かすために,新たに雇った人的リソースをどう活用するかという機能を実装しないと,いろいろな資源を投入しても,期待するアウトプット,アウトカムが獲得できない、ということをいつも思っているところです。  資料4の欧米の大学に関して言うと,私学の言葉で言うと,教学分離というような発想があると思います。今までの大学は、研究教育の機能を提供している人がマネジメントもやるという文化がありますが,今後は,研究教育をやるプレーヤーと,その組織を動かすマネジメントのレイヤーと、機能と役割分担を考えていかなければ、というのが一つのポイントかなと思っております。  以上です。
【岸座長】  ありがとうございました。  マネージと教育現場の……。
【高橋委員】  レイヤー。
【岸座長】  そういうレイヤーの分離を含めた御意見だと思います。  それでは,先生,いかがでしょうか。
【菅委員】  ちょっとまだ考えている途中だったのですけれども,先週,先々週と,僕,アメリカに行って,大学を回っていたのですが,ハーバードのブロードインスティテュートという,巨大な寄附金で集めて,ビルを建てて,研究をやっているところと,それから,地方の,例えばニューヨーク州立大のストーニーブルックとか行ってきたんですけれども,そうするとやっぱり何が違うかというと,先生たちの時間的な余裕というのが大分ちがうというのが,前回も申し上げたのですけれども,ひしひしと感じました。ブロードインスティテュートの人たちは非常にゆったり研究を楽しんでいる。何かすごく面白いことをしたいという気概が研究所の全体の中に表れているんですね。ブロードインスティテュートはMITとハーバードの先生たちが集まってやっているところなんですけれども,非常にクロスでいろいろな交流をしながらやっていくというスタンスでやっています。  そういうところを見ていると,一方で地方大に行くと,やっぱり非常に苦しい状態の中で,何とか研究と教育と一緒にやらないといけないという,非常に厳しい環境でやっているなという感じがいたします。  今回,この特定研究大学に何を最終的に与えるのか,結局,内部でやっていく人たちに何がメリットになるのかというのをちょっとやっぱり考えて提案というか,案を練っていかないといけないなと思います。結果的にそういうふうに特定研究大学になって,更に皆さんが,内部の先生方が忙しくなって,回らなくなってしまうようではやっぱりいけないというふうに思うので,そこら辺を少し明確に今後の議論の中で出していっていただけたらと思います。
【岸座長】  ありがとうございました。  どっちかというと日本は,すばらしい先生が忙しいんですよね。そこは非常に大きな問題なんですが。  ありがとうございます。特定研究大学のメリットは本当にあるのかと,そういうことだと思いますが。  酒井先生,お願いいたします。
【酒井委員】  私も民間の立場でございますので,詳しいことは必ずしも申し上げられませんけれども,たまたま金融あるいは投資運用の分野で国際的な金融機関にも属し仕事をさせていただいておりますが、高等教育の国際競争力を考える場合に,我が国の金融セクターにおける国際金融国際競争力はどうかという問題とオーバーラップして考えてみると,先ほど中西様がおっしゃられたこととも共通した問題がありうるような気がします。すなわち,国際競争力といいましても,何をもって国際競争力とするかという点。それに加え,日本への海外からのリスクマネーの流入が必ずしも増えてきているとはいえないのはなぜかという点です。日本が金融市場として,リスクマネーに対し魅力的であるのであれば,海外からの資金は自然に集まってくると思います。  本題に戻りますと,まず,日本の大学教育の評価が世界の評価の高い大学に対し,この十数年の間に相対的に劣化してきたと見られる指標が多くある点ですが、従来と同じ大学の評価の基準で,同じベンチマークで見たときに,どうした理由で劣化してきたのかという分析が必要と思われることと、同時に,そうした評価のためのベンチマークを絶えず見直す努力が必要でもあると思います。いつもベンチマークの外で新しいものが生まれるというのが常でございますので,やはりそこはよく我々としても,我が国の国際競争力を本当に高めていくためには一体何が必要なのかというのを同時に考えなければいけないのではないかと思います。  そうした分析を通じ、新しい,我々から見た本当のベンチマーク,すなわち,ステークホルダーである卒業生や産業界、あるいは海外を含めた潜在的な学生たちから見ても,本来何がもっと求められるべきかというのを考えた上で,大学に求められるものをよく定義しなければいけないのかと思います。  また大学のビジネスモデルというのも多種多様だと思います。どのように学生たちを惹きつけ,また投資資金も惹きつけられるかは,各大学の経営方針により異なりうると思います。どの研究分野で,どう競争力を強化するか、あるいは、リーダーシップを養成するための大学というのはどういう大学であるべきか等は様々なモデルがありうると思います。一方、大学の経営者の皆様は,アカデミック側からの御出身であられる場合がほとんどと存じますが、トラスティーボード等の役割はますます重要ですし、また経営者としての役割を考えた場合には,従来よりはより広く考えられて,そして大学のビジネスモデルも議論されていくという姿勢も必要なのかなと思います。  最後に,先ほどのエンダウメントファンドへの税制の議論は重要であると思いますし、単に日本の国内から資金を集めるだけでなく,海外からの投資資金も日本の大学により惹きつけられるような枠組みを議論していくことも重要ではないかと感じました。  以上でございます。
【岸座長】  ありがとうございました。  やはり,また後で議論していただきますが,この国際競争力ってやっぱり難しいですね。この定義。これはまた橋本先生に後でまた伺わないといけないと思うのですが。  ちょっと上山先生,プレジデントとプロボストで誰がどう任命するんですか。プロボストは誰が決めるんですか。プレジデントが決めるんですか。
【上山委員】  それはもうプレジデントが決める。
【岸座長】  指名ですか。
【上山委員】  先ほど,橋本先生もおっしゃったみたいに,僕も海外の人としゃべって,学部長も選挙で選ぶと言うと笑われますし,まして学長を選ぶというと,アナクロニズムだというふうにこの間も言われましたけど,それはやっぱりガバナンスの体制がそれではうまくいかないということを彼らは知っているということだと思います。  ちょっとだけ,二,三分頂いてお話をしたいなと思うのは,この評価に関わって,日本の大学がなぜ外部の,特に民間からの資金が入らないのかということを常に考えることがあるのですが,例えば大学の経営協議会とかに行くと,多くの民間の企業の方たちも参加しておられますけれども,幾らそこで話を聞いても,大学のことは分からないんですね。民間の企業の方には。当然ながら,システムが違いますし,考え方も違います。そうすると,大学というのは基本的に公的資金なり,あるいは授業料で支えられているところであり,経営の立場からすると,そこにアドバイスを与えるぐらいの役割だという関わりしかなかなかできない。このことがアカデミアと産業界との間の密接な還元をうまくできていない背景になっていると感じています。その意味では,本当の意味で大学の経営に関われるような産業界の人たちのポジショニングを作っていく必要がある。民間の組織の方々に,大学に資金を入れないと,人的資源の面でも,あるいは新しい技術とか知識の輩出の面でも,いろいろな将来の自分たちにとって非常に大きな問題だということを分かっていただける機会がなかなか日本にはないということが一つですね。また,産業界からの評価の目をもうちょっとちゃんと入れるべきだということです。  もう一つは,海外の,いわゆるグローバルな競争力は何かということを評価するのは難しいですけど,特に高等教育ということに関して言えば,海外の非常に優秀な学長経験者とか,高等教育に非常に関わってきた産業界の人とかいう人たちの目を,日本の特定研究大学にちゃんと振り向けるべきだと思っています。その意味では,非常に豊かな人材が海外にいますから,その人たちをある意味では日本の高等教育全体のアドバイザーとしてストックして,いつでもそこから評価を得ることができるような,そういう体制を作っておくことが必要ではないでしょうか。グローバルスタンダードからすると,グローバルな競争力からすると,日本の研究大学は,現状はこういう問題があるということを常にアドバイスを受けることができるという体制ですね。そのことを,今はそういう特定の研究大学には課していくということは非常に重要であろうと思うんですね。そういう人をどれぐらい用意できるかということは,恐らくはこの特定研究大学の評価を進めていくのに非常に重要になってくるだろうと思います。  そういうことをすることによって,日本の現状を海外に知ってもらい,かつ,日本の研究大学の在り方を,産業界からも見てもらえる。そのようなプロセスをどこかで作っていく必要があるんじゃないかと思っています。
【中西委員】  こういう有識者会議も日本人だけでやっていたら駄目なんじゃないですか。
【上山委員】  その意味では,最後に事務局がちゃんとまとめてくださっているシンガポール国立大学というのは非常にアグレッシブなことをやって,ここに,例えば評価のところで外部質保証で,テニュア制度についてカリフォルニアバークレー校から,財務についてスタンフォード大学からレビューを受けていると。このレビューをしている人を実は知っていて,彼は一度呼ぼうと思っているんですけど,海外のスタンダードから見て,シンガポール国立大学はどういう状態であるかということを,常にコンサルティングを受けながら進めている。それのようなことを本当に日本はやった方がいいかなと思うんですね。その面を常に経営の中に入れていくことことが必要だと思います,実は,日本の産業界の人も大学の動きが分からないとおっしゃるのと同じように,大学の一人一人のメンバーも大学の動きが分からないんですよ。メンバーが分かっていることは,自分の領域において誰が偉いとか,論文を書いているかとか,競争相手はここにいるかっていうことは分かっているけれども,大学とシステムがどう動いているかということは,個々人のメンバーは知らないわけですね。知らない人たちが経営について判断し,学長を選んでいるわけです。ということは,そこで経営などということが発生するはずがない。そういう人たちに海外での戦略的な動きはどうかということを知ってもらう仕組みも実は必要で,したがって,大学のサポーターとしても産業界だけではなく,大学の内部におけるメンバーにとってもグローバルな動きはどうかということを知らしめるようなメカニズムを文科省は作ってくれると非常に有り難いなと。そこからまず大きな一歩が始まるのかなと思ったりします。
【岸座長】  ありがとうございました。  これは,本当に特定研究大学を作るに当たって,経営協議会とか学長選考会議,非常に大きな課題を引きずって動かないといけないというのは理解できるかと思います。  経営協議会に出て一番のいつもの感想なんですけれども,民間のお偉い方が総長なり学長が決めても,それが何も動かないんだっていうのに最初,みんな驚くんですね。それに慣れるまでに1年ぐらい掛かるんだ,それが大学だと。一番違うのは,上が決めても進まないっていうのが大学だっていう結論をおっしゃるCEOの方々もいますね。そこは非常にこれからの課題は大きいと思うのですが,郷先生,もう時間もあれですが,まだ20分ございますので,今あと3人の先生に是非御意見を。
【郷委員】  ありがとうございます。 いろいろと御意見が出たと思うんですけれども,大学で先生方,研究を一生懸命していらっしゃるわけです。しかし、例えば10年,20年後に自分たちの大学がどうあるべきかという,そういう発想というのはどこにもないんですね。つまり,そういうことを考えている暇がないというのか,日々の忙しさに紛れているということと,学長さんでも,理事の方とかも,そういうゆとりがないと思います。一番の問題はそこだと思います。毎日毎日のことに,あるいは5年間はどうするか。5年のプロジェクトはあるけれども,その先は分からないと。世界の中での競争力とか,そういう問題以前の,毎日毎日のことに追われているというのが,今の状況,現実ではないかと思います。  ノーベル賞を今年もらわれた方たちは,多分,そういう研究テーマに取り組まれたときはもっと余裕があったと思うんです。5年で任期が終わるからどうしようなんていうことはなかったわけですね。恵まれない状況であったとしても,まあ,自分のやりたい研究を,そう多くの研究資金がなくても,とにかくやれたという,こと。今,世の中が違ってきたと言えばそうなんですけれども,研究者自身はやっぱり好奇心,自分のやりたいことが自由にやれるという,そういう環境がなければ,幾らお金があっても時間がなければ駄目です。もう1回原点に返って,どうして評価が悪くなったかとか,論文が減ったかとか,評価の仕方とかありますけれども,一番の問題は,今,時間がないこと。ゆったりと研究のことをどうするか考えたり,自分はこのテーマをやって10年頑張るかどうか,あるいは周りがそういう状況であるかと,そういう条件が今,満たされていないというのが私は一番心配で,そこが何とかならなきゃいけないと思います。  どうしてそうかというと,先ほどいろいろ御意見があったように,やっぱり専門家がいないということですね。研究ができる方が執行部をやっていて,本当にみんなが駄目になっていく,時間がないという,これを何とかしなければいけない,それこそ産業界の方のお力もお借りしなければいけないし,そういう時代に入ってきているのではないかと。学長として大変困っていたことを思い出しております。  以上です。
【岸座長】  やはり時間が,劣化とか言われますけど,今の御意見だとやはり経営と教育研究は分けるということは非常に強く望まれているということなのかなという気がして,そういう意味では特定大学はそういうものを先導するという部分はあるのかなという気がいたしますが,金子先生,また,よろしくお願いします。
【金子委員】  私は三つ申し上げたいのですけれども,一つは,やっぱり競争力とは何かというのは非常に重要で,基本的に何か変えれば何かどうにか閉塞感の中で,というような考え方は比較的影響力を持つのですが,ここは考えること自体は非常に重要だと思いますけれども,競争力は何か,それから改革はどうしたら,いわゆる競争力に結び付くのかというロジカルな結び付きはやっぱりきちんと検証しておくことは必要だろうと思います。  2番目は,ただ,その中でも,やはり基本的に今の日本の国立大学にかなり大きな問題が生じていることは事実で,それも,しかもただ単に予算だけの問題ではなくて,組織とか運営の仕方それ自体が問題を生じているのではないかというのは事実だと思います。先ほど,もう20年前ぐらいの研究だとおっしゃいましたけれども,この頃は,ノーベル賞をとっている方の経験,どういうふうに研究していたのかという経歴を見ていますと,やっぱりあれはある程度,日本の小講座的な,比較的小規模な研究室がワークしていた時代があったのだろうと思うんですね。ただ,それがどうもそれが余り今の状況だとワークしなくなっていて,もうちょっと流動性とか競争性とか,そういったものを取り入れないと,やはり研究の質とか発展ができなくなっている。それから,同時にそれに結び付いて教育もやはりそういった観点を入れざるを得なくなっていると思います。そういう意味では,組織とかガバナンスの在り方に手を付けざるを得ないということだろうと思うのですが,しかし,これはかなり直感的にそう思いますし,かなりそうおっしゃる方は多いのですが,どういう改革をしたら,本当にどういうふうにいわゆる競争力ができてくるのかというのは,実はかなり慎重に考えなければいけないと思います。  3番目の問題は,これは言ってみれば,最終的には今,お話に出てきましたようなガバナンスに関わってくるのですが,2004年に国立大学が法人化したわけです。法人化したときに今の独立行政法人の在り方を組織的にはモデルにしたような改革をしてきたわけです。これは,文科大臣と学長が一種の契約を結ぶというような考え方で,必ずしも各国立大学に独立の理事会のようなものが,経営協議会はありますが,しかし,それは理事会ではないわけで,理事会のようなものは作られていなかったです。そういう案もその時点であったことを覚えていますけれども,そうではないわけですね。そうすると,今の国立大学法人の基本的な在り方自体をもう1回考え直すと,新しい大学で,ということが必要になってくるのかもしれません。  しかし,そのときに非常に重要だと思いますのは,アカウンタビリティーと自律性というのがどのように両立するのかというのはかなり大きな問題で,先ほど上山先生のお話にもありましたけれども,アメリカでも州立大学は実はかなり大きな幅が制度的にはありまして,やっぱりかなり狭さくされているところはあると思います。ただ,それにどれぐらい自律性を与えるかということはやはり基本的に焦点になるだろうと思います。ただ,今の大学が,郷先生がおっしゃったように,かなり規制はされるし,恒常的にもらえる予算は減っていくという,非常に閉塞的な状況になっていて,ここを打破することはどうしても必要だろうと思います。そのときにはやっぱりある程度の自律性があることは不可欠だろうと思いますが,そのときにアカウンタビリティーをどのように保障するかというのは,かなり真剣に考えなければいけない問題だと思います。  以上です。
【岸座長】  ありがとうございました。  やはり改革したものと競争力は本当に結び付くのかという点,あとは組織と運営,それから自律性とアカウンタビリティーと,非常に重要な御指摘だと思います。これが分かりやすく説明できるのかということですね。  それじゃあ,濵口先生,よろしくお願いします。
【濵口委員】  すみません,遅れてきましたので全体の説明を聞けませんでしたので,いいかげんなことを言うかもしれませんがお許しください。  事務局の資料の2ページ目に4点書いてある,この4点がやっぱりきょうの一番のコアになる議論だと思うんですけれども,この4点,実はまだ整理しきれていない二つの階層性があると思います。それはガバナンス強化とか評価システムというのは,これはシステム改革の問題であります。これは目標にすべきことではなくて,目標に到達するための手段として書かれていることですね。目標としているのは,競争力がある研究,それと自律性,この二つだと思うんですね。ここで書かれていることは。ここで一つ目の問題として出てくるのが,先ほどから出ておりますが,研究現場では,国際的な競争力は依然としてインパクトファクター,サイテーションインデックスの世界なんです。とことんそこの数値を上げることに大学は専念することによって競争力を上げるわけですが,一方で自律性というところ,これは社会実装の問題で,産学連携の問題であり,長期的に特定のシーズをニーズとつなぎ上げながら,社会実装できるものを作って,それを市場化していく作業であって,これはインパクトファクターとは全く別の世界なんですね。この二つの要素を同時に両立させるような構想であると。  これは遠大であると言えば遠大であるんですが,ちょっと難しいなと。正直。もう少し何を目指すのかというのを明確にしないと,徹底した競争力のある研究をやっていくのか。研究大学と言うならば。自律性を目指すとしたら,徹底して自律性を目指さないといけないのですが,どうもまだその構想が人の財布を当てにしているだけにすぎないと思います。はっきり言うと。これが2番目の問題であって,寄附だとかいうので大学を動かすというのは,これは幻想ですね,今。そんなことで会社のアカウンタビリティーが通るはずがない。株主総会でたたかれると思います。目的不明の寄附を何億とやれということを日本中の大学が企業に要請したらどういうことになるか。それはもう通らないんです。明確な会社として投資内容に価値がある提案があってこそ,寄附はあるわけです。そこが不明確で,これはやっぱり20年,30年前のセンスだと思うんですね。  社会実装していくというときに,もう一つ問題は,自己資金をどう確保するかというところの,この2番目の問題,ここの詰めが見えないんですよ。規制緩和をやっても多分,投資は入らないと思うんです。何を規制緩和するのかが,規制緩和と言った途端,我々は思考が停止するんですね。何かそこに夢の大地が広がっているような思いを抱くんですけれども,結局何もない。荒野になるかもしれない。だから,ここはとことんブラッシュアップしないと見えてこないと思います。そこが二つ目の問題として大きくあって,もう少し詰める必要がある。  それから,3番目でありますが,これは大学の研究の抱えている構造的な問題,あるいは社会全体が抱えている今の課題でもありますが,それはスティーブ・ジョブズが現れてきてから余計明確になってきているんですけれども,青色発光ダイオードとiPadを比較したときに,80年代というのは一点突破でよかったんですよ。イノベーションっていうのが。窒化ガリウムの結晶化をやれば全て一点突破的に解決できるものを作れた。それが今,そういう領域があるかといったときに,余り見えないです。宇宙へ出掛けて何も出てこないんです。コストは掛かるけど,収益性は何もないです。深海へ行っても,まだ今の状態ではそこにあるいろいろな資源を取るコストの方が高いです。そこのリアリティーが足りないんですよね。今はイノベーションというのはやっぱり非常に複合的,境界領域的になっていて,複雑化しているんです。エコシステムを見ていかなければいけないですから,非常に長期的な多段階,複合的なシステムをどこも矛盾なく,欠損なく動かしていく作業が必要なんですね。イノベーションの作業は高度化しているように思うんです。会社の方々の方がよっぽど肌身に持っておられると思うんですけど,大学のアカデミア側は,依然,青色発光ダイオードのセンスのまま残っているんですね。  ここのギャップがもうちょっとリアリティー持って,我々,イノベーションというのをどう本気で突破していくかということの戦略性を持たないと,特定研究大学の機能が発揮できない。ものすごく大きなブロックが目の前にあるんですけど,この3点がきょうは引っ掛かっております。
【岸座長】  ありがとうございました。  規制緩和と競争力と自律の問題,イノベーションの質というか,複合的な組合せのイノベーションになりますから,今後はそう簡単な研究の一点突破でないんですね。こういう御指摘かと思います。  確かに,サイテーションを上げると,ある分野に属していると必ず上がるんですよね。はやりの分野は。案外,ノーベル賞の,大村先生なんか偉いんですよね。横の方から上がってきたという感じで,この辺が非常に難しいとは思います。  ただ,時間もございますが,きょうは非常に基本的な問題の,名前はもとより,基本的な競争力という問題から始まって,本当に時間が劣化しているという問題とか,在り方全体の問題も御指定を受けて,これに対して次回までに文科省にも是非整理をしていただきたいと願っております。  今のお話に対して文科省と産業競争力会議の橋本先生の方から,時間は余りないのですが,簡単に,もし,まずは先生,そして文科省から最終的に。
【橋本委員】  重要な問題なので,時間を掛けてしっかり議論していただきたいと思うんですけれども。
【岸座長】  はい。それはこの次,じっくりまたお願いします。
【橋本委員】  まず,国際競争力の話ですけれども,これは私たちが理解しているのは国際的な研究力と,それから人材育成力であります。それに対してどういう指標がというのは,それなりにまた詰めていかなければいけないと思います。また,今,日本の大学の国際競争力が下がっているというところの,いろいろな指標が出てきています。先ほど中西会長がおっしゃったように,確かに大学ランキングを作る上での指標のひとつである国際性が圧倒的に悪いというのは全くそのとおりなのですけれども,実はそこは前から悪くて,今大きく落ちているのはいわゆる研究力の部分なのです。それは数値的に出てきています。それは,サイテーションが下がったということもあるでしょうし,新しい分野に対する向かい方というか,そういった部分が下がっていることもあると思います。  それから,濵口先生がおっしゃった中で,サイテーションを狙うのか,社会実装を狙うのか。サイテーションは一つの軸でしかないですけれども,でも,おっしゃることは,要するに研究としてすばらしいものを狙うのか,それとも産業界にとって興味のあるような方向を狙うのかと,そういう言い方だと思うのですね。これは両方狙うというのが今度のものではないでしょうか。それは無理なんじゃなくて,それをやるためにこういう制度改革をするという方向で議論すべきと思います。  以上です。
【岸座長】  ありがとうございます。  私もそう思うんですけれども,二律背反のことをいかに進めるっていうのが大学で,それにどうチャレンジできるか。
【濵口委員】  それには,先生,資金が要ります。
【岸座長】  資金が要ります。分かりました。
【濵口委員】  これ,法人化したときに国が大学に自己資金をもう少し注入していただいておれば,状況は変わっていた。ただ,国立大学が法人化したときと国鉄がJRになったときの大きな違いは,借金をそのまま持っていくか,天引きしていただいたか,この体力の差が今,出てきておるんです。
【岸座長】  そうか,法人化のとき,各大学に1兆円ぐらい出しておいてくれれば,100兆あれば済んだんですね。
【濵口委員】  そう。
【岸座長】  まあ,1,000兆借金あるから大した問題でないんですね。いやいや,非常に貴重な御意見だと思います。  ということで,文部科学省側も最後に少し思い付いたこと,まとめたことを,御意見いただければ。
【事務局】  大変本質的な深い議論を頂きました。ありがとうございました。十分,我々はきょうの時点でお答えできないこともありますけれども,また次回に向けて論点を整理させていただいて,議論を深めていただきたいと思っております。  きょう,名称の話がございました。それが研究だけなのか,あるいは人材育成も広げるということでございますけれども,やはり当初のこの議論,産業競争力会議もそうでございますけれども,やっぱり研究を中心にする大学を中心にして,その中のリソースを生かしながら大学院ですとか学部教育も含めて人材育成にどう反映していくのかというふうなことを中心に御議論をいただければということでございました。先ほど,上山先生からお話がありましたように,スタンダードにおきましても研究の成果自身をすぐにベンチャーというよりも,むしろこの前もお話を伺いましたけれども,やはり人材育成で優れた方を育てていくこと自身がやっぱりかなり大きな点がございますので,その点は大事にしながら,ただ,それもすぐに全部ができるわけではございませんので,ある程度時間的なフレームを考えて議論をしないといけないと思っていますので,その点についてもお話しいただければ有り難いなと思っているところでございます。  それから,もう一つの問題としましては,先ほど橋本先生の方から,産業競争力会議の中においては卓越大学院と,それから卓越研究員の話がございました。余り詳しいお話をする時間はございませんけれども,机上資料の46ページに,当時,国立大学の経営力戦略をまとめさせていただくときに考えた資料を入れております。特定研究大学というのは,今,御議論いただきましたけれども,その総論の46ページでございます。簡単に申し上げますと,卓越大学院につきましては,特に先ほどお話がありましたように,社会実装と研究力のエクセレンスをいかに生かしていくかということを,大学だけではなくて,外国の大学ですとか企業にも参加いただくような,そういうプラットフォームを作っていこうということの議論を頂いたようでございます。これも恐らく特定研究大学の重要な構成要素,研究戦略ですとか人材育成戦略を練っていく際においてのポイントになっていくと思っております。  それから,卓越研究員,これは日本の制度の問題でもございますけれども,先ほどの話もありましたけれども,若手の方々自身がなかなか研究に専念できないような不安定な形がある。一方,優秀な方がおられますので,それを国の全国レベルで優秀な方をある程度評価し,その中で選ばれた方については,一定の安定的な研究環境とポストを与えていこうというふうな制度を考えておりますので,これも恐らく先ほどの議論とも通じる話でございますので,この辺も含めて,これは国立大学に限らず,私学も含めてでございますけれども,制度設計の中に取り入れるということでございます。卓越研究員,卓越大学院については,時間のずれはございますけれども,予算制度も少し考えていこうというふうな内容でございます。  それから,もう一つは,教育研究とマネジメントの分離の話がございました。これは法人化のときにおいてまでは,基本的には大学においては教育と研究に専念いただいて,マネジメントについては,いろいろな議論がありますけれども,国がその分,面倒を見ていたということでございますが,それを含めて大学自身がやはり背負う形になりましたので,それをどう考えていくかという問題がございます。理事会の問題もございましたけれども,やはり教育研究とマネジメントの分離,あるいは専門の人材をどういうふうに確保していくのか,この点も恐らく特定研究大学を動かしていくためのキーになると思いますので,少し整理をさせていただいて,また次回御議論いただきたいと思いますけれども,私どもとしてもそれは重要な要素だと思っているところでございます。  それから,濵口先生の方から資金の話がございました。これはいろいろな機会に頂いているところでございますが,なかなか国の財政状況が厳しい中において,運営費をかなりほかの海外並みに伸ばしていくということはなかなかできないわけでございますが,その中で企業も含めて投資いただけるような環境作りをどういうふうな時間を掛けてやっていくのか。あるいは,いろいろな議論はございますけれども,資金調達につながっていくような規制緩和の問題ですとか,そういうことについても,大学の中においてもいろいろ情報を提供させていただいて,考えていただくところがありますので,ヒアリングを進める中においての御議論も含めて議論を是非させていただければ有り難いと思っているところでございます。  ありがとうございます。
【岸座長】  その辺を少しまとめた資料も考えて,次回。ただ,非常にはっきり,きょう一つのあれは,国際競争力っていうのは研究力と人材の育成力だということも,逆に,委員の皆さんも頭に入れて,また次回までに一つ御意見を頂ければと思います。  それでは,これで今回は閉会とさせていただきます。どうもありがとうございました。

── 了 ──

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