平成21年3月 日
目次
はじめに 1
1.薬学教育の現状 2
2.今後の薬学系大学院教育の基本的な考え方 2
3.薬学系大学院教育充実のための具体的方策 3
(1)教育内容・方法等の充実
(2)教育研究組織の在り方
(3)入学者の質の確保
(4)修了者の進路先の開拓・確保
(5)その他
おわりに 7
薬学教育の改善・充実については、平成16年の「薬学教育の改善に関する調査研究協力者会議」からの報告や「中央教育審議会」からの答申を受けて、医療人として質の高い薬剤師養成の観点から、6年制の学部教育が必要とされたところである。6年制の学部教育では、モデル・コアカリキュラムに基づく教育に加えて、各大学それぞれの個性・特色に応じたカリキュラム編成や参加型実務実習等の教育が行われている。また、研究者など多様な人材の養成といった薬学教育の果たす役割にも配慮し、4年制の学部教育も必要であるとされ、平成18年度から6年制と4年制の双方の課程によって教育が行われていることは、新薬学教育制度の特徴の一つである。新薬学教育制度のもとでの大学院については、学部段階の教育研究が行われる中で、必要となる教育研究の内容が具体的に明らかになることから、その詳細については、今後、検討が必要であるとされた。このため「薬学系人材養成の在り方に関する検討会」が設置され、大学、産業界等様々な立場から、大学院教育を中心としての活発な議論を行い、その教育の在り方や具体的な方策などについて、第一次報告を行うものである。
我が国の薬学教育では、病院・薬局で働く薬剤師に加え、医薬品の研究・開発等に従事する研究者や技術者、公衆衛生などの行政従事者、薬学教育に携わる教員等、多様な人材の養成が行われてきた。しかしながら、近年の医療技術の高度化、医薬分業の進展等に伴い、医薬品の適正な使用等社会ニーズに応え、医療人として質の高い薬剤師を養成するため、平成18年度からは6年制の学部教育が開始されているとともに、創薬科学等をはじめとした研究者など多様な人材の養成のため、4年制の学部教育も併せて行われている。
現行の薬学教育では、薬剤師の養成を目的とする6年制学部と多様な分野に進む人材養成を目的とする4年制学部の双方において教育が行われており、それぞれの教育研究の目的やその内容が異なるものとなっている。
このため、修業年限の異なるそれぞれの学部を基礎とする大学院についても、その違いを明確にするとともに、高い研究能力に裏打ちされた幅広い知識や技能を有する高度な専門性を培い、社会のニーズに対応できる人材を養成することが必要である。
6年制の学部を基礎とする大学院においては、医療の現場における臨床的な課題を対象とする研究領域を中心とした高度な専門性や優れた研究能力を有する薬剤師等の養成に重点をおいた臨床薬学に関する教育研究を行うことを主たる目的とする。一方、4年制の学部を基礎とする大学院においては、創薬科学等を中心とした薬学領域における研究者の養成に重点をおいた教育研究を行うことを主たる目的とする。
ただし、各大学の個性に基づいた様々な環境のもとで学部教育が行われているため、その多様性にも配慮することが必要であるとともに、入学する個々の学生の関心や能力、研究テーマ等を踏まえた内容を教育課程に組み入れるなど、各大学院が自ら強化すべき教育内容を設定することで、より個性化を図ることが重要と考えられる。
しかしながら、薬学系大学院を単に学部教育の延長線上にあるものとしてとらえ、漠然と持続させるという形だけのものになる懸念もあることから、これまで行われてきた薬学教育改革の考え方を十分に理解した上で、本来の趣旨に沿った教育研究活動を行うことが求められる。
また、大学院設置の際に適用されている基準は、あくまで最低基準であるとの観点から、薬学系大学院の特性を踏まえた、教育内容・方法等の充実を図っていくことが重要である。このため大学関係者は、薬学系大学院の構想にあたり、国際的通用性、信頼性のあるものとするため、大学院としての果たすべき役割や機能というものを十分に認識し、社会的要請等を踏まえた入学定員の設定を含め、教育研究活動について格段の工夫を行うことが求められる。
我が国の課程制大学院制度の趣旨を踏まえ、薬学系大学院においても人材養成機能の面において、その目的や役割を明確にした上で、教育課程の組織的展開を有効に機能させることが必要である。
このため、薬学系大学院においても、教育課程の編成、実践等にあたっては、各大学院に関係する教員が人材養成の目的や教育課程等について共通理解を深めた上で、体系的な教育プログラムを提供することが必要である。
今後の薬学系大学院での教育が組織的かつ有効に機能するためには、体系的な教育課程の編成とそれを支える教員の教育研究指導能力の向上が重要である。このため、教員の教育研究指導能力の向上を図るための組織的な研修体制の充実や教員相互の授業参観、学生による授業評価等これらの取組みの成果の検証や教育内容・方法の改善につなげるための体制を整備することも必要である。
また、教員については、それぞれの大学院が設定する教育内容に応じて、各大学の判断により、適切に教員を配置することが適当であると考えられる。
なお、薬剤師を養成する6年制の学部教育において、大学設置基準における専任教員数に一定割合で求められている実務家教員の扱いについては、学部教育と大学院教育の目的が明確に異なるため、各大学院の教育内容に応じて弾力的な取扱いとすべきと考えられる。
特に6年制の学部を基礎とする大学院を担当する教員は、臨床的な課題を対象とする大学院としての教育研究やその機能を高める観点から、担当教員の臨床薬学・医療薬学に係る研究実績や、学生への教育活動に対する評価などが重要と考えられる。
薬学系大学院における教育の質の維持・向上を図るためには、今後とも、高度な専門性や優れた研究能力を備えた入学者を確保することが、重要である。そのためには、実効性のある入学者選抜の工夫に加えて、薬学系大学院が求める学生像や教育を受けるために必要な水準等を示す入学者受入れ方針(アドミッション・ポリシー)を明確にすることが必要である。
また、薬学系大学院において多様な学生を受け入れるための方策として、経済的な支援、社会人特別選抜の実施や昼夜開講制の実施あるいは夜間大学院の開設等、既に現場で活躍している薬剤師を含む社会人が入学しやすいような工夫が必要である。
薬学系大学院の修了者が、今後、社会において多様な場で活躍することは極めて重要である。
多様な進路への開拓を図るため、各大学院においては医療現場や医薬品の研究・開発企業等との連携を強化するとともに、薬学系大学院修了者の知識や技能を積極的にアピールすることや、活躍できる環境や場の拡大に向けた活動にも取り組むことが必要である。
薬学系大学院についてもその目的にかんがみ、外部の客観性のある評価を受け、その質の維持向上を図っていくことが重要である。
このため、薬学教育に関して広く高い見識を有する者を含めた関係者により、大学院評価の在り方について今後検討が必要である。
本報告では、薬学教育の現状を踏まえ、限られた時間の中で薬学系大学院における人材養成目的やそのために必要となる教育研究の内容等について取りまとめたものである。
大学関係者は、この内容を踏まえ、大学院が単なる学部教育の延長ではないことを十分に認識した上で、自らの個性や特色を明確にしつつ、国民の信頼と期待に応えるための薬学系大学院の構築に向けて取り組むことが求められる。
他方、我が国を取り巻く国内外の状況が急速に変化し、社会構造全体が大きな変革期を迎えている中、豊かな教養と深い専門性を身につけた人材の育成、様々な社会的課題の解決への貢献等、大学に対する期待は大きなものとなっている。
このため、大学教育に対する質の保証の観点から、現在「中央教育審議会」において「中長期的な大学教育の在り方について」審議が行われており、その一環として大学院教育全般についての今後の在り方や、人口減少等を踏まえた適正な量的規模等についての検討が行われている。
この審議状況や薬学系大学院での実績を見つつ、将来に向けた課題については逐次検討を行うことが必要である。
今後とも、薬学教育の質保証の方策等課題について、引き続き議論を行うべきである。
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