資料2 鈴木委員提出資料

2015年2月16日(月曜日) 委員 鈴木 道子 (山形県立米沢女子短期大学長,山形県立米沢栄養大学長)

第10回実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議 資料

 
平成27年2月4日第9回有識者会議で、口頭で意見を述べましたが、その時の議論も踏まえ、文書で資料として提出いたします。

 今まで、人文科学系・社会学系の学科を有する公立短期大学及び管理栄養士養成に特化した単科の公立大学学長として発言してきましたが、全国公立短期大学協会に属する立場として、他の公立短期大学の学長もしくは準じた方の意見も含め、まとめました。
なお、あくまでもそれらの方々の意見を伺った上での私の意見であり、全国公立短期大学協会としての公式な見解ではないことをお断りしておきます。また、公立短期大学長の一部は公立大学の学長を兼務しております。

1.大学・短期大学は、実践的な職業につながる教育を行っていないか?

 本会議の出発点は、現行の大学や短期大学について「学術研究を基にした教育を基本とし、企業等と連携した実践的な職業教育を行うことに特化した仕組みにはなっていない。」というところから始まっています。現在の大学や短大では、アカデミッシャン養成をメインの使命としているでしょうか?その点については疑問があります。多くの大学・短期大学では、アカデミッシャン養成はほんのわずかで(そもそも日本社会でそのニーズはわずかです)、卒業生の多くは、実践的な職業人又は実務家として社会に出ていきます。もちろん、現在の大学における教育には様々改善すべき点があることも自覚していますし、改善に向けた努力をしていく必要があると思います。また、一部産業界からの期待に沿えていないことも事実です。
 ただ、少なくとも、厚生労働省医療・保健系の資格に関しては、大学・短大で実践的な教育が行われており、現場で、その教育について「不十分であり、現行の大学・短大とは別の学校種が必要である」というような意見は出されていないと思います。まず、その分野に参入するためには、国家試験合格が必要な職種があります。分野特化の教育の結果、その分野に参入できなければ、実践的職業教育としての意味が低いわけです。国家試験の合格率を挙げますと、管理栄養士については、大学の管理栄養士課程の新卒者の国家試験合格率は昨年平均90%超、専門学校は平均80数%です。同様に、新規卒業者に限れば、看護師、理学療法士、作業療法士等においても、数%は大学・短期大学の卒業生の方が、専門学校卒業生より合格率が高いかと思います。国家試験合格率をもって、どちらの教育が上か下かということは言えないことは十分承知していますが、少なくとも厚労省関係の医療関係職に関しては、「大学・短期大学において、的確な職業教育を行っていない」ということは言えないと考えます。なお、公認会計士や税理士などの資格についても、その合格者の80~90%超が、学歴的には大学卒以上であると言われています。実際は、専修学校とのダブルスクールがかなり多いと思いますが、この点から考えても、どちらが上ということは言えないかと思います。
 看護師養成を行っているある公立短期大学長は、「一般社会や医療関係者の多くが医療・看護専門職に求めるものは、豊かな教養・人格、幅広く深い人間理解を基盤とした高度な専門性」であると述べ、高等教育機関としての「質の保証」が極めて重要であるとしています。医療看護系大学においては、より良い実践的専門職人材の養成につき日頃よりさまざまな議論や新しい試みが現在進行形であるということです。
 以前から、新しい学校種を作るのであれば、分野を限定したほうがいいのではないかとお話してきましたが、産業界からのご発言の中に、医療保健分野の話が含まれていないというのは、本会議の課題であるかと思います。一方、専修学校の中では医療分野は重要な一角を占めているかと思います。今後の日本社会の見通しの中で、医療費がどれだけ確保できるのか、その中で医療にかかわる専門職がどれほど必要になるのか、そのあたりの見通しなしに、量的拡大が起これば、医療にかかわる専門職の質は低下し、有資格者が全く異なる職業に就かざるを得ない状況に陥る可能性があります。

2.高等教育機関としての質保証について

 

 現在の大学及び短期大学の設置基準は一定程度厳しいものがあり、特に開学に当たっての設置審査は厳しく、数年にわたってその準備が必要で、様々な事前調査、調整の後、申請書を提出し、書面審査、ヒヤリング、実地調査などを経て初めて認可されます。長い時間をかけ、多くの関係者の協力により行われています。また、認証評価については、1年以上、大学が総力を挙げて準備しているのが実態かと思います。
今回新しい学校種を作るに当たり、今までの会議の流れから察するに、専修学校(職業実践専門課程)の存在やそこからの一定数の移行が想定されているように思います。専修学校(職業実践専門課程)はすでに470校、1365学科が認定され、今年度も数百校が申請中と聞いています。「このすべてが新しい学校種に移行するわけではないし、できるわけではない」(岡本委員資料)とされていますが、相当数の移行もしくは申請が予想されるかと思います。一定程度の設置基準が設定されたとして、新しい学校種に膨大な数の申請があった場合は、どのように対応していくのでしょうか。 現在の大学の設置認可の手続きレベルで行われるとすれば、数十年かかってしまうでしょうし、1~2年で行おうと思えば、その内容は非常に簡易なものとなり、現在に至る高等教育機関の質保証重視の在り方と逆行するのではないでしょうか。「量」と「質」はトレードオフの関係にあり、一定程度の量がなければ、存在意義がありませんが、量が必要以上に増えれば、質が低下することは目に見えています。
 現在の大学もしくは短期大学と並ぶ新しい高等教育機関を作るのであれば、現行の大学もしくは短期大学で行われている質保証システムに匹敵するレベルのものが必要だと考えます。

3.新しい学校種の位置づけ、名称について

 公立短期大学協会に属する短期大学の学長等の意見は様々です。新しい学校種を作ること自体に、その意味がないもしくは意味が分からないとの意見もありました。作るとしても、一部質保証がなされた専門学校を他の専門学校・専修学校と差別化するという意味で、一条校の枠外で作る方がいいのではないかという意見もありました。ただ、ほぼ共通しているのは、一条校に新しい学校種を位置づけるにしても、現在の大学や短期大学とは明確に区別できる名称にして欲しいということです。公立短期大学の学長等からは、「大学」と付けること自体に、とても抵抗があるという意見が多かったですが、どうしても大学という名称を付けるとしても、「専門大学」という名称は避けてほしい、という要望が多かったです。 「すでに、**工業大学、**経済大学などがあるわけで、そのような大学こそが『専門大学』と呼ぶにふさわしいのではないか」という意見です。
 「専門学校でもない、大学でもない、新たな学校種」を作るのであれば、それにふさわしい新たな名称を考える必要があるかと思います。例えば、「高等実業学校」「ビジネス・スクール」なども考えられるかもしれません。

4.現行の大学・短期大学の設置基準の見直しによる専門学校の取り込み

 現行の設置基準を見直し、適合する専門学校を大学・短大に取り入れる方が、高等教育全体の職業教育・キャリア教育の改善を図るうえで、より効果的であるという意見もありましたが、否定的な意見もありました。
「専修学校は、企業特殊的な能力の更新やフリーター支援等の社会人の再教育を、大学・短大よりも柔軟な方法で提供できるという制度的な強みを持っている。専修学校の大学化が、こうした職業教育・訓練の機会を減じることがないような工夫が求められるのではないか」という意見もありました。現在専修学校では、多くの若者が(そしてそれほど若くない人も)多様な分野で重層的な学びを進めていると認識しています。カリキュラムについても、専修学校はフレキシビリティがあり、時代の流れや企業のニーズに迅速かつ的確に対応することが可能かと思います。そのような現在専修学校が有する大学制度とは異なる利点・強みを伸ばし、質的充実を図り、大学制度と並立する新たな高等教育機関としての整備を行っていくことも重要かと思います。大学と専修学校、新たな学校種がより密に連携しながら、学生にとってよりよい教育を進めていくことも重要と考えます。

 以上、公立短期大学協会に属する他の短期大学の学長等の意見も踏まえての意見表明でした。

私個人としては、以前の意見表明で、以下のように述べました。
・実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関については、様々な状況にある若い人々が希望をもって人生を歩むための選択肢の拡大や、長い人生の中で、方向転換を希望したときの選択肢の拡大という視点から期待します。
・それとともに、地方における人材定着、地域活性化への期待もあり、そのためには、制度化以後の話ではありますが、個別教育機関認可に当たっては、地域のニーズ、状況等を充分に考慮していただきたい。

今でも変わらない思いでいますが、本会議が進むにつれて、新しい学校種ができることにより、いたずらに既存学校種との競合が起こり、ただでさえ人口減少が顕著な地域において混乱が起こるのではないか、さらに都市部への若者流出が起こるのではないか、そもそも我が国の高等教育機関そのもの、そこで養成する専門職の質の確保は大丈夫なのかという危惧の念も生まれてきました。
慎重なご審議をお願いいたします。


以上

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