資料2

論点整理~これまでの議論より

●:ヒアリング発表者の意見より抜粋
○:これまでにあった意見より抜粋(第9回協力者会議終了後に委員から寄せられた追加意見を含む)

【1】教育改革の進捗状況のフォローアップと今後の推進方策について

(1-1)モデル・コア・カリキュラム導入に伴う教員体制の整備

○ モデル・コア・カリキュラム導入等を踏まえ、教育組織の人員数をトータルでどうするのか、また、単に教員数を充足させるだけでなく、教員陣の質をどう充実させるかについても議論する必要がある。
○ 専門家が不足している分野について、長期の教員養成に取り組むことと並行して、隣接分野の教員も学生を指導できるよう努力すべき。
○ モデル・コア・カリキュラム対応の教育は大学の責任で行い、アドバンス部分についてはそれぞれの地域や職域等と協力して対応することを原則としてはどうか。
○ 各大学で努力しているアドバンス教育について、ICTの活用実態も含め、他大学にも積極的に紹介していけるような共同利用センターのようなものがあればよい。
○ モデル・コア・カリキュラムが進路動向に与える影響は数年経たないとわからない一方、アドバンス教育は学生の就職動向に直ちに影響を与えると考えられる。アドバンス教育の方向性や内容について、各大学とも早急に議論が必要ではないか。

(1-2)共同教育課程の推進

○ 教員の総数が増加しても、教員の分野構成は変わっていないことから、そのままでは臨床や公衆衛生関連教育スタッフの充実には結びつかない。内部での分野構成の見直しや臨床教育の機能分化など、さらなる努力が必要。
○ 共同教育課程の推進と更なる教育体制の充実について議論するため、共同教育課程の成果や、教育費用に比する学習効果については完成年度前であっても検証するべき。
○ 共同教育課程が恒常的な制度のように言われることには違和感を覚える。教育の質保証さえできれば、この形に限らず多様な教育パターンがあってもいいのではないか。
○ 組織統合まで行かなくても、せめて学生をどちらかのキャンパスに集めることについては引き続き検討してほしい。
○ 過去には「獣医学教育の改善・充実には国立獣医系学部学科の再編・統合しかない」との議論もあった。これを中途半端に終わらせぬよう、絶えず意識する必要がある。

(1-3)臨床教育の充実について

【授業科目の充実】
● 多くの大学で、従来はなかった科目を開設して教育の充実が図られている。
● 導入教育を行い、臨床獣医学の多様性と社会的役割について理解させるとともに、臨床実習にスムーズに参加できる環境づくりにつとめている大学も多い。
● 各大学のカリキュラムについて、臨床系科目の開講数、各科目の開講時期などのばらつきが大きい。
○ 臨床科目の年次配当が大学によってあまりに異なっていると、今後の共用試験導入に大きく影響する。

【参加型実習】
● 各大学とも、臨床実習の充実に向けた取組が活発であるが、附属病院における臨床実習の手法や期間、伴侶動物と産業動物の比重については大学ごとの差が大きい。
● 臨床実習の実施に際し、「臨床教授」等の称号でNOSAI所属獣医師や開業獣医師を教育スタッフとして任用する例、研修医を活用する例も見られる。
○ 臨床実習を充実させていくためには、国際水準からも見劣りしている附属病院のハード面(建物・設備)・ソフト面(人員・診療科目数等)の整備充実を図ることが必要。
○ 産業動物臨床実習について、大学が責任を持って教育環境を確保することが基本であり、農業共済組合(NOSAI)に全て任せてしまうような実施の仕方はよくない。
○ 産業動物臨床実習のうちモデル・コア・カリキュラム対応部分については、共通の実習センターを全国に数か所作って実施する方が、関係者の負担は減る。
○ モデル・コア・カリキュラム導入に伴う臨床実習内容の変更等について、大学側は会合の機会を積極的に活用して説明する必要がある。並行して、農林水産省のNOSAI担当経由で連絡すれば、現場としても対応を検討しやすいのではないか。
○ 参加型臨床実習のガイドラインについて、まだ検討を行っている大学は、早急に整備を完了する必要がある。
○ 参加型実習の実施のため、海外大学のようにレジデントの受入れを促進し、彼らを活用することも重要。また、外部と連携する場合は、ボランティアではなく、雇用契約を結ぶなどして役割と責任を明らかにすることが必要。
○ 東大と岐阜大が基幹校となって実施しているインターンシップ関係の事業が来年で終了してしまう。急いで継続方策を検討しなければならない。

(1-3)国際的動向を踏まえた獣医学教育の改善・充実について

【獣医学教育の国際通用性の確保】
● 獣医師免許の国際的通用性を確保するためには、AVMA‐COEやEAEVEによる認証評価を受けることが必要。
○ 国際社会における我が国の影響力は非常に大きい。我が国の獣医師に係る課題について早い段階で自身できちんと解決し、欧米諸国に伍する教育制度をつくることが必要。
○ 獣医師は国家リスクを前面でとどめている職業であり、獣医師なくしては国が進むことができない部分があるので、その点からも、獣医学教育の改善・充実は重要。
● 現行のモデル・コア・カリキュラムは、国際獣疫事務局(OIE)が非常に重視しているリスク・アナリシスについての重点の置き方が足りないと思われる。
○ 現行モデル・コア・カリキュラムは、その作成の際にOIE提言の基本コンセプトを読み解いて取り入れたことから、基本的にはOIE基準を満たしていると考えている。

【獣医系大学の規模】
● 我が国の獣医系大学は規模が小さすぎ、社会的なニーズに合わせた臨床教育や獣医公衆衛生の細分化、学際領域への対応が難しい点が課題。
● 欧米の獣医系大学の平均的なアカデミックスタッフ(教員)数は150人で、我が国の標準的な大学の3倍の規模。また、我が国の大学の職員数は、欧米の獣医系大学の事務職員・技術職員数に比べるときわめて少ない。
● 我が国の獣医系大学におけるサポーティングスタッフ数は、欧米の大学と比較すると極端に少なく、必要な教育研究診療業務を著しく圧迫している。
● 我が国の獣医系大学と欧米の獣医系大学とで学生対教員比はそれほど変わらないが、学生数について言えば欧米の獣医系大学の平均的な規模は600名で、共同教育課程導入前の我が国の国立大学の規模の約2.5倍である。
● 欧州のように、大学院カリキュラム内に各教育分野の教員養成プログラムを構築し、教育後継者の育成を図るべき。
● 欧米の獣医系大学の動物病院の教職員数は、日本に比べ非常に多い。また、レジデントやインターンの制度が発達し、教員数に匹敵する数の獣医師が診療に当たっている。
● 欧米の獣医系大学の動物病院では、専門診療科が細分化されて高度な臨床教育が行われている。

【2】公務員・産業動物分野の獣医師の育成に向けた今後の獣医師養成の在り方(入学定員の在り方を含む)について

(2-1)伴侶動物獣医師について

【伴侶動物獣医療の高度化・分業化】
● 伴侶動物の飼育頭数は、平成32年をピークに減少に転じることが予測される。そのうえ、動物看護師の定着などにより獣医療の分業化が進めば、獣医師の需要は減少することが予想される。
● 一方、動物の高齢化に伴う医療需要の増加が進めば獣医師の需要は増加する。
○ 伴侶動物の飼養動向を念頭に置けば、将来的な伴侶動物獣医療の需要減は明らかであり、産業動物獣医療などに比べると需給は読みやすいのではないか。
○ 高度な獣医療を求めるクライアントも増えている。全ての獣医師が最初から高度獣医療に携われるわけではないが、経験を積む中で専門分野に特化していくという流れはあり得るのではないか。
○ 動物看護師が公的資格になれば、その職域は、伴侶動物診療だけでなく、産業動物、野生動物、実験動物にも広がっていくことが予想される。
○ 一方で、動物看護師については、法律等に抵触しない範囲でどこまで業務をできるか等職域の設定が必要。また、給与等処遇に関する課題もある。

【獣医師の海外展開】
● 日本人獣医師のアジア等海外への進出も、獣医師の需要増の要因となりうる。
○ 日本人の獣医師が海外で活躍できる環境が整うことは、外国人の獣医師が我が国に流入することにもつながり、その分、日本人獣医師の需要は減少することが想定される。
○ 獣医師が海外でも活躍できるようになるには、大学における英語教育の充実が必要。
○ 海外で高度な専門教育を受けた獣医師が日本に戻ってこない傾向もある。

(2-2)産業動物獣医師について

【NOSAIにおける獣医師採用の動向】
● NOSAIにおける獣医師採用状況について、全国的に見れば、団塊世代の退職に伴う採用増を開始した平成17~21年の間は10~20人程度の未充足が毎年続いたものの、平成22年以降は毎年必要な人員が概ね確保されている。
● 獣医師の採用に困難を抱えている都道府県も複数あり、偏在が課題となっている。欠員が生じている場合は退職者の再雇用で対応しているのが現状。
● 調査によると、獣医学部に入学して間もない学生の多くは、産業動物獣医療の分野を就職の際の選択肢の一つと考えており、条件が合えば就職してもよいと考えている。
● 産業動物獣医療の分野でインターンシップを経験した学生は、そうでない学生に比べて産業動物獣医師として就職していく割合が高いこともわかった。
○ 現在、NOSAIでは全体として就職を希望する学生を全て採用できていない。
○ 47都道府県のNOSAIに同一レベルの受入能力があるわけではないため、臨床実習の時点で学生の受入数に差が生じている。これが就職時の志望動向にも影響を与え、結果として採用に困難を抱える都道府県を生んでいる。
○ NOSAIを志望する者を増やすためには、毎年一定人数の採用があることが重要。
○ NOSAIが魅力ある就職先となるには、獣医師の処遇や診療点数の改善のほか、ジョブシェアの普及など、女性が仕事を続けていく環境を整えていくことも肝心。また、大学において、獣医師の仕事に対するイメージと実際のギャップを埋めることも大事。

【産業動物飼養の動向など】
● 家畜を飼育している農家の数が減少傾向にあることは、獣医師の診療効率を向上させ、ひいては獣医療に対する需要を減少させる要因となる。
● その一方で、農家1戸あたりの家畜飼養頭数が増加傾向にあることを踏まえると、飼養農家からの獣医療に対するニーズの高度化、専門化が予想される。問題は、こうした高度化・専門分化したニーズに対応できる獣医師が限られていること。
○ 獣医はあくまでも病態の把握や患畜の治療を旨とするもので、産業としての畜産を考えた時には、有能な畜産技術者を育成・配置して、病気にならない・なりにくい健康な個体を育成し生産性をあげるという施策の方が重要。畜産技術者の育成コストは、獣医師の育成に比べれば小さい。

(2-3)公務員獣医師について

【公務員獣医師の確保方策】
● 公務員獣医師の確保に向け、追加募集の複数回実施、全国獣医系大学での就職説明会やインターンシップの実施、獣医師養成確保修学資金貸与事業の活用等の工夫が行われているが、一部の地方公共団体においては必要人員が確保できない状況が続いている。
● 女性比率が高いこと等もあり、中途退職者が毎年一定して発生している。今後10年において大量の定年退職者が出る予定であり、安定的な人員確保が課題。
● 受験資格年齢条件の引き上げによる経験者採用の促進、退職者の再雇用等で人員不足に対応している状況も見られる。
○ 安定的な採用計画がないと、大学としても進路指導が難しい。
○ 獣医師国家試験の合格者は公務員としての採用に必要な要件を満たしているので、採用時に専門試験を行わず、適性試験のみとすることも一案。
○ 大学での職業教育も必要だが、公務員獣医師の人材確保のためには、公務員獣医師自身が学生に対し、自分の職場の魅力を宣伝することが重要。また、公務員獣医師の離職理由についても調査する必要がある。
○ 公務員のなり手がいないという問題と並行し、そもそも行政改革の流れの中で、定員や募集そのものが減少していることについても視野に入れて議論すべき。
○ 公衆衛生分野の公務員獣医師の不足は、再雇用者による補充などでしのげる状況であり、業務全体に影響を及ぼすには至っていないのではないか。

【公務員獣医師の職域】
● 公務員獣医師の業務内容が多様化する一方、職員数は減少傾向にあり、減少分は農業職や薬剤師等、他分野の専門家で補完されている。
○ 各地方公共団体における獣医師の処遇の違いや、医師に比べた処遇の低さが、公務員獣医師の地域偏在の一因。特に、獣医師の4分の3は6年制修了者になっているのに、職務内容が4年制時代と変わっていないことは問題ではないか。
○ 現在は獣医師が担当しているが、法律上も他職種に入れ替え可能な業務が相当数あることも事実。また、食の安全・安心に関する国民的なニーズに応えるべく、獣医学以外の領域で専門人材の育成が始まっている。

(2-4)研究職獣医師について

【ライフサイエンス分野における活躍の可能性】
● 獣医師採用に意欲的な企業もあれば、獣医師という職種に限定せず採用する企業もある。志向は各社で異なるが、全体として獣医師の採用は減少している印象。ビジネスモデルの変化により、獣医師は受託臨床試験機関(CRO)での勤務にシフトしている。
● 動物用医薬品の開発現場では、宿主全体の観点から病態を正しく捉えることができる獣医学履修者の役割が大きい。
○ 日本は、アメリカ・イギリス・スイス・ドイツ等と同様、医薬品産業の研究所がある数少ない国の一つであるので、製薬会社からの需要は引き続きあるのではないか。
○ 製薬企業においては、毒性試験に関わる獣医師が多い。ただ、毒性試験には畜産・薬学の出身も多く、獣医は全体で1割程度という印象。
○ 昭和36年の国民皆保険導入以降、日本の製薬が盛んになった当時は、獣医の採用が多かった。また、80年代には、臨床開発の分野で獣医の需要が増えた。しかし現在は、日本人の獣医学生は最近あまり製薬企業に行かない。また、外国の製薬・ワクチンメーカーで獣医を雇っているという話も聞かない。国際会議等でも獣医師資格を持つ人はそんなに多くないと感じる。
○ 医療機器開発には大動物が必要なので、獣医を採用したいという声も聞く。
○ 企業は学部・学科名を見て連携するわけではなく、関連する成果や技術を持つ研究者を選んで連携する。獣医学というまとまりは規模が小さいため、所属分野ごとに見るとなかなか共同研究の実績が上がらないのも事実。
○ 臨床では、再生医療等も獣医師の職域として考えられる。

【大学の責務】
● 獣医毒性学に関する科目の充実が必要。また、関連法規等に関する知識教育とともに、関連製造業に関する最新の情報の習得が必要。
○ ライフサイエンス分野への獣医師の進出は、大学人の努力次第で伸びる余地がある。大学人が、この分野ではより高度な研究をした人が求められていることを、獣医学の博士号取得者にしっかりと伝えることが重要。 

(2-5)今後の獣医師の計画的養成の在り方について

<総論>
【教育改善との関係】
○ 我が国の獣医学教育を国際基準に到達させるため、これまで教育内容の改善・充実に取り組んでいるところ。定員の増減を検討する際にも、教育の質の保証の観点は重要。
○ 獣医学分野の人材養成をどのように展開するのか、というグランドデザインが必要。ライセンス教育を行うという特色に鑑みて、受け入れた学生の将来を保証するという視点を欠かすべきではない。
○ 大学基準協会に設置される委員会で第三者評価の基準について審議されようとしているが、必要とされる教員数と、その具体的な算定根拠などを示す必要がある。さらに、獣医学教育の質保証の観点からは、S/T比についても評価基準の一つとして取り入れるべきである。
○ 獣医先進国における国際的な認証を受けた大学のS/T比(0.6程度)に照らせば、我が国全体の学生定員930人に対して適切な教員数は1,550人となる。しかし現況は、国内獣医大学教員数964人(うち専任教員数は640人)と不足している。

【定員超過】
● 抑制方針の正当性を主張するなら、定員超過を厳しく制限すべき。これは、教育改善の前提条件でもある。
○ 私立獣医系大学の定員超過については、この件に私学助成制度が厳格に対応してきたことと、私学が自助努力を重ねてきたこととが相まって、適正化する傾向にある。
○ 私学に対して定員超過の急激な解消を強いると、経営を圧迫する可能性があることを懸念する。これまで、私立大学は国公立大学とともにわが国の獣医学を支えており、卒業生の6割は私学出身である。これらの大学の経営基盤を一時的とはいえ弱体化させることは避けるべき。

【需給の見通し】
○ 農林水産省の需要予測や各都道府県の整備計画には前提条件の部分に不確定要素も多いことから、今後の獣医師の需要について正確な予測をするのは難しいのではないか。
○ 小動物分野については飽和状態、大動物分野はバランスが整いつつある一方で、公務員については欠員を抱える地域がある、ライフサイエンスを支える研究者の層が薄い、といった認識については共有できると思う。

<抑制方針について>
【抑制方針の議論に当たって留意すべき事項】
○ ライセンス教育である獣医学教育を、市場原理のみに任せてはならない。
○ 抑制方針についての議論は、教育の質をいかに確保するかという観点から行われるべきで、単に規制緩和の観点から行われるべきではない。
○ 規制改革というトレンドは十分に意識すべきだが、諸外国との比較も行いつつ、自主的にキャップを設定することは必須。

【抑制方針を採用する意義】
○「抑制方針をとること」について、しっかりとした大義名分を掲げる必要がある。
○ 歯学部や法科大学院で起こっていることをよく見るべき。抑制方針の議論に当たっては、質保証をしながら、免許保持者の職業についても保障するという観点が必要。
○ 獣医学部の設置・運営には、他の学問分野に比べても多額の国費が投じられている。いちど、獣医師一人あたりの養成に要する経費を試算する必要があると思うが、際限なく獣医学部を作れるようにすることは、国家財政の観点からも避けるべき。
○ 教育改善を進めるためには、教育者・研究者としての実力が不十分な者を大学が教員として迎えることは慎むべきだが、一方で、我が国の獣医学研究者(及びその後継者)の層はそれほど厚くない。この観点から、無制限な養成規模の拡大は避けるべき。
○ 新規大学の教員を確保するために、最前線で活動する臨床家が大学に異動するような事態が生じると、地域の小動物獣医療や産業動物獣医療が崩壊するおそれがある。この観点から、無制限な養成規模の拡大は避けるべき。
○ 獣医師養成が国益として重要なのは「産業動物の診療と防疫」と「食の安全などの公衆衛生」の二つの理由からであり、これは抑制方針をとる根拠となる。国立の獣医系大学の責任として、産業動物獣医師と公衆衛生獣医師の養成枠を期限付でもよいので付与すれば、分野偏在の問題は解消できるのではないか。
○ 養成規模を抑制せず、国家試験の段階で獣医師の供給量を管理する方法もあるが、これだと大学の教育内容が国家試験を目的としたものになり、これまでの改善努力が水泡に帰しかねない。また、国家試験の合格率が低い獣医系大学の淘汰が始まれば、高校生が受験を躊躇し、結果的に獣医を志望する者が減少するおそれもある。

<定員の在り方について>
【定員増に積極的な見解】
● 定員管理を厳格に行えば、獣医師の供給量は減るが、そのことで獣医師不足が発生し、需給バランスを崩すことがあってはならない。よって、現在の入学者数である1,100名を正規の入学定員とするための措置が必要。
● その上で、ライフサインス分野での新たな需要も加味して新たな定員規模を考える必要があるが、その際、英・独・仏の単位人口あたり獣医師数が我が国の1.3倍という数値を根拠としつつ、定員超過率を1.1倍までに制限することを前提とし、1,375名を新たな定員として設定すべき。
● 教育改善を達成した国公立大学の獣医系学部については、教育効率に配慮した定員増を求めることが必要である。特に、国立大学の共同獣医学課程に関し、現行規模で教育を行うことの費用対効果については外部からの意見も踏まえて検討すべき。
● 仮に定員増を行う場合、その増加分を既存大学に振り分けた上、ライフサイエンスに特化した獣医系大学を新設してその残余分を吸収するというのは一つのアイディア
○ まずは外部評価の仕組みを早急に整えることが先決。その上で、需給バランスの崩れている職域を補えるような増員を行い、教育の質などの条件を満たしている学校に増加分の定員を配分すべき。
○ 単独で教員増を達成した大阪府立大について、入学定員増を許容することは獣医学コミュニティの合意ではなかったか。そうした努力については、素直に評価すべき。
○ ライフサイエンス分野は、分子・細胞・組織・生体の全体を理解している獣医師需要の拡大が期待できる分野である。事実、医薬品の開発だけではなく食の安全の確保、環境汚染物質の毒性試験などレギュラトリー・サイエンスの担い手として幅広い需要が存在するが、供給が追いついていない。さらに、創薬の探索部門や再生医療も、基礎と臨床治験の架け橋となるトランスレーショナル・リサーチの担い手として、獣医師の活躍に期待している。

【定員増に慎重な見解】
○ 養成規模について議論するに当たっては、需給の現状についての調査をしっかりと行うべきだが、我々はまだそうした情報を持ち合わせていない。
○ 教育水準が不十分であり、外部評価の仕掛けも整っていない現状で学生定員を増やせば、教育の質が低下することは必至。せめて、モデル・コア・カリキュラムの策定・導入後の教育方法に関する外部評価が完了するまでは現状の学生定員を維持すべき。
○ 現状では、学生定員増を認める理由や基準がない。S/T比のみならず、支援スタッフ、施設・設備、症例数、運営予算等、多くの項目について精査が必要である。
○ 現時点で定員超過が発生していることを、定員増の根拠とすべきではない。現状の1,100人という養成規模を前提に定員の議論をすることの妥当性について検証すべき。
○ 共同教育課程を実施している大学には、学生定員を増やす余裕はない。共同教育を行うに当たり、従来の倍の規模の学生に対して参加型臨床実習を行うための施設・設備の整備を優先している状況で、モデル・コア・カリキュラムの求める参加型実習を展開するには、明らかに教員の絶対数が足りない。
○ 共同教育課程を導入して教員数が倍になったからといって、直ちに教育の質も向上する訳ではない。より高い水準、具体的には国際水準に相当するレベルの教育の実現を目指して努力を続けるべき。
○ 家畜を飼育する個々の農家の大規模化や、小動物診療における動物看護師の資格の整備といった、獣医師の需要減につながる要素があることを十分に考慮すべき。
○ 諸外国と状況を比較することは重要。特に、日本の方が米国よりも獣医師一人あたり人口が少ないこと、また、我が国の公務員獣医師比率が他国に比べて極めて高いことなどについても十分に織り込んで議論すべき。
○ 免許を持ちながら獣医療に従事していない者が相当数いる問題にも向き合うべき。
○ 問題とすべきは「獣医師不足」ではなく、「分野間での獣医師の適正配置ができていない現状」。その解決策として、特定分野の獣医師になることを条件とした入学者選抜(現在、医学部で行われている「地域枠」類似の取組)を行うことも一案である。
○ 獣医療に従事しない獣医師免許保持者がいる問題の背景には、獣医師養成が6年制に移行したのに、社会が獣医師に期待する役割が変わっていないことがあるのでは。これに対しては、獣医師自身が積極的に働きかけないといけないが…。

<地域偏在について>
【学生の地域間移動の状況】
● 自県・自地域からの入学率は、地方の大学(3割弱が自地域内出身)よりも都市部の大学(半数弱が自地域内出身)で高い。一方、自県・自地域への就職率も、地方の大学(4分の1強が自地域内就職)よりも都市部の大学(約半数が自地域内就職)で高い。
● 都市部の大学は、自地域からの入学者が多く、自地域へ多くの獣医師を送り出している。一方、地方の大学は、自地域以外から学生を受入れ、自地域以外に多くの獣医師を供給している
● 出身県及び出身地域への就職率については、顕著な傾向の違いはない。
○ 分析WTの報告からは、いわゆる三大都市圏以外の場所に新たに大学を作っても、その地域からの入学者が増加するわけではないことが分かる。すなわち、獣医師が不足している地方に新たな大学を作っても、また、全体として獣医師の養成規模を拡大しても、獣医師の地域偏在の解消にはつながらないということになるのではないか。
● 全国農学部長会議は、以前、獣医系大学は「均一に配置」されていることが望ましいとの見解を発表しているが、こうした外部からの見方についても視野に入れるべき。
○ 以前は、全国大学獣医学関係大学代表者協議会には決定権がなく、当該分野の重大事項については全国農学部長会議の承認・決定に従っていた。すなわち、獣医学教育の当事者である全国農学部長会議の見解を「外部の見方」として紹介するのは不適切。 

【地方における獣医大学の存在意義】
○ 地域の大学は、二次診療の拠点や、現役獣医師の卒後教育の拠点としての意義が大きい。現に、獣医系大学が立地する地域の獣医師の方が学会への参加が盛んである。
○ 口蹄疫のような事案が発生したとき、獣医系大学が司令塔となって、その地域で活躍する公務員や勤務獣医師を束ねてリーダーシップを発揮して危機対応にあたることも可能。このことは地域に獣医系大学がある意義とも言える。

【3】獣医学分野における教育者・研究者養成の在り方について

(3-1)大学院進学者について

【大学院への進学動向】
● 平成21~24年の獣医系大学院への入学者数は554人(年平均138.5人)であり、自大学出身者と他大学出身者の割合は拮抗している。
● 平成21~23年の学位取得者(315人)の専攻分野は、臨床獣医学(102人)、病態・応用獣医学(151人)、基礎獣医学(62人)で、割合は各大学によって異なる。
● 学位取得者の進路状況として全国的に最も多いのは大学研究者(107人)であり、次いで会社員(59人)、公務員(36人)、臨床医(39人)となっている。

【大学の研究後継者養成】
○ モデル・コア・カリキュラム導入等を踏まえ、教育組織の人員数をトータルでどうするのか、また、単に教員数を充足させるだけでなく、教員陣の質をどう充実させるかについても議論する必要がある。
○ S/T比の議論と並行して、モデル・コア・カリキュラムに対応できる教員の絶対数がどれくらいいるのかについての検証も必要だが、定員を増やした状態で参加型実習を展開することを想定すると、明らかにその層は薄いのではないか。
○ 専門家が不足している分野について、長期の教員養成と並行して、隣接分野の教員も学生を指導できるよう努力すべき。

【ライフサイエンス分野の研究者養成】
○ 日本は、アメリカ・イギリス・スイス・ドイツ等と同様、医薬品産業の研究所がある数少ない国の一つであるので、製薬会社からの需要は引き続きあるのではないか。
○ ライフサイエンス分野への獣医師の進出は、大学人の努力次第で伸びる余地がある。大学人が、この分野ではより高度な研究をした人が求められていることを、獣医学の博士号取得者にしっかりと伝えることが重要。
○ 企業は学部・学科名を見て連携するわけではなく、関連する成果や技術を持つ研究者を選んで連携する。獣医学というまとまりは規模が小さいため、所属分野ごとに見るとなかなか共同研究の実績が上がらないのも事実。

お問合せ先

高等教育局専門教育課