平成23年1月28日(金曜日)午後2時から午後4時30分まで
文部科学省3F1特別会議室
安西 祐一郎、今井 浩三、片峰 茂、栗原 敏、黒岩 義之、桑江 千鶴子、坂本 すが、妙中 義之、丹生 裕子、永井 和之、中川 俊男、中村 孝志、西村 周三、濵口 道成、平井 伸治、矢崎 義雄、山本 修三 (敬称略)
磯田高等教育局長、加藤高等教育局審議官、新木医学教育課長、茂里視学官
(厚生労働省医政局)村田医事課長
【安西座長】 ただいまから、今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会、第2回になりますけれども、開催させていただきます。お忙しいところ、お集まりいただきましてまことにありがとうございます。
会議に入ります前に、この会議は冒頭から公開とさせていただきます。よろしゅうございますね。よろしくお願いいたします。
今日は、前回、第1回の議論を踏まえまして、まず有識者の方、お3人からヒアリングを受けさせていただければと思います。日本病院会会長の堺常雄先生、済生会栗橋病院副院長の本田宏先生、そして日本医科大学教授の長谷川敏彦先生のお3人にお越しいただきます。ご協力いただきまして、まことにありがとうございます。
今日は事務局から配付資料の確認、それから、前回に委員の皆様からご要望のありましたデータ等々につきまして説明をいただくことにいたします。それから、3人の先生方から、大変短い時間で恐縮ですけれども、20分ずつお話をいただきまして、その後1時間程度、意見交換、自由討議、また、ヒアリングへのご質問、ご意見ということにさせていただきます。事務局、発表者へのご質問につきましては、まとめて自由討議のときに一応させていただければと思っております。ご協力、よろしくお願い申し上げます。よろしゅうございますでしょうか。
それでは、事務局から配付資料の確認、それから、参考資料1の説明をお願いします。
【茂里視学官】 ありがとうございます。まず、初めに今回はスクリーン配備の関係で若干座席が変則的になってございます。ご了承いただければと思います。
お手元の資料でございます。今回は資料1、2、3、ヒアリングの先生方の資料をご用意させていただきました。まず、お手元の資料1、堺先生の資料。資料2、これは本田先生の資料でございます。本田先生の資料は2つございます。資料2とした資料と資料2(参考資料)とした資料、以上2点でございます。続きまして資料3、長谷川先生の資料でございますが、これは3点ご用意させていただいております。まず、長谷川先生のお名前が入った資料、そして3つの反省と書いた資料、最後にカラーの資料をご用意させていただいております。
それから、参考資料1ということで「要望のあった資料について」と題しまして、1部資料をご用意させていただいております。加えまして中川委員からご提出いただきました資料、提出資料1、2、3を配付させていただいております。
何か不備等ございましたら、お申しつけいただければ。
【安西座長】 よろしゅうございますでしょうか。
【茂里視学官】 それでは、私の方から参考資料1についてご説明を申し上げたいと思います。お手元に大変恐縮でございますが、要望のあった資料について、参考資料1をご用意いただければと思います。ありがとうございます。前回、各委員の先生方からこういうデータはないかというようなご要望をいただいたものを事務局の方で文部科学省、厚生労働省、協力してご用意させていただいたものでございます。10点あったわけでございますが、残りの9と10につきましては若干難しい部分もございますので、引き続き努力をさせていただきたく存じます。本日は1から8までについてご用意いたしました。委員の先生方からお求めになったレベルに適うものかどうかわかりませんが、でき得る限り努力したものでございます。さらなるご要望がありましたら、ご指示いただければと思います。
そして、事前にデータとしてご送付差し上げているところでございますが、今回、大変申し訳ございません。細かな字になってしまいました。データ以外に印刷物としてご希望がありましたら、また申しつけいただければご用意させていただければと思います。
それでは、1枚おめくりいただきまして1ページ、これは濵口委員からご指摘のございました地域偏在の資料ということでございます。これは先般、厚生労働省の方で取りまとめました必要医師数実態調査でございますが、それを各県ごと、2次医療圏ごとに用意した資料でございます。
続きまして飛びますが、10ページをお開きいただければと思います。ページ数は右下にございます。10ページをお開きいただければと思います。これは今井委員からご指示いただきました面積を加味した医師数、それを示すデータはないかというものでございます。色づけしたものが1枚目、そして次の11ページに数字を記載させていただいております。中ほどに面積当たりの医師数とその順位、そして10万人当たりの医師数とその順位を記載させていただいてございます。
続きまして、次の12ページでございます。診療科別医師数の推移でございます。これは西村委員から少子化という報道への反応がわかる資料がないかという、そういうお尋ねでございました。大変申しわけございません、直にそれにお答えするデータというのはなかなか難しかったわけでございますが、ただ、診療科ごとの医師数の推移をあらわすデータをご用意させていただきました。産婦人科につきましては下から2番目の折れ線グラフになってございまして、平成10年からは減少傾向にあったものの、最近は若干回復傾向が見られるというデータでございます。
続きまして次の13ページをお開きいただければと思います。これは濵口委員からコメディカルの数がわかる、状況がわかるものという、そういうご要望がございました。これは全国合計でございますが、看護職員の就業者数の推移をまとめてございます。続く14ページ、15ページは厚生労働省の需給見通しということで、14ページの方は常勤換算、15ページの方は実人員で記載してございます。一番下の数字、例えば平成23年は96.1%、平成27年には99.4%、こういう状況になってございます。
続きまして16ページをお開きいただければと思います。これは片峰委員、西村委員からご要望がございました。長谷川先生推計以外のデータはないかというお尋ねでございます。最初の1枚目は当方の方で整理させていただきましたが、医師不足推計に関する主な論文ということで3点ご用意させていただきました。簡単にご説明申し上げますと、まず1点目として東北大学の方で研究した推計でございます。これは2008年でございます。その概要でございますけれども、必要医師数、これぐらいの医師が必要だという数字でございますが、43.2万人が必要だと。当時、平成16年でございますが、当時と比較すると約17.5万人の不足があるというデータでございます。
2つ目でございますが、日本政策投資銀行の方で推計したものでございます。これも2008年のデータでございます。中身でございますが、その結論としては患者数のピークに達すると推計されます2025年において一部の地域では患者当たりの医師数が増加するという傾向が見られる。一方で、現在、医師数が足りている、恵まれているという地域、例えば東京においても将来的には、2025年の時点ですけれども、患者当たり医師数が減るというようなところも出てくるという結果をまとめてございます。
3点目でございますが、日本経済研究センターの推計、これは2009年のデータでございます。医師不足数につきまして2006年では約7.2万人、2015年で7.8万人と増え続ける。その一方、2016年以降減少し始めまして、2035年には2.7万人まで医師不足数が減るという結論になってございます。
続きまして、少し飛びますが39ページをお開きいただければと思います。こちらは山本委員からご指摘がございました大学病院の病床数、医師数がわかるデータということでございましたので、国公私立大学病院の概況と題しまして平成22年6月のデータを用意させていただきました。
続きまして42ページ、これは中村委員から一流誌に出ている論文のデータがないかというお尋ねでございました。内科というお話がございましたが、内科だけというものはありませんでしたので、全体で大変恐縮ですが、ご用意させていただきました。臨床医学研究の論文数についてというものでございます。全体の傾向といたしましては、世界全体の論文数が平成15年から19年にかけて9.8%増加、一方、日本では8.8%の減であり、国立大学全体でも7.0%低下している。
次の43ページ、大変細かな字で恐縮なのですが、臨床医学の論文数を80年代後半、90年代後半、そして2007年から2009年ということで比較したものでございまして、例えば80年代後半、日本は4.3%のシェア、それが90年代後半では8.1%のシェアに伸びた。ところが、2007年から2009年につきましては6.6%に低下している。一方、中国を取り上げてみますと、同じような時期で0.6%だったのが1.1%に増加し、さらに2007年から2009年では3.8%に増加しているというデータでございます。
続きまして44ページ、これは山本委員、矢崎委員からご要望のあった教員数の推移がわかるものということでご用意させていただきました。例えば平成21年の計のところ、2万9,684人と出ております。その10年前、平成11年でございますが、2万9,217人、やや横ばいでございます。さらに10年前の平成元年、2万6,535人と近年は増加傾向が見られるのではないかというデータでございます。
次の45ページには学生1人当たりの教員数ということで、ご用意させていただきました。
続きまして46ページ、これにつきましては中川委員から歯学部の現状がわかるデータはないかというお尋ねでございました。例えば中ほどB、歯学部の現状についてのB、入学定員充足率というところでございますが、一番下、平成20年度の96.9%の充足率が平成22年度におきましては84.7%に低下している。一方、競争倍率も平成20年におきましては2.56倍だったのが、平成22年度におきましては1.74倍に低下している。そういうデータでございます。
続きまして47ページ、こちらは山本委員から地域の医療ニーズというご要望でございました。地域ごとに医療ニーズを把握するのはなかなか難しいものでございまして、これは引き続き努力をさせていただければと思います。こちらの資料、大変細かいのですが、年齢別、傷病別について、その実際の入院数と外来数をデータとしてまとめてございます。また、都道府県別の受療率とか、そういったデータも記載させていただいております。
以上、お求めのあった資料でございます。
【安西座長】 ありがとうございました。
何かご質問ありますでしょうか。よろしいですね。また後ほどでも何かご質問がありましたら、事務局の方へお知らせいただければと思います。よろしくお願いいたします。
それでは、ヒアリングに移らせていただきます。まず、先ほども申し上げましたように日本病院会会長の堺常雄先生にお忙しい中いらしていただいております。ご意見を伺えればと思います。20分程度で大変短くて申しわけありませんけれども、よろしくお願いいたします。
【堺常雄氏】 皆様、こんにちは。ただいまご紹介いただきました日本病院会・聖隷浜松病院の堺でございます。今日は病院団体の立場、あるいは比較的大きい急性期病院の立場から医療現場の現状についてお話しさせていただきたいと思います。
この検討会でもいろいろ議論があり問題のとらえ方は幾つかあるわけなんですけれども個人的にはやっぱりこの三角形の3つをしっかり押さえる必要があるかと思っています。意外に三角形というのは医療に関して、例えばアクセス、コスト、クオリティーとかいろいろ言われるわけなのですけれども、この医師不足に関してはこの3点が重要ではないかと思っています。第1点目は質と安全と効率の問題でございます。それは良質な臨床医が確保されているかどうかです。それから、安全で効率のよい業務が担保されているのか。それから、臨床医の評価はされているのか。特に評価しやすいのは初期臨床研修、あるいは専門教員の専門研修だと思うのですが、それについてどうかということでございます。
2番目の量と数の問題ですけれども、これは今ご議論があるように適正な医師の総数は確保されているのか。もし確保されていないとすると、どのような医師が必要なのか。その中には研究医なのか、臨床医なのか、あるいは総合医なのか、専門医なのか、こういう議論があるかと思います。それから、今言われています地域・専門科偏在についてどういう考え方をするかですね。今日もいろいろデータを示していただきましたけれども、本当に判断に必要なデータはあるのかどうかでございます。それからもう一つ、大変重要なのは費用の問題だと思っております。財源の担保がなければあまり議論の価値がないので、もしない袖が振れないというのだったら、どの議論もあまり意味がないのではないかと思っております。
最初の良質な臨床医の教育・育成でございますけれども、これは皆様ご異論のないことだと思うのですけれども、良質な臨床医を育てるにはシームレスな医学部教育、初期研修、専門研修、継続教育、これが欠かせないと思っております。その第一歩であり入口である医学部における臨床実習の整備が非常に重要だと思っております。それから、昨年、もう一昨年になりますか、行われた卒後臨床研修の見直しというのは、個人的には、あるいは日本病院会としても間違いだったと思っています。大きな理由はエビデンスに基づかない見直しだったような気がしております。エビデンスに関しては、第三者による評価が不可欠ではないかと思っております。
それからもう一つは望まれる専門医制度の改革・整備でございます。実際、医療現場で足りないのはすぐれた臨床の専門医でございます。もちろん専門医の中には家庭医、あるいは総合医というものを含んでおりますけれども、初期研修医はあくまでも研修の身分であって、確かに幾らかの労働力はありますけれども、しっかりした労働力としては評価できないように思っております。
この良質な医師の育成に関しましては、先週ですか、全国医学部長病院長会議があった中で、今日ご出席の黒岩先生が教育の内容だけではなく、学生の質の担保も確保し、教育の質を担保することが必要である。まさに当然のことで、私どもも全く同意するわけなのですけれども、そのためにはぜひその成果を評価する仕組みをつくっていただきたいということでございます。残念ながら、卒後臨床研修制度の見直しに関しては、大学医局の人材派遣機能がつぶれたとか、いろいろなことが言われました。多分本当だと思うのですけれども、余りにもエビデンスに基づかない感情的な議論だったのではないかと思っております。
例えばの話でございますけれども、医師の質の担保として卒後臨床研修に関しましては、第三者評価をやっております。実際やっているのはNPO法人卒後臨床研修評価機構でございます。これは初期研修プログラムの評価や人材育成等をやっているわけなのですけれども、ここで目につくのは大学病院の関心が低いということでございます。これは別にいい悪いとかではなくて、事実として低いということでございます。例えば会員を見てみますと、会員の中に幾つかあるのですけれども、医療機関等団体登録会員、これがございます。これは現在、22会員あるわけなのですけれども、大学病院でこの会員になっているのは関西医科大学、近畿大学医学部附属病院の2つでございます。
実際、この第三者評価を受けた実績でございますけれども、今年の1月1日現在で96病院が認定されております。その中で認定をされた大学病院は8病院でございますけれども、この中で例えば東京医科大学は、本院、八王子医療センター、それから霞ヶ浦が含まれていますから実際の大学でいくともっと減ってくるわけでございます。もしこれに参加していただけるということになれば、2年間の初期研修の評価、あるいはエビデンスというのは出せるのではないかという気がしております。
次に数、量の問題にいきたいと思います。問題は適正な勤務医の総数は確保されているのかどうかですけれども、これにはいろいろな視点、観点があるかと思っています。大きく3つ挙げてみたいと思いますけれども、1つは需要と供給の観点、2つ目が質・安全・効率。先ほどと同じ問題ですけれども、その観点。それから、3番目が政策の観点ではないかと思っております。需要と供給に関しましては、今、十分だという方もいらっしゃいますけれども、その中で偏在が問題なのか。偏在が問題であるとすれば、地域偏在、専門科、診療科偏在でございます。2番目として、今、十分ではないというのでしたら、どのような医師がどのぐらい不足しているか。今日、私がお話しすることはほとんどが、病院勤務医ですから、一般の開業、診療所の先生のことはあえて触れておりません。
2番目の質・安全・効率の観点では、適正でない勤務医の労働環境でございます。実際、安全を担保できない勤務医の疲弊があって、現場ではかなり問題が起きているということでございます。それから、皆さんがよくご指摘なさるのは、医師がやらなくてもよい業務をやっているのではないかということで、医師業務の適正化でございます。これに関しましてはアメリカの例を少しご披露したいと思っています。
3番目の政策の観点では幾つかあるわけでございますけれども、問題になっている医学部教育というのは研究者育成なのか、臨床医育成なのか、このどちらかで議論は分かれてくるのではないかと思っております。それからもう一つとして、臨床医を育成するのは医学部だけでいいのかということですね。これは問題提起でございます。それからもう一つ、現状の医師国家試験は適正かということですね。人によっては100%通せばいいのではないかという元気のいいご意見もありますけれども、そういうことも含めて医師国家試験の在り方が問われてくるかと思っています。
それから、大分昔ですけれども、医療費亡国論の中で、あのときは3つ論点があったわけなんですけれども、その中の3番目が医療費需給過剰論ですね。医者を増やせば医療費が増えるということでございます。それから、我々として非常に気になるところは、労働基準法に見合った適正な医師数が担保されているかどうかでございます。これに関しましては、ここ一、二年、行政当局の指導監査がかなり厳しくなっている現実がございます。需要と供給に関するデータがあるかどうかということで、今日もいろいろなデータをお示しいただいたわけなのですが、なかなか地域のデータが出にくい状況でございます。問題はマクロで医師数がどのくらい足りない、どの診療科が足りないということよりも、現場、例えば2次医療圏、3次医療圏、県レベルでいくとどうなのかということで、そういうデータがあるのか。実際、あるんですね。ただ、なかなかそのデータが見にくいんですね。
ここにお示ししたのが、たまたま私が脳神経外科出身ということもございますけれども、静岡県西部2次医療圏脳神経外科疾患で、特にその中の脳血管障害の手術件数を挙げてみました。このデータは「医療ネットしずおか」というのがあって、これはインターネットで見られるんですけれども、5階層、6階層ぐらい深く潜らないとなかなか見えてこないんですね。ですから、見える化には全然なっていないんですけれども、例えばこれによりますといろいろな基幹病院の症例数がわかります。それから、専門医数がわかります。ですから、1人当たりの症例数がわかるわけなんですけれども、じゃあ、この症例数は適切かどうか。この判断は各学会がやることになると思うんですけれども、できたらこういう各地域、都道府県単位のデータを蓄積して議論いただければいいのではないかという感じがいたしております。
次に安全の担保、需要拡大の観点でございます。これはアメリカの例でございますけれども、ご存じの方、多いと思うのですけれども、1984年にLibby Zion事件という有名な事件が起こりました。これは当時18歳の女性、向精神薬を常用していた患者さんなんですけれども、ある日、発熱でニューヨーク市の有名な病院、大学病院の夜間救急室に行ったわけなんですね。そこで1年目のレジデントとその上のレジデントが対応したわけなんですけれども、既にその2人の医師は連続勤務時間が18時間ぐらいあったそうです。初期の段階でこのZionさんは、自分がそういう薬を飲んでいるということをお話ししたんだそうですけれども、結局、救急室に行って2時間後、彼女が暴れ出した、大変だということで安定剤を使ったんですね。残念ながら、その安定剤、彼女が飲んでいる向精神薬に禁忌の薬だったんですね。2人の医師は彼女が言った薬のことはすっかり忘れていたのです。
それでしばらくして彼女は心肺停止で残念ながら亡くなられたわけなんですけれども、実は彼女のお父さんがニューヨークタイムズのライターで、しかも、弁護士だったんですね。彼が問題にしたのは、その起こったことはそれはそれで問題なんですけれども、それよりもレジテントの過酷な労働状況、システム的に問題があるのではないかということでキャンペーンを張って、最終的にそれから数年、9年かかっているわけなんですけれども、2003年に週80時間勤務のルールというのが出たわけなんですね。これはアメリカの卒後医学教育認定協議会が出したわけなんですけれども、すべての研修病院はそれに従ったわけなんですけれども、それによってどういうことが起こったかといいますと、単純計算で20%の時短なんですね。それをレジデントの数にしますと2万2,000人の医師相当だということでございます。
レジデントはそれである程度よかったわけなんですけれども、診療への影響もかなり大きかったわけです。というのは、業務量全体には変わりないわけですから、だれかがカバーするということで、そういうレジデントの上にいるフェローとか、アテンディングの負担が増えたわけですね。そういう中で例えば病院の中に常時医師が少ないということでホスピタリストというのがつくられたわけなんですけれども、そういう中で何が起こったかといいますと、頻繁な勤務交代で申し送りがかなりあるわけなんですね。そうすると、その中で完全な申し送りができなかったり、夜間担当の医師がなかなか大きな決断を下さないということで、質と効率の低下があったのではないかということが議論されております。
需要に関して言いますと、今回のObama healthcare reformの影響なんですけれども、これに関しては今までの計算ですと2015年まで3万9,600人不足するのではないかと言われたのですけれども、今回は保険のカバーが増えるおかげで、病院で診療する患者さんが増える、そういう需要の拡大に対応するのに2025年まで6万3,000人不足する。こういうことをアメリカでは言っているそうでございます。
日本でもこの労働環境を改善するためにどういうことがあるかということで、単純計算でこれは今日お越しの長谷川先生のデータを使わせていただいているわけなんですけれども、これは勤務医に限っております。病院で働くのは70歳未満、65歳としたかったんですけれども、実際70でも元気で病院で頑張っていらっしゃる先生がいらっしゃるものですから、70歳未満の病院勤務医数を数えてみますと、16.2万人なんですね。長谷川先生のデータですと、病院勤務医の平均勤務時間は63.3時間ですから、厚生労働省が言うところの適正な勤務時間48時間とすると、単純計算で必要な医師数は21.4万人になるので5.2万人足らないわけですね。現状の1.3倍ということです。これは2006年のスタディーですから少し古いわけですけれども、15年で解消するとすると、年間に3,467人必要だということです。これはこうあるべきだということではなくて、単純な計算でこういう計算も成り立つということでございます。
そういう意味で、医師不足をいろいろな切り口から見てみますと、最初にあるのは医師不足実態調査、去年の6月に行われた厚生労働省のデータでございます。その時点での現員医師数が16.7万人、不足するのが2.4万人で、不足の割合は14.4%ということでございます。2番目の勤務時間に注目というのは、ただいまお示ししたスライドの計算でございます。これによりますと5.2万人足らなくて、不足の割合が32.1%でございます。ちなみに、OECDのHealth Data、これは病院勤務医だけではなくて全医師になると思いますけれども、OECD平均が人口1,000人当たり3.2人、日本が2.2人ですから、大体31.3%足らないということで、興味深いのはOECDのデータと勤務時間に注目したデータというのは非常に似ているということですね。
じゃあ、15年かけて5.2万人増やすのにどのぐらいお金がかかるか。これは単純な机上の計算でございます。勤務医師の平均年収は大体1,479万円と言われております。そうしますと、それに5.2万人を掛けますと7,690億、そうすると1年当たり大体513億ということです。それから、勤務医師がどのぐらい稼ぐか。稼ぐという表現はよくないのですけれども、現在、大体年間1億。もちろん、どんどん勤務医が増えてくると相対的に下がるわけですけれども、単純計算しますと15年間で5.2兆円必要になる。診療報酬が上がるということですね。これを1年にしますと3,467億円ということですから、かなりのお金になるわけです。実際、今の計算というのは2006年の長谷川先生のデータをもとにしているものですから、実際、現在はどうかということで、聖隷浜松病院で計算してみました。
お手元のデータと少し違っておりますけれども、現在、常勤医師は242名おりますけれども、その中で調査期間、先週行いました。意外にみんな断るのかと思ったら、52%の医師が答えてくれました。2006年の70.6時間には院外業務が入っていますが、その院外業務を引くと先ほどの63.6時間ということになると思います。この5年間、病院もただ座して待っていたわけではなくて、いろいろな努力をしてまいったわけですね。どういうことが起こったかといいますと、浜松地区の医療機関の変化としては近隣病院の閉鎖がございました。例えば社会保険病院が民間に移譲されました。それから、近隣病院で産科・小児科をやる医師がどんどん減っています。そのおかげで当院に対する負荷が増えたということですね。だから、結果として医師の負担が増えたわけです。
それから、病院の中でもいろいろなことを行いました。平均在院日数は14.3日から11.3日、3日短縮しております。平均病床利用率が94.5%だったのが96.0%。その間、勤務医師も209人から242名に増やしました。一方、チーム医療の推進ということで、いろいろな連携をとったわけなんですけれども、その一方でカンファレンスが随分増えたということで医師の負担も増えた。まあ、負担というか、負荷が増えております。それから、医師事務作業補助体制整備ということで、私どもの病院は一番多い15対1の加算をとっております。
ただ、その中で、長谷川先生の中では特に書いていなかったんですけれども、説明業務というのがかなり増えております。現状では1週間に1.7時間、それから、書類の記入、その業務が3.3時間ございます。結果として外来、入院業務が増えているわけなんですね。ですから、これでわかったことは、近隣の病床が減れば、その分、医者が潤沢になるのではないかというご議論があると思うんですけれども、病床が減っても、それから、病院が努力しても、大きな医師勤務時間削減にはなりにくいという現状でございます。
医師育成についてでございます。大学医学部(現状)、これは医学部6年、臨床研修2年。この臨床研修に関しましては、最近の日本医師会の提案で出身大学のある都道府県でやったらどうかということでございます。それからもう一つ、これは国立国際医療研究センターの桐野先生がおっしゃったのですけれども、4年の生命医科学部をつくる案です。その上に研究中心の生命医科学大学院と臨床中心の医師養成専門職大学院をつくる案です。この臨床中心のものは欧米でやっている一般大学4年、メディカルスクール4年の制度と非常に似ているわけでございます。
メディカルスクールに関しましては、医学部長病院長会議でも反対ということでございます。―しかし教育現場の考えを見てみますと、これは大学人の意識調査というのが2006年に行われたわけなんですね。全国80の国立、私立医学部、医科大学、医学科所属の教授、助教授、講師、1万2,000人にアンケート調査を行って、回収率が3割強なんですけれども、この真ん中の3つでございます。一部大学にメディカルスクールを併設、一部大学をメディカルスクールに、全面的にメディカルスクールというのがあって、このグリーンが全体でございますけれども、これを見ますと6割程度の教員が何らかの形でメディカルスクールの実現を希望しているということなんですね。これはかなり注目すべきデータではないかと思っています。
実際、日本にもメディカルスクールはあったわけなんですけれども、年齢の高い先生方はご経験されているわけなんですけれども、医学部進学課程というのがあったわけなんですね。これは1949年の学制改革で医学部入学資格は大学2年修了者で特定の要件を満たす者ということなんですね。2年の進学課程が設置され、その後で大学を受けたわけなんですけれども、この設置は修業年限を2年とする大学の設置を目指したわけです。この間、何をするかといいますと、リベラルアーツの教育、これを重視したわけです。その後、4年制の専門課程へ進級ということで、ちなみに東大と京大では1963年まであって、東大などでは最初の2年間の課程を卒業してから医学部を受けるということがあったわけなんです。実際に試験を受けたわけなんです。ですから、この場合の医学部というのは、今議論しているメディカルスクールと同じだということになります。
次に全くの私見ですが、大学、あるいは医学部附属病院の在り方でございます。大学の先生、ただでさえお忙しいのに教育、研究、臨床、すべて満足いくように1人の人がやるというのは、まず不可能ではないかと思います。私の意見は、附属病院の分離独立でございます。連携病院にする。教育と研究は医学部で行い、臨床、これは医学生の臨床教育を含むのですが、連携病院で行うということです。
最後でございます。社会的共通資本、宇沢先生がおっしゃった医療と教育が財政危機で押しつぶされてはならないということですね。現状の医療提供体制(160万床)と勤務医の業務体制では絶対数が不足しているということでございます。どういう医師が必要か、この議論をする必要がある。増員の方法と程度は検討が必要。医学部の定員増加、医学部の新設、メディカルスクールの創設などです。それからタイムスケジュールも必要です。一旦決めたら未来永劫増員し続けるのかとかいろいろあるわけですけれども、この中で文部科学省と厚生労働省の緊密な連携が必要でございます。今日お越しの矢崎先生がおっしゃっていますけれども、新しい発想の理想的な医学教育をするモデル事業が必要ではないか。まさに賛成でございます。
少し時間をオーバーしましたけれども、以上でございます。
【安西座長】 堺先生、ありがとうございました。
ご質問、ご意見は、申しわけありませんが、後にしていただきまして、次に済生会栗橋病院副院長の本田宏先生からご意見を伺うことにさせていただきます。
本田先生、よろしくお願いいたします。
【本田宏氏】 皆さん、こんにちは。恐らく今日の機会、私のような一勤務医にとって最初で最後になるのではないかと気合を入れてこの場に参りました。一所懸命務めますのでよろしくお願いいたします。
私は32年外科医として勤務してきましたがこの22年間は地域の一中核病院で働いています。今でも初診の患者さんを拝見し、手術をして若手も指導しています。本日は一勤務医の心からの叫びをお聞きいただければありがたいと思います。また本日お示しするデータは、すべてが最新データというわけにいかない面があります。できるだけ出典等も記入してあります。ご興味がありましたら更なる検討をいただければ幸いです。また一般の方にお話しする際に用いている講演用スライドですので、漫画チックなものが多いこと、その上本日添付した資料も多く遠方の方がお持ち帰りなる時に重くなってしまい申し訳ありません。
私は北海道から沖縄まで全国各地で講演をしてきましたがもし私の講演に興味を持っていただけましたら資料の中にだじゃれまで入っている講演録を入れてありますので、ぜひご覧ください。
それでは始めます。私はこの10年間、なぜ日本では先進国最低の医師不足となって医療が崩壊してしまったのだろうかかと、その原因を考えてまいりました。最近その根本原因に行き当たりました。それは日本には社会保障基本法のように憲法25条を守る基本法がないこと、もちろん患者の権利を守る基本法もないことです。それはまさに医療体制を構築する際にグランドデザインがないということです。グランドデザインがないから、医師をどの程度養成するとか、どのぐらいの医療福祉体制をとるかの目標設定が決めようがないんです。まず初めに目標設定がないことを認識すべきです。
次に問題なのは我が国の「甘い情報分析、遅い基本方針転換」です。さらに我々医療関係者に「患者の権利」を守る精神が不足していると思います。実は昨夜、埼玉県医師会の勤務医部会があったんですが、さいたま市の3次救急病院の救急専門医が患者さん受け入れに四苦八苦している実態を紹介していました。ある例では救急車から電話が来たが、すでに心肺停止の患者さんが受け入れ先が見つからず救急車の中で50分待機していると言うんです。これが一応経済大国の日本の救急医療の実態です。50分も心肺停止の患者さんを救急車の中で待たせているのが今の日本。この問題の根底にも医師の絶対数不足があるのに、医療関係者の責任ある人たちが、医者は将来余るからあまり増やす必要はないと・・・、何を考えているんだ、と私は怒っています。そんな悠長なことを言っていたら国民からそっぽを向かれてしまうと私は本当に心配です。
「甘い情報分析、遅い基本方針転換」は明治維新からずっと続いています。大戦中は「戦艦大和があるから勝つぞ」と。ところが大和はあっさりと沈み、日本は敗戦を迎えました。当然です、当時すでに海戦の主役は巨大戦艦から航空兵力へと大きく変化していたんですから。大艦巨砲主義の見直しなしの、「甘い情報分析、遅い基本方針転換」が現在でも続いています。先進国一の高齢化社会で、近い将来未曾有の超高齢化社会を迎えるんですよ。それなのに先進国最低の医師数で、今増やしたら将来余るって・・・、何を考えているのかと私は思うんですが、この現実が現場にいないと理解できないようです。
世界から見た日本の医療の評価は、WHOでは第一位なんですが、先進国から日本に来ている駐在員の方は自分や家族が病気になった時に日本の病院では治療を受けないそうです。なぜか。日本の医療レベルが低いということを知っているからなのです。
こういう出来事があったのを皆さんはご存じでしょうか。パパブッシュが日本の晩餐会の席上で倒れたときに日本の病院に担ぎ込まれそうになった。幸い自然に軽快し病院に行かないで済んだらしいんですが、米国大使館の人もみんながほっとしたそうです。もし日本の病院に行って何かあったらどうしようと。世界から見たこれが日本の医療レベルです。ところが、国民はその事実を知らされていません。皆さんご存じのように日本一人口当たり医師数が多い東京では、今でも救急患者の俗に言う「たらい回し」状態が続いています。首都でさえ救急体制が未整備、このような先進国は恐らくないと思います。それなのに医療界を代表する責任あるべき人たちが医者を増やさなくていいと言うんだから、本当に無責任です。超無責任国家日本と私は残念です。
さらに一例、平成4年当時クリントン大統領のころに奥さんのヒラリーさんが医療にすごく関心があり、米国の厚生長官を日本の病院を見学するように派遣したそうですが、国立がんセンターの見学をたった1週間でやめたそうです。そして、日本の医療は参考にならないと、帰国して次のように感想を漏らしたそうです。「ボロボロに疲れ切った医師たち、残念だが医師の犠牲と我慢の上に成り立っている制度は長くは維持できない。やがて崩壊する危機をはらんでいるだろう」と。平成4年当時ですよ。何で外国の人が1週間程度見てわかることを日本人はわからないんでしょうか。私は疑問。困っちゃうなという感じです。まさに日本の医療はガラパゴス化しているんです
さて皆さんご存じのように日本の人口当たり医師数は1960年当時はまだ世界(OECD平均)と比べてそれほど差がありませんでした。しかしOECDの平均医師数はその後どんどん増えています。日本はその後無医村解消等を目的に1県1医科大学設置でとりあえず医師を増やそうとしました。ところが、日本の特徴なのでしょうか、初めに人口当たり10万人医師数、150人を目標と方針を決めてしまいます。その後世界が医師をどんどん増やしているのに150人を目標と決めた日本は今度は医師を減らそうと方針が転換されるのです。最近も医療界のいろいろな団体が日本の医師数は現在のOECD平均に15年位したら追いつくして、医師増員は慎重にと繰り返し主張しています。今も世界の医師数はさらに増える傾向にあるのです、このようなことで大丈夫でしょうか。医療の進歩にともなって、世界は医師を増やしています。それが日本では医師を代表する各種の団体のリーダーがまじめに、15年したら今のOECDレベルに追いつくから大丈夫?と、これが日本の寂しい現実です。
医療が高度化して複雑になればなるほどより多くの医者が必要なのは世界の常識です。1つ例をあげます。最近では、新患で胃がんの患者さんが私の外来を受診すると、昔のように手術ができるか、できないかだけで説明が終わりません。現在は治療技術の進歩で、胃がんの患者さんには、まず内視鏡的に削る治療ができるか否か。次には手術法も開腹手術か、腹腔鏡下手術か、術後は化学療法について説明と治療が待っています。胃癌のみでなく、多くの疾患で1人の患者さんに対して以前と異なって何倍も説明を要する時代になっているんです。しかもそれぞれの治療の質を保つためには、各専門的家が必要なんです。つまり、医療の進歩を考えずに医師の数だけ頭数で数えるのでは全く不十分なんですね。
さて、日本の人口医師当たり医師数はWHOで64位です。経済大国日本で人口当たり医師数が64位なのに、日本の医師数を世界と比べてどうするんだと私に注意する方がいますが、じゃあ、日本はグローバル社会で生きていないの?と聞き返したいです。困ったものですが、これが日本の医療界の現実です。OECDもその報告書で次のように日本の国が医師が不足していると指摘しています。『1人当たり診療医師数はまだ日本、カナダ、イギリス及びニュージーランドで、比較的低い。後者の国々は伝統的に医科大学の入学数を規制している。』と。日本は医療費抑制という経済最優先で医師養成数を規制してしまうわけです。東京の隣の埼玉県でも心肺停止患者を50分受けいれられない事態が発生しているんです。本当にこのままでいいんですか。一方では、遊園地などで一人が亡くなっただけで連日テレビで大々的に報道されて問題視されるのに、病気や事故で助かる可能性があった人が亡くなるのはいいのでしょうか? 私、本当に聞いてみたいです。これ、おかしくない? あまりにもバランスがとれていませんかという話でございます。 OECDさえ懸念している日本の医師不足。皆さんご存じのように日本の人口当たり医師数はOECD平均以下でビリから3番目です。仮にOECD平均存在すると仮定して日本の医師数を試算すると現在12.5万人不足です。ところが昨年戦後始めて行われたとされる厚生労働省調査ではたった2.4万人不足という結果でした。あの数字が公表された時私は大きなショックを受けてしばらく立ち直れませんでした。ここまで頑張って10万人以上不足というのが広く認識されるよういになったのに、たった2.4万人不足です。なぜでしょうか。昨年の厚生労働省の調査はその前提がなっていなかったのです厚生労働省の調査の2.4万人不足がおかしいことは、全国で一番医師不足の埼玉県の必要医師数がたった1.1倍だったという一点だけを見ても証明されています。
さらに日本の一般病院では救急専門医がほとんど不在なのに、救急医必要医師数は1.28倍という結果でした。地方だと救急医療を、主に救急「非」専門医が支えているのです。しかも当直明けもない36時間勤務で。救急非専門医が重症外傷の診察をすることは困難です。そういう患者さんに無理して対応して、結果が悪ければ時には訴えられる危険性も感じているわけです。
2年に1回保健所に出す医師の届け出調査票がありますが、これも驚くべき実態です。この調査票は私も書いていますが、1週間の労働時間も、常勤か非常勤か、当直しているか否か、それらを一切記入する項目がありません。だから、医師の実動数の把握はできていないと言って過言ではありません。週の労働時間を記入しなくて良いのですから、1週間に半日しか外来をやっていない医師もこの調査票では1人とカウントされる危険性があるのです。正確な実態調査がないままで良いのでしょうか。
その結果、日本ではOECDで最低の医師が、長い労働時間に耐える結果となっています。一方アメリカは、今、医師増員を計ろうとしています。その理由は、将来アメリカは高齢化するからです。高齢化に対して医師増員を検討しています。さらにアメリカは医師数をカウントするとき、full time equivalent「実働数」で数えています。だから、1週に半日しか働いていない医師、高齢で寝たきりに近い医師、もちろん亡くなった医師も医師1人としてはカウントされません。今までの日本の医師数には場合によって、そのような高齢者まで含まれていたことは有名です。厚生労働省が発表した年齢別医師数のグラフは、高齢者が医師としてカウントされていることを証明しています。90歳以上の医師まで含まれているのです。
日本の医師数にはもちろん65歳以上の人まで入っていいます。他の国の医師の労働時間調査を見ると70歳以上の高齢医師が含まれていない国も珍しくありません。ところが日本では90歳以上の医師まで全部含めて、全国で医療崩壊が起きているのに、医師を増やせば将来余るといって医師増員に反対するのは大問題です。余りにも国民の命を軽視しているのではないかと私は危機感を持っております。ちなみに、この図から試算すると27.2万人の医師数の中で65歳以上の医師が4万人程度存在しますから、65歳以下の医師は23.2万人しかおりません。さらに重要なのは、医師が多いか少ないかを検討する際に、各専門医の数も正確に把握することがイントです。少し古いデータですが、日本では救急医が極端に不足しています。人口当たり救急医師数は欧米の10分の1程度です。そのため救急「非」専門医が全国で救急を担当しているわけです。地方によっては、常日頃は全身を診ない科の先生まで救急を担当しています。それで重症患者さんを断ると「たらい回し」と言われるでしょう。最近はメディアの方もかなり理解していただいて、「たらい回し」ではなくて「受け入れ不能」と表現してくれるようになりました。
麻酔科医も不足しています。このスライド当時のデータでは病院内に麻酔科が常勤しているところ施設はたった3-4割です。夜間や休日の緊急手術は外科医が麻酔をかけているのも日常茶飯です。これが先進国日本の医療の実態です。本当に現場は困っています がん専門医は充足されているでしょうか。日本はがん対策基本法をつくりましたが、がん専門医も極端に不足しています。多くの病院に腫瘍内科がいません、放射線治療医もいません、病理医も緩和ケア医も。法律をつくっても、専門医不足を放置したままでは、誰が治療を担当するのでしょう、法律が治療してくれるのでしょうか。本当に現場の実情を正確に分析して、適切に対応してほしいと私は思っております。ちなみに、土屋先生の試算によると、がん関連の専門医だけを見ても8万3,000人不足ですから、昨年の厚労省調査の不足数2万4,000人を見るともう目眩がしてきます。これが日本の実態です。
次に大学の医師数。大学も昔でいう一期校も、もちろんその後の新設大学はさらに、アメリカの大学に比べるとスタッフの数が少ないのです。これだけ大学では医師が少ない上に、最近は独立行政法人化されて、赤字を黒字に転換しろと迫られて臨床に力をいれています。大学は若手を教える教育機関です。さらに研究や論文までを期待されています。大学の医師もスーパーマンじゃありません。
今の日本の医療をサッカーにたとえて言えば、Jリーグ発足以前の日本リーグのような状態です。日本リーグの頃の日本代表は世界でなかなか勝てませんでした。サッカーだけでなく、医療もシステムを整えないと強くならないんです。幾ら選手が素質に恵まれていても、釜本のような世界で通用する選手はなかなか現れにくいシステムでした。人手不足の現場で過重労働に加えて、多くのことを期待される日本の医療者は本当にかわいそうだと思います。能力があって、やる気もあるのに、世界で一番過酷な環境で働いているのです。
つまり日本の医療はシステムが悪過ぎるのです。その状態を放置されたまま医療事故の場合には、刑事罰も当然、と言われて、現場から立ち去る中堅医師も後を絶ちません。さらに急に「医療イノベーション」と叫ばれています。イノベーションって何?と質問したいです。通常の医療を提供することさえやっとなのに?。教育・研究・臨床充実のためには大学のマンパワーと経済的バックアップは必須、急務です。しかも、日本のさらなる問題は医師や看護師だけでなく、その他の病院の職員も圧倒的に少ないことです。ご存じのように、診療報酬点数が抑えに抑えられて赤字の病院には、医師や看護師を助ける人員を雇いたくても雇えないんです。例えば医療秘書さん、少しだけ診療報酬点数で認められるようになりましたが、今程度の点数では本当に必要な人数を雇ったら、病院は完全に赤字です。まだまだ僅かなものです
医療秘書の必要性を認めてくれた厚生労働省には感謝していますが、現場の医師や看護師の疲弊を改善できる位の人数が雇えるぐらい経済的にバックアップしないと駄目です。今、医師定員を検討していますが、医師は医学部定員を増やしても現場にすぐには増えません、医療秘書さんやコメディカルの方をできるだけ現場に増やして、医師や看護師をサポートできる体制を作れば、患者さんに対する説明も丁寧にできて、患者さんの満足度も向上し、医師も自身の業務に専念できて、病院からの立ち去りが減る可能性があります。また医療秘書さん等の雇用が全国の病院で増えれば地域で雇用が確保できます。病院とか福祉施設がなくなったら地域に安心して人が住めないでしょう。電気とガスと道路だけあっても住みやすい地域とは言えません。未曾有の高齢化社会目前の今こそ本当にお金をどこに使うべきか。日本は考えるべき時だと思います。
先ほど触れましたが、外国の病院では業務分担が進んでいて、医師、看護師以外に医療秘書、PA、NP、さらにその他の多くの職種が働いています。点滴用の静脈ラインを確保する人、患者さんを運ぶ人、Doctor patient Relationshipといいまして、医師と患者さんの間に立って説明を担当する人。日本ではよく見られる光景として外科手術が長引いたときに、医師も看護師も皆忙しく、手術が遅れている理由や進行状況等を患者さんのご家族に説明する人がいません。米国ではそういうときに、今、手術はここまで進んでいますと手術の終了を待つご家族に説明する担当者までいるそうです。クオリティーがまったく違うでしょう。これが日米の決定的な差なんです。だから、医師増員はもちろん、このような医療補助職も大幅に現場に投入すべきなのです。それでなくても今は大学生の就職が決まらないという時代なんですから、病院で働けるようにしたらどうでしょうか。病院で人手を増やす選択肢はないのでしょうか。多くの方が病院に入って手伝ってくれれば、我々医師も看護師も大・大・大歓迎です。
日本は多くの専門医が不足していますから、外科でたとえれば、1人の外科医が術前検査をして、手術をして、場合によっては病理検査も行い、術前や術後の抗がん剤の治療の担当は珍しくないのです。さらに緩和ケアも担当し、患者さんが急に具合が悪くなれば、夜、主治医として時には病院に呼ばれて救急医や麻酔医の役割もします。それなのに医療秘書さんもいません。これらの多くの役割を1人の医師が行っているんです。労基法無視の過重労働に加えて多くの治療を1人で担当して医療の質が上がるわけない。サッカーで言えばまさに昔の日本リーグ状態です。日本リーグのころの選手はきっと自分のユニフォームを洗濯したり、靴もボールも自分で磨いていたのだと思います。今のJリーグはそれはやっていないと思います、Jリーガーは試合に勝つことが最大の仕事です。あの選手は靴磨くの上手だよって、本末転倒ですからね、このあたりの実情を良く考えて医学部定員を検討いただきたいと思います。
さて、私は勤務医で開業医の先生の詳細な事情はわかりませんので勤務医がおかれた状況を説明します。勤務医はこのように1人で多くの役割というか能力を要求されます。そして、医師不足のため定年で病院を退職しても、亡くなる直前まで働くことが多いのです。ある調査によると80歳の日本の医師の平均1週当たり労働時間は30時間です。先ほども紹介しましたOECD加盟国の平均人口当たり医師数が10万人当たり310ですが、日本では人口当たり医師数が最多の東京も京都も300以下なのです。惨めなのは医療圏別に見ると100人以下のところが北海道に2カ所、他にも青森、仙台、福島、茨城、千葉、埼玉等にあるのです。私は医療福祉教育をきちんと整備しないで長期的な経済発展を望むのは無理と思うのですがいかがでしょうか。
さらに今、日本人の8割が病院等の施設で亡くなる時代になっています。世界最高の高齢化で、世界で一番病院で亡くなる人が増加しているのです。病院で亡くなるということは、多くの場合勤務医である主治医がその方のお看取を担当します。昔だったら近くの開業の先生がお宅に行って、ご臨終を看取ってきた役割まで、病院の勤務医が担当しているのです。そういう時代になっているのです。夜中でも呼ばれて病院へかけつける、これが日本の勤務医の現状です。
さらに大事な視点は、皆さん昭和22年から平成16年の疾患別死亡者の割合の変化をご覧ください。高齢者化していますが、肺炎や脳血管疾患はそれほど増えていません。心疾患はある程度増加していますが、何と言っても悪性新生物・がんによる死亡者が急激に増加しています
一例を挙げれば疾患別死亡者の増加に合わせて増えなかった領域の専門医、麻科、緩和ケア、腫瘍内科等があります。これらの不足する専門医の分を外科などが1人何役で補ってきたわけです。決定的に不足している専門医数をきちんと試算してそこに補てんする。しかも、地域ごとに不足数を補てんする視点が必要です。これを医学部定員決定に合わせて検討しなければ、確かに医師を増員しただけでは医師不足解消も偏在を解決することも難しいというのが私の結論です。
次にこのグラフをご覧ください。将来日本各地で推定される患者数の変化を検討に入れないのは問題だということです。推定患者数増加と医療の質が進歩することによる必要医師数増加の両者を頭に入れながら医学部定員を決めないと問題がおきます。この右下のグラフで、一番右側の埼玉県をご覧ください。将来なんと今現在よりも相対的に医師が不足することがわかります。もちろん医師が本当に余っているところが将来出現すれば、不足している埼玉県のほうに優先して医師を派遣してもらうシステムが必要でしょう。先日ある有名大病院の先生に「OECDと比較して医師を増やすと言うのはやめなさい」と言われたので、「それじゃあ、埼玉県へ栗橋病院に医師を派遣してください」と訴えました。その先生の主張は私には医師不足で困っているところを考慮に入れていないように見えます。おかしいでしょう。卒後研修医が断るほど集まる有名病院の院長は医師増員の必要性はあまり感じられない、そのような実態もあります。
さて医学部とその地域の人口を比較すると興味深いことが見えてきます。人口当たり医学部数が多い地域がある一方、医学部が少ない地域は茨城、埼玉、千葉、関東です。この地域は医師も不足しています。医師不足に対応するには、このような地域に優先的に医学部を新設すべきではないでしょうか。
そして、最期に私は医師側にも大きな問題があると思います。医師を増やすと余って困るとずっと脅されて恐れおののいているんですね。私の医学生時代の30年前にも医師を増やすとイタリアのようにタクシーの運転手をやらなければならなくなるぞと脅されました。最近は歯科医が過剰だ、弁護士も過剰だ、本田先生何を考えているんだと非難されています。だけど、皆さん、歯科医とか弁護士の先生は基本的に夜間や休日は稼働していないんです。一方医師は全国各地で365日24時間労働しています。別な労働条件の人を頭数だけで比較して、歯科医や弁護士が余るから医師も余る、だから医師増員をやめろというのはおかしくないですか?。ここを冷静に考えないと医療崩壊は止まりません。ということを強く訴えて終わりにしたいと思います。
とにかく正確なデータを出す、次にきちんとしてグランドデザインのもとに患者の権利の視点で医療を再構築することが最重要課題です。このような貴重な機会をいただきましたのに、いつもの調子でプレゼンをしたことを最後にお詫びして私のプレゼンを終わります。ご清聴ありがとうございました。
【安西座長】 どうもありがとうございました。
急がせて大変申しわけございません。後で質疑をやらせていただければと思います。よろしくお願いいたします。
それでは、3番目に日本医科大学教授の長谷川敏彦先生にお願いいたします。やはり20分くらいでお願いします。
【長谷川敏彦氏】 ご紹介いただきました長谷川でございます。大変重要な課題を日本のリーダーである皆さん方と一緒にいろいろとお話しできることを大変名誉に思っております。文科省の方からいただいたテーマは、諸外国の現在の政策や、おまえがやった昔の医師の需給の考え方は今どう思っているんだでありましたが、両方とも大変大きな課題で、20分で話すのはほとんど不可能ですけれども、なるべくわかりやすく3つの反省、3つの課題、そして3つの総括ということでお話しさせていただければと思っております。
テーマが大きいので、詳しい内容、事実関係は皆さんお手元に資料3で諸外国の現状を4カ国、述べておりますので、それをご参照ください。また、今日お話をする将来推計の部分に関しましては、別途に資料として、その次につけておりますので、それもご参照ください。
実は、この間、もう一度医師需給問題を考えようということで考えてまいりまして、3つの大きな反省をしております。まず第1番には、供給はいいのですけれども、需要の予測をすべきではなかったのかなと。実は今からお見せしますけれども、去年の10月に4カ国の医師需給の計算をしている担当の方々とお話をして、特にイギリスのアンディ・クニプトンさんは、そんなもの不可能だ、どの国もやっていないよ。あなたがもしやっているのだったら、ぜひ教えてほしい。いい方法はわからん。世界中の国、やっていないと言われて、ああ、そうなんだと確認したのですけれども……。
【安西座長】 お手元の資料3。
【長谷川敏彦氏】 そうですね。資料をご覧いただきながらだとありがたいのですけれども、8ページ目に書かれておりますけれども、実は彼の認識は1点誤っておりまして、やっている国があります。それはアメリカです。アメリカは需給の計算はしているんですけれども、向こうは医療を市場経済で主にやっていますので、主として購買モデルでやっているということになります。アメリカは、このRichard Cooper先生というのが医師増強派の急先鋒で、彼が一番過激な意見で、私は一度お話したことがあるんですけれども、「長谷川君、そんな需要を計算するなんて不可能だし、意味ないよと。医師というのは、国民が何人必要とするか。いわゆるGDPの伸びによって決めればいいんだよ」と言われました。右のSalsbergさんがアメリカの全米医学協会で計算している人なんですけれども、彼は需要と経済の伸びをうまく合わせたような式で算出しています。
結果論として、ほかの国が今見直しに入っていまして、医師数は減らそうかという話になっているんですけれども、アメリカだけが2015年までに30%増。何と全部で16校の新設校をつくる。既に5校が新設されておりまして、あと4校、考慮中という状態になっています。これの図が実際の人口あたりの定員の変化ですが、これはまだアメリカが定員を増やしている段階が入っておりませんので、日本とほぼ同じ並びとなっております。私の反省としては、アダム・スミスが言うように市場に任せるべき需給というものを人がやる。つまり、神を冒涜したのだということでいろいろとご批判をいただいたのかと思っております。それにもう一つ、需給の場合にどうしても2本の線のほぼ並行したラインを書きますものですから、数の変化によって大きく変わってくるという問題もあります。
反省の2点目としては、国立長寿医療研究センターの大島先生に言われたんですけれども、「君、頭数だけで意味ないよ。これからの社会というのは、人類がかつて経験したことがないような社会を日本がするんだ。そうすると、そのときにどういうケアが必要で、それにどのような社会が必要で、もっと言えばどういうチームがそれぞれ必要で、その中でどういうふうに医者が役割を果たすのか。それを考えて数を考えるべきだ」と。というのも、ちょうど20年後の2030年に日本は高齢者の絶対数はピークを迎えるわけですけれども、割合としては、数自身はさらに30年間伸び続けて、分子が減りますから2060年にピークを迎えます。この2つに向かって歩むのが現在の学生で、ちょうど30年後に医療界の中核として活動し、そして彼ら自身がその2060年の人類史上最も年老いた国の高齢者になるということになっております。
考えてみますと、現在の医療というのは19世紀の終わりにドイツを中心に発達してまいった。平均寿命が50歳までで、単一疾患、単一エピソードをベースにした医療です。したがって、医療の目的も絶対治癒、絶対救命を目指すということが中心でした。しかし、平均寿命85歳になり、そして疾病は多疾患になり、継続して繰り返し発症する。つまり、19世紀に開発されたモデルがほぼ使えない社会に入っていく。1980年ごろまで、だましだましそれを使っていたんでしょうけれども、もはや使えない。特に2030年の世界においては、医療の目的も絶対救命、絶対治癒からご本人が求める機能をいかに支援していくか。つまり、福祉とほぼ同じ役割をするというふうに転換していくのではないでしょうか。
これまでのケア、あるいはこれまでの医療は主に急性期を中心に行われてきて、これからその5つの異なったケアというのを考えていく必要があるのではないでしょうか。しかも、それが行われるには1人の人間をずっと追っていく。いわゆる患者中心のシステム、システムはさまざまな資源があるでしょうけれども、ネットワークを組みながら1人の患者さんを追っていくというケアが必要となってまいります。これまでの急性期ケアから5つの異なったケアを目指し、それにはそれぞれのチームが必要で、そのチームがその中で医師の役割というのを考え直していく必要がある。とりわけ、在宅ケアや末期ケアにおいては量的に拡大が予想されますし、地域のいわゆる診療上のケアにおきましても中身が大きく変わってくるのではないでしょうか。
反省3といたしましては、医師の需給を頭数、人ではなく数として考えていた。ドラッカー教授によりますと、プロというのは、専門教育を受け、社会的なゴールを追求し、最後は満足して死ぬという長期的なプロセスの中で自己実現していくという職種であります。分析すると、多くの場合は病院勤務から診療所勤務に移っていく。大体35歳が完成形で、それまで卒前、卒後、専門教育を受けて、そして自分自身が経験をして生涯学習しながらオートパイロットしていく。しかし、大体50ぐらいになると体力がおちて、急性期の現場で働きにくい。事実、大体50を過ぎますと管理職か、もしくは開業するというオプションがあらわれてくるという状況になっています。残念ながら、そのちょうどど真ん中の研修の最中、一人前の医者になる途中に人類としての生殖、出産というタイミングがあらわれてまいります。特に今後、女性医師が増えてくるとなった場合に、その個人的な出産の年齢とキャリアとの間のコンフリクトが起こってくるということであります。
したがって、これらの3つの反省を踏まえまして、3つの提案を本日お話ししたいと思うのですけれども、提案の1としては、需要を計算するのは間違っている。むしろ、供給から医師のキャリアパスに基づくモデルを考えるべきではないか。事実、イギリスではこういうふうに計算した上で関係団体と話をして必要医師数を決めていくという手法を使っているようであります。しかも、今回ぜひ超高齢社会に見合ったケアの内容を考えた上で想定していくということをすべきではないかと提案したいと思っています。個人のキャリアモデルというのは、いわゆる個人としてのキャリアと、それからプロとしてのキャリア、これをどういうふうにうまくバランスをとっていくかという課題で、今後はプロとしても研究や留学、場合によってはそのほかの職業に変わっていくということもあり得るのではないか。
実はそういうふうに考えてまいりますと、現在、主として病院医師が足りないという話になっておりますけれども、間口で決まる。つまり、医師登録数掛ける急性期病院で何年働けるかで基本的に病院の医師数は決まってくる。ただ、その間口自身には、入った後に歩留りがある。例えば女性の活動が出産等で低下する場合もある。あるいは最近の若年者の労働観から労働時間が減るということもある。あるいは最近聞いて大変ゆゆしき事態だと思っているんですけれども、モラトリアムのような、初期研修が終わった後に専門のトレーニングに入らずに検診とかコンタクトレンズなんかのアルバイトで食っているという人が800人とか、2,000人近くいるといううわさも聞いております。確認はしていないんですけれども、そうであるとすると大変歩留りとしては病院医に入っていく数が減っていくということになります。
これは簡単にまとめましたけれども、供給で不足の方向を向く、例えばさっき申し上げたようなフリーターとか、ワーク・ライフ・バランスとか、女性が増えて産休が増えるといった不足の方向と、逆に女性を支援して働くようにする。あるいは診療所からの診療の支援、それから、院内における多職種の協力というようなものは、むしろ充足の方に向くだろう。需要に関しましても、病床、実は後で図をお見せしますけれども、病床が減ってまいりますと、受け持ち患者は随分減ってまいりますし、退院患者の数自身は将来増えるわけでありますけれども、実は2030年に半分、75歳が半分になるという推計になっておりまして、本当にそういう人たちの入院が必要なのかどうか。
また、一方で技術が複雑化し、手間がかかるといった方向もあり得る。推計をまとめますとこんな感じになりまして、退院で回帰という方法と固定をして年齢回帰別の入院回数を固定して人口を掛けて推計するという方法と二つの方法がありますが、大体10から17%ぐらい増えるということになるんです。ところが、実は外来、有病はあまり増えません。若人が減って、それからは高齢者が増える。そして、人口そのものが減る。2030年には10%減りますことがかなり大きく効いています。一方で、激増するのは障害とか、いわゆる要介護者、そして死亡数です。これが実際の推計なんですけれども、いろいろな方法をとりましても、大体10-17%の間に退院患者数は増える。それから、有病外来は2030年にはプラマイゼロから5%以内の増えしかない。
もう少し詳しく見ると、このように若人が減って高齢者が増える。つまり、ケアの内容が大きく変わってくるということになります。要介護者もこのように増えてまいります。供給の方は、実は私どもの計算で現在の働いている場所と同じだ医学部定員が同じだというふうに想定して計算いたしますと、将来、2030年には病院医が約15%、開業医が40%増えます。そうすると、先ほどの図をご覧いただきますと、病院は歩留りや重症度を勘案しなければ大体バランスがとれるんですけれども、地域の有病者の方は変わらず、診療所の医師は大きくは余ってくる。結局、病院医を確保するためには、医学部定員を増やす、あるいは医師登録数を増やすということは必要ですけれども、そうすると最後は結局、診療所にたまるという構造が起きてくるということを意味していると思います。
先ほどちらっと申し上げたのは、必要病床数は平均在院日数が下がってまいりますと減ってまいります。先ほどの医師数を掛け合わせますと、10日ぐらいまで下がりますと病院医師1人の受け持ちの患者数が3人。7日まで下がりますと2人前後にまで減ってくるということであります。こういうのを総合的に勘案するとその需給というもののバランスを考えるのは大変難しいということだと思います。
提案の2番目としては、以前から考えておりましたこと、私に対するご批判で大変混乱している部分があると私は思うのですけれども、現在の不足数をどうするかということと未来をどうするかということは分けて考えていただかないといかんのではないかと思っております。もし現在足りないということがはっきりしているのであれば、それは待てない。オプションは3つしかない。実はイギリスが2000年に政策をつくりました。これとほぼ同じことを考えてかなり見事にやったんですけれども、政府の窓口を決め、国と国の協議で、外国からドイツからはこういう医者、フランスからはこういう医者というのをもらってきて、まずは急場をしのぐ。そして同時に入学定員を増やして何年か待つ。入学定員が増えてまいると外部からの導入をやめる。これを医者と看護師で見事にやって、ほかの国々からも批判が出たとお聞きしていますけれどもうまくいった。日本もそういうことをやらないといかんのではないか。
そうしますと、日本の場合は言語が問題で、イギリス、アメリカの場合にはほとんど英語で教育されているので問題ないのでしょうけれども、日本の場合、瀋陽にあります中国医科大学は日本語で教育しておりまして、数千人卒業していますから、そういうのは可能性があるのかなと。プラスアルファでせいぜい5,000人ぐらいの単位までしかとれないのかなと。あとはほかの職種の再教育。一番近道が歯科医ではないか。看護師さんもいいんですけれども、女性の場合が多いこともあるので、トレーニングした後、50歳までの間に急性期の病院で働いていただける時間は少し短いのではないかということで、例えば歯科医師で2万人となりますと、先ほどの厚生省調査の不足数というものをこれでカバーするとすれば1年間に4,000人ずつ、5年間で急遽再教育をして医師に転換するというアプローチがあるのではないか。もっともあの調査の数字は実態をあらわさないという意見もありますが。
こういうアプローチのほかに、あるいはこれがないとすれば、なるべく病院医師の生産性を高める。いろいろな方法、ITを使うとか、いろいろ議論がありますけれども、1つやはり外来患者を減らすというのは大きいのではないでしょうか。入院に関連した外来だけ、もしくは紹介外来だけということで、現在、延べ6億人の病院への外来患者を診療所に移すと、このようなバランスになって、それによって労働時間も減るとなるのではないでしょうか。日本の病院は2006年の調査で24%の時間を外来診療に使っていいます。外来患者が半減すると12%時間減となります。次に各職種間の役割分担を考えていくということで、今いろいろな議論が進んでいるとは思うのですけれども。実は日本はもはや7対1で病棟の看護師数というのはフランス、ドイツとあまり変わらないのですけれども、それ以外の職種、つまり、非医師、非看護師の職種の数がほかの国と比べて低い。だから、いろいろな方法で経営の効率化、生産性の向上を図っても、最後は何らかの形のマンパワーの増が必要となる可能性大です。そういう方々の教育年限は短いので、医師よりも早く効果が出るのではないかと考えられます。
しかし、そもそもなぜ医療崩壊が起こったのか。その原因を考えて対処しないと本質的な解決にはなりません。表面上は当然、契機となった初期研修等があるわけですけれども、恐らくその背景に日本の医療の未分化性があり、効率にも問題が出てきた。それが今回、研修を契機にはじけたのではないかと思われます。例えば病院を想定いたしますと、病棟の中で診断から治療、治療から回復期まで全部担っていたのが、平均在院数が短くなって、病棟の機能が変わってきた。その結果、病棟の師長さんの機能も大きく変わってまいって、病院全体のシステムが変わってきたのではないか。
つまり、医療崩壊というのはいろいろな医療マネジメントのレベル、地域や病院や臨床レベルでそれぞれの関係性が変わってきているのではないか。患者さんとの間、職種間の関係、施設間の関係、その関係性がきしんだり、ねじれたり、そして断裂したりして崩壊が起こったのではないかと思われます。したがって、これからのその課題の解決というのは、もう一度システムを個人の技ではなくてチームとして、システムとしてもう一度再構築し直すということが重要ではないでしょうか。
提案3として、量を議論することはもちろん重要なのですけれども、やはり質が大きな問題で、需要に適応していない医者をいくらつくっても足りない。したがって、これからの医学教育が大きな課題です。現在既に医学教育には知識の膨大化等、大きな課題をいっぱい抱えているんですけれども、それに加えて超高齢社会に向けての医療の変化に対応した教育が必要で、日本医大ではいろいろと工夫をしてやり始めてはいるのですが、医療のケアの新しいモデルから始まってカリキュラム教育法までが必要ではないかと思っています。
これまでの医学教育は19世紀の古いモデルに基づいていて、根本的な改革が必要と考えています。
まとめに入ります。まず最初、2006年推計というのは、実はそれ以前に何度もありました需給の検討委員会の方法論・考え方をそのまま踏襲してやったものでありますその中では最も精緻なものだと私自身は自負しております。ただ、目の前に人類未曾有な超高齢社会を迎えて、物の考え方、とらえ方を根本的に変えていく必要があるのではないかと今は思っております。2つ目に、その需要を考える場合、確かに日本国民の健康のために医者を何人つくるのだと考えることは重要な課題ですけれども、同時に個々の医師がプロとして誇りを持って仕事をし、同僚と協力し合って患者さんに満足してもらいと同時に、最後は自らもプロとして満足して生涯を終えることができる。そういったシステムを効果的・効率的に考えていく必要があるのではないでしょうか。
どうも短期的現象にとらわれて長期的な課題を解決するのは危険ではないかと思われます。実は井形委員会と矢崎委員会の結論は非常によく似たものでした。現在は足りないけれども、2030年頃バランスがとれる。反応は反対で、井形委員会では医師を減らそう、矢崎委員会では、その後、医者は増やすべきではないかというふうになった。それには背景が違っていて、恐らく当時、井形委員会の場合には新設医大の卒業生が労働市場に出てきていて現象として過剰感があった。矢崎委員会では卒後研修が始まったばかりで急に医師不足となっていたということだろうと思うのですが、したがって、長期的課題は長期的課題、短期的課題は短期的課題と分けてとらえないと政策を誤るということであります。
最後に、最近気になり出したのですけれども、高齢社会というのは少子社会です。したがって、毎年生まれてくる人が少ない。その毎年少ない人を生産か医療かどのセクターに投入するのかというのは大きな社会的課題で、下手しますと現在でも女性の場合新卒就職者の約20%が看護師と聞いておりますし、それがどんどん増えてまいる。しかし、一方で雇用促進については、医療福祉のセクターが一番いいとなっていますので、その辺をどういうふうに考えていくのか。そして、医師需給の課題というのは数の議論ではなくて、医師のキャリア全体を支える総合的施策を同時に志向することは必要で、その他の職種とも連動する必要があるのではないか。実は、薬剤師は医師とほぼ同数の世界で5番目、OECDでもトップの人数になっております。これをどのように生かしていくかということも大きな課題ではないでしょうか。
以上、限られた時間でしたので内容はかいつまんで申し上げましたが、詳しいことは資料の方をご覧いただければと思います。どうもありがとうございました。
【安西座長】 ありがとうございました。
3人の先生方にお話を伺いまして、大変急がせてしまって申しわけございませんでしたけれども、これから自由討議、また、ご質問、ご意見を伺う時間にさせていただきます。どなたでも結構でございますので、ご質問でもご意見でも結構でありますので、今の特に3人の先生方のお話に対して何かご質問、ご意見があればお願いできればと思います。
どうぞ、西村委員。
【西村委員】 僣越ですが、最初にわりあい経済の話が出ましたので、お3人の方に相互に関連する質問というか、感想を申し上げたいと思います。主に本田先生のお話なのですが、私は現場の気持ち、大変よくわかります。そして、まず増やすべきであるということは大前提で議論したいと思っておりますが、先生の話によるとこれから12万5,000人程度増やすというイメージで、はっきりおっしゃいませんでしたが、そういう話。先ほど堺先生の方は、5万人ぐらいを増やすとすればどれぐらい医療費がという試算をされております。
先に少し感想を申しますと、5万人ぐらいの増であれば、私は財源的にもそんな大変なことではないと推察いたします。しかし、12万5,000人となると、これはかなり大きな、まさにグランドデザインを変えるという話になろうかと思いますので、そこで少し質問なのですが、先生は別のところで救急医、麻酔科医、がん専門医、そういった人材が不足しているというお話をされまして、私もこれも大変緊急の課題で、私個人としては、救急をやって初めて医療の値打ちがあるというふうに私自身思っておりますので、全く賛成でございますが、ちょっと謎がございます。
それは長谷川さんのお話にもありましたように、日本は今10万人当たり2.2人、先生は3.2人というOECD平均と比較されました。しかし、実はアメリカは現状2.4人なんです。アメリカの数字を挙げられまして、じゃあ、わずかに日本と比べて多いだけのアメリカで、そういう救急医、麻酔科医、がん科医があれだけ充足しているということは、どこか違うところに足りないところがあるということではないでしょうかというのが質問です。先生は地域偏在の話もされました。恐らく、私も正確なアメリカのマップのデータは存じ上げておりませんが、地域偏在という観点から言うと、恐らく日本よりもはるかにアメリカの地域偏在は大きいのではないか。これは推測、間違っていたら教えていただきたいと思います。
そうすると、12万人増やす場合のグランドデザインと5万人程度増やす場合のグランドデザインはどのように違えるべきかということが大きな課題になると思いますので、ぜひ。それに関して、私は長谷川先生のお話にあったように、長谷川先生はこれをさらっと過ごされましたけれども、やっぱりアメリカは、私はこれは決していいと思いませんが、日本は今35兆円ぐらいの医療費を使っておりますが、人口当たりに換算してもアメリカは100兆円ぐらい使っております。日本の人口規模に縮小して。そうすると、アメリカ並みの医療をしようとすれば、いつも私はちょっと奇異に思うのは、アメリカと医師の先生方が状況を非常に比較されます。それは天と地の差であって、お金の使い方は人口当たり2.5倍です。高齢化を考慮すると、もちろん倍ぐらいになるというふうに想像いたしますが、それにしても2倍ぐらいお金を使っているわけですね。
そうすると、先生がおっしゃったように話は、長谷川先生の最後の話に少しつながると思うのですが、これはここの場で議論できるかどうかわからないぐらい大きな議論、つまり、私どものこの国が100兆円医療費を使うことができるかどうか。例えば15年後ですね。私は、これは平井知事の横で大変恐縮な言い方で、ぜひ誤解のないように願いたいのですが、先だってから藻谷浩介さんという方が「デフレの正体」という本を書かれて、今、本当に医師だけではなくて、経済的にも地域格差がすごい拡大しているわけです。従来の産業構造はほとんど生産年齢比率によって経済の活動が説明できるという話をしておられます。私は異論があります。異論がありますのは、新しい産業を起こすことによってという、それは先生のご意見も賛成で、医療福祉というのはやっぱり、ただ、そういう観点から言うと、私はライフ・イノベーションは先生の話とちょっと違うと思うのは、これから恐らく外需にこたえるための医師養成という話も視野にあって、私はいいと。
つまり、海外に出ていって仕事をする方も含めるともっと増やした方がいいという結論になるということは当然だと思いますが、そのあたり、先生、私は経済学者なものですから100兆円は難しいのではないかという印象を持つんです。そういう前提の上で何か先生にいい知恵とかアイディアがございましたら、教えていただきたい。堺先生の話に関しては、今、この程度でと言うと怒られますけれども、この程度でいいんでしょうかねというのは、それは別途疑問に。もう少しかかるのではないかという推測をしておりますので、そういう趣旨でもしお考えがございましたら教えていただきたいと思います。
以上です。
【本田宏氏】 かなり大変膨大なご質問なので……。
【西村委員】 すみません。
【本田宏氏】 まず、重要なことは、私は今の段階でOECDと比較して医師増員が必要だと訴えているのは、現在すでにこれだけの差がある事実を、まずは基本認識とすべきであるからです。たしか長谷川先生の医師の需給検討会の米国の報告の部分に書いてありましたけれども、アメリカでは種々の機関が医療需要や経済的側面などそれぞれの観点から将来必要な医師数を試算しています。それらをつき合わせて将来必要な医師数を考えているようです。本来は今回のような一つの検討会だけでなく、日本でも同様に医師の適正数を検討すべきです。
世界と比較してこれだけ大幅に減ってしまってから、今さら大変だから医学部定員を考えようということ自体がもう大戦中と同じように「甘い情報分析、遅い基本方針転換」そのものなんです、私に言わせれば。今後も1-2年ごとに高齢化や医療の進歩、医療の質等を加味しながら、もちろん世界の趨勢も見ながら、日本でもいくつかの機関が医師が現在何万人不足か、将来の見通しは、等の答申をまとめる。そして重要なことは、医療レベルや医療費をどの程度にするかは、最終的に国民が決めることだということです。我々が100兆円は多いいとか、50兆円で十分という話でなく、一応、日本は民主主義国家のはずですから国民が決めるべきと。ただ、私は全国で医療福祉教育は重要な社会のインフラであること、資源が乏しい日本で医療福祉教育を削ったら、将来、日本の発展性はあるのかということを訴えております。
ですので、私が100兆円にすべきというつもりはありませんが、医療とか福祉に価値があるものだと国民が考えれば、国民の方がそれを選択すべきです。その結果医療や福祉、教育にお金、税金を使う、自己負担も納得できるでしょう。しかし幾ら私が頑張って訴えても、医療福祉教育の優先順位が低いと国民が選択すれば、堺先生がおっしゃったように医療費は増やせないのです。私はむりやり医療費や医師を増やそうとは思っていません。ただ、その国民が判断が可能となる情報を広く一般の方に伝えたいと思っています。
最終的に医療費は経済学者の先生が決めることでもないし、私が決めることでもなく、国民が決めることです。もう一つ、今後は地方の役割が大変重要になると思います。医療は地方ごとに医療圏がありますから、中央で医師は何人いればいいんじゃないか、多い少ないを決めるのではなく、地方が地域の医療体制を構築できる形にすれば、例えば将来私は医療が充実している島根県や鳥取県に住みたいとか、そういう選択が起きる可能性もあるわけです。全国一律に医師増員の必要はないかも知れませんが、不足の地域を無視して、医師は増やす必要がないと主張することも、全く余計なお世話です。医療こそ地方分権が期待される分野、医療福祉教育をうちの地方は大事にする。県知事さんがそういう分野にご興味があれば県知事会に私はいつでも喜んで講演に参ります。
あと私のプリントの最後の2枚目に書いてありますが、NP、PAさらに医療秘書等も含めて、医療補助職が今後どのぐらい現場で活躍できるようになるかによっても、当然、医師、看護師の必要数は変わってきます。ですから、一つの検討会で医学部定員を何人と決めて、そのまま走り続けるとまた「甘い情報分析、戦艦大和」と同じになります。やっぱり経時的に種々のデータをとる機関が必要です。ただそれを行政がやるべきなのか、今日の資料にも出てきましたが、医療政策銀行などシンクタンク等が実施すべきなのか、重要なのは多くの機関が参加してオープンな議論ができることではないでしょうか。基本情報をオープンにして、みんなで考えながら、どういう医療・日本をつくっていくか。まさにそれが民主主義の手順ではないかなと私は思っております。ですから、医療費がまかなえるか否か出るか出ないかというお答えは難しいと思います。
【安西座長】 よろしいですか。堺先生。
【堺常雄氏】 私が申し上げたかったのは、現状で単に労働時間を軸に考えるとこれだけ足らないということで、これは事実を言ったわけでございまして、例えば長谷川先生がご提案なさったように医師のキャリアを考えてどうあるべきかということではないので、だから、現状でももう既にこのぐらい足りないんですよということなんですね。
【西村委員】 結構です。
【堺常雄氏】 それから、アメリカは2.4とかおっしゃいましたけれども、先ほど申し上げたようにオバマの改革で、例えば2025年までは6万3,000人足りないと言っているわけですね。ですから、これはなかなか流れのある中での議論ですが、私が申し上げたかったのは、現時点で既に足らないので、それをご理解いただきたいということの説明だったつもりです。
【西村委員】 はい。わかりました。
【本田宏氏】 先生、1つ追加。そのアメリカの医師数は私の知っている範囲では、10年ぐらい前は人口1000人当たり2.9から2.8人だったんですね。その後米国は実働数で計算し直して人口当たり医師数が2.6人に減っているんです。先ほど言ったように、日本の医師数にはかなりご高齢の方も含まれている可能性が高いわけですから、実働数でカウントしないと、議論が成り立たないと思います。
【安西座長】 ありがとうございました。
よろしいですか。ほかに。中川委員、どうぞ。
【中川委員】 議論の整理という意味も含めて資料を提出させていただきましたので、それをもとにお話しさせていただいていいですか。資料をもとにお話しさせていただいていいでしょうか。
【安西座長】 どうぞ。
【中川委員】 それでは、中川委員提出資料と書いてあるものの1をまずご覧いただきたいと思います。私は現在の日本の医師不足は、医師の絶対数の不足と偏在の両方が原因だとまず申し上げたいと思います。それで、1枚おめくりいただいて目次でございますが、さらに1枚、日本医師会は見解として昨年の2月にこのような医学部新設の問題点を指摘しましたが、2ページをお願いいたします。今の議論でOECDの平均というものをよく使われますが、これはOECDの平均が各国で基準が、定義がばらばらでして、大まかな目安ということにしかならないのですが、それでも目安はこれしかございませんから、そういう意味で申し上げますと、2ページの下から2番目の段落で日本の医師数をOECD平均並みにするためには1.4倍、それから、G7の平均並みにするためには1.3倍というのが現状です。
さらに4ページをご覧ください。医学部入学定員については、1980年、これは5ページの図をご覧いただきたいのですが、82年に抑制するということが決まりまして、97年にも引き続き定員の削減に取り組むことが確認されました。その一方で、その後、2008年に医師養成数を増やすことが決まりましたが、5ページの表をご覧ください。2007年度を基準にしますと、2010年度までに約1,200人の医学部定員の増があります。さらに今年度、来年度見込みで1,300人ということになります。これ、医学部の定員を100人としますと、大体13医学部を新設したということになります。
時間の関係で少し飛ばしますが、12ページをお願いいたします。一方で日本は2007年をピークに人口が減少しております。2007年の人口は1億2,777万人で、25年には1億1,927万人と見込まれています。そこで13ページの図をご覧ください。今のままの状態で、2025年に医師数が33.9万人になったとき、日本の人口1,000人当たりの医師数は2.8人になると見込まれます。これは現在のG7の平均2.9人に近い水準であるということになります。
14ページ、15ページをお願いいたします。右の図もご覧いただきたいのですが、最近では人口1,000人当たり指数が低いイギリスが大幅に伸ばす一方で、医師数が多いイタリアは大幅に減少させておりまして、一定の水準に収束されつつあります。14ページの一番下の段落なのですが、医学部を新設すべきとの意見もございますが、現在、少しずつ人口1,000人対医師数が増えています。まずは既存医学部の現在の定員数を当面維持して、人口減少等踏まえて医師数の在り方を検討すべきであると思います。そのためには厚生労働省に医師数の需給見通しを、これは継続的にずっとやっていくべきだと思います。そのためには、ただ医師数を増やせ、増やせと養成数を増やすのではなくて、必要な財源を国が責任を持って投入すること、偏在解消のためにも医学部教育の在り方、臨床研修制度の見直しも必要だと思います。
その上で2をご覧ください。1月19日に発表した日本医師会の医師養成、医学部教育と初期臨床研修制度の見直しの案でございますが、まず10ページをお願いいたします。医学部教育の改革案をここに示しました。12ページの一番下の図の改革案を少しご覧いただきたいと思いますが、医学部の1年生から4年生まで、これは高校の教科の繰り返しにならないように一般教養を見直して医学教養としてはどうかと考えております。例えば心理学、社会学、哲学といったものですが、医学については医学教育モデル・コア・カリキュラム、それから、大学独自のカリキュラムを尊重しつつ、1年生から臨床医学の履修を積極的に取り入れてはどうかと考えています。そしておおむね4年生の修了時にCBT、OSCE、面接試験からなる臨床実習資格試験を課して、合格者には国家資格として臨床実習免許を授与してはどうかと考えております。
それから、13ページから臨床実習資格試験と国家試験の改革案を示しました。臨床実習の資格試験の案としては、CBT、OSCE、面接試験を課して、すべてに合格しなければ臨床実習には参加できない。原則同時に受験するのですが、OSCEで不合格であり、CBTが基準点に達している場合、翌年はOSCEのみ合格すればよいものとする。合格者には臨床実習免許を授与するというものです。
それから、14ページに医師国家試験の内容を示しました。これは上級OSCE、臨床実習免許取得時のOSCEの上級編として位置づけて、臨床実習の成果を問うものとしてはどうかと思っております。
その上で15ページ、初期臨床研修制度の改革案をここに示しております。現在の医師不足が顕在化したのは、2004年に始まった新医師臨床研修制度を契機にしていたということは、皆さんこれは共通の認識だと思いますが、いろいろな見直しがございますけれども、いずれも医師の地域的偏在は抜本的な解決には至っておりません。そこで、2段目の段落ですが、日本医師会の医師養成改革案の基本骨格は、「医師は地域の大学を中心に8年かけて育てること」としました。すなわち、初期臨床研修制度は原則出身大学の都道府県で行う。窮屈な印象もあるかもしれませんが、地域でこそ温かく育てたいと考えています。医師の偏在、地域医療の崩壊が日本医師会の初期臨床研修制度改革案によって全面的に解決するわけではございませんが、医師が地域に根づき、医師偏在解消の糸口になること、若手医師が地域に根差し、地域医療を担ってくれることを期待します。そのために日本医師会は全力で必要な支援を行いたいと思っております。
17ページにその臨床研修制度の案でございますが、1年目はプライマリ・ケア能力の獲得に一定の目途をつけることを目指して内科、救急医療、地域医療、これには小児医療、高齢者医療を含めます。精神科、認知症、うつ病対策も含みます。これを1年間やって、2年目には将来専門としたい診療科のプライマリ・ケアを中心に研修してはどうか。初期臨床研修修了時には、5年生、6年生の臨床実習、初期臨床研修医としてのプライマリ・ケア研修を経たことになりますので、一定の十分な初期診療能力を身につけていると判断されるのではないかと思っております。
そこで18ページに臨床研修体制の提案をいたしました。日本医師会は医学部教育から初期臨床研修までの8年間、一貫して地域医療を学習・研修し、より実践的な地域医療を身につけることを目的に初期臨床研修は原則として出身大学のある都道府県で行うことを提案します。また、これにより医師が地域への愛着を深め、ひいては医師の地域的偏在の解消の一助となることを期待したいと思います。その1つなのですが、(1)の都道府県ごとの医師研修機構による運営です。これは右の19ページに図があります。都道府県ごとに都道府県医師会、行政、住民代表、大学、これは医学部と附属病院ですが、さらに大学以外の臨床研修病院からなる医師臨床研修機構を設置して、例えば次のような運営機能を行います。各都道府県下の単年度の初期臨床研修医数がおおむね都道府県の医学部卒業生に一致するように調整する。初期臨床研修医への需要に対して医学部が少ない都道府県から研修医派遣の要請を受けた場合、大学病院等々調整するといったような機能です。
それから、(2)の大学の臨床研修センターを軸に原則として出身大学がある都道府県で研修ということを提案したいと思っております。これは各大学に臨床研修センターを設置し、医学部卒業生は原則として全員出身大学の臨床研修センターに登録する。研修先は出身大学病院、当該都道府県下の大学病院以外の臨床研修病院とする。なお、例えば出身大学の分院のような病院、関連の強い病院であれば、当該都道府県以外の臨床研修病院での研修も可能とするというものです。日本医師会の改革案では、まずは出身大学のある都道府県に軸足を置くことが重要であると考えますと、全国一律なるような制約を設けず、大学の臨床研修センターが一定の裁量を持てる仕組みとするということにしたいと思います。
それと、最後にもう一つ申し上げたいと思います。医学の定員を……。
【安西座長】 多少手短にお願いします。
【中川委員】 もうすぐ終わります。医学部を新設するという場合に、歯学部の現状を我々は学習しなければならないと思っております。それで、参考資料1の46ページをご覧いただきたいと思います。その歯学部の現状の入学定員充足率というところをご覧ください。平成20年度は、3校が定員割れでした。21年度は12校、22年度は11校が定員割れということになっております。それと、提出資料の3にも示しましたが、歯学部の、これは河合塾の偏差値のデータですが、歯学部は急落し、非常に厳しい状態になっています。医学部もこういうことになってはいけないということを申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。
【安西座長】 ありがとうございました。
今のご意見といいましょうか、話に対してでも結構でございますし、ヒアリングにいらしていただいた先生方からでも結構ですが。どうぞ。
【本田宏氏】 中川先生質問です。先ほど私がお話ししたように、人口当たり医学部がすごく少ない地域は、これはずっと医師不足に耐えていかなくてはいけないということですか。それが1つ。
それと、私はメディカルスクール、今日の資料にメディカルスクールを入れましたけれども、実際メディカルスクールの教育システム自体はかなり世界的に評価されているようです。国試とかOSCEとか厳しくすればするほど、一定のドロップアウトというか、システムに乗り切れない人が出てくる危険性があります。そうすると、大学を卒業していて学士をとってからメディカルスクールに入った人であれば、いい意味で方針転換しやすいです。ところが、今のは高卒で入って国試は年に1回しか受験できないわけです。アメリカの国試なんかしょっちゅう受けられるという話は聞きました。
すでに卒後研修制度が義務づけられた以上、国試はあくまでも資格試験と考えられます。幾らOSCEをしても臨床現場でオン・ザ・ジョブ・トレーニングを積まなければスキルアップはしません。大変な受験勉強を課して高卒で医学部に入れて、国試に落ちたらどうなるかという不安感を与え続けるシステムで、本当に良き臨床医は育つでしょうか。さらに私は今の医学部教官も十分に、手いっぱいなんですから人員をより必要とする医学部増設ではなく、大規模な臨床病院を中心にしたメディカルスクールを検討すべきと思います。その方が将来医師が万一余っても調整もしやすいと思います。いかがでしょう、日本医師会のご協力をよろしくお願いします。
【安西座長】 どうぞ。
【中川委員】 例えば医学部が1つしかないといった県、もちろん承知しています。まず1つ、現在医学部の卒業生数以上に今研修医が来ているところはあまりないんですね。そうは言ってもやっぱり大きな県、かなり人口があって医学部が1つしかないというところは、臨床研修医、さらにその大学以外の研修医も来てほしいという要望ももちろんあると思いますが、そこで18ページのところに医師研修機構同士の派遣要請を調整する仕組みというのもここに組み込むべきだとしているんです。
それと、医学部に入って6年間ということになっていますが、最初の一般教養というのは現場の声としては、これはやっぱり受験勉強のやり直しではないかという声もかなりあるんですよ。医学部に入って1年生から臨床を意識した基礎教育もそうですし、いろいろなそういったものも含めて臨床、4年間しっかり勉強してもらうと。その上で5年生、6年生に参加型の臨床実習、見学型ではなくて。そういうことで医学部に入るという学生の意欲を考えると十分にかなりのレベルまで達するのではないか。もちろん、そのためには医学部の教員の充実ということは大事です。そのときにはやっぱり国の力、財政的な援助といったことも大前提になります。
【安西座長】 ありがとうございました。
【本田宏氏】 それでは、足りないんですね。今の医師不足には絶対と言ってよいほど追いつかない、それが問題なんですよ。
【安西座長】 それでは、なるべく多くの方にご発言いただきたいと思いますので、いかがでしょうか。どうぞ、今井委員。
【今井委員】 私が前回お願いした資料を一部出していただきましたので、その話からさせていただきたいと思うのですが、この作っていただきました参考資料1の10ページをご覧いただきたいと思うのですが、ここに広さ当たり100平方キロメートル当たりの医師数の分布です。10ページでございますが、平成20年と書いていますが、これは非常にわかりやすいあれで、青い方が医師数が足りないというふうにきっと読むのだろうと思うのですが、青いのは東側に多いわけです。あるいは北側といいますか、大ざっぱにいいますと。比較的西側は恵まれているということになります。しかしながら、やはり日本海側とか、それから、個々細かく見ますと結構不足している部分がある。
それから、これ、さらに申しますと、ここには出ていませんが恐らく、例えばこれは千葉県が赤くなっていますが、千葉県のかなり厳しいところ、これはどなたもご存じですが、茨城のところとか、そういうところはかなり厳しい。現実に困っているという話が連日出ていますので、それはここには反映されていないわけです。私のポイントは、少なくともこの大ざっぱに見てかなり差があるという現状は、この定員を増やすとかの議論のときに必ずその要素に入れるべきファクターであると思います。これが1点で、これについて本田先生のご意見も伺いたいと思うのですが。
もう一つは、これも私が申しまして、ちょうど長谷川先生の資料の資料3です。長谷川先生の資料の13枚目のスライドと申しますか、13、14というところがございますね。人口年齢別将来推計と書いていますが、これは前回の会議のときに私からお願いして、文科省の方にお願いしたと思うのですが、65歳以上の人口、つまり、患者さんの側がどう変化するかというのがないと、先ほどありましたように何か人口が少し減るのでというようなお話は、リアリティーから言うとやはりそれでは足りないわけでありまして、もう少し患者さんの年齢ですね。実際には50歳ぐらいまで、幼児期を除くとあまり病気というのは、大きな病気というのは頻度から言うと高くないわけでありまして、やはり60過ぎが多くなります。そのピークがどこに来るかということを少し見ていただきたいのですが、この下の方を見ても、それはかなり後れて来るといいますか、これでいきますと2050年とか60年のところにそれが来ていますので、このことも考慮に入れて対応する必要があると思います。
以上2点述べさせていただきました。本田先生にぜひ前者の方のお考えを述べていただきたいと思います。
【安西座長】 ありがとうございました。
本田先生、いかがですか。
【本田宏氏】 ありがとうございます。まず、人口当たり医師数と100平方当たり医師数は、これは当然視点が違う評価ですから、人口当たり医師数は埼玉県はかなり少ないのですけれども、100平方キロメートル当たり医師数は多いわけですね、狭いですので。しかし、この100平方キロメートル当たり医師数の見方は、私は先ほど西村先生の質問と少し関係してくるのですけれども、私が知る範囲ではアメリカでは例えば自分の家から車で15分以内にかかりつけ医、たしか30分以内に中核病院。そして救命救急は1時間以内で、それ以上遠い地域にはヘリを飛ばす。つまり、そのように患者さんの受診の便宜を考えて地域ごとに医師の配置や病院の配置を考えているそうです。それがまさに地域医療体制整備と思います。
ですので、100平方キロメートル当たり医師数が少ないところを全部同じにすることは不可能ですから、こういうところはそれこそドクターヘリを使うとか、そういう移送法を工夫すべきです。ただし、埼玉県が100平方キロメートル当たり医師数が多いからといって、人口当りの医師数は全く足りないわけです。面積当たり医師数が多いから埼玉県が医師増員が必要ないというわけにはいきません。何を見るか目的が違うデータであるということを考えないと危険です。医師不足に対して移送方法を工夫すべき地域と、人口当り医師数が不足している地域をきちんと仕分けして議論しないと困るというのが現場の実感です。
【安西座長】 長谷川先生、どうぞ。
【長谷川敏彦氏】 患者の将来推計は、今日持ってまいりました資料の2の方に載っておりますので、年齢回帰別の変化が、例えば12ページ、13ページに退院患者、有病者、14ページに外来患者が書かれております。それを見ていただいたらわかりますように、大体人口のピークにおくれて、2035年ごろぐらい、30年から35年ごろぐらいがピークになっている。それから、ものすごく目立つのは高齢者、75歳以上の数が大変増えてくるということでございます。恐らく5年から10年間で日本の医療は様変わりするのではないでしょうか。東京都の周辺で、もう始まっているみたいですけれども、救急などにどんどん高齢者が運ばれてきていると聞いております。
【安西座長】 ありがとうございます。どうぞ。
【今井委員】 一言だけ。本田先生のご意見もあれですけれども、広さという問題はかなり大きなファクターで、ヘリコプターを飛ばせばいいということにはやはりならなくて、住民の中で、そういう恩恵にこうむれる人は非常に少ないわけでありまして、今の医学部のでき方といいますか、それをずっとひも解いてみますと、西側に多く配置されているという現状はありますので、まあ、いろいろな見直しというのもこの機会に必要なのではないかと思いますので、一言申し上げます。
【本田宏氏】 すみません、おっしゃる通りです。言葉足らずでした。北海道などは私の主張のように搬送が問題となるのですが、四国の高知県で医師不足というのは、医師不足間違いないということですね。失礼しました。
【安西座長】 どうもありがとうございます。
ほかの方はいかがでしょうか。大変貴重なご意見をいただいておりまして、4時までということでありますが、委員の皆様、4時半近くまではいいというふうに――いいというのではないですね。4時半近くになるかもしれないということが伝えられているということだそうでございますので、ご用事のある方はですけれども、残れる方はぜひ残っていただいて、多少、4時過ぎまで続けさせていただきます。よろしくお願いいたします。
どうぞ。
【黒岩委員】 全国医学部長病院長会議会長の黒岩でございます。本日、堺先生、本田先生、長谷川先生から非常に豊富な情報分析に基づいたお話、大変敬意を表するところでございます。
私からコメントを申し上げたいと思います。さきほど、今井先生がおっしゃったように医療崩壊の特徴は地域の偏在問題を大きな特徴とした医療崩壊です。その原因として、その地域の医療崩壊、地域間の偏在問題、診療科間の偏在問題、あるいは日本式の医療スタイルがある面で、適応が困難になってきたとか、女医さんの数が増えてきたとか、帰学率の低下、あるいはフリーター的な医師が増えてきたとか、いろいろな複数かつ複雑な内容によるものがあると思います。今井先生が10ページに示された医師数の分布でありますが、これを解析すると恐らく、ある程度もともとこういうような西高東低の傾向が、医療崩壊前からあったのだと思うのです。それに加えて全体的に平成16年の新臨床研修制度以降の各大学における帰学率の低下ということがこの色分けをより強くしたのではないかと思います。
間もなく全国80大学の帰学率のデータが公表されますけれども、関東地方では帰学率が平成16年以前に比べて、むしろ増えているのですけれども、それ以外のところは低下しております。ただ、福岡県とか西日本の一部ではそれほど低下の程度が目立たないところもございます。従ってその10ページの100平方キロメートル当たりの医師数の色刷りの特徴は、もともとあった西高東低に加えて帰学率の変化の問題が合わさって起きてきたものではないかと思っております。3先生がおっしゃったように、これは非常に深刻なドミノ的な現象であって、地域の現場には待ったなしのクライシスになっているという、そのような現象であるということ、それはその通りであります。また、国民の求める、国民の立場に立ってやっていかなければいけない。それも勿論その通りであります。
私どもの基本的な見解は前回述べさせていただきましたけれども、広い視野に立った総合的な対策が必要であります。ただ、総合的対策といっても、ゆっくりと、病気で言えば診断してゆっくり検査してというのではなく、待てない、かなり緊急性を持った対応をしなければいけない状況、すなわちクライシスであるという、それについては同じ認識であります。ただ、このように非常に複雑な医療崩壊に関して解決につながるような単純な一手といいますか、単一の一手というのはなかなかないのではないかと思います。さらに、一旦落ちてきた帰学率というものを上げる有効な手だてを立てるのもなかなか一筋縄にはいかないのでございます。やはり1つ1つの原因を少しでも可能なところから一歩一歩、原因の是正に努めることしかないですね。それから、現状ですでに医学部定員の地域枠が800名ほど増えており、これは8校分、8大学分に相当いたします。そういう方々が一定期間、地域にとどまるなどの強力なインセンティブが付与されるような対策、そういうようなことも含めて地道な対策を抜きに道は開けないかと思います。
メディカルスクールについてコメントします。これは私が医学生のころ、M1からM4と呼ばれていたものが残されて、理科系の4年制大学の卒業生の受け皿をつくるということになります。ヒアリングのお話しにありました歯科医2万人の再教育といいますか、実際的にはそういうことであります。全国の大学が全部メディカルスクールになるのであれば話は別と思うのですが、ダブルスタンダードができるということに関しては大きな問題があると思っております。基本的に全国医学部長病院長会議としては前回と同じ見解を繰り返させていただくことになるかと思いますが、日本の医師、医学、あるいは学生の質というものを十分考えた上での慎重な対応を基本姿勢として、みんなで腹を割った形で知恵を出し合うということが非常に重要かと思います。有効な単一の一手はなかなかないのではないかと考えております。
【安西座長】 ありがとうございました。
ここで腹を割ってやらないと、もうやるところはないのではないかと。もうギリギリのところに来ていると思います。
どうぞ、山本委員。
【山本委員】 3人の先生には、今日大変いい発表で勉強させていただいて、特に私から質問はないのですが、参考資料1の10ページの地域の100平方キロ当たりの色分けのことに関して、さきほど問題になりましたので少し申し上げたいと思います。この色分けは例えば北海道とか、岩手とか、秋田とか、県単位で一律に色がついています。高知を見ても全くブルーです。100キロ平方当たりの医師数は足りない。しかし、これだけでそのように理解しようとすると大きな間違いです。例えば、この岩手県には県立病院が21あって、基本的には人が住んでいるところには全部医療施設が配置されています。要するに山岳部には何にもありませんけれども、人が住んでいるところ、この秋田県と岩手県の間には新幹線と高速道路が平行して南北に走っていますので、この領域は医師と医療機関がほぼ十分なくらい配置されています。
それから、日本海側の飛び石的な二次医療圏にもすべて医療施設と数は足りないですが医師も配置されています。それはどういうことかというと、県が県民に対して医療を均てん化して提供するということを戦後からやっていますから、今、21の県立病院で患者さんのほぼ60%をカバーしている。そこにはプラスいろいろな病院、診療所もあります。ですから、2次医療圏で色をつけると、この色は全く変わってきます。同様な視点で見ると高知県は、全部ブルーなっていますが、医療施設と医師は高知市に集中しており、高知市は赤になります、人口当たり医療施設も医師数も一番多い県ですが、地域が大きく4つに分けられていますので、高知市以外の地域の医療が課題となることになります。この県単位の色はかなりその中の地域の事情を考慮しないと正確な読み方はできないと思います。
【安西座長】 ありがとうございました。
栗原委員。
【栗原委員】 日本私立医科大学協会でもこの問題を調査し、提言等を出しております。教育の問題が出ましたので私の立場から少しお話ししてみたいと思います。
医師育成の上で、どういう質の医師を育成するのかということが問題だと思います。地域医療者、専門医、あるいは研究者を育成するのかによってカリキュラムや指導法が異なると思います。現在のカリキュラムは、医学・医療の基礎を学びその上で、いろいろな人材を育成するようになっています。現在、研究者育成に関しては、6年間のカリキュラムの途中にMD、Ph.D.コースという研究を1年間経験するコースを設けている大学もあります。質の高い多様な人材の育成には入学者の質も非常に重要だと思います。
先ほどから話題になっておりますメディカルスクール構想ですが、これも今まで随分検討されてきました。日本でも学士入学をやっている大学がいくつかあります。ところが、学士入学者は卒業してから例えば専門医を目指すとか、理学部等を卒業して来たから研究職に就くことなどを期待しても、我々の期待とは異なる方向に行く人が多いのです。
それから、高卒者と大卒者の比較ですが、これも我が国だけでなく外国の調査結果もあり、一長一短であるということになっています。現役で入ってくるような学生は相当能力が高いといえると思います。そういう学生は大学に入ってから成績が伸びます。ところが、一部の大卒者は学部のカリキュラムについていけず頓挫して、留年生が多いという傾向があるように思います。
それから、日本で問題になっているのは、リベラルアーツ教育です。これは是非、充実させた方がいい。例えば私どもの大学ですと医学総論というカリキュラムを1年生だけではなく6年間のカリキュラムの中に入れています。このようなカリキュラムは多くの大学で採用されています。学生時代に教養の芽を育てるということが必要ではないかと思います。
それから、地域医療の医療者を育成するということが1つの大きな課題です。いろいろな学外施設などに、1年生から体験実習として学生を行かせていますが、受け入れ先が少なくなりつつあります。また、医学生も増えていますから、少ない施設を大学間で調整して受け入れていただくことになります。入学定員を増やせば、当然、教育の場所、教員数などにも十分配慮していただかないと理想とする医療者育成は難しいということになります。
それから、アドバンストOSCEも現在いろいろな大学で実施されていますので、4年生だけではなくて、病態の理解が進む5年生でOSCEをやるということも有効だと思います。いずれにしても、このような教育には非常に時間がかかります。また、教員としての相応の能力も必要とされます。ですからどこの大学でも教員の研修をやっているわけです。例えば土曜日の午後を使ったりなどしてF.D.が行われています。教員の負担が相当増えているということも、今後考えなくてはならない問題だと思います。
それからもう一つ、入学定員枠が増えるということは大変好ましいことであるかもしれませんけれども、一方において先ほどデータで出ていましたが、医学生の学力低下という問題を考えなくてはなりません。どこの大学でも今、留年生が増えつつあるということを私たち教育者としては大変心配しているところです。ということで、入学定員を増やすということのデメリットやそれに伴う問題がありますので、その点についても十分考慮しながら教育に取り組まなくてはなりませんし、また、教育に対する配慮を是非、お願いしたいと思います。
【安西座長】 ありがとうございました。
順番に、今井委員、中川委員。
【今井委員】 今の教育のことに関しては、本当にその通りだと思いますし、特に医学部で考えるべきことであって、大学間でも協議すべきことですし、教養教育についても栗原委員に賛成いたします。その中でのレベルとか、入学のときのレベルとかというのは非常によく考えるべきであるというのは大賛成ですね。一方、新しい発想で医学部を考え直すことも重要と思います。出口の方のことも考えないといけないと思うんですよ。
というのは、前回の会議でも、今日お休みですが、アステラスの方がおっしゃっていましたけれども、製薬会社にも研究員がたくさんおられるのですけれども、たしか医療にかかわった医師であって研究する人はほとんど皆無であるというようなお話をされていたのですが、そういうイノベーションにかかわるような研究部門というようなものも、我が国としては非常に強くしていかなければならないと私は思っておりますので、いろいろな多様な人材を育てていくという考え方がこれからは必要だと思うんですね。そこを考慮に入れて、医学部ですべきことと、それから、全体で話し合ってすべきことはあるので、それぞれ区別して私は出口のことも十分考えて議論すべきだと思います。
【安西座長】 ありがとうございます。
中川委員。
【中川委員】 先ほどの栗原委員のご意見、私も大賛成です。全くその通りだと思います。それで、その上で偏在の解消、それから、医学部教育の改革といいますか、その議論は非常にすばらしい、大賛成なんですけれども、ただ、この検討会は医学部定員の在り方の検討会ですので、定員数をどう評価するのかということは極めて大事だと思うんですよ。
それで、直近3年間で1,300人増えたということをどう評価するのかということなんです。この参考資料1の45ページに学生1人当たりの教員数というのがありますね。そこで最近は0.6ちょっとなんですよ。まず、この現状の教員数で足りるかどうかは別にして、現状の教員数、1人当たりの教員数で試算しても来年度は全国で1,543人、教員が足りないんですね。現状のままでも。ということになれば、定員数としてどうなのか、これ以上増やすべきなのかどうかということも認識としては議論すべきだろうと思っております。
皆さんも共通認識だと思いますけれども、医学部に入る学生のレベルが下がってはいけないということですし、そういうことも含めて、ただ足りなければ医学部をつくればいいという議論ではないのかなと。私はやっぱり医療界では間違いは過去ありました。医学部の定員数を減らしたことです。入学者を減らしたことだと思います。しかし、今度また二度目の間違いを起こしてはいけない。この間違いはないかというと、医学部を新設することだと私は思っています。
【安西座長】 ありがとうございました。
どうぞ。
【本田宏氏】 今のお話を伺っていると大変、大学の先生も日本医師会の先生のご意見も、一応その通りだなと聞こえるんですが、それでは今の医療崩壊とこれから15年間はどのような具体的・建設的な対案があるのでしょうか。建設的な対案がなくて、こうやったらだめだ、質が落ちる、それでは日々困っている患者さんはどうしたらいいんでしょうか。先生方の大学にお願いすれば全国医師不足の地域の面倒を見てくれるのでしょうか。埼玉県の栗橋病院にも医師を派遣してくださるのであれば納得できますが。具体的な解決策がないままに質が落ちるとか、だめだって言うのはいかがでしょう。すべてのことにメリット、デメリットはあります
今はもう目の前で火事が起きているんだから、あんたの力は借りないよ、消防隊はうちの地域だけでやるよというのではなく、みんなで協力して解決するしかないでしょう。Nurse PractitionerもPhysician Assistantも同じですよ。日本医師会もまさに同様です。医療崩壊阻止のためにどうするんですか。将来余るよではなくて、今、目の前の患者さん人をどう助けるのですか。救急で医療機関に搬送ができずに亡くなっている人があちこちにいるんですよ。だから、患者さんの権利の視点で医療体制をみんなで協力してつくるという気合がなければ不毛な議論だと私は思います。
【安西座長】 この会議は医学部入学定員等というふうになっておりまして、医学部入学定員のことだけでは議論はおさまり切らないということは、もう既に見込まれております。目の前の医師が大変だと、そういう現場が大変だという問題と医学部の入学定員をどうすればいいのかという問題というのは、多少やっぱり離れた、時間的には離れた問題だとは思いますけれども、そこのところを一番短期的な問題と、それから中長期的な問題を分けながら、でも、つなぎ合わせてぜひ議論をしていただきたいなと思っておりますので。
矢崎委員。
【矢崎委員】 おっしゃる通りで、本田先生の言われている短期的な、今どうするのかということと、やっぱり医学部定員を議論するのは中長期的な視点で議論しないといけないと思うんですね。やはり医療というのは財源とか人材が有限の社会共通の資源であるわけですね。それをどう使うかということに関しては、やはり今、医療側の委員の方々、それから、医学教育側の委員の方、あるいは経済学的な視点から言われる方々で議論が行われていますけれども、医療というのは国民、必ず一生涯のうち一度携わる非常に身近な存在でありますので、本田先生が言われたように最終的には国民がどういうふうに我が国の医療を持っていくかということのコンセンサスができない限り、この医療側、教育者側で議論していてもなかなか難しいのではないかと思います。
私ども個人、個人の医師は患者さんと非常に信頼関係でやっているんですけれども、こういう問題で医療者側とそれを受ける国民の皆さんとの間の信頼関係というのは、一般的には私は少し緊張関係にあるのではないかなというところもあるのではないかと思います。それはやはりこの医学定員の議論もありますように、非常にいろいろなファクターがあって、専門家でないとなかなか議論に参入できない。山本先生がおっしゃったような問題もあって、ですから、やはりもう少し国民の皆さんにもっとわかりやすい説明がこれからは必要ではないかと思うんですね。 ですから、今後の我が国の医療の議論を進めるには、全体的な議論も必要ですけれども、先ほどご議論があった地域で、その地域でどういうふうに人材を育成するか、あるいは医療提供体制をどう構築するかという、そこでノウハウを集めてやっていただかないといけないのではないか。先ほど中川委員から地域の臨床研修センターをつくるという構想がありますけれども、私どもはやはり大学とか行政、あるいは中核病院を含めたコンソーシアムをつくって、その地域にどのぐらいの医師が必要で、どういう配分をしたらいいかということを、人材育成したらいいかということも含めて議論していただければ大変ありがたいと思います。
今日、丹生委員いらっしゃいますように、そこで、その地域で小児科がもうゼロに医師がなるというところ、やっぱり地域の皆さんの協力で、今、小児科医が7人もあって、皆さん安心している。それはどういうふうな工夫でなっているかというようなこともやはり国民の皆さん一般に知っていただいて、やはり医療提供体制と医療を受ける側が本当に協力し合って我が国の医療を構築していかないと、なかなかこの専門的な議論をしていても一歩進められないのではないか。ですから、最終的にはやはり難しいかもしれませんが、国民の皆さんが大変複雑なシステムですけれども、医療提供体制について、もう少し身近な問題として地域単位ででもいいですから考えていただければということで、などというところで申し上げました。
【安西座長】 ありがとうございました。
今のご意見も大変貴重だと思いますので――どうぞ。
【桑江委員】 今、都立病院に勤務しております産婦人科医師、あと女性という立場から少しコメントさせていただきたいと思います。今日の3人の先生方の発表はとてもすばらしいもので、それぞれのお立場のご意見としては、私としてはどなたも説得力があるということを感じながら聞いてまいりました。それで、現場にいます医師としてどなたもおっしゃらないので発言させていただこうと思ったのは、地域の医療、医療というのは地域で完結させるものだと思いますので、すごく遠くにいい病院があってもなかなかそれは日常的には難しいものがございます。それで、例えば面積比とか、人口比とかということで医師の不足の問題って語られるんですけれども、どうしてもやはりある程度人口の過疎のところというのは、公的な医療機関でないと耐えられない。そこで収益を上げていくというのは非常に難しい話でございます。
それで、結局、その公的医療機関から医師がある意味で逃げているというのが、そもそも研修制度もそうですが、この医療崩壊の引き金になったというふうに私は思っております。それで、現場にいて思うのは、この公的自治体立病院、あるいは国立病院機構もそうなのですけれども、医師の定数というのがございます。それはたしか私の記憶だと何十年、50年、60年前に総医師定数というのが決まって、そこからほとんどいじられていないんですね。そうすると、例えば当直という問題がありまして、その当直に関しましては、今、それが時間外労働だということを裁判でやっているところですけれども、これが時間外労働だというふうに認められれば、この定数は当然変わってくるのですけれども、具体的には私のいました都立病院は、つい最近まで定数は6でした。それでやはり当直を全部一列しかなければいけないんです。
そうすると、労働だというふうになれば、相当この定数は増やさなければいけない。今、地域の基幹病院、あるいは自治体立病院、公的病院で働きたい医師はいっぱいいますよ。しかし、やっぱり定数が余りに少ないので、そこで勤務することができにくいんですね。非常勤という立場になってしまいますので、この定数をどうして増やさないのかなというのは、昔から疑問に思っておりましたし、やはりここは、ここで医師の給与の話が出ると非常に恐縮なのですが、私がざっと計算しただけでもそれほど国を揺るがすほどの大惨事にはならない。厚労省のなさった2万4,000人の医師の不足というのは、これは現場に聞いた意見ですので、ある程度の根拠があると私は思います。
それで、自治体立病院、あるいは国立病院機構、それから、日本赤十字病院協会、済生会、厚生年金病院といった、こういった地域の医療を担っている病院がざっと千二、三百あると仮定しますと、大体1つの病院で20人ぐらいいれば少しは急性期が保てるんですよ。例えば産科にしましても、救急にしましてもですね。救急にしては、やはり若い方は救急はやりたがるんですね。自分の医師としてのスキル、あるいは患者さんの全体を見たいということもあるので、ただ、専門医が圧倒的に足りないのは本田先生のおっしゃる通りです。ですから、直近の1つの提案なんですけれども、この公的病院の医師の定数を少なくとも1.何倍でしょうか、それは増やしてみるというのが1つの私としては提案で、これはあくまでも当直は労働だというふうに認めていただいた上での出てくる話だと思いますので、ぜひご検討いただきたい。
それから1つ、女性医師の立場から発言させていただきますと、女性医師の現場からの立ち去りというものは、やはり妊娠、出産がきっかけになっております。それで、私も声を上げ始めて、産婦人科がここでちょっと持ち直したのは、女性医師の待遇の改善、例えば院内保育所をつくっていただくとか、24時間保育を実現していただくとか、あるいは分娩手当をつけていただくとか、本当にちょっと労働組合的なんですけれども、そういった改善をしたことで、学会全体で取り組んでくださったということで持ち直しを今しているところなのですが、ただ、若い女性が例えば1年間に入局というか、産婦人科を選ばれる方の6割くらいが女性なので、今の日本のお産はほとんど若い女性で担っているようなものなんですね。この方たちがあと何年でしょうか、10年前後で妊娠、出産の時期を迎えたときに、もう1回危機が来るということは産婦人科の学会の理事長はおっしゃっておりますし、私もその通りだと思います。
では、なぜ女性医師が地域に根づかないかということなのですが、私もこういう、まあ、本田先生ほどではないのですが、ある程度地方を回って講演させていただいているのですが、そこで感じることは、やはり地方の方が性別の役割、分業分担の差別意識といいますか、そういった意識が非常に強いんですね。特にリーダー的な、医学界を引っ張っていらっしゃる方はどうしても、つらいことですが、性別のそういったパターナリズム的なお考えがありますし、特に外科系はそういった方がどうしても今トップにいらっしゃる。そうするとやはり女性としては、そこで働くのは非常につらいんですね。
そうすると、どうしても都会の方に志向してしまうということがあるので、お金がかかること、定数を増やすことはお金がかかると思うのですけれども、意識を変えていただくこと自体は、それほど経済的に負担がかかるわけではないと思いますし、これは日本の女性の地位は非常に世界的に見ても低うございますが、我々女性にも問題はもちろんありますけれども、そういった働いていくときには同じ労働力として扱っていただきたいですし、何とかそれを現場にとどめたいということで、物心両面でサポートしていただくということが1つ、私としては直近のものをご提案させていただきたい。
あと、産婦人科に限っては、近年、産科と婦人科を分けて大学病院とかは教育されておりますが、現場にいますと両方必要なんですね。そうすると、産科と婦人科を分けますと簡単に言うと倍の医者がやっぱり必要です。何かといったときにはやはりお産で出血がとまらなかったら、じゃあ、婦人科の先生が来て子宮を取るということになるのですが、現場では産科、婦人科両方必要で、妊娠していてもがんになっている方もいらっしゃるし、まあ、逆もしかりですね。ですので、そういった専門医が必要だということを堺先生はおっしゃっていましたし、それは本当にそうなのですが、分化していけば分化していくほどやっぱり人数は必要だということにもなりますので、地域としてはやはりジェネラルに見られる、そういった視点が非常に必要なのではないかと思いますし、それは何とか教育の段階でやっていただくというのは非常にありがたいかなと思います。
あと、需要はやっぱり予測できないというのは、その通りだなと思いまして、こういった検討を定期的に、例えば5年ごととか、医師の定数を見直すというのを長期的に継続的にやっていくという仕組みをぜひここでつくっていただいて、高齢の方がうんと増えてきたら、急性期も必要かもしれませんが、その前に予防とか、そういったある程度在宅でできることが必要になってくるのではないかという予想がつくと思うのですが、そうしますと、やはり家庭的な、そばにいて、いつも生活で指導してくださる方が必要になるかもしれないので、またその医療の中身が変わってくる可能性もあると思いますので、そういった検討を持続的にしていただきたい。
1,300人増えるということは大変すばらしいことで、直近の15年、20年に関しては、これでしのぐしか実際ないわけで、これから医学部をつくられるといっても、すぐ1年、2年でできるわけでもないことを考えますと、そこで育った方が一人前になって働けるというと、やっぱり20年ぐらいかかるというふうに腰を据えて考えなければいけないと思いますので、私、個人的には医学部を新設するよりは、今の医学部を手厚く、教員も使って、医者でなければ教えられないことばかりでもないと思いますので、医師会の中川先生がおっしゃったような哲学等々に関しましては十分、医者ではない方にご協力いただいて、国民として良医を育てるというふうにしていただけたらなと思っております。ですので、地域で女性が残るというのは、中川先生、意識的につらいところがございまして、フレキシビリティーがあった方がありがたいと思います。
以上です。
【安西座長】 ありがとうございました。
時間が16時30分ちょうどになってしまいました。まだご発言になりたい方、多々おありになると思いますけれども、今日のヒアリング等々へのご質問、ご意見も含めて、事務局の方へお出しいただければと思います。大変貴重なご意見をいただきまして、今、最後のご意見もそうでございますけれども、文科省、厚労省側でも受けとめていただいて、検討を続けていければと思います。
私自身は医学、医療につきましては外野席からということでずっと来た人間でございますけれども、第1回に申し上げましたが、どうしてもっと早くこれを始めなかったのだろうかというのが率直な印象でございます。早く始めれば始めるほど現場の現状ということについて、もっと早く手当てができるのではないかと思いますので、現場の今の問題、それから、短期的、中期的、長期的なことまで含めて、医学部の定員の問題というのはやはり10年後、20年後に効いてくることだとは思いますけれども、地域の医療の在り方を含めてぜひ具体的な、できるだけ具体的な形で検討させていただければと思っております。ぜひご協力のほどお願いを申し上げます。
次回につきましては、また関係者からのヒアリングを行わせていただきまして、自由討議とさせていただければと思っております。特に今日ヒアリングにいらしていただきました先生方に改めて御礼を申し上げます。どうもありがとうございました。
それでは、最後に事務局から今後の日程等、お願いします。
【茂里視学官】 事前に委員の方々の日程を調整させていただいておりまして、その中で一番丸が多かった、次回は2月18日、金曜日でございます。2月18日、金曜日の10時から12時でお願いしたいと思っております。
なお、お話しいただくヒアリングの方には30分延長含みでまたお願いしたいと思っております。よろしくお願いいたします。
【安西座長】 それでは、ここまでに、皆様、特によろしゅうございますね。
【本田宏氏】 最後に30秒いいですか。
【安西座長】 10秒。
【本田宏氏】 じゃあ、10秒。先進国最低の医師数、医療崩壊、こうなってしまった社会的責任を医療界の方、しっかりと感じてほしいと思います。安西先生がおっしゃる通りです。何で今までやらなかったのか。私は10年前から医師不足を訴えてきたんですよ。それを偏在が問題だ、ここで医師増員を行わなかったら、また失敗して二度罪を繰り返すかも知れないということをぜひ考えてもらいたいと思います。我々医療者には社会的責任があるのですから。
【安西座長】 私としては、せっかくこの検討会ができましたので、これからもぜひ頑張れればと思っております。ぜひ皆様にご協力いただければと思います。よろしくお願い申し上げます。どうもお忙しいところ、時間をここまで使わせていただきましてありがとうございました。ここまでにさせていただきます。
医師養成係
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