資料1-1 平成24年度 質の高い入学者の確保に向けてのフォローアップ状況(まとめ)

平成24年10月16日

新制度の薬学部及び大学院における研究・教育等の状況に関するフォローアップワーキング・グループ

1.    はじめに

平成21年度に発足した薬学系人材養成の在り方に関する検討会(以下、「検討会」という。)においては、質の高い卒業生を輩出することについてこれまで議論を行ってきた。その議論を踏まえ、その要因の一つは一定以上の学力を有する入学者の確保であると結論づけた。そこで、質の高い入学者の確保に向け、薬科大学・薬学部に対して書面調査、ヒアリング調査及び実地調査の方法を選択的に活用することによりフォローアップを実施することとした。

検討会の下に設置された「新制度の薬学部及び大学院における研究・教育等の状況に関するフォローアップワーキング・グループ」(以下、「本WG」という。)では、質の高い入学者の確保について、以下のとおりフォローアップを実施した。

本報告は、ヒアリング調査の対象大学に対しては、質の高い入学者の確保を困難にしている要因を探り、改善を促すヒントを示すこととし、体系的な薬学教育が必ずしも行われていないと認められる場合には、問題点を指摘し今後検討されるべき事項を示すこととした。

2.平成24年度のフォローアップの内容について

本WGでは、平成24年度については、フォローアップ初年度でもあり、書面調査及びヒアリング調査のみとし、実地調査は行わないこととした。

(1)  書面調査について

 書面調査は、[1]入学定員の未充足がある(平成20年度から23年度入学定員充足率の平均が60%以下)、[2]平成20年度から23年度の入学者選抜における試験競争倍率の平均が1.2倍以下(ただし、平均は1.2倍を超えてはいるが、年々下がっている大学を含む)、[3]5年次進級率(5年次在籍学生数/入学者数×100)が低い(平成22年度及び平成23年度進級率の平均が60%以下)、実務実習修了率(実務実習修了学生数/入学者数×100)が低い(平成22年度修了率が60%以下)状況にある23の学部について、行うこととした。

書面調査の対象大学を含むすべての大学に対して、入学年度ごとの受験者数、合格者数、実質競争倍率、入学者数、各年次における進級者、次年次未進級者の内訳を平成24年5月1日現在大学が有するデータをもとに文部科学省が調査を行うこととした。さらに、調査対象大学に対しては、各年次における進級判定の基準を示すとともに入学者の質の確保の方策、入学前教育やリメディアル教育の実態、進級率が低い原因の分析や対応策、留年者・休学者・退学者への教育的配慮と指導、編入学の状況などについて自由記述を求めた。

 本WGにおいては、提出のあった書面をもとに内容を精査するとともに、平成18年度入学者に対する卒業率を軸に、実質競争倍率の平均値、留年率、退学率、定員充足率についてベンチマーキングを行った。

その結果、入学者選抜における実質競争倍率が低い場合に卒業率が低いという相関性がみられることが判明した。他方で、定員充足率が低くても、5年次進級率、実務実習修了率、卒業率が高い大学が複数存在しており、定員の充足率が低いことが、質の高い入学者の確保に支障があるとは必ずしも言えないことが明らかとなった。

書面調査のデータでは、留年若しくは退学に至った年度の状況のみが提出されたため、留年を経て退学した者や複数年留年している者の状況などの状況を把握することはできなかった。そこで本WGでは、本年度は書面調査の結果、質の高い入学者の確保や優れた薬剤師を養成する体系的な薬学教育に問題があることが懸念される(卒業率が60%以下)9学部について、不明な部分の把握や改善の為の取組の確認等が必要と判断し、ヒアリング調査を実施することとした。

(2)  ヒアリング調査について

ヒアリング調査は、平成24年7月30日(月曜日)に5学部、8月3日(金曜日)に4学部を対象に2日間にわたり実施した。

調査対象大学からは、薬学部運営に責任を持つ者(学部長、学科長等)、低学年の学生を直接指導している教員(担任等を置いている場合、担任等の職にある教員。置いていない場合、低学年向けの学生支援を担当する教員)、事務担当責任者に出席を求めた。

まず、ヒアリングは、調査対象大学から、質の高い入学者の確保についての取組状況について説明を求めた後、主に以下の点について質疑応答を行った。

(1) 質の高い入学者の確保

[1]入試形態及び入学者選抜の成績と入学後の動向の追跡をおこなっているか

[2]行っている場合、入試形態あるいは入学者選抜の成績と留年・休学・退学者数との間に相関関係があるか

(2)   優れた薬剤師を養成する体系的な薬学教育の実施

[1]1必修科目当たり何人の学生が受講しているのか

[2]進級判定の詳細について

  • 進級・卒業判定の根拠規定およびその実態(単位数以外に規定があるのか)
  • 再試験の規定およびその実態(試験の回数、合格までの要件等)

[3]担任、チューター等を置いている場合、1教員あたり担当している学生は何人か。成績不良者及び留年者に対し、実際に行われている教育的配慮と指導

3.フォローアップの結果について

書面調査及びヒアリング調査を通じたフォローアップの結果、本WGとしては以下の所感を得た。

 

質の高い卒業生を出すことが重要であることは全ての大学が認識していることであり、各大学がそれぞれの理念の下に、それぞれの方法で最大限努力することは当然のことである。

検討会においては質の高い卒業生を出す要因の一つは一定以上の学力を有する入学者の確保であると考え、このたび実態と改善の取組を調査した。

実際、留年者の多い大学においては、留年の最大の要因は明らかに基礎学力不足であり、学年進行に応じた学力の向上が容易には期待できない状況であることが浮き彫りにされた。

基礎学力不足の学生は、仮に国家試験対策等により薬剤師国家試験受験には対応できたとしてもそれだけでは問題発見・解決能力を身につけた薬剤師として活躍することは難しく、優れた薬剤師の養成には十分とはいえない。

薬学実務実習前に身につけておくべき学力に対して、病院及び薬局実習の現場からも不十分であるケースが多いとの指摘がある。入学時の学力だけが問題ではなく、薬学を学ぼうとするモチベーション、意欲、学修を継続できる能力なども要因となることは確かであり、教育支援の方法によっては一部の学生で教育効果が上がり、学力の向上がある場合もありうる。しかしながら入学を認めた全ての学生に対し教育し、最終的に一定の質を保証して社会に輩出するのが大学の務めであるはずで、どのような選抜方法が適切であるか各大学が精査し、PDCAサイクルを機能させることが急務である。多様な入試形態を採用している大学にあっては特にこの点に留意して改善を目指す必要がある。

基礎学力不足の学生に対する対応策として多くの大学が担任制、チューター制等を採用している一方、各科目の授業などでも補習などを実施してできる限り落ちこぼれる学生を輩出しない工夫はしている。さらに、リメディアル教育や入学前教育等に取り組んでいる大学もあるが、リメディアル教育は高等学校の復習ではないことに留意する必要がある。また、1年次教育におけるリメディアル教育の増加実施は専門教育へのしわ寄せにつながるという懸念がある。学力向上のためには、能動的な自己学修習慣を身につけることが最も重要であり、受動的学修を強要することだけでは事態の改善にはならないことを再認識する必要がある。 

現時点で薬学教育を遂行するために教員に要求される事項があまりにも多く、支援を要する学生対応まで手が回りにくいのも事実である。勢い大学外に助力を求めるケースも目立つが、その成果の確認などの最低限の支援についての最終的責任は大学教員が担うべきである。オフィスアワーの設定、学習支援センターの設置等による支援体制は、支援が必要な学生を待つ体制としては機能しても、授業などに脱落して登校しなくなるなどの消極的学生や精神的に脆弱な学生の支援としては不十分であろう。いずれにせよ、必ずしも学力を重視せず入学を認めた学生に対して大学は、個々にきめの細かい指導体制を準備することが必要であり、質・量両面にわたる教員体制の大幅な是正が求められる。

薬学共用試験、薬剤師国家試験の成績をもって教育効果の検証をするなどこれら試験に合格することを目標とする姿勢が目立つが、試験では測れない能力、例えば倫理観、コミュニケーション能力、人間力、問題解決能力などの育成も重要であることを認識し、卒業研究、PBLなどの充実を図るべきは言うまでもない。卒業判定が卒業試験など薬剤師国家試験を想定したものだけになりがちであることについても十分注意しなければならない。

4.今後の取組について

今後本WGは、質の高い卒業生の輩出の原点は、質の高い入学者の確保及び入学後の教育体制の充実であると考え、引き続き、書面調査、ヒアリング調査、実地調査の方法を選択的に活用することによりフォローアップを実施し、その詳細について検討会に報告していく予定である。

上記の結果は、先に述べたとおり、フォローアップ対象大学だけでなく、多くの大学に共通する事項であると考えている。そのために取り組むべき課題は多いが、本WGとしては、新薬学教育を受けた優れた薬剤師の輩出を社会に対して保証するために、また受験生とその保護者などに対する説明責任を果たすためにも、各年次の進級者数や入学者に対する標準修業年限内の卒業者及び薬剤師国家試験合格者の割合等の詳細の状況を大学情報としてホームページや大学案内等にて公表することを各大学に求める。今後も引き続き、各大学が薬学教育の改善充実に向けて積極的に取り組む姿勢に期待している。

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