資料6 薬学教育モデル・コアカリキュラムの基本理念と利用上の留意点について(案)

薬学教育モデル・コアカリキュラムの基本理念と利用上の留意点について(案)

1. モデル・コアカリキュラムの基本理念と位置付け
【基本理念】
大学における各分野の社会的要請に応えた人材養成のためのカリキュラム構築は、本来、各大学が独自の理念や特色に基づいて設定すべきものである。しかし、修業年限6年の薬学教育プログラムを実施する学部又は学科(以下、「6年制学部・学科」という。)の場合は、学生に大学卒業時に薬剤師としてふさわしい基本的な資質や能力を身に付けさせる教育が行われることが求められる。一方、薬学や医学、生命科学等に関わる科学技術の進歩は著しく、科学を基盤として医療に貢献する薬剤師の職責に求められる薬学の知識や技能は増え、専門分化されると同時に高度化しており、限られた大学教育の中で、これらの膨大な知識や技能等を網羅して修得することは困難である。そこで、学生は6年制学部・学科の学士課程教育の段階では、将来どのような分野に進んだ場合にも共通に必要となる薬剤師の基本的な資質と能力を修得し、その上で、生涯にわたって常に研鑽(さん)し、社会に貢献することが求められる。薬学教育モデル・コアカリキュラムは、このような状況を踏まえ、6年制学部・学科としての教育内容を精選し、卒業時までに学生が身に付けておくべき必須の能力(知識・技能・態度)の到達目標を分かりやすく提示したものである。

【位置付け】
薬学教育モデル・コアカリキュラムは、6年制学部・学科におけるカリキュラム作成の参考となる教育内容ガイドラインとして提示したものである。項目立てや記載内容は、各大学における授業科目名を意味するものではなく、また、履修の順序を示すものではないことに留意すべきであり、具体的な授業科目等の設定や教育手法等は各大学の裁量に委ねられている。
また、モデル・コアカリキュラムに示された教育内容だけで薬学の学士課程教育が完成するものではなく、6年制学部・学科の教育課程の全てを画一化したモデル・コアカリキュラムの履修にあてることは正しくない。6年制学部・学科のカリキュラムは大別すると、教養教育を含む薬学準備教育、モデル・コアカリキュラムに準拠した教育、各大学独自の薬学専門教育から構成されるが、これらの履修時期、時間は教育研究上の目的に沿って学習成果を評価しながら、バランスよく配当される必要がある。改訂後の薬学教育モデル・コアカリキュラムは到達目標数の上で、従前のものに比してスリム化されていることもあり、およそ教育課程の時間数の7割を、モデル・コアカリキュラムに示された内容の履修に充てることが妥当と考えられる。
各大学においては、それぞれの教育理念等に基づいて、薬学アドバンスト教育ガイドラインを含む特色ある大学独自のカリキュラムを設定することが必須であり、学生のニーズや将来の進路に合わせて自由に選択できる多様なカリキュラムを提供することが重要である。このモデル・コアカリキュラムに示された内容を確実に修得した上で、残りの3割程度の時間数で個性ある各大学独自のカリキュラムを準備することが必要である。(7ページ【選択的な大学独自のカリキュラムの設定】を参照。)
今回の改訂は、大学が主体的で実効性のある充実した薬学教育を展開することにより、6年制薬学教育の質の向上を目指すために行うものであり、各大学の教育カリキュラムが薬学共用試験や薬剤師国家試験に合格することのみを目標とする教育に偏ることのないよう留意すべきである。

2. 表示の方法と利用上の留意点等
【基本的資質】
薬学教育モデル・コアカリキュラムの基本理念や医療全体を取り巻く情勢の変化等を踏まえ、「薬剤師として求められる基本的な資質」を、<1>薬剤師としての心構え、<2>患者・生活者本位の視点、<3>コミュニケーション能力、<4>チーム医療への参画、<5>基礎的な科学力、<6>薬物療法における実践的能力、<7>地域の保健・医療における実践的能力、<8>研究能力、<9>自己研鑽、<10>教育能力の10の視点より明確にした。

【一般目標と到達目標】
薬学教育モデル・コアカリキュラムでは、卒業時までに修得されるべき「薬剤師として求められる基本的な資質」を前提とした学習成果基盤型教育(outcome-based education)に力点を置いている。すなわち、最終的に「基本的な資質」を身に付けるための一般目標(GIO※1)(学生が学修することによって得る成果)を設定し、GIOを達成するための到達目標(SBO※2)(学生がGIOに到達するために、身に付けておくべき個々の実践的能力)を明示した。SBOの総数は1,073項目であり、これらは客観的に評価できるよう、可能な限り明確な表現とした。
※1 general instructional objective
※2 specific behavioral objective

【A~Gの項目立て】
項目A~Gは、各大学におけるカリキュラム作成の参考として利用しやすくし、学修者に学習内容の全体像を把握しやすいよう構成した。
薬学生が薬剤師として身につけるべき生命・医療の倫理、チーム医療とコミュニケーション、患者中心の医療、医療安全、薬学の歴史および生涯学習などを学ぶ【A基本事項】、人、社会の視点から薬剤師を取り巻く様々な仕組みと規制、および薬剤師と医薬品等に関わる法規制、地域における保健、医療、福祉などを学ぶ【B薬学と社会】は、入学後早期から卒業までに継続して修得していくべき内容である。
また、薬学生がいずれの分野に進むにせよ必要である薬や化学物質と生命に関わる物理系薬学、化学系薬学、生物系薬学の知識と技能を学ぶ【C薬学基礎】、人々の健康・公衆衛生、生活環境・環境保全を学ぶ【D衛生薬学】、薬の作用・体内動態・疾病治療、製剤化を学ぶ【E医療薬学】では、それぞれの項目の知識・技能のみにとらわれることなく、薬剤師に必要な人の命と健康を守る使命感、責任感及び倫理観を養えるよう十分な教育上の工夫が必要である。
【F薬学臨床】は、薬学実務実習前に、大学において調剤、製剤、服薬指導など薬剤師としての職務に必要な基本的知識、技能、態度を学んでおくSBO(事前学習)と、病院及び薬局で行う参加型の薬学実務実習のSBO(薬学実務実習)からなっている。薬学実務実習のSBOは、病院又は薬局に勤務する場合に必要となる内容について効果的に履修できるよう、これまで重複して履修していたものを整理している。ただし、すべての内容を適切な医療提供施設の環境と実習先の指導薬剤師及び大学教員のもとで効果的に実施するためには、別途方略を設定することが必要である。
さらに、AからFまでの履修を基盤にして【G薬学研究】を学ぶことにより、研究課題を通して科学的根拠に基づいて問題点を解決する能力及び研究倫理を修得し、それを生涯にわたって高め続ける知識、技能、態度を養うことも必要である。

【「知識」、「技能」、「態度」の記述についての基本的な考え方】
各SBOの後の「(知識・技能)、(態度)」等の記述については、基本的に以下の考え方により付している。
1)括弧書きが付されていない場合:「○○について説明できる。」等の知識を主とするSBOを示す。この場合、「説明する」ための勉学態度等も当然含まれるが、評価の対象が主に知識となることを意味する。
2)(技能)が付されている場合:技能を行う上での知識や態度は当然含まれるが、技能が主に評価の対象となるSBOを示す。
例:代表的な化合物の部分構造を1H NMRから決定できる。(技能)
代表的な生薬を鑑別できる。(技能)
3)(態度)が付されている場合:知識や技能を有したうえでの態度が主に評価対象となるSBOを示す。
  例:患者・生活者のために薬剤師が果たすべき役割を自覚する。(態度)
4)(技能・態度)が付されている場合:知識を前提とするが主に技能と態度が評価の対象となるSBOを示す。
  例:前)処方せん等に基づき疑義照会ができる。(技能・態度)
5)上記に関わらず、技能、態度、あるいは両方を評価の対象とするが、知識も評価の対象となる場合には「知識」をともに付す。
例:油脂が変敗する機構を説明し、油脂の変質試験を実施できる。(知識・技能)
天然生物活性物質の代表的な抽出法、分離精製法を概説し、実施できる。(知識・技能)
インターネット上の情報が持つ意味・特徴を知り、情報倫理、情報セキュリティに配慮して活用できる。(知識・態度)

【薬学アドバンスト教育ガイドライン】
 コアカリキュラムとは別に、薬学アドバンスト教育ガイドラインを提示した。薬学アドバンスト教育ガイドラインのSBOは、すべての学生に一律に履修を求めるのではなく、大学の特色や学生の進路に応じて履修することが望まれる内容を示す。また、履修時期についても各大学のカリキュラム体系の中で、適当な時期を選ぶことが望まれる。


【薬学教育における実習】
 薬学教育では、知識だけでなく、実習を通じて技能、態度を学修することが重要である。したがって、薬学教育における実習を充実するとともに、その実習について適正な評価を行わなければならない。薬学教育モデル・コアカリキュラムの実習内容は、<1>【C薬学基礎】、【D衛生薬学】、【E医療薬学】、<2>【F薬学臨床】の「早期臨床体験」、「実務実習事前学習」、「病院・薬局における実務実習」、<3>【G薬学研究】において、SBO(技能)、SBO(技能・態度)として例示されている。これらの例示を基にして大学の特色ある実習カリキュラムを構築して、それを6年間の教育課程のなかで体系的に関連づけて実施することにより、効果的に技能・態度を蓄積していくことが必要である。また、その実施時期については、講義及び演習等の授業内容と緊密に連携させるように設定すべきである。
 なお、実習においては、予測されるリスクを回避、低減させるためのマネージメントとともに、学生が常に安全を確認しながら学修を行う習慣が身につくように指導することが必要である。また、化学物質、実験動物、培養細胞や細菌などを用いた実習においては、それぞれの取扱いに関わる国内外の法令や国際条約の遵守とともに、生命倫理、生物多様性や自然環境保全を規範とする態度を学修することの重要性を指導する。

【薬学準備教育ガイドライン】
医療の担い手としての薬剤師を目指す6年制薬学教育の前提として身につけておくべき基本的事項を、コアカリキュラムとは別に、ガイドラインとして提示した。薬学準備教育では、人文科学、社会科学及び自然科学などを広く学び、知識を獲得し、様々な考え方、感じ方に触れ、物事を多角的に見る能力と医療社会のグローバル化に対応するための国際的感覚を養うことを目的とした専門性の高い語学能力を養う。そして、見識ある人間としての基礎を築くために、自分自身について洞察を深め、生涯にわたって自己研鑽に努める習慣を身につけておくべき基本的事項を〈1 人と文化〉、〈2 人の行動と心理〉、〈3 薬学の基礎としての英語〉、〈4 薬学の基礎としての物理〉、〈5 薬学の基礎としての化学〉、〈6 薬学の基礎としての生物〉、〈7 薬学の基礎としての数学・統計学〉、〈8 情報リテラシー〉、〈9 プレゼンテーション〉として整理し、提示した。薬学教育の準備という視点から提示されたものであるが、これらは薬剤師となる上で不可欠となる素養を培っていくものである。

【選択的な大学独自のカリキュラムの設定】
各大学は、それぞれの理念や教育研究上の目的に基づいて、学生の興味や将来の専門分野への志向に応じて、学生自身が自由に選択できる特色あるカリキュラムを準備し実践することや、学生段階からの研究志向を涵(かん)養することが重要である。
カリキュラムとしては、薬剤師業務の医療現場でのニーズの変化や医療の国内外の動向に対応、あるいはそれらを先取りすることも重要である。また、科学的・論理的思考の修得や、高度で応用的な基礎研究や臨床研究の実施、探求心旺盛な学生の将来の展望にも配慮した授業、病院及び薬局における薬学実務実習と経験した研究の取りまとめ、海外派遣研修等の多様な教育を行う必要もある。
これらの実施に当たっては、各大学の状況に合わせて、多様な授業形態を用意するとともに、成果の発表やその評価等の修了要件も明確にすることが必要である。

 
 
平成25年度改訂版・薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂概要(案)

今回の改訂は、「薬学系人材養成の在り方に関する検討会」(以下、「検討会」という。)において、各大学の現状や寄せられた要望、大学団体及び職能団体等からの改訂に対する強い要望を踏まえて審議された結果、行うことと決定した。平成23年に恒常的なカリキュラムの検討を行う組織として設置された薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂に関する専門研究委員会(以下、「専門研究委員会」という。)において、<1>6年制学部・学科の学士課程教育に特化した内容とすること、<2>現在の薬学教育モデル・コアカリキュラム及び実務実習モデル・コアカリキュラムの二つを関連づけて一つのコアカリキュラムとして作成すること、<3>薬剤師として求められる資質を明確にし、その資質を身につけるために学ぶという形で編成すること、という方針を決定し、検討会においてその方針が了承され作業が開始された。その後、専門研究委員会において「薬剤師として求められる基本的な資質」(案)が作成され、また、具体的な作業チームとして日本薬学会に薬学教育モデル・コアカリキュラムおよび実務実習モデル・コアカリキュラムの改訂に関する調査研究委員会が設置され、大学へのニーズ調査や具体的な改訂作業が行われた。
以下、具体的な内容を概説する。

【A基本事項】
「基本事項」には、薬学生が薬剤師として身につけるべき生命・医療の倫理、チーム医療とコミュニケーション、患者中心の安全な医療などを含めることとした。「基本事項」の内容(目標)は、複数の基本的資質と関連しており、6年間かけて到達すべきもので、各学年における学修を積み重ね、年次進行にともない、医療人である薬剤師として理解を深め、態度を醸成していくべきものである。SBOの表現は、詳細すぎると各大学での実施を制限することが懸念されるため、具体性を少しおさえて、各大学での考えを反映できるように配慮した。また、全学年を通して学修する内容であることから、6年間かけて到達するレベルを記載した。「基本事項」の内容は薬剤師になるために6年間かけて身につけるべきものであり、「B薬学と社会」や「F薬学臨床」と関連している内容も多い。
薬学教育モデル・コアカリキュラム(以下、「コアカリ」という。)の旧「Bイントロダクション (1)薬学への招待」の内容は、初年次だけでなく全学年を通して到達度を高めることが望ましい内容が含まれていることから「基本事項」に組み込み、旧「Bイントロダクション (2)早期体験学習」の臨床体験に関する内容は「F薬学臨床」に移動した。

【B薬学と社会】
旧コアカリの「Bイントロダクション」の内容を「A基本事項」および「F薬学臨床」に移動した後、Bには旧コアカリの「C18薬学と社会」および「C17医薬品の開発と生産」の一部((1)、(4))を統合した「薬学と社会」を置いた。「薬学と社会」は、薬剤師に関わる社会の仕組みを理解するための内容(目標)が主であり、「A基本事項」と同様に6年間かけて到達すべきものである。
旧C18の倫理と薬害に関する項目は「A基本事項」にまとめた。旧C18の(1)、(2)、(3)の中で重複している項目を整理・統合し、法律については、法律ごとに一つのSBOにまとめるのではなく、修得すべき内容から整理した。旧C17の(1)と(4)の内容は「(2)薬剤師と医薬品等に係る法規範」に含め、そのうちの治験に関わる具体的内容は「E医療薬学」に含めた。「旧C18(3)コミュニティファーマシー」は、薬局に限定せず、地域の保健・医療と関わる内容を含めることとし、そのうちの「OTC薬・セルフメディケーション」は、薬物治療として重要であることから「E医療薬学」の薬物治療として項目を新設し、Bでは役割の記載にとどめた。また、薬学アドバンスト教育ガイドライン(以下、「アドバンスト」という。)に移行してよいもの(薬剤経済の一部など)を除外するとともに、旧コアカリにはない重要な項目(個人情報の取扱い、血液供給体制、地域連携など)を追加した。

【C薬学基礎:全般】
 「薬学基礎」に関しては「薬剤師として求められる基本的な資質」のすべてのアウトカムのベースとなる「基礎的な科学力」を醸成することを念頭に改訂を行った。SBOはコアカリとなる項目を厳選し、約3割減のスリム化を図った。技能(実習項目)は、すべての大学で実施可能な項目を選定することとした。また他分野との重複を避けるように調整を行った。

【C薬学基礎:物理】
 「薬学基礎:物理」では、医薬品を含む化学物質を構成する原子、分子の性質や挙動を司る基本的な原理を主に取り扱うこととした。さらに、学生が修得する基本的な知識や技能が、将来、医療現場などのチームの中で応用されることを想定して、基礎から応用への橋渡しも考慮しながら、改訂作業を実施した。旧C1の【放射線と放射能】にある「放射線の測定原理」は「薬学基礎:物理」で、「放射線の生体への影響」は「D衛生薬学」で学ぶようにすみ分けた。また、旧C1の【物質の移動】の内容は「E医療薬学」へ、旧C2の【薬毒物の分析】の内容は「D衛生薬学」へ移行した。旧C3「生体分子の姿・かたちをとらえる」は、基本的な事項として必要なものはC1およびC2に取り込み、アドバンストとするものは移行し、全体としては、旧C3を削除した。さらに、機器分析のうち、構造解析のための分析法については、基本的な原理は「薬学基礎:物理」で、その応用は「薬学基礎:化学」で学ぶようにすみ分けた。


【C薬学基礎:化学】
旧コアカリC4、C6、C7、C17(2)を、「薬剤師として求められる基本的な資質」の中で「基礎的な科学力」を主に取り扱うとの共通認識のもと、C3、C4、C5にまとめた。「薬剤師として求められる基本的な資質」の充実のため旧C6を拡充し、旧C5は基本的にアドバンストに移行した。ただし、医薬品合成としての旧C5の内容の一部(C-C結合生成など)は、生体反応の観点から「C4(2)生体反応の化学による理解【生体内で起こる有機反応】」に含めた。また、「基礎的な科学力」として必要なもののみをコアカリとし、学問上、対比して教育するのが望ましいものに関してはコアカリとはせず、各大学の判断で講義に組み込むこととした。(例;芳香族求電子置換反応はコアカリに含め、芳香族求核置換反応はアドバンストに掲載した。)
 C3は基本的(代表的)有機、無機化合物(無機医薬品は含む)、C4は生体分子、医薬品を取り扱うこととした。命名法はC3(1)にまとめ、無機化学関連を新規にC3(5)に集約、さらに複素環の性質等は旧C6からC3に移し芳香族としてまとめた。C3(4)は基本的に構造解析のみとして物理系との重複をなくし、構造決定で用いられることが少ない項目は削除した(なお、講義はC2(4)と統合してもかまわない。)。C4には医薬品の構造のもととなる酵素阻害剤や受容体アゴニスト、アンタゴニストの構造を理解する(2)を追加し、ここに生体内反応を理解するための有機化学も加えた。(3)は旧C6(2)に対応しており、酵素、受容体に作用する医薬品は構造、化学的性質に特徴があるものを選択した。
 C5は、東洋医学的な概念での生薬、薬用植物を中心とした(1)と、西洋医学的な概念での薬:天然物由来の医薬品、農薬、香粧品などに用いられる天然活性物質、およびそのシーズ化合物を中心とした(2)に再編した。日本薬局方に記載されている内容を最低限理解できるように考慮した。病院または薬局の薬剤師に必要性が低い項目を削除し、生合成経路は概説できるに変更した。旧C7(3)漢方は「E2薬理・病態・薬物治療」に移動した。

【C薬学基礎:生物】
生命体の理解(C6-8)は、病態の理解や薬物治療の基盤として重要である。「薬剤師として求められる基本的な資質」のアウトカムを意識し、コアカリとなる項目を厳選した。また旧コアカリでは、教育課程のなかで内容的に前後する項目等を並べ替え、体系化した。すなわち旧コアカリC9とC8を一部入れ替え、薬剤師として修得するべき「C6生命現象の基礎」を生物の初めに移動した。生命の基本単位である細胞、その構成成分の構造と機能、タンパク質の働き、遺伝のプロセスから生体エネルギー、細胞間コミュニケーションへと展開される。生物化学の基礎を修得した後に、「C7人体の成り立ちと生体機能の調節」を通してヒトの器官、組織について修得し、血圧や血糖の調節を含めた生体の機能調節を修得することとした。またC7の初めに、「遺伝」と「発生」を修得することとした。旧C10「生体防御」に旧C8「小さな生き物たち」を統合し「C8生体防御と微生物」とした。すなわち生体防御・免疫系に関する項目の次に「微生物の基本」を修得し、病原体としての微生物へと繋げることにより、微生物の基本から医療薬学で学ぶ感染症へのスムーズな理解を促進することとした。免疫系については、関連する疾患やその治療は「E医療薬学」で修得するので、ここでは基礎的な機構・機能を扱うこととした。なお、旧C8の遺伝子操作技術(技能)はアドバンストに移行したが、今後、薬剤師にはバイオ医薬品や再生医療に関する知識等が欠かせなくなることを鑑み、C6のなかで組換えDNAの概略を修得するように改めた。

【D衛生薬学】
 「D衛生薬学」は「D1健康」および「D2環境」で構成され、「薬剤師として求められる基本的な資質」の中で、主に「基礎的な科学力」と「地域の保健・医療における実践的能力」を取り扱うとの共通認識のもと、健康と環境に関する基本的事項を選定している。医療人養成教育において必要な健康に関する事項、環境に関する事項を取り入れることによって、将来、医療現場において役に立つことを想定して構成している。健康に関する旧コアカリとは順番が異なっているが、学生が理解しやすいという観点から並べ替えている。具体的には(1)社会・集団と健康、(2)疾病の予防、(3)栄養と健康の順である。また、D2においては新たに「化学物質の安全性評価と適正使用」の項目を追加している。栄養の中のSBOとして疾病治療との関連を追加している。

【E医療薬学】
Eは「薬剤師として求められる基本的な資質」の「6.薬物療法における実践的能力」「7.地域の保健・医療における実践的能力」の2項目に直結する「薬理、病態、薬物治療、医薬品情報、患者情報、薬物動態、製剤」について基本的な知識、技能、態度を修得するためのカリキュラムである。改訂の方針としてはコアカリとして必要なものに整理しつつも、医療の進歩を反映し重要なものは追加するという方針で作業した。
薬理、病態・薬物治療については、従来別々の項目として扱ってきたが、今回は学生の思考プロセスに沿う形で器官別にこれらの3項目をまとめた。また、薬理と薬物動態が同じ中項目に入っていたものを分離し、「E2薬理・病態・薬物治療」の後に配置し分かりやすくした。なお、薬物動態の変動については、「E3 薬物治療に役立つ情報 (3)個別化医療」に含めた。
製剤に関連する内容は物理系薬学から「E5製剤化のサイエンス」に移し、学生に関連が分かるようにした。製剤に関する技能(製剤を作ることや製剤試験を行うこと)は削除し、アドバンストへ移行する。また、「旧C17医薬品の開発と生産」の治験・バイオスタティスティクスのうち、法規・制度は「B薬学と社会」に移動し、開発から市販後に行われる各種調査・試験とそのために必要な知識である研究デザインおよび生物統計は医薬品情報に配置した。さらに、近年の薬剤師の役割の変化を反映させ、「旧C18薬学と社会 (3)コミュニティファーマシー」の「OTC薬・セルフメディケーション」は薬理・病態・薬物治療に移動し、内容を充実させ、症候に関する知識を解釈のレベル(患者情報をもとに疾患を推測できる )まで求めた。
全体を通じて「医薬品の安全性」に注目し、副作用とその対処法、安全性の研究で重要な観察研究の手法などについても新設し、また内容を充実させた。動物実験については必要最小限を残した。
漢方は化学系薬学領域に盛り込まれていたが、実務実習のコアカリでは「薬局実習」の薬局製剤として扱われ、国家試験では「実務」の領域から出題されていた。治療薬としての観点から、漢方を「E2薬理・病態・薬物治療」のユニットとして記述することとした。
漢方独自の用語で説明される概念の理解が必要なので、漢方の基本用語を加え、局方に収載される24処方について適応となる証、症状や疾患を加えた。

【F薬学臨床】
実務実習事前学習、病院実習、薬局実習と3領域に分かれていた目標を統一して、「薬剤師として求められる基本的な資質」を臨床の場で確実に身につけることを大前提とした目標の分類・提示を行った。目標修得の過程が分かりやすいように、病院・薬局での実務実習実施前に大学の授業で修得しておくべき目標については「前)」と表記した。「前)」が付されているSBOのうち技能・態度に係る授業は、各大学においてシミュレーション等の対応可能な方法により学修するものである。
薬剤師になるための準備として2年次修了までに学修しておくことが望ましい「早期臨床体験」の目標を、医療の担い手に必要な態度を身につける薬学臨床の基礎の目標として提示した。
本領域は6年制薬学教育の最終時点で修得すべき目標がほとんどで、AからE領域までの目標を修得した上で学修する目標が多い。そのため、特にその項目と関連の深い他領域の項目は参照として提示した。
薬剤師の貢献が特に期待されている目標については、より積極的に学修することを目指して目標を設定した。さらに、薬学臨床において幅広く薬物療法を学修するよう、学修すべき「代表的な疾患」を冒頭に提示し、実習施設で「代表的な疾患」を持つ患者に広く関わりそれらの薬物療法を実際に体験することを促している。また、大学・実習施設での学習方略の自由度を確保するため、目標は幅広い解釈が可能な表現を多く含んでいるが、最低限共通して確保したい学習内容について括弧内に例示している。大学や施設によっては「代表的な疾患」や例示以外にもさらに多くの目標の修得が可能と思われる。別記アドバンストの目標を参考にさらに進んだ学修も積極的に行っていくことが望ましい。
目標として掲げたものは全ての大学・実習施設で修得が必要な目標であるが、現状では全国共通に修得できるとは言えない目標もあると考えられる。それらは本コアカリで学修する学生達が卒業するまでに是非修得してほしい目標であり、今後の薬剤師業務の進歩を想定しての目標であって、単独施設での履修が難しい場合は、複数施設での学修も視野に入れてのものである。

【G薬学研究】
旧「卒業実習カリキュラム」の「E1総合薬学研究」を参考に改訂・策定作業を行った。本項目の内容は、薬学における研究の位置づけを理解し、研究に必要な法規範と倫理を遵守して研究を実施し、問題解決能力を培うこととした。研究は“基礎と臨床”、“ウエット研究とドライ研究”など多種多様であることから、小項目、GIO、SBOは「薬学研究」に共通するコアな内容にしぼって作成した。対応する主な「薬剤師に求められる基本的な資質」は、「研究能力」、「薬剤師としての心構え」、「自己研鑽」などである。「(2)研究に必要な法規範と倫理」の3は、「A基本事項 (2)薬剤師に求められる倫理観 <4>研究倫理」の3と同一であるが、その重要性を考慮して再掲した。
 
薬剤師として求められる基本的な資質(案)
豊かな人間性と医療人としての高い使命感を有し、生命の尊さを深く認識し、生涯にわたって薬の専門家としての責任を持ち、人の命と健康な生活を守ることを通して社会に貢献する。
6年卒業時に必要とされている資質は以下のとおりである。

(薬剤師としての心構え)
医療の担い手として、豊かな人間性と、生命の尊厳についての深い認識をもち、薬剤師の義務及び法令を遵守するとともに、人の命と健康な生活を守る使命感、責任感及び倫理観を有する。

(患者・生活者本位の視点)
患者の人権を尊重し、患者及びその家族の秘密を守り、常に患者・生活者の立場に立って、これらの人々の安全と利益を最優先する。

(コミュニケーション能力)
患者・生活者、他職種から情報を適切に収集し、これらの人々に有益な情報を提供するためのコミュニケーション能力を有する。

(チーム医療への参画)
医療機関や地域における医療チームに積極的に参画し、相互の尊重のもとに薬剤師に求められる行動を適切にとる。

(基礎的な科学力)
生体及び環境に対する医薬品・化学物質等の影響を理解するために必要な科学に関する基本的知識・技能・態度を有する。

(薬物療法における実践的能力) 
薬物療法を主体的に計画、実施、評価し、安全で有効な医薬品の使用を推進するために、医薬品を供給し、調剤、服薬指導、処方設計の提案等の薬学的管理を実践する能力を有する。

(地域の保健・医療における実践的能力)
地域の保健、医療、福祉、介護及び行政等に参画・連携して、地域における人々の健康増進、公衆衛生の向上に貢献する能力を有する。

(研究能力)
薬学・医療の進歩と改善に資するために、研究を遂行する意欲と問題発見・解決能力を有する。

(自己研鑽)
薬学・医療の進歩に対応するために、医療と医薬品を巡る社会的動向を把握し、生涯にわたり自己研鑽を続ける意欲と態度を有する。

(教育能力)
次世代を担う人材を育成する意欲と態度を有する。

お問合せ先

高等教育局医学教育課