大学等における社会人の実践的・専門的な学び直しプログラムに関する検討会(第2回) 議事録

1.日時

平成27年3月31日(火曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省3階 3F2特別会議室

3.議題

  1. 関係者からのヒアリング
  2. その他

4.出席者

委員

荻上座長,小杉座長代理,乾委員,岩立委員,菅野委員,小林委員,新谷委員,杉谷委員,田宮委員,堀切川委員

文部科学省

吉田高等教育局長,佐野大臣官房審議官(高等教育担当),牛尾専門教育課長,牧野専門教育課長補佐

5.議事録

【荻上座長】  おはようございます。ただいまから,第2回,大学等における社会人の実践的・専門的な学び直しプログラムに関する検討会を始めたいと思います。
 年度末の大変お忙しい中をお集まりいただきまして,誠にありがとうございます。
 本日,予定している議題は関係者からのヒアリングということでございまして,大学,産業界,労働界それぞれの方々からヒアリングを行うこととしております。慶應義塾大学からは河野先生と前野先生,岩手大学からは佐藤先生と児玉先生にお越しいただいております。よろしくお願いいたします。それから,本検討会の新谷委員と田宮委員からも発表をしていただくことにしております。合計4組の方々からの発表をお聞きした後で質疑をお願いしたいと思っております。
 それでは,まず事務局から,配付資料等について確認をお願いいたします。
【牧野専門教育課長補佐】  それでは,配付資料の確認をさせていただきます。
 まず,資料1として,職業実践教育プログラム(仮称)認定制度について(案)という縦の資料がございます。資料2-1として,慶應義塾大学の発表資料でございます。資料2-2も,慶應義塾大学の発表資料でございます。そのほかに,机上にはパンフレットを3冊お配りしております。資料3として,岩手大学の発表資料がございます。そのほかに,机上には農業ビジネス戦略計画と,いわてアグリフロンティアスクールの成果報告書を置かせていただいております。資料4として新谷委員の発表資料,資料5として田宮委員の発表資料,資料6として今後のスケジュールについて(案)をお配りしております。
 参考資料1として,前回,小杉先生からお求めいただきました資料ですが,「『職業実践専門課程』の実態等に関する調査研究」調査結果概要でございます。参考資料2として,こちらは乾委員からお求めいただきました履修証明プログラムによる取組例でございます。
 机上資料として,検討会(第1回)における主な意見をお配りしております。
 そのほかに,緑色の冊子でございますけれども,前回会議の資料を置かせていただいておりますので,参考にしていただければと思います。
 以上でございます。
【荻上座長】  ありがとうございました。
 それでは,議事に入りたいと思います。まず,ヒアリングを行っていただく前に,今,紹介していただいた資料1でございますが,これは,前回たくさんの御意見を頂きましたが,それを基にして事務局の方で,選定の仕組みのイメージであるとか,この検討会で御議論いただきたい事項等について整理をしていただいたものでございます。
 では,まず事務局から,資料1に基づいて説明をお願いいたします。
【牧野専門教育課長補佐】  それでは,資料1について御説明いたします。
 まず,1ページ目ですけれども,認定制度の必要性について,前回の会議資料にも記載しておりましたが,職業に必要な能力を修得,更新,向上するため,大学等において再教育を受けたいと考える社会人は多いものの,社会人や企業のニーズに合ったカリキュラムや教育方法が提供されていないことなどから,実際に大学等で学び直している社会人は少ないのが現状です。このため,大学等において社会人や企業等のニーズに応じた実践的・専門的な教育プログラムを提供する場合に,文部科学省が認定する制度を創設し,丸1,学び直す選択肢の見える化,丸2,大学等におけるプログラムの魅力向上,丸3,企業等における職員の学び直しに対する理解増進を図ることにより,社会人の学び直しを推進したいと考えております。
 次のページをおめくりいただければと思います。文部科学省において,認定の仕組みのイメージを記載したものでございます。まず,文部科学省において,毎年,大学等からプログラムの公募を行います。文部科学省で申請を受け付けまして,応募に当たり大学などから提出していただく申請書類の内容について,認定要件への適合・不適合を審査させていただきます。適合したプログラムを「職業実践教育プログラム」(仮称)として認定・公表することを考えております。なお,認定したプログラムについて,認定要件に適合しなくなった場合には認定を取り消すこととなります。本検討会で御検討いただきたい事項としては,認定要件を設定するに当たりまして,「職業実践教育プログラム」として認定すべき社会人の学び直しに資する実践的・専門的な教育プログラムとは具体的にどのような内容である必要があるのかという点でございます。
 次のページをおめくりいただければと思います。具体的に,「職業実践教育プログラム」のイメージをたたき台として記載しております。前回会議において多数御質問を頂きました「職業実践教育プログラム」のメーンターゲットとなる社会人の範囲でございます。こちらは前回も口頭で御説明いたしましたけれども,職業に必要な能力の修得を求める人ということで,正規・非正規を問わず在職者の方,求職者の方などでございまして,雇用者,自営業者は問いません。これは,あくまでも職業に必要な能力の修得を求める人の学び直しに資するプログラムを認定するということでございまして,各プログラムの受講者に趣味や教養として学ぶ人が入っていることを排除するものではございません。
 次に,対象とするプログラムの範囲についてでございます。職業に必要な能力を修得するために体系的な教育を行う必要があることから,大学・大学院,短期大学及び高等専門学校における正規課程及び履修証明プログラムを想定しております。なお,この認定制度は,社会人が自らの能力向上のために参加できるものを対象と考えておりますので,特定の企業や団体のみを対象とするプログラムは対象としないこと。既存・新規を問わず,要件に該当するプログラムであれば認定することを考えております。
 次に,認定すべきプログラムの教育内容や教育方法についてでございます。職業に必要な実践的かつ専門的な知識及び技術を育成するため,例えば実務家教員による授業や,課題発見,解決型学修などの双方向若しくは多方向に行われる討論,実地での体験活動,企業等と連携した授業など,教育内容・教育方法による授業が総授業時数の一定以上を占めていることとしてはどうかと考えております。
 次に,プログラムの質を担保することや社会人への工夫など,プログラムの外形的な設計についてですけれども,例えばプログラムの対象とする職業分野を具体的かつ明確に設定し,公表していること。当該プログラムによって修得可能な能力を具体的かつ明確設定し,公表していること。受講者の成績評価を行っていること。これは正規課程では当然のことですけれども,履修証明プログラムについてもそのようにしてはどうかというものです。次に,自己点検・評価を行い,結果公表していること。前回,小杉先生からも御意見ございましたけれども,課程の変遷や自己点検・評価に当たりまして,関連分野の企業の意見を取り入れる仕組みを構築すること。週末・夜間開講,IT活用,社会人を対象とした経済的支援の仕組みなど社会人が通いやすい工夫を行っていること,などをプログラムの要件としてはどうかと考えております。
 以上は事務局において作成したものですので,こちらについても委員の皆様から御意見を頂ければと思います。
 次に,参考資料1についても簡単に御説明させていただければと思います。
 参考資料1につきまして,2ページ目をおめくりいただければと思います。職業実践専門課程は,専修学校専門課程のうち,企業等と密接に連携しながら教育課程を編成し,より実践的な職業教育の質の確保に組織的に取り組む課程を,文部科学大臣が認定する制度でございます。
 この認定された課程について,専門学校側,企業側,学生側にアンケート調査を実施したものをまとめております。幾つか内容を御紹介いたしますと,例えば6ページ目をおめくりいただければと思います。丸1ですけれども,企業等が参画して教育課程編成を行う委員会の設置につきまして,青い線は平成24年度以前から認定要件を満たす取組を開始していたところでございます。赤い線につきましては,平成25年度以降に認定要件を満たす取組を開始していたところを示しております。こちら比較していただきますと,時間の経過につれて,例えば教員の学校運営の参画度合いの向上や,就職先となる業界ニーズの把握度合いの向上など,全体として効果が高まっていることが分かります。
 次に,9ページ目をおめくりいただければと思います。左の図をごらんいただきますと,8割の認定課程が認定を受けたことによって,学校運営の方針・方法や教職員の意識の変化を実感していることが分かります。
 次に,17ページをお開きいただければと思います。左の図をごらんいただきますと,専門学校との連携について,自社が必要とする実践的な専門人材の育成に有意義であると約7割の企業が感じていること。右の図をごらんいただきますと,連携を強化したいと考えている企業が6割存在することがお分かりいただけます。
 次に,22ページをお開きいただければと思います。職業実践専門課程と連携している取組が多い企業ほど,各取組から得られる効果が多いと解答していただいております。
 次に,25ページをお開きいただければと思います。目指すべき人物像・人材像を何らかの方法で示されて,よく覚えている学生は,そうでない学生よりも,学科が行っている教育についての満足度が高いということがお分かりいただけます。
 次に,29ページをお開きいただければと思います。こちらは,平成24年度以前から実習・演習等で企業と連携している学校の生徒ほど,実習・演習等から得られる経験の各項目に学ぶことができたと解答する割合が高くなる傾向が見られております。
 以上,御議論の御参考にしていただければと思います。
 次に,参考資料2についても簡単に触れさせていただければと思います。
 こちらは,前回会議において乾先生よりお求めいただいた資料でございます。内容としましては,プログラムの効果については御用意できなかったんですけれども,国公私立における履修証明プログラムの幾つかの取組につきまして,プログラムの概要や履修期間,受講料,募集人数などをまとめておりますので,こちらも御参考にしていただければと思います。
 以上でございます。
【荻上座長】  ありがとうございました。
 いろいろ御意見あるかと思いますが,ヒアリングをお聞きした後で,まとめて質疑応答していただきたいと思います。
 それでは,ヒアリングに入りたいと思いますが,ただいま事務局から説明していただいた資料1などを念頭に置いて,お聞きいただければと思います。
 では,早速でございますが,慶應義塾大学の河野先生と前野先生,よろしくお願いいたします。
【慶應義塾大学河野研究科委員長・教授】  慶應義塾大学大学院経営管理研究科の委員長をしております河野でございます。我々,通称KBSと呼んでおりますけれども,その学校の取組について,テーマについては最後の方に触れますが,KBSの紹介,やっていること,そして最後に検討会に関係する私の考えということで述べさせていただきたいと思います。
 KBSというのはどういう学校かといいますと,端的に申し上げると経営人材を育成する学校であります。すなわち,経営に資するリーダーとなる人材を育成する学校,大学院の修士課程と博士課程が中心になります。通称,アメリカ的に,あるいはヨーロッパ的に言えば,ビジネススクールというカテゴリーに属する学校であります。
 2年間の全日制のフルタイム,これを1978年に開校しておりますので,日本で一番古いビジネススクールということになります。きょう,ICSの菅野さんも委員にいらっしゃいますけれども,僣越ですけれども,KBSが一番歴史があります。
 今年の4月から,エグゼクティブ向けのMBA,週末の通うタイプの学位課程をスタートします。博士課程も有しています。
 そのほかに,エグゼクティブセミナーというものを1962年から,我々の出発点になりますけれども,これはノンディグリーです。階層別に分けて,一番短いものであると週末集中という3日間です。一番長いものであると11日間,合宿などで研修をします。そういうセミナーで人材育成を図っています。上が学位課程,下がノンディグリーの課程ということになります。今まで,ノンディグリーでは累計一万六千名以上の方々を育成してきています。
 KBSのミッションというものが次のシートにあります。ミッションステートメントを定めましたけれども,端的に申し上げると,我々のビジネススクールの考え方というのは教育,研究,そしてネットワーク・交流,この三つの柱で学校というものが形成されているという考え方です。
 教育というのは,学位課程,ノンディグリーの教育。研究というのは,その教育の内容を支える研究を行わないといい教育ができない。これは,大学,あるいは大学院としては当然であろうと思います。しばしば日本では,ビジネススクールの歴史が短かったり,あるいは数が少ないということで教育の側面が非常に重視されますけれども,欧米的に言えば当然研究を行う,そういう教員がいてこそ教育ができるということは当たり前であろうと思います。交流というのは,様々な人が集うことで自分にない知見を学び合って,お互いが切磋琢磨する。その中には,国際連携や同窓会との関係も含まれてきます。この三つの領域のシナジーというものがビジネススクールの必要条件と,私は考えています。
 学生と教員,大体どんなプロファイルかということを説明します。フルタイムのMBAは,平均年齢が28から30歳ぐらい,ばらつきとしては新卒の人から40代まで,企業派遣の人,休職の人,事業承継者,自費で来る人,様々います。大体,社会人が80%,新卒の人が20%という分布になっています。
 今年の4月からスタートする,きちんと申し上げると明日からスタートということになりますが,週末に開校するエグゼクティブのMBA,これは日本で初めてのエグゼクティブ特化型の学位課程ですが,職務経験15年以上の中核ミドル人材をターゲットにしています。なぜかというと,日本では非常にOJTベースの教育が重視されますから,我が社の社長,我が社の役員という言い方をしますけれども,外に出ていったときには我が社など何の役にも立たない場面で,経営を引っ張っていく人が余りに足りないということを意識として,定員四十名ですが,新たにこういう学位課程をスタートします。
 特徴は多様性です。異業種,異職種,異文化の人が集まる,こういうところでないと人は育たないということが我々の考え方です。
 教員はフルタイムで二十六名,全員,博士の学位を持った専門の教員です。そのほかに,特任の教員,特別招聘(しょうへい)教員,非常勤の教員で,経営の全領域に関わる8分野の専任教員を有する体制で研究教育に当たっています。
 先ほども育成したい人材という話がありましたが,一般的にターゲットとなる業種,あるいはスキルによって違ってくるかもしれませんが,我々,経営人材といったときにはT型の人材というものをイメージしています。
 Tの横棒はジェネラルな経営能力ということです。どの領域のことも広く分かっているということです。そうでないと経営者は務まらない,あるいは組織のリーダーは務まらないというのが我々の考え方です。
 一方,縦の棒はスペシャリティ,自分の得意とする,私は生産ですけれども,マーケティングだったり,会計であったり,そうした自分の専門領域を一つは持っている。しばしば二つ持ったパイ型人材と言われますけれども,この両方がないと,専門だけを強化しても経営できないです。すなわち,私は生産だけ強いけれども,他のことは分からないということでは,トップとして組織を引っ張っていくことはできない。ですから,横棒と縦棒の両方,我々のカリキュラムの中では,横棒のジェネラルというところを1年目に徹底的に鍛える,2年目に専門科目及び修士論文,ゼミということで縦棒を鍛えると,こういう考え方を採用しています。
 実は,周りに囲むものがあって,そこは我々,マインドセットと言っていますが,経営者としての志とか使命感,そうしたものを持ってほしい。リーダーシップと言ってもいいかもしれませんけれども,知識だけですと経営者にはなれません。経営をやろうという志を持ってもらう,そういうことを育成していく,これが非常に大事だと思っています。
 では,そういう人材をどうやって育成するかという方法について,我々が採用しているのはケースメソッドというやり方です。ちょっと余分なことかもしれませんが,ケーススタディとは全く違います。企業の実際の事例を使ってディスカッションをするという教え方です。ですから,我々教員は原則しゃべりません。クラス四十人,五十人の受講者,学生を前に,我々は質問を投げ掛けて,あなただったらどうしますかと。実際の企業事例を配っておいて,事前に読み込んでもらって,少人数のグループでディスカッションした後,四十人,五十人集まって,そこで教員がリードをします。「あなただったら中国に進出しますか」「しません」「なぜ? 他社が進出したらどうするの?」というような問いを投げ掛けて本人に考えさせる,そういうやり方を採用しています。それが毎日,2ケースないし3ケースで毎日続いていきます。
 こういう学びの中で,自分の考え方と違う人と議論をしたり,様々な知識を融合させて,リーダーとしての資質を磨いていく,そういう教育方法です。したがって,教員は全部こういうケースメソッドができる人材でなければいけない。加えて,各学界の先端を行く人材でなければいけない。教員にとってのワークロードは非常にタフですけれども,やっていて面白いという教え方になります。
 企業や海外との連携ということでいうと,我々,国際的な連携をかなり重視しています。ここにAACSBとEQUISとありますけれども,アメリカ,ヨーロッパの国際的なビジネススクールの認証を得ています。文部科学省の方の前でこういうことを申し上げるのは大変に申し訳ないかもしれませんけれども,海外の認証というのは非常にハードです。基準もどんどん変わりますし,グローバルスタンダードというものに満ちていなければ認証を落とされます。こういう状況に対して,法律に準拠しているかというのが日本での認証の考え方です。法律準拠していても人材は育成できないです。しかも,グローバル化がどんどん進んでいくと,社会の基準はどんどん変わっていくというところで,こういう認証というのは,いわゆるセルフアセスメントを含めて,我々が変わっていかねばならないということに直面する機会です。日本は,どちらかというと日本の社会を見て,日本の企業を見て,よくやっているとなります。こんなことでは世界の中では全然通じませんし,アメリカ,ヨーロッパも変わりますし,アジアもどんどんマーケットは変わっているという中で,様々なこうした認証で,自分自身を磨き上げるということが必要だろうと考えています。
 企業との連携では,当然,ケース教材を作るというところ,あるいはフィールド型の授業,共同研究といったことで深く連携を持たせていただいています。
 教育の質保証を含めて,我々,実践性と専門性のバランスということを重視していますが,教育の品質という点では国際認証によるグローバルスタンダードということと,フルタイムでは卒業要件が60単位です。大学院は30単位と言われていますけれども,倍のワークロードです。エグゼクティブMBAでは50単位,プラス修了とか進級には一定の成績要件が必要です。あるいは,国際認証のアシュアランス・オブ・ラーニングという学生が達成度を評価する仕組みで,毎年,カリキュラムをどんどん改訂しています。あるいは,エグゼクティブセミナー,先ほど申し上げた最大11日間というのは,非常に企業の方もディマンディングですから,ある意味,教え方が下手であるとはっきり評価される。そのアンケートシートは,名前入りで全教員に回覧される。そういうことで教員は磨かれることになっています。
 今日,頂いたシートの中で通いやすさとか学び直しでの配慮ということについて,ちょっと我々は学位課程ということを意識してしまっているかもしれませんが,今,どちらかというと通いやすいということで,余りいい言葉でないかもしれませんが,人材育成に対して安・近・単というニーズが非常にあると思うのですが,やはり経営人材を育成するということでは,ある程度時間が掛かり,コストが掛かるということを当然に認識していただく必要があるだろう。これが第1点です。
 それから,異業種です。日本企業は,多くが社内を非常に重視して,同じ釜の飯を食った仲間で勉強したい。しかし,これでは人が伸びない,異業種が非常に大事だということを言いたいのです。
 3点目に,グローバル化対応。日本だと,すぐに英語力ということになりますけれども,そうではないです。英語はブロークンでもいいれども,どんどん異文化の人たちに自分の意見を堂々と言えるような国際感覚,そういったものを持った人がこれからもっと必要だろうということです。
 それから,経営学修士,博士,MBA,そういったものへの認識。社会の中で,そういう学位を持って,きちんと勉強して学位を得た人に対しての日本の社会の評価が低いということは,我々,率直に感じています。こうした状況を変えていかないと,余りに通いやすさとして,我々は週末を活用するエグゼクティブ課程を考えて4月から実施しますが,夜間で,働きながら,使命感まで育成したリーダーになれるかというところに,実は非常に難しいイシューがあるのではないかと私は考えています。
 そんなことを少し議論していただければということで,ちょっとプレゼン,延びてしまいましたが,KBSの紹介と,私の考えということで終わらせていただきたいと思います。
【慶應義塾大学前野研究科委員長・教授】  引き続きまして,よろしいですか。
【荻上座長】  はい,お願いします。
【慶應義塾大学前野研究科委員長・教授】  慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科の取組について,7分30秒でしゃべれと言われたんですけれども,お話ししたいと思います。
 事前に頂いた御質問に答える形で資料を作ってまいりました。この資料をごらんいただくと,それから,この白いパンフレットがありますので,見ていただくといいと思うんですけれども,お隣のビジネススクールが日本で一番古いビジネススクールということですけれども,私たちは慶應義塾大学の中で一番新しい大学院で,最も現代的な問題を解くために設立されました。
 まず,この研究科の目的ですけれども,現代社会というのはあらゆる物事が大規模・複雑化して,一つの専門だけでは問題解決できなくなっている。ですから,専門分野を超えて問題理解・発見・解決できる人材を育成しましょうということで設立されました。
 目的のところですけれども,何らかの専門性をもともと持っている者(主に社会人学生)に対し,その専門の領域を超えて,システムズエンジニアリングやデザイン思考という我々の基本的な学問ベースを基にして,全体最適の視点から問題理解・発見・解決・マネジメントのできる能力を育成するということを私たちの目的としています。基本的な学問分野については後で御説明します。つまり,社会人は従来の学問の枠を超えて,新たな学びを得るということが非常に必要となっている,それに対応した新しい大学院ということでございます。
 次のページに行きますと,構成が書いてあります。修士課程は,1年間,定員七十七名,社会人比率は50から70%でちょっと増える傾向にあります。年齢を見ていただきますと,20代から50代,実際は60代もいますけれども,修士課程ですとこのように分布しています。
 博士課程は,定員1学年十一名ですけれども,20代から60代まで,こちらの方が年齢層が高くて,既に何らかの分野で専門性が高い人たちが社会人として学びに来ているという傾向にあります。そして,職種分布はこのように非常に多様でして,つまりあらゆる専門性を持っている者が専門分野いかんにかかわらず同じ学問も学び,協力して問題解決を行っていく,そういうコンセプトになっております。
 次のページ,これは教員分布です。あらゆる問題を解くために実践経験の高い教員を集めているということです。
 次のページから御質問にお答えするんですけれども,職業に必要な実践的かつ専門的な知識及び技術を育成する教育のための工夫ですけれども,まず私たちは,先ほどから申し上げておりますように,全体統合的学問,SDM学というものを作るんだという気概で,新しい問題解決をやろうとしています。
 なぜ,そういうことが作れるかというと,一つはシステムズエンジニアリングという理系の学問をベースにしています。システムズエンジニアリングといいますと,情報システムのSEを育成する大学院ではないかと誤解されることがあるんですけれども,SEというのは日本ではソフトウェアの技術者のように捉えられていますけれども,本来はあらゆるシステム,ハード,ソフト,ヒューマンファクターを含む俯瞰(ふかん)的かつ緻密な全体問題解決のための工学であります。ですから,宇宙ステーションを造る学生から,新たな政策提言をしたいという文系の学生,あらゆる人がこの学問をベースに,巨大な問題を緻密に解決していく。同じ言語で語れるというのが一つの特徴です。
 もう一つはクリエイティビティに関係しているんですけれども,アメリカ西海岸で始まりましたデザイン思考という考え方があります。これは,プロジェクトベースで,チームで多様な者が一緒に問題解決する,あるいは非常にイノベーティブに問題発見して解決していく,そういう学問であります。この二つをベースにすることによって,大規模な問題を緻密に解くこと,それからイノベーティブに解くこと,この学問をまさにチームで,多様な者が協力して解決する,そういう新しい学問体系を実際に実践しているわけです。
 教育のための工夫,2枚目ですけれども,今,申し上げたようにチームで学ぶことを非常に重視しているということが一つ。
 それから,専門性の高い,まさにエンジニアからコンサル,大学教員,プロの芸術家,医師,弁護士とあらゆる者が集まっていますから,まさに教え合う。これは実は慶應義塾大学の基本的な考え方ですけれども,半分学んで半分教える,あらゆる者が生徒であり,先生であるということをやっています。
 あるいは,1年生のときにはみっちり授業を身に付けます。多様な者が同じ学問を学ぶということが一つです。そして,ただ学ぶだけではなくて,もちろん学ぶのもチームによる実践教育が非常に多いです。そして,修士1年から2年にかけて,修士論文では必ず何らかのシステムをデザインし,それを検証していく。つまり,新しいものを必ず作り上げて,実際に役に立つ形の学問をやっていくということを重視しています。それから,ここに書いてありませんが,海外留学ですとか,インターンシップということもやっていますので,国際的なグローバルな視野を身に付けるということも行っています。
 三つ目は修了者の声で,ちょっとイメージが湧くかと思って書いたんですけれども,我々が思っていた以上に年齢層も広く,幅広い人が来てくれていまして,非常に満足度が高いと自負しています。ここに書いてありますように,本当に社会で必要な学び直しのために必要な学問というのは,こういう全体統合的な学問であるというニーズがあることを実感しております。これは時間のあるときにごらんになってください。
 研究テーマは,ここにありますように,あらゆる社会のニーズに対応した実践的教育ですので,非常に多岐にわたっています。こんな多岐にわたったものを教えられるのかと言われますけれども,先ほどから申し上げているように,一つの学問を基に多岐にわたる問題を解決していますので,協力して解けています。
 次の御質問ですけれども,社会人の学び直しのために産業界はどのように関与できるかですけれども,私たち教員,専任教員は十二名ですけれども,そのうち十一名は産業界経験者です。そういう意味では,まさに役に立つ学問をやっているということです。
 二つ目に,特別招聘(しょうへい)教授,特任教授などとして多くの産業人に,主に先端的な実践例の講義,あるいはチームで実践する科目における指導をしていただいています。これがそうです。デザインプロジェクトにおけるテーマオーナーとして,企業の課題を解決するというようなこともかなり実践的に行っています。
 それから,先ほど自己評価が重要だということがありましたけれども,研究科の教育研究は外部評価委員を設けていまして,彼らの評価によって改善するということを常に行っていますので,そういう意味では多様な形で産業界に貢献していただいている研究科であります。
 それから,工夫ですけれども,夜と土曜に授業を行うこと。6限,7限というのは遅いです。ただ,1限は9時からですから,朝から晩まで授業して,働きながら学んでいる人も学べる。あるいは,e-ラーニングシステム,これはコンピューターに電子的に保存したものを事後に学習して,10科目20単位まではその事後学習でもいいということにしていますから,昼にやっている科目を社会人も取れる。それで,夜と土曜日,土曜日も朝から晩までありますから,そういうところでみっちり学ぶことによって,あるいは祝祭日,夏休み,冬休みに集中講義をやりますので,そこで学ぶことによって働きながらの学生も学べる。あるいは,会社派遣や会社を辞めてきた,働きながらではなくて専念する学生は昼の科目も取れる。どちらにも対応したカリキュラムになっています。
 それから,会社での課題を修士論文のテーマにしますから,学びながら,それがすぐに実践に使える,そういうメリットもあるというように学生がよく言っています。
 それから,リサーチインテンシブコース,ラーニングインテンシブコースといって,研究も授業もみっちり重視なんですけれども,どちらかに重点を置くことによって,いろいろなニーズがありますから,それに対応しています。それによって非常にモチベーションも高く,能力も高く,多様な学生が集まっていますので,これからも社会人の学び直し,この趣旨と非常に合っていると思っているんですけれども,私たちも是非,力強く推進していきたいと思っています。よろしくお願いいたします。
【荻上座長】  どうもありがとうございました。
 それでは,引き続きまして,岩手大学の佐藤先生,児玉先生,よろしくお願いいたします。
【岩手大学農学部佐藤教授】  岩手大学の佐藤でございます。それでは,説明させていただきたいと思います。
 私どものスクールは,いわてアグリフロンティアスクールと申します。
 基本的な特徴ですが,目的は二つございまして,高度な経営能力を有する農業経営者,この意味は,従来,農業は家族経営が支配的なわけですが,組織的な経営体のリーダーにもなれるような方という意味と,もう一つは,やはり農業の場合,地域農業の中でのリーダーシップという問題が経営者に求められますので,そういう二つの側面の能力を持った方の育成ということを基本的な目的としております。
 組織体制につきましては,現在,岩手大学,岩手県,JAいわてグループによる協議会が運営しております。岩手大学が教育カリキュラムを策定しまして,授業実施,教務管理を実施しております。
 資格授与につきましては,修了要件を満たし,評価委員会の審査をパスした者には,岩手大学の学則に基づき「アグリ管理士」の資格を授与ということでして,いわゆる大学の中における特別の課程,専修学校並みの授業時間を課している課程でございます。
 このスクールは,こういったような経過をたどっております。当初,私の先任の木村先生という方が試行錯誤的に岩手県とトップスクールという,最初はスクールというほどのものではなかったのかもしれませんが,そういう学びの場を作りまして,文部科学省の社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム事業を2期,6年間にわたって実施した後,現在のような体制に持ってきております。
 教育目標としては,こういう冒頭で申したようなことを少しかみ砕いた形の目標を設定しております。
 もう少し教育内容の特徴を申しますと,基本的な内容から高度な内容のものまで幅広い教科で構成しております。入学してくる者の能力にかなり幅がありますので,高度なものだけをやるわけにいかない。そういう基礎的なものから高度なものをやるということで,若干苦しいところがございます。そのため,講義,実習・演習,現地調査,現場スタディーなど多様な教育スタイルを取っております。それによって知識の取得のみならず,実践的に活用できる教育,また,これは後でも詳しく申し上げますが,受講者の時間的な事情,それからニーズに配慮したカリキュラム編成と授業実施をしております。それから,お手元に「ビジネス戦略計画」という様式を配ってございますが,これは自らの家の農業経営の経営戦略計画を策定させて,それを外部の評価委員の評価を受けさせるといったPBL方式を採っているところに特徴があるかと思います。
 教育体系は,大きくは経営管理と経営戦略・計画策定のブロックと,農業生産・流通管理,それと農作物の加工品開発とマーケティング,この三つの大きな分野を設定しております。
 経営戦略の策定と経営管理につきましては,いわゆる経営管理の3分野に関する座学から,特に戦略論,自らの戦略の策定,それを更に5年間ぐらいの計画にブレークダウンして計画を策定して,それをプレゼンテーションしていくというような仕組みになっております。こういうような形で座学,それから演習形式のもの。
 生産管理につきましては,やはり私ども農業関係特有のものかもしれませんが,当初から比べると大分減らしてはきているんですが,土壌管理,病虫害管理,産物の鮮度保持や流通技術,衛生管理(GAP)といった問題。
 それから,マーケティング関連,これはどちらかというと加工品開発を念頭に置いた食の安全管理,商品開発,デザイン・ブランド等の座学を実施しております。
 そういう中で,これは農産物の乾燥加工の授業の様子だと思いますが,こういった演習形式,実習形式を取っております。
 それから,相互に議論しながら,フリーディスカッションをやりながら,いろいろ問題を発見したりとか,そういうことも実施しております。
 現場研修等につきましては,1泊2日で先進経営,また地域農業で先進的な活動をしているようなところを視察する活動。それから,これは農家とは限りませんが,技術的に特に優れた研究機関とか大学等に学びに行くような形。それから,最後に書いてありますように,この課程を先に卒業された,アグリ管理士という資格を出しているんですが,そういった先進農業経営者との意見交換の場も設けております。
 全体としては,ここに書いてありますように,トータル165時間の授業を実施しておりますが,このうち,最後のところに書いてありますが,120時間以上の履修を修了のための要件としております。
 これは,現地先進経営の視察の様子です。地域農業の活動を盛んにやっている地域に行って,そこで説明を受けているところでございます。
 これは,最後のプレゼンテーションをやって,評価委員の方々に評価を受けているところであります。
 これは,先輩になりますアグリ管理士の方との意見交換です。先輩の方から,自分の経営の取組を発表していただいています。
 これが認定証書です。右側の方が120時間を修了したという修了書で,実際,プレゼンテーションをやって評価委員に合格の認定を受けた方だけが,こちら側のアグリ管理士を受けていただきます。
 これは,卒業式の様子でございます。
 優秀だった方,数名につきましては最優秀賞,優秀賞を発行しております。
 講師陣につきましては,岩手大学内の教員が十名(農学部・教育学部),それと現在の体制になってからは県の方から多大なる支援を受けております。県の普及関係,試験研究関係及び県立大学の先生。それから,このスクールの特徴はやはり産業界と連携ということがございますので,JAいわてグループの方からも四名ほどの講師。その他,税理士,社会保険労務士等々,三十四名の外部講師の方に参画していただいております。
 運営体制につきましては,県,JAいわてグループ,大学からなります運営協議会が運営に当たっております。大学に置いてあります事務局を中心としまして,大学の教員ほかの外部講師によって授業を行う。それと同時に,評価委員会を設けまして,資格認定に関わる評価をやっていただく,そういう仕組みになっております。
 少し予算面を申しますと,現在,岩手県から250万円弱,それからJAいわてグループから125万円,それと岩手大学は125万円ということですが,実際にはもう少し大学で負担しております。あと,一人2万円程度の受講料を受けまして,現在,三十名定員ですが,昨年度1名欠員がございましたので,500万円ちょっとで運営しています。ただ,実際には,農学部の私とか,こちらにいる児玉特命教授とか,その他の人件費につきましては大学持ちということで,やはり何だかんだで1,000万円は優に突破するような,2,000万円ぐらい経費が掛かっているのではないかと思います。
 受講者の概要につきましては,応募資格は岩手県とJAいわてグループということでありますので,現在は岩手県内の農業経営者と農業経営権を有する者で,高等学校若しくは中等教育学校を卒業した者,これと同等な者であることとするという形になっております。
 募集につきましては,一般公募,ポスター等を張り出して公募もしておりますが,県の出先機関,市町村,JA関係との連携の中で募集を掛けているということ。また,スクールの修了生や受講生からも声を掛けていただいています。定員は一応三十名,受講生の現況としては7割が若手の農業経営者,農業後継者です。今年度の平均年齢は36.4歳でありました。
 スクールの実績としましては,2007年から14年までの間に延べ五百十四名が受講しまして,このうち百七十四名をアグリ管理士として認定いたしました。三百五人には課程の修了証明書を発行しております。これらの中から先進的な経営者や地域リーダーの育成に寄与しています。ここに幾らか実名が挙がっておりますが,私が言うとちょっと語弊がございますが,岩手県は国や県,JAの言うことをよく聞く真面目な農業経営者が多い県なんですが,ここのスクールの中から,そういうところから一歩はみ出すような方が多数,短い期間に成長して,県の農業を少し揺さぶってくれているようなところが見えておるかと思います。また,アグリ管理士の方たちは,私どものスクールの運営にも講師として,それから評価委員として受講生の発掘にも協力していただいております。
 修了生のフロンティアスクールの評価につきましては,余り参考にならないかもしれませんが,9割以上が役に立っているという評価を,一応,アンケートでは得ております。
 教育の手法や工夫についてですが,一応,スクールの中からということでありますが,もうちょっと幅広く考えて書いてみました。やはり多様な社会人ニーズに配慮した選択的なカリキュラム編成。農業ですと,やはり水稲中心,それから品目によって全然経営の中身が,工業関係でジャンルが違う以上に違うところもございまして,そういうものにある程度対応できないといけないということ。そのためには,やはり多様な授業方法の併用が必要,それによって理解の促進や実践的な知識としての修得ができる。それと,やはりこのスクールの一番の特徴は,自分のところの経営,又は自分が勤務している農業生産法人の経営の戦略や計画を策定し,その外部評価を受けるといったやり方が教育成果や経営発展やスキルの向上に直結しているのではないかと思っております。
 産業界の関与の在り方についてですが,やはり対象者の選抜や送り込み,通学への配慮,授業料の一部負担ということが大事だと思います。私どもの場合,家族経営が多いので,家族の理解ということになってしまいます。それから,教育の方向性や内容,方法に対する御提案をしていただくこと。それから,現場教育の場,講師,資料などの供給を当然していただかなければいけないということ。それと,現在,私どもまだ必ずしも十分な体制は取れていないのですが,このスクールにも比較的若い者がいまして,新規就農に近いような方への支援。それから,修了生のネットワークを活用しました新たなビジネスの起業といった側面。それから,運営資金の負担についても,現在はJAいわてグループの方に負担していただいているんですが,今後ともこういう形が必要かと思っています。
 社会人が通いやすい工夫について見ますと,農業はやはり一般のサラリーマンの方と違って農繁期を避けた開講,いわゆる土日開講は余り意味がないです。春の忙しい田植の時期,4月終わりから5月中旬とか,8月終わりから10月中頃とか,そういうところを避けた開講。それから,夜間開講という声もあるのですが,これについては余り農業の方では強くないようです。それから,必要に応じた補講の実施が非常に大事でして,私どもの授業では120時間のうち,ちょっと失念しましたが,3分の1ぐらいの部分が必修科目になっております。これをどうしても家の事業の関係で受けられない方がいらっしゃるんですが,そういう方に対して補講を実施するということが修了なり,資格の取得には必須の部分であるということ。それから,費用負担の軽減につきましては,関係機関や団体による負担や外部資金の獲得ということが必要かと考えております。
 以上でございます。
【荻上座長】  どうもありがとうございました。
 それでは,次に,新谷委員から御発表をお願いいたします。
【新谷委員】  連合の新谷でございます。私からは,いわゆる教育プログラムの受講者側である労働者の立場から意見を申し上げたいと思います。
 まず,私ども連合という組織は,労働組合のナショナルセンターであり,産業別労働組合の連合体です。同時に,47都道府県に地方連合会という地方組織を配置しています。組合員の数は約六百七十四万人です。今,日本の労働組合の組合員数が九百七十万人弱ですので,組合員の約7割が私どもの方に結集をしているということです。なお,労働界と大学との接点ということで申し上げますと,連合は大学と連携して寄附講座を開設しております。具体的には,半期6か月間で単位を取得できるプログラムとして,現在は一橋大学,同志社大学,埼玉大学,岩手大学,山形大学,三重大学,佐賀大学,滋賀大学,長崎大学,大分大学,山口大学,福井県立大学において,働くこと,労働をテーマとする寄附講座を展開しているところです。
 まず,本検討会のテーマである,「社会人」についてです。本日,事務局から論点のペーパーを示していただきましたが,「社会人」とは誰かということは前回の検討会でも議論の対象となりました。スライドの2ページで示した人口のツリー図の通り,労働力人口,就業者と失業者へと階層ごとに分類ができますが,まず就業者の中の雇用者を中心に,今回の「社会人」の学び直し支援の対象に考えたらどうか。雇用者の中でも,雇用者に含まれる会社役員を対象にするのかという点はあるものの,検討の中心となる「社会人」はいずれにしても雇用者が中心になると思います。
 そのときに,前回も指摘させていただいたように,多様な雇用形態で働く労働者がいることを意識する必要があります。現在,非正規労働で働く方は約二千万人いらっしゃいます。また,非正規労働者といっても,パートタイマーであるとか,アルバイト,派遣労働,契約社員と類型は様々です。加えて,企業規模でいえば,五千六百万人おられる雇用者の7割近くが中小企業で働いている方々です。先ほどMBAの話も頂きましたけれども,様々な労働者が働いているということも想定の中に入れていただければと思っております。
 スライドの3ページは,在職者を中心とする社会人が学び直しをするというケースを分類したときに,検討のアプローチの仕方としては二つに分けた方が良いと思い,まとめたものです。一つは,先ほどの御発表にもありましたが,企業派遣で大学に就学するタイプです。これは社内選抜試験や,上司の推薦を受けた方といったいわゆる選抜をされた方々で,企業が自社の競争力を付けるという意味から,企業が費用負担をして派遣し,大学で学ぶというタイプです。もう一つは,自己啓発で,労働者自らが自分の費用負担で大学に行って学ぶケースです。プログラムの中身としては企業派遣のタイプと共通するものもあると思いますが,労働者にとっては全く異なるシチュエーションで修学することになります。これら企業派遣と自己啓発の両方のタイプの存在を意識して論議していく必要があると思います。
 スライドの4ページは,厚生労働省の就労条件総合調査等で,民間企業の労働費用に占める教育訓練費の割合の推移を見たものであります。1990年代以降,企業の労務費に占める教育訓練費の割合は年々低下してきているということが現状です。従来は,従業員一律に教育投資を行ってきたものが選抜教育が増えて,教育投資の総額が減ってきているということも背景にあるかと思います。
 スライドの5ページは,厚生労働省の能開基本調査の企業におけるOFF-JTの実施に関するデータです。企業の訓練はOJTとOFF-JTがあり,大学に派遣するのは当然OFF-JTですが,本来,訓練の中心になるのは企業の中で業務をしながら学ぶOJTです。OFF-JTもスキルアップのための重要なツールですが,そのOFF-JTの実施割合を企業規模別と,正社員と非正社員の割合で見たデータです。グリーンの部分が正社員以外で,ブルーの薄い部分が正社員ですが,正社員と非正社員の間でOFF-JTの投資の割合が随分と異なっています。非正社員は,正社員の半分ぐらいしか教育投資をされていないということが分かります。また,同じ正社員の中でも企業規模によって随分と異なり,特に中小企業の三十人-四十九人ゾーンの正社員は,大企業の非正社員とOFF-JT実施割合が変わらないのです。冒頭に正規と非正社員の違いについて意識する必要があると言いましたけれども,企業規模別の状況も見ておかないといけないと思います。
 スライド6ページ以降で,具体的な企業派遣の例を幾つか御紹介いたします。事例1は,国内外の大学・大学院に留学する制度を有している事例です。これは,選定試験に合格した者を選抜的に大学などへ派遣する制度で,給与は留学中出勤したものとして全額支給するというケースです。事例2では,ビジネススクールに派遣する制度で,これも選抜型で,将来,事業を担うことが期待される人材を派遣するものです。選定基準には,TOEICなども入っています。事例3は,MBA取得のために,社内選抜者を12か月から36か月の間で大学等へ派遣するものです。事例4は,所属長の推薦を受けた者を,能力開発大学校の生産機械システム応用課程に派遣するものです。事例5は,エンジニア養成のために4年制の工業大学へ,高卒,高専卒を対象にして選抜するものです。以上のように,各社が工夫して,企業派遣の仕組みを展開されているのです。
 スライドの8ページ以降は,自己啓発についてです。これは,厚生労働省の能開基本調査における,自己啓発を行った労働者がどれくらいいるのかというデータです。これも正規と非正規で差がありますが,自己啓発を行った労働者の割合はリーマンショック以降大きく減り,現在は正社員で4割ぐらい,非正社員で2割弱という現状です。
 スライドの9ページは,自己啓発を行う目的に関する調査結果ですが,「現在の仕事に必要な知識を付けるため」ということが,正社員・非正社員共通で最も多い目的として挙げられております。続いて,「将来の仕事やキャリアアップに備えて」や「資格取得のため」が,目的として挙げられているところです。
 スライドの10ページは,自己啓発を行うに当たっての問題点に関するデータです。「問題がある」と回答した者が非常に多いわけでありますが,その最大の理由は,「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」ということです。つまり,時間的な制約があるということで,非正社員の方では,「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」という回答を挙げる方も多いです。
 スライドの11ページは,自己啓発の企業支援の例です。事例1は,自己啓発にかかる休職制度を設けている事例で,本人が大学等の専門教育を受けることを希望する場合で会社が認めた場合に活用可能で,最長4年間休職することができる制度です。受講費用の助成についても,ケース・バイ・ケースで判断するというものです。事例2は,博士号の取得に掛かる費用を20万円まで会社が支給する制度ですが,業務の両立が前提で残業の免除等の就業時間の配慮はないというものです。事例3は,集団的な合意である労働協約を会社と労働組合が結んでいる点が特徴で,勤務制度について使用者と労働組合とが合意をして,組合員が大学等に通学する場合に年間20日の早退を認めているという事例です。
 その上で,スライドの12ページで,この検討会で検討すべき視点を提起しています。今,この検討会で示されておりますのは大学を中心とする「職業実践教育プログラム」ということでありますけれども,本日の参考資料2で御紹介いただいたように,専修学校専門課程の「職業実践専門課程」があります。また,履修証明プログラムや,厚生労働省が行っている認定職業訓練などもあります。こうした様々な仕組みがある中では,供給側たる教育機関側の検討とともに,受講するユーザー側にどういった仕組みを紹介,誘導していくのかという,まさにユーザー目線でのメニュー揃(ぞろ)えと誘導の仕組みという視点も検討する必要があるのではないかと思います。
 最後に,今後の検討に当たっての視点ということです。先ほどツリーを分けましたように,企業派遣の場合と自己啓発の場合,検討のアプローチを変える必要があるのではいかと思います。その上で,労働者,労働組合という立場でこの制度に求めるものを,大学,教育機関側に求める内容をマトリックスで描いたものが,スライド13ページです。まず,企業派遣の場合においては,私ども労働者という立場では,派遣者の人選の合理性,透明性が重要であると思います。この点は大学と直接関係ない話ですが,労働者としては企業側にそういった点を求めたいと思います。また,教育機関側に求める内容は,仕事に直結するような実践的な講座の開発をお願いしたいということです。もう一つは,企業派遣,自己啓発の双方にまたがる話ですが,先ほどもアグリ管理士という称号の御紹介を頂きましたが,やはり修了した後に労働市場で通用するような権威付け,称号があれば,受講の動機付けになるのではないかと思います。
 次に自己啓発の場合についてです。これは,大学側には多様な講座を準備いただきたい。例えば,短期から長期にわたる選択ができるような期間的にも多様なメニューが望ましいと思います。全てが2年とか1年とかいう長いものだけではなくて,もっと身近なプログラムも準備いただければ,それぞれの勤務に応じて,働きながら学ぶことができるのではないかと思います。また,休日や夜間開講というプログラムもありますが,働きながら学ぶという観点からすると,早朝開講も検討いただけないかと思います。加えて,最近では郊外にキャンパスを移転している大学もあるので,利便性の高い場所でサテライトを開講する,あるいは,IT,ウェブを活用した受講等,働きながら受講しやすい学び方を検討いただければ有り難いと思います。
 私からは以上です。
【荻上座長】  ありがとうございました。
 それでは,最後になりましたが,田宮委員からお願いいたします。
【田宮委員】  田宮でございます。私の方から,産業界というか,主として大手の電機メーカーの視点から見たときの本制度の意見ということでお話をさせていただきたいと思います。
 まず,このグラフは縦軸が対象層で,横軸がオペレーション等の実務的な訓練から右側の経営戦略的なところまで,研修内容の幅になっているんですけれども,大手企業の場合,多かれ少なかれ何らかの目的を持って,コーポレートユニバーシティみたいなものを作っています。社員を効率的に,効果的に育成するために,それぞれ自前の教育機関を持っているということであります。
 例えば,私どもの場合には,主に技術教育その他を担当する総合教育センターと経営者層の育成を担当しているコーポレートユニバーシティ,日立総合経営研修所に分かれていますが,二つの研修機関がございまして,年間550講座,約二万人に対して教育を提供しております。
 これは私どもばかりではなくて,大手の電機メーカーはそれぞれこうした専門の教育機関を持っておりまして,五十名から百五十名ぐらいの規模の人間をかけて社内教育を運営しています。一部,講師もおりますが多くはプログラムのプランナーでございまして,講師は専門の大学の先生であるとか,教育のベンダーもたくさんありますので,そういったところから来ていただいて,自分の会社に合ったスペックの教育をやっております。
 企業ではどうしても仕事をしながらの研修受講ということになりますので,ちょっとここに具体例が書いてありますが,短期間で,しかも授業料は職場負担のためにある程度安い単価設定でやっています。なぜ企業内でこういうことをやっているかというと,大学に派遣してもいいんですけれども,そうした場合どうしてもコストが掛かるので,基本的にはまとめて社内施設に集めて,社内外から専門の講師を招いて,できるだけ企業のニーズに合った内容の研修をやって,効率的に運営をしているというのが実態であります。
 しかしながらそうは言っても,我々社内だけではできない教育もありますので,そういうものについて次スライドの例にあるとおり社外機関も利用しているわけ,であります。先ほど河野先生もおっしゃったとおり,やはり我々も異業種交流というのは非常に大事だと思っておりまして,特に選抜者については社内のMBAコースのような研修を行いつつ,そうした社外でもまれるところに送り出すということをやっています。
 それから,最近,文部科学省のEDGEプログラムに選定された教育プログラムの御紹介を大学から頂くんですが,これらのプログラムは短期間,かつ自分のリアルなテーマを持って御指導いただけるということで,若手の研究者のモチベーションも高くて,派遣させていただいているところであります。
 あわせて,学位の取得,MBA・ビジネススクールももちろんですけれども,我々の場合は研究者にPh.D.を取らせるというニーズもあるものですから,年間四,五十名,そのために大学に派遣をしていたり,高校卒の選抜技術者に,大学での研究活動を経験させるという目的で,年間十名程度,大学に派遣することもやっています。
 実は今回,この検討会に参加するに当たって,ほかの大手企業の教育機関の責任者の方々ともいろいろ話をしたんですけれども,企業内に一定規模の教育機関を持っているので,教育機関の責任者ですから自負もありまして,各機関の研修内容は既に充実しているものと思っております。更に外部の教育機関からもいろいろなオファーは頂きますので,そういう意味では既に一定の企業ニーズは充足しているのかなと。
 また我々からすると,やはり汎用的な知識教育をしていただくよりも,事業のニーズに沿った実際のテーマ,特に共同研究のニーズは不変にあってニーズが非常に強いということを考えると,今回の検討会で考えていくに当たっては,そういう教育機関を持っていない中堅・中小企業には教育ニーズのボリュームゾーンがあるのではないかと思います。
 一方で,きょうの岩手大学さんや先般の熊本大学さんの例のように,地域の産業振興につながるような内容の拡充ということも考えていくべきではないかと思います。
 コストの面では,先ほどお話しましたとおり,企業の中でまとめて効率よくやるというのがメーンになっているので,大学への派遣を促進しようとする場合には,特に中小企業さんもそうだと思いますが,授業料の補助だとか,派遣したら税制面で優遇されるとか,そういったようなインセンティブも必要なのではないかと思います。
 教育機関に関しては,やはり長期にわたる研修派遣はある程度業務を犠牲にすることになってしまうので,職場も嫌がりますし,本人もそのために昇格が後れるのではないかとか,いろいろな疑心暗鬼も起きる可能性があります。やはり数日間の短期集中型だとか,週末だとか,先ほど夏休みという話もありましたけれども,そういった日程的な配慮は必要ではないか。また,コースすべてを受けるのではなくて,この科目だけ受けさせてもらいたいというようなところも柔軟に御対応いただけると,企業も派遣しやすいのではないかと思います。
 またロケーションについてですが,私どもの場合,茨城を中心に技術者も地方拠点にいる場合も多いので,やはり大学への派遣を前提にされてしまうと,なかなか行きにくいという人もでてきます。できればICTのツールだとか,サテライトの話もありましたけれども,そういった柔軟な教育機会の拡充ということも考えていただければ有り難いと思います。
 簡単ですが,以上でございます。
【荻上座長】  どうもありがとうございました。
 それでは,4件の御発表,並びに事務局の方で用意してもらった資料1について,御自由に御意見を頂ければと思います。残りの時間,45分ぐらいあると思います。では,どうぞ,御自由に御発言,お願いいたします。
【菅野委員】  よろしいですか。
【荻上座長】  どうぞ。
【菅野委員】  いきなり細かい話なのですが,新谷委員の資料の4ページで,企業の教育訓練費用が低下傾向にありますね。これは企業側の田宮委員の方にお伺いした方がいいのかもしれませんけれども,なぜ減っているのか,原因は何か?もしどなたか仮説があれば。
【田宮委員】  いいですか。
【荻上座長】  どうぞ,お願いします。
【田宮委員】  一つは,リーマンショックの影響というのはやはり大きくて,各社さんと話ししていると,リーマンショックを機会に教育投資が減っているというのはあります。その後,業績は大分回復してきているので,少しずつ戻ってきているのではないかと思いますが,それでも戻っていないというのは,先ほど新谷委員がお話になったとおり,確かに今,企業が一律に従業員に対して教育を与えるというスタンスから,選抜者を選んで教育するという方向に,変わってきておりまして,そこが一つ大きいのかなとは思います。

【荻上座長】  では,新谷委員。
【新谷委員】  スライド4を見ていただくと分かりますように,1991年以降,バブル崩壊とともに企業の教育訓練投資はだんだん減ってきています。また,2000年を境に減っていますが,2000年以降はITバブルの崩壊があり,失業率が5.4%と過去最悪になった頃と重なります。企業が人件費も含めて全てのコストをカットする中で,雇用や賃金を後に回して,まずは教育投資を減少させていった。これが今日まで回復していないということが現状ではないかと思います。
【菅野委員】  ということは,学び直しのニーズが減ったのではなくて,学び直しのために使える時間とかお金とか,サプライの方が減ったということですよね。ニーズは厳然としてあるという理解ですね。分かりました。ありがとうございます。
【荻上座長】  ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。
【杉谷委員】  すみません。
【荻上座長】  はい,どうぞ。
【杉谷委員】  慶応義塾大学の経営管理研究科の先生にちょっと御質問したいと思います。細かいところで恐縮なんですけれども,スライドの3ページ目のところで,フルタイムの先生が二十六名いらっしゃるということなのですが,こちらの先生方は研究科のみの御指導ということなのでしょうか。学部等,学士課程の方も持っていらっしゃるのでしょうか。
【慶応義塾大学河野研究科委員長・教授】  我々のところは学部を有していませんので,研究科のみの教員になります。ただし,先ほど申し上げたとおり,外部でのセミナー,我々がやっているセミナーでの教育も担当する,それから学会活動等を当然行うということになります。いわゆる専任教員であります。
【杉谷委員】  大変すばらしいプログラムだと思いました。おっしゃるように非常にコストが掛かっていらっしゃるなということがよく分かりました。ありがとうございます。
【荻上座長】  ほかにはいかがでしょうか。どうぞ。
【乾委員】  私は学び手側の観点から,今日のお話は非常に参考になると思って伺ってまいりました。その中から,大学・大学院で学ばれる方が満足されているポイントをピックアップしますと,一つには学際的な内容であるということ,二つ目にディスカッションなどリアルの場を活かした価値を提供されているということ,三つ目に常に内容を更新されていること,これらが挙げられると思います。今後,認定や評価については,こういったところを中心に議論・検討をしていただければと思います。
【荻上座長】  ありがとうございます。
 どうぞ。
【小林委員】  せっかくすばらしいプレゼンを幾つも見せていただいたので,コメントをさせていただきたいんですが,まず新谷委員の資料で,非常に分かりやすくクラリファイしていただいて,大変頭が整理できました。
 この中で,自己啓発の視点で,自己啓発意欲が低下しているという8ページの図があって,その後に,それは何のためにやるのかということで,ほとんどが現在の仕事に必要な知識,能力を身に付けるためということが圧倒的で,私が想像していた以上にそこが中心で,自分が転身を図るとか,新しい仕事に就くというところについては非常に少ないという印象を持ちました。
 従いまして,基本的に労働者のニーズとしては,オンデマンドな現在の業務に直結するような知識,技能を身に付けたいというニーズが中心になっていると。一方では,その次にあるように,時間がほとんどなくてできないというような状況になっていると拝見したんですが,今回,新谷委員の御指摘にもあるように,企業が派遣する者と自己啓発の者と区分して考えなくてはいけないというのはそのとおりだと思いますが,オンデマンドな知識を付けたいというニーズは,やはり自己啓発をベースとしたところが中核にならないと,なかなか企業ではできないだろうと思います。
 日立さんのようにすばらしい,フルセットで全て用意されたようなところであれば当然できると思いますけれども,なかなかそこまでできる企業体もございませんので,そうしますと,やはり自己啓発を中心とした者を促進するような仕組みがないといけないだろうという気がいたしております。
 時間がないからできないという圧倒的な理由がここでございますが,先般,お役所も早く帰るようにしたようですので,やはり企業としては早く帰れるようにするということが,私,まず労働環境の変化が一番重要だと思って,これがない限り,何を努力しても実現できないだろうと強く思います。
 もし企業にニーズがあって,派遣をしなくてはならないというようなところの視点からいきますと,慶應義塾大学の話は河野先生から以前にもすばらしい内容を聞かせていただいていて感銘を受けています。もう既にエスタブリッシュな感があって,ビジネスエリートを作るというプロセスにおいてはすばらしいものと思いますが,あえてそこのところをきょうは触れないで,もう少し別の視点でやらせていただくとすると,今回,文部科学省が中心になって進めておられる以上は,ある程度国策に沿ったものでないといけないということと,私はその中でも特に女性だと思っています。
 女性は社会に出られましても,これまで長い間,男性に比べて教育機会が非常に乏しいんですね。当社でもそうですし,ここへ来て,国の政策として管理職を作れとか,女性役員を作れというような政策がどんどん出ていますけれども,現実にそのようなところまで一気にジャンプするのは不可能でございまして,そのようなギャップをどう埋めるのかという問題は何も議論がないです。その中で,企業が女性をエグゼクティブとして育てていくための算段というのは,一企業体ではなかなか付かないです。つまり,ロールモデルは存在しない,ないしはこれまで教育機会に恵まれていないので,いろいろな基礎教育がなされていない。それは女性のせいではないですけれども,なされていないという問題を解決してあげる必要があるし,これを女性の自己啓発に任せるべきではない。何らかのガイダンスをしてあげる必要があるだろうと思います。
 したがって,女性をそのような形で一定期間の中でエグゼクティブに,ないしは管理職に育てていけるようなプロセスというのは,企業が用意してやらなくてはならないだろう。そうでないと,国の言っている目標は全くの形骸化したものにしかならないだろうと思っております。ですから,私は女性がこれからの一つの大きなキーポイントになるだろうと思います。
 それから,岩手大学さんの取組は非常に面白いと思って,私か出たいと思うくらいのプログラムであります。これも,やはり高齢化ですとか,農業の国際競争ですとか,地方再生ですとか,こういったことに見事に合致していますし,それから企業のモチベーション,個人のモチベーションという点からいっても,企業が改革し,農業ビジネスをやらなければいけないという経営環境があることにミートしますし,それから個人のニーズとしても,個人がやり直しする,チャレンジするというようなことにミートすると思って,実に面白いと思いました。
 非常に漠然とした印象ですが。
【荻上座長】  ありがとうございます。いろいろな視点からの御意見を頂きました。
【小杉座長代理】  では,一つよろしいですか。
【荻上座長】  はい,お願いします。
【小杉座長代理】  慶應義塾大学さん,岩手大学さん,両方にお聞きしたいんですが,今日配られた資料1で,認定すべきプログラムの要件みたいなものが具体的な挙がっていますが,今のそれぞれの大学のプログラムは,この認定すべき要件について,何かここがあるとやりにくいとかいうものがありますでしょうか。あるいは,この認定すべき要件は皆クリアしているというように考えてよろしいでしょうか。
【荻上座長】  では,どちらからでも。お願いします。どうぞ。
【岩手大学農学部児玉特命教授】  岩手大学ですけれども,この中の丸3のところに企業等の理解増進とありますが,先ほど佐藤教授から言いましたように,農業者は本人そのものが経営者でありますし,従業員でもある。法人にしているところもありますけれども,そういうことで,ほかのところであれば企業の経営者が判断すればできると思いますが,農業者の場合はそういう意味で逆にやりづらいところがあります。理解増進という部分については,本人のやる気さえあれば出ますので,そういう意味では,これが一つちょっとネックかなと思いましたが,やる気を出すようなやり方で持っていくことで何とか解決できるのかなと思っています。
【小杉座長代理】  この紙の3枚目なんですが,もうちょっと検討いただきたい事項というものの後ろに二つ,プログラムの教育内容・教育方法,まず教育方法についての特徴と,それからプログラムの設計というところで,職業分野を具体的かつ明確に設定などがありますが,この辺,御校のプログラムは大丈夫というか,これはクリアしていますか。
【岩手大学農学部児玉特命教授】  はい。この中身については,今の段階では特に問題ないとは思っております。
【小杉座長代理】  ありがとうございます。
【荻上座長】  では,慶應義塾大学,お願いします。
【慶應義塾大学河野研究科委員長・教授】  率直に申し上げますと,例えば小林委員がおっしゃっている女性の活用であるとか,新谷委員の言われた企業が派遣する場合と,自己啓発で自らが学びたいという場合と全く合致していないと,私は今,この案を見て感じます。誰に対して,どういう内容で,この評価制度自体が貢献をするのかということは,正直申し上げて私にはさっぱり分からない。それから,我々の学校は我々の学校として,別にエスタブリッシュなどされていませんが,日々カリキュラムを変えていくということに対して,当然,日立のCEUの場合にもそういうことを検討されていると思いますけれども,そういうところにサポートをしてくれるとか,貢献はしてくれない。一方的に,上から的に認定をされますとか,されませんと言われても,我々の教員の中で,あるいはスタッフを巻き込んで,あるいは同窓生を巻き込んで,プログラムを改革しようということに対して何か貢献してくれるかというと,残念ながらそういう印象を持たないというのが私の率直な印象です。
【小杉座長代理】  はい,ありがとうございます。
【荻上座長】  お願いします。
【慶應義塾大学前野研究科委員長・教授】  違う研究科なので,今の視点ももちろんありますけれども,これが必要十分かというと,私もこれに足すことはあるかもしれません。けれども,私の感想としては,我々の研究科も2008年に,社会のニーズを酌み取って,何をやるべきかと思って作りましたので,そういう意味ではここに書かれている個々のことは,我々の研究科が目指していることと同じことが少なくとも書いてあるということでは一致していると思います。
【小杉座長代理】  ありがとうございます。
【荻上座長】  どうぞ。
【菅野委員】  同じく大学ですが,一橋大学の菅野でございます。
 学び直しのニーズは,企業にも個人にもあるという前提でこの検討会は始まっていると思うんです。ただ,提供者である大学等が,もっといろいろなことが提供できるはずなのに提供できていない。そこを何とかしようということで,この検討会は始まっていると思うんです。そうすると,河野先生とか,私のところのビジネススクールなどは典型ですが,あえて乱暴に言うと自然体でも成立しています。ビジネススクールというのは,学びたいというニーズとお金を払う意思のある学生がいて,私ども大学がニーズに合ったプログラムを提供して,ちゃんと経済的に回るという絵が描けたので成立しているわけですよね。あえて乱暴に言えば放っておいても成立しているのでフォーカスしなくてもよいと思うんです。
 多分,ここの検討会からすると,自然体ではしないところ,例えば日立さんのような大企業は自分でできるから,むしろ中小企業向け。あるいは,正規雇用者よりも非正規雇用者とか。前回と今回の議論を聞いていると,むしろそちらの方にフォーカスを当てて何かできることはないかを検討するのが良いかもしれません。
 あと,慶應義塾大学の河野先生のどうも認定制度は役に立たないという話は,正直言って私も同感です。大学側から見ると,やる気があって経済的に成り立っていれば既にやっています。むしろやる気のない大学や教員にやる気を起こさせるような手とか,経済的に成り立たないところを経済的に成り立たせる手とか,認定というより,足かせを外してあげる施策の方が,大学等は動くと思うんです。認定というよりも,これは新しいトライアルなので,新しいプログラムを比較的手軽に始められるようにする。
 さらに,これはトライアルなので,岩手大学さんの例を聞いて思ったのですが,やっていて,当初想定していたこととどんどん変わりますよね。例えば,経済的に難しいからJAさんを入れるとか,多分,毎年どんどん変えていかないと失敗する。トライアルですから,安定するソリューションが見つかるまで,極論を言えば前年やったことを全部取り替えるぐらいのことをやっていかないと成立しないと思うんですよね。文部科学省さんが認定という足かせを作ると非常にやりにくくなると思います。大学側が,これはうまくいかなかったら全部取り替えますと言っても,文部科学省さんとしては認定したときの内容と違うからみとめられないという話になります。むしろその辺の自由度を上げるとか,障害を外す方向の提言の方がいいのかなと,大学側から見ると感じているところです。
 すみません,ちょっと長くなりました。

【荻上座長】  ありがとうございました。
 どうぞ。
【岩手大学農学部佐藤教授】  関連して,少し話題提供なのですが,私も実はこの課程の担当になってからまだ3年しかたっていないですが,その間でちょっと体制を替えまして,現在,岩手県さんとJAいわてグループさんが入ってきていますので,対象者をやはりある程度,県の行政ニーズ,農協のニーズに従って,農業経営者の育成のところに少しシフトしてきたんです。実は,その前はもう少し幅広い,地域のアグリビジネスの担い手のような方も中に入っていただいていたんですが,その場合,ややもすると,そういう幅の広い,特に後期のときなんですが,農業者の割合が非常に低くなってしまって,いわゆる農業コンサルタントになりたいとか,そういう方の比率が増えてしまった。やはり県とかJAから見ると,本体の痩せている農業の強化につながらないおそれがあるというようなことも出てくる。
 もう一つ言うと,先ほど児玉教授の方からもありましたように,農業者はなかなか,特に親がいて,それを継いで30代後半ぐらいにいる方というのは自分から手を挙げにくい。それは,むしろ県とか普及機関を使って無理やりにでも,少しどうだというような声を掛ける。いかにも農業的だと皆さん思われるかもしれませんが,そういう仕掛けでないとなかなか出てきにくい。そういうような構造があるんです。
 私どもとしては,現在のタイプでは農業側の方により対象を絞ったような形でやっているんですが,それがいいかどうかというのは中でもいろいろ議論はございます。
 以上です。
【荻上座長】  ありがとうございました。
 はい,どうぞ。
【杉谷委員】  今日の御発表をいろいろ伺っていても,相当コストも掛かっていらっしゃいますし,これまでの御準備とか実績があった上での成功例だと思うんですね。それを考えますと,いきなりこちらの認定制度で新しいものを開拓して作っていくというのは,大学にとってはかなり酷なことではないかと思います。やはりこれまで実績がある程度あるようなものをむしろ伸ばしていくというように考えた方がよいのではないでしょうか。岩手大学さんもその一つでしたが,私は存じ上げなかったのですが,社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラムというのを過去に文部科学省さんでやっていらっしゃるわけですよね。大学側に資金提供して,何年間かプログラム開発を進めてきたという事例の中で,どういうものが人を集めていて効果があるのかというところを,もうちょっと検証した上で今回議論すべきではないかと思います。
 もう一つは,要件の件ですけれども,非常に多彩なメニューがあるということは非常に望ましいことだとは思います。ただ,長期の正規課程と短期の120時間ぐらいのプログラムと,同じような要件で判定していいのかというところは少し議論があるのではないかと思います。
【荻上座長】  では,小杉委員,お願いします。
【小杉座長代理】  今の需要が変わってきて対象者が変わってくるとか,教育内容が変わっていく,変化していくという話が大変大事だと思いました。私が考えているのは,そういう需要に変化してくれるような仕組みを持っているものを認定するといいますか,こういう枠組みで推奨する。なぜこの認定という話が出てくるかというと,先にありましたように,多くの人たちが学びたいと思っているけれども,どこで学んでいいか分からないし,学べないし,時間がないし,お金がないと,そういう状況があるわけですよね。その中で学べる機会,かつ効果とか,そういう面である程度期待できる枠組みが提供されるのではないか。そういうものを社会的に提供していくことによって,お金がない,時間がない,企業も派遣してくれないという人たちに対して機会を提供できる。多分,これがポイントだと思うんです。
 そのためには,やはりある程度の枠組みを保証しなければいけない。その保証の大事なポイントの一つが,今,お話に出てきた需要をきちんと酌み取って,その需要に応じてより適正なといいますか,その時代,時代に合ったプログラムに改変していく。その辺の枠組みの方を認定することであって,細かい何をという話に口出すことではなくて,枠組みがこうなっているから,この学ぶ機会というのは需要に合った仕組みを作っていけますよと,そういう枠組み認定みたいな話がいいのではないかと,今,思った次第です。
【荻上座長】  どうぞ。
【岩立委員】  今のお話に賛同するんですけれども,MBAにつきましてはやはりニーズがあるから今もうまくいっているということなんですけれども,ハーバードや,慶應義塾大学さんや,一橋大学さんのMBAプログラムはもう権威があるわけですよね。ところが,地方においてはなかなか受けづらいという部分がありますので,そういう意味で今回のプログラムの中で地方大学向けといいますか,地方創生の観点から認定というのは必要な部分があるのかなと考えます。
 それと,経営学以外で,やはり農業であったり,いろいろな大学に埋もれた部分をプログラムとして開発するというのは,非常に有意義なことではないかと考えます。
 以上です。
【荻上座長】  ありがとうございました。
 はい,どうぞ。
【堀切川委員】  今朝早く仙台から出て非常によかったと思ったのは,すばらしいケースのお話をずっとお聞きできたので,個人的にきょうは元を取ったなと思いました。慶應義塾大学さんの二つの取組もすばらしいですし,岩手大学さんもすごいなと思ったんですが,多分,岩手大学さんは,もともと地域の産学官連携の実績が昔からおありで,たしか県職員の方々と岩手大学さんの人事交流とかずっとやっておられたので,こういう取組をやれる土壌をもう作ってきた歴史があって,うまくいったのかなと思いました。
 質問というよりは意見なんですけれども,今日,お聞きした慶應義塾大学の二つの取組とか,岩手大学さんとかの取組のいい点がどんどん出てきているので,この辺を,文部科学省さんに最初に説明していただいた資料1の3枚目の真ん中ぐらいに,認定すべき「プログラム」の教育内容・教育方法というところに幾つか書いておられるんですが,お聞きした内容で非常にいい取組のキーワードがいっぱい出てきましたので,まずここを充実してもらえると有り難いと思いました。
 例えば,ケーススタディーではなくてケースメソッドだというのもそのとおりだと思ったのと,会社での実際の課題を取り上げるということも慶應義塾大学さんでもやっておられましたし,岩手大学さんの農業の取組もやはり直接実践的に役に立つメニューというところと,あと連合さんからも御提言ありましたが,何か称号のようなインセンティブがあった方がいいと。まさに岩手大学のアグリ管理士というのは,そこをぴたっと受け止めておられると思いました。あと,日立さんからも提言あったのは,圧倒的に中小企業さん,地域企業さんが通いやすい環境を作って,これは連合さんからもありましたけれども,大企業さんだけではなくて,地域・中小企業さんが通いやすいメニュー,そのための工夫が,たくさん出てきたと思うので,文部科学省の資料1の3枚目に書いていただく,書き込みを増やしていただく。
 できましたら,資料1の2枚目かな,この認定の仕組みは毎年,大学等からプログラムの公募を実施と書いておられますが,公募するときに,先発で非常にうまくいっている大学の工夫はこういうところでしたということを公募書類に書き込んでいただくと,これから新しく社会人の学び直しのメニューを作りたいという大学等にとっては,それ自体が勉強になるというかヒントになりますので,そのヒントを公募書類に書いていただく。慶應義塾大学さんとか,岩手大学さんの了解が必要かもしれないですが,こういう工夫をするとうまくいきましたよということを,実践事例として何か表にでもまとめて載せていただけると,手を挙げやすくなるかなという気がいたしました。
 これが私の意見であります。
【荻上座長】  ありがとうございます。
 その認定したプログラムの公表,社会への情報提供みたいなことについては,事務局の方ではどんなことをお考えですか。
【牛尾専門教育課長】  認定しました上では,当然,官報等に載せるとかいった公式な手段もございますし,それ以外の様々なPR活動もしていきたいと思っております。
 それから,先ほど,認定の仕組み自体について疑問の声も頂いていますので,それにお答えしたいと思うのですが,一つには,私どもの社会人の学び直しは,この認定の仕組みだけでできるという前提で議論しているのではないということでございます。私どもがまずこの認定でやりたいのは,社会人学び直しに資するプログラムであるかどうかということを何らかの形で明らかにしたいということでありまして,そういう認定を土台にして,各種の様々な支援施策を受けやすくするような土台の仕組みを作りたいということでございまして,様々頂いている意見は,仕組みそのものもございますけれども,それ以外の,それを支えるいろいろな支援制度でありますとか,プログラムはこういう中身がいいのではないかという御意見を頂いているのかなと思って拝聴しておりました。
 また今後,これから議論を続けていただく上で,ちょっと事務局の方でも整理をさせていただいて,認定の枠組みそのものの問題と,これを土台にして,あるいは,そのほかの社会人の学び直しを進めるためのいろいろなアイデア,そういうものに少し分けて御議論いただいた方が,より有益な議論をしていただけるのかなと思って聞かせていただきました。また座長もよく御相談したいと思いますが,そのように感じた次第でございます。
【荻上座長】  どうぞ。
【田宮委員】  そういう意味では,先ほど杉谷先生おっしゃったとおり,以前の社会人の学び直し対応ニーズ対応教育推進プログラムに選定したプログラムがどうだったのかということを,我々に教えていただくわけにいかないでしょうか。例えば,平成20年度の認定のプログラムを見ると,関西学院大学さんでハッピーキャリア(女性の再就職・起業)支援というプログラムが認定されているんです。今,女性の活躍支援を各企業は悩みながら取り組みを進めているんですけれども,そこに資するようなプログラムであれば我々としても活用したいと思いますし,そのプログラムがうまくいったのか,いかなかったのか,それがなぜなのかということを踏まえれば,もう少し使える枠組みが提案できるのではないかと思います。
【荻上座長】  過去のプログラムに関しては,情報提供みたいなことはどういう形で行われたのでしょうか。
【牛尾専門教育課長】  そのものをどういう形にしたのか,ちょっとまた整理して,次回,御用意したいと思いますけれども,予算補助をさせていただいていますので,当然,報告書等もございます。全て出せるかどうかあれですけれども,次回,是非,具体的な例と評価なども出したいと思います。
【荻上座長】  当然,それぞれの大学がホームページ等で情報提供することは求められているというか,義務付けられていると思いますが,文部科学省として何か一覧表というか,リストのようなものは公表されていないのでしょうか。
【牧野専門教育課長補佐】  ホームページなどでは公表させていただいております。次回,また資料としてお示しをさせていただきます。
【荻上座長】  お願いします。
【慶應義塾大学河野研究科委員長・教授】  これは私の一つの思い付きでしかないかもしれませんけれども,先ほど菅野委員が言われたように,我々のプログラム自体を認定していただくかどうかというような視点で言われると,私自身も,また教員の側にもちょっと抵抗感が生まれるかもしれませんけれども,例えば我々がケースメソッドでの討論を,地方に出向いて1泊2日,2泊3日,そうした形で行うということは過去にもやったことがあります。そういうことをやるとすると,当然,コストは掛かるわけですけれども,経営の人材を育成することの必要性とか大切さということを,そういった場面で行う活動,プログラムそのものというよりも,我々がもし提供できる知見があれば,それを喜んで提供するという活動に対しての支援,プログラム認定というよりは,足かせとなる部分を取り除いて支援をしていただくということになると,もっと経営人材育成とか,ビジネススクールの認知という点でも広がっていくかなと思います。先ほど岩立委員もそういうことをおっしゃっていたと思いますので,地方も一つの切り口ですし,そういうような新たな活動を支援していただくという支援であると,我々も関心を強く持ちたいという気がしますけれども,支援されるか,されないかと言われると,されてどうなるんですかみたいな感じになってしまうところがあるので,そこが抵抗感だと先ほど申し上げたところです。
【荻上座長】  ありがとうございます。
 では,杉谷委員,お願いします。
【杉谷委員】  すみません。先ほどの社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラムですけれども,今のホームページでも事例がばーっと一覧になっているのは事前に拝見しました。その公募要領も,今回,狙いにしているところとかなり重なるような取組を例に出されていまして,ニートとかフリーターの人も対象にしているということがありました。実際,そういう事例も選定されているようなので,できれば幅広く御紹介いただきたいと思います。お願いいたします。
【荻上座長】  ありがとうございます。
 どうぞ。
【菅野委員】  私,個人的には,学び直しのニーズはあるが,対応するサプライが不足しているという,サプライ側の問題だと思っています。サプライヤーである大学はもっとできるはずなのにやっていない。逆に,ぴんからきりまであらゆるプログラムが山ほど出回って困るので,品質担保のために認定制度を作ろうというのであればわかります。すなわち,質の悪いプログラムも出回って困るので,認定制度をきちんとやって,質のいいもの,悪いものを分けようという認定制度です。ところが,今回は違うと思うんです。まだ市場にプログラムが出回っていませんから,むしろ大学をやる気にさせることの方が,重要な論点です。そうすると二つあって,一つはやる気。そんなもの自分の仕事ではないと思っている大学,教員は多数います。二つ目は経済性。やる気になっても経済的に成り立たない。この二つだと思うんです。ただ,どちらかというと認定が今回の検討会のフォーカスだとすると,やる気にさせる,かつ経済性を担保するためにはどんな認定制度がいいかということを考えなければいけないと思うんです。
 きょう,私,聞いていて一つ勉強になったのは,逆に言うと,もうやる気になっているし,経済性が成り立っているところというのは,あえて白黒で言ってしまえば放っておいていいと。そうすると,大企業よりも中小企業,正規よりも非正規,都心より地方,あるいは小林委員が言った男性より女性とか,その辺を念頭に置きながら,そちらにフォーカスしているプログラムには認定をポジティブにするとか,何かそういう方向なのかなという気も,しているんです。まだ個人的感想ですが。
【荻上座長】  牛尾課長,どうぞ。
【牛尾専門教育課長】  現段階では,様々な意見を頂ければ,それをまたよく考えていきたいと思います。
【荻上座長】  どうぞ,新谷委員。
【新谷委員】  先ほど,サプライサイドである大学に対する助成金の話がありましたが,デマンド側である労働者に対する助成については,専門実践教育訓練給付という制度が既にあります。専門実践教育訓練給付の創設に当たっては,紆余曲折がありましたが,労使が積み立てている雇用保険の保険料を財源に,個人へ直接給付を行う仕組みです。これはかなり多額な個人給付で,1年間で最大48万円,2年間で最大96万円,3年間で最大144万円の個人給付が可能になる仕組みです。
この専門実践教育訓練について,現在どのような講座が指定対象となっているかというと,本当に数が少ないのです。この仕組みは昨年10月からスタートしたのですが,まだ16講座しか開講されていません。この4月からかなり指定講座が増えますが,まだ不足しています。予算規模は年間約890億円投入する計画なのですが,講座が足りず,また,そもそも指定講座の内容が偏っていることが問題です。現在は,名称独占・業務独占資格を取得できる講座であって養成課程があるものと,参考2でありました職業実践課程の一部,そして専門職大学院が指定されているだけで,大学の部分が抜けていて,非常に偏った指定となっています。
 専門実践教育訓練の指定の在り方については,小杉先生が分科会長を務められている厚生労働省の分科会で検討するのですが,労働者に対する経済的な支援体制は既にあり,講座の開拓が課題ということが現状です。指定するか否かは別途検討することになりますが,参考までに申し上げておきます。
 以上です。
【荻上座長】  ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。まだ若干時間が残されていると思いますが。どうぞ。
【菅野委員】  すみません,繰り返しになってしまいますが,今回は,山ほど社会人学び直しプログラムが市場に出回っていて,質の悪いプログラムもあるので,質を担保するための認定制度という位置付けではないですよね。まだプログラムも多くは出回っていないし,やる気を出してスタートする大学も少ない中で,むしろ彼らをエンカレッジするための認定制度は何なのか。ちょっと答えはないんですけれども,そういう視点で考える。規制する認定制度ではなくて,エンカレッジする認定制度ってどういうものがあるのか。これがチャレンジだと思うんですよね。なぜかというと,エンカレッジするということは,取りあえず何でもやってみなさいということで,要するに規制を緩くするということですよね。それにはまた逆があって,緩くすればするほど質の悪いプログラムも増えてきてしまうかもしれません。すみません,自分で考えていてまだ答えはないんですが,非常に難しいことを,今,やろうとしているんだろうなという感想です。
【荻上座長】  はい,どうぞ。
【乾委員】  これは,菅野先生はじめ大学の方々に伺いたいんですけれども,学ぶ側からすると,今の大学や大学院の仕組みでは,一つの粒が非常に大きくなってしまっていて,中の数科目を組み合わせてそれだけ学びたいというような,学び手の思いやニーズにぴったりかなうプログラムがなかなかありません。大学の方で,これとこれとこれだけ受けることはできませんかみたいなお話をしに行くと,そういうものはなかなか出来上がっていない。大学・大学院を運営されていて,そうした,言葉は悪いですけれども「プログラムの切り売り」みたいなことが進まない障害というのは何なのでしょうか?もし,そこが解消されれば,学び手それぞれにぴったりの機会が次々提供されていく,広がっていくことになると思うのですが。
【荻上座長】  その辺りはいかがでてしょうか。
【菅野委員】  一橋大学ですが,私から。
 恐らくそれは我々の思い込み,という言い方はよくないですね,前提だと思います。多分,河野先生も後から御意見があると思いますが,ビジネススクールの場合,経営人材には必要なスキルのセットがあるという前提に立っていますので,そのセットをちゃんと教えなければいけない。例えば,会計を教えずにMBAの学位をあげることはできない,要するに切り売りはできないという前提なんですね。経営人材に必要なセットA,B,C,Dをすべて習得していないと学位はあげられないという前提に立つ限り,そういう考えになってしまうわけですよね。逆に言えば,その前提を捨てればいいです。すなわち,世の中にはA,B,Cができていて,Dだけ足りないという人もいる。その人がDだけ学び直したいというときに,Dだけ切り売りするサービスを何で大学はやってはいけないのかという発想の転換だと思います。もっと言えば,大学の仕組みも,先ほどの「セットを教える」という前提で全て回っていますので,そこもいろいろやりにくいことはあります。
 というのが私の感想ですが,いかがでしょう。
【荻上座長】  はい,どうぞ。
【慶應義塾大学前野研究科委員長・教授】  河野先生が隣で僕と違う意見を言いそうなのは分かるんですけれども,同じ点は,やはり大学というのは2年のコースで全体を学んでほしいということがあるので,切り売りは基本的にはしない方向のところが多いと思うんです。ですが,うちの大学は科目等履修生といって,1科目を受けることはもちろん相談にも乗りますし,我々のところでトライしているのは,やはり2年は長過ぎるので,1年間の科目履修コースという,切り売りではないんですけれども,このメーンを学ぶと1年であるものは学べるというコースはやっていますので,そういう余地はありますし,相談いただければ対応する学校は実は少なくないのではないかと,私の感触としては思います。
【荻上座長】  いわゆるフルコースの学位プログラム以外に,多分,いろいろ用意されているのではないかと思いますが。
【慶應義塾大学前野研究科委員長・教授】  ですから,我々のところは,2年間の修士の学位コースのほかに,1年間,科目履修コース,それから1科目ずつの,ばら売りではないですけれども,ちゃんと相談の上で,その人のニーズに合った参加というのは我々はやっています。
 もう一言,言わせていただくと,やはりビジネススクールはビジネススクールに行きたいという学生が,多分,世の中に何十万人いるので,そういう意見になると思うんですけれども,文理融合のシステムデザイン・マネジメントという我々しかないようなところをやっていますと,実はやはり知名度が低い。もちろん草の根で広がっていて,来たい人がちゃんと集まってはいるんですけれども,認定制度かどうか分からないですけれども,やはりそういう新しい試みをやっていって,時代に合致したところをうまく,その他と言われているところですね。もちろん,いろいろな面白い試みが我々以外にも,青学さんとか,立命館さんとかいろいろなところでありますので,私ども認定するから応募しろと言われるとちょっと抵抗感あるんですけれども,何かうまい形で推奨していただけると,弱者ではないんですけれども,その他連合の人たちはすごくうれしいとは思います。
【荻上座長】  ありがとうございます。
 では,河野先生。
【慶應義塾大学河野研究科委員長・教授】  我々のところも科目等履修とか,それから先ほど申し上げた短期のセミナーであるとか,そういうものはもちろん提供しています。ただ,大学自体はやはりスキルセットという考え方でカリキュラムを組んでいますので,余りにそれを一部分だけでもいいという言い方をしてしまうと,今度は学位の質自体が崩れてしまうというジレンマがあると思っています。
 先ほどから出ている議論について私が思うことは,認定にしろ,エンカレッジする制度にしろ,その目的は何かということがすごく大事であろう。例えば,女性を活用していくであるとか,中小企業の人たちをサポートするとか,何か足りないという人たちに意欲,チャンスを与えるというような,学び直しという言葉でくくられていることの目的は何か。日本の経済社会をもっと支えていくためにこういうことが大事だという目的があって,エンカレッジするなり,サポートする認定の仕組みがあり,そういう上位概念のところがもう少しクリアになってくると,大学側もそれに協力というか,大学側も少し変わらなければいけないと意識付けにもなる。そんな気がして,聞いていました。
【荻上座長】  ありがとうございました。
 どうぞ。
【岩手大学農学部児玉特命教授】  今,岩手大学でやっている,今年,受講生二十九人いるんですが,そのうちの十二名は大学を卒業した方で,八名が短大を卒業した方ということで,そういう方々が農業を継いでいるんですが,やはり学びたいということはかなりあるんだろうなと思っております。
 慶應義塾大学さんのように,すっかり出来上がったシステムでやられているところはいいんですが,今,岩手大学は,佐藤先生は別の講座を持っていながらやっています。それと外部講師で,予算についても県と農業団体から出してもらって一緒にやっているんですが,いつ期限が来るか分からない。実際,27年度で1回目が終わるんですけれども,その後どうしようかというように細々とやっている大学にとっては,文部科学省がこういう形で認定をする,我が校がやっているアグリ管理士がどういう形になるかということもまたあるんですが,いずれそういう形で認定をするということになれば,大学内での位置付けもある程度認識されるので,少なくとも我々としてはやりやすいのかなというように思っております。
【荻上座長】  どうもありがとうございました。
 予定した時間になりましたので,本日はここまでとしたいと思います。河野先生,前野先生,佐藤先生,児玉先生,どうもありがとうございました。
 それから,御発表いただいた新谷委員と田宮委員,どうもありがとうございました。
 それでは,本日の議論を踏まえて,次回までにまた事務局で整理をしていただいて,次回はプログラムの認定の仕組みの方向性等について御議論いただく予定にしております。
 では,事務局の方からお願いいたします。
【牧野専門教育課長補佐】  次回の日程につきましては,資料6にございますとおり,第3回を4月14日火曜日の17時から開催させていただければと思います。正式な開催案内は別途お送りさせていただきます。
 以上でございます。
【荻上座長】  どうもありがとうございました。
 それでは,本日はここまでとしたいと思います。どうもありがとうございました。

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