獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議(平成23年度~)(第15回) 議事要旨

1.日時

平成26年1月31日(月曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省6F3会議室

3.議題

  1. 獣医学教育の改善・充実について
  2. 入学定員の在り方について
  3. その他

4.出席者

委員

伊藤座長、酒井座長代理、石黒委員、尾崎委員、藏内委員、榑林委員、菅沼委員、竹中委員、中村委員、平井委員、政岡委員、村上委員、横尾委員、吉澤委員

文部科学省

牛尾専門教育課長、児玉専門教育課長補佐

オブザーバー

藁田農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課長、滝本厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長

5.議事要旨

議事の概要:
事務局から配布資料についての確認があった後、以下のとおり議事が進行した(◯:委員、●:事務局・オブザーバー)。

 

(議題1について)
村上委員より、日本ハム株式会社の事業概要及び同社における獣医師の役割について発表があった後、意見交換があった。

○ いろいろな職種に散らばるとは思うが、会社にはどのくらい獣医師がいるのか。
○ 農場にいる獣医師ならはっきり分かるが、グループ全体に職員としてどのくらいいるかは分からない。
○ 海外の農場に日本人の獣医師が行っているが、海外の獣医師免許を持っているのか。
○ 持っていないと思う。現地の獣医師免許を持っている人と一緒にやっている。現地で日本人獣医師が獣医療行為をしているかは分からない。
○ 獣医師の採用は農場・研究所でそれぞれ実施しているのか。
○ それぞれで採用を実施している。お互いの人事交流もない。昔はあったが、各部内が子会社化していく中で、農場は農場で自前で採用せよということになった。豚の農場で採用された獣医師はずっと豚を担当、鶏の農場の場合はずっと鶏ということになりお、なかなか交流がなくなってしまった。
○ 研究所で獣医師を採用する際には何を重視しているか。
○ まずは人事部が基礎的な資質や人間性を見る。グループディスカッションでリーダーシップ等を見て合格した人の中から研究所が採用していく。ディスカッションのところで落ちる獣医系大学の学生は多い。
○ 専門性よりは人間性を重視している、ということか。
○ その通り。
○ 10年~20年後の食品業界での事業展開を見据えた際、今の事業形態に足りない部分はあるか。
○ 少子高齢化やTPPを含めた海外の状況を考える必要がある。TPPが発効されたら食品産業の構造はかなり変わる。飲料業界に見られる動きのように、食品業界も今後は国内事業だけでなく海外事業を拡大する方向に流れていく。
○ 最近は健康科学の観点で食に注目が集まっているが、食肉のカテゴリにおいても健康関連の製品開発等新たなビジネスモデルはあるのか。
○ 我々の強みは食肉原料を豊富に持っていることで、食肉の未利用部分、つまり肉以外の部分など、利用性の低いところからいかに付加価値の高いものを抽出するかが一つの課題。例えば最近は動物性の肉に含まれており抗疲労効果の期待されるアンセリンアンノシン等に注目が集まっている。食を通じて脳等に影響を与えるような健康食品といった分野は広げていきたいと考えている。
○ 栄養・嗜好などを充足するだけでなく、健康・疾病予防に介入するような商品の研究開発を行っていく人材として、獣医師はどのくらい注目されているか。
○ 特に獣医師でなければならないということではない。ただ、畜産分野の人材でもいいが、獣医師の方が動物の生理をよく理解しているので、個々人が興味を持ってくれれば幾らでも活躍するところはあるし、強みになるとも思う。
○ 獣医学教育の6年間のカリキュラムで教えられた知識はそのような研究開発の領域でどれくらい価値があると感じているか。薬学や畜産学等の領域の教育と比べて獣医学は比較優位があるのか。
○ 価値はあると思う。医師に近い勉強をしており、一つの動物実験でどういうところにどういう影響を与えているのかというイメージがつきやすく、その後の展開を考える力も広いと思う。
○ これからの食と健康が結びつくような研究の中で、獣医学は価値のある教育プログラムか。
○ 価値はある。知識や能力も高い。だが、表現力の部分等で採用では落ちてしまう。
○ 現場から人事部に影響力は行使できないのか。
○ どうしてもこの人をということがあれば行使できるが、そういう人はなかなかいない。
○ 今は日本の農産物の海外輸出に力が入れられている。各国で事業が展開されている。日本の農畜産物の消費拡大が今後期待できる地域や国はあるか。
○ 中東と中国。
○ 中東だとハラル等の問題があると思うがクリアできるか。
○ ハラルの認証を受けた屠場を作ることで解決すると思う。お金がかかるので二の足を踏んでいるというところ。
○ 海外で活躍する獣医師を育てるには語学等が問題ということだが、そうした海外で活躍する獣医師の育成に特化した大学院教育には意味があると思うか。
○ そのような人材が企業に来れば欲しいと思うが、そういう方が力を発揮するとすれば、国際機関、WHO等を狙った方が国の役に立てるのではと思う。
○ 現在6年制の教育は充実してきたと思うが、ものすごく学ぶことが多い。一通りの資格を持って、その後大学院で特殊性を身に付けるのも大きな力になると思う。
○ 募集しても人が来ないということだが、豚や鶏を育てる教育はできていない。会社の中で人を育てないで、海外に送りだして育てるということは考えているか。
○ インターファームならインターファームで採用し、育成して、その中だけで完結してしまっている。以前は本社が採用して各農場に振り分けて、海外に行ったりしていた。人事部に投げかけてはいるが、米・豪・日で豚や鶏を見るローテーションのシステムができれば非常に魅力のある職場になると思う。会社としてはそういうことを目指さなくてはいけない。
○ 現地の獣医師免許を取った日本人の獣医師がいる必要はないか。現地の獣医師と日本の獣医師がグループとして牧場を運営できれば会社としては問題ないということか。
○ 問題ない。実際に臨床をしなくても現地で獣医がいれば、指導や管理で携わっていればいいかと思う。
○  大学には豚や鶏専門の研究者はいる。しかし、豚や鶏の飼養管理全体をコーディネートできる獣医師を育てることができないという課題があり、この原因の一つとしては豚や鶏の農場が巨大化して学生が実習にいけなくなったということがある。この状況を変えるために宮崎大学と協力関係にあるとのことだが、そうしたものを更に広げる、企業側から大学側に協力できることを教えてほしい。
○ 農場の獣医師に聞くと、実習を受け入れるということはやっていきたいと言っていた。
○ 人が入ることによって、病気の問題があるが。豚の農家と付き合いがあるが、恐ろしくて中に入れないというところがある。
○ ルールはどうするかということはあるが、一切お断りということはない。
○ 宮崎大学では、エコ豚の施設を作り、共同教育拠点に認定してもらった。エコフィールド、農場の方でも、今度、豚の飼育を行える施設を建設する予定。教育ということであれば全国の大学にも利用してもらえればと思っている。

 

(議題2について)
事務局より、獣医学関係学部・学科の定員管理の経緯、本会議におけるこれまで議論等について説明があった後、意見交換があった。

○ 定員の話をする前に日本の人口がこれから2050年までにどう推移するかを考えなければならない。これから日本は世界と正反対の人口動態を描く。2030年には高等教育の対象となる人口が100万人を切る。人口規模が小さくなる中でいかに高等教育を維持していくのかを考えなくてはならない。特に獣医の場合は対人口比の点では一つ議論が進んでおり、獣医に関しては養成数を増やさず現状維持とした場合であっても、諸外国と比べても突出した対人口比となる。そうした状況の中で必要な獣医師数をどう確保するのか、質の充実をどうするかが問われている。また、獣医学教育はライセンス教育であることを前提としつつ、獣医師に求められているライセンス以外の分野をどう充実するのかを検討する必要があり、これについては大学院教育を視野にいれた展開をしなくてはいけない。現在生じている獣医師の偏在や不足分野にどう対応するのかを考えると、認定やそれに特化した分野の枠を作るという方法で対応しながら、規模縮小を目指すべきではないか。
○ 今の話を伺っていると、定員を増やす必要はない、というのが率直な気持ち。いろいろな努力すれば課題となっているものは解決できるのではないかと思う。地域偏在・職域偏在については現在の定数の中で教育内容を充実していくことで解決できないことではないと思う。難しいし時間のかかる問題だとは思う。例えば産業動物獣医師の地域偏在について、我々は十数年間、公務員獣医師の処遇の改善に向けた努力をしてきた。かなり前進も見られ、改善されてきているが、まだ完全ではない。国としても、処遇改善の認識はしてもらえたが、国から地方に命令はできないということで、もう一度、地方でやり直そうということにもなった。全国知事会では1回やったので、次は都道府県の地方議会の意見書として意見を集約しようと考えている。また、1週間前に開催された全国議長会においても、今の地方公務員の獣医師の処遇を改善すべきという、全員の合意が得られた。
そのような中で、例えば今、四国のある県が、公務員獣医師のなり手が少ないので大学が必要、地域活性化のために獣医学部が必要と言っていることは知っている。この協力者会議の話でもあったように、地元に獣医系大学を作ったからと言って学生が地元に残るということはありえない。地域がそれだけの受皿を作らないと公務員獣医師としては働かないことは明確。地元に大学がなくても、処遇改善されていれば公務員獣医師の成り手が来ることはもう既に明らかになっている。そういう努力を続けていくべきだ。
○ 協力者会議の位置づけについて、この協力者会議で一つの大学の新設、特区に対する考え方がまとまった場合には、政府はこの意見を尊重するのか。この会議は獣医学教育の改善・充実のための会議であって、大学設置のためではないということでよいか。
● この場は、個別の案件について良しあしを審議する場ではない。獣医学教育の改善・充実という大きな方向性の中で、定員の在り方についても議論いただくということ。定員の在り方に関する方向性は、その結論に沿って対処したいと思う。個別の案件については別に審議会がある。
○ 獣医療から離れたところで仕事をしている人間の意見として。今の日本社会を維持していくために必要なライセンス数はどれくらいかということは、大学の定員や質を考える上で大事な要素。もう一方で、日本が人口減少する中で今後発展する際に必要なライフサイエンスの発展を支える人材のソースとしての獣医学部の在り方は、ライセンスの数とは別にしっかりと考えていく必要がある。100年以上の間磨き上げられてきた獣医学のカリキュラムセットを、どうやって日本の発展に生かしていくのか。その視点からも考えていかなくてはならないのではないか。
○ 今の獣医師のライセンス部分の業務は国内の仕事が主であり、海外での仕事がそれほど増えないならば、国内人口が減っていくにしたがい獣医師需要は少なくなる、あるいは変わらないということになる。一方、獣医学分野からも、ライフサイエンス分野でグローバルに活躍できる人材が輩出されているので、それを失くしてしまうのは非常に残念。定員を減らした場合、優秀な人は出にくくなるのではないか。大学院を充実するために、その母集団となる学部の規模がどのくらいが最適か、非ライセンス部分である研究者を残すという点で配慮が必要。
○ ライフサイエンス分野は大事にしていかなくてはいけない。これまで獣医療は動物だけに目をあてていたが、産業動物の食の安全や人獣共通感染症等、獣医師には人間の健康を守る役割がある。そこで、日本医師会とも協議し、インフルエンザ等人に脅威をもたらす感染症等について一緒に研究ための協定を結んだ。獣医学と医学はライフサイエンス分野で新しい職域も出てくるのではと期待している。
○ 学際医療が交じり合うことが国力の源泉になると思うので、そのような協定ができたことはすばらしい。
○ 私の研究室は特殊な環境かもしれないが、この40年間で輩出した約100名の学生のうち獣医師免許を使っているのは10名以内。私自身もそうだが、9割以上が、ライセンスを使っていない。
○ 定員の問題と、現在の獣医師が足りているのかいないのか、なぜ足りないのか、問題を整理する必要がある。全て待遇・処遇・学生支援という経費の問題だと思う。それが解決すれば偏在もなくなる。獣医師手当をどうするのか。医師免許には32万ついている。獣医師に10万15万をつければすぐに解決してしまう。大学院についても、学生支援をしっかりすれば、進学したい学生はたくさんいる。また、獣医師の就業動向として、非従事者は12%でずっと続いてきている。医師の方は0.7%。ここにも、処遇の問題が影響しているのではないか。
○ 非従事者が12%と非常に高いことについて、獣医師会でも分析調査をしたところ、女性で結婚・出産を機に離れ、職に復帰できないという人が多かった。女性をもう少し獣医の世界に復帰できるようにする、あるいは継続的に獣医師をやっていけるような社会システムを作れば、かなりの部分偏在を解消できるということが分かった。
○ 獣医学教育の6年課程は、ライセンス教育に特化したカリキュラムになっているが、獣医師は社会に出たときにいろんな分野で活躍することが期待されている。ライフサイエンス分野も視野に入れた教育が必要で、大学院の充実が必要であろうというのは賛成。宮崎大学では、獣医学研究科と医学研究科が一つの大学院を作っており、先進的な取組のモデル。次回の協力者会議で取組をお聞かせいただきたい。
○ 既に4年目に入り、初めて1期生を卒業させることができた。非常に大きな変化として、大学院に進学する獣医学科の卒業生数が増えた。また、医学・獣医学間の共同研究が非常に進んでいる。獣医学の教員の力で、トランスレーショナルな研究が展開しており、既に15編くらいの高いレベルのジャーナルに論文が共著で出ている状況。そういう意味で獣医学の教員の力は大きい。特に健康という要素から考えると、これからは医と獣と共同で教育研究を進めていかないと対処できないのではないかと思う。
○ ライフサイエンスの人材育成について、獣医学教育の質が向上されれば当然そこに行く人材はたくさん出てくるだろう。平成24年8月に協力者会議で作成した工程表にあるとおり、国際水準の獣医学教育の提供ということが我々の共通の認識の中で進んでいる。教育サービスの向上を目指さなければならないという議論が大前提。工程表の実施について検証されなければならないし、その上に立って新しい獣医学教育の構築を考えていくべきだ。
○ 獣医師の活動分野がいろいろあるという話だが、地域に関係する分野と、地域ではなくオールジャパンの分野があると思う。産業動物の分野は地域と密接な関係がある。NOSAIでは、全国上位10県に全体の4分の3の獣医師がいる。産業動物獣医師が不足するという話も出ているが、主たる地域では実際は問題になっていない。バランスは違うかもしれないが、公務員獣医師も同じような問題だと思う。大学も、それぞれの地域とのつながりや分野は少しずつ違う。総合的に整理するのではなく分野ごとに丁寧に見ていかないと誤るのではないか。
○ 国際基準を満たす教育の評価の在り方について、大学基準協会では第三者評価という形で議論している。まだ十分な見解は得られていないが、一応素案が出てきている。協力者会議でも目にとまるような形で議論できれば、また新しい展開もあるかもしれない。
○ この議論については今年度中に本協力者会議としての意見を集約しなければならない。次回、論点をもう一度整理して、どういう形で意見を集約していくかということを検討していきたい。
○ 獣医学部としての地位を得ることも、教育の充実にとって重要。農学部の中の一つという位置づけになっているが獣医学部となることで質も向上し、ライフサイエンス分野の期待にも応えられる充実した獣医学教育を提供することができるのではないか。
○ 学部になれれば、大学の評議員の中のメンバーに入ることができ、大学全体の運営管理の中で発言権を得ることができる。また、学部内の学科の一つだと、いろいろな国の予算に応募するにも、まずは学部内で勝ち残らなければならない。
○ 宮崎大学は、農学部の一学科ながら、学長の御理解もあり、医学部とうまくチームが組めている。他大学の場合は、獣医学科の意見は農学部の中の一意見としてしか扱われず賛同が得られにくいので、農学部の中にありながら医学部と連携することは難しいようだ。将来的には学科ではなく学部になっていた方が、獣医学の有する専門知識をライフサイエンス分野に生かしやすいと思う。
(以上)

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