独立行政法人日本学生支援機構の在り方に関する有識者検討会第2回第1ワーキンググループ(平成24年6月20日)の議論の主なポイント

資料1

<ヒアリング>

○学校関係者

  • 新入生の奨学金希望者に対しては、独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」)の奨学金に採用された場合は、月々決められた額が学生自身の口座に振り込まれ、卒業後、長い期間をかけて返還していくという説明を、大学入学時に行っている。
  • 卒業学年の奨学生に対しては、在学中に、返還のための口座を開設すること、転居した場合は機構に届け出ること、返還金を延滞すると個人信用情報機関に個人情報が提供され、ローンが組めなくなる場合があること等について、卒業後の返還に関する指導を行っている。
  • 適格認定を通じて、成績が振るわない学生について、不登校の状況が見えてくる場合がある。そのような場合には、教員と情報共有し、適格認定を通じて判明した不登校等の状況を、修学指導に生かしている。適格認定は、大学としては労力がかかるが、教育的側面からも重要な制度だと認識している。

○金融機関関係者

  • 奨学金と教育ローンの違いは大きく三つあり、一つめ目は貸付対象者が学生本人か保護者かということ、二つ目は返済力の審査、与信判断の有無、三つ目は月々の貸与か、入学前や入学後の一括融資によるまとまった資金需要への対応かという利用者の資金ニーズの違いである。
  • 債権回収業務は入り口の与信判断と密接な関係があり、デフォルトが増える場合は、与信判断が適正に行われていない可能性があるという捉え方をするため、収支相償が原則の日本政策金融公庫としては、審査方法の高度化を進めている。
  • 融資としての教育ローンは審査がある。仮に金融機関が奨学金と教育ローンの二つを持った場合、奨学金は利用できるが、審査の結果、教育ローンは融資できないということになると、顧客の理解が得られにくいのではないか。そもそも性格が異なる奨学金と教育ローンを同一の機関で実施することについては疑問がある。

○有識者

  • 教育費の負担については、公的負担するということは福祉国家的な考え方であり、北欧諸国に強く見られ、高等教育を含め授業料は無償、生活費は給付型奨学金またはローンで賄い、教育費を個人がほぼ負担しないというものである。一方、日本は、教育は個人のためという考え方に基づく私的負担を基本としており、私的負担の中でも、アメリカなどのように学生本人が負担するという個人主義の考え方が強い国と、日本などのように教育費は親の負担であるとする家族主義が強い国に分かれる。公的負担が重くなってくると、スウェーデンなど一部の国を除き、次第に本人負担主義に移っているのが現在の大きなトレンドである。
  • 奨学金は、教育の機会均等を目的とした学生への経済的支援として個人にとって重要であるが、社会全体としても有為な人材の損失を防止するという意味で非常に重要な役割を果たしている。この場合、授業料と奨学金を合わせて考えることが非常に重要である。
  • 諸外国では、学生によって異なる戦略がとられている。すなわち、高い授業料を支払う意思のある学生からはフルコストを徴収、大学が望む学生には手厚い給付型奨学金を支給、低所得層には公立大学の低授業料や政府の給付型奨学金を支給、中所得層には貸与型奨学金(ローン)で教育費負担の軽減を図るなどである。また、法律、医学などの専攻や、ビジネススクールについては、将来の期待所得の大きい職業に就く可能性が高いため、費用を高く設定しローンで対応するのが一般的な手法となっている。
  • アメリカにおいては、2010年にオバマ政権が政府保証民間金融機関ローンを廃止し、政府が直接ローンを学生に貸すという方針になっている。なお、現在のローンの手数料は1%である。
  • オーストラリアでは、授業料相当額を卒業後に後払いする制度が導入されており、支払額は所得により決定される所得連動型となっている。また、専攻により異なる価格設定がなされるが、これは必ずしも教育コストに応じているものではなく、将来の見込み所得が高くなる専攻は支払額も高く、しっかりと貢献してもらうというスキームになっている。
  • ローンの回収スキームとして注目されているのが所得連動型で、卒業後の所得に応じて返済するシステムである。所得が最低額以下の場合には返済が猶予され、国によっては、一定期間や一定年齢で返済を免除する仕組みもある。例えばイギリスでは所得の0~3.6%程度を支払い、25年返済した後、残額があれば免除される。また、所得から源泉徴収される場合も多い。
  • 諸外国において、一定の条件を満たした場合の返済の免除はかなり広範に行われているが、機構の奨学金においては、死亡・心身障害による返還免除を除き、大学院生の一部のみが返還免除の対象であるということは、諸外国と比較して、かなり異なる部分である。

<自由討論>

○債権回収・債権管理の在り方

  • 金融的手法の導入について、貸付の段階では、奨学金には与信の審査がないという点で金融機関との大きな違いがある。収入がない無資力の学生に、融資し、出世払いのような形で回収するというノウハウは民間にはないのではないか。
  • 回収の部分では、個人信用情報機関への登録や民間への業務の外部委託等、フローの部分で見れば金融的な手法は、ある程度導入できているのではないか。
  • 奨学金の原資が国の資金であることも考慮しつつ、長い期間債権を管理し続けるコストを考え、現在の償却の条件を見直すという議論もありうる。無担保の債権を10年経過後、回収することは極めて困難である。

○調査・分析機能の在り方

  • 民間の金融機関の場合、貸付の際に審査を行い、属性をすべて把握した上で融資を行う。また、貸付の翌月から返済が始まるため、入金が遅延したとしてもすぐにコンタクトを取れる状態にある。奨学金は返還開始が卒業後であるため、貸与中の学生の状況を把握する手段がない。就職する段階で学生の状況を、どういう形でどれだけ把握出来るかが大きなポイントである。債務者の状況調査等、さらに業務委託する可能性があるかもしれない。
  • 貸与中に機構が学生の状況を把握する仕組みをもう少し作る必要がある。
  • 長期的な統計や調査をどのように考えていくかはこれから強化していく必要がある。

○適格認定の在り方

  • 学校関係者のヒアリングにおいて、適格認定が有効に機能しているとの話があったが、成績が良くて卒業すれば、就職して将来返還できる見込みも高いことから、適格認定の仕組みをもう少し大学と連携していくということも考えても良いのではないか。
  • 適格認定において、今の大学生活を続けられるのかというポイントに加えて、どのくらい充実した大学生活を送っているのかということが把握できると、データを色々なものに使えるのではないか。例えば、給付型奨学金の前段階の制度として返還免除の制度が考えられる。適格認定により、絶えずインセンティブを与えた奨学金制度にしてはどうか。

○奨学金制度に関する理解の促進

  • 「奨学金」という名称について、国際的には、貸与型のものは大体ローンという言い方が定着している。「奨学金」という名称は、長い歴史的経緯があり、名称をどうするかは大きな問題ではあるが、現行の無利子・有利子奨学金にも利子補給等の給付的要素があるが、検討が必要な時期に来ているのではないか。

○学校との連携(役割分担)の在り方

  • 学校との連携について、アメリカにおいては、ローン負担が問題となっていることもあり、大学では入学時と卒業時に奨学金についてオリエンテーションを行うことが義務になっている。現在は、高校でも説明会を開くべきかどうかが議論されている。
  • 現在議論が進められている大学ポートレートに、奨学金の状況等の情報を載せることも、情報提供の一つとして考えられる。
  • 大学側の事務負担と機構側の事務負担をどのように考えていくかも論点になるのではないか。

○新たなニーズ・制度等への対応

  • 給付型奨学金が充実されることが理想的で望ましいが、財政事情から貸与型の規模が年々拡大してきており、給付型奨学金の代わりになるのかという問題がある。既存の貸与事業の規模が本当に適正なのかということは論点になるのではないか。
  • 国の事業としては給付型奨学金が必要だが、やむを得ない事情で貸与型奨学金を充実させており、無利子を増やせないということもあり有利子を増やしてきた経緯があるが、これは妥当だったのか。
  • 奨学金の返還方法について、通常はローンと同様に定額の負債(debt)を返済する形式を取っている。これ以外の方法として、出資のような形で、将来所得の多寡に応じて返済額を増減させ、所得の低かった者の返還額を低くする代わりに、高所得になった者からはたくさん返してもらうことで、制度全体としてバランスを取るようなエクイティ(equity)型もある。スチューデントローンは伝統的にデット型だが、少しエクイティの要素も入れた方がよいのではないか。
  • 無利子奨学金・有利子奨学金それぞれの役割を持っており、有利子奨学金を抑制して、これらの制度の上に給付型奨学金を導入できれば良いと思うが、給付型奨学金については、公平性の点から、国民が納得する十分な受給基準を作る必要がある。
  • 受給基準について、育英的な観点か、奨学的な観点かは、国によって色々な考え方がある。中国やアメリカには優秀者対象の奨学金がある。ただし、オバマ政権はあまり力を入れていないが。日本の大きな特徴は、育英と奨学の両基準を併用していることである。
  • 将来、社会保障・税番号制度が導入されれば、所得の把握が可能になるため、毎年返還者の所得を把握するということを考えても良いのではないか。
  • 所得に連動した返済方式として、成功して高所得になった者からは貸与額よりも多くの額を返還してもらい、その分、実質的に返還を軽減する層を増やすことにより、給付型奨学金に近いような効果を強めるといった工夫を積極的に考えるといったことは言及した方が良いのではないか。また、制度設計に当たっては、アメリカやオーストラリアのように所得から源泉徴収する仕組みを参考にしてはどうか。

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